俺が七草の養子なのは間違っている   作:萩月輝夜

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俺は悪くねぇ!

俺とエリカは一緒に通学したのだが家を出る前に泉美と香澄、そして姉さんに見つかり特に姉さんが隣に居るエリカに対して棘があるような発言をしていた。

 

「あら、千葉さん。学校を休んでまでウチで一体何をしていたのかしら?」

 

「先輩の弟さんに誘われてお邪魔してたんですけど?」

 

俺の腕を取り煽るようなことを言うと姉さんが此方に詰め寄ってくる。

目のハイライトが消え、またしても姉さんのヤンデレモードになっていた。

 

「八くん…どう言うことなの?」

 

「ちょ、姉さん怖いんだけど…俺がエリカを呼んだのは剣術の修練の為だっつーの…。」

 

「ほんとかなぁ~?…ほ・ん・と・う・か・な・?」

 

ハイライトの消えた姉さんの赤い瞳が俺とエリカを射貫く。まるで赤光で焼かれると錯覚してしまうほどの恐怖を覚えた。

実際に隣に居るあのエリカも「ひっ…!」と声を挙げて居る。若干涙目になっているエリカをかわいいと思った俺は悪くない筈だ。

わざとなのだろうか?更に俺の腕に抱きついてきてエリカのちょうど良い大きさのモノが当てられている。

幸福感よりも目の前に居るこの怖さに掻き消された。

この恐怖はあの国民的なテレビから出てくる悪霊も裸足で逃げ出すレベルだ。

 

その光景を見ていた泉美と香澄は何やら察したようで呆れていたような態度を示していた。

 

「はぁ…お兄様ったら、と言いたいところですが案の定千葉さんもでしたか…。」

 

「うぅ…既成事実でも作った方が早いかな泉美。」

 

「淑女としてあるまじき行為ですわよ?香澄ちゃん…でもその手は有りかも知れませんわね。」

 

良く聞こえなかったが何やら物騒なことを言っていたような気がしてならなかったが今目の前に居る姉さんを鎮めなければ俺とエリカ諸とも《魔弾の射手》を喰らいそうなのでその対応に追われていた。

 

結果授業に遅れると言う本末転倒な事になり結果として姉さんとエリカと俺で登校することになり、たまたまだったのだがその様子を深雪達に見られたが追求されることは無かったので怪我の巧妙だった。

 

 

「八幡。警備隊の訓練に参加していけ。」

 

「突然っすね…いいですけど。」

 

論文コンペに起こるであろうトラブルに対して対応するために率先して十文字家次期当主が動いているのをみるとこの人も情報を入手しているのでは?となったが勘と言うか直感が鋭いだけだろう。

断っても良かったが直接十文字先輩からのお誘いを七草の俺が其を断るわけにはいかないだろう。

 

「了解っす。達也の護衛も無いですし。」

 

「頼むぞ。」

 

「うっす。」

 

学校に隣接する丘を改造して作られた野外訓練場。

何故このような施設があるのかと言えば魔法科高校では警察や軍に進む生徒も多いのでこのような施設が設けられているのだ。

ただまぁ警察や軍に有るような銃撃訓練場のような本格的なものはない。

今現在進行形で十文字先輩と俺は魔法による模擬戦闘を行っていたのだった。

直接の戦闘を行っていたメンバーは五、六人ほどいた筈なのだが既に全滅に近い。

同じく十文字先輩に直接訓練に参加しないかと持ちかけられた幹比古は人工森林に居て息を潜めている。

俺が精霊魔法もどきを使い通信機の代わりに使用し指示して「不意を突け」と教えたからだ。

 

使い魔の姿を見て幹比古は驚愕していた。

 

「りゅ、龍!?ほ、本当に!?…君は本当に規格外だね精霊魔法が使えて…まさか使い魔が龍とは。本当に人間?龍の姿の使い魔は最高位の筈なんだけどね…。」

 

そんなことを言われたが「そうなのか?」と返すしかなかった。

ちなみにだがこれは精霊魔法なのではなく俺が習得している『四獣拳』の応用に過ぎないので俺にとっては珍しくともなんともない。

ただの龍だ。

 

そんなこんなで一斉で十文字先輩に掛かったのだが当然沢木先輩と俺以外は返り討ちにされしまっていた。

いや、《ファランクス》強度上がってないっすかね?

それもそうだろう、今回論文コンペの九校合同の警備隊長を十文字先輩が務めるのだ、手柄、と言うわけではないが他校よりも士気を挙げるために自ら率先して訓練をする様は俺には真似できないししたくもない。

 

「先輩。俺が突っ込むので意識外から十文字先輩に。」

 

「り、了解した。」

 

距離を取って意識外から攻撃できるポジションを探しだす。

 

「十文字先輩いきますよ…!」

 

「八幡が来たか…。」

 

十文字先輩と俺の模擬戦が始まる。

俺は踏み込むと同時に《特化型CAD(ガルム)》を二丁引き抜き模擬戦様に調整した威力の『重力爆散(グラビティ・ブラスト)』を十文字先輩と地面へ叩き込む。

 

対する十文字先輩は《ファランクス》を正面と爆散地点にピンポイントに展開して無効化されてしまうがそんなことは分かりきっていると単一魔法《幻影の射手(ファントムバレット)》を背面より打ち込む。

すると少しかすったのを察知したのが避けながら此方へ魔法をぶつけてくる

 

「今の避けんのかよ…。」

 

「流石だな八幡!」

 

「くっ…!!」

 

思わずタメ語が出てしまったが喰らいたくはない。

迫る魔法をもう一丁の《特化型CAD(ガルム)の内部に格納されている『術式解体(グラムデモリッション)』で打ち砕く。

 

魔法の応酬が繰り広げられておりその光景を見ていた先輩がポツリと一言、

 

「付け入る隙がない…」

 

それは幹比古は違ってタイミングを俺と同期していた。

 

(八幡…もう少し左だ…三、二、一…今だ!! )

 

幹比子が地面に右手を押し込み地脈を通って作成した呪陣へとサイオンを流し込む。

俺はその動作を《瞳》を通じて確認していたので同時に『ルクスフェイク(虚偽閃光)』をシングルアクションで発動した。

押さえ目ではあるが目眩ましには十分な光量だ。

 

「むっ…!」

 

やはりと言うべきか十文字先輩は眼前を腕で覆い隠し視界を遮った。

 

「ぬおっ!?」

 

その瞬間地面が陥没した地面へと埋没していく。

幹比古の古式魔法が炸裂したのだ。

 

このまま追撃を仕掛けようと思った俺だったが土煙のなかに消えている先輩の姿を《瞳》で確認出来ている俺は次どんな手を取るべきか思案していたのだが…。

 

「あ、ちょっと!」

 

先輩の一人が今が好機と突っ込んでいってしまった。

しかし、土煙が晴れるとそこには土埃一つ着いていない十文字先輩の姿があった。

障壁魔法が先輩に炸裂し伸されてしまい結果として俺と幹比古で試合を繰り広げるということになってしまった。

 

俺はため息をつきつつこのキン消し並に固い先輩をどういなすか思考するのであった。

 

 

魔法による模擬戦時には、事故防止と事故発生時の救護活動を目的として屋内・屋外を問わずにモニター要因が着くことになっていた。

 

「相変わらず凄いな八幡くんは…。それに吉田も。」

 

その試合を観戦していた摩利は感嘆を漏らしていた。

 

一年生でありながら十文字家次期当主である克人と魔法と駆け引きを凌ぎを削っている八幡の姿はこの一校の中でもトップクラスであることは明白であったが一緒に訓練に参加している幹比古の実力も高く評価していた、のだが…。

 

「むぅ…。」

 

「朝からどうしたんだ真由美、唸ってばかりだな…。」

 

「うーん…実はね…」

 

隣に居る真由美がモニターを凝視し先ほどから唸っているのを聞いていた摩利は流石に無視するわけには行かずに聞いてみると耳を疑うような内容だった。

 

「エリカが八幡くんと?」

 

「そうなのよ…」

 

真由美が今日学校に遅れてきた理由、それは八幡が七草家の客間の一つからエリカに腕を絡めさせてリビングへ向かってきた様子を説明していた。

 

その話を聞いた摩利は悪い顔をしていた。

 

「ほほう…まさかエリカと八幡くんが。真由美、先を越されたかもな?AかBか?」

 

「ちょ、ちょっと摩利!」

 

一瞬にして顔がリンゴのように真っ赤になった真由美を見てクツクツと笑う。

 

「おや?私は何も言っていないが…何を想像したんだ?」

 

「ナ、ナニって…ゴニョニョ…。」

 

摩利は自分の友人が初すぎて大丈夫なのだろうかと、本気で心配したがそれはきっと八幡の事だからだろうと結論付けた。

 

「お前な…そんなに弟を取られたくないならさっさと告白してしまえば良いだろう?」

 

「くっ…彼氏が居るから強気ね摩利…!!そ、それが出来れば苦労しないわよ。」

 

「何だそれは…。」

 

摩利は以前に真由美から相談を受けており「自分が弟である八幡に好意を抱いてしまっている」事の説明、詰まる所恋愛相談を受けていた。

そんな相談を受けて一瞬呆けてしまったが真由美と八幡は血が繋がってはいない。

戸籍上は”七草”というだけなので彼氏彼女の関係や結婚も出来るだろう。

 

それに真由美と釣り合うような男は十師族の人間ぐらい…というよりも真由美をどこの馬の骨とも分からない男とくっついて欲しくない、と思うほどには摩利は真由美の親友をしている。

その相談を聞かされたときは応援してやろうと思ったが如何せん八幡の周りに居る少女達が強かった。

 

司波深雪や光井ほのかに北山雫、風の噂では三校の”稲妻”の異名を持つ師補十八家の一色愛梨とその妹も八幡に恋慕しているとの情報があった。

摩利は既に恋人が居るので人並み以上にアドバイスは出来る。

その恋人というのが今朝八幡と腕を絡ませ嬉しそうな表情を浮かべていた少女に関連有る人物である千葉修次だった。

更に今回その八幡を巡る戦いにエリカも参戦すると言うことを聞いて摩利は複雑な気分になったのだ。

エリカは修次の妹で近い内に親族になるかもしれない人物に複雑な心境だ。

 

しかし目の前にいる親友が八幡の事になると冷静ではいられないのは入学当初からの周知の事実ではあるが不憫に思えてきた真由美に修次から聞いた話をすることにした。

 

「確かに昨日シュウから『妹から友達の家で剣術の訓練をするから今日は帰らない』と伝えていたらしいぞ。『剣』を理由にするのは不純交遊の為ではないだろう。」

 

「そ、それじゃどうして八くんの腕に絡ませていたの…?」

 

「…剣を通じてエリカが惚れたか?」

 

フォロー仕切れなかった。

 

「千葉さんが八くんの事を好きになってるじゃないの!あ~もう…うう…。」

 

摩利はしまった、と思った

エリカの性質上『剣』を引き合いに八幡に会いに行っている筈がなく本当の剣術の修練をしているのは目に見えているので剣を合わせたことで何かがあってエリカが八幡に惹かれたのだろうと察してしまった。

 

目の前でぶーたれている真由美に摩利は正論を投げ掛けた。

 

「そんなに言うなら告白したらどうだ?八幡くんならお前の告白を断らないだろ。…それに最近かなり攻めたんだろ?図書室の個室で大胆なことをしたんじゃないか。」

 

「そ、それは…。」

 

図書室の件を伝えてはいたのでその事を言われて赤面している。

もじもじとしている真由美に新鮮味を感じていたがその勢いが有るのなら行けるのでは?と思い浮かんだが目の前にいる親友は耳年増であったことを思い出した。

 

「告白したら良いじゃないか。」

 

「…それを言ったら八くんとの関係が崩れるんじゃないかって。」

 

「真由美…」

 

真由美は八幡を弟として大切にしているし異性として見ている。

しかし『七草家の養子』というのが一番の難関であったし真由美の父親がどんなリアクションを取るのかも不安要素であった。

…しかし真由美の実の父親である弘一が真由美と八幡でくっついて欲しいと思っていることは預かり知らない事では有った。

 

「大丈夫だろう。」

 

「大丈夫かな…。」

 

八幡の事になると途端に弱くなる親友に苦笑を浮かべた。

 

「大丈夫だ。お前ほどの奴を袖にする何て真似は八幡くんは絶対にしないだろう。」

 

「う、うん…。」

 

「案外真由美の事を意識してるのかも知れないぞ?図書館といい夏休みの時といい紅くなってたりしたんだろう?なら大丈夫だ。八幡くんが男色家ならば話はべつだが…。」

 

その事を聞かされて真由美の脳内には八幡と達也が絡み合ってアーッ!♂している映像が脳内で再生されて真由美の顔はゆで上がったタコのようになった。

 

「ま、摩利!!」

 

「想像力豊かだなお前は…。」

 

 

夕方になっても第一高校は忙しなく走り回っている生徒で活気に溢れていた。

まるで学園祭の準備のように活気づいていたが魔法科高校には学園祭は存在しない。

理由としてはカリキュラムがつめつめのパンパンだからだ。

九校戦などと言った例外はあるが本当に例外だ。

そのために文化系のクラブが有志を結成し警備部隊への夕食の差し入れを最後の追い込みをかけるがの如くフル稼働をしていた。

 

…正直俺は学園祭にはあまり良い思い出がない。

『文化祭の実行委員長を屋上で泣かせたクソ野郎』の異名をもらったり俺が絶縁される数か月前の出来事だからだ。

どうも苦手意識が働くのは常らしい。

十文字先輩と素敵な肉体言語に腹の虫は正直な音を挙げていた。

 

「腹減ったな…何か食べて帰るか…」

 

時刻は夕暮れ。

すっかりと夜の帳が落ちようと空の色は茜色から紺色へと姿を変えようとしていた。

 

踵を返し帰ろうとしたが流石に先輩達に一言もなしに帰るのは失礼だろうと思い小体育館へ足を運ぶと沢木先輩達に挨拶を告げるがその際に

 

「八幡くんも御馳走になっていきたまえよ。」

 

と言われたが他人と食事を取るのは精神衛生上よろしくないので丁寧に断らせていただくと残念そうにしていたが俺は悪くない、筈だ。

 

こうして体育館から離脱をして校内の自販機に立ち寄りいつもの飲み物を購入して立ち去ろうとした瞬間に缶を持っている反対側の腕が誰かから絡め取られてしまった。

腕に柔らかい感触が当たっているのでそっちに意識が割かれそうになるが気を取り直し

怪訝な顔をしてその方面を見ると俺の手を絡めとっていたその犯人はすぐに分かった。

 

「なにやってんの姉さん。」

 

「ビ、ビックリした?」

 

?どこか辿々しいし顔も紅い姉さんに怪訝な顔を向けるがどうして俺の腕に自分の腕を絡ませて来たのかよりもこんな時間まで学校にいるのか気になった。

 

「…?、ああビックリしたわ。どうしたのこんな時間まで学校に?受験生ですよね?」

 

「そんなことは言わなくて良いの!それにわたしがこの時間までいるのは十文字くん達の模擬戦をモニターしていたのよ…摩利と。」

 

「?渡辺先輩は」

 

「用事がある…って言って先に帰っちゃったわ。」

 

「まじかよ。」

 

「そ、それより八くん一緒に帰りましょ?」

 

どことなく元気の無い姉さんを見て俺は手を取った。

 

「ふぇ?八くん…?」

 

「帰ろっか。」

 

姉さんの返答を待たずに俺が今度は姉さんの手を握りながら歩き始める。

歩幅を信頼している姉を疲れさせないように歩幅を合わせる。

校舎から校門までの道のりは意外にも長い。

辺りには生徒一人もいなく喧騒も聞こえては来ない。

秋の静けさだけが俺たちに聞こえてきた。

大した話題もなく無言のまま歩いていたが姉さんが俺に質問してきた。

 

「八くんは私の事をどう思ってる?」

 

「え、ちょっと抜けてる可愛い姉だけど?」

 

そう言うと少し嬉しそうにしていたが握る手の力が強くなった気がした。

まるでそう言うことじゃない、と言わんばかりの抵抗の証のようだった。

 

「一昨日は千葉さんと何をしていたの?それに深雪さん達と距離が近いわよね?」

 

今朝の事を掘り起こされて少し鬱陶しく思ったがその程度で感情を荒げたりはしない。

 

「またその話?だからエリカとは道場で剣術試合してただけだって。それに深雪達は知り合いだっつーの。」

 

「むぅ…千葉さんとじゃあなんで腕を絡めさせて出てきたの?知り合いの距離感じゃないわよね?」

 

「それは…。」

 

言葉に詰まってしまった。

確かに言い訳が出来ない状況であったしその直前で告白をされていたからだ。

反論できない間があったために姉さんに察してしまった。

隣に居る姉さんは離れて俺の目の前に立っていた。

姉さんの語気が荒れる。

 

「お姉ちゃんは嫌なの!八くんが他の女の子とイチャイチャしてるのは!私だけを見ていて欲しい…。」

 

「姉さん一体何を言ってるんだ…。」

 

いつも通りの感情と表情だったと思ったが次の瞬間には一変して俺に近づいた。

 

「私を…他の子と同じく異性として見てくれないの?それとも八くんにはお姉ちゃんとしか…”家族”としか見えない?」

 

「!?」

 

何て事を言うのだ、と思った。

”異性”として見てくれないの?というのは余りにも直球だった。

流石に鈍い俺でも分かるその行動に顔を紅くして真面目な表情で俺を見られてもどう対応して良いか分からなかった。

 

「姉さんは…」

 

命の恩人でもあるし今の家族だ。

そんな人物を邪な目では見ては行けないという一種のフィルターが掛かってしまっている。

確かに姉さんは性格もよく美人で少し抜けているところもあり魅力的な少女だ。

だがしかし俺たちは”家族”なのだから。

突き放す言葉も受け入れる言葉も俺には発せない。

 

近い将来姉さんは魔法師と結ばれて知らない男と仲良くするだろう。

七草家の長女だからだ。

それは仲の良い姉が男と居ることに嫉妬する弟の感情だろうと決めつける。

 

だがその想像の中の光景は非常に不愉快だった。

隣に居る男を八つ裂きにしたいほどには。

 

夏休みの事件で皆に、姉さん達には俺の過去話は伝わっている筈だ。

その事を知っても尚、俺にそんなことを言ってくるのは頭で分かっていたとしても心が否定したがっている。

もう一人の自分に「お前の都合のよい解釈だ」と。

 

そんなことを姉に言われてしまったら俺は本格的に人間不信をぶり返してしまうだろう。

しかも家族にだ。

 

俺は思わず姉さんの瞳を覗いてしまう。

紅く綺麗な瞳には嘘偽りの無い真摯な光が讃えられていた。

 

他人の悪意には聡い俺のこの性質が今は恨めしいと思ってしまう。

この言葉を放ってしまえば俺と姉さんの仲を否定してしまうことになるだろう。

何を血迷ったのか俺はその言葉を呟いてしまう。

 

「…俺を拾ってくれた命の恩人だ。大切な姉だとも思ってるし大切な女の子だ。異性として見ているかは分からない。…でも姉さんが他の男と一緒に居るのは想像したくない…」

 

自分でも何て自分勝手な言い分だとは思っている。

そんなことを告げてそっぽを向くと目の前にいた姉さんは俺の右隣に移動し腕を絡ませて手を握ってくる。

 

「はぁ…八くんが私を大切にしてくれてるのはよく分かったけど…他の女の子に目移りするのはやっぱり嫌。」

 

「…別に目移りなんかしてねぇよ。向こうが勝手に寄ってくるだけだ…からかうために。」

 

「そうだとしたら大した役者さんね皆。全員八くんに惹かれてるのよ…私も含めてだけど。」

 

「お、おい…。」

 

さらっと衝撃発言をもらって戸惑う俺に更に追撃を仕掛けてきた。

顔を紅く染めて決意を告げる。

 

「私…八くんが好き。家族になったときからだったと思うの。」

 

「何言ってんだよ…」

 

「…八くんからのお返事してもらえるようにお姉ちゃん頑張る。」

 

「…そんな言葉は出てこないと思うけどな。」

 

「初めての告白だったのにそんなこと言っちゃうんだ…」

 

「人聞きの悪い…。」

 

「私から”初めて”を奪ったのに…。」

 

「お願いだからやめてくれその言い方…。」

 

「だからね…八くん待ってるから。」

 

八幡からの答えを待っている、とそう宣言しているに他ならない。

隣に居る姉には勝てる日は来るのだろうかと、とそう思いながら俺は姉さんに手を引かれながら帰宅した。

 

(俺、幸運の最大値使いきってるんじゃないか…?)

 

そんなことを思いながら右腕にくっついている姉の手を握りキャビネットのある駅へ向かったが一瞬後ろを振り向き何かのアクションを取っていたようで気になり振り向こうとしたが手を引っ張られてしまった。

 

 

時刻は少し遡って夕方。場面は切り替わり学校の食堂兼カフェにて。

 

「アハハ…ど、どうしたのよ深雪達…。」

 

何時ものように八幡&達也グループの会合…とはいえその中心となっている二名はそれぞれ警備隊の戦闘訓練と論文コンペの準備に追われてここにはおらず、この場に居るのは八幡に好意を寄せる人物しかいなかった。

 

「…エリカ教えてくれるかしら?どうして八幡さんと一緒に登校していたのかしら?」

 

「え?それは途中で八幡と一緒になったからで…。」

 

「”途中”はおかしいわよね?…最初から八幡さんと登校してたんでしょう?」

 

そう聞かれてエリカは普段通りに対応する。

 

「いやいや…深雪も見たでしょ?あたしは八幡と七草先輩と一緒に来たんだって。」

 

そう言うエリカに雫とほのかは納得しようとしたが深雪には騙されなかった。

 

「嘘ね。」

 

「へ?」

 

きっぱりと「嘘ね。」といわれてしまい止まってしまうエリカに深雪は追撃をかけた。

 

「エリカは嘘をつくのが苦手なのね…それは美点だわ。正直者ということだもの。でもね?エリカ。嘘をつくのは良くないと私は思うの。」

 

そう言って深雪はエリカの耳元に近づく

 

「だって…」

 

囁いた。

 

「エリカから八幡さんの匂いがするもの。」

 

「ひっ…!?」

 

囁かれ隣を見るとそこには普段見たことのない目の据わった深雪の威圧感にエリカは悲鳴を挙げてしまう。

 

「距離にして少しくっついたくらいでは八幡さんの匂いはしないわ…それこそ八幡さんのご自宅で泊まったくらいじゃないと、ね?」

 

「エリカ。もう自白したほうがいい。」

 

「まさか、エリカもなの…?」

 

雪の女王から問い詰められて左右からは挟撃されている様は正に地獄絵図の有り様だった。

流石のエリカといえどもこの場面を切り抜ける手は持ち合わせてはいなかった。

検事雫は促し弁護士ほのかは「無いよね…?」という憂いを帯びた視線を投げ掛ける。

三人からは「退路はないぞ」と告げられていた。

言うか言わないか迷っているエリカに深雪の無言の笑顔は恐怖でしかなかった。

観念して自分の気持ちを吐露した。

 

「はい…八幡の事好きになっちゃっいました…。」

 

項垂れながらもう逃げられないと悟ったエリカは自白した。

その告白を受けた三人は三者三様の様子を見せていた。

 

「はぁ…八幡さんは本当に無自覚ジゴロなのですから…。」

 

困ったように頭をかしげを片手で頬を押さえる深雪。

 

「これはそろそろ釘を刺しておくべき?」

 

物騒なことをいう雫。

 

「うう…エリカも八幡さんを好きになるなんて…ライバルが多すぎるよ…!」

 

頭を抱えて困惑するほのかの姿があった。

 

「それでいつからどんな経緯で八幡さんに好意を(いだ)いたのかしら?」

 

「それは私も気になる。」

 

「わ、私も…。」

 

「えーっと…はぁ、気が重いなぁ…。」

 

「「「…。」」」

 

エリカは説明し始めた。

意識をし始めたのは夏休みのあのときで境遇が自分と八幡が似ていて重ねていたこと。

自分が厄介事に頭を突っ込むタイプであることに八幡に心配されてその心を折るために自分の得意分野である”剣術”で戦うことになったのだが八幡の方が強くその際に心も誇りも折られたこと。

気絶して泊まりそしてその時に八幡に言われた”その言葉”に心を揺り動かされて惚れてしまったことを伝える。

 

「と、いうことなのですが……あ~もう恥ずかしい!!」

 

伝えきったあとにエリカは顔を真っ赤にしてカフェのテーブルに突っ伏す。

その様子に先ほどまでの三人の雰囲気は消え去っていた。

 

「それならエリカも八幡さんに惹かれるのも分かるわ。」

 

「八幡にそれを言わせるの何かズルい…。」

 

「エリカも八幡さんも大変だったんだね…。」

 

「あれ?なんか思ってたのと違うわね…。」

 

「どんな風に思っていたのかしらエリカは?」

 

「い、いや『この泥棒猫!』とか『私の方が先に好きになったのに!』ぐらい言われそうかと…。」

 

エリカのその反応に苦笑する三人。

真っ先に答えたのは雫だった。

 

「そんなことを思ったりはしないよエリカ。私的には八幡に全員娶ってもらえば良いし。」

 

「凄いわね雫…。」

 

「だって全員仲が悪いわけでもないでしょ?まぁ仮に誰が一番最初に○○○して妊娠するかで揉めそうだけど。」

 

「「セッ!?」」

 

「ファッ!?」

 

「ちょ、チョッと雫!」

 

「もごご…。」

 

思わず雫の口を押さえてしまった深雪。

言った本人である雫を含め全員が顔を紅くしていた。

今は利用客が深雪達しかいないにしても聞かれるわけには行かないないようだったからだ。

 

「な、何て事いうのよ雫!」

 

ほのかが顔を真っ赤にして雫を嗜めるが普段の表情と変わらず淡々と説明する。

 

「でもその前に八幡の人間不信をどうにかしないと行けない。」

 

「そ、それは…そうね。」

 

エリカが同意する。

 

「だからそれまでは私たちで争うのは不毛。協力すべきだと思う。」

 

「雫の言う通り協力すべきだわ。八幡さんの過去に負った傷を癒さないことには私たちの戦いは進まない…。」

 

「うん。」

 

「そう。」

 

「そうね…。」

 

少女達はアイコンタクトを交わして共同戦線を張ることになった。

 

「それで?深雪達はどうして八幡の事を好きになったのよ?」

 

自分だけ馴れ初めを聞き出されて不満だったのと深雪達がどんな状態だったのかを聞きたかったため問いかける。

 

「そうね…私は。」

 

深雪が説明し

 

「私は…」

 

雫も説明し

 

「あたしは…」

 

ほのかも説明してくれてここにいる全員が全員の理由を知ることになった。のだが…。

 

「「「こ、これは流石に恥ずかしい…」」」

 

流石に夏休みに起こったあの出来事は言えなかった。

無論エリカもあの時着替えを見られた事を。

 

((((言えない…))))

 

「あ、そうだわ。

 

深雪が何かを思い出したように言葉を紡ぐ。

 

「三高の愛梨も八幡さんの事をお慕いしているのよね…それに妹さんも。」

 

「はぁ!?どんだけ誑しなのよ八幡は?」

 

「それを無自覚にやってしまう八幡…恐ろしい。」

 

「ええ!?三高の一色さんも!?」

 

エリカ、雫、ほのかがリアクションを取る。

 

「でも一番の強敵は…」

 

「うん。」

 

「ええ。」

 

「そうだね…。」

 

「「「「七草先輩だわ。」だね。」よ。」よね。」

 

全員一致で一番の強敵は姉である”七草真由美”であると認識したのだった。

 

 

「へくちっ!」

 

「姉さん大丈夫か?」

 

「ちょっと寒いかなぁ…ねえ八くんそっちにもっと近づいていい?」

 

「いや十分暖かい…。」

 

「はい!」

 

そう言って隣に居る姉はキャビネットの中だと言うのに俺に超密着して来る。

 

「暖かい…////」

 

「恥ずかしがってガチトーンやめてくんない?(調子狂うな…まぁ可愛いからいいか。)」

 

密着する姉の頭を撫でると気持ち良さそうな表情を浮かべているので家に着くまでずっとそうしていた。

 

論文コンペまで残り一週間となった。

これからどんな出来事が起こるのか、根回しをしてはいるが大変なことが起こると直感が告げていた。

だが今はこの隣に居る姉の機嫌を取ることにしようと決めた。

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