俺が七草の養子なのは間違っている   作:萩月輝夜

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前回投稿から日が経ってしまった…。本当に申し訳ない。

(バ○オRE4やら美プラなどに手を出していたりリアルでの仕事の多忙さのため遅れました。)

気がつくと評価ゲージが黄色に…オレンジ目指して頑張りたいです…。

最新話ないなかでも見てくれている読者様本当にありがとうございます。
九校戦は次で終わると思います(壮大な前フリ)

感想&評価ありがとうございます!

長くなりすぎましたが最新話どうぞ!


破滅への導火線

新人戦優勝のお祝いパーティーは総合優勝のパーティーまでお預けとなった。

理由としては競技優勝と新人戦優勝を果たしたモノリスコードに急遽出場することになった3名(特に八幡)の疲労度合いが凄まじくドンチャン騒ぎが出来る状態では無いためと明日のミラージ・バットの準備でそれどころではないと言う理由なのだが…。

 

一方で新人戦優勝に貢献した八幡は試合終了後ホテルの八幡の部屋にて義理姉妹と実妹から説教を受けており日付が変わってから就寝したため第一試合が開始されるチョッと前に起床することとなった。

完全にダウンしていたのである。

 

と、言うわけで起床した、と言うよりかは八幡は誰かに起こされると言う結末だが。

誰かから揺らされ起こされ惰眠を貪りたい八幡には嬉しくないモーニングコールだった。

 

「…きてください…」

 

控えめな少女の声が聞こえる。

 

「あと5分…。」

 

「起きて…は…ん。」

 

そしてもう一人いるのか感情が乗っていないような声が聞こえる。

両者共に言い声で囁くもんだから睡眠導入には持ってこいであった、ASMRかよと言わんばかりである、ゆさゆさと優しくだが揺らされ起こされそうになり逆に眠りへと落ちていこうとする俺。

 

「もう!八幡さん起きて!それどころじゃないの!」

 

「八幡寝てる場合じゃないから起きて。」

 

しかし、耳元で聞き覚えのある声が俺の鼓膜を叩く。

あまりの大音量に不機嫌になりながら起き上がるがまだ覚醒していない頭で眼を開く。

しかし、まだ目蓋が開ききっていない半目の状態だ。

 

目蓋を擦りベット横に置いていたメガネを自然な流れで顔に掛け視線をそちらに向けると見知った顔が二人いた。

 

「んにゃ…ほぉのか…としずぅくか…?」

 

ぽけーっとした俺は若干の呂律の回っていない俺の寝言?に対してほのかと雫が何か言っているようだがよく聞こえない。

 

「ね、寝惚けてる八幡さんかわいい…///」

 

「寝ぼけてる八幡、かわいい…///」

 

少しボーッとしてから頭を振るうと漸く頭が起き始めてきたようで俺はなぜこの部屋に二人がいるのか質問する。

 

「おはよう二人とも…ってなんでここにいるんだ?鍵を掛かってなかったのか?」

 

その問いに雫達が返答する。

 

「それに関しては秘密…ってそんなことはどうでもいいから。」

 

「雫の言うとおりそれどころじゃないんですよ!」

 

いやどうでも良くねえんだけど…不法侵入だからな?

二人の剣幕に寝惚けていた頭が覚醒し真面目な表情へ切り替える。

 

「何があったんだ?」

 

問いかけるとほのかが説明してくれた。

 

「実は…。」

 

ほのかが説明してくれた内容は『ミラージ本戦で第一試合で出場した小早川先輩が試合中に跳躍しポイントを獲得し足場に着地しようとしたのだが魔法が発動せず落下してしまった』という内容であった。

 

「…。」

 

「…って言う状態になってしまって。」

 

「恐らく小早川先輩はもう…。」

 

「そんなことがあればもう先輩は『二度と魔法は使えなく』なるな…それにCADを調整した先輩も深刻な精神的なダメージを受ける…か」

 

魔法に対する不信感を持ってしまえば二度と使用できなくなる。

薄氷に立つように微妙なラインで俺たちは魔法を使用できているのだ。

 

ほのかと雫も不安そうな表情を浮かべている。

いかんな…場の空気を変えるために俺はこの部屋に二人が来た理由を問いだただした。

 

「それでなんで俺の部屋に来たんだ?」

 

「そうでした!達也さんがいきなり居なくなっちゃってそれを深雪に聞いたら「大会委員のテントに向かわれた」って言ってて…。」

 

ほのかがここに来た理由を答えてくれたので俺は「やっぱり大会委員か…」と内心で感想を述べてほのかと雫をベットから退いてもらい立ち上がる。

 

が、しかし。

 

「八幡制服のまま寝てたの?しわくちゃだけど…。」

 

視線が俺が今着ている制服の指差して状態を報告してくれた。

…そうだった昨日余りにも疲れててそのまま寝ていたんだった。

 

「やっべ…このままだと流石に…ちょい待ち。」

 

魔法を使用しまるで新品のようにシワひとつ無い制服が仕立て上がる。

その光景にほのかと雫が「おぉ…」と感嘆していた。

 

「急がないとなんかヤバイ気がしてきたな…。」

 

何故か達也が大会委員のテントで大暴れする未来が《瞳》を使わずに予想できてしまったのでサブプラン…というか切り札を切ることにした。

流石に大会委員のテントで暴れたら流石の達也も不味いので「ある人」に連絡する。

その会話を聞いた雫とほのかが驚愕していた。

 

「…ご無沙汰しています『九島老師』。少しお時間頂くことは出来ますでしょうか?」

 

まさか早速貰った連絡先使うことになるとは思わなかった…。

 

 

「…なめられたものだな。」

 

競技用に使用されるためのCADを受けとり検査装置に通した男性はその受け取ったCADになにかを紛れ込ませたのを見逃さなかった達也によって地面に叩きつけられていた。

 

その行動を見た警備員や関係者が彼を取り押さえようとするが八幡と同じく達也は殺気を放ち喧騒を静寂へと変えてしまった。

 

「深雪が身に付けるものに細工をされてこの俺が気が付かないとでも思ったのか?」

 

達也は自分を取り囲む他人の視線など毛にも止めず組み伏せた男性に冷ややかな問いを掛ける。

 

「検査装置を使って深雪のCADに何を紛れ込ませた?ただのウイルスではあるまい?」

 

その男性の表情が恐怖に染まる。

 

「なるほど、この方法ならCADのソフト面に細工を仕掛けることも出来るだろう。大会レギュレーションに従うCADは、検査装置のスキャンを拒むことができないからな。」

 

その発言に達也を押さえ込もうとして立ち止まった近くに居た警備員は押さえ込まれた男性を見る目が被害者から加害者を見る目へと変化した。

 

「だがこの大会、今の今までお前一人の仕業というわけでもあるまい?」

 

達也の膝の下で男性が恐怖により涙を滲ませて首を横に振る。

 

「そうか。言いたくないか。」

 

達也が男に見せつけるようにして手刀を作り出しその喉元に突き破るためと持ち上げ勢いよく突き刺す、がそれは男性の喉元寸前で、達也の手首を掴み制止させると黒い影が現れ、その人物の方向に目を向けると達也の見知った顔が現れ達也は驚き、その人物に声を掛けられた。

 

「ちょい待ち…何やってんだよ達也…。」

 

「八幡か、どうして此処に?」

 

八幡がこの場にいることが不思議だったのか達也は問いかける。

 

「どうして此処に…じゃねーよ、雫とほのかが教えてくれたのさ。ミラージ本戦での事故があって達也が美月から何かを聞いて運営のところに向かったって言うから嫌な予感したんだよ、やっぱ案の定だったが…。」

 

抗議の目を八幡は達也に向けるがさも行動するのは当然だろというような表情を達也は浮かべていた。

 

「深雪が出る前の試合で実際にCADの不具合があったんだ、動くのは当然だろう。」

 

「まぁ…そりゃそうだよな。んで?どういう状況よ。」

 

「これだ。」

 

八幡は検査機械に入れられ細工がされたと思われるCADを達也は機械から出して手に取り目を通す。

 

「…確かになにか入ってる気がするな、んー…わからんな。」

 

八幡はそういって疑惑のCADを持ったまま達也が取り押さえている男に近づく。

再びテント内に殺気が広がり、特に男性に強い殺気を当てて過呼吸を引き起こす。

 

「…おっさん、さっさと話した方がいいぞ?達也の手を止めたのはあんたに聞きたいことがあるから止めただけで、あんたが殺されようがどうだっていいんだが…?それとも此処で脳漿をぶちまけたいか?」

 

そういって八幡は空いている手でうつ伏せになってる男性の顔面を鷲掴んだ手に白いオーラを纏わせ《破戒・白虎乃型》を発動させ、そのまま握りつぶさんとしようとすると男性が声にならない悲鳴を上げるが八幡の男性を見る目はゴミを見るような表情だった。

警備員達は八幡の殺気に当てられて動けず、中には腰を抜かしているものまでいた。

 

「妙に忠誠心あるなおっさん…しゃーなし、この人から言って貰った方が効くかもな…。」

 

全員がこの人?と八幡が言うと大会委員のテントの方へ視線を向けるとそこには驚きの人物が入室してきた。

 

「八幡君、これかね?私に見て欲しいという九校戦での一連の事故の原因というのは?」

 

「お忙しいのにお越しいただいて申し訳ないです『九島老師』、この異物について少しお知恵をお貸しいただこうと思いまして。」

 

テントには「最高にして最巧」呼ばれた老魔法師が現れその場人達は驚いていた、更に空気を一変させて止まっていた警備員達が狼藉を働いた達也を確保しようとするが八幡が睨みを効かせ再び動きを止めた。

 

達也は八幡が老師に普段とは違い敬語で話しているのに驚いていた。

 

(お前…敬語使えたんだな…ってなぜ老師と知り合いなんだ?)

 

達也も立ち上がり一礼し言葉を交わしその後八幡は持っていた疑惑のCADを老師に手渡すと繁々と見つめて頷く。

 

「…確かに異物が紛れ込んでおるな。これには見覚えがある。私が現役だった頃に広東軍が使っておった電子金蚕だ。」

 

八幡は聞き覚えがなく老師に聞き返す。

 

「電子金蚕…?それは一体なんでしょうか。」

 

老師は丁寧に説明してくれた。

かいつまんで説明すると有線回路を通じて回路に侵入し魔法兵器を無効化してしまうSB魔法の一種であり、プログラムを改竄するのではなく出力される電気信号に干渉し改竄する性質があるためアンチプログラムの有無に関わらず電子機器を狂わせる遅延型の術式であるらしい。

 

「随分と苦しめられたものだ…」と老師は昔を懐かしむように語ってくれた。

 

その説明を聞いた警備員達は達也を取り押さえるために集まっていたが対象を足元に倒れている男性を拘束するために動き出し奥の詰め所に連れていかれた。

 

男性が連れていかれるのを八幡と達也が見届けると二人は老師へ向き直る。

老師は達也へ話しかける。

 

「さて司波君、そろそろ競技場に戻った方が良かろう。予備のCADを使うと良いだろう。このような事態だ、改めチェックの必要はない。そうだな?大会委員長?」

 

老師よりも一回り若い老人?が頷いた。

 

「運営委員のなかに不正を行う輩が紛れ込んでいるなど、嘗て無い不祥事だ。言い訳はあとで聞かせて貰うとしよう。」

 

今にも卒倒しそうな大会委員長は必死に肯定の頷きを返す姿を見た八幡は(大変だなこのおっさんも…。)といった感想を覚えた。

 

大会委員長から視線を外して老師は再び八幡と達也に楽しそうな表情を浮かべた。

 

「司波君君にもいずれ話を聞きたいものだ。」

 

「ハッ、機会が御座いましたら…」

 

「フム、ではその機会を楽しみにしていよう…」

 

ニヤリと達也に楽しげな視線を向けた後八幡に話しかける。

 

「それとこの爺の茶飲み話にでもまた付き合ってくれんかのう八幡君?」

 

「…自分で良ければ。突如お呼び立てしてしまい申し訳御座いませんでした老師、退屈な出来事だったと思いますが…。」

 

「構わんよ。若いものと話していると活力が湧いてくるのでな。」

 

「そうでしたか…。」

 

「うむ、ではまたな八幡君。」

 

八幡が一礼すると満足な表情を浮かべテントから出ていこうとするが老師が立ち止まり思い出したように告げた。

 

「そういえば八幡君。」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「先程まで弘一が君の試合を此方で観戦しておってな『良い試合だった』と言っていたよ。」

 

「父さ、父が来てたんですか…?」

 

「うむ、仕事の合間を縫って此方に来ていたようだったな、愛されとるのう八幡君。」

 

「……。」

 

なんだか妙に恥ずかしくなってなんとも言えない表情になった八幡を見て再び好々爺な表情を浮かべる老師は再び出口に向けて脚を進めそれに続いて大会委員長がついて出ていった。

 

老師が出ていくのを見送ったあとにこの後の展開が予想できたので八幡は端末を取りだしある人物へ文章を書いて送信したが達也はその事には気が付かなかった。

 

 

一連の出来事が終了し、達也と共に第一高校の天幕へ戻ると俺たちへ視線が突き刺さり、俺ではなく向けられた感情が生暖かいもので在ることを達也は感じていた。

 

「八幡」

 

「あ?」

 

「なぜだか生暖かい目線が此方…というよりも俺に刺さっているのだが。」

 

「気のせいじゃね?」

 

「お兄様!八幡さん!」

 

そんな中普段通り?に駆け寄ってきて二人に申し訳なさそうにしかし嬉しそうに出迎えた。

 

「すまない、心配掛けて。」

 

「よっ」

 

「そんなことは御座いません!お兄様は私のために怒ってくださったのでしょう?それに八幡さんもお兄様を援護するべくその場へ向かわれたと…。」

 

「達也が怒るのは深雪絡みのときだけだからな、いやー本当になんかしでかすんじゃないかとヒヤヒヤしたぜ。」

 

「…それを言ったらお前の行動の方がヒヤヒヤしたが…まさか老師と知り合いだったとはな。」

 

「あぁ、それか…実はピラーズが終わったあとにラウンジで老師に話しかけられたときにな…。って、ヒヤヒヤしたってお前がそれ言う…?」

 

俺たちの普段通りのやり取りに深雪は笑みを浮かべている。

 

「くすっ…私が言うのも違うと思いますがお疲れさまでしたお兄様。そして八幡さんも。」

 

「まぁ…どうでも良かったら止めにもいかないしな…。」

 

改まって深雪がペコリと一礼するのを俺はむず痒くなってそっぽを向くと深雪の笑みが更に強くなったような気がする。

 

「深雪、俺は調整室に先に向かっているからね。」

 

「はい、お兄様。は、八幡さんこっちへ…。」

 

「へ?お、おい深雪…?」

 

天幕内の空気がなんかあったけぇ…的な雰囲気になったがそれはさておき。

調整のために先にエンジニアに割り当てられた部屋へ向かう達也を尻目に、俺と深雪は天幕内の布一枚で隔てられた個室?に深雪に手を引かれて連れてこられていた。

 

「その…八幡さん、どうでしょうかこの衣装…?」

 

選手が着用するブルゾンに隠れて上半身の着用している全体図は良く見えないが、前は空いているので予選で使用する衣装を着用して派手ではあるが下品ではなく深雪が着用することで身体のラインが良く出る上品な紅い…濃い色のマゼンタ色のユニタードを覗き見ることができ、更に模様の入った若干タイトな白いタイツが深雪の脚線美を醸し出し、非常に美しい出で立ちであったのは間違いではないだろう。

 

それに競技に出るために濃いめのメイクをしているがそれも普段の深雪とは違って見えて新鮮だった。

 

昔の俺だったらキョドって気持ちの悪い笑い声が出ていたかも知れないな…。

 

深雪が聞いてきたってことは感想を求めてるんだよな…、言っちゃ何だがそんなに気の聞いた言葉を掛けるのは正直俺のボキャブラリーが乏しいのでそんな期待の眼差しでもって見られましてもねぇ…?

 

「(そわそわ…)(もじもし…)」

 

スッゴい期待してるよ深雪…。此処で調子を落とすようなことは言わないようにしなければ…!

 

「すっげぇキレイで似合ってるよ深雪、ただなぁ…。」

 

「ただ?」

 

「スカート短すぎないか?それ、それだと翔んだときに見えそうで…」

 

俺の視線が深雪の太もも部分に視線が集中しているのに気が付いたのだろう、深雪はユニタードのヒラヒラ部分を押さえて顔を赤くして抗議の目で俺を見てきた。

 

「ユ、ユニタードですからちゃんと下は履いていますよ八幡さん!まったくもう…八幡さんはエッチなんですから…」

 

顔を紅くした深雪を見て、ヤバイ選択をミスったのかも知れない。

怒られるか…と思ったがそうではなかった。

 

「ですけど「似合っている」というのは嬉しかったです。予選ではこの衣装ですが決勝では別の衣装に着替えますので私を、私だけをみていてくださいね…八幡さん?」

 

「お、おう…。」

 

「はい。」

 

先程より近づき…というか深雪が俺の両手を取って顔を朱に染めてウインクを俺に見せてくれた、その似合いすぎる動きに俺は妙に恥ずかしくなって深雪からの視線を外さざる得なくなった。

俺の反応に満足したのか深雪は笑顔だった。

 

「じゃ、俺そろそろ観客席に行くから…頑張れよ。」

 

「はい!頑張ります。」

 

深雪の試合が始まる順番が近づいてきているので観客席で見ることを伝え、天幕から出ようとしたところ姉さんに声を掛けられた。

 

「八くん」

 

「姉さんどうした?」

 

「どうした?じゃないわよ急にメッセージを送ってきて「達也が大会委員のテントで暴れたのは妹の為だってことを伝えてくれ」って言うんだもん、何事かと思っちゃったわ。」

 

「まぁ、事実だし。」

 

「事実だしって…、それで?一体運営のテントで何があったの?」

 

真面目な表情になる姉さんに俺も真面目なトーンで返答する。

 

大会運営の検査装置を操作する人間が受け取ったCADに魔法師が関知できないウイルスを混入し先の渡辺先輩の事故や小早川先輩の事故もその男の仕業であることを伝えると温厚な姉さんも怒り気味だ。

 

「何て事を…!」

 

「…まぁその場に運営委員長と九島老師がいたから一連の事件は収拾したからもう事故は起こらないと思うよ。」

 

姉さんにはそうは言ったが半分はそうなってほしいと言う希望でもう半分は起こるんだろうな…といった感想を俺は覚えた。

実際問題背後には『無頭竜』がまだ健在であるし、大会に仕込ませていた工作員は俺たちが見つけて運営委員会に引き渡したので第一高校の優勝阻止はできなくなった。

 

選手に工作を施すのが無理だとすれば直接的な妨害…考えられるとすれば大会そのものを『無かったこと』にさせる…観客席で事件が起こるとかだろうな。

 

後がなくなった連中が動き出すのは本戦のミラージに仕掛けてくるだろう。

警戒しておくことに越したことはない。

 

「八くんがそう言うなら安心ね…さて!そろそろ深雪さんの試合が始まるけど此処で観戦する?」

 

地面を指差すが俺は首を横に軽く振って否定した。

 

「観客席でみるよ。クラスメイトに大会委員のテントでの事情を説明しないといけないし。」

 

動き出すであろう連中に対応し念の為に小町達の近くで観戦することにした。

姉さんには心配を掛けないように嘘を付くことになってしまうが…仕方がない。

 

「わかったわ。」

 

姉さんとわかれ観客席へ向かう。

本戦…深雪と愛梨の試合なんだよなぁ…どっちも応援しないとな。

 

 

関係者席へ向かうとほのかと雫が俺に気が付いて声を掛け妹達がこっちへ招き寄せる。

 

「八幡さんこっちです!」

 

「八幡こっち。」

 

「お兄様」

 

「兄ちゃん、こっちだよ~。」

 

「お兄ちゃんこっちこっち。」

席につくといつものメンバー(レオ、幹比古、エリカ、美月)が待っていた。

 

「八幡おっそい~!何してたの?」

 

「ほのか達から聞いてたけど大丈夫だったのか?」

 

「ああ、実はな…」

 

エリカとレオが俺が大会委員のテントへ向かった件について聞いてきたが、先程の状況をバカ正直に答えるわけにはいかなかったので大分濁して説明すると納得してくれた様だった。

 

ミラージ二回戦が始まり深雪が出て来た。

観客席は深雪の姿を確認すると見とれるような感嘆が漏れ出す。

 

「深雪キレイ…。」

 

「フム…赤?いやマゼンタだね、あの色を着こなすとは流石深雪。」

 

「フッ…男どもの視線がやらしーこと。」

 

「うわー…スッゴいきれい…。」

 

「悔しいけど…司波さん衣装似合ってるね、泉美。」

 

「ええ、香澄ちゃん。来年は私も出場して衣装を着用できるように努力しますわ。」

 

ほのかが感動し雫がその着こなしに納得しエリカは観客席の反応を見て鼻で笑っていた。

小町も深雪の着こなしを誉め泉美と香澄に関しては深雪の衣装の着こなしに少々不満そうだったが来年への目標を掲げていた。

 

これが演技の美しさを競う採点競技ならば文句無く深雪の優勝だっただろうが、流石の本戦ともなると九校戦は甘くはなかった。

 

「深雪さんがリードされてしまうなんて…。」

 

第一ピリオド終了の際に美月が呟いた言葉に皆も頷いていた。

 

「トップに立った三校の選手、BS魔法師とまでも行かなくとも「跳躍」の術式に特化した魔法特性を持っているみたいだね。」

 

「それだけじゃないわね。飛び上がる軌道を計算して、巧みに深雪のコースをブロックしている。「跳躍」のスペシャリストというよりも「ミラージ・バット」のスペシャリストというべきじゃない?」

 

美月の驚きにエリカと幹比古が自分の考えを述べると、

 

「三校の水尾選手はうちの渡辺先輩と並んで優勝候補に挙げられていた選手だからな…それに、深雪もピラーズであれだけ目立てばマークされないはずもないし、向こうの選手も意地があんだろ?先輩のな。」

 

「確かに、深雪の実力を見れば警戒しないはずがないから。」

 

「水尾選手は堅実な戦いかたが主流ですから、場数でいうなら深雪よりも上ですからね…」

 

俺の発言に雫とほのかが賛同してくれた。

 

「まあ、このままで深雪が終わるとは思えないしな。達也同様だが。」

 

最後にレオが、悲観的な空気を吹き飛ばすように明るく言い放った。

悲観的なことを考えていないレオのその発言が非常に心強かったのは全員が思っただろう。

 

(達也がなにも策を用意していないとは考えられないからな…。)

 

誰にも告げず達也が策を用意しているのだろうと俺は思案していた。

 

次のピリオドでは深雪が挽回し、第二ピリオド終了の段階でトップに立った。

しかしポイント数はほんのわずか。深雪もまだまだ余力を残していたのだが相手も第三ピリオドに備えて余力を残していた節が俺からも見てとれた。

 

(さぁ、達也。どんな切り札を切るつもりだ?)

 

 

戦局が動いたのは深雪が最終ピリオドで装備しているCADが変化している事だった。

 

「あれ?深雪のホウキが変わってる。」

 

真っ先に変化に気がついたのはエリカだった。

 

先ほどまで携帯端末型のCADを装着していた深雪が、ブレスレッド型のCADを装着していた。

 

「二つ持ち…なるほど達也らしい策だな。しかし意外だなもうその手を切ってくる…いや、切るしかないか。」

 

俺が指摘すると一同はその目的に首を傾げていたがほのかだけが、感慨深げに頷いていた。

 

「そう…深雪早くもあれを使うのね。」

 

「アレ?」

 

雫の問い掛けに俺は察した表情でほのかは悔しさと憧れが同居した複雑な表情で答えた。

 

「きっと驚くぞ。」

 

「達也さんが深雪のために用意した秘策、私も挑戦したけどダメだった…きっと驚くわよ此処にいる人たち全員が。」

 

「ほのか。」

 

「あ、ごめんなさい八幡さん…」

 

隣に座るほのかへ声を掛けると申し訳なさそうな表情をするがそれはこっちの台詞だった。

 

「俺がうまく調整できていればほのかも使用できたかもしれないが…ごめんな。でもなほのか」

 

「は、はい///」

 

免罪符というわけではないが釘を刺しておく必要があった、ほのかは必要以上に自分に自信がないからな。

真面目な表情をほのかに向けると顔を赤く染めた。

これははっきりと告げておかなければならなかった。

 

「そんなものがなくともほのかは実力者だよ。それは俺が保証する。」

 

「八幡さん…///」

 

「はい、お二人さん私もいることを忘れないでね?」

 

ムスッとした表情で俺とほのかの間に割って入った雫にたじたじなほのか。

 

「し、雫!べ、別にいちゃついてなんか…。」

 

「ただアドバイスしてただけなんだけど?」

 

「むぅ…」

 

「ほら試合が始まるぞ。」

 

雫と他多数(一緒に見ている仲間内から)の視線をずらすためにそういうと丁度良いタイミングでミラージ第三ピリオド開始を告げるチャイムが鳴った。

 

 

装着された右腕のブレスレッドが格納された起動式を展開した瞬間に止まること無く、途切れること無く発動する極小の魔法式。

 

深雪の体はまるで綿毛のよう空へ舞い上がる。

 

深雪の進路を妨害するように他校の生徒が行く手を阻むが深雪はそれをバレルロールの要領で回避した。

 

それだけならばただの飛翔…で観客達の関心が済んでいたが驚くべきと事は光玉を打ち消した後に空中で体を反転させて次の光玉へ足場に一度着地せずに飛んだまま飛翔していることだった。

 

観客席の人々達の歓声は絶句へと変化した「そんなことが出来る」のかと。

 

二つ、三つ…五つ…次々と出現する光玉を他選手は足場へ着地して再び飛び上がらなければならないのに対して空中で横移動するだけで済んでいる深雪とははなから競争にならなかった。

 

観客の誰かが絶句から解凍されて声を出す。

 

「飛行魔法…?」

 

スティックを振るう深雪の姿は戦女神の如く、凛々しくそれでいて優雅だった。

 

「トーラスシルバーの…?」

 

驚きが連鎖していく。

 

「そんなバカな…」

 

その人々の囁きが俺たちのグループの耳にも当然入るわけで…

 

「うわ…達也くん大人げない…。」

 

「『あれ』を操れる深雪さんも大概だぜ…?」

 

エリカが若干引き気味になりレオも相手選手に「お気の毒」といわんばかりの表情になっていた。

 

「これがほのかが言っていた秘密兵器…、すごい。」

 

「まさか『飛行魔法』を此処まで巧みに使いこなせるとは…一体深雪さんは何者なのでしょうか…お兄様。」

 

「司波さんも凄いけど『飛行魔法』の起動式を起こせる司波さんも一体何者なのかな…兄ちゃん。」

 

「あの二人もしかしたら…」

 

優雅に会場の上空を飛び回る深雪の姿を観ながら感想を述べている泉美と香澄、その二人の会話に答えを出そうとする小町と同じような感想を俺も思った。

 

「まぁ、先月発表されたものをもう実装するのはありえないわな。疑われても仕方がない…か。」

 

「十師族…それか流派に属する家系かな?」

 

「だったら面白いかもな。」

 

そういった後に視線を妹達からずらして上空を飛び回る深雪へと視線を向ける。

空を飛ぶという現代魔法の革新に「不可能」と言われた奇跡の実演にこの美しい少女はこの上なく相応しい魔法であろう。

俺はそれと同時に達也に対して今再び複雑な感情を抱いた。

何故お前は二科生なのだろうか、と。

 

魔法理論では俺と並び、身体技能ではほぼ同等であるのに関わらず実技に関しては魔法は水準よりも下というアベコベであること。

 

俺は達也が『何らかな特殊な魔法を使用するため通常の魔法を使用する為の演算領域が強力な魔法で占領されてしまっている。』という考えに至った。

 

記憶がフラッシュバックする。

 

入学式のあの頃、達也と深雪を見たときに《瞳》に映る達也の魔法の演算領域が特殊な魔法に埋め尽くされていたことを思い出した。

 

(まさか小町の言う通り本当に『十師族』またはそれに準ずる流派の家系なのか?そう考えれば達也の異常な能力や深雪の十師族顔負けの魔法力と美貌に説明がつく、司波…読み方を変えれば『シバ』…『四葉』…まさかな。)

 

俺はそんなことを思いながら他の観客は深雪の宙に舞う美しい演舞にそれぞれ違う意味で意識を割かれていた。

 

試合終了の合図が鳴り、深雪が地上に降り立つまで観客達の視線を外すことは出来なかった。

 

ミラージ・バット予選は深雪の大差で決勝へと勝ち進んだ。

 

(まぁ…あいつらが仮に『四葉』であっても距離感は変わらないしな。)

 

親同士はいがみ合っているがどうでも良い。

 

そんな事を考えていると不意に俺の待つ端末が震える。

 

マナーモードにしていたため着信音はでなかったが俺は震える端末を懐から取りだし目をやると宛先は名倉さんから来ており内容を見てみるとベストタイミングだった。

今回の仕掛けの裏付けとそれに関わるメンバーの詳細も付けてだ。

 

『無頭竜の潜伏先が判明いたしました場所は横浜○○○○~○ー○…』

 

(ありがとうございます名倉さん。)

 

端末を一瞥し懐へしまう。これから動き出すであろう襲撃者に俺は備えた。

 

 

深雪の圧倒的な実力を見せつけられた第二試合を見ていた優美子は気分が沈んでいた。

 

(愛梨に試合前に見せるんじゃなかった…)

 

優美子が試合を見せたことに後悔していたが愛梨は違っていた。

 

「…なるほどね、確かに驚いたけど光珠が発現してからの到達時間…」

 

その次の言葉に驚愕した。

 

「私の跳躍で捕らえられないことはないわ。」

 

「っ!?」

 

「大丈夫よ優美子。あなたと私の力であの戦法に勝って見せるわ。」

 

「…当然だし。ヒキオのためにも勝たないとね愛梨?」

 

「もう…からかわないでちょうだい…。」

 

やる気十分な愛梨に気分が沈んでいた優美子はその雰囲気に当てられて冗談を言えるところまで回復しお得意の八幡いじりを愛梨に行うと、何時ものように顔を赤らめている。

 

「じゃ、次の試合で1勝してくるわね。あんな化け物早々居ないだろうし。」

 

「そうね。頑張るし愛梨。」

 

「当然よ。」

 

見送る優美子は我が子を送り出すように愛梨を見送った。

 

(あーしが励まされてどうすんのよ…。愛梨、頑張って。)

 

◆ ◆ ◆

 

「十七号から連絡があった、第二試合のターゲットが予選を通過した。」

 

「電子金蚕を見抜くような相手だ。順当な結果なのだろうが…不味いな。」

 

「それだけではない、飛行魔法を使ったらしい。」

 

「バカな!?」

 

「これで力を使い尽くしてくれたのなら万々歳だが…虫が良すぎるか。」

 

「もはや手段を選んでいる場合ではないと思うが、どうだろうか。」

 

「賛成だ。百人程死亡すれば十分だろう。試合が中止になる。」

 

「中止になれば払い戻しは当初の掛け金のみだ。未だ許容範囲内だろう。」

 

「客が騒がないか?同業者はともかく、兵器ブローカーどもは厄介だぞ。アイツらは諸国政府と太いパイプでつながっているからな。」

 

「客に対する言い訳など後でどうとでもなる。今大切なのは組織の体制だ。」

 

「そうだな…実行は十七号だけで大丈夫か?」

 

「多少腕が立つ程度ならば「ジェネレーター」の敵ではない。残念ながら武器の類いを持ち込むことは出来なかったが十七号は高速型だ。リミッターを外して暴れさせれば百や二百簡単に屠れる。念のために十八号にも暴れさせよう。」

 

「異議はないな?…それでは十七号十八号のリミッターを解除する。」

 

八幡がいる会場で狙ったターゲットではなく偶々だったのだが彼らが取った行動が自らの命の灯火を消し飛ばす破滅への導火線へ火を付けることになるとは思いもよらなかった。

 

 

試合が終了し次の試合が始まるまでに備え売店で飲み物を買いに立ち上がり会場の外へと向かった。

その最中に先程の試合について話し合っていた。

 

「さっきの凄かったよねお兄ちゃん。」

 

「ああ…深雪と相手する選手が可愛そうになるレベルだったな…。」

 

小町が深雪が使用した『飛行魔法』の事について言っているのだろう、それには同意だった。

俺が頷くと今度は小町が耳を疑うようなことを言ってきたので否定した。

そんなことは天地がひっくり返ってもあり得ないからな。

 

「いや~お兄ちゃんの彼女さん候補が現れて小町は嬉しいよ。」

 

「いやいや…小町さんや、さらっととんでもないこと言ってるけどあり得ないからな?俺みたいな奴を好きになるのは相当な物好きだからな?」

 

あの完璧美少女が俺の彼女?100%あり得ないだろ、それこそ天文学的数値だろうさ。

 

俺のその発言を聞いた小町と泉美と香澄は顔を見合わせて溜め息をついた。

何で俺が溜め息つかれなきゃならんの?

 

「もう此処まで来ると清々しいね…。」

 

「お兄様を好きになる女の子が可愛そうになるレベルですわね…。」

 

「素で言ってるんだから末恐ろしいよ、兄ちゃん…。」

 

「なに言ってんだよお前ら…」

 

「そんなお兄様を好きになった私たちどうなんでしょうね、香澄ちゃん?」

 

「そうだね泉美…本当に兄ちゃんを好きになった女の子は泣きを見るね…。」

 

「つまり、泉美と香澄は可哀想と…」

 

「「それは言わない約束でしょ!」ですわよ!」小町!!」」

 

「??」

 

俺には聞こえない声でなにかを話しているようだったが俺には関係ないの無い話だろう、知らんけど。

 

そんな会話をしながら八幡と妹達はで飲み物を売店へ買いに行こうと会場から外へ向かう最中に成人男性二名とすれ違う。

 

その男性からは感情と言うものが消失…というよりかそもそもが欠落していたそんな風に感じさせるような無機質な「表情」であった。

 

その男達とすれ違った瞬間。

 

男達の動作が自己加速術式を展開したのか泉美と香澄の背中を鉤爪の如き指先で抉り取ろうとする。

本来であればその指先が双子の姉妹の命を容易に刈り取るほどの威力を秘めてたが、先頭を歩いていた筈の少年が突如男達の鉤爪を作った手首の動きを止めるため羽毛を触るような動作で握られた瞬間、その腕ごと抉り消され『無』へと還っていった。

 

元より腕など存在していないかのように。

 

「あれ?お兄様先程まで…。」

 

「兄ちゃん?」

 

妹達の目に入らないようにうまく隠し小町達に誤魔化すための言葉を掛ける。

 

「このおっさん具合悪そうだから救護詰め所につれていくわ、わりぃ先に飲み物買いに言っててくれ。」

 

「ちょ!お兄ちゃん」

 

「あ、お兄様!?」

 

「兄ちゃん!?」

 

返答も待たずに八幡からの攻撃を受けよろける男性二人を抱えて外へ走っていく。

襲撃を仕掛けてきた男二人を加重魔法で捕らえ八幡は自己加速術式を二重詠唱し会場の人気のいない裏側に回り込みこの襲撃の後始末が始まる。

 

痛みや驚きも表せない男二人は八幡に抵抗しようとしたが直ぐ様地面に伏せる羽目になった。

 

加重魔法による超重力にて体と臓器に掛かる負荷は常人であれば既にぺしゃんこに潰されていてもおかしくはなかったが彼らにその魔法を掛けている八幡が手加減していることを彼らは知るよしもない。

 

殺戮の命令を受けて手始めに通りすぎようとする男女グループを殺害しようとしたがその攻撃を今目の前にいる少年によって無効化されてしまった。

 

例えその攻撃が受け止められるとしても狙ったのは少年ではなくその後ろにいた少女を狙った筈にも関わらず攻撃を止められてなおかつ一人ではなく二人を無効化されていることに本来であれば恐怖にすくみパニックに陥るが彼らは『無頭竜』によって非人道的な手術をうけ作成された生体兵器『ジェネレーター』、人ではなく道具である彼らには恐怖もパニックにも縁はない。

 

しかし、そんなことは八幡にとってはどうでも良いことだった。

 

「襲撃を仕掛けてくるとはやはり予想通りだったな。」

 

目の前で地に伏しているジェネレーター二名を八幡がメガネ越しの金色の《瞳》が射貫く。

八幡の独り言が死の宣告となって木霊する。

 

「何者…というかお前ら普通の人間じゃないな?『ジェネレーター』って呼ばれる生体兵器か…可哀想に。」

 

感情の乗っていない薄い同情。

不意に八幡が片手を翳すと地に伏している片方の『ジェネレーター』前に黒い球体が現れ『無』へと還っていく。

 

「そっちが仕掛けてこないのなら無視してやろうかと思ったが…話が変わった。」

 

残って地に伏している生体兵器に《キャッチリング》を使用して手足胴体を拘束し加重魔法によって浮かび上がらせた後八幡が空に手をかざすと空間にヒビが入り裂ける。

 

その割れた空間に拘束したままのジェネレーターを放り投げるといなくなってしまった。

 

「あまつさえ大会を滅茶苦茶にしようとして泉美と香澄に襲いかかろうとした…代償を払ってもらうぞ『無頭竜』?」

 

感情を消されてるのが功をそうしたのか常人であれば竦み上がり動けないほどの恐怖を本来であれば与えられている筈だったが『ジェネレーター』には感情がない。

その威圧感は無駄な行為であったが怒りを向けられずにはいられなかった。

 

他人から見ればいたって冷静さを装っているが今の八幡は肉親へと向けられた悪意へ静かな怒りを向ける。

 

仕掛人がいる会場へ八幡も加重魔法を使い浮かび上がり生体兵器を保持しながら凄まじいスピードで飛翔した。

 

◆ ◆ ◆

 

時間はミラージ・バットの試合が始まる前に俺はちょっとした『後片付け』をした後に会場に戻ると達也から連絡が来た。

 

『すまないが今手が離せないので深雪へ出店のアイスクリームを買ってきてくれないか?』

 

連絡を受けて宿泊先の深雪の部屋に向かう羽目になった俺は溜め息をついた。

 

「何で俺が…。」

 

試合が終わった後だったので出店からアイスクリームを購入し深雪への部屋へ到着してノックするが返事がない。

 

「いないのか?おい深雪?」

 

そういって返事を待たず部屋のドアノブを開いてしまったのが問題だった。

 

「へ?は、八幡さん?」

 

「あ…。」

 

ドアを開いた先にその目的の人物が居たのだが生まれたままの姿でバスタオルが一枚であり深雪のその姿は非常に扇情的であり理性の無い獣であれば襲いかかっていただろうが俺は人間なのでそんなことはしないおk?

 

とは言えやはり美しいものを見ると目を離せなくなるというのは本当らしいようで深雪の陶器のような美しい白い肌に水気を帯びた艶やかな黒髪に丈が少し足りていないバスタオルから覗かせる太ももがチラつき大変スケ、もといけしからん光景が広がっていた。

 

「……」

 

つまり深雪の姿に目を奪われてしまっていたのだ。

俺が急に現れたことで深雪も困惑していたが少しして状況を冷静に処理してフリーズしている俺に声を掛けてきた。

 

「その、八幡さん恥ずかしいです…///」

 

「はっ…!?すみません警察にはつき出さないでください!」

 

「し、しませんよ!」

 

深雪の言葉に我に返り素早く土下座のポーズをとり警察への突き出しを回避しようとしたが深雪のマリアナ海溝よりも深い寛大な心で許された。

 

「それより八幡さん…一度部屋から出ていただけませんか?着替えたいので…。」

 

深雪も今の状態に顔を赤面し体を隠しながら俺に退出を促す。

 

「そ、そうだよな…ごめん着替え終わったら声を掛けてくれ。」

 

「は、はい…」

 

退出し部屋に近くの壁に寄りかかりながら待っていると部屋のドアが少し開かれ深雪が顔を出す。

 

「八幡さんもう大丈夫ですよ、入ってきてください…。」

 

やはり顔が少し赤い。

 

「そ、そうか…お邪魔します。」

 

俺も何だか緊張して入室する。

前に見せてもらった白いワンピースを着用している深雪から室内に備え付けの椅子に二人とも腰掛け深雪から切り出してきた。

 

「それで八幡さんは何故此方に…?」

 

「え?達也から聞いてないのか?『俺の代わりに深雪に食事と売店のアイスを買って持っていってくれって』そう言ってたんだけど。」

 

「そうだったんですね!『お兄様…ありがとうございます!最近はほのかと雫に二人占めされていたのを見かねた深雪を不憫だと思って気をお使いになってくださったのですね…お兄様。』」

 

「お、おう…。」

 

何故か凄く嬉しそうな表情を浮かべた深雪に若干苦笑いを浮かべながら用意された弁当を深雪と俺は一緒に取った。その際に試合に出るのは深雪の筈なのに甲斐甲斐しく俺のお世話をしているのだ。

 

おかしくない?君がどっちかというかお世話される方だよね?

 

「八幡さんは少々だらしないところがありますのでお世話のしがいがあります。」

 

楽しそうに今にも歌い出しそうにお茶を入れて俺の前に差し出してくれたので二人で買ってきたアイスを食べながら雑談をした。

 

「決勝戦は夜に行われるし開始まで数時間ほどあるからお昼も取ったし眠くなってきただろう?俺はそろそろ行くから…」

 

「あ、待ってください八幡さん。」

 

食事が終わり深雪も次への試合のために休息を取るために(試合開始まで数時間ある)睡眠を取る必要があるのでそれを告げて部屋から出ようとすると深雪から引き留められる。

 

「どうした?」

 

「ええと…もう少しお側にいてくださいませんか?」

 

顔を赤くして俺にお願いしてきた。

 

深雪さんや、それは思春期の男の子に言っちゃいけない台詞よ?勘違いしちゃうからね?

恐らく俺は先ほどの深雪の着替えを覗いてしまった代償なのだろう。

 

俺は逃げられないと思い深雪の提案を受け入れることにした。

 

「ええと…ちなみに具体的には…?」

 

「その…一緒にお昼寝を…」

 

「却下にきまってるでしょうが…。…男女が一緒の布団に入るのは不味いだろ。」

 

「は、八幡さんでしたら構いませんのに…」

 

深雪がなにかを言っていたようだったが「仕方がない」と言った表情で深雪は昼寝の準備を整えて寝具に潜り込み試合の疲れと食欲が満たされていたのか直ぐ様眠りの国へと旅立った。

 

深雪のそばで用意された椅子に座り整いすぎている寝顔を拝んでいる。

 

「ホントに綺麗だな…。」

 

安心しきっている寝顔を見ているとそれが自分に対する信頼なのだと考えると何だかむず痒い気持ちと好きでもない男の前で無防備な姿を晒しているのは少々問題だとは思うのだが…。

あれか、俺はペットのような扱いなのかもしれんな。

 

「しかし…。」

 

それにしても数年前、沖縄に修行しに行ったときにまさか大亜連合による襲撃に合わせどさくさに紛れ『レフト・ブラット』による襲撃を俺がまさか救うことになりその数年後に同じ高校に入ってお礼を言われることになるなんて考えもしなかった。

 

隣に安らかな寝息を立てている深雪が寝ているベットに俺が手をついて表情を観察していると深雪の手が俺の手に重なるように優しく触れて自分の頬に当てている。

 

「深雪さん…?おーい?」

 

返事はないただの寝相を打っただけだったがまさか俺の手に重なって頬に当てるとは思わないじゃん。

深雪が起きるまでの四時間半俺はずっと満足そうに眠る姫の顔を見ることになりそうになったが愛梨との約束を想いだし目の前の眠り姫を起こさないようにそっと手を離し部屋からゆっくりと退出した。

 

「おやすみ深雪。」

 

◆ ◆ ◆

 

「お、八幡殿!来たな。」

 

「来ましたね八幡さん。」

 

「遅くなってすまん。十七夜、四十九院。」

 

『お片付け』を終えて急ぎ会場まで戻り愛梨の試合を観戦するために十七夜達の場所へ向かったのだが…

 

(滅茶苦茶見られてるな…。)

 

関係者席に向かうまでに他校の生徒…特に三校の生徒からの視線が凄かった。忌々しいものを見るのや尊敬の眼差しをぶつけられていた。

 

(恐らくはモノリスのせいだろうがな…。)

 

「どうしたのじゃ?」

 

「いや、何でもない。」

 

席を確保されていた場所に座りステージで待機している愛梨に目をやるとアナウンスが入る。

 

『第一高校の司波選手と同様、一年生でありながら本選に選抜された一色選手!クラウドボールで見せた圧倒的なスピードに今回も期待が高まります!』

 

「周りの選手が萎縮しちまってるな…。」

 

「司波殿に注目が行きがちじゃが愛梨も負けておらんぞ?」

 

「そうだな。」

 

四十九院の言うことはもっともだった。

彼女も一流の魔法師でそんじょそこらの魔法師に負けるどおりがない。

 

『試合開始!』

 

試合開始のブザーが鳴り響き光珠が上空へ現れると一目散に愛梨が到達し獲得する。

 

(跳躍で飛行スピードを越えて見せる!)

 

『これは早い!ホログラムが点灯した瞬間に一色選手が獲得いたしました!』

 

その後光珠が出現し他校の生徒も負けじと次々と現れる光珠を獲得しようと跳躍するが愛梨の前では児戯に等しい速度でありかっさらう形となった。

 

『一色選手次々と獲得!何と言う速度でしょうか!マジックフェンシング競技でも『エクレール・アイリ』の異名を取る一色選手ですがこれはまさに稲妻!』

 

第一ピリオドは愛梨の圧勝で幕を閉じた。

 

控え室に戻り優美子が出迎える。

 

「いい感じじゃん。」

 

「ありがとう優美子。そうだこの試合は録画してるわよね?」

 

「もち、愛梨は既に決勝を見据えてるもんね。」

 

「当然よ。」

 

そう言って不敵な笑みを浮かべ控え室から愛梨は会場へと向かった。

 

『試合終了!一色選手他を寄せ付けず圧勝です!』

 

続く第二、第三ピリオドも愛梨は高得点を叩きだし愛梨が望んだ第一試合は勝利で幕を閉じた。

観客席が歓声で沸くなか愛梨は空を見上げていた。

 

その姿を観客席で俺は見ていた。

 

(愛梨なら深雪と良い勝負をしそうだが…飛行魔法無しでやりあうのは辛いかもしれないな。)

 

「うむ、愛梨らしい戦いかたじゃったな。」

 

「ええ。」

 

(俺が三校の生徒なら手を加えてやれるんだが…まぁ、無理な話か。『直接』は、だが。)

 

おもむろにポケットに入った情報端末を握りしめながら十七夜と四十九院に話しかける。

 

「順当に行けば愛梨が決勝進出だな。愛梨、流石だな。…そろそろ戻らねえとな。」

 

「む、もう行ってしまうのか?」

 

「こっちも色々と立て込んでてな…そうだ、十七夜。」

 

「なにかしら?」

 

「これを愛梨に…って担当技師って誰だ?」

 

四十九院が答えてくれた。

 

「優美子じゃぞ?」

 

「そうだったか…なら三浦にこれを手渡してくんない?」

 

不思議そうに俺からの情報端末を受けとる十七夜。

 

「これは?」

 

「魔法の起動式が入ってる、決勝では恐らくだがうちのエンジニアが使用した『飛行魔法』を公平を保つために公開配布すると思うが…。」

 

俺がそう言うと驚いた表情をする二人。

 

「なんじゃと…?」

 

「そんな…。」

 

「だが一般の魔法師が使ってもすぐにガス欠になっちまうからな、深雪の前じゃ意味が無い。それでだ…。」

 

手渡した端末に目をやる。

 

「俺が調整した『飛行魔法』の起動式が入ってる。流石に愛梨の事はしらないから微調整に関しては三浦と愛梨本人にしか出来ないからそこは任せるとして…」

 

「八幡君、一つ聞かせてくれる?」

 

「ワシも聞かせてほしいのじゃ。」

 

「どうした?」

 

「どうしてそこまで愛梨に協力しようとするの?こういってしまえばあれだけど、三校と一校は敵対してるのよ?」

 

「八幡殿は何故愛梨を手伝おうとするのじゃ?敵に塩を送るとは…。」

 

俺は不思議そうな顔をする十七夜と四十九院に「どうして愛梨を手助けするのか」と聞かれ理由は一つしかない。

 

「何でって…。理由は俺が愛梨と深雪の本気の試合が見たいからだか?」

 

何と言う自己満足にして自分勝手。

一方的な試合というのは退屈で俺の精神衛生上よろしくないからだ。

 

その事を伝えると二人は面白いものを見るような表情で俺を見てくる。

変な事言ったか?

 

「あなたやっぱり変わってるわね…。」

 

「八幡殿はやはり変わり者じゃな!」

 

「ええ…?まぁ、これを渡しといてくれ。」

 

「分かったわ。」

 

 

一方で試合が終了し決勝進出が確定し優勝に向けて控え室で休憩を兼ねて先ほどの自分の試合映像と深雪の映像を見返していた。

 

(このスピードだとギリギリのライン…、決勝では更なる調子をあげてくる恐れがあるわね…。)

 

跳躍では愛梨に軍配が上がるが飛行魔法を使用する深雪のスピードは決勝では上がってくる可能性があった。

 

(不安が無いと言えば嘘になるけれど…此方も全力を尽くすのみだわ。)

 

不意に控え室のドアがノックされて優美子が反応する。

 

「空いてるし、どぞー。」

 

同じ高校の先輩が入室してきて先の試合の健闘と次の試合での戦術の検討を提案してきた。

 

「え?…飛行魔法をですか?」

 

愛梨と優美子は目を白黒させている。

 

「そう、決勝で使ってみるのはどうかと…。」

 

「ちょっち待つし。」

 

その提案に待ったを掛けたのは優美子であった。

 

「付け焼き刃で戦えるような甘い競技じゃないし、技術的な面からも不安で担当技師としては慣れた魔法で行くべきだと思うんだけど?」

 

「それなんだけど…」

 

先輩が優美子の剣幕にビビりながら補足説明をしてくれた。

 

「あのあと、大会委員会から一校のCADの情報が公開されてね…恐らく決勝は全ての高校が飛行魔法を使ってくると思うの。」

 

「なっ!?」

 

「はぁ!?」

 

その事に愛梨と優美子は驚いている。

無理もないだろう、一番の難敵である司波深雪が使用して見せた『飛行魔法』を全員が使えるのだ。

 

愛梨は難しそうな表情で思案し数秒後、優美子に依頼する。

 

「優美子、今から調整できる?」

 

「やるだけやってみるし…でも、」

 

「私は優美子を信じているわ。」

 

「…。」

 

愛梨から強い眼差しを受けて優美子は頷くしか無かった。

 

 

場所は変わり九校戦が行われている会場から少し離れ拓けた森林に移動してきていた。

 

「とは言ったけれども、急な話で練習場所はこの辺りしかないし。」

 

「このくらいの空間があれば十分よ。それより凄いわこんなにも飛行が簡単だなんて。」

 

「飛行魔法自体はトーラスシルバーのものをほぼ弄っていないからそのままだしね。」

 

動きは綺麗に愛梨は空中を飛んでいた。

 

「おーい!愛梨、優美子!」

 

遠くの方から愛梨達の顔見知りが声を掛けてきたので魔法の行使を中断し着地した。

 

「沓子、栞。一体どうしたの?」

 

「先輩達から愛梨が此方に移動したと聞いて此方にきたのよ。」

 

「むぅ…やはり八幡殿の言う通り全校に『飛行魔法』が配布されていたか…」

 

「八幡さんの言う通りこれは辛いわね。」

 

「…優美子の言う通り付け焼き刃で戦える相手では無い…それに他の生徒も飛行魔法を使えるようになる…。」

 

「確かに司波選手と戦うには熟練度が圧倒的に足りていない…愛梨の実力があったとしても。」

 

「愛梨に優美子…、この状況を打開できる策があるとするればどうする?」

 

いつものおちゃらけた雰囲気の沓子ではなく真面目な雰囲気で話し始めたので愛梨達も身構える。

 

「どういう事?」

 

「どういう事だし?」

 

「実はな…八幡殿と先ほどまで愛梨の試合を見ている際にこれを手渡されたんじゃが…栞。」

 

「これよ。」

 

そう言って愛梨と優美子の前に八幡に手渡された情報端末の中身を見てみるとそこには愛梨用に完全ではないが調整された跳躍と飛行魔法を組み合わせた起動式が封入されていた。

 

その起動式の完成度具合に優美子は驚愕の表情を浮かべ愛梨は困惑していた。

 

「一体どうして八幡様が…。」

 

「何でヒキオが敵に塩を送るような…」

 

「八幡さんが言ってたわ。「俺は本気で戦って自由に空を飛び回る愛梨が見たい」と言っていたわ。」

 

栞が情報端末を手渡されたときの事を伝える(若干盛ってる)と優美子が「あぁ…またいつものか」と母親のような表情になり愛梨はと言うと…。

 

「…///」

 

顔を紅くしていた。

 

「たっく…ヒキオらしい理由…無自覚でこれを言ってるんだから恐ろしいし…。」

 

「優美子…。」

 

「分かってるって。ヒキオから渡されたこいつを大急ぎで調整するし。」

 

「…!ありがとう優美子。」

 

本来ならば他人から手渡された起動式を担当技師が調整して使用することはプライドが許さなかったであろうが優美子は愛梨の気持ちと八幡の思いを汲み取って力を借りることにした。

 

「凄い…まるで重さを感じさせない…!」

 

「まるで本当に『稲妻』の様じゃ…!」

 

「凄い…凄いわ愛梨。」

 

「ほんとに…ヒキオ、とんでもない調整してくれたし。」

 

優美子からの調整終了後に再度使用するCADにインストールしなおして愛梨は『飛行魔法』を起動させると空中を先程よりも流麗に飛び回り稲妻のごとき速度で空中を旋回する。

その姿を見た三人は呆然としたり関心したりしている。

 

(期待してくれている皆…そして私自身の為に…)

 

愛梨は自身が好意を寄せる少年の事を思いだし決意する。

 

(八幡様の為にも勝利して見せる!)

 

◆ ◆ ◆

 

深雪の試合が終了した後に襲撃にあった八幡が『お片付け』と称して何をしていたかと言うと…。

 

横浜・中華街

 

「十七号と十八号からの成果の報告が来ないぞ…。」

 

「まさか取り押さえられたとでも言うのか?」

 

「取り押さえられたとしても我々に繋がる証拠は何も出ては来ないが念のために撤退の準備はしておかなければならん。」

 

「おのれ…一度勝利した程度でいい気になりおって…!」

 

「それ以上に我々が優先すべきは一校の十師族の餓鬼の始末だろう…。」

 

「我々の計画をことごとく潰してくれたあの生意気な餓鬼か?」

 

「七草八幡…十師族の子供か…奴には妹と姉がいたな。それを人質に取るか?」

 

「それも、」

 

高級スーツと成金じみた高級宝石をつけた幹部の一人が言葉を紡ごうとした瞬間、最上階に続くこの部屋のドア『最初から無かった』かのように消え去り、近くにいた仲間の幹部の両腕が胴体から泣き別れした。

 

両腕が切り落とされた男はあまりの激痛に失神する他無く他の幹部はゆっくりと歩を進め部屋に入ってくる黒いコートとサングラスを着用した男性…少年だろうか、この部屋に入ってきてから反応する他無かった。

 

「…っ!や、やれ!十三号、十四号!」

 

この限られた者にしか知らされていない空間に少年が侵入するという異常事態に流石の無頭竜の幹部達は自分達の命を守るためにジェネレーターに命令を出すが、遅かった。

 

「了、」

 

言葉を紡がせる前の二体のジェネレーター達を保護している情報強化されたエイドス・スキンごと素早く二丁引き抜いたCADの起動式によって発生した『粒子ビーム』によって上半身ごと消し飛ばしそこに残って立ったままの下半身が少しだけ歩行しパタリ、とその場に倒れた。

 

「…っ、じゅ、十五号、十六号!!」

 

直ぐ様倒されてしまったジェネレーターを無慈悲に目撃した幹部は続けざまに残る駒に指令を出すが無意味であった。

 

魔法を使わせまいと自己加速術式を掛けて接近した十五号が少年に拳を振り上げるが特化型CADの銃身バレルの相当する部分が赤熱化して光刃のようなものが延びて襲いかかる拳ごと両断し攻撃が当たる前にその命を散らした。

 

残る十六号も飛びかかろうとしたが頭手足に『粒子ビーム』を同時に叩き込まれて活動を停止した。

 

「バカな…四体のジェネレーターが数秒も経たずに無効化されただと…?」

 

「…。」

 

咄嗟の事に情報が処理できていない幹部達の光景を男は何の感情もない表情で見ていた。

 

「ひっ…!?」

 

状況を理解し動き出そうとする幹部達を逃がすまいと一帯に重力展開がなされ身動きが取れなくなってしまう。

 

「よぉ脳無竜…じゃなかった無頭竜日本支部の幹部さん達よ。お返し渡しにきたぜ?」

 

逃げ出そうとし這いつくばった幹部の前にしゃがみこみ顔を覗き込んだ瞬間、男が短く「ひっ!」と悲鳴を上げた。

 

幹部達を少年の表情は能面のように無表情でサングラス越しから金色に光る《瞳》で射貫き”死”を告げにきた。

 

 

「な、何者だ…。」

 

地面に這いつくばる幹部が目の前にいる少年に問いかける。

 

目の前で同僚の両手が切断され、自分達を守る生体兵器が上半身と泣き別れをして歩行するというスプラッター映画もビックリなショッキングな映像を見せられた男の口調はいつものような尊大な物言いではなくなっていたのは想像に固くない。

 

「九校戦では世話になったからそのお礼を返しに来たわけよ。…ほら返すぜ。」

 

そう言うと少年の背後より先程まで見えなかった『送り込んだ生体兵器が何もない空間から拘束された状態』で地面に転がされた。

 

「なっ…!?」

 

「しっかし、道具に始末をやらせて自分達は高座からの見物か…いい気分だろうな?自分の手は汚さず楽に金儲けできるんだからこれまでに良い商売はないだろう『ダグラス=黄』さんよ?」

 

目の前の少年に自分の名前を知られてしまっていることに心臓を握りつぶされそうなショックを受けるが帰ってきた答えは無情であった。

 

「何故、私の名前を…!?」

 

「誰が喋って良いと言った?」

 

次の瞬間、先程放り投げた生体兵器に少年がCADを構え発動させたであろう黒い球体が接触すると吸い込まれ消えてしまった。

 

「余計なことを喋るから…。さーて…こっからが本番だぞ。」

 

少年はCADを眼前にいる男に突きつける。

 

「ま、待て!待ってくれ!」

 

「何を待つんだ?」

 

「わ、我々はこれ以上九校戦に手出しするつもりはない!」

 

「いや、明日で九校戦終わるんだけど?」

 

「九校戦だけではない!我々は明朝にもこの国を出ていく!二度とこの国には戻ってこない!」

 

「へぇ…?で、それはお前の権限でどうかできるのか?」

 

「私はボスの側近だ!ボスも私の言葉を無視できない!」

 

「なんでそんなことが言えるんだ?」

 

「私はボスの命を救ったことがある!命の借りは、救われた数だけ望みを叶えることで返すことが我々の掟だ!」

 

「それ、今此処にいる自分以外は助からないって言ってるよな?」

 

この場にいる三名の視線がダグラスへ突き刺さる。それは裏切りによる憎悪と殺意の視線だった。

その光景を見て滑稽だな、と少年は思っていた。

 

「それが本当だとしたらその事をどうやって証明するんだ?」

 

「それは…。」

 

「あんたらのボスは直接の粛清をする際にも気絶させてその本人の前まで持ってこさせるんだろ?そんな奴がボスの名前を知ってるとは思えないけど…そうだな、あんたが影響力を持つというのなら顔、見たことあんだろ?答えろよ」

 

自分よりも二回り以上年が離れているのにも関わらず少年の殺気に当てられ呼吸するのすら億劫になる男は目の前にいる少年の前では後先の事を考えている暇がなかった。

 

この理不尽から生き延びるためには縋るしかない。

 

「私は拝謁を許されている。」

 

「で?あんた達のボスの名前は?」

 

ダグラスは口を閉ざした。

言える筈もない、それは組織の最重要機密であり長年組織にいたダグラスは刷り込まれた恐怖と忠誠心が目の前にいる恐怖を凌駕したほんの一瞬であったがそれは間違いだった。

 

「ぎゃあああああっ!!」

 

「ジェームズ!?」

 

隣にいた同僚が少年から放たれた魔法によって両手足が泣き別れし近くに転がり鮮血がダグラスに降り注ぐ。

 

「そういや、国際指名手配犯で『ジェームズ・朱』ってのがいたな…。」

 

くるりとダグラスに向き直りCADを構える。

 

「次はあんたか…。」

 

「ま、待ってくれ!」

 

「俺が『答えろ』と言った言葉以外答えるなと言ったよな?」

 

「わ、わかった!答える!ボスの名前は『リチャード=孫』だ!」

 

「それ本名じゃ無いだろ?実名は?」

 

「…孫公明だ。」

 

「住んでるところは?」

 

香港の高級住宅街の住所に、オフィスビルの総称、行きつけのクラブなど洗いざらい全て話してしまった。

 

「…私が知っている情報はこれで全てだ。」

 

「そうか…聞きたい情報は聞けたからな。ありがとうよ。」

 

「し、信じてくれるのか?」

 

「おっさんは紛れもなく無頭竜の首領、リチャード=孫の側近らしいな。」

 

圧倒的な理不尽を前に虚無感を漂わせていたダグラスは、ようやく解放されると喜色を浮かべるが

 

「グレゴリー!?」

 

最後の同僚が氷漬けにされたことで打ち砕かれた。

 

「…な、何故だ!我々は命までは奪わなかったではないか!?」

 

「あ?だからそうしてんだろ?『皆生きてるじゃないか』」

 

ダグラスの周りには両足を潰されたり両腕が切断され氷像へと変えられた同僚が転がっている。

どれも弱々しいが生命の活動を行っている。まだ生きているのだ。

 

「そりゃ結果論だろ。おっさん達の都合の良い理屈だ。俺は『五体満足で解放する』とは言ってないぞ?」

 

彼らは大量殺人を目論み結果としてこの目の前にいる少年一人によって阻止された。

…この幹部の男が知るよしなど無いが。

 

「だがまぁ…そんなことはどうでも良いんだよ。」

 

「な、なに…?」

 

「お前達が何人殺そうが関係の無い話だ。だって『俺とは関係の無い人間』だからな。」

 

絶句する男を尻目にこれ以上会話を続ける事になれば、下らない毒にも薬にもならない会話を繰り広げられることが決まっている。

 

「だが…お前達は俺の家族に手を出そうとした。俺の逆鱗に触れちまっただよおっさん。其だけで俺があんた達に怒りをぶつける理由はこれで十分だろう?大事なものに手を出すってことはそう言うことだ。」

 

そう言い放ち少年は重力波を当てて恐怖にすくむ男の意識を刈り取りその場に倒れ込んだ。

 

 

「…俺も甘いな。本来なら命を取るべきだが…後処理面倒だから軍にぶん投げるか。」

 

俺は部屋に転がっているジェネレーター達に特化型CADを向けて起動式を展開する。

恐らく殺傷ランクA以上は在るであろう加重魔法『空想虚無(マーブル・ボイド)』を使用して完全制御した拳大の大きさのマイクロブラックホールを当ててやると『無』へと還っていった。

 

「お片付け…ってな。」

 

更にはこの部屋に置いてあった機密帳簿等の証拠となるものをかき集め四肢が欠損していたり氷漬けになったり気絶している無頭竜達の幹部達を九校戦の軍施設、憲兵がいる部署の座標を確認し俺が使用できる移動魔法『次元解放(ディメンジョン・オーバー)』を使用し憲兵詰所と此処の場所を繋げて配達よろしく送り届けた。

 

向こうは大騒ぎだろうが…まぁ、大丈夫っしょ。

あ、やべ。戸部の口癖が…。

 

「俺も帰るか…つかれたわ。」

 

帰り道は加重魔法による飛翔ではなく座標が分かっているので『次元解放(ディメンジョン・オーバー)』発動し九校戦の会場まで一足で帰宅した。

 

八幡が去った無頭竜の幹部達がいた隠し最上階はもとより誰もなにも無かったかのように静まり返った。

 

…因にだが憲兵詰所に手足を欠損し氷漬けになった男達が突如現れたときは大混乱に発展したがこの男達が『無頭竜』の東日本幹部だということが分かり直ぐ様拘束され西日本支部にも捜査のメスが入ったらしいがそれはまた別の話。

 

意識を取り戻したダグラス=黄が軍の精神病棟でうなされながら「黒衣の男が…」ブツブツと呟いたことでこの惨状を作り出した魔法師に畏怖を込めて軍では『黒衣の執行者(エクスキューショナー)』の渾名が付けられたことを当の本人はまだ知らない。

 

 




八幡が使用した魔法に関しては九校戦終了・横浜騒乱編で追加したいと思います。

八幡の目の前で眠りにつく深雪は八幡でなかったら襲われててもおかしくない…。
愛梨の試合の時系列がよく分からなかったので文章の流れで同日にしています。

次回投稿でミラージの決着と九校戦閉会になるかと思います。

八幡の前で妹達に手を出したジェネレーター君達は戦犯ですね…。
血は繋がっていなくとも泉美と香澄を大事に思っているからこその行動でしたね。

今回は怪我をおっていないので首謀者達は命までは取られなかったですが、仮に八幡の家族が命の危機に陥った場合どうなるか…その鋼の意思が揺らぐかも知れないですね。

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