俺が七草の養子なのは間違っている   作:萩月輝夜

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どうにか今月中に投稿できましたぞおらっ!というわけで最新話です。

感想&評価ありがとうございます。
誤字脱字報告もありがとうございます。

今回のお話を持って《夏休み編+1》八幡の彼女達への心情が変化していくハートフルな物語は終了します。

そして次回からは原作でも大盛り上がりだった《横浜騒乱編》が始まります!

それでは最新話をどうぞ!


会長選挙と女心

「今月で私たちも引退かぁ…。」

 

夏休みの話題で盛り上がっていた生徒会の空気が微妙に変化したのは、姉さんのこの発言がきっかけだった。

 

そのときまでは相も変わらず生徒会の男女比率は俺と達也を除いて男子は二人だけで女子社会の生徒会は、新学期初日ということもあって「一夏の体験談」で盛り上がっていた。

 

この時代になると「性に奔放」ではなく「結婚するまで純潔を守り続ける」と言うのが主流で昔の時代ならば生々しい会話が繰り広げられていただろう。

しかし、その世相になったとは言え現在この生徒会には彼氏持ちの委員長や俺の対面に座る黒髪ロングの姫カットの美少女と顔を見合わせるとケンカをしているわけではないのに顔を紅くしてサッとそらしてしまう。

あの日の事を思い出してしまうからだ。

 

あの日以来同じクラスの『あいつら』と顔を合わせるのが非常に辛い。

嫌いと言うわけではないが視線を合わせづらいというか…。

 

と、その状態で女子生徒からの口から「無理矢理脱がされて」、「ベットに押し倒されて」等といった台詞を連発されてしまうと健全な青少年二人は「居ずれぇ…」となってしまい達也は風紀委員室にあった珍しい紙媒体の魔法書に目をやり、俺は上着を脱いで新しく新調したCADホルスターに馴染ませるために抜き差しをして特化型CADのトリガーガードに指を通し片手で回転させて遊んでいた。

 

「白けてしまったので眠って貰いました」というヲチを聞かされて思わず引っ掻けて遊んでいた《ガルム》をおとしそうになった。

意図的に俺たちを意識から除外してその話をしていたのかは知らないが俺と達也は聞かされている話を無意識に遠ざけていたのでどうしてその経緯で話題が出たのかは不明だった。

 

俺には関係のない話であったがとなりに居る達也に対して問いかけられたものなので必然的に耳には入った。

 

「そう言えば会長選挙は今月でしたね。」

 

「ええ。選挙は月末ですが、一応は体裁を整える必要がありますので、来週中には選挙公示をして諸々の準備をしなくてはなりませんね。」

 

「…」

 

確認の質問を達也が市原先輩へ問いかけるとその答えが返ってきていたのだが、先程までZ指定ギリギリ…まだしもC指定の内容を話していたにも関わらず感情の置場所を何処にやってしまったのかと聞きたくなる位の平坦な冷静沈着な普段の表情が崩れない先輩をみて俺は如何なもんなのか?と思ってしまったが二人は会話を続けている。

というか、市原先輩どうしてそんな状況になったんですか?と突っ込みをしたかったが俺は心の奥底へしまった。

 

「体裁だけなんですか?」

 

「立候補者が複数居れば、選挙は行われますが生徒会長になろうとした生徒は限られていますから、所詮は身内同士の争いですね。」

 

「身内同士?」

 

「此処五年間は首席の生徒が生徒会長を務めているんです。」

 

「つまりは生徒会長は選挙するまでもなく決まっていると?」

 

「そうではありませんが…直前の生徒会役員でなかった人物がいきなり生徒会長になるのはハードルが高いですし、そうなるとこの生徒会役員の中で立候補することになるのは副会長の服部くんか中条さんの一騎討ちとなることでしょうから恐らく選挙前に話し合いで一本化して立候補者が出されることになるでしょうね。」

 

その話を聞いて達也と俺は「なるほど…」と納得してしまった。

しかし、その立候補者の一人が「待った!」をかけた。

 

「わ、わたしには生徒会長なんて無理です!話し合いをしなくても立候補するするつもりはありません。」

 

今の段階から涙目になっているようでは、この第一高校の生徒会長は務まらないな、とこれまた達也と俺は納得してしまったが…。

 

「そうなると、六年ぶりに首席入学以外の生徒会長の誕生か…。」

 

「次の会長ははんぞーくんかぁ…。」

 

口調とは裏腹に渡辺先輩と姉さんは納得をしていないようだったが。

 

個人的な好き嫌いは無しにして心情的には中条先輩寄りのポリシーなのだろうが。

だからこそ中条先輩を生徒会長に据えたいのだろう。

だが当の本人が萎縮をしてしまっており姉さん達からは「学年次席が下の学年に押し付けてどうする」という苦言を貰いこれまた泣きそうになっていたのは印象深い。

 

「いえ、そんな、押し付けるだなんて…わたしはただ適材適所といいますが…その…。」

 

筋の通ったことを言っている気がするが先輩達から半目で見据えられただけで萎縮してしまうようでは、というよりも中条先輩の性格では会長という役職は辛いだろうなと思ってしまった。

 

◆ ◆ ◆

 

渡辺先輩に命じられて俺は同行者と一緒に校内を巡回していた。

その人物というのが千代田先輩でなんと風紀委員として迎え入れられたのだ。

新しく迎え入れるにあたって俺が何故だが俺に白羽の矢が刺さったというわけだ。

最初は断ったのだが渡辺委員長から「君は面倒くさがり屋ではあるが一度頼んでしまえば誠意を持ってやってくれるだろう?面倒見も良いしな。」と言われて咄嗟の反応ができず呆けているとにやける渡辺先輩の表情をみて仕方がなく受け入れるしかなかったわけだが…。

 

先輩に巡回ルートや特定のルートだけを回らないように補足説明すると「意外ね…」という言葉を投げかれられたが聞かないことにした。

報酬も入らない仕事をする気はなかったが姉さんが居る手前無下にすることもできなかった。

仕事は仕事、淡々と社畜のようにするしかなかった。

 

なぜか、千代田先輩が体育館を重点的に見て回りたいと強い要望があり、校舎との位置関係で始めに訪れたのは第二小体育館に向かうと剣術部が練習を行っていた。

 

「…八幡。お前っていっつも連れている女が違うのな?」

 

「冗談でも怖いこといわないで貰えます?千代田先輩に失礼でしょ…五十里先輩に殺されますよ俺が。」

 

開口一番、桐原先輩がそんなことをいうもんだから思わず真顔になってしまって説明口調になったが、冗談なのか本気なのか分からない口調で俺にそう言ってくるもんなので困った。

 

此処に例の3人が居たのなら此処は地獄と化していただろうがとりあえず事なきを得た。

 

「桐原くん、そんなことを言ったら両方に失礼じゃない。千代田先輩は五十里くん一筋だし、七草くんは真由美さん一筋なんだから。」

 

「まぁ…それでも良いですけど…。」

 

「いや、俺と姉さんは姉弟なんですけど…。てか一筋って。」

 

千代田先輩を悶えさえて俺を困惑させたのは壬生先輩の発言であった。

俺はどうして千代田先輩を同行して巡回をしているのか説明すると桐原先輩は納得してくれたが意外な反応が返ってきた。

俺は耳を疑いたくなったが。

 

「ほぉ~あの噂は本当だったんだな。」

 

「噂…?何すか?」

 

「八幡くん知らないの?」

 

「千代田を次の風紀委員長に据えよう、って渡辺委員長が根回ししているって噂なんだがあの人がそんな面倒くさい真似をするか?って思ってたんだが…確信に変わりそうだな。」

 

「だから言ったじゃない、千代田さんなら例外だって。渡辺先輩が千代田さんを特に可愛がっているんだから、ましてや経験のない千代田さんを自分の後釜に据えようって言うんだから八幡くんを尚且つ、次期の副委員長に指名しようとしている八幡くんを同行させるくらいはするわよ。」

 

ちょっと待ってくれ、壬生先輩は今なんて言ったんだ?

 

「ちょ、ちょっと待ってください壬生先輩…俺が副委員長に指名…?何処情報ですかそれ。」

 

「渡辺先輩が言っていたわよ?『八幡くんは副委員長に据えて花音のサポートをしてもらおう。』って…。」

 

俺は頭を抱えたくなったが伊達や酔狂で他人を持ち上げたりしないんだろうなと関わりで察してしまい今日の仕事を投げ出したくなった。

 

更に、桐原先輩達と月末に行われる会長選挙で驚きの事実が聞かされた。

 

『服部先輩は会長選挙に立候補せずに部活連会頭に推されている』という情報を聞かされ、その件については千代田先輩も納得していた。

 

しかし、と俺は気がついてしまう。

次期生徒会長を決める会長選挙で最有力立候補者の二名が出ないことになってしまったことに次の選挙は一体どうなってしまうのかと。

 

 

パトロールが終了し風紀委員室にいた渡辺先輩に俺は問い詰めるとどうやらその噂は本当だったらしく、若干たじろいていたのは俺が威圧感を出して聞いていたからだろう。

渡辺先輩からは「来年の話になるから考えるだけでもしてくれないか?」と言われて世話になって居る手前断るわけにもいかなかったが、その場に偶々姉さんが現れその話を聞いた姉さんが一言。

 

「八くんが副委員長になってくれたらお姉ちゃん嬉しいな。」

 

「熟考させていただきます。」

 

「はやっ!」

 

「あっはっははは!!」

 

秒で即答すると渡辺先輩が爆笑し、千代田先輩がツッコミ、姉さんが微笑むというコントのような空間が出来上がっていた。

 

風紀委員室での一連の流れが合った後に俺たちは帰路に着いていた。

生徒会が終わった深雪、巡回が終わった俺と達也。

クラブ活動が終わったレオ、エリカ、美月、雫、ほのか。

そしていつもの事ながら自主連をしていた幹比古。

俺たちはいつものメンバーで駅までの途中の喫茶店でテーブルを囲み駄弁っていた。

俺の左右には深雪、ほのかが陣取るという何時もの配置だったのだがそれを見ている雫とエリカが不満げな表情を浮かべていた。

 

そして、また話題はまたしても第一高校の次期生徒会長を決める会長選挙の話となった。

 

やはり全一で「中条先輩はちょっと頼りないかなぁ…」といった総評になっていた。

しかし、中条先輩を評価する声もあるのが実情で

 

雫は

 

「でも実力はピカイチ。」

 

続くレオも

 

「あの人段取りとか気配りできる人だしな…。」

 

美月も

 

「生徒会長は優しい人が良いような気がします。」

 

等と言って中条先輩が生徒会長になるのを支持する声も上がっているのも実情だ。

そんな中でエリカが声を上げる。

 

「服部先輩が立候補する線は消えちゃったんだよね?」

 

俺と達也に再質問してきた。

その問いに答える。

 

「ああ、本人から聞いたらしいから間違いないだろう。いくら会長でも部活連の会頭に決まった生徒を横取りはできないだろう。」

 

「十文字先輩が指名したらしいからな…流石に無理だろ。」

 

肯定を返す達也と補足を入れて信憑性を増した答えを追加する俺達にエリカは

 

「うんうん…いくらあの人達でも十文字先輩に太刀打ちできるとは思えない気がするな。」

 

何度も頷いているエリカの横で美月と幹比古が

 

「ではやはり、次期会長として中条先輩が立候補されるしかないのでは?」

 

「他の生徒会役員が立候補する気がないんだったら中条先輩しか…。」

 

二人が次期会長の予想に話を戻す。

 

「でも本人はやりたくないっていってるんでしょう?そうだ!深雪が立候補すれば良いのよ。」

 

「……。」

 

「ちょっと、エリカ?何を言い出すのよ。」

 

その発言に目を丸くしている深雪だったが自分の発言が存外良いアイディアなのではと思ったエリカは説明する。

 

「一年生が生徒会長になっちゃダメ。なんて規則がある訳じゃないんでしょ?深雪はこの前の九校戦でピラーズ・ブレイクの優勝に、二年三年の選手に混じって本選のミラージ・バットでも優勝してるんだし、実力も知名度もバッチリ…って、あ、ごめん、八幡…。」

 

「あ?なんで俺見るんだ皆?」

 

先程までエリカが意気揚々と根拠を説明していると何かに気がついたようでその明るい表情に暗い影を落とし回りの人物達も気がついたようで一気にお通夜ムードになってしまった。

 

心なしか俺の両サイドに座り腕をいつの間にか絡ませているほのかと深雪の絡ませ具合が強くなった気がした。

俺も無意識だったのだろう。

エリカの話を聞いて昔の『依頼』を思い出して苦い顔をしていたのを見られたのだろう。

 

「…すまん皆。気にせず話してくれ。」

 

「ううん。こっちこそ八幡の話を小町ちゃんから聞いてたのに無神経でゴメン…。」

 

エリカが謝罪をするがこの場では10対1で俺が悪いからな。

 

「気に掛けてくれるだけでも嬉しいよ。ありがとうなエリカ。」

 

「…///!!もう…本当に…誑し八幡なんだから…。」

 

俺が話しかけると顔を紅くして俯いてしまうエリカに疑問符を頭に俺は浮かべていると深雪にホールドされている腕が凍りついてきてほのかからホールドされている腕は二の腕を摘ままれており逃げ場がなくなった。

 

気を取り直してエリカの言葉に推薦された深雪が回答する。

 

「無茶言わないで。大体、高校生の『実力』は魔法力で測られるものじゃないわよ?」

 

「学力だったら達也くんと八幡がいるじゃん。生徒会長になったら役職を自由にできるんだよ?」

 

エリカと深雪のやり取りに参戦するように美月達がエリカの意見に賛成した。

 

「そうですね。七草会長は、一科生の縛りのルールを廃止するって仰ってましたし…。」

 

「美月まで…」

 

「八幡さんまで。」

 

表情的には躊躇うようなモノを見せているが揺らぎが見えていた。

 

「そーそー。それにさ、生徒会長になったら達也くんを風紀委員会から引き抜くこともできるんだよ~?」

 

まるで悪魔の囁きのように魔導へ落とそうと言わんばかりエリカの囁きに深雪は目に見えて動揺していた。

隣に居る俺に向けて深雪が聞いてきた。

 

「八幡さんは、私が生徒会長になるのはどうお思いですか…?」

 

「うーんそうだな…いいんじゃないか?深雪が生徒会長になったら支持する連中は増えるだろうし風向きも良い方向に変わるんじゃないか?」

 

俺がそう言うと深雪はテーブルの下にある俺の手に深雪が手を重ねてきており、俺はビックリしてしまったが深雪は無意識だったのだろう。

 

「八幡さんがそう仰られるのなら…。」

 

ほのかが深雪が俺の手の上に深雪の手が重なっているのを見えたのだろう、なぜか俺の腕に絡ませてきて意見を出してきた。

 

「八幡さんが生徒会長に立候補されるなら私、支持します!」

 

「なるほど…」

 

「そりゃ面白そうだな。」

 

ほのかの突拍子もない提案に話を聞いていた幹比古とレオが悪のりしてきて、その反応をうけて俺は呆れ気味に言葉を返す。

 

「深雪なら票が集まるとは思うが、俺みたいなやつに票が集まるとも思えんし…」

 

俺がそんなことを言うと左右のほのかと深雪が熱弁し始めて困った。

 

 

新学期から一週間が過ぎた。

 

しかし、変な噂が飛び交っていた。

 

『七草と深雪が次期生徒会長の会長選挙に一年生ながら立候補する』という噂が飛び交っている。

この噂を聞き付けた同じクラスメイトの連中に質問を受けたが俺たちは否定した。

それが真実なのだから。

 

その噂を聞いたほのかが青い顔になっていたがその噂が飛び交ったのはほのかのせいではないだろう。

自分の座席に着席し青い顔になっているほのかの隣に立って自己嫌悪に陥らないように励まし、頭を軽く撫でてやると顔色はよくなっていた。

一方で雫と深雪の顔色が別の意味で悪くなっていたのは俺は悪くない。

 

雫と深雪から要求されたがその場面で天の助けが入った。

 

「八くん。お願い。チョッと時間を貰いたいんだけど…。」

 

俺が所属する1-Aのクラス、一年生のクラスに最上級生の三年生、それも生徒会長である姉さんが堂々と教室内に入ってきて俺たちがいる座席の前にやってくると俺がほのかの頭の上に手を置いて撫でていると光景を見た一瞬、不機嫌そうな表情を浮かべるがそれは直ぐ様切り替わった。

 

目の前で両手を合わせて姉さんはそんなことを言い始めた。

背後にいる市原先輩が呆れた表情を浮かべているのは無視しておこう。

 

時間を貰いたい、と言っていたが次の授業が始まるまでもう時間がないのに何をいっているのかと思ったが。

 

「生徒会の公務、ということにしておけば、減点されることはないから。」

 

「分かった。」

 

姉さんの頼みを無下にする、という考えは俺にはないので素直に着いていくことにした。

しかし、俺が姉さんに着いていこうとすると三人が複雑そうな表情を浮かべているのが理解できなかった。

 

 

連行、もとい任意同行された場所は生徒会室。

昼飯時に深雪に連れられて此処に集合するのだが、今何故此処に連れてこられたのかその用件を察してしまった。

 

「授業中にすみません。もう日が無いものですので…。」

 

市原先輩に頭を下げられて反射的に「いや、大丈夫なんで気にしないでください」といって首を振った。

 

「ありがとう。八くん。そう言ってくれるのは助かるわ。」

 

ふぅ~、と息をついて早速だが本題を切り出した。

 

「実は今度の生徒会選挙の事なんだけど…。」

 

案の定の切り出しに俺は用意していた回答をぶつける。

 

「中条先輩の説得?それとも深雪の参加への説得?」

 

「そう…って、ど、どうして分かったの?」

 

言いたいことを言い当てられて目を丸くして慌てている姉さんの様子は非常に可愛らしかったが事情を説明しておく。

 

「そりゃ姉さんの事だから…じゃなくて授業中に連れ出したのは深雪にその事を聞かれたくなく相談したかったんだろ?だとしたら俺じゃなくて達也に交渉役を頼めば良かったろ。まぁ、恐らく達也が深雪を立候補させることに難色を示すと思うが。」

 

「どう言うこと?」

 

姉さんが疑問を口にする。

達也のように、言い方は悪いがシスコンのあいつが自分の妹が栄誉職に就くことを拒むとは思いにくいがそれは間違いだ。大切に思っているからこそその重要なポジションに就くことが『まだ早い』と思っているのだ。

先ほど聞いた話と俺の主観が入るが問題ないだろう。

 

「一年生での生徒会長就任は早すぎる。前例がないって言うのは言いすぎだけど達也が言うには組織のトップになるにはまだ未熟らしい。」

 

「深雪さんはしっかりしているように見えるけど…。」

 

しっかりしている。というのは同感だが一部子供っぽいところがあることは訂正しておかなければならない。

 

「俺もそうは思うけど、姉さん。深雪は感情が昂るとどうなる?」

 

「昂ると…?あ!」

 

「結構無闇に凍らせたりするよな?だから達也は『自分のコントロール、ましてや魔法を暴発させることが無くならなければ深雪にそういったものには出させることが出来ない』ってな。」

 

その話を聞いて姉さんは『魔法を暴発させる』と言う点は目を瞑ることが出来ない問題点だった。

そして姉さんは頭を抱えていた。

 

「う~ん…明日には選挙が公示されるのに立候補者が一人もいないなんて…」

 

「中条先輩はダメなのか?」

 

「あーちゃんはああ見えて結構意固地だから…流されはするけど『イヤなものはイヤ』って言える子だからね…。」

 

その話を聞いて別に成績最上位者から選出して大勢でそれこそ現実の選挙のようにすればいいのでは?

という事を伝えると姉さんは首を振って否定した。

 

「次期生徒会長候補の絞り混みは生徒会の仕事なの。余りに多く乱立されちゃうと収集がつかなくなっちゃう…。」

 

「それを収集するのが生徒会の役目なんじゃね?」

 

「例えそれが魔法の撃ち合いになっても?生徒会長になろうとする人達は全員猛者達よ?被害は計り知れないわ。」

 

「んなアホな…。」

 

魔法の撃ち合いに発展して講堂内がボロボロになった景色を想像し、一転して青春を感じさせる少年少女達の空間が何処ぞの世紀末で理不尽と不条理をコンクリートミキサーにいれてぶちまけた感じになるのかとブルッた。

というかそんなことになったら新入生部活勧誘期間の比じゃないだろうに…。

はっきり言うとそんなことになった面倒くさくなるのでやめた方がいいな。

 

そんなことを思っていると実は以前にもそんな蛮勇の歴史がこの学校で引き起こっていたことが市原先輩の暴露話によって判明し呆れてしまった。

 

「え、大丈夫この学校…その時期だけ全員モヒカンになって肩パットしてるのに変わってないよな?」

 

「そんな伝承者伝説みたいな見た目にはならないわよ…。魔法という大きな力を完全な自制心をもって制御できる程高校生は大人じゃないって話よ。」

 

姉さんは改めて俺に拝む…というよりも乙女のお願いのポーズで俺に頼み込んできた。

 

「だから、ね?八くんにはあーちゃんに会長選に立候補してくれるように説得してきてくれないかな…?お願い。」

 

「説得するのはいいけどただじゃなぁ…」

 

必死に懇願してくる姉さんに対して俺は妙な嗜虐心が生まれた。

そういうと姉さんは女の子が使ってはいけないワードを繰り出した。

 

「わかったわ…あーちゃんを無事に説得できたら私を1日好きにしていいわ。え、エッチなのはダメよ!」

 

顔を紅くしてそのワードを俺に向けて言ってきた。弟が姉にそんなこと要求するわけ無いだろ…。

その会話を聞いている市原先輩は「コイツらは他人の前でなんちゅう事を会話しとるんじゃ」となっているだろうが問題ない。

 

「決まりだな。それじゃ姉さん…ごにょごにょ…」

 

近づき耳元で囁くと瞬間姉さんの顔がトマトのように紅くなり変な悲鳴を上げていた。

 

「ぴゃーあ!?は、八くん…?は、はわっ!?」

 

「一体なにをお願いしたんですか…?」

 

「それは内緒で…。とりあえず昼休憩前に中条先輩の教室に説得にいきます。」

 

真っ赤にして俯いた姉さんを一旦放置して市原先輩に向き直り昼休み前に中条先輩を説得にいくことを伝えると苦笑いされた。

 

「中条先輩を懐柔するなら『アレ』が必要だな…。」

 

紅くなった姉さんと苦笑している市原先輩に別れを告げて1-Aの教室へ戻った。

 

 

中条先輩はリスみたいな小動物的な可愛さがあるので(関係ないと思うが)危険察知をして俺は中条先輩の教室へ向かうと三限が終了して昼休みに入る前に襲撃を仕掛けた。

 

教室の外から中を伺うと中条先輩が生真面目に端末で作業をしているようだった。

入り口で覗き見ていると教室内の先輩が食堂に向かう為に出てくるため一瞬怪訝な表情を向けられるが姉さんの弟であることが認知されているので「どうしたの?」とか「なんか用か?七草弟。」とフランクに声を掛けられるのは意外だった他人のクラス、それも上級生のクラスに足を踏み入れるのは二の足を踏んでいたので呼んでもらえるのは有り難かった。

 

「中条さん~!お客さんだよ?」

 

「あ、はい!…七草くん?」

 

「どもっす。中条先輩少しお話が…。」

 

「あの…私お昼に用事が…。」

 

用件を切り出す前に何かを察した中条先輩はその場から逃げ出そうとしたが世間が許しても俺は許しませんよ。

動き出そうとする中条先輩だけに威圧感を飛ばすと動けなくなっていた。

本当にすんません…。

 

「昼飯、一緒にどうですか?CADについてちょっとお話ししたいことがあったので?」

 

その事だけ伝えて中条先輩にだけ聞こえるような小さな声で話す。

 

「それに先輩、生徒会室に行きづらいでしょ?俺と一緒にいれば俺のせいに出来ますし。」

 

「そ、そんなことしたら七草くんが悪者になっちゃいますよ!?」

 

「大丈夫っすよ。慣れっこなんで。じゃ、行きましょうか。」

 

「わ、わわっ!七草くん?」

 

俺が中条先輩の手を取って教室を出ようとすると教室内の生徒…特に女子生徒が目と目の会話から俺にもご丁寧に聞こえる声量でヒソヒソ話を始めた。

「意外と強引」「イケメン鬼畜メガネ」「Sっ気がたまらない」等の熱視線が俺に向けられているのを感じてなんとも言えない感じになった。

 

それを振り払うように中条先輩の手を取って教室から出ると男子生徒の先輩達から「やるなぁ七草」「頑張れよ」等と言った理解に苦しむ内容だったがこのままこの場に居続けるのは不味いと俺のボッチの感性が囁いていたので教室を出て食堂へ向かった。

 

 

食堂について普通に中条先輩と窓際の席に座り食事を取りながらCADの事を交えつつ喋っていた。

 

「~の最新機種が…」

 

「あそこのメーカーは調整は簡単ですけど面白味が無いですよね。」

 

「そうなんですよ~!誰にでも簡単に調整できるっていうのは初心者向けだとは思うんですけどね…。」

 

雑談ばかりをしているわけにはいかない。時間は有限だし此処で説得を決めなければいけない。

CAD論議はほどほどに本題を切り出した。

 

「中条先輩。」

 

「はい?どうしました?」

 

「この学校の生徒会長は中条先輩が相応しい、と俺は思っています。」

 

「と、突然どうしたんですか?…なるほど、会長に頼まれてわたしを説得するように依頼されたんですか?」

 

中条先輩は姉さんから頼まれて俺が説得するように仕向けられたのだと思っているのだろう。

それは間違いではないが強制されたからではない事をはっきりさせておこう。

 

「それは勿論あります。ですけど俺は中条先輩にこの学校の生徒会長をやって貰いたいと思うんです。」

 

「え?」

 

予想だにしない俺の発言に中条先輩は目を丸くしていた。

追撃を掛ける。

 

「先輩はこの学校での立候補者が乱立して魔法による撃ち合いに発展して重傷者が数十名出た出来事を知っていますか?」

 

「は、はい…。」

 

そう頷くと中条先輩は顔を青くしてぶるぶると震え始めた。

此処で追求をすると泣き出しそうなレベルになりこれ以上は躊躇われたが俺は攻勢に出た。

 

「同じことの繰り返しはしたくないっすよね…?ましてや中条先輩が在学中に。」

 

「わ、わたしには無理です!会長のようなカリスマ性も無いですし…。」

 

「ありますよ。」

 

「え?」

 

そんな馬鹿な…と言わんばかりに目を見開いていたがその証拠を提出する。

 

「これは…?」

 

それは俺が持っている映像端末だった。

そこには前日に『生徒会長は誰がいい?』と言う話を仲間内でやっていたときにこっそり録画していたものを中条先輩に見せたのだ。

 

「みんなが…。」

 

自分が下級生に信頼されていることを知って顔色がよくなった。

…もう一押しだな。俺は中条先輩に『飴』を上げることにした。

 

「実は中条先輩が生徒会長になってくれたらお祝いで来月発売予定のナハト・ロータスの大汎用特化型照準器付『イチイバル』のテスターが伝で手に入ったのでプレゼントしようと思ったんですけどね…」

 

チラリ、と目を中条先輩にやると目を爛々と輝かせ「ほしい」と言葉は発していなかったが聞こえてくるようでその表情に思わず苦笑しかけた。

 

「それ、本当ですか…?」

 

恐る恐る自分のご飯が取られそうになっている子猫かよ、と思ったが口には出さない。

 

「嘘はいわないっすよ俺は。」

 

「やります…」

 

「え?」

 

「やりますっ!誰が相手でも負けません!!わたし生徒会長当選してみせます!」

 

力強く断言して、まだ見ぬ…というか殆ど信任投票で会長が確定しているのだがそれは言わないことにして素直にやる気になってくれたのは俺的には嬉しかった。

 

◆ ◆ ◆

 

数日が経過し9月も月末に入る。

 

生徒会室で姉さんは自分の座席に座り俺は役員でも何でもないのに生徒会室の《俺専用》座席でCADの組み立てを行いながら姉さんと会話をしていた。

 

この場所には当然ながら生徒会役員と(なぜか達也もいる)部外者が数名おり、つまりはいつもの空間が出来上がっていたのだ。

 

中条先輩が会長選挙の立候補者として擁立されて無事に会長選挙が行われるかと思いきやまたそれはそれで別の問題が発生していた。

 

「明日で最後かぁ…。」

 

「なんの話…ああ、そっか。」

 

「うん」

 

姉さんが言っていた言葉の意味を理解するのに数秒も要らなかったがあえて此処では言葉にしておく。

明日は会長選挙と生徒総会が行われるからだ。

つまり明日の新任の生徒会長が当選すれば姉さんは生徒会長の肩書きが外れる、と言うことになる。

そして姉さんが生徒会長として過ごす最後の1日である。

だが、そこにあるのは感傷的なものが少しだけで「惜しい…」と言うものは見られなかった。

 

「でも、あーちゃんが今回一人だけの候補になっちゃったけど八くんがあーちゃんをどんな手を使って奮い立たせたのか分からないけど珍しくヤル気満々よ?これなら任せられそうね。どんな手を使ったの?」

 

「それは秘密ってことで。」

 

対抗馬がいないが中条先輩の性質的に妙な義務感に駆られてはいるが俺が見せた「あの映像」でやる気に満ち溢れていたのは分かった。

一年生は中条先輩に世話になっているものが多くほのかや雫に手伝ってもらい「会長は中条先輩で」派をこっそりと増やしていた。

 

会長選挙が終わったとしても後輩から信頼を受けているので仮に演説が終わったとしてもモチベーションは保ち続けるだろう。

 

「どちらかと言えば、問題は生徒総会の方でしょう。」

 

市原先輩が卓上端末を上下にスクロールし文章を読みながらチェックをしているようだ。

 

「春の臨時総会であんな大見得切ったんだ。今さら引っ込みはつかないだろう。」

 

渡辺先輩が食事を終えて弁当をしまっている。

 

「引っ込めるつもりなんて更々無いけどね?」

 

「大見得?なにそれ?」

 

聞きなれない単語に疑問符を浮かべると姉さんが答えてくれた。

春先にあった『襲撃事件』の際に二科生徒との臨時総会で「生徒会役員の一科、二科の制限撤廃」を指針として告げていたらしい。

 

「そんなことがあったのな。」

 

「八幡さんはその際に主犯格達の鎮圧に向かわれておりましたから…。その指針で暴走する方が出で来るのではないかと懸念をしていたのですが…どうやら杞憂だったようですね。」

 

全員にお茶を配り終えた深雪が冗談じみたことを言うと今度は渡辺先輩が口を開く。

 

「闇討ちか?まぁ我が校の生徒に、この女を襲う度胸があるとは思えないからね。近くにいる男が男だし。」

 

そういって俺を見る渡辺先輩。

その発言を受けて部屋にいる全員が俺を見る。え、なんすか…怖い。

 

「姉さんみたいな実力者に実力差がある魔法戦を挑む奴はいないと思いますし…それに」

 

「「「それに?」」」

 

渡辺先輩、市原先輩、中条先輩が俺の言葉にギョッとしただろう。俺は無意識だったが。

 

「姉さんに危害を加えるなら殺します。」

 

「「「!?」」」

 

「冗談っすよ。まぁ痛い目を見てもらいますけどね?」

 

(((冗談に聞こえないんだが)です…)ですけど)

 

おや?微妙な雰囲気になってしまったのを感じ取ったのか姉さんがフォローをいれる。

 

「でも、摩利の言い方は傷ついちゃうわ。女の子相手に酷いと思わない?八くん。」

 

俺に話を振った姉さんの表情は明らかに笑みが浮かんでいる。

 

「そうだね…でも俺がいつでも守れる訳じゃないから気を付けたほうがいいよ。」

 

「えっ?」

 

しかし、俺の回答は姉さんの予想とは異なっていたらしい。

 

「姉さんは女の子で、美少女だからなぁ…悪い虫が寄ってこないか心配なんだが。」

 

「…そ、そう///」

 

「?」

 

何故だか動揺している姉さん、一方で俺のとなりにいる深雪が俺を魔法で凍らせようとしていたのが理解できなかった。いや、姉さんが美少女なのは疑いようがない真実なんですが。

 

「反対派が姉さんを襲わないとは限らないからな…今日は俺が傍にいるとしよう。」

 

「…///」

 

「君は真由美の事になると本当に過保護だな。」

 

「…当然っすよ。」

 

「…」

 

絶妙に変わった俺の表情に全員が達也も深雪すらも気がつかなかった。

その中で気がついたのは姉の真由美だけだった。

 

◆ ◆ ◆

 

弟の八幡と共に自宅へ帰宅し、妹達と食事を取りながら雑談をしていた。

日付が変わる数時間前。

七草の本邸の庶民からしてみれば大きすぎるかもしれない、足を伸ばすことが出来てちょっとした旅館レベルの大きな浴槽に浸かりながら入浴剤が入った少し色づいたお湯のなかに沈む自分の肢体を見ていた。

 

『貧相なプロポーションだとは思わない。』

 

『身長の成長は中学三年生で止まってしまったが妹達も小柄…と言うよりも母親も身長が同年代に比べれば小さい方だったので遺伝的なものだと諦めている。小町ちゃんはまだ伸びているらしいけど。』

 

『背が低い割には手足が長いとブティックやエステサロンでも言われる』

 

『胸も身長の割には大きいと言われるし、ウエストはどんな服でも苦労したことはない』

 

『割りとイケている、と自分でも思う。』

 

『彼の目には私はどう映っているのだろうか?』

 

彼、つまりは義弟である男の子。二人称である部分には八幡の名前が入っていた。

 

妹達が誘拐をされて助けに入った現場では本当になんの損得なしにただ『助けに入った』だけ。

父から養子の事を提案されてその直前に実の両親から絶縁された高校生にもなっていない男の子が自分の保護ではなく血の繋がった妹を保護するためを思って養子に入った。

それから彼は口では言うものの他人のために動いている。

 

そんな彼の行動にクスッと笑みが浮かぶ。

 

男女関係なく…そのせいで彼を慕う女子がもう既に私が知っているだけで数名はいることにちょっと…どころではなくムッときている。

その中の一人は『彼女(司波深雪)』であり初めて彼女を入学式で見た瞬間、自信が揺らぎそうになるほどの完璧な姿だったと思ってしまう。

 

義弟である彼を私はどう思っているのだろう?

ただの義姉?それとも…。

 

無意識に真由美は湯船に顔を沈める。

ぶくぶく、と湯船に沈めた口から出る空気が泡となり弾けた。

その吐いた息が呼吸なのか溜め息だったのかは本人の預かり知らぬ行動だったのだろう。

 

彼の来歴を思い返す。

 

家柄は元師補十八家の『八幡家』の長男。

見た目は平凡…ではなく非常に整ったイケメンと言うには少し言いすぎかも…まぁ整ってはいる。

魔法技能は七草家に入り劣ることの無い『万能』と呼べるほどの圧倒的な魔法の才能を持っている。同学年…もしかしたら世界中の魔法師と比べても勝てるものは私を含めいないかもしれない。

 

それだけの力を幼少期から持っているにも関わらず実妹に危害が加えられないようにその意識を自分に差し替えて内側からは『無関心』外側からは常に『悪意』に晒されてきた。

 

そして夏休みに聞いた彼の他人に対しての根幹を作ってしまった『悪夢』に対して彼に掛ける言葉が見当たらなかった。

真由美自体も家柄の事もありやっかみを受けたことをあるが彼が受けた仕打ちは想像以上だったからだ。

 

だが彼は私たち他人に対して「無関心」というその素振りを見せたことがない。

 

私が本当に何気なしにふざけて抱きついても彼は優しい表情で構ってくれる。

お風呂や海水浴でのハプニングで見られてしまったがその際は顔を真っ赤にして恥ずかしがっていて私自身恥ずかしかったけど女の子として見られているようで嬉しかった。

 

血の繋がりはない私や妹達を本当に心配し、守ってくれている。

しかしそれは家族として信頼されているが異性として見られていないと言う裏返しになるのだが…。

 

湯船から顔を揚げて脳が酸素を欲しているので大きく息を二回、三回と吸って先程の事を思いだしハッとなり、顔が紅くなっていた。

 

彼に対する想いは出会った時は『面白い変わった男の子』だと思った。

その後、一緒に過ごすにつれて「捻くれているけど可愛い弟」変わった。

九校戦の時に彼がクリティカルな攻撃を受けた時に本当に心配した。

彼の過去を聞いて私は家族として認められ愛されていることを知って嬉しかった。

だがそれと同時に私が彼を一人の異性として目で追ったり、他の女性に触れたりしていると嫉妬していることに気がついてしまった。

 

その事から導き出される答えは一つしかないに真由美はハッとなり今自分が思っていることを否定しようとしたがそれは出来ず深く沈んでいった。

 

その表情はお湯の暑さから来るものではなかった。

 

「私八くんの事好きなのかなぁ…。」

 

考え事をしていたお陰でのぼせかけた頭で自覚した。

 

義弟としてでなく一人の異性として見ていること、彼に異性として見てほしい、ということに。

 

◆ ◆ ◆

 

そんな真由美が一人相撲をしていた次の日。

生徒総会と会長選挙当日がやってきた。

 

「全員揃ったな?配置の最終確認をするぞ?」

 

風紀委員室に全員が本部に集められており渡辺先輩が最終確認を取っていた。

ローテンションを組みバラバラに動いている風紀委員会であったが前述する行事の事も相まって一度に総動員されていた。

風紀委員計9名で全校生徒560名の対応をしなければならない。

まぁ、渡辺先輩と達也と俺がいるので問題はないが。

 

俺と達也は舞台袖で壇上にいる生徒に対して襲撃を掛けるものがいれば取り押さえる言わば最終防衛ラインとなっている。

が、そんなことはあり得ないだろうと俺は思っている。

 

昨日は姉さんと一緒に帰ったが普段と変わらない帰り道だったからだ。

姉さんのファンクラブなるものからの嫉妬の視線を受けはしたが。

姉さんの演説がついに始まった。

 

「…以上の理由を以て、私は生徒会役員に関する選任資格の撤廃を提案いたします。」

 

姉さんの議案説明が終わったところで一科生女子生徒が挙手した。

 

案の定と言うべきか反対意見が出たが暴発に終わりそれを否定する根拠を提出できずに質問をしてきた一科生の先輩は着席することになり生徒会役員資格制限撤廃は賛成多数で可決されたのだった。

 

そしていよいよ中条先輩の選挙演説が始まった。

立候補者が一人しかいないので所謂所信表明演説に近いのだが、形式的には信任投票が行われる。

しかもそれが電子投票ではなく紙に書いて投票ボックスにいれて行うアナログな投票スタイルである。

緊張した面持ちであるがやる気に満ち溢れた表情の中条先輩は演説台へと向かった。

 

中条先輩は理論・実技共にトップクラスの生徒であり、それを少しも鼻に掛けること無く謙虚で人当たりのよい中条先輩は俺たち一年生のみならず慕われている。

その見た目も相まって姉さんとは違う「みんなのアイドル」のような扱いを受けていることは校内の情報から耳に入ってきていた。

 

演説台で一礼するとアイドルに向かって拍手や口笛を向けると言った男性ファンののりのようなところがあった。

 

緊張はしているのだろうが人間は極限状態になると逆に冷静になることがあるのでそれは中条先輩にも言えることだろう。

能弁に「政策」や「政見」を発表している。

 

問題が起こったのは、次期生徒会役員の言及をしたときに発生した。

先程の生徒会役員資格制限撤廃に関する事柄を述べたところ低レベルな野次が飛んできていた。

その野次に対して中条先輩はなにも答えない。

そのような反応が来ることは予想済みではあったが想定外の事が発生していた。

 

野次を飛ばした反対派と中条先輩のファンが小競り合いが生じ掴み合いに発展していた。

 

「お静かに願います!ご着席ください!」

 

「静粛に願います!」

 

「落ち着いてください!皆さん!」

 

深雪や服部先輩に姉さんが声を張り上げて注意するが収まる様子は見られずさらにその小競り合いは広がっていく一方であった。

 

その光景を見た達也が八幡に「怪我をさせても構わないなら…」と頭痛を感じながらこの騒動を止めるためにアイコンタクトをしてきて八幡もそれに答え溜め息をつきながら壇上の下へ飛び降りようとした次の瞬間。

 

極めて下品で中条先輩を侮辱するような野次が反対派から飛び出た瞬間構内に少女の叱責と少年の殺気が広がった。

 

「「黙れ」「静まりなさい」」

 

全く叫んでもいないのに喧騒のなかで同じタイミングで響く二言は一瞬にして構内に伝播し取っ組み合いは終焉を迎えた。

 

壇上では取っ組み合いを阻止するために舞台袖から出てきた風紀委員の八幡と議長役の深雪が舞台に立っていた。

 

舞台では想子光の吹雪が彼女の怒りを現すが如く荒れ狂っており、争っていた人たちをまるで心臓を鷲掴みされているような恐怖を圧倒的な殺気として少年はぶつけている。

この会場を支配しているのはこの二名でまるで死に方を選べ、と言われているようなものであった。

常識を逸脱した干渉力の高さと純粋な怒りと殺気。

生徒達は壇上にいる二人に怯え、震えるしかなかった。

 

しかし、その空間は終わりを迎える。

いつのまにか少女の方には兄が、少年の方には姉が近くに立っており、それぞれ干渉力と殺気を掻き消し薄めていった。

 

しかし、収まったといってもその場で騒ぎ立てる蛮勇の者はいなかった。

 

◆ 

 

その後は皆秩序を取り戻し粛々と予定を消化して投票が始まった。

皆大人しく投票箱へ票を入れていた。

 

そして翌日、投票結果が発表された。

 

◆ ◆ ◆

 

結果発表~!!といって茶化してみるが隣にいる深雪が泣きそうな表情になっているので気が気ではない。

俺と深雪は苦い顔と泣きそうな表情で開票結果をみていた…のだが。

 

投票数が五百五十四票。

 

中条先輩が百七十三票で無事生徒会長に当選していた。おめでとうございます!と言いたいところだが引っ掛かる部分があるのだ。

 

おや?残りの投票数が差数で三百以上あるのだ。

あれだげ威圧感を飛ばして粛々と投票させたというのに中条先輩に票が入っていないのか?と思ってしまう人もいるだろうが安心してほしい。しっかりと投票はされているのだ。

 

『中条先輩』以外にだが。

 

「…こんな結果になるなんてねぇ。」

 

「司波が二百二十票、中条が百七十三票、八幡くんが百六十一票…」

 

「待って下さい、勘違いして私に投票した人たちが大勢いたのは認めざるを得ませんが…」

 

認めたくない、と深雪が抑えた声で抗議するがここが限界だったらしい。

 

「どうして私が『女王様』や『女王陛下』、『スノークイーン』が私の得票にカウントされているんですか!」

 

泣きそうな…というかもう涙声で叫んだ。

 

「なんで俺に至っては『覇王』とか『世紀末覇者』、『七草の最終兵器』とか書かれてるの?これ最後は完璧に悪口だよね?これら。」

 

俺は呆れ気味で苦笑せざるを得なかった。

 

「投票用紙に『深雪女王様』とか『覇王八幡』とか書いてありますし…他の解釈がしようがありません。」

 

市原先輩が困ったような声で深雪を宥めているが、納得できていなかった。

 

「何ですか、それはっ?わたしは変態的な性癖な持ち主だと思われているのですかっ!?」

 

「女の子が『変態的な性癖の持ち主』って言わない。てか、落ち着け深雪…。」

 

どうどう…と思わず深雪に近づき宥めていると涙目…というか泣いてしまい思わず小さい子をあやすように頭を撫でてしまっていた。

 

「八幡さぁん…。ぐすっ。」

 

深雪の行動にフォローをいれる。

 

「まぁ、あの場で深雪が全員を制止してなかったら四、五年前の悲劇が繰り返されていたからあの行動は正しかったんだよ。深雪は立派な行動をしたんだ。誇ってよいと思うぞ。」

 

「そ、そうよ。深雪さんや八くんが制止していなければ今ごろ魔法の撃ち合いに発展していたわ。」

 

「わ、私たちの代でそんなこの学校の歴史に残る事件が発生しなくてよかったよ。」

 

姉さんと渡辺先輩は動揺しながら深雪のフォローに入るが次の深雪の発言に「うっ…」と言葉を詰まらせてしまう。

 

「ぐすっ…でも八幡さんの威圧感で会場も制止していたじゃないですか、私が止めなくとも…。」

 

「「うっ…」」

 

すかさず俺がフォローする。

今日は深雪を甘やかさないと不味い気がしたからだ。

 

「あれは深雪がやってくれたからみんな魔法の撃ち合いにならずに済んだんだ。俺も寸でのところで止まれたし。だからよくやったな。」

 

「八幡さん…///」

 

「ちょっ…お、おい!」

 

そう言って深雪の頭を再び撫でると顔をトロン、とさせて離れるかと思いきや突如として俺の胸元へ飛び込み嬉々として、頬を俺の胸に擦り付け甘えるような行動を取っており俺は離れるように言えなかった。

 

その光景を達也は「やれやれ」とあずさは顔を隠しながら指の隙間から「はわわ…」と顔を紅くして摩利と鈴音は余りの甘ったるい雰囲気に胸焼けを覚えいた。

 

「……」

 

その光景を一人モヤモヤした面持ちでみていたのは真由美であった。

 

様々な騒動が起こった第一高校の次期生徒会長は二年生中条あずさがその座に就くことになり収束を向かえた。

 

断章:劇場版【星を呼ぶ少女】のエピソード書いた方がいい?

  • 書いてほしい。
  • 一先ず原作通りに。

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