俺が七草の養子なのは間違っている   作:萩月輝夜

24 / 98
遅くなりましたが最新話です。

確認してるんですけど誤字脱字が多い…本当に申し訳ない!
お気に入り登録と感想コメントありがとうございます!

ついにあの事故シーンが来ますね。(ちょっとギャグになったかも…?)

それではどうぞ!

※追記…書きたい話があったので最後の会話を変更しています。申し訳ございません。


悪意は動き出す、そして覚悟を決めろ

九校戦七日目にして新人戦は四日目に突入した。

残る競技は本戦&新人戦のモノリスコードとミラージ・バットのみとなった。

 

モノリスコードの予選リーグが行われる日だが観客達の関心は花形競技のミラージ・バットに向けられていた。

女子のみを対象とするミラージ・バットのコスチュームは、カラフルなユニタードにヒラヒラのミニスカートに袖無しジャケットまたはベスト。

ファッションショー(コスプレ大会?)と化している女子ピラーズ・ブレイクとはひと味違った華やかさがある。

いや、このコスチュームを着用し年若い女性が空中を舞い上がるのだ。

華やかさにかけては九校戦随一だろう。

 

男性ファンの関心(というか注目)が集まるのは無理がないだろうが…

これ来年泉美と香澄と小町がその衣装を着て男の劣情の視線にさらされることを考えると来年から消滅させたほうが良いんじゃないかと思ったが胸の内に仕舞っておくことにした。

 

しかし、俺の自意識過剰でなければ本部天幕に向かう瞬間に他校からの視線が少し集中しすぎているような…?

ミラージに出場する選手が注目されるのはわかるが俺と達也に視線が集まりすぎている気がするのは気のせいではないはずだ。

 

それも色ボケにまみれた欲望の眼差しではなく敵意をむき出しにされた刺が生やされた視線だ。

 

「…やれやれ司波くんはともかくとして七草くんも自分の事になると鈍いってのはホントなんだね。

…これはほのか達も苦戦するはずだ」

 

「ちょ、ちょっとスバル!八幡さんの前で言わないでよもう!は、八幡さんはもっと自分を誇ってください!」

 

ミラージ・バットの選手である一年D組の里美スバルが俺たちに向けられている視線の類いの種類について説明している。

 

そして俺が顔を紅くした、何故かほのかに窘められた。

 

てか何故このタイミングで深雪達が出てくるのだろうか…?

敵意は感じるがこの程度の敵意なんて児戯に等しいぞ、あん時に比べたらな。

 

第一試合に出場する為のスタンバイを終えた里美がからかうように声を掛けてきた。

 

「八幡はともかく鈍いのは自覚してるが…里美にはわかるのか?」

 

「おい、達也さらっとdisるんじゃねーよ…。なに言ってんだ里美、俺は人の気配に敏感だぞ」

 

俺がそういうと里美は「大変だね司波くん、ほのか…」「ああ…」「うん…」と会話を繰り広げていた解せぬ。

 

「そうだね…君たちが調整を担当したスピード・シューティングにピラーズそしてバトルボードでは上位独占だもの。高度に効率化されたデバイスソフトの貢献が大きいし、一体どんなエンジニアが調整したんだ、ってなればそう考えるのは必然だよ」

 

「調べりゃ誰だかわかるもんだと思うんだけど」

 

「ああ」

 

「そういうこと。つまりは七草くんと司波くんは各校の注目の的さ。特に七草くんは「お家」がお家だからだし選手と技師の二足の草鞋を履いているからね、目立つのも無理はないよ」

 

「それに八幡さんはピラーズで優勝候補の一条くんを倒しちゃいましたからね…特に三校からの注目がすごいことになってるみたいですけど」

 

だからか、さっき此処に来るまでに赤い制服の連中からの視線がヤバかったのは。

 

「はぁ…。目立ちたくねぇ…平穏でいたかったんだけど」

 

「無理だろそれは…」

 

姉達から頼まれなければ真っ先に九校戦なんぞに出てはいなかったが、それだけ俺の「力」が有用ということが知られているので逃げ場がないのだ。

そんなことを言ったら渡辺先輩や十文字先輩に色々言われそうだが…

 

達也と里美が調整の最終チェックのため会話を繰り広げている。

俺が諦めたように深い溜め息をつくと声を掛けられた。

 

「あの…八幡さん」

 

「どうしたんだ?」

 

「どうですか…?へんじゃないですかね?」

 

ほのかの格好はミラージ・バットに出るに相応しい可愛らしい衣装となっていた。

全体的なカラーリングは青と白で統一されており女の子らしいフリフリがたくさん付けられたまるでおとぎ話のお姫様…というよりかは○リキュアのようなコスチュームだった。

一部は女王様みたいなボリュームだが…

 

「文句の付けようがないな…良いじゃん。ほのかの雰囲気に合ってて良いと思うぞ?可愛いじゃないか」

 

「あ、ありがとうございます…///」

 

顔を真っ赤にして俯いてしまった。

試合前に体調不良は本当にやめてくれよ?

なんとも言えない空気にしてしまったので俺から切り込む。

 

「ほのかなら新人戦も優勝できるさ。もちろん里美もな」

 

実際に思っていることを口に出して見るとほのかは嬉しそうに俺へズイッと近づき激励の言葉を俺に告げた。

 

「おやおや私はついでかな?」

 

「里美は達也の担当だろうが…」

 

「まぁ、仕方がない。これでようやく君たちの恩恵を受けられるからね。勿論勝利してくるさ。七草くんも頑張ってきたまえ?」

 

「私頑張りますね!それと八幡さんもモノリス頑張ってください!」

 

「お、おう…。頑張るよ」

 

ミラージ・バットの選手達との会話を終えて試合会場へと向かっていった里美とほのかを見送り、俺はモノリスコードの控え室へ向かうことにした。

 

「んじゃまぁ…達也、あとは頼んだ。

ほのかには作戦を伝えてあるからあれで大丈夫だと思うが…」

 

「ああ。お前もしっかりな」

 

「おう」

 

達也に別れを告げて準備を行う。

…チームメンバーに森なんとかいるんだけど大丈夫か?

 

 

『間もなく男子新人戦モノリス・コード第二試合第一高校対第四高校の試合が開始されます!』

 

第一高校と第四高校の試合は『市街地エリア』で行われることになり各校の選手は廃屋に潜み開始を待っていた。

 

しかし第一高校が潜伏している場所でスリーマンセルでいるのだが八幡は疎外感を感じていた…というよりも他二人、というよりかはチームメンバーである森崎から一方的な敵視を向けられて、近づくに近づけない状態になっており少し離れている場所に八幡はいた。

 

森崎のイラつきが八幡の耳に入る。

 

「くっそ…必ずモノリスで優勝しなきゃならん…!」

 

「司波の担当した選手は軒並み上位独占だもんな」

 

「あいつの実力じゃない!全部選手の実力だ!」

 

(どんだけイラついてんだよ森なんたら…、はぁ…早く終わってくんねぇかな…)

 

森崎達に小声で溜め息をつく八幡。

試合開始のカウントが読み上げられていた。

それに合わせ八幡も心のなかでカウントをする。

 

(試合開始まで10、9、8…。)

 

7,6とカウントされた時、八幡は『ペイルライダー』をホルスターから引き抜こうと手を掛けた。

 

瞬間、俺が意図せず《瞳》の力が発動し数秒後の出来事が脳裏に叩き込まれた。

 

今、八幡達がいる廃墟の天井が魔法によって崩され八幡含め重症を負う映像が流れ込んで来た。

 

(やべぇ!!)

 

咄嗟に魔法を使おうとするが開始前に魔法を使えばフライングなることを思いだし舌打ちする。

カウントが5になった瞬間脳裏の映像と同じく天井が崩壊し始め森崎達は気づいていない。

例え興味のない相手でもチームメンバーだ。

だが、しかし…

 

(ダメだ、間に合わない!)

カウントが進み1になった瞬間に遂に天井が崩落し天井が八幡達に襲いかかる。

咄嗟の事で反応できない森崎達を尻目に両腕をクロスさせて『ある技』を使用した次の瞬間。

八幡達は崩落に捲き込まれてしまったのだった。

 

 

時間は少し遡る。

 

第一高校の天幕ではモノリスコードの試合を観戦するために多くの関係者が集まっていた。

そのなかには当然雫や深雪も八幡の勇姿を観戦するために天幕にいた。

 

「八幡が遂にモノリスに…」

 

「ええ。うちは確か第四高校との試合だったわよね?」

 

「うん。こういっちゃなんだけど四校は調子がよくないね…、選手の層が薄いのかも、」

 

他の観客と混じり試合の内容を話している。

離れた場所では真由美もその試合を観戦していたが、流石に今回は泉美達を天幕へ連れてくることはしなかったが。

 

(八くん無茶しなきゃ良いんだけどね。相手にオーバーアタックしないか心配だわ…)

 

義弟の心配よりかは相手選手の心配をしている真由美だったがそれはまさかの形で裏切られることになる。

 

試合開始のカウントが始まり6,5…となった瞬間八幡達がいた廃墟ビルが一瞬にして倒壊して捲き込まれたのだ。

 

悲鳴を上げる生徒が多数おり真由美も口で手を抑えていたが悲鳴が上がる。

 

「八くんっ!?」

 

「きゃああああああっ!!!」

 

「きゃああ!!」

 

「なんだっ!!」

 

「わああっ!!」

 

「いやあああっ!!」

 

騒然とする第一高校の天幕だったが次第にパニック寸前の空気が溢れだす。

 

「バカな!?」

 

「一体これは!?」

 

アナウンスが流れる。

 

『只今ビルの崩落事故が発生いたしました。第一高校対第四高校試合中止です』

 

目の前のモニターに映る崩落現場を見ている第一高校の面々は騒ぎ立てていた。

冷静でないのは深雪と雫も同じであり若干の放心状態になっていた。

 

「八幡さんは大丈夫なの…?」

 

「そんな…八幡さん無事でいてください…!」

 

「こんなの…絶対許せないよ…!」

 

二人は天幕から恐らく担ぎ込まれるであろう救護詰に向かおうとするが…

 

「おい、画面を見てくれ!」

 

一人の生徒が事故現場を映しているモニターでなにかに気が付き全員がモニターを注視すると何事だと雫と深雪は足を止めた。

第一高校が捲き込まれ崩落したビルの残骸が動いていた。

 

「おい…動いてるぞ」

 

「うそ…」

 

次の瞬間重なったコンクリートの残骸が上空へ吹き飛ばされ粉々にくだけ散った。

 

ーその場に立っていたのはー。

 

『だーっ!!…あー…死ぬかと思ったわ…、うっわひっでぇなこれ…ってそれどころじゃねぇわ』

 

辺りを見渡し感想を述べている一人の男が。

防護服を着用し所々ボロボロになって砂ぼこりはついてはいるが、怪我はしていない八幡の姿が残骸から現れたのだ。

加重魔法を使用し反重力に切り替え瓦礫を撤去する。

埋もれている森崎達を発見し手当てを始めた。

 

その姿に天幕にいる一同は呆然とした。

 

「八くん…?」

 

真由美の呟きに一斉に驚きの声を上げる

 

「「「ええええええええ!?」」」

 

その無事な姿に深雪と雫は涙が引っ込み珍しい表情が出ていた。

深雪は目が点に。

雫は○ッフィーのような表情になっていた。

 

『第一高校七草選手の無事が確認されています!

只今到着した救護班と共に同チームの負傷者を担架に乗せており…』

 

八幡はピンピンしており森崎達の救出を一緒に救護班と行っていたのだ。

目の前の映像に呆然としていたがハッと我に返る第一高校の生徒は「誰がやったのか」と騒ぎ立てていた。

 

真由美も我に返り生徒を落ち着かせる。

 

「皆落ち着いて、十文字くんと私で見てきます」

 

「生徒会長、私も一緒に…」

 

「会長私も…」

 

「いや、お前達は此処で待っていろ。確認するのは我々の仕事だ」

 

「…そうね、十文字君の言う通りあなた達は此処で待っていて(八くんお姉ちゃんをこんなに心配させて…全くもう!)」

 

「分かりました…差し出がましくお願いして申し訳ございません会長」

 

「ごめんなさい会長…」

 

深雪と雫が同行を願い出るが十文字が断り二人は少し落ち込む素振りを見せたが時間が惜しかったので真由美と克人はテントへ向かった。

 

 

崩落現場から負傷者を運び、応急処置を行っている救護詰所へ真由美達が向かうと使用されているテントがありそのすぐ側では寄り掛かって休んでいる八幡がいた。

 

「八くん!!」

 

その姿を確認した真由美は一目散に八幡へ駆け寄る。

その姿を見た十文字は「弟のことが心配だったが天幕では生徒にその姿を見せないようにしていたのだな…」と関心していたが実際は違った。

 

「おー。ねえさ゛っ…ぶふぉっ!!」

 

駆け寄るな否や八幡が被っている競技用のヘッドギアの上から頭部をチョップする姿が見られ十文字の思考が一旦停止した。

そんな十文字を無視しすごい剣幕で真由美は八幡に肩をつかんでぐらぐらと揺らす。

あまりの剣幕に八幡当人も驚いていた。

 

「おバカ!!本当に心配したのにこの子ってば!」

 

「ちょ!まじで痛いんだけど!?俺一応怪我人…っ!」

 

「うるさーい!ていっ!!」

 

「ちょ!ホントに痛いって!姉さん止まれって!」

 

八幡が真由美の攻撃する(じゃれつく程度)手を掴み動きを止めるとピタリと止まると真由美が八幡に抱きついた。

 

「もう…ホントにホントに…心配したんだからね!」

 

今にも泣きそうな真由美に八幡は頭を撫でて抱き返した。

 

「姉さんごめん…、」

 

「本当に大丈夫なの?痩せ我慢してない?」

 

「大丈夫だっての…。まぁ俺は無事だったけど森崎達がな…。というか姉さん一度離れてくれる?」

 

「あっ…ごめんね八くん」

 

ばつが悪そうに答える八幡の視線は救護テントに向けられている。

八幡に抱きついていた真由美は顔を紅くしてバッと離れた。

そのタイミングで克人が話しかけてきた。

 

「無事か八幡」

 

「十文字先輩…心配して貰ってありがとうございます。死にかけましたが無事ですよ」

 

「そうか…俺と七草は森崎達の状態を確認したのち俺は運営本部に向かう。今回の事故の件を確認せねばならん」

 

「そうっすか…森崎達の状態結構グロいっすよ?十文字先輩はともかく姉さんは見ないほうが…」

 

「大丈夫よ八くん、確認するために此処に来たんだから。

八くんはもう戻って大丈夫なの?」

 

「一応どこにも異常がないから戻って大丈夫とは言われてるからな…」

 

「なら、此処で少し待ってて貰える?一緒に天幕に戻ったほうが皆安心するでしょうし…」

 

そういってテント内部へ入っていった。

 

 

「同じチームの彼が的確な処置をしていなければ危なかったよ…。

命に別状はないが重症だ。

今応急処置で魔法で固定しているから安定している」

 

医師にそういわれ十文字と真由美は森崎達の状態を確認する。

十文字は負傷している状態の森崎達を見ても動じずにいるが隣にいる真由美は凄惨さに思わず口をハンカチで抑えてしまう。

 

「うっ…」

 

「大丈夫か?あまり見ないほうがいい」

 

「いえ…大丈夫です」

 

口で抑えながら今回の事件について真由美は考察していた。

 

(なにかおかしいわ…。バスの事故や摩利の件に引き続きこんなことが起こるなんて…)

 

真由美は咄嗟に今年に発生した『あの事件』の事を思い出していた。

 

(まさか春の事件の関連…?でもあれは八くんが首謀者と支部ごと壊滅させていたはず…。また別の組織ってことになるの…?)

 

体調が悪くなったのか思案しているのかどちらとも取れる様子を見せ俯いている状態の真由美に気がついた十文字が声を掛けた。

 

「七草」

 

「十文字くん」

 

八幡と司波(彼ら)に相談してみるか…」

 

「そうね…」

 

「俺はこれから運営本部に問い合わせにいく。七草お前は弟と一緒に天幕に戻って皆を落ち着かせてくれ」

 

「分かったわ」

 

救護テントから出ると八幡と共に第一高校の天幕へと向かおうとするが…

 

「八くん」

 

「ああ。うわぁ…泉美達からめっちゃ連絡来てる…」

 

八幡に声を掛けると端末を確認して「うげぇ…」という表情をしている八幡に真由美は溜め息をついた。

 

「当然でしょ?あんな崩落現場を見たら泉美ちゃん達も心配するに決まってるでしょう…」

 

「あとで埋め合わせしないとな…、捲き込まれただけなのに」

 

「とりあえず天幕に戻って皆に無事を報告しに行きましょう」

 

「一応俺怪我人なんだけどなぁ…」

 

「あら?司波さんと北山さん、八くんのことスッゴく心配してたわよ?」

 

「わーったよ…いきますって…、あ、姉さんちょっと待って泉美達に返信するから…」

 

八幡が妹達に返信を終える。

真由美と八幡、義姉弟二人は天幕へ戻っていった。

 

◆ ◆ ◆

 

俺は一応崩落に捲き込まれた状態なので治療を受け(まぁ怪我していないんだが一応ポーズとして…)天幕へ姉さんと共に戻るとチームメンバーから声を掛けられ、無事を確認されて適度な受け答えをした。

姉さんは天幕にいるメンバーに事の状況を説明していた。

 

一方で俺はまた別で声を掛けられた。

 

「八幡さん!」

 

「八幡」

 

深雪と雫が心配そうに俺の状態を確認しに駆け寄ってきた。

 

「大丈夫なのですか?」

 

「大丈夫なの八幡?」

 

「おう、このとおり元気だぜ」

 

腕を上げて問題ないことを見せると深雪と雫はホッ、と息をついた。

 

「崩落に捲き込まれた時はもうダメかと思いました…」

 

「よかった…廃ビル内で『破城槌』を使われたときは生きた心地がしなかった…。八幡大ケガしちゃうんじゃないかって…」

 

「ありがとな、心配してくれて」

 

俺と深雪と雫で会話をしていると天幕に入ってくる人の気配を感じた。

その人物は直ぐ様分かったが。

 

「お兄様!」

 

「何があったんだ?って…八幡が此処にいるって事はモノリスコードで事故が起こったんだな」

 

恐らく達也が此処にいるのはほのか達のミラージの次の試合までインターバルがあるため休憩を取りに来て、休憩が終わったあとに天幕に訪れたらこの騒ぎ様…といったところだろうか。

状況を察知したのか誰に聞くまでもなく判断し確認しようとしていた。

 

その問いに深雪が返答しようとする。

 

「はい。あれは事故と言いますか…」

 

「深雪、あれは事故じゃないよ」

 

いい淀む深雪を尻目に雫が普段よりも強い口調で主張する。

 

「故意の過剰攻撃。明確なルール違反だよ」

 

「あのな雫、今の段階で滅多なことを言うもんじゃねーぞ。どこに耳があるのか分からんのに四校の故意による確証が得られていない状態で断定するのは危険だ」

 

少々雫がヒートアップしそうだったので釘を刺しておく。

すると姉さんが会話に割り込んできた。

 

「そうですよ、北山さん。単なる事故とは考えにくい…それは確かですが決めつけてはダメ。疑いを口にするほどそれがますます膨れ上がって、それがいつのまにか真実として一人歩きをし始めてしまうのだから」

 

確かに真実より誇張された嘘の出来事が真実として認知される出来事を俺は知っている。雫にはそのきっかけになってほしくないので雫に話しかける。

 

「…雫。まぁ、俺が無事なんだしきっと事故だろ」

 

「だけど!」

 

「今は口に出さずに心のなかにしまっといてくれ。いいな?」

 

「…分かった」

 

「おう」

 

姉さんの上級生らしい発言と俺が言いくるめたのも合間っておとなしくなってくれた。

…やっぱり姉さん生徒会長らしいことちゃんとやってるんだな。

 

「八くん?今失礼なことを考えなかった?」

 

半目で俺を睨み付けてきた。

 

「ちゃんと生徒会長やってるんだって関心しただけだけど?」

 

「なんかバカにされてる感じがしたけど…まあいいわ」

 

達也も来たことで森崎達の状態と事件の概要を伝える。

 

「…と言うわけでうちは最悪棄権することになったわ」

 

達也が反応する。

 

「最悪もなにも棄権するしかないでしょうに…」

 

「それがそうもいかないのよ…全員が出場できないという訳じゃなく…」

 

「俺がピンピンして此処にいるからな」

 

そういうと皆が「あぁ…そういうことか」と妙に納得した様子で俺を見る。

 

「それに関しては十文字くんが大会委員会本部で折衝中よ」

 

「はぁ…」

 

「…ねぇ、八くん」

 

姉さんがなんとも言いづらそうに俺に話しかける。

 

「相談したいことがあるんだけど…」

 

媚びるような姉さんの視線を受ける俺は思った。

「あ、これまた面倒ごとに捲き込まれる奴だ」と。

 

「なんかやな予感するんだけど…で?此処では出来ない話?」

 

「そうね…此処では話しづらい内容だからチョッと一緒に来てくれないかな」

 

「やな予感は否定してくんないのな…?はぁ…わーったよ」

 

正直断りたかったが姉さんが不安そうにしているのが見えてしまい断れなかった。

俺は深雪と雫からのきつい視線に気がつかない振りをしていた。

達也が俺の後ろから声を掛ける。

 

「八幡」

 

「あ?なんだ」

 

「ご愁傷さま」

 

「お前に言われると思わなかったぜチクショー…」

 

達也が珍しく南無…と手を合わせると俺はうんざりしたような仕草を取り姉さんのあとを付いていった。

 

 

姉さんのあとに付いていくと天幕の奥へ連れていかれた。

間仕切りはされているが当然布だ。

防音性を期待できるはずもないがそこは魔法を使うとあら不思議、立派な遮音フィールドが形成される。

 

俺は姉さんを座らせるために椅子を引いて座らせると「ありがと」と感謝を受けたのち俺も空いている席に着いた。

 

「それで早速なんだけど…」

 

姉さんは言い方を考えているのかなかなか話題を切り出さない。

二人っきりでいるのは大歓迎だがあまり時間を掛けてしまうと深雪から凍らせられそうだ、なんでか知らんが。

 

「来るときのバスと渡辺先輩の事件同様、何者かの妨害工作?って考えられるかどうか、だろ?」

 

「…うん。その事で八くんに聞きたかったの。バスの件もそうだし、摩利の事件で八くんは七校の選手のCADの細工を指摘していたじゃない?」

 

姉さん達を不安にさせないように『大会運営本部がCADに細工をした』とは言ってはいない。

あくまでも『CADに細工された・したかもしれない』と伝えただけ…裏付けが薄いからな。

改めて問いかけられ俺は「ああ」と肯定した。

 

「今回も同じ手口だとしたら四校の暴挙も説明がつくのだけど…どう立証できると思う?」

 

「細工してる現場を抑える」

 

「四校からCADを借りられるとしても…ダメかしら?」

 

「素直に貸してくれるとは思えないけど…、第一にそれに関しては大会運営本部が調べているだろうし」

 

「そうよね…」

 

テーブルの上で指を組んで視線を落とす。

落とした視線を上げないで再度姉さんは俺に問いかける。

 

「…八くんの言うとおり、当校を標的として妨害工作が行われているとして…目的はなんだと思う?遺恨?それとも春の一件の報復かな」

 

成る程な、姉さんはそれで悩んでいたのか…

春先、校内にテロリストが入り込み俺が構成員と首謀者を潰した残党が引き起こした一件の報復ではないか。と恐れているわけだ。

 

しかし、それはないと断言できる。

 

「ブランシュ日本支部」はあの廃工場で構成員を俺が壊滅させているので残党も名倉さんが調べ上げ、俺が全員十文字家(十文字先輩)と協力し正式に襲撃事件の証拠を提出し壊滅させた。

必然的に今回の事故で協力組織や残党の仕業ではないと俺は知ってるが姉さんは不安なのだろう。

此処は俺が知りうる情報を姉さんに知らせれば心労を和らげることが出来るだろうが俺は躊躇した。

 

「…春先とは関係ないよ」

 

「えっ、どうしてそう言えるの?」

 

「ああ、実は…」

 

 

遡ること1日前…

 

「名倉さんからか…」

 

不意に端末が震える。

着信を確認すると『名倉さん』の文字が端末に映った。

 

「はい、八幡です」

 

数度コールを経た後に連絡を受けとる。

 

『八幡様。夜分遅くに申し訳ございません、名倉にございます。八幡様競技優勝おめでとうございます。

当主も大喜びしておりましたぞ』

 

「父さんが…分かりました。まだ第一高校が優勝したと決まっていないので油断は禁物ですけど…

それより気にしないでください。

連絡を貰ったところを見ると襲撃してきた連中の正体が分かったんですね?」

 

世間話も程程に本題を切り出すと名倉が答える。

 

『ええ、遅くなりまして申し訳ございません。

八幡様からお渡しされました情報をお調べしましたところ香港系のシンジゲートの工作員のようでございました。恐らく「無頭竜」かと…』

 

八幡は「また厄介なのが関わってきたな…」と呟いた。

 

『無頭竜』

 

香港系国際犯罪シンジゲートでその組織の首領は名前どころか部下の前にすら姿を見せないことから、「頭の無い竜」と敵対組織によって名付けられて、自らつけた名前では無いらしいが…

こいつらの厄介な点は「ブランシュ」とはことなり反魔法運動を行う排斥運動ではなく魔法を使用した犯罪行為を行うという点だ。

そして一番のヤバイ点は魔法師をさらい非人道的な兵器である「ソーサリー・ブースター」…つまり魔法師の脳みそをとりだし兵器にしているという事だ。

 

八幡は此処でなぜ「第一高校」が狙われるのかを考察する。

 

奴らは組織であるので運営資金が必要だ、手っ取り早く稼ぐ方法…足を使って稼ぐより運を使ったギャンブル…

賭け事…八百長…

 

瞬間、八幡の脳内になぜ『無頭竜』が第一高校ばかりを狙うのか答えにたどり着いた。

 

「分かりましたよ名倉さん。なぜ俺たちを狙うのかはまぁ、予想ですがね」

 

『それは如何様な理由で?』

 

「奴らは犯罪組織で運営するには金が必要になりますからね…おおよそ日本支部の連中が『九校戦』をカジノのように仕向けて奴らの顧客に掛けさせた掛け金を丸ごといただく為、それと連中は第一高校が優勝してしまえば自分達が損害を受けるから優勝候補である第一高校に優勝させないように工作をしているんだと思いますけど」

 

八幡はたどり着いた答えを名倉に解説すると感心していた。

 

『流石に御座いますな八幡様』

 

「いや、あくまでも予想なんでこれが答えって訳じゃないですけど…。奴らが潜伏している場所を調べて貰えませんか?」

 

『畏まりました。では此方も「無頭竜」の線でお調べいたしましょう。お嬢様にはこの事は?』

 

名倉が言いたいのは真由美には裏で行われている事件を伝えるのか?といったニュアンスで八幡に問いかけた。

八幡は考える間もなく名倉に返答する。

 

「姉さんには一部のことしか伝えませんよ。今年最後の九校戦なんで姉さんには楽しんで貰いたいので…余計なことには巻き込みたくないんですよ。無論泉美達にもですが…」

 

『左様でございますか…しかしながら八幡様、抱え込まれ過ぎるのも問題ですぞ?』

 

「大丈夫ですよ…丈夫なのも取り柄なんで。それではお願いします」

 

『畏まりました』

 

そう言って通話を終了する。

 

 

「…って言うのがあって」

 

「そんなことが…」

 

『無頭竜』の事は当然ながら明かせないので一部は真実を明かして残りは嘘を織り混ぜてそれらしいものをでっち上げるのは真相を伝えるのにはこれが一番だ。

それに…今年最後の九校戦だし姉さんには余計な心配をして欲しくないからな。

 

姉さんが俺を見つめるがその表情は不安そうな雰囲気だ。

 

「偶然なのかも知れないけど…あまり無茶しないでね八くん」

 

「どっちかというと俺は避けたいのに向こうから突っ掛かってくるんだよなぁ…」

 

俺が冗談交じりにちょけらかす様に言うと、姉さんは上品に口元に手を当てて笑っていた。

 

「クスッ…確かに八くんはハプニングに愛されてるわね、ありがとう八くんのお陰で気が楽になったわ。少し不謹慎かもしれないけど」

 

「人間、不安になったら話を聞いて貰うのが一番だしな。まぁ、弱音を吐くんだったら俺の前ならどれだけ吐いてもいいし」

 

「…///。大丈夫、八くんの前でしか弱音は吐かないもの」

 

姉さんから信頼されていると受け取ったらいいのだろうか?

少し姉さんを騙しているようで気が引けてしまうが相も変わらずやることが消化されずに積み上がっていく感覚を覚え溜め息をつきたくなった。

 

それと真由美から「八幡が一年生の女子生徒達に動揺が広がらないように協力して欲しい」と言われ八幡はマックスコーヒーを無性に煽りたくなった。

 

 

同時刻

 

「首尾はどうだ?」

 

「予定通りだ。第一高校はモノリスコードを棄権するしかない。しかし…」

 

「しかし…なんだ?」

 

横浜・中華街のとあるビルの一室で円卓を囲む五人の男達がいた。

一人の男が報告をしてたが言い淀むのを苛立ちながら聞いていた首謀格の男が聞いていた。

 

「第一高校の七草八幡が無傷だったことだ」

 

「バカな!?殺傷力Aの魔法を使用したのに無傷だと?どういうことだ…?」

 

「だが、七草が無事でも他選手が事故で負傷しているから再び参戦することは不可能なはずだ。モノリスコードは最もポイントが高い競技だ。新人戦のポイントは本戦の二分の一とはいえ、影響は小さくない」

 

その報告を受けた男達は空元気に強がって笑顔を浮かべていた。

そうでもしなければやっていられないからだろうが…

 

◆ ◆ ◆

 

「四校のフライング!?」

 

「僕たちが寝ている間にそんな大変なことが…!」

 

ミラージの次の試合のインターバルで体力回復に努め、先程まで休憩していたほのかとスバルが天幕本部へ訪れるとざわつく雰囲気に異様なモノを覚えた二人は深雪達を見つけこの原因を聞いて驚いていた。

特にほのかの慌て具合は大変であった。

 

「治療魔法で全治三週間だそうよ」

 

「いくら立会人がいるからと言って廃ビルで『破城槌』なんてルール違反の魔法を使ったらそうもなるよ」

 

深雪と雫から聞かされた内容にほのかは青ざめたリアクションを取っていた。

 

「ううっ…一歩間違えば大事故に繋がるから大会レギュレーションが厳しく設定されているのに守られないなんて怖すぎるよ…」

 

八幡もその試合に出ていたことを思い出しほのかが血相を変えてあわてふためいた。

 

「そ、そう言えば八幡さんは…?八幡さんはどうなったの深雪、雫!?」

 

「八幡さんなら…」

 

「…」

 

深雪のその美しい顔に影を落とし言葉に詰まってしまいそれは雫も同様であった。

絶望に染まった表情を浮かべるほのかは今にでも駆け出しそうな勢いだった。

 

「そ、そんな…はち、」

 

八幡の名前を呼びたかったのだろうがそれは天幕の間仕切りの布が上げられると遮られた。

 

「それじゃよろしくね八くん」

 

「りょーかい」

 

天幕の間仕切りから八幡と真由美が出てきたことにほのかは驚いていた。

 

「…って!なんで此処にいるんです!?ち、治療を受けてるはずじゃ?」

 

まるで死んだ人が目の前にいるようなリアクションを取るほのかに若干驚いている八幡。

 

「いや、事故には巻き込まれたけど俺は無事だよ…って深雪達から聞いてないのか?」

 

ほのかが深雪達を急ぎ見ると気まずそうに視線を合わせないようにしていた。

 

「深雪、雫!」

 

案の定ほのかからの指摘が入るが…

 

「私たちが『八幡さんは無事よ』って言う前に駆け出しそうな勢いだったじゃないの…」

 

「ほのかがそんな感じだったから言うタイミングが…」

 

(は、恥ずかしい~!!)

 

顔を真っ赤にして自分が早とちりしていたことに気がついた。

 

「まぁ、ほのかは心配してくれたんだろ?ありがとうな」

 

優しい微笑みを八幡はほのかに向けるとさらに顔が真っ赤になった。

その光景を見た深雪達は八幡を凄まじい形相で見ており達也は平常運転だと思い、スバルは焦っていた。

八幡はなぜその視線を向けられているのか分からなかった。

 

(はぁ…またか…)

 

(た、大変なことになってる…!)

 

(何で俺は深雪達に睨まれているんだ?)

 

事故は起こったとは言え此処は通常運転であった。

 

 

「予選と特に変わるわけじゃない。

ミラージは持久力勝負だから気力勝負や余計な細工は無しだ。

八幡からはなにかあるか?」

 

ミラージ・バットの最終戦の時間が近づきミーティングを行う達也達に混ざり、モノリスが一時試合見送りになっている俺も参加することになった。

一応はサブになるからほのかに言葉を掛ける。

 

「そうだな…里美は冷静なペース配分な。

特に里美はSBの関係で無意識にその傾向があるからな…余計なことしてムダな体力を使わないように」

 

里美が大袈裟に首を竦めた。

 

「分かっているよ。七草くん」

 

視線をほのかに移す。

 

「ほのかは練習でやってたときみたいに幻影魔法をばらまいて余計な魔力を使わないように。

使わなくても十分過ぎるほど実力があるんだからな。

と、こんなものか?」

 

「は、はーい…」

 

「うん、的確なアドバイスだったぞ。八幡の言うとおり二人とも自分の持ち味を出すことだけ考えていればワンツーフィニッシュはいただきだ」

 

達也の大胆な一位・二位独占宣言と俺の普段通りの雰囲気を見た天幕内のチームメンバーの女子がヒソヒソと話す声が聞こえるがそれは悪口ではなく安堵の会話だった。

 

「事故が起きて怖くて仕方なかったけど…」

 

「何時も通りの司波くんと七草くんがいると安心しちゃうね」

 

(姉さんに「安心させて」って頼まれてるからな…それなら普段通りにするのが一番だしな)

 

その会話を繰り広げる達也と八幡、そして見ている女子生徒達の会話を聞いた真由美がそれを見ていた。

 

(やっぱり達也くんと八くんは精神力実力共に既に大会メンバーにいなくてはならない存在…。

八くんに至っては「目立ちたくない」って理由で手を抜こうとするのが玉にキズだけど。

あとは十文字くんが掛け合ってくれる結果がどうなるかね…)

 

最終戦前のミーティングが終わり女子新人戦ミラージ・バット決勝戦が始まる。

 

 

『日も落ち満点の星空が広がり絶好のミラージ・バットの舞台となりました。

間もなくミラージ・バット決勝戦です。

果たして優勝を掴むのは誰なのでしょうか!?』

 

試合会場のステージでは六人の少女が試合を今かと待機している。

 

『試合開始!』

 

(八幡さんが私のために考案してくれた戦法で優勝して見せます!だから見ててください八幡さん!)

 

試合開始がアナウンスされると真っ先に動き出したのはほのかでありホログラムが出る前に跳躍しポイントを獲得していた。

 

ほのかは『光のエレメンツ』であることから光に対する感受性が非常に高いため、八幡が考案した戦法が『光珠が他選手が肉眼で視認する前に戴く』という、これは彼女の力を最大限に活かさせる八幡の作戦であった。

 

『速い!一番手は予選でも初動の速さを発揮した光井選手!』

 

(流石はほのかだな…だが次は僕が獲る!!)

 

次の光玉が現れるときスバルが跳躍していた。

 

『二球目は里美選手が獲得した!此方も速い!もはや第一高校同士で争う展開だ!』

 

ミラージ・バット最終戦は第一高校の二名で争うような形になっている光景を関係者席で見ていた真由美とあずさ。

 

「二人とも絶好調ね」

 

「ええ」

 

真由美の発言に同意するあずさ。

 

「二人の調子がいいのはもちろんですけど魔法式の処理が圧倒的に速いです」

 

自由自在に飛び回り点数を稼いでいく第一高校の選手達。

 

(レギュレーションギリギリの機種を全員が使っているからあとはエンジニアの腕と言うことになってしまう…他校の生徒は悔しいだろうな)

 

そんなことをあずさは思っていると後ろの他校からの呟きが耳に入る。

 

「くそっ!何であんな小さい起動式で複雑な動きが出来るんだ!これじゃまるで『トーラス・シルバー』じゃないか!」

 

「しかも系統の異なる魔法を同時に使用しているのに混線が少なすぎる…!『ファントム』でもなきゃ…!」

 

誰かが舌打ち交じりに呟いた。

 

(まるで『トーラスシルバーみたい』…?深雪さんが使った『インフェルノ』と『ニブルヘイム』も起動式が公表されていない高等魔法プログラム…。

混線させずに魔法を使用出来る起動式の開発とそれに伴うCADの調整…八幡くんが開発した『アクティブ・ブラスト・オービット』に『アブソリュート・ゼロ』…どちらも複合二種の高等魔法のプログラム…。

これって「みたい」じゃなくて本人たちじゃなくちゃ不可能なんじゃ…)

 

『司波くんと八幡くんは『トーラス・シルバー』と『ファントム』ってどんな人だと思います?』

 

『「ファントム」はそうですね…意外と俺たちと同じ日本人で仕事人気質な青年かもしれません。』

 

『そっすね…「トーラス・シルバー」は何処にでもいる普通の兄ちゃんかもしれないですよ?』

 

達也と八幡が「ファントム」と「トーラスシルバー」について感想を述べた時の事がフラッシュバックし彼らの声が聞こえた。

 

(まさか、まさかまさか…まさか!?)

 

あずさの意識はそちらに向いており決勝戦の第一ピリオドをほのかとスバルの二名が圧倒的なリードを奪い終了していた。

 

 

『試合終了!』

 

大歓声のなか女子新人戦ミラージ・バット最終戦が終了した。

 

『優勝第一高校光井ほのか選手、準優勝第一高校里美スバル選手

女子新人戦ミラージ・バットは第一高校のワンツーフィニッシュです!』

 

ほのかとスバルが喜び合う姿を関係者席で真由美達も見ており笑顔で拍手を送っていた。

不意に真由美の端末が震え連動しているイヤホンに十文字からの連絡が入った。

此方も喜ぶのに十分な内容であった。

 

「そう!やったわね十文字くん」

 

怪訝に思ったあずさが真由美に聞き返す。

 

「どうしたんですか会長?」

 

「モノリスコードの件で十文字くんが委員会を口説き伏せたそうよ」

 

真由美のコメントに隣にいた摩利も反応する。

 

「八幡くんはともかくとしてアイツが頷くというか…」

 

頭を抱える素振りを見せる真由美。

 

「そこが頭の痛い問題なのよねぇ…」

 

◆ ◆ ◆

 

結局女子新人戦ミラージは俺と達也が試合開始前に宣言したとおりほのかと里美のワンツーフィニッシュで優勝を奪い去った。

天幕に戻ろうとするが姉さん達にミーティングルームへと何故か達也と共に連行されて、そこでは某○ックのハッピーセットのCMの様に興奮した同学年の女子達とは対照的に感情を抑制し表情も改まった生徒会メンバー(深雪は此処にはいない)と第一高校の三巨頭が俺たちの前に鎮座しており、その他にも五十里先輩に桐原先輩というメインメンバーも一同に介していた。

 

「今日はご苦労様、期待以上の成果を上げてくれて感謝しています」

 

姉さんが随分と生徒会長モードになって形式張った言葉を俺たちに掛けてきておりその言葉を発する前に十文字先輩に目配せしているのに俺と達也は気がついた。

俺たちは姉さんのコメントに返答する。

 

「選手が頑張ってくれましたので」

 

「8:2で選手の力が大きいから本当に俺たちは本当に補助だけですけどね」

 

此方も達也は無難な形式張った答えを返し俺は無意識に悪態をついて返答する。

妙な緊張感が室内に広がっていたが俺の返答で若干空気が弛緩したようで姉さんは苦笑しながら労いの言葉を掛ける。

 

「もちろん光井さんも里美さんも他の皆が頑張ってくれた結果です。

でも達也くんと八くんの貢献が大きいのは此処にいる全員が認めているわ。特に八くんに至っては選手と技師の二足の草鞋を履きながら今大会に尽力してくれたのもありますから。

君たちが担当した三競技で事実上無敗…現段階で新人戦の2倍以上のポイントを確保できたのは達也くんと八くんのお陰だと思っています」

 

「…ありがとうございます」

 

「…」

 

達也は少し間をおいて、控えめに頭を下げた俺も軽く頭を下げる。

少しの間をおいて俺は姉さん達を見つめるが何故か会話を切り出そうとしない。

姉さんが十文字先輩を目で抑えていたがどうやら言いづらい内容らしい。

…大体の予測をすることは出来たがまさか俺に説得に加われというんじゃないだろうな姉さん達?

俺がそう言った意味を込めた視線を向けると十文字先輩が軽く頷く。

やっぱりでしたか…

 

姉さんが観念したように少し長いまばたきをした。

 

「此処まで来たら新人戦も優勝を目指したいと思うの」

 

「姉さんちょい質問いいか?」

 

「ええ、なにかしら八くん」

 

「モノリスはうちの高校が棄権したんじゃないのか?」

 

「十文字くんが委員会と相談して「不慮の事故のため特例として大会参加を認める」ということになったので試合は続行できるわ」

 

まさか此処で十師族の権威をつかったのか?十文字先輩…まぁ確かに事故を仕組まれて「お前大会参加無理ね」と言われたら頭には来るかもな。

 

「分かったよ姉さん」

 

「話を戻すわね。達也くんと八くんは三校のモノリスコードに一条将輝君と吉祥寺真紅郎君が出場するのは知っている?」

 

知っているもなにも俺たちの前に来て「参加する」と宣言していったんだよなぁ…

その事を思い出し俺と達也は苦笑いを浮かべながらだか頷いた。

 

「そう…あの二人がチームを組めばトーナメントを取りこぼす可能性は限り無く低いわ。彼らが優勝してしまうと当校が新人戦優勝することは不可能になります」

 

故に

 

「だから達也くん、八くんと共に負傷した森崎くん達に代わってモノリスコードに出て貰えませんか?」

 

姉さんから告げられた用件は俺の予想…というよりも達也も予想していた内容であった。

 

「二つほど、お訊きしてもよろしいですか?」

 

「ええ、なにかしら」

 

「なぜ自分なのでしょうか、他に一度しか出場していない選手がいるなかで自分のような選手でもないエンジニアが?それに二科生である自分が抜擢されてしまえばのちのち精神的なしこりを残すのではないかと」

 

達也からの反論に姉さんも渡辺先輩もぐうの音も出ていない。

 

当然だろう今年度がよくても来年、再来年の本戦に遺恨を残すようであれば本末転倒になるからだ。

姉さん達からの反論がないことを確認した達也は「これでこの話は終わりだ」と判断して達也は辞退の言葉で締め括ろうとしたがそうは問屋が下ろさない。

 

「そう言うわけなのでお断り…」

 

「甘えるな、司波」

 

十文字先輩のずっしりとした重みのある言葉が響く。

その言葉に達也は咄嗟に返答できなかった。

 

「十文字くん?」

 

姉さんが十文字先輩を見る。

 

「お前は既に代表チームの一員だ。

そしてお前はリーダーの七草が選んだメンバーである以上はリーダーの決定に従うのは当然」

 

俺はなんというジャイアニズム…と思ったが率いるものはこのぐらいの横柄さがなければ務まらないだろうなと思う。

十文字先輩がさらに言葉を繋ぐ。

 

「逃げるな司波。

例え補欠であろうとも選ばれた以上は務めを果たせ」

 

この台詞は「九校戦」のみに念頭を置かれた言葉ではなかった。

しかし、達也は未だに悩んでいるようだったので逃げ道をつぶ…じゃなかった、俺が手をさしのべる。

 

「確かに新人戦の連中から選んで即席のメンバーを組んだとしても俺の足を引っ張るような連中しかいねぇしな。

合わせられんのはお前だけだ…。つーわけで達也、一緒にチーム組んでくれよ」

 

(八くん…)

 

(本当に人誑しだな八幡くんは…)

 

俺の発言に姉さんと渡辺先輩がほほえましいものを見るような表情で見ていた。

十文字先輩は満足げな表情だ。

 

「!?…悪人だなお前は」

 

俺の発言に面食らって驚く達也だったが少し笑みを浮かべて隣の俺に向き直る。

 

「俺が悪人なら全世界の人間が善人になっちまうくらいには悪いやつだぜ」

 

柄にもなく隣に座る達也に拳を握って右手を上げると達也も左手を拳を握って挙げて互いに打ち合わせるようにぶつけた。

 

先輩から逃げ道を塞がれ、俺から後押しの言葉を貰って達也が出した答えは一つだった。

 

「分かりました。義務を果たします」

 

姉さんと渡辺先輩が笑みを浮かべ十文字先輩はしっかりと頷いた。

 

残りのもう一人のメンバーは達也と同じクラスメイトから選ぶことになった。

少し反論が服部先輩から出たが達也が根拠を述べると「そうか…」といっておとなしくなった。

ほんとに丸くなったよな服部先輩…

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。