俺が七草の養子なのは間違っている   作:萩月輝夜

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論文コンペティション

論文コンペティション当日となった。

八幡は達也と深雪と出立する前に準備をしていた。

会場へは真由美も一緒に連れだって行く事になる。

 

「…」

 

自室…ではなく七草家に作った開発室の作業机ににて調整を終了した装備群を各所へ収納していく。

八幡の表情はまるでこれから休み明けで仕事に行くサラリーマンのような表情をしている。

自身の魔法、《次元解放(ディメンジョンオーバー)》で作り出した異次元格納スペースに《特化型CAD(フェンリル)》二丁と《自動二輪変形型CAD(グレイプニル)》を仕舞い込んだ。

 

制服を改造して取り付けたホルスターへ二丁の愛銃(ガルム)を、右腕の手首には汎用型のブレスレットを装着し左側の手首には音声入力タイプの長方形のブレスレットが装備されている。

 

「何もなきゃ…って言うのは無理か。いざとなれば俺が矢面に立つしかないよな。あぁ…やだやだ。」

 

そんなことを思いつつ全身鏡の前で身嗜みを整える。

高校入学までは身嗜みになど気をつけたことなどなかったが家柄もあって気にするようになっていた。

 

「おっと…そういや愛梨も論文コンペのサポートで来るんだったな…これを渡しておかないとな。」

 

作業机の上に横に立て掛けられている武装一体型のCADを魔法の格納スペースへ入れ込む。

形は全長60cm程の両刃の平たい三角の形で全体が束部分は紫掛かった直剣で稲妻の意匠が施されていた。

 

「…行くか。」

 

佐織からの連絡で国防軍所属の藤林さんとエリカの兄貴である千葉さんとの協力を取り付けているので現地では警察と国防軍の人たちが巡回、警戒をしていることだろう。

恐らく会場に顔を出すだろうから挨拶しておこう、そう思った。

 

願わくば何もないといいな、思ったが待ち受けるものが杞憂ではないこと俺の《瞳》の力を使わずとも直感が囁いていた。

 

◆ 

 

「八くん準備は終わった?」

 

「…ああ、姉さんにいわな…っ。」

 

自室を出ると真由美が待機していた。

それに応じる八幡はこれから起こりうるであろう事件を言おうと思っていたが真由美の顔を見て言い淀んでしまう。

 

「どうしたの?」

 

「…いや、何でもない。姉さん今日は出来るだけ俺の近くにいてくれ。」

 

「へ?ええ…?」

 

「頼む。」

 

唐突なお願いに真由美は困惑していたがたまに現れる真面目な表情とその気迫に顔を紅くして頷いた。

 

「///わ、わかったわ…でもどうして?」

 

「…訳は後で話す。論文コンペが終わる頃には。」

 

「うーん…気になるけど…まぁ八くんがそう言うなら。」

 

「ありがとう姉さん。…じゃあ行こうか。」

 

「行きましょう?」

 

一緒に家から出ようとしたとき七草家の大きな玄関には双子の姉妹とアホ毛がぴょんと跳ねている妹が姉兄を送り出そうとしていた。

 

「行ってらっしゃいませお姉様、お兄様。」

 

「頑張ってねお姉ちゃん、兄ちゃん。」

 

「達也さん達もいるんだからサボっちゃダメだよお兄ちゃん。あ、お姉ちゃんはちゃんと見張っててね。」

 

「ふふっ。」

 

「うわー小町、辛辣ぅ…。でも言えてるかも?兄ちゃんダメだよ?」

 

「小町ちゃんの言う通りですよ。お兄様。」

 

「小町ちゃん酷くない?って泉美ちゃんに香澄ちゃん…姉さんまで。俺どんだけ面倒くさがりだと」

 

「事実「でしょ?」「ですわ」「じゃん」「だよ」」

 

「ひでぇ…。」

 

小町がそう言うと姉妹達は笑い真由美もクスりと反応し八幡は苦笑いを浮かべた。

玄関には明るい笑い声が響いた。

 

◆ ◆ ◆

 

全国高校生魔法学論文…ええい長い、論文コンペでいいか。

その現場に俺と達也に姉さんに深雪は一緒に合流し会場までトラブルもなく到着した。

既に現場には機材を乗せたトラックが到着しており会場に運び入れられているようだった。

五十里先輩に桐原先輩達が既に到着しており実際には時間よりも早く向かったはずだったのだが俺たちのグループが一番最後だったらしい。

会場には頭を抱えた千代田先輩の反対方向には”論文コンペには関係の無い見知った顔”がそこにた。

 

「八くん。千代田さんが困っているから助けてあげたら?」

 

「俺に振るのかよ…。」

 

面倒くさそうにしている俺の表情を見て苦笑しつつ姉さんは頷いた。

俺は溜め息をついて千代田先輩を説得すると「仕方がない」と言わんばかりであったが納得して引き下がってくれた。

日頃の行いって大切なのね、心がけなきゃと思ったがそんなことはすぐさま記憶の彼方へと忘れ去ってしまうだろうから関係ないが。

 

エリカを連れ出してロビーの片隅におかれているソファーへ座らせて話をすると本当に反省しているようで怒るに怒れなかった。

…まぁ面倒事に首を突っ込むのは直ぐには抜けないだろうから仕方がないと飲み込んで一応釘は刺しておくことにした。

 

「…まぁ観客席から見る分には問題ないから大丈夫だ。大人しくしてろよ?」

 

「それって振り?」

 

いや、そんな伝説の三人組の熱湯コマーシャルをするリーダーじゃないんだわ。

 

「いや振りじゃねーんだよ。」

 

そういうと俺たちの周りに笑いが起こった。

 

「まぁ、会場で何かしら問題が起こったら”協力してくれ”。」

 

そういうとエリカは満面の笑みを浮かべ頷いた。

 

「おっけー。任せなさい。」

 

 

こういった集まりには見知った顔が現れるのは定石でありそれは俺も例外ではなかった。

開演時間が近づいて来るが本日をもって俺の任務は終了したのでこうしてロビーで休憩しているのであったが俺の直ぐ傍には姉さんがいる…訳ではなく今のところは襲撃の恐れがないので姉さんは今のところ渡辺先輩達と一緒にいる。

 

ロビーにいる俺は他校の生徒から話しかけられようとしていたのだが俺はあからさまに近寄りがたい、まぁそれは普段からなのだが。

俺に話しかけてくるのは罰ゲーム、もしくは物好き…だったはずだった。

 

「七草。」

 

ロビーの自販機にマッ缶がなかったため仕方なくブラックコーヒーを煽っていると背後から声を掛けられた。

 

「…この声は。」

 

「久しぶりだな七草。」

 

「お久しぶりです七草くん。」

 

「ちっ…出たなイケメン共め。」

 

振り向くと三校のエース一条将暉と吉祥寺真紅朗が立っており俺は薄い反応を示し舌打ちした。

 

「相変わらずだなお前は…。」

 

「あ?特に関わりのない知り合いにどう反応すれば良いのか教えて欲しいもんだけどな」

 

「お前も来てるってことは論文発表のメンバーか?それとも会場警備のメンバーか?」

 

俺の言い方が若干強かったが特に言い淀んだりもせず直ぐに普段通りに持ち直し質問してくる。

 

「いや、俺は論文のメンバーじゃない。護衛だったんだが今日で終わりだからフリーだぞ。」

 

「意外ですね…君が論文コンペのメンバーじゃないんですか?」

 

俺と一条のやり取りを聞いていた吉祥寺が驚いたように質問してきたので応じた。

 

「ああ。論文発表のメンバーに選ばれたのは達也だよ。俺はその護衛だ。」

 

その事を聞いて一条は苦笑いを浮かべ吉祥寺は「なるほど…」と呟きその口元には笑みが浮かんでいた。

 

「いや、司波に護衛が必要なのか疑いたくなるレベルなんだが?」

 

「それは俺も思ったが…その事を断ると妹が怖くてな。」

 

その事を告げると背後が冷たくなった。

 

「八幡さん?誰が恐ろしいと?」

 

「ひえっ…!?」

 

背後から冷気と共に聞き覚えのある癒し系の音声が聞こえてきたが今の俺にとっては脳内で《死の宣告で例のBGM(某暗黒卿のテーマ)》が鳴り響く。

まるで錆び付いたブリキのおもちゃのように首をぐぎぎ、と回し背面を見るとそこにはとっても可愛らしい笑みを浮かべた深雪お嬢様が立っていた。

 

「八幡さん、わたしの聞き間違いでなければ”妹が怖い”と聞こえたのですが…まさかとは思いますが…」

 

「み、深雪はせっかちさんだなぁ…俺がそんなこと言うわけないじゃないか?俺が怖いと言ったのは”小町”の事だって。」

 

「おや?一条君とのお話の文面では『司波の護衛が必要なのか?』というところから何故小町ちゃんが出てくるのですか?」

 

「すみませんでした…」

 

全部聞かれてました。

深雪の無言の笑顔に俺は謝罪するしかなかった。

ここで土下座しなかっただけ偉くない俺?偉くない、そう…。

 

「し、司波さん!」

 

名前を呼ばれた深雪が反応した。

一条の声色が固く感じられるのは深雪に一目惚れして緊張しているからだろうか。

 

「おや、一条さん。挨拶もせずに失礼いたしました。」

 

「てか、なんでお前ここにいるんだ?」

 

「おいおい…これを見ろって。」

 

そう言って将輝の腕には『警備』と書かれた腕章が取り付けられていた。

 

「あ、そう言うことな。」

 

「ああ。今回十文字殿主導の九校共同会場警備隊の一員として参加してるんだ。…お久しぶりです司波さん。後夜祭のダンスパーティー以来ですね。」

 

「…此方こそご無沙汰しております。一条さん。」

 

深雪の発言には少しの間があったが不自然にならない程だったのは深雪にとって八幡と達也のチームと勝負した相手というだけであるので可哀想だがそれしか印象が残っていないということだろう。

対して一条は後夜祭をダンスパーティーで踊った、という思い出深いものがある筈だったのだが深雪にとってはミリ単位で印象に残っていなかったらしい。反応が少し遅かったのがその答えだ。

一条に「憐れな…」と思いつつ俺へニコり、と笑みを投げ掛ける深雪を見て少し誇らしく思ってしまった。

 

「(俺、そう言えば深雪に告白されたんだよな…ってあれは深雪が気の迷いで…………言っただけだ。)」

 

好かれていることを一瞬だが理解してしまい大慌てでその思考を吹き飛ばした。

俺の視線に気がついたのか深雪は少しその色白な顔色を紅くして動揺を隠すように誤魔化すように一層の丁寧なお辞儀をする。

 

「あっ、いえ、こちらこそ。」

 

深雪の完璧な所作に上流階級のパーティーに行きなれているはずの将輝は棒立ちして隣にいる第一高校の生徒も魂を抜かれたように固まり見惚れているのは仕方がないこと…まさしく”相手の注意を逸らす”という事に成功していた。

それから少し会話をして深雪が止めを刺した。

 

「一条さんと十三束くんが目を光らせてくださっているのであればわたしたちも一層安心できるというものです。会場の警備、宜しくお願いしますね?」

 

深雪のこの笑みは他人にお願いしたい時に使う”お願いしますね?”笑顔だ。

本当に美人はお得だなとつくづく思う。

 

一条達と別れた後に登壇側ではない俺たちは先んじて到着していた美月達と合流し会場内でステージが見やすい席よりも”不審な人物”がいないかどうか見やすい席に移動した俺の視界に資料で見たことのある人物の顔が入った。

一拍遅れて俺の隣にいるエリカも気がついたようで少し不機嫌な表情を浮かべていた。

声を掛ける。

 

「エリカの兄貴か。」

 

「……単なるナンパ野郎よ。どうせ女と待ち合わせしてるんでしょ。」

 

棘のある言い方に思わず俺は「そうかい…」とだけ呟いてソコでの言及は終了した。

エリカの反応に無意識に《瞳》の力が発動する。

 

ー何者かに操られ、俺と達也に襲いかかるエリカの兄貴を達也ではなく、”俺”がその命を奪った。ー

 

その未来視(ヴィジョン)を見せられて思わず顔をしかめてしまった。

思わずエリカに声を掛けようと思ったが取り付く島もなさそうなので意識を片隅に留めておいて後で寿和さん話しかけるとして俺は隣にいる深雪に話しかける。

 

「そう言えば深雪、一条の隣にいた背のちっこい生徒って誰だ?」

 

「十三束君のことですか?」

 

十三束(とみつか)、か…」

 

俺はその名字を聞いてなんだか懐かしい気分になった。

嘗ての比企谷の時、俺を案じてくれていた雪乃、結衣そして戸塚…読み方は違うが音が似てる人物を思い出す。

十三束と呼ばれた少年も随分な女顔だったと思い出した。

そんなことを脳裏にちらつくと深雪は言葉を続ける。

 

「隣のクラスで百家最強の一角…”十三束家”の『レンジ・ゼロ』は有名ですから…とお兄様が。」

 

「…なるほどな。」

 

俺もその”特異性”は達也ほどの情報通でなくとも魔法師の中では有名な話であった。

 

◆ ◆ ◆

 

午前九時。

論文コンペは、華々しく、ではなく厳粛な雰囲気の中で開幕を迎えた。

最初の発表は第二高校から始まった。

プレゼン開始の時刻になるとロビーから人の波が消えて俺は第一高校の発表まで時間があるので深雪達と一旦分かれ佐織と合流するためにロビーに向かうと男性と女性に声を掛けられた。

 

「ちょっと良いかな。」「少しよろしいかしら。」

 

同時に話しかけんでくれ…と思いながら振り返るとそこには千葉寿和と藤林響子がいた。

俺は”学生”七草八幡としてでなく”十師族”七草八幡として対応することにした。

 

「この度は会場の警護に参加してくださってありがとうございます。千葉警部に藤林少尉。」

 

軽く会釈をすると大人二人は苦笑いを浮かべていた。

 

「いやぁ…七草の長男に頭を下げられるのはねぇ…妹が世話になっているのもあって…やりずらいなぁ。妹に聞いていたよりも随分違うようだ。」

 

「千葉の麒麟児にそこまで言われるとは思いませんでしたが…。妹さんとは仲良くして貰っています。」

 

「ははは…。」

 

「流石は『万能の黒魔法師(エレメンタル・ブラック)』とお呼びした方が良いのかしらね七草八幡くん。」

 

「『電子の魔女(エレクトロン・ソーサリス)』にそこまで言われれば光栄ですね。」

 

俺がそう言うと大人の余裕の雰囲気を持っていたが自分よりも一回りもしたの少年に言われるのはあまりいい気分はしないのだろう。表情には出ていなかったが表情から読み取った。

互いの自己紹介も程程にロビーのソファーに座り会場警備の見取り図と人員配置を教えられ施設周辺には私服警官、外郭部分とこの会場へのルートには国防軍の兵士が配置されている。

あくまでもこれは”七草家、七草八幡が主導し警察と国防軍の一部隊と協力して予想される襲撃に備えている”という構図が出来上がっていた。

そのため一般生徒や、深雪達、十文字先輩には伝えていないのは余計な混乱を招かないために黙っている。

これだけ密なら向こうも馬鹿正直に襲撃を仕掛けてこないだろうと。

 

藤林さんが佐織経由で渡した密入国者のデータについて驚いていたが詳細は伏せた。

 

「そこはまぁ…”七草家”、とだけ申しておきます。それに情報をつかむのはほんのちょっとの魔法の使い方で情報は得ることは出来ますからね。」

 

そう言うと藤林さんは苦笑いを浮かべていた。

ついで千葉さんも俺が呂剛虎を撃退、傷を負わせたことと渡辺先輩の恋人でありエリカの兄である修次さんが俺の剣の腕を気にしていることを伝えられると今度は俺が苦笑いを浮かべる他無かった。

不意に藤林さんの端末が震える。

俺と千葉さんに断りを入れて端末の着信を受けとるとり数度頷くとその表情は驚きに染まっていたが直ぐ様取り繕うが随分と深刻そうだったがこのタイミングで藤林”少尉”が驚く事と言えば…?

 

「ええ、はい。伝えます。失礼します。」

 

襟元をただし通話先の人物との会話を終了する。

その表情は思わず愚痴を溢してしまいたくなりそうな表情を浮かべた。

思わず俺は声を掛けた。

 

「どうしたんですか藤林さん。」

 

「そのですね…。」

 

どうもかなり言いづらい内容らしいが時期も時期のため聞いておかなければならないが少し躊躇い気味に話してくれた。

 

「…ここだけの話、先日君が倒して刑務所に移送中だった呂剛虎が仲間の助けもあって護送車が襲撃を受けて逃げられてしまったの。」

 

「はい…?」

 

千葉さんは間の抜けた声を出して俺は少々うんざりな表情を浮かべていた。

 

 

千葉さんと藤林さんとの会話を終えるが佐織はどうも来ないらしい。

さっき連絡来て『動きがありそうなので会場には行かずに周辺で待機している』と端末にチャットで送られてきた。

恐らく近隣のスイーツショップで甘味を楽しんでいることだろう。まぁ、良いか…?

 

「まぁ、勝手に動かしておくか…仕事はしてくれるしな…。」

 

端末を確認しているとまたしても端末が震えている。

 

「ん?」

 

内容を確認すると十文字先輩からのメールだった。

 

「なになに…?『七草も合同警備隊詰め所に来てくれ』?…俺を自由に動かさせてくださいよ…。」

 

俺は軽く溜め息を着きながら十文字先輩達がいる詰め所へと向かった。

 

「失礼します…。」

 

「おお、良く来たな七草。」

 

詰め所へ向かうと服部先輩と桐原先輩が同タイミングで訪れていた。

どうも食事中だったらしく先輩達二人も合わせて十文字先輩とサンドイッチを摘まんでいた。

勧められたが今は食事をする気分では無かったので断ってコーヒーだけ頂いた。

手に持っていたサンドイッチを口に放り込み咀嚼して食事を終えると椅子に座る俺を含め三人に質問した。

 

「服部、桐原そして八幡。現在の状況について何か違和感を覚えたことはないか?」

 

他人の意見は当てにせず自分で見た聞いた情報を取捨選択する勇傑が俺たちに意見を求めてきていた。

その意見の求めに服部先輩達が答える。

 

服部先輩は「外国人の数が多い」、桐原先輩は「妙に殺気だっている」と。

その言葉を聞いた十文字先輩は最後に俺に問いかけた。

 

「そうですね…まぁ、七草家経由の情報ですが不法入国者を乗せた船が埠頭に停泊している、とか。」

 

俺のその言葉に先輩達はぎょっとしていた。

教えろ、とは言われていないのでここで全部をゲロってやる必要はない。

 

「ふむ…八幡のその話はウチにも届いていないが…確かに。」

 

十文字先輩は考える素振りを見せていたがその時間は十秒にも満たなかった。

しかしそれは桐原先輩達にとっては十分以上経過しているように感じられた。

それ程に重い沈黙だったと言えるだろう。

十文字先輩が口を開いた。

 

「服部、桐原。午後からは防弾チョッキを着用しろ。それからすまんが八幡は…」

 

「すみませんけど俺は独自行動させてもらいます。作戦のローテーションを組んでいる所に俺が入っても邪魔でしょうし…それに。」

 

俺のその発言に十文字先輩不敵な笑みを浮かべた。

 

「俺に合わせられる生徒が居ないでしょうし。」

 

「ふっ…そうか。」

 

驚きに目を見開く先輩達を尻目にそんなことを気にした様子もなくハンドレシーバーを手に取り合同警備隊のメンバーへ同じことが通達されたのだった。

 

 

「八幡さまっ!」

 

午後のプレゼンテーションはつつがなく開始した。

一校の出番の午後三時なので達也達は機材の警備の為に五十里先輩と共にいるはずだ。

深雪は今ごろエリカ達、つまりは”何時もの面々”と食事をしているはずだ。

今ごろ合流しようにも時間が丁度時計の半分を過ぎていたのでロビーでコーヒーでも飲もうかと自販機の前に向かうと呼び止められてしまった。

聞き覚えのある声に思わず振り返ってしまう。

そこにいたのは赤い制服に身を包み日本人離れしたルックスの美少女がいた。

 

「よっ、愛梨どうしたんだ?三校の出番は一校の後なのに随分と早いんだな。」

 

声を掛けるとぱあっと表情が明るくなった。

なぜだろうか?

 

「その…八幡さまに…お話がありまして…。」

 

俺に?言ったい何の用なのだろうか。

首を傾げていると愛梨が促してくる。

 

「論文発表まで時間がありますし…その…。」

 

ロビーでの自販機から出されるコーヒーでお茶をするのは余りにも失礼だし何よりも脳内で小町が「女の子がお茶に誘ってるのに自販機のコーヒーはないよお兄ちゃん」とちっさい小町が助言してきていたので俺から提案することにした。

 

「それじゃこの施設に喫茶室があるからそっちで話すか…行こう。」

 

「は、はい!」

 

そうして俺と愛梨は連れだって施設内にある喫茶室へ向かった。

目的地に着いた俺たちは座席に着き飲み物を注文し辺りを見渡すと利用客は俺たちしかいないようだ。

俺がブレンドコーヒーで愛梨が紅茶をそしてケーキを其々に頼んだ。

しかし、誘った当の本人である愛梨からは話題を振ってくれず無言が広がっていた。

これは…俺から話を振らないと行けない感じなのか?誘ってきたのは君だよな?と内心で思っていたがどうも愛梨の顔色が紅い…悪いと思いつつ《瞳》で視るがどこも悪いところはない至って健常だ。

 

「…ん?」

 

ふと愛梨から俺への好感度を視てみると最大値になっていた。

その上がりぐらいに俺は思わず疑問の声を挙げてしまう。

 

「…?どうされたのですか」

 

可愛らしく首を傾げる愛梨に慌てて俺は誤魔化すように否定したのだがそれが良くなかった。

 

ああ、いやなんでもない。愛梨は可愛いなって思っただけだよ。」

 

どうも脳内で思っていたことが口に出ていたらしい。

次の瞬間には色白な肌を紅く染めていた。

 

「か、かわっ!?…そ、そんな八幡…さま///」

 

「あ、やべ口に出てた。」

 

言った後に「しまった」と思ったがもう後の祭りであり顔を紅くして俯いてしまった。

これはセクハラで殴られても仕方がないとこの状況を飲み込むほか無かった。

 

「(これは…八幡さまへわたくしの想いを伝えるチャンスでは…行くのよ愛梨!)…っ!は、八幡さま。」

 

「お、おう(な、なんなんだ?この妙に気迫迫るのは…?)」

 

直ぐ様愛梨がその面を表にすると何かを決意したような表情を浮かべる。

その真剣な表情に俺は思わず姿勢を正してしまう程の迫力があった。

 

「わたくしは八幡さまのことをお慕いしています。」

 

「…は?」

 

愛梨の口から発せられた好意を示す言葉が告げられ俺は思わず脳がフリーズした。

愛梨が俺を?どこかに監視カメラが仕掛けられていてこの状況をみて楽しんでいる輩がいるのでは?と思い俺は辺りを見渡し魔法を使うがその類いのものはない。

困るんだよなぁ最近。その手のイタズラが多すぎて困る。

愛梨のような高貴な感じの美少女が俺みたいな他人からの好意を信じられない人間に向けて良い感情ではない。

またしても俺は深雪達に向けて言い放った無自覚な敵意を愛梨へぶつけてしまった。

 

「はぁ…俺に告白とか愛梨大丈夫か?そもそもにおいて俺と一緒に居るだけで苛めの対象になっちまうぞ?妹から何も聞いていなかったのか?だとしたら相当学習能力無いぞ。」

 

俺がそう言うと愛梨はポカンとした表情を浮かべながら少し寂しそうな表情を浮かべはにかんだ。

 

「妹と深雪から聞いていましたが…まさかここまで否定的だったとは思いませんでしたが…やはり直接的な方がよろしいですわね。」

 

「一体なに…っておいっ」

 

愛梨はなにかを呟くと座席から立ち上がり俺の隣に立った。

そしておもむろに俺の手を取って逃げられないように留め俺へ自分の息がかかりそうな距離まで接近してこういった。

 

「嫌いな殿方にここまで接近して自分の…好意を伝える真似はしませんわ。あの九校戦であった時からわたくしは…貴方に惹かれてしまった。」

 

「…一時の気の迷いは身を滅ぼすからな?」

 

「それでは…わたくしの想いが嘘ではない…ということを証明…致しますわ。」

 

「…!?」

 

俺の頬に柔らかい感触が伝わり愛梨の匂いが鼻腔を刺激する。

どうも頬へ愛梨の柔らかい唇が当たりキスをされてしまっているようだ。

その感触に俺は脳がフリーズし自らの意思で離れることは出来なかった。

数秒だったが数十分にも感じられた頬へのキスがようやく終わると俺も我に返った。

 

「あ、愛梨!お前な…!」

 

「い、一色家の長女が伊達や酔狂で殿方にキスをするわけがありませんわ///」

 

ド直球なことを言われて俺は反論できなかったしそもそもにおいて《瞳》で愛梨の好感度を視てしまっているのが質が悪い。

 

「そ、それでお返事…は…。」

 

不安そうに此方へ返答を待つ愛梨に俺は煮えきらない答えを提示してしまった。

 

「愛梨のその気持ちは嬉しい、んだと思う…。だけど俺が他人に好かれるはずがないんだと頭でそう思って分からないんだよな。」

 

「…。」

 

「これは俺の過去が原因だから愛梨は関係がない…くそっ、なんて言えばいいんだ…!?」

 

だんだんと俺は自分のこの面倒くさい自分の在り方に腸が煮えくり返りそうになったが対面に座り直した愛梨の手がテーブルに乗せていた握りこぶしにそっと重ねられた。

 

「わたくしの八幡さまを好いてる気持ちは変わりませんので…」

 

愛梨のその言葉に俺はただただ情けなくなると同時にまた一つ大事な者が増えてしまったと喜ぶ自分が居て自分を殺したくなったのはここだけの話だ。

手を互いに離したタイミングでお茶とケーキが運ばれてきて無言の空気が流れたが嫌な感じではなかった。

ケーキも一口、というタイミングで俺は愛梨に渡そうと思っていたモノを格納空間を見られないように展開し机の上においた。

 

「八幡さま、これは…?」

 

「愛梨に渡そうと思って持ってきたの忘れてたんだが…。」

 

「わたくしに…ですか。開けてみても?」

 

俺は頷いて了承を得た愛梨は机の上に置かれた長方形のアタッシュケースを開いた。

その中身に愛梨は頭に疑問符を付けている。

 

「これは?」

 

形は全長60cm程の両刃の平たい三角の形で全体が束部分は紫掛かった直剣で稲妻の意匠が施されていた。

 

「武装一体型の愛梨用のCADだ。…まぁ護身用ってことで受け取ってもらえないか?」

 

そう言うと愛梨は笑みを浮かべて頷いた。

 

「はい。八幡さまからの贈り物、となれば妹も悔しがるでしょうし…ですが女性に刃物を送るというのはいかがなものだと思いますが…。」

 

その事を突っ込まれ脳内の小町ちゃんが「ポイント低いよ!」と暴れているのが目に見えたがこの際見なかったことにした。

 

「まぁそれは俺も自覚してるから…ほらあれだ”魔を祓うもの”的な?な。そいつには愛梨が使う魔法の癖に合わせた調整と俺が開発した魔法が入ってる。…もしかしたら必要になるかもしれない、からな。」

 

愛梨は疑うことはせずに俺が渡したCADを受け取ってくれた。

CADに内蔵されている魔法の説明をすると驚いていた。…そんなに驚くとは思わなかったが満足してくれたようで何よりだ。

その後俺と愛梨は顔を紅くしたり青くしたりして雑談に花を咲かせていると時刻は午後二時半過ぎだったので出されたケーキと飲み物を胃袋に入れて喫茶所を後にした。

 

◆ ◆ ◆

 

午後三時になり時間通り一校のプレゼンテーションが始まった。

俺と愛梨はその時間前に会場に戻り分かれて席へ戻ると深雪に、雫、ほのか、エリカになにか言いたげな表情を向けられたが肩を竦めて深雪の隣に座った。

 

ステージ上では第一高校の発表テーマを市原先輩のアルトの声が会場内に響き渡っていた。

加重系魔法の技術的三大難問の一つである「重力制御型熱核融合炉」の発表をしているのだ。

デモンストレーションで作成された機材が動きだし煌びやかな閃光を放つ。

続けざまに今世紀までに行われた繰り返された実験の映像とシミュレーションの分割動画が流れ出す。

「核熱融合炉」が魔法で実現できない理由は産み出されたエネルギーが大きすぎて取り出せない、と言うことであったが壇上にいる市原先輩はそうではないと静かに告げた。

全ての問題は取り出そうとするエネルギーに対して融合可能距離数における電気斥力値が大きすぎる点に収束すると言う。

更なる実験器具が現れ電磁石の振り子が現れ五十里先輩が機材を動かす。無論魔法でだ。

市原先輩は防音用のヘッドセットを取り付け動いている振り子のメインパネルに振れると大音量のシンバル音が会場になり響くが市原先輩がパネルから手を離すとその音はピタリと止んだ。

どうして音が減ったのかはぶつかっていた振り子の接触面、空間内におけるクーロン力を十万分の一にまで低下させる魔法式を開発したと。

その言葉に会場内がどよめいた。

再びまたしても別のデモ機が壇上からせりだし大きな水槽にチューブが入り液体が行き来をしている。

市原先輩が説明している後ろでは五十里先輩が魔法を使ってプラズマ化、クーロン制御…と様々なプロセスを必要とするループを何十回と安定的に発動させる。

デモ機の動きと共に発言者である市原先輩は結論として「重力制御型魔法式核熱融合炉が実現できると確信している。」そう締め括ると会場からは割れんばかりの拍手が喝采した。

その反応を見ていた俺は拍手を軽く行い脳内でこう思った。

 

(”継続的”ではなく”断続的”に核融合を行わせる魔法式の連鎖を『ループキャスト』によって実現したとは…市原先輩のもとアイディア?があったとは言え達也のその発想は流石だな。)

 

その発表を聞いて俺が開発した新動力アプローチを聞いたらこの会場の全員驚くんだろうなと思った。

本人の想子保有量と別次元に存在する特殊粒子重粒子、それを三次元、つまりが現実世界に持ってくると膨大な熱エネルギーを発生させて俺が使用する加重系魔法、更にそれを安定的に動作発動させる別系統の魔法を連続的に発動させている『ループ・チェインキャスト』を使用する無限のエネルギーを取り出すことが出来る”重粒子反応炉”という”断続的な核熱融合炉”とはまた別のアプローチのエネルギーの取り出すことが出来る動力を既に装備しているある種のハイブリットマルチエンジンを搭載しているのだ。

…まぁ実質この仕組みを理解し安定的に動作できるのは俺しかいないんだけどな。

教える気もないけど。

 

そんなこんなで第一高校の発表が終わると後片付けが始まる壇上の袖裏では恐らく達也と入れ替わりで発表する吉祥寺と会話しているのだろうとそう想像し達也のもとへ向かう深雪と共に席を立って歩き始めたその瞬間だった轟音と振動、そして破壊音が会場を揺るがし木霊した。

倒れそうになった深雪を抱き抱え《瞳》の力を発現させて外を視る。

 

そこには予測の会場と横浜の町が火の海になる光景が脳内に叩き込まれ思わず眉をひそめることになった。

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