俺が七草の養子なのは間違っている   作:萩月輝夜

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遅くなりました。最新話です。
最近資格取得に向けて勉強をしているのでなかなか執筆が…楽しみにしている読者様大変申し訳ございません。(楽しみにしている人がいたらいいな…。)

感想&評価ありがとうございます。

まだまだ掻きたいことがありますが《九校戦》よりは短くなるかも知れないです。
けど長いですね…。

今回オリジナルキャラが出ますが本筋とはあまり関係がないので無視してください。
『部下』というだけです。

それでは最新話をどうぞ!


諜報は高ランクにしておけってMGSで言ってた。

姉さんを密室で辱しめ(意味深)というよりもイチャイチャしながら調べ物及び勉強をして一緒に帰宅したその日の夜。

 

机に向かって《特化型CAD(フェンリル)》の調整をしていると端末が震える。

 

「…ん、こんな時間に誰だ…?」

 

どうやら端末に通知が入ったようだ。非通知が表示されている。

 

時間的にはもう深夜に差し掛かっている時間帯である筈なのだが気になった俺は直感を信じ着信を取ることにした。

 

「はい、八幡っす…」

 

応対すると端末からは聞き覚えのある声が聞こえる。

 

『あ、よかった~出てくれたわ。私よ八幡くん♪』

 

「は…?」

 

声のトーンは同級生の深雪に似ていたが分からない。声は非常に若い女性だった。

 

「えーと…どなたでしょうか…?」

 

『忘れちゃったの?私よ八幡くん。深夜です♪』

 

「…なして俺の連絡先を知ってるんですか?」

 

連絡先を知っているのは達也と深雪だけだ。深夜さんには伝えていない筈なのだが…。

そんなことを思っていると意識を引き戻される。

 

『実はこっそり深雪の連絡先から、ね?それよりもテレビ通話に出来るかしら?』

 

「?ええ。大丈夫ですけど…ちょっと待っててください。」

 

直ぐ様に端末からの通話ではなくテレビ通話に切り替えるとそこには深夜さんが映っていた。

この間あったときと変わらずに可憐で美しく本当に子持ちなのかと疑ってしまうくらいにはその美貌は相変わらずであった。

 

「何をしてるんすか深夜さん…。」

 

『実は娘のアドレスからコッソリ、ね?』

 

いや可愛いかよ…といわんばかりのフリーダムっぷりに俺は思わず頭を抱えそうになったがこの人の起こす事に一々反応しているとキリがないので本題に入る。

 

「それ怒られるの深夜さんですよ。それでどうしたんですか?」

 

『実はね…?』

 

思わず眉をひそめてしまう内容を聞かされた。

先日横浜の方で不審な船舶が密入国してきて船員は何処かに逃げて入国されてしまった事と魔法関連の有名企業がハッキングや盗難にあっていることを聞かされたのだ。

その話を受けて『ナハト』もハッキング被害を受けたと実働部隊のリーダーがそんなことを言っていたことを思い出した。

 

うちがハッキングを受けたのは《二重詠唱(デュアル・キャスト)》の情報だったが到達する前にカウンターして撃退されている。

…俺が独自に開発していた《自動変形二輪型CAD(グレイプニル)》と動力源である”あの鉱石”については知られていないので問題ではないだろう。

 

「俺の、うちの会社も…子会社ですけど被害にあったというのは聞いていましたがほんとうだったんすね。」

 

「そうなのよ。近い内に横浜で論文コンペがあるって言う話じゃない。それが不安でね?」

 

俺の会社と言い掛けてアブね、となった。

危うく口を滑らせてしまうところだったがセーフだろう。

七草の系列会社という体で喋っているが達也の母親だ、いつ解れた糸のようにそこから引っ張られて中身がバレるか分かったものではない。

というか一般の家庭が『十師族』に連絡していることがある種目をつけられるのでは?と思ったが今更か、と開き直り深夜さんの話を聞いていると興味深いことが耳に入ってきた。

 

「最近うちの子も知人に「聖遺物(レリック)を解析して欲しい」って言われて自宅で調べていたらハッキングを受けてね~困ってるのよ。」

 

今とんでもないことを聞かされたかもしれない。

 

「あの…とんでもなくさらっとヤバイ単語を聞かされたような…。」

 

その事を指摘すると深夜さんは口を押さえて「あら」といったような表情を浮かべたがさして気にしていないと言った態度だった。

 

「まぁ、他の人に聞かれたら困るけど八幡君なら大丈夫ね。」

 

「いや、軽いっすね…。」

 

達也と違い随分と楽観ししているところがあるなこの人は…まぁ聞かされたところで俺もばらすことはないのだが。

深夜さんは目を細めて俺に言った。

 

「恐らくうちの達也と深雪は八幡くんに迷惑を掛けてしまうこともあるかもしれないけど…そのときはごめんなさいね。」

 

「大丈夫っすよ。俺の唯一、唯二の存在なんで。」

 

社交辞令的に「大丈夫」とだけ答えておくが正直もう面倒事に巻き込まれている気がしないではないが。

 

「ふふっ、ありがとう八幡くん。それと…いえ、何でもないわ。お話に付き合ってくれてありがとう。今度また家へ遊びにいらっしゃってくださいね八幡くん。」

 

嬉しそうな表情を浮かべていたが深夜さんの表情は何かを憂いているようだった。

その事を追求しない方が良いと俺の本能が告げていた。

 

「また機会があればお邪魔させて貰います。」

 

そう告げると深夜さんはふと笑みを浮かべて通話を終了した。

 

 

「うちの達也に至っては心配は要らないと思うけど…過保護かしらねぇ私。」

 

「それが『お母さん』と言うものだと思いますけどね。深夜様。」

 

通話が終了し近くにいた穂波に話しかける。

その表情は心配する母親そのものであった。

 

「先日も達也は謎の組織に襲撃されて撃たれたと聞くし…心臓に悪いわ。いくら達也が『再成』を使えると言っても…。」

 

「…それが達也くんに与えられた祝福(呪い)ですからね。それがなければあの時私たち死んでいたかも知れませんけど…やりきれないですよね。」

 

「その力が達也を四葉に縛ってしまっているのよね…。母親として情けないわ。」

 

「そんなことは…。」

 

ない、と穂波が言いたかったが言葉に詰まってしまう。深夜フォローを入れるがやるせない気分になっているのが目に見えていたので言葉につまってしまう。

 

「本当の意味で達也を、深雪を解放できるのは…八幡くんだけなのかも知れないわね。」

 

愛する子供達の事を思えばこそ、今『四葉』という呪縛を解いてくれるのは達也の親友と深雪の想い人である八幡だけだろうとそう思ってしまったのであった。

 

◆ ◆ ◆

 

翌日、その日の放課後に渡辺先輩からの連絡があった。

 

『論文コンペの人員ついて話がある。風紀委員会本部に来てくれ』と。

 

俺はその足で風紀委員会本部へと足を進めた。

…俺、受けるって言ってないんだけど。

渡辺先輩の強引さは今に始まった話ではないし今更と言えば今更だ。

 

そんなことを思いつつ風紀委員会本部の扉前に到着し入室するとそこには渡辺先輩を始めとして新委員長の千代田先輩、五十里先輩がそして件の達也がそこにはいた。

達也は五十里先輩と論文コンペの事で話し合いをしていたらしい。

俺が来たことに渡辺先輩が気がついたらしく俺に意識を向ける。

 

「おお、来たか八幡くん。」

 

「すんません。遅れました。」

 

時間内には到着したとは思うが一応形だけでも謝っておく。

 

俺が来たことで渡辺先輩は「そろそろ本題に入ろう」と促した。

もちろん「論文コンペの警備担当」の話になるわけなのだが…

もろもろの事を達也に説明したあとに渡辺先輩は人の悪い笑みを浮かべている。

 

「さて…問題は君をどうするか、なんだが」

 

「必要ありませんよ。」

 

まぁ、そうなるよな?とはいってもそうは問屋が卸してくれない。

 

「まぁ、そうだろうが一応君に護衛をつけることには変わり無い。その人員が…」

 

渡辺先輩が俺を見て答えた。

 

「八幡くんが君の護衛を受け持つことになる。」

 

「は?」

 

「え、摩利さん。七草君をですか?」

 

「これは驚きだね。」

 

渡辺先輩を除くこの室内にいる生徒はおどろいていた。

達也に至っては呆然としているようにすら感じられる。

 

「渡辺先輩。どうして八幡が護衛に就くことになったのでしょうか…?」

 

達也が疑問を投げ掛けると理由を告げてくれた。

俺が選ばれたときと同じ理由だったが納得をしてくれた。

深雪の事は伝えてはいないがな。

 

「なるほど…そういうことだったんですね。ところで何故その采配を渡辺先輩が?」

 

俺もその事については疑問に思った。どうして引退したはずの前任の委員長である渡辺先輩がそんなことをしているのかと、視線を向けるとバツが悪そうな表情を浮かべている。

 

「いや、何故と言うことはないが…。」

 

言葉を濁した渡辺先輩を見て俺は思わず突っ込んでしまった。

 

「過保護っすね。」

 

その言葉を聞いた室内のメンバーは渡辺先輩を見て生暖かい笑みを浮かべ顔を紅くしてそっぽを向いてしまった。

どうやら的中だったようだ。

 

◆ ◆ ◆

 

達也曰く論文メンバーのお手伝いに選出されたのは数日前に言い渡されていたようで学校に提出する論文の内容は既に書くことが決まっていたとはいえ購買の原稿用紙が品切を起こしていたようで駅前にある文具店へ護衛の千代田先輩と俺、論文メンバーの五十里先輩と達也で買い出しに出ていた。

明日に提出を控えているのに待っていられないからだろう。

 

「わざわざ先輩達や八幡に付いてきてもらわなくても大丈夫でしたが…。」

 

「馬鹿言え。お前に何かあったら俺が深雪に殺される。」

 

「どれだけ怖いんだお前は…。」

 

「思わずぶるってきちまうね…というよりも五十里先輩達のイチャイチャを見せつけられたらたまらんだろう。…ほれ。」

 

「なるほどな…。」

 

実際に後ろにいる千代田先輩達は睦言を繰り広げているから説得力はあるだろう。

その事に気がついた達也は苦笑いを浮かべる。

 

「まぁ、助かったよ。」

 

「ところで達也、お前最近なんか襲撃とかにあったか?」

 

その事を突っ込まれ達也は苦笑していた。

 

「突然…と言うか誰から聞いたんだそれ。」

 

「え?お前の母ちゃんだけど。」

 

「母様…。」

 

隣にいる達也が頭を抱えていたが俺はただその情報を貰っただけだからな。

小声で達也に確認した。

 

「んで?聖遺物(レリック)の解析をしてたって?」

 

「それも聞いたのか…母様…。ああ、知り合いから預かって解析を依頼されてな。」

 

含みのある言い方だったが俺はあまり強くは追求はしなかった。

 

「まぁ程ほどにな。出所は聞かねぇけど最近魔法技術を扱っている企業がクラッキングとかハッキング受けたりしてるんだろ?」

 

「…聞かないで貰えると助かるよ。」

 

「今度お前の家に言ったときに見せてくれ…達也、気がついてるか?」

 

「ああ。見られてるな。」

 

お話に夢中になっているとは言え周囲の警戒を怠るほど間抜けではない。

悪意は感じられないが敵意は感じられる。どうやら待ち伏せしているのだろう。

どうやら達也と中心として俺にも敵意が向けられているような感じがする。

達也は「どうしようか」と言った表情を浮かべ俺は「捕まえるか…」と言った表情を浮かべて動き出そうとした瞬間に店から買い物を終えた五十里先輩と千代田先輩が出てきた。

 

「お待たせ…どうしたんだい?」

 

出てくるなり即質問をしてきた五十里先輩の感性に思わず舌を巻いてしまった。

鋭いな、と。

 

当然許嫁である千代田先輩もその反応に「ん?」と首を傾げていた。

 

俺が説明しようかと迷っていると達也が口火を切った。

 

「いえ、どうも監視されているようですので、どうしようかと。」

 

思いまして、告げようとしたのだろうがせっかちな千代田先輩に遮られてしまって最後まで言いきれなかった。

 

「監視!?スパイなの!?」

 

俺は思わず頭を抱え呟いてしまった。

 

「バカなのかこの先輩は…。」

 

「ば、バカとは何よ!」

 

「いや、大声で叫ばないでくださいよ…」

 

大声でその事を言ってしまったら此方を見ている下手人に「逃げろ!」と言ってしまっているようなもので、案の定此方を盗み見ていた下手人は視線を外し気配が遠ざかる。

 

しかし、千代田先輩も第一高校の風紀委員長の後釜に選ばれたことだけはあるようで達也に「どっち?」と聞くと直ぐ様迷うことなく駆け出した。

その後を五十里先輩も追って駆け出した。

いや、護衛対象が付いていかんで下さいよ…。

 

その光景を俺と達也は見送ることしか出来なかったが二人にするわけには行かず二人で後を追いかけることにした。

 

千代田先輩は同世代の魔法師トップクラスの実力を持つと同時に陸上部のスプリンターであるため逃げようとする犯人を追いかけるなど造作もない。

さすがにトップアスリートと比較するのは可哀想だがそれでも一般的な男性であっても追いかけるのは容易いだろう。

逃げ出す人影を追いかけている千代田先輩の視線の先に逃げていく人影が映る。

その人物は”少女”で千代田先輩と同じ”制服”を着用していた。

意外だと思ったのだろうが考えるより動く方がいいを地で行く千代田先輩は更に走る速度を上げて行く。

残り数メートルと言ったところで逃走する犯人の少女が此方を振り向く。

マスクもサングラスもしていない素面で此方に表情を見せてくれた。

わずかに見せてくれた横顔を凝視し記憶に焼き付けるべく後頭部へ視線が移動する。

しかし、それは悪手であった。

 

それは少女が意図したものではないにせよ、追跡者の意識を逸らすことにとっては最高のタイミングであった。

少女が後ろ手に放ったカプセルに気がついたのは少女が再び前方に向き直り千代田先輩と少女の中間に落ちる、そんなタイミングで気がついてしまい不味い!と思い反射的に足を止めて目を閉じる。

大光量が千代田先輩とその周辺にいた住民の目を焼いた。

一番近くにいた千代田先輩がその被害にあっているだろう。

その隙を突き下手人の少女が用意してあったスクーターへ跨がりこの現場からの逃走を図ろうとする。

 

咄嗟に千代田先輩が左腕に左手が走る。

魔法を発動しようとするがそれは後方から達也の放った『術式解体(クラムデモリッション)』によって破壊された。

 

「何をするの!?」

 

「花音ダメだ!」

 

声が重なると同時に五十里先輩が千代田先輩に追い付き魔法を発動させた。

スクーターのタイヤが接している地面に摩擦力をゼロにする魔法を仕掛けたのだろう、案の定少女の跨がるスクーターは進まない。

もはや逃げられないとこの場にいる全員がそう思った。俺以外は。

動きを止めているメンバーを尻目に俺は駆け出す。

 

「八幡?」

 

「七草くん!?」

 

その瞬間スクーターに跨がった少女が取った行動は常識外れだった。

右のグリップ部分につけられた紅いボタンを押すとスクーター後部の外装がバカりっ!と開くと二連式のロケットブースターが展開されて爆炎が吹き上がり五十里先輩が発動させた魔法を無理くりに引き剥がしその場から逃走を始めた。

 

遠くなっていくスクーターに跨がる少女、しかし俺は逃がさない。

 

「用意周到だな…だが。」

 

片手を無造作に振って俺は直ぐ様少女が爆速で逃げる前方に『次元解放(ディメンジョン・オーバー)』のゲートを光学迷彩を合わせて発動しスクーター少女の前に次元の裂け目が現れる。目には見えない揺らぎのようなものだ。

爆炎と爆速を上げてスクーターは疾走する。

 

このまま真っ直ぐ行けば逃げきれる、筈だった。

商店街が立ち並ぶ場所から大通りへ抜けたと思ったが先ほど走り出した場所へ戻っていた。

 

「は?」

 

少女は突然の事に間の抜けた声を上げて止まってしまう。

体に来ていた強烈な加速感が無くなっていたことに気がついて再度スクーターのエンジンとブースターを発動させるが共に”empty”の文字が表記されていていた。

 

「どうして…?」

 

「もう逃げられねぇぞ。」

 

「…!!かはっ…。」

 

俺の声を聞いて振り返る少女の表情は驚愕に染まっていた。

その隙に後頭部にサイオン波動をぶつけて意識を刈り取り無効化した。

 

倒れ込む少女を俺は抱き抱えて《賢者の瞳(ワイズマン・サイト)》で状態確認をする。

 

『精神汚染あり。』

 

この一文が記されていた。

 

「外部から利用されてるのか…。」

 

不意に昨日の夜に深夜さんから言われたことを思い出した。

『近い内に横浜で論文コンペがあるって言う話』『横浜で不審な船舶の密入国、ならびに船員が全員行方不明。』

 

そんなことを思い出し、俺は溜め息をついた。

 

「襲撃、本格的にありそうだな…。」

 

そんなことを呟いていると後方から達也達が近づいてきているのを感じた。

 

 

場面は変わり某所。

 

東京・池袋の外れにある古いビル群の一画。表向きは雑貨貿易商の事務所となっている部屋の中には旧式のモニターが所狭しとならびその前で思い思いの格好をした男達が食い入るように見ている。

その中のモニターの中に映るワゴン車から送られた映像に映る先ほど八幡達を敵視して危うく捕まりそうになったが結局捕まってしまい八幡の腕のなかで気絶する少女を見て中年の男が渋い顔をしていた。

 

「あの小娘め…失敗してくれたな。」

 

男は少女の身を案じているわけではないのは声色で分かる。

少女がへまをしでかして協力している此方の素性を知られるというのが非常に困ると言うことだけだった。

 

渋い表情をしていた男の近くにいた一人の部下が告げる。

 

「あの少女を外部協力者として手配したのは周大人(チョウたいじん)ですので万が一に何があったとしても我々に繋がる情報は明るみにならないはずです。」

 

「あの若造の仲介か…何処まで信用していいものか…。」

 

このアジトを用意してくれた青年の顔を思いだし、更に渋い顔をしていた。

 

「あの小娘を捕縛して見せた餓鬼の名前は?」

 

部下に問いかけると驚愕していた。顔のライブラリー照合をしているのだろう。

 

「七草八幡…十師族『七草家』の長男です。」

 

七草(サエグサ)…日本の十師族(ナンバーズ)か、あの小娘が向こうの手にわたる前に始末した方が得策だな。」

 

報告を受けた男は更に渋い表情をして思案し決めた。

 

「して、例の聖遺物(レリック)は?」

 

話題を変えるように突如として話を振ると別のモニターを監視していた男が立ち上がり報告する。

 

「フォア・リーブス・テクノロジー社から持ち出された形跡はありませんが、現在は所在不明です。」

 

その事を告げられると忌々しいものを聞いたような表情になりそれと同時に恐れさえ感じさせていた。

何故ならばこの男達は大亜連合の工作員であるからだ。

 

Four Leaves、そのまま日本語に直せば『四葉』と言う意味になる。

男達が属する国家に因縁深い相手であった。

ましてや今ちょっかいを掛けている企業の名前は『四葉』の名前を借りた所謂”虎の威を借る狐”だと思い込んでいるのが余計に始末に悪い。

四葉当主の実の姉である分家が主導している企業だと夢にも思わないだろう。

この男は何も知らないのだ。

知らないと言う罪と知りすぎると言う罠が同居している。

 

そしてレリックは達也が持っていると言うことを何処からか嗅ぎ付けられたのか今度はターゲットを魔法企業だけではなく第一高校を活動対象に追加し部下へと命令を下した。

 

(リョウ)上尉」

 

(シー)

 

「現地で指揮を取れ。他所の犬が嗅ぎ回っているようならば排除しろ。それと小娘の”排除”をな。」

 

 

千代田先輩達には断りを入れて保健室へと来ていた。

襲撃…と言うよりも逃走を俺の魔法で阻止してから気絶した女子生徒を何故か俺がおんぶして一旦保健室へつれていくというイベントが発生し安宿(あすか)先生へと手渡し後に俺が作った七草の実働部隊が迎えに来て国立魔法大学付属の立川病院へ搬送…言わば拘束するような形になるが仕方がないだろう。

 

任務の失敗に終わった末端を多少とは言え”色々と知ってしまっている存在を消さない”訳がないのでそれの保護も兼ねてだ。

その事を極秘で安宿先生へ伝えると納得してくれた。

 

「本当だったら患者だからそんな手荒な真似はしたくないんだけど…状況が状況だから仕方ないね。」

 

「すんません。」

 

それだけ言い終えて俺は気絶するように眠る少女、というか平河千秋の頭に俺の掌を翳し《瞳》の力を解放する。

”向こうの世界”で《記憶消失》が強化された精神干渉系魔法《記憶読込(リローデット・メモリ)》で平河の記憶を読み取っていくとそこには姉の事で俺たちを恨むように仕向けられた、と言うよりも増幅された形の姿がありそれに近づく見目麗しいスリーピースをつけた青年が暗示を掛けているのが見られた。

その男の名前を平河が告げる。

 

『周さん』と。

 

(名前からして大陸の魔法師…大亜連合の人間かもしれないな。)

 

そんなことを記憶から聞き出し掌を頭からはずす。

安宿先生に一言告げてから保健室を退出した。

 

スラックスのポケットから端末を取りだし連絡する。

 

ワンコール、ツーコール…となったときに対応する音声が聞こえた。

 

『私だ。…ん?八幡どうしたんだい?』

 

義父である七草弘一が着信に出た。

 

「ごめん、父さん仕事中に。少し伝えて起きたいことがあってさ。今大丈夫?」

 

『大丈夫だよ。それでどうしたんだ?』

 

「最近横浜に密入国してきた船舶があるのを知ってた?」

 

『ああ、うちの息が掛かっている国防軍の部署からそんな話を聞かされたけど…それがどうかしたのかい?』

 

「今日論文コンペの準備をしていたときに此方を伺う視線があったから追いかけたんだが…。」

 

『うん。』

 

「ロケットブースター付きのスクーターで逃げ出されて。」

 

『うん。うん?』

 

「色々あって捕まえたんだけどさ…」

 

『それは…何というか大変だったね。それでどうなったんだい?』

 

「魔法を使って聞き出したんだけどどうやら大亜連合が関わっているみたいなんだよ。」

 

『…!そうか、そんなことが…。』

 

記憶を読み取った、とは言えないのでそれとなく伝える。

 

「今回のこれが偶然とは思えないんだよ。父さんには伝えておこうと思ってさ。」

 

『そうか。伝の公安と国防軍にはそれとなく伝えておくよ。それに七草の実働部隊を動かしても構わないよ。』

 

「あー、ごめん今回俺たちを見ていた女子生徒を病院の護送と警備に先に使っちゃってたけど…。」

 

『ははっ、まぁ八幡が結成させた部隊だからね…大丈夫だよ。名倉にも指示を出しておくよ。』

 

「ありがとう父さん。」

 

そんなことを言うと通話越しに嬉しそうな声が聞こえる。

 

『八幡が次期当主としての自覚を持ってくれたのは嬉しいね。』

 

「なに言ってんだ父さん…。それじゃ。」

 

『ああ。それじゃ。』

 

そういって通話を切る。

俺は思わず溜め息をついた。

 

「…なにバカなこと言ってるんだ父さんは。」

 

いつぞや姉さんが言っていた『お父さんは八くんを次期当主候補にしたいのかもよ』という妄言が脳内で再生された。

 

思わず頭を抱えたくなったが向こうから七草の実働部隊がやって来て来た。

 

「八幡。」

 

学校の許可証を胸にぶら下げ第一高校とは違う公立高校の指定制服のチェックのスカートを着用して上着はブレザーではなくジャケットを着用した少女達が現れそのリーダー格が声を掛けてきた。

 

「良く来たな。それじゃ頼むわ。」

 

「…ああ。回収する。」

 

目線を少女達にやると頷いて保健室へ共に入室する。

事前に安宿先生には説明していたのですんなりと行動は進み寝ている平河を一般車両にカモフラージュした実働部隊の車両に乗せて病院へと搬送した。

車両に揺られながら俺は達也に「さっき襲撃してきた女子生徒を病院に連れていく。」とだけ伝えてその日はそのまま帰ることにしたのだった。

 

隣に座る少女に声を掛けられる。

 

「また面倒なことに巻き込まれそうだな。」

 

「…ああ。全くだ。…お前達に調べてほしいことがある。」

 

「何だ?」

 

「今回、論文コンペが横浜で行われるんだがそこの調査をしてきてくれ。大陸の連中がちょっかいを掛けてきているかもしれない。」

 

「横浜か。」

 

「ああ。」

 

「あそこには中華街もある。潜伏するならもってこいだろうな。…あなたの頼みだ。引き受けよう。それと…。」

 

「わーってるさ、報酬は期待しておけ。何なら高級ホテルに泊まってきても良いぞ。」

 

「ふっ…言ったな?それでは対象者の護衛はうちの部隊から数名出しておく。」

 

「そりゃ頼もしいな。頼んだぜ。」

 

「了解した。」

 

俺が『ナハト・ロータス』の警備として結成した少し訳アリの人物達が集まった実働部隊へ横浜に向かい捜査するように伝えた。

 

◆ ◆ ◆

 

翌日、昼食を取るために弁当を持って生徒会室へ向かおうと思ったが既に姉さんは生徒会長ではないので生徒会室を使うのは憚れたのでどうしようかと思っているところに俺は両腕を絡め取られそのまま連行される形で屋上へと向かうことになった。

 

「八幡さんと会話するの久しぶりな気がします。」

 

「私も。」

 

「最近教室と保健室で仮眠取ってたりしてたからなぁ…」

 

「差し支えがなければ教えていただけないですか?」

 

深雪に聞かれて一瞬反応が遅れたが教えても問題はないだろうと判断し説明する。

 

「最近、新しいCADと魔法の起動式を作成しててな…思いの外熱が上がってな…最近3時間しか寝てなかったんだよ。」

 

「ダメですよ!ちゃんと寝ないと…。」

 

「ほのかの言う通り。」

 

「それで大丈夫なのですか?」

 

深雪が”大丈夫なのか?”と言うのは俺の体と開発成果の事を言っているのだろうか?

言い淀む必要もないので肯定する。

 

「ああ。睡眠はバッチリよ。…授業サボって保健室で寝てるしな。それに研究成果もバッチリだぜ。まぁ起動式についてはあんまり聞かないでくれると助かるが。」

 

「うん、魔法の事を聞くのはマナー違反だからね。」

 

雫達も気になるようではあったが深くは追求しては来なかったのは助かったのだが…。

 

「昨日の件は大丈夫だったのでしょうか…お兄様からはお話を聞いていましたけど。」

 

おっと、その話をここでするのは不味い。

だが、ほのかと雫には俺が論文コンペの護衛をしていることは伝わっていなかったらしく雫から質問された。

 

「昨日の件?何の事?」

 

その問いには深雪が答えてくれた。

 

「実は八幡さん、論文コンペティションのメンバーの護衛に選ばれたのよ。」

 

「すごいですね八幡さん!だ、誰の護衛なんですか?まさか女の子の…。」

 

ほのかが反応し自分で落ち込んでいるのは一種の才能なのではと思ったがほのかが悲しいかおをするのはあまり隙ではないので安心させるために俺が補足説明をする。

 

「いや、女子生徒の護衛じゃない…達也のなんだよ。」

 

「ふぇ?」

 

「え?」

 

ほのかと雫が疑問を浮かべていた。

まぁ分からんでもない。

 

「まぁ、要らんと思うよな…?」

 

「襲撃し掛けてきた相手が可哀想になるレベル。」

 

全くもっての正論だった。

 

「まぁ色々あんだよ…実はな。」

 

俺が護衛に選出された理由を話すと深雪を除く二人が「あぁ~」と声を上げて納得していた。

 

正面にいる深雪が話しかける。

 

「でも、最近わたしたちは八幡さんと触れ合っていないです。」

 

「うん。」

 

「そうですよ!」

 

深雪の言葉を皮切りに左右にいるほのかと深雪が俺の腕に密着してきた。

大きい柔らかいのが両腕に当たり俺は思わず赤面してしまう。

雫に至っては空いている俺の胡座を掻いている足の間に座り込み猫のように擦り付けてきた。

雫さん、その位置は不味いっすわ。

俺を中心に少女達の甘い香りが満ちていく。

 

「最近はどうやら七草先輩にお熱のようですしね…八幡さん?」

 

「いや、姉弟なんすけど…?なんで姉さんの話が、てか君たち俺に告白してきてから距離近くない…?」

 

「八幡さんが私たちをす、好きになってくれるまで続きますからね!」

 

「好き好き攻撃実施中。」

 

「そういうことですのであ、諦めてください八幡さん。」

 

左右にいるほのかと深雪が更に密着してきており雫に至ってはあの時のように俺の胸元に頬擦りするレベルで俺に構ってくる。

三人共に顔を紅くしている。

恥ずかしいのならやらなければ良いのにな。

 

そんなことを思いつつ四人でいちゃつきながら昼休憩は終わりを告げた。

 

 

放課後、今日は達也の論文コンペの仕事がないらしく達也を待って帰路に着くこととなった。

昇降口付近でA組とE組のいつもの面々で待っていると達也が此方に気がつき向かってきた。

 

「お兄様お疲れさまです。」

 

「よう達也。」

 

「みんな…待っていてくれたのか。」

 

「まぁな」

 

「ところで八幡昨日の件は…」

 

「ああ、俺もその事について報告があったんだわ下校しながら…いやそれとも喫茶店でお茶しながらの方がいいか?」

 

というよりもみんな揃って帰路に着くのは久々な気がした。

 

「あ、それ賛成~!ん?なになに?何の話?」

 

「ああ。後で話してやるから…。じゃあ行くか。」

 

エリカが食い付いてきたが俺はその反応に若干の苦笑いを浮かべつつ一同でかなりの頻度で使用している…というよりも溜まり場になっている喫茶店へと向かった。

 

 

行きつけの喫茶店へ向かう道中に学生らしい会話をしていた。

話は俺が今何をしているのかの話になった。

 

まぁ、近頃は、というよりも今日の護衛の依頼が無ければ姉さんと一緒に図書室で勉強しつつ論文を読みふけって新しい魔法式の構築に勤しんでいたからな。

 

「…八幡は最近魔法式の作成に勤しんでいるらしいからな。それに昨日から八幡は論文コンペの護衛だ。」

 

達也が補足をいれる。

 

「へぇ~八幡が護衛ね。申し分ないだろ。」

 

レオが納得していた。

 

「まぁまぁ…ところで八幡は誰の護衛をしているんだい?」

 

幹比古から聞かれた。

 

「まぁ、達也の護衛だけど…。」

 

「「「「え?」」」」

 

そう説明する達也を除くE組の全員は俺と達也に視線が集中した。

まぁそうなるよな?

 

「安心しろ皆。俺もそう思った。」

 

「要らないよな?」

 

「護衛いるの達也くん?」

 

「逆に襲いかかる方が可哀想になるのですが…。」

 

「第一高校でも屈指の実力者がペアを組んでいたら相手の方がご愁傷さま。」

 

レオに続いて、エリカ、幹比古、美月、雫と次のような反応をして見せた。

 

「お前ら俺と八幡をどう見ているんだ…。」

 

達也が呆れたような表情を浮かべるとそれぞれ思い思いに反応をしてくれた。

 

「え?達也くんは物語に出てくるラスボスでしょ?」(エリカ)

 

「八幡はその作品の裏ボス。」(雫)

 

「主人公じゃないのな。」(俺)

 

「八幡は主人公…って言うよりダークヒーロー?それか舞台装置?」(エリカ)

 

そうなると俺はオー○ドライバーを腰に装着しなきゃならんのだが?

 

「俺は機械仕掛けの王(デウス・エクス・マキナ)じゃないんだけど?」(俺)

 

「私はヒーローよりもヴィランの方が好みかな~。」(エリカ)

 

「八幡さんはヒーローも似合いますよ!」(ほのか)

 

「八幡は私たちのヒーローだから。」(雫)

 

「じゃあ達也は物語の後半に出てくる追加戦士だな。」(レオ)

 

「所謂『もうお前一人で良いよ』って言われるやつなのでは?」(幹)

 

「達也さんも八幡さんと同じく舞台装置なのでは?」(美月)

 

「お前達は俺たちを何だと…」(達也)

 

「お兄様も私のヒーローですから。」(深雪)

 

じゃあ達也はシールド持って戦うか『レッツモーフィン!』して変身するしかないな…。

怪獣が出たら達也に任せよう。何でかは知らないけど。

 

そんな会話を繰り広げつつ馴染みの喫茶店へと入ろうとした矢先に此方を見張る視線を感じとりはしたがただ此方を”視ている”といった類いの視線だった。

 

喫茶店へ入り四人掛け席は連続しているのがあったので俺はカウンターへ一人で座ろうとしたのだが雫に腕を取られ四人掛けの席へ引きずり込まれた。

マスターも気を聞かせてくれたのか座席を一つ用意してくれて結局四人掛け二連続の一席という構図になった。

まぁ、利用客は俺たちしかいないので問題は無いのだろうが。

テーブル席ににつけられた席に俺、雫とほのか。深雪と珍しくエリカがおりもう片方にはレオと達也、美月と幹比古が着席している。

 

…こうして第三者から視てみれば俺は美少女を侍らせているクソ野郎に見えなくもない。

 

案の定喫茶店のマスターから言われてしまった。

 

「相変わらずモテモテだね、八幡くんは。」

 

「そんなわけないっすよ…そういうマスターは髭剃った方が良いっすよ?似合ってないっす。」

 

「は、八幡くん容赦無いね…!?」

 

意趣返し、というわけではないがマスターの髭を弄ることにした。

髭がなければもっと若々しく…というよりも貫禄を出そうと思って生やしているのだろうが全然似合っていない。

貫禄は勝手に出るものだとうちの婆ちゃんも言っていたしな。

 

注文し出されたコーヒーのカップを傾けながら今度の論文コンペの話をしていたがそれぞれのカップの中にあるコーヒーが少なくなってきたところで達也に報告も兼ねて昨日の件を伝える。

 

「…それで八幡。昨日の監視者の事は何か分かったのか?」

 

達也が質問をする。

 

「ああ。昨日俺たちを視ていたのはうちの生徒だった。達也、三年の平河先輩を覚えているか?」

 

「?ああ、九校戦でミラージのエンジニアをやっていた先輩がどうした…まさか。」

 

ハッとなった達也に答え合わせをする。

 

「ああ、その妹の平河千秋だった。」

 

「どうしてそんな…。」

 

ほのかが困惑した様子で聞き返してくる。

 

「達也はそんとき本選のミラージのエンジニアだったろ。」

 

「逆恨み、ってやつ?」

 

「ちょっとエリカちゃん…。」

 

エリカがおどけたように聞き返すと美月が嗜めていた。

それにエリカが反論する。

 

「だって達也くんには関係ない話じゃない。…まぁ不幸な事故だったとは思うけど。」

 

「達也は二科で姉は一科のエンジニアだったし、ましてや直近での活躍に平河の言い分は分からんくもないが競技直前に仕掛けられていた細工に気がつかなかった姉が悪いからな。」

 

「八幡鬼ね…。」

 

俺とエリカの一連の流れを聞いていた達也が問いかける。

 

「というと?」

 

「おっと…話が逸れたな。達也、四月に起きた襲撃事件で壬生先輩がマインドコントロールの話をしてくれたな。」

 

「ああ、甲一からの精神干渉…まさか。」

 

勿体ぶるように俺は説明した。

 

「ああ。それだけなら先日のロケットブースター付きの原付で逃げ出そうとは思わなかっただろうよ。精神汚染…マインドコントロールを受けていた。」

 

俺はここでははっきり言わずに抽象的に発言した。

 

「”大陸系統”の暗示が掛けられていたみたいだったんだ。」

 

「「「!!?」」」

 

その事を告げると達也達は驚いていた。

まぁ、無理はないだろうが。

 

「美月が視線を感じるって言っていたのは勘違いじゃなさそうね。」

 

「視線?」

 

美月に視線を向けると躊躇いがちに頷いた。

 

「今朝から何だか嫌な視線を感じるんです…物陰から此方をこっそりと伺っているような奇妙な視線が…。」

 

「幹比古…いくら美月好きだからって目で追うってそんな…。」

 

冗談交じりでそんなことを言うと幹比古は慌てて否定したが墓穴を掘っていた。

 

「ちょ!そんな影から伺うような真似はしたことがないよ!見たいなら見たいってはっきり断りを入れるから!」

 

「へ?」

 

「え?」

 

「ん?」

 

「お?」

 

「よ、吉田くん\\\\」

 

「…はっ!?ち、違うんだよ柴田さん!!い、いや違わないけど!?」

 

「…ごめん幹比古。俺が悪かった。それで専門家はどう見る?というかどう見た?」

 

突然の告白に呆気に取られるメンバーと顔を紅くする美月と幹比古。

爆発しねぇかな…。

いかん、話が逸れた。修正するために話を幹比古に振る。

 

「…柴田さんの勘違いじゃないよ。柴田さんの言うとおり今朝から校内の精霊が不自然に騒いでいる。たぶん誰かが式を打っているんだと思う。しかも結構執拗にだ。」

 

国の魔法学校であるならば標的にされるのは日常茶飯事ではあるが執拗に入り込もうとしているのは幹比古にとっては入学以来はじめて観測したようだった。

俺が言った”大陸系”の魔法を使っているのが更に信憑性を増した。

 

「これで俺は平河が関係ないと言いきるのは不可能になったと考えている。此方を見張るのと達也への復讐のために利用されていた、ってな。あんまり大きな声じゃ言えないが最近横浜で密入国があったらしいしな。警察も取り逃がしたとか聞いた。」

 

その事を告げるとエリカが渋い顔をしていた。

まぁ、あんまり良い気はしないだろうな。

実際にその現場にいたのはエリカの兄貴らしいしな。(聞いた話だが。)

 

「それで平河はどうしたんだ?」

 

この話の中心人物が今どこにいるのか達也の質問にみんなが気にしていた。

 

「昨日うちの実働部隊を使って国立付属の病院に搬送した。今は護衛が側に着いているよ。」

 

「手が早いな。」

 

「当然だろ。その手の繋がりのある関係者は失敗すれば消されるのが常套手段だしな。」

 

「お、おい大丈夫なのかよそれ…。」

 

「!?だ、大丈夫なんでしょうか…。」

 

美月が青い顔してレオも流石に驚いていたが俺は答える。

 

「安心して良い。うちでも選りすぐりの魔法師がいる部隊だから問題ない。」

 

そんなことを話している内にコーヒーカップは残り少なくなっていたが俺は皆より先に飲みきった瞬間に俺の端末が震える。

着信画面を見ると実働部隊のリーダーからの着信だった。

これは流石に無視することは出来ないので席を立つと同時にエリカとレオも立ち上がった。二人から怪訝な目を向けられたが恐らく此方を監視している人物のもとにお話(物理)に行くつもりなのであろう。

 

「八幡さん?」

 

深雪から声を掛けられて俺は素直に伝えた。

 

「わり、知り合いからの電話だ。ちょっと出てくる。」

 

美月がエリカに問いかける。

 

「エリカちゃん?」

 

「んーちょっとお花摘みに」

 

そういって軽やかな足取りで店の奥へと向かっていく。

 

「わりぃ、電話だわ。」

 

そういってレオは胸ポケットを押さえて店の外へと出ていってしまった。

四人がけの席では幹比古が小さめのスケッチブックに筆ペンで何かを書いていた。

…恐らく人払いの結界の陣を書いているのだろう。

 

そんな光景を見ながら達也にアイコンタクトをすると同じことを思っていたのか短いため息を着いてカウンター席へ向き直る達也を見て

 

「知らぬが仏だな…。」

 

そんなことを俺は呟き店先へ出たのだった。

 

 

「…俺だ。」

 

『私だ。』

 

実働部隊のリーダーからの着信を受けとるといつも通りのぶっきらぼうの愛想の無い言葉が返ってきた。

まぁこいつにそんなことを期待することは一生無いんだろうが…。

長話をするつもりは無いのは向こうも同じであろうから用件を聞き出す。

 

「結果は?」

 

『あなたの言うとおり横浜に動きがあった。外国人…アジア人種と混血が多いな。それに不明船舶が数隻入国している。いずれも架空のペーパーカンパニー所持のようだぞ。』

 

「流石だな。」

 

思わず数日でそこまで調べ上げたのかと関心してしまうがこのくらいの事ならばやってのけるのが実働部隊の面々だ。

 

『大亜連合の特殊作戦群のリーダー呂剛虎もそちらに現地入りしている可能性があるな。それとあの規模の船舶ならば直立二足歩行戦車も搭載できるだろう。戦争でも仕掛けるつもりなのか?』

 

端末には調べた情報と先程の人物の情報が送られてきた。

この端末は俺が特注で作成したものなのでハックされる心配はない。

 

思わず溜め息をついた。

 

「知らん。論文コンペに託つけて日本の魔法師の拉致と技術の奪取が目的なんだろう…”向こう”は魔法技術が後進国だからな…そんなんだから”アンタッチャブル”の怒りを買うんだ。全く…八月に無能どもが仕掛けてきたって言うのに…学習能力がないようだな。」

 

そんなことを呟くとリーダーは少し笑っていた。

どうやら俺の言ったことが面白かったらしい。

 

『ふっ…一番怖いのはあなただと思うがな…部隊は横浜近郊で駐留しておく。発端が開かれたら合流しよう。』

 

「所属を聞かれたら”七草家”の名前を使え。装備は大丈夫か?」

 

『ああ。市街地戦闘の装備種類を選んで持っていったからな。大丈夫だ。…承知した。』

 

通信を終了して店中へ戻った。

 

「…あいつら町中だってことに気がついてんのか?」

 

いくら幹比古の神道系の魔法を使おうとも人間の目と気配は消せても最新鋭の監視カメラの目はごまかせない。

 

「まぁ達也がなんとかするだろうな…もう一杯コーヒー頼むか…っ!?」

 

裏で起こっている事件の事は一旦放っておいてコーヒーを味わうために喫茶店のドアを開いた。

が、その瞬間むき出しの本能を持つ野獣のような威圧感を感じ取った。

 

「エリカ達の方向か…!」

 

開いたドアを急いで閉めて裏手へと走り出す。

到着したときには煙と閃光が広がっていた。

どうやらさっきまでここにいた男ではない、その男を見張っていた人物が先ほどの野獣の威圧感を出していたらしい。

踵を返す前に《瞳》でエリカ達を観察するが異常はないようだ。

 

(追いかけないと殺されるな…ちっ!)

 

追いかけようにもエリカ達と戦っていた人物の姿は既に無い。

しかし追いかける方法はある。

 

俺はブレスレット型CADを起動させて対象のサイオン残滓を計測する魔法を使用した。

 

(まだまだ精度は粗削りだが…見つけた!)

 

殺されるかもしれない男の足取りを掴み俺は走り出した。

 

 

先程までエリカ達と対峙していた某国非合法工作員ジロー・マーシャルは強化された脚力にモノを言わせて一駅分の距離を駆け抜けたところで立ち止まった。

安全を確保されたから立ち止まったわけでない。

競走馬に匹敵するスピードで駆け抜けたのにも関わらず此方をぴったりと追跡してきている気配があったからだ。

 

(どこだ…?)

 

気配を探り後ろを感じとるが気配は感じられない。

だが近くにいる、ということは分かっている。

目につかないところに隠れているのだろうと言うのがジローの考察だった。

 

しかし、それは裏切られることになる。

後方への意識を切り上げ正面へ向き直る。

 

ジローはゾッとした。

 

そこには音もなく一人の青年が立っていたからだ。

正面からの音は全て遮られていた。

音以外の五感がジロー・マーシャルに危険だと、知らせている。

 

大柄な引き締まった東洋系の人種が此方を無感情で見ている。見てくれは普通ながらまるで猛獣と対峙しているのだと、ジローの本能がそう告げていた。

青年の顔にジローは見覚えがあり驚愕した。

 

「人喰い虎…呂剛虎…!?」

 

今相対している人物はジローが今回の作戦で要注意人物だとしてファイリングされていたトップで大亜連合に掛けては白兵戦随一の実力を誇る特殊部隊群のエース。

 

その事を頭に思い浮かべた瞬間にはジローは持っていた自動拳銃を呂剛虎に構えていたが引き金を引くことが出来なかった。

 

(っ!?)

 

いつの間にか接近を許し拳銃を握っていた利き手の手首が握りつぶされていたからだ。

その光景に呆然としているジローを仕留めるために呂剛虎の拳が喉元に迫りその灯火を掻き消そうとしたその瞬間にジローの脳内に声が聞こえた。すぐ近くだった。

 

喉元に迫った呂剛虎の拳は狙いを外れ背後からの攻撃に意識を割かねば命を取られると判断したのだろうジローを投げ飛ばし距離を取った。

 

「ぐおっ!?」

 

その瞬間呂剛虎がジローの後方へと大きく吹き飛ばされる。

ビルの間に強烈な風が吹き荒れた。

 

驚きで腕の激痛を忘れていたジローだったがその状況を理解し痛みが襲う。

 

「がぁっ…!!はぁ、はぁ…一体…!?」

 

地面にうつ伏せになるジローは痛みに喰いしばりながら見上げると目の前に先程の少年少女と同じ制服を着た少年が独特の構えをしながら呂剛虎と対峙している。

 

その姿と相対している呂剛虎が言葉を発する。

 

十師族(ナンバーズ)七草八幡(サエグサハチマン)…」

 

「ちっ…あいつの読み当たってんじゃねーかよ…。呂剛虎か。おい…おっさん。」

 

「な、なにかね…」

 

視線を向こうに向けたまま此方に話しかけてきた八幡に困惑していた。

 

「あんたには聞きたいことがあるから逃げないでくれよ?逃げたら俺があんたを殺すから。」

 

そういって八幡は呂剛虎へと突っ込んでいった。

 

「彼は一体…?」

 

目の前で繰り広げられる戦闘にジローは呆然とするしか無く痛みに気絶するしかなかった。

 

 

「見つけた…!って不味い!呂剛虎かよ!」

 

八幡が見つけ出した時には既に筋肉質な男がコートを着た男の手首を破壊している光景が広がっていた。

 

その男は呂剛虎。

さっき実働部隊から送られてきたファイルに載っていた大亜連合特殊作戦群のエースがどうしてここにいるのかが気になったが今はそれどころでは無い。

 

このままでは見殺しする事になってしまうので八幡は急いで二重詠唱と詠唱破棄による加速術式『加速時間(アクセル・クロック)』を発動させて筋肉質の男の背後を《破戒・白虎乃型》を叩き込もうとした。

しかし、相手も白兵戦のプロ、不意打ちというわけにも行かず攻撃を中断させるだけに留まってしまった。

 

後ろに飛んで俺の拳のダメージを受けたのにも関わらず普通に立っているのは人間にフィジカルではなく猛獣のそれに近いだろう。

 

十師族(ナンバーズ)…七草八幡。」

 

此方を視認した呂剛虎が此方を見て微かに漏れだした言葉は此方を知っているというのに十分な情報量だった。

 

『人喰い虎』と『七草家の養子』で火蓋が切って落とされた。

 

呂剛虎は無手の構え、対する俺はスピード重視の《乱戦・朱雀乃型》を構えて人体の弱点である頭蓋を狙う。

振り抜いた拳は唸る低いジェットエンジンのような音を吐き出す。弾丸よりも早く捉えきれることは出来ない速度で狙ったのだがその攻撃はキャンセルされた。

八幡の拳を素手で防いだ…訳ではない。

大陸の術者が使用する硬気功の一種、呂剛虎が第一人者であるとされる鋼気功だろう。まさか止められるとは思わなかったがそんなことでは動揺せず拳の打ち合いを行う。

対して呂剛虎は驚いていた。

自分と互角以上に打ち合うことが出来ている平和ボケしているであろう日本の魔法師の頂点である十師族《ナンバーズ》の子供が躊躇い無く此方の命を刈り取ろうとしている事実にだ。

八幡が龍の爪で喉元に突き立てられているような威圧感を発しているのだから。

 

対する八幡は相手の硬さにうんざりしていた。

 

(どんだけ硬いんだよこいつ…!速度もあるから白虎じゃこっちが反撃を受けるかも知れないな。朱雀はこっちがスピードが断然上だが威力がな…。そうなったら”あれ”を混ぜて使うしかないか。)

 

実際にダメージは呂剛虎が受けているダメージが多く八幡は無傷だ。

 

しかし、致死量でないため攻める勢いは削がれていない。

 

だが、おかしいのは八幡も呂剛虎も純粋な格闘技能(+で補助的に魔法を使用)で戦闘を行っていることだ。

ただの学生と白兵戦において無類の強さをもつ兵士が渡り合っている光景は世界有数の実力者が見れば卒倒するだろう。

 

八幡が手数で対する呂は威力で八幡を押していく。

拳、掌、熊手、肘鉄、肩、体当たりを混ぜて八幡を防戦一方にしていくつもりだったがそうは行かない。

対する八幡は手型を鳥爪の形に振るうと同時に独自にアレンジした足技を入れた蹴りを練り込み《乱戦・朱雀乃型》に恥じない手数で逆に押していく。

…元々は一体多数を想定した四獣拳であるので当然なのだが呂は四獣拳(そのこと)を知らない。

呂の顔からは動揺は感じられないが八幡をなかなか仕留められない心の焦りは八幡の前では隠しきれない。

攻めの速度が早くなり八幡は思わず眼前に迫る拳を遮るように受け流してしまった。

 

これを好機と考えた呂は仕留めるために心臓部分に狙いを定め拳を振り抜く。

それが焦りだったのかは分からないが八幡には好転のチャンスにしか過ぎない。

 

心臓に呂の拳が突き抜かれようとした瞬間に八幡の《瞳》が見開かれた。

体内の想子とは異なる星辰力(プラーナ)を体表面に浮かび上がら活性化させて攻撃に転じた。

 

「っ!?」

 

次の瞬間には呂の拳が八幡の膨大な星辰力《プラーナ》で鋭い刃物でズタズタにされたかのように鮮血が吹き出していた。

その動揺を八幡は見逃さない。

 

『破戒・白虎乃型』

 

即座に間合いに入り込み型を構える。

”生命”という”個”を終わらせる必殺の拳底が呂剛虎へ叩き込まれる。

 

「がぁ…!!」

 

(ちっ…!浅いか!)

 

しかし呂も食らっては不味いと思ったのか咄嗟に防御と捻りを入れて回避に成功していた。

口から喀血し裏路地のゴミ箱へと叩き込まれ砂ぼこりが舞う。

裏路地に静寂が支配し八幡は警戒しつつゴミ箱に叩き込んだ呂剛虎の状態を確認しようと近づくが…。

 

「霧…?」

 

裏路地に濃霧が立ち込める。

八幡がそのことに気取られているとゴミ箱に叩き込んだ呂が動き出す、連れ出されているのに気がつきホルスターから特化型CAD(ガルム)を引き抜くが既に遅く、同時に霧が晴れると呂は居なくなってしまっていた。

 

「ちっ…逃がしたか……俺だ。回収を頼む。」

 

痛みによって倒れているコートの男を実働部隊に回収を依頼するとすぐさま部隊がやって来て男を回収していった。

踵を返し喫茶店へと戻る。

 

裏路地には血痕と戦いの後だけが残っていた。

 

 

「まさか呂上尉が撤退させられるとは…七草の養子も特記戦力に加える必要があるな。」

 

「…」

 

治療を受け終わった呂を見ながらビルを根城にしている男がモニターに表示されている八幡の情報が記されている。

呂は八幡を見て忌々しそうな表情を浮かべていた。

 

「やつの拳は見たことの無いものだった。七草の養子は強い。」

 

「ほう、呂上尉がそこまで言うほどか…。」

 

無口な呂が交えた感想をのべる。

そのことを告げる呂は不敵な笑みを浮かべ画面に写る八幡の姿を目に焼き付ける。

 

その表情は八幡を”必ず狩る”と決意していた。




八幡が千秋を捕まえてしまったためにパスワードブレイカーの下りは無くなりました。
(まぁなくてもいいかなという判断。)

響子さんと八幡は関わらせたいですけどね…難しい。

そして野獣が八幡を狙う…。

エリカをヒロインに加えたいけどどうしようか検討中…。
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