今回の話の流れ的には原作とほぼ一緒ですね。
八幡の取っている対応で割りと?安全になっているかもしれません。
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突如として会場内に響き渡っていた爆音と振動、衝撃に俺は倒れそうになる深雪を抱いて支える。
「きゃっ!」
「よっと…大丈夫か深雪。」
「あ、ありがとうございます八幡さん。」
「いや、気にするな…っと着信か。」
深雪を抱き抱えていると端末へ着信が入る。その主は佐織からだった。
フリーハンドで着信へ出る。
『俺だ。』
『佐織だ。連中動き出したぞ!装備も兵員も予想より多い…!奴らお前がいる会場へ誘導弾搭載のスティンガーを打ち込んだみたいだ!こっちも警察と藤林少尉の部下達と協力して対応する。』
どうやら外も大変なことになっているらしく銃声と爆発音が断続的に聞こえている。
『それと兵士が何名か既にその会場にさっきの爆発騒ぎで侵入しているようだ…気を付け…。』
その発言の直後連絡は途絶えて会場外からだろうか複数の銃声が木霊する。
俺は内心で舌打ちをした。
(最悪の想像がこのタイミングで来るか…!)
深雪を連れだって達也のもとへ移動すると達也も同じことを思ったのだろう。
「チンピラにしては随分と整った装備らしいな。」
「ああ。フルオートじゃない…対魔法師用のハイパワーライフルか!」
「大亜連合待ったなしだなこりゃ…」
言葉を交わすことはなくアイコンタクトを取って行動しようとした。
俺は席に座っている雫達を、達也は深雪を控え室へ避難させようと思ったが既に遅かった。
荒々しい靴音と共にドアが蹴破られ衣服に統一性の無いというわけでもなく妙な色彩のあった服を着用している。
その姿を見た俺と達也は軽く舌打ちをする。
「あまりにも突破されるのが早すぎる」と。
聴衆が恐怖にすくむ中で勇猛果敢な反応を見せていたのは三校の生徒で手首に付けているCADを起動させようとするが魔法を発動するよりも早くその人物の背後を一発の銃弾が通り抜け着弾した。
予想通りハイパワーライフル。非魔法師が持つ魔法師へ対抗できる”殺すことが出来る”道具だった。
「大人しくしろっ!」
妙にたどたどしい日本語は今銃を構えている乱入社が外人であることを教えてくれていた。
「デバイスを置いて床に置け。」
乱入者は魔法師相手の戦闘に慣れている様子だった。
もしかしたらこいつも魔法師なのかも知れない。
口惜しそうに三校生徒はCADを外している姿を悠長に見ていたのは間違いだったらしい。
通路に立っていたのは俺と達也、その背後に奇しくも守るような形で深雪がいる。
目についたのか銃を構えた兵士が慎重な足取りでにじり寄ってきた。
「おい、お前もだ。」
声を掛けられたのは俺たちであると誤解もしようがない発言であった。
俺は状況を注視する。
会場には総勢六名。
フロントに三名、バックに三名。
『
かといって『
隣にいる達也も同じことを考えているのだろう乱入者の怒号が浴びせられていた。
「早くしろっ!」
(…この手札でいくか。)
他人に見られずこの六人を制圧するルートを整えた俺は達也が動き出した瞬間に俺も動こうと決めた。
俺たちの瞳に銃を突きつけられたことで発生する”恐怖”の色はない。
達也は”観察”し俺は”面倒”という感情を乗せて兵士を見ていた。
兵士は自分を見ている眼差しに正体不明な恐怖心を覚えて仲間の制止を無視して引き金を引いた。
銃声が轟き悲鳴が連鎖する。
距離にして3メートル。高初速弾を吐き出すハイパワーライフルの弾丸はコンマに満たない秒数で達也と八幡の体を穿つには十分すぎた至近距離だった。
避けられない悲劇を連想するには聴衆には十分だったがそれよりもその後の眼前に広がる光景の方は驚きというよりも映像作品を見ているような気分になったであろう。
放たれた弾丸は達也が蚊を握りつぶすか如く握られた右手に納められた。
八幡は自身の体を『
八幡は達也と同じく手のひらに弾丸を収める真似をして見せた。
男はひきつった表情で軌道を変えて弾丸を発射するが二発、三発四発…と全て八幡と達也の右手に握り込まれてしまっていた。
俺はその光景を見て確信した
(達也も俺と同じく《特殊な瞳》を持ってるのか…?それとも《魔法》?…とりあえずそれは後で聞くとして魔法を発動させるか。)
会場内の誰かが呟いた。
「弾を掴み取ったのか…?」
「一体どうやって…?」
男が銃を投げ捨ててナイフを持ち出す。恐らくは混乱によるものだろう。
「化け物めっ!」
錯乱と銃が効かないことに錯覚した結果だろうがそれでも戦意を失わずに挑もうとするのは優秀な兵士なのだろうと俺は思ったが相手が悪い、これに尽きた。
達也は鋭い突きをなんなく回避しナイフを持つ腕に手刀を打ち込む。
達也の手刀は攻撃してきた兵士の男の腕を切り落とした。
「ぎゃっ…」
兵士は短い悲鳴をあげようとしたが達也によって鳩尾に一撃をもらい後ろへと大きく吹き飛んだ。
その際に切り落とした断面から鮮血が溢れだし白い制服を汚す。
そのタイミングで俺はフィンガースナップを行う。
瞬間、室内に膨大な閃光と破裂音が響き渡った。
同時に『
深雪達には思わず目を覆ってしまう光量が広がるが”室内にいる俺が敵兵士と断定したものだけには一千万デシベルの大音量と百万カンデラの閃光”が襲いかかる
閃光が晴れた頃には何が起きたのか分からない生徒達と聴衆達。特に近くにいた深雪と達也。
それはそれとして俺は声を大にして会場内にいる生徒に指示を出した。
「呆けるな!さっさと取り押さえろ!」
俺が一喝すると前方にいる残りの兵士達に会場内の生徒達は一斉に魔法を発動させた。
回避の反応を見せた乱入者もいたが選りすぐりの魔法師達になすすべなく捉えられた。
しかし、運命はそう簡単には運ばないようだ。
「バケ…モノ共がぁ…」
カチリ、と撃鉄が落ちる音がした。
合同警備隊の連中がしっかりと後方に居た侵入者のボティーチェックをしていなかったからだろうか隠し持っていたデリンジャーを発砲した。
狙いが外れていたのなら其でよかった。
パンっと銃弾が放たれる音がして”ナニか”に着弾した。
「え…?」
呆けた声を挙げて一人の女子生徒にその凶弾は着弾し膝から崩れ落ちた。
その光景にその少女の隣に居た親友の少女の悲鳴が会場内に木霊する。
「いやぁぁぁぁぁっ!!!”ほのかぁ!”」
雫の声を聞いた八幡は《縮地》を用いて移動する。
瞬間にその凶弾を放ったテロリストの腕を切り落とした。
「ぎゃっ、」
悲鳴を響かせる前に魔法により強化された前足が顎を砕く。
倒れ込むテロリストなど無視しほのかの元へ駆け寄る。
「ほのか!」
「光井!」
ほのかに関連ある少女や少年達も急いで駆け寄る。
八幡は声を荒げてほのかを抱き上げて怪我の様子をみる。
「ほのか!(弾丸は…肺を貫通してる。出血が多すぎて治癒魔法じゃ無理か…!)」
魔法障壁を貫通する弾のようでほのかの体を弾は貫通して背に添えた手が紅く濡れる。
「かひゅ…はひゅ、ま…んさん…?かほっ…げほっ…くひゅ…」
俺の手を握るほのかの力が、温度が次第に弱まって呼吸もおかしい。
治癒魔法では今のほのかを助けることは出来ても”延命”させることが出来ない。
いや出来たとしても魔法の継続時間が失くなれば”生存することが”出来ないといった方が正しいか。
”秘匿する筈だった魔法”をこの場で使用することを選んだ。
ここで躊躇えば後悔してしまう、と。
「(迷っている暇はねぇな…ごめん、ほのか。)悪いみんな。少し記憶を弄る。」
「え、はち…まん?」
「八幡?どういう…」
「八幡さん…」
「八幡…。」
何の事だが分からない雫とエリカ達。達也と深雪を除き《瞳》の力を全開にし会場全員を対象に精神干渉形魔法『
世界が、人々の認識が変わっていく。
『さっきまでの時間でほのかが敵に撃たれた』と『俺が魔法を使った』という記憶と事象を改竄されていくのだ。
八幡の《瞳》が黄金色に煌めき”ほのか”という存在に”別次元のほのか”を呼び出し上書きさせていく。
会場数百人の記憶の改竄と”人間”という膨大なデータの塊が俺の魔法領域演算を圧迫してスパークするような感じを吐き気さえ覚えた。
「(ログイン開始…
ゼロ、となった瞬間に声を掛けると目を閉じていたほのかの目蓋が開きアメジスト色の瞳が現れた。
「ううん…あ、あれ?どうして…。」
「ど、どうしてほのかが八幡さんに抱かれてるの?」
「うわっ!ど、どうしたの雫…ってどうしてわたし八幡さんに抱き締められてるのっ!?…八幡さん?」
「…」
訳が分からない、という表情を浮かべているが当然だろうさっきまでの事実と痛みは俺が消してしまったのだから。
声をあげるほのかを抱き締める俺を会場の俺を見つめる視線の意味は「瀕死の重体から復活させた異端な魔法を使用した」ではなく「どうして少女を抱き抱え先程捕縛したテロリストが瀕死の重体になっているのだ」という意識に切り替わっているのだ。
エリカ達は驚愕と茫然が重なった表情を。
八幡に視線を向ける達也と深雪はまるで過去の自分達と重ねるような視線を向けていた。
「立てるか?ほのか。」
「は、はい…。」
抱き抱えていたほのかに手を差し伸べ立ち上がらせるとエリカ達が怪訝な表情を浮かべ駆け寄ってきた。
「八くん!」
「八幡!」
「八幡さん!」
「ちょ、ちょっと大丈夫…?というよりも…」
エリカが発しようとした台詞を達也が奪い取った。
「八幡さっきの魔法と後方へ移動したあれは一体…。」
「魔法じゃなくて『縮地』な。其よりも…」
話題をすり替えるのは非常に申し訳ないのだが変えさせてもらう。
まぁ聞かれるわなと思っていたが素直に俺は答えるわけもないので本当はダメだが達也の先程の行動について突っ込んだ。
「さっきの銃弾を握りつぶしたのはなんだったんだ?あり得ないだろ普通。」
「其を言うならお前もだが?」
「お兄様…。」
「まぁ、達也にも聞かれたくもないことの十や二十はあるとして…」
「いや、流石に多すぎ。」
エリカに突っ込まれてしまった。えらく真面目だったんだが
俺が先程達也が使った魔法に突っ込むと痛いところを突かれた、と少し怯んだような感じが見て取れた。
明かしたくない魔法を聞き出すほど俺は無神経ではないではないので話を続ける。
「とりあえず状況は理解してるから退路を確認しないと。」
雫とほのかから体の無事について聞かれるが俺は腕を持ち上げ”大丈夫だ”とアクションを起こすと安心していた。
達也も幹比古と美月達が心配の声を挙げるが銃弾を握った右手を二、三回閉じたり開いたりしていた。
特段追求することもなく次の為に行動を移そうとするとエリカが話しかけてきた。
「それにしても…随分と大変なことになったけれどこれからどうするの?」
俺は外で戦闘しているはずである佐織達と合流するべく急ぎたかったが無視するわけには行かずに指針だけ伝えた。
「外に俺の私兵が戦闘している”この地域から脱出するはずのルート”を確保しているはずだが…。」
「待ってろ。何て言わないわよね?」
「…言うと思ったよ。危ないことはするなよ?」
「えへへっ。あんたの背中は守ったげる。」
女ならばときめいていたがそんな状況ではないし別行動かまして負傷されるよりはましだとそう決断した。
その発言にエリカないしほのか、雫達が喜色を表していた。
その光景を見ていた達也は肩を竦め深雪も喜色を浮かべてた。姉さんは心配そうな表情を浮かべていたが俺はただ頷いた。
「はいはい…。達也とエリカ達は正面に陣取ってる兵士の撃退と悪いんだけど姉さんは会場内にいる全員を落ち着かせてくれないか?俺よりも姉さんの方が適任だし。」
「…分かったわ。でも、」
心配そうにしている姉さんを見て俺はそっと手を置いて諭すように告げた。
「制圧したらすぐ戻ってくる。ここには渡辺先輩達もいるし制圧した兵士は全員気絶させて抵抗するようなら”これ”が発動するようにしてるから。」
俺は指をパチン、とならすと気絶させた兵士の眼前に”フラッシュエッジ”を展開させた。
『抵抗したらどうなるか分かってるよな?』ということだ。
俺のえげつない魔法に全員が苦笑いした。
さっきから微妙な表情をされてるのは解せぬ…これも全て大亜連合ってやつの仕業なんだ。ほぼそうだ。
アホなことをしているうちにもロビーからは銃声が鳴り響いているので心配そうな姉さんにハグをかました。
「は、八くん!?」
「大丈夫だって。んじゃ行ってくる。」
達也達と皆と共に俺は正面ロビーの確保のために行動を起こそうとするが吉祥寺に邪魔…もとい質問をされたが達也は其を一蹴し会場を後にした。
「は、八幡さんどうしてわたしはさっきまでなにをしていたんでしょう?」
「…どうした?」
「いやぁ、急にほのかが倒れたから俺が咄嗟に駆けつけて支えただけだよ」
「ふぇっ!?」
顔を紅くしてすっとんきょうな声を挙げるほのかに八幡は薄い笑みを浮かべる。
その時の八幡は普段通りの言葉遣いだったがのロビーへ向かうその表情は普段は浮かべない”怒り”に満ち溢れて居たのだった。
「八幡、お前…。」
「皆まで言うな。…めちゃくちゃイラついてるからな。」
その表情に普段表情を変えない達也でさえ困惑していたのだった。
◆ ◆ ◆
正面の入り口前はライフルと魔法の撃ち合いであった。
攻撃側のゲリラ兵士は全員アジア系統の人種で服装も先程会場になだれ込んできた格好と同じで通常の
ゲリラ兵士を迎撃しているのは魔法協会が手配したプロの魔法師。
しかし見て分かるように手配した魔法師が10とするとゲリラ兵士はその数”100”。倍、いや十倍以上の数が押し掛けていたのだった。
既にゲートは突破され通常装備では傷つかない筈の魔法師が何人も傷つき倒れている。
今にもその均衡は崩れようとしていた。
其を見た八幡は一言。
「多くね?たかが高校生の論文コンペの会場襲撃するためにこんなに寄越すかね?」
先頭を進む達也と共に出入り口の扉の角に隠れ呟いた俺の一言をエリカが聞き取ったらしく返答してくれた。
「案外八幡を警戒して投入してきたのかもよ?」
「んなアホな…っておい」
本当にそう思っていた八幡だったが実は裏で呂剛虎を倒したのが伝えられていたようで七草の関係者+近接魔法師最強の男を倒した、ということで向こうからしてみれば驚異でしかないらしく増員した、という事実だった。
目の前でエリカとレオがはやる気持ちを押さえられなかったのか物陰から飛び出そうとしたのを発見しエリカは手を取ってレオは加重魔法で動きを止めた。
「待てっちゅーの…対魔法師用の高速鉄鋼弾だ。あと一歩踏み込んでたら死んでたぞ。」
「ぐあっ!?」
「あ、ありがとう八幡。」
「ったく…(銃が邪魔だな…黙らせるか。)」
遮蔽物越しでは対魔法師用のハイパワーライフルが火を吹いている。
流石の八幡も秘匿された魔法を使わなければ少々手間だと感じていた。
「…。(数は全部で…さっきより減った…って言っても…よし。)」
八幡は《瞳》の力で全容を把握しブレスレッドに格納された魔法を発動させる。
要するに”銃を使わせなくさせてしまえば”いいのだ。
『
俺のこの魔法には”最大レンジ数はざっと二十が限界”だが其は関係ない。”相手を制圧できるまで魔法を即時連続発生させればいい”それだけだ。
俺は瞬時に使い物にならなくなったゲリラ兵士の百丁もの銃動作を《瞳》で既に確認していたので達也達の制止を受ける前に飛び出した。
「…!」
『
その光景は凄惨なものだったからだ。
俺は飛び込むと同時に”
「ひ、ひぃっ!!」
残った仲間が骸へと変えられた様子を見て割れたロビーの入り口から逃げ出した。
「…。」
その様子を見て逃げ出すテロリストどもには恩赦は要らない、と『
「八幡さん…何時もより雰囲気が怖いです。」
「八幡…何だか怖い。」
「何だがさっきと人が違うような感じがするぜ…」
レオの発言に全員が同意した。其程までに敵に対しての容赦がなくなっていたのだ。
「ううん。大丈夫…でもどうしてわたしは倒れたんだろう…?」
自分の体を抱くほのか。
さっきまで自分がどうして倒れたのか分からない。
体で覚えていることと頭の記憶が混濁しそうになるが触れている雫の温もりが今が真実だと伝えてくれている。
その悪鬼羅刹な戦いぶりに後方で待機していたメンバー達が困惑の声をあげていた。
普段のような飄々とした態度なのに敵に対しては一切の躊躇なく、むしろ残虐性が増しているようにさえ思えたのだ。
その笑みに薄ら冷たい怒りがにじむ。
戦闘が終わると普段の八幡に戻るのだから其も拍車を掛けているのだろう。
「八幡さん…一体どうしちゃったんだろう…。」
その呟きに達也が答えた、というよりも口を挟まずには要られなかったからだ。
言うな、とは言われていなかった達也は告げた。嘘と真実を混ぜてだが。
「ほのかはさっき襲ってきた敵に銃をむけられて混乱しているところに八幡が割って入ってさっきの状況になってたんだ。恐らく八幡にとってほのかが大切な存在だから傷つけられて感情が爆発しているんだよ。ほのか。俺も昔に…八幡のように深雪を…大切な者達を傷つけられて黙っていられる自信がなかったからね。(八幡のあの感情の爆発は…。)」
「達也さん…もですか?」
「ああ。その人物を大切にしていればこそだよ。」
達也の返答に少し安堵したほのか。其は深雪や雫、エリカも同様だった。
こちらに歩を進めてくる八幡を迎えようと。
ほのかに対しての返答に達也と深雪はその本質を知っているから言葉を濁す…すげ替えるしかなかった。
◆ ◆ ◆
八幡は倒れ伏している敵達の処理を現地の魔法師へ任せ戻るが二の足を踏んでいた。
「八幡さんっ!」
と思っていたが向こうの方から駆け寄ってきたのだ。
その行動に思わず脳がフリーズする八幡だったがほのかを初めとして全員が笑顔で迎えていた。
普段通りのものだった。
達也は八幡の肩を叩き深雪は隣に立つ。
その光景に八幡は不意に生まれた罪悪感に押し潰されそうになったが説明することは出来ないと、そんなことを思っていると達也と深雪が八幡へ意味ありげな視線をむけているのに気がつきその視線の意味を理解すると表面上は普段通りの自分で接することにした八幡。
「あーんもう!出番がなかったじゃない!」
膨れるエリカを見て全員が苦笑を浮かべていたが少し吐き気と怯えをたたえた表情を浮かべる美月とほのか達に普段通りに話しかけた。
「わりぃ…美月やほのか達には刺激が強すぎたな。大丈夫か?」
「ーいえ、大丈夫です八幡さん。」
気丈に振る舞っている素振りを見せては居るが目の前でスプラッター映画さながらの光景を見て耐えて吐かなかったのは八幡に対する恋心の成せる技だろう。
今はその気丈さが八幡にとっては有り難かった。其は美月も同様で視線を向けると頷いてくれた。
「しかし、八幡お前《灼熱地獄》も使えたのか」
「ああ。たまたまだけどな…ロビーの安全は確保されたからここから脱出してもいいんだが…現在進行形で義勇軍と国防軍の部隊が蜂起した敵兵士と戦闘を繰り広げてる。其こそ今出ていったらチープキルされる可能性が高いな…。」
そう提案すると八幡の言葉に全員が傾聴した。
「よくそこまで知ってるな。…こうなることを予測してたのか?」
その事を突っ込まれ八幡は少しばつの悪い表情を浮かべた。
「ああ。だから論文コンペが始まる前に警察や老師のお孫さんに声掛けして対応を練ってたんだが…予想以上よりも俺が、というよりも俺の部下が頑張りすぎたお陰で戦力は向こうの方が多くなったみたいでな…反省してるよ。」
全員が苦笑いを浮かべていた。
「連中の狙いは論文コンペのデータと魔法師の拉致、そして関東魔法協会に存在する日本の魔法技術の奪取だろう。」
八幡は付け加え「俺は別に魔法協会はどうでもよくて皆の安全が保証されればどうでもいいんだけどな」と。
「流石に相手の作戦分布図が変更になってる可能性があるから闇雲に飛び出すわけにはいかないが…どうするかな」
自分一人で戦場を駆け回るのは何ともないがそんなことをしてしまえば『
うーむ、と眉間に皺を寄せていると雫が助け船を出してくれた。
「八幡。VIP会議室を使ったら?」
「VIP会議室?何だそれ。」
「分からないのも無理無いよ。本来だと官僚級の政治家や経済団体のクラスの人たちが使う部屋だからね。大抵の情報にアクセスできる筈。」
「そんな部屋あったのかまさに秘密の部屋、だな。」
「うん、一般的には解放されていない部屋だから。」
「そんな部屋よく知ってたわね雫。」
エリカが本当に感心したという風な口調に、雫は少し恥ずかしそうな表情を浮かべながら得意気に答えた。
「暗証キーもアクセスコードも知ってるよ。」
「凄いんですね…。」
「小父様…雫を溺愛しているから。」
ほのかが付け加えた一言に八幡は思わず雫の手を握ってしまった。
この地獄からの環境に情報を知れるということは非常に有り難く目の前にいる雫は女神に見えてた。
「は、八幡///」
「雫が女神に見えてきたわ…いや最高に可愛い女神に訂正だわ…雫早速案内してくれ。」
VIP達が使うとなれば沿岸警備隊や警察の情報を仕入れることが出来るだろう。
いくら八幡の端末が最新タイプだとしても限界があるからだ。
八幡の言葉に表情の変わっていない筈の雫の表情は「八幡の役に立てる」ということで喜色を浮かべている様な感じを覚え珍しくオーバーリアクションな首を縦に振り八幡の手を取って会議室へと向かった。
その光景を見ていたほのか達からジト目で見られたが悪くない、と自分に八幡は言い聞かせた。
◆ ◆ ◆
雫に案内された会議室に到着しアクセスコードを使いモニターに傍受した警察のマップデータは海に面する場所が危険地帯を示す真っ赤で埋め尽くされていた。
警察や軍隊が動いていないわけではないのだが投入されている戦力が”多すぎるのだ”。
具体的な数字はモニターには表記されているわけではないのだが八幡が協力を要請した魔法師達をも飲み込みそうな赤い色のマップ分布図は見るものから見れば絶望しかなかった。
其はこの会議室にいる人物達も例外ではなかった。
「何これ…!」
「ひでぇなこりゃ…」
「こんなに大勢…どうやって。」
「恐らく追加の増援が来てたんだろうな…先んじて密入国してた敵対勢力は俺の部下が全滅…国防軍に任せたんだがおかわりがあったようだ。不幸中の幸いが俺が協力が要請した部隊が持ちこたえていることだろうな…時間の問題だが…幸いにも避難経路の道中に配備してくれていたお陰でこれから向かえば何とかなるかだろう。」
達也に視線を投げる八幡に気がついたのか向き直る。
「状況は八幡も言っているとおり悪い。この辺りでぐずぐずしていたら国防軍の応援が来る前に敵に捕捉されてしまうだろう。だからといって簡単に脱出させてくれる筈もないだろうし少なくとも陸路は無理だ。何より交通機関が動いていない。」
「ってことは海か?」
レオのその言葉に達也が首を振る。
「其も望み薄だろう。要請した艦艇に避難した者達が全員搭乗できるとは思えないしな。…その辺りは八幡の方で何か用意してないか?」
「既に実家に頼んで軍用のヘリを改造した機体を二機手配してる。一機で百名弱は余裕だ。が高射砲や艦艇からの攻撃、着陸場所を確保しないとな。駅前が一番陣取りしやすそうだ。」
そう告げてモニターに映る論文コンペの会場から一番近い『桜田駅前』を指を指す。
「シェルターには避難しないのかい?」
幹比古が八幡に質問するが首を横に振った。
「頑丈ではあるが…不安要素がある。」
「どう言うことだ?」
達也が質問をする。
「連中の…装備の一覧に最新型の小型対地底貫通用のミサイルがあった。増援で来ている敵部隊に持ち込まれてる可能性が高い。」
「「なっ!?」」
「…持ち込まれた装備は俺の部下が全部破壊してる筈だがもしかしたらな。」
幹比古は当然ながら流石の達也も驚いたらしく言葉の語尾に「!」をつけているのが分かった。
「其なら駅前に向かってヘリで脱出する?」
「ああ。其が安全だろうしな。うちで手配したヘリは最新鋭の防弾防爆対魔法装甲のヘリだ。そう簡単には落とされないよ。だが最悪の状況は想定しておいた方に越したことはない。」
「なら安心だね…それじゃぁ、」
エリカが今にも駆け出そうな勢いだったが今度は達也が「待った」を全員に掛けた。
「すまないが皆。少し時間をくれないか?」
「えっどうしてですか達也さん。急がないと…。」
一刻を争う状況で「待ってくれ」と言った達也に反応したのはほのかであった。
この中で一番民間人に近い感性を持っているからこその彼女の声でありその疑問は尤もであったが近くにいた八幡がほのかの肩に手をおいて目線で諭すとはっ、となったほのかは「ごめんなさい」と謝罪して達也も苦笑しながら回答した。
「デモ機のデータを処分しておきたい。」
「…そういや忘れてたわ。」
八幡のフォローが入ると全員が納得し頷いた。
「八幡、司波。」
デモ機のある会場のステージ袖に向かう最中に腹の底から響くような声が掛けられた。
そんな存在感を出せるのはただ一人だ。
「十文字先輩。」
振り向いた先に巌のような男が現れ沢木先輩と服部先輩を引き連れているのが見て取れた。
「他の者達と一緒か。八幡はともかくとして司波達は脱出したのではなかったのか?」
其は遠回しに「さっさと避難しろ」と言っているに他ならず八幡は思わず苦笑し状況を説明した。
「入り口部分の敵部隊を制圧して確保した後に狙いであろうデモ機のデータを盗まれないように破棄しに来たんですよ。達也達とはバラバラに行動するよりも良いかと思ったので。」
十文字は八幡の言葉に納得しているようだ。
「しかし、会長…じゃなかった七草先輩達以外は地下通路へ向かったぞ。」
「地下通路…不味いな。」
「地下通路は不味いのかい?」
沢木が八幡の台詞に反応し問いかけてきた。
「不味い、ということのほどじゃないっすけど一本道じゃない地下通路だと他のグループとの遭遇もあり得る可能性があります。其に連中が地下施設制圧用の地表貫通弾を持ってきていないとは限らないので…」
「そんな馬鹿な…!」
「事態は常に最悪の状況を予想しておくのが最善手、なので…まぁ杞憂であれば尚良いですけどね。」
その言葉を聞いた十文字は沢木と服部に指示を出した。
「沢木、服部。中条達の後を追え。…八幡地下通路を進んだ生徒達を避難させる手はあるのか?」
あずさの後を追って駆け出す沢木と服部の後を追う後ろ姿を見送りつつ八幡へ話しかける。
「実家から最新鋭のヘリを二機手配してるので今地下シェルターへ向かっている人たちも余裕で乗せられる筈ですよ。」
八幡がそう言うとふっ、と軽く笑って告げた。
「さっさとデモ機のデータを消去し避難を完了させるぞ。いくぞ八幡、司波。」
「了解です。十文字先輩。」
「分かりました。」
多くを語らず互いの言いたいことが分かった二名はステージ裏へと歩を進めた。
七草と十文字二人の”十師族”、そして達也の三人が並ぶ後ろ姿を見ていた深雪とほのか達は頼もしさを覚えていた。
「八くん!」
「うおっ!姉さん…人前だからね?」
「もう…心配したんだからね。大丈夫なの?」
デモ機が設置されたステージ裏へ足を踏み入れたら姉に抱きつかれると言う一幕が展開され後ろにいた深雪達の機嫌が悪くなった、というのは想像に固くない。
「いやあんな連中が俺に傷つけることも出来ないし。」
「もう…お姉ちゃんをあまり心配させないでちょうだい。」
「…何をやってるんですか?」
何時もながらの姉弟コントをしている八幡達を尻目に達也はこの場にいるメンツに思わず眉をひそめる。
鈴音に五十里がデモ機の前に立っており、真由美、摩利、花音、桐原、紗耶香が取り囲んで見ていた。
「デモ機のデータの消去ですが?」
さも当然なことを聞くな、というテンションで鈴音に返されてしまい達也は絶句せざる得なかった。
「七草達は避難をしなかったのか?」
「リンちゃんや五十里くんが頑張っているのに私たちだけ先に逃げ出すなんて出来ないでしょ?其に…八くんもいるのに…ね。」
最後の呟きは十文字には聞こえなかったが達也の代わりに代弁してくれた十文字にそう答えた真由美に対し言い返せなくなった。
その後残ったデモ機を破壊もしくはデータの消去を任せられた十文字と八幡と達也。
その後に控え室に集まって今後の方針の足並みを揃えることにした。
八幡と達也はそれぞれ『虚無』と『分解』を使い残った機材を物理的に破壊、消滅させたのだった。
◆
「終わったっす…。」
「戻りました。」
「お帰り、早かったね。」
会議室の扉を開けると既に八幡と達也以外のメンバーが控え室に集合していた。
破壊及び消去したことを伝えると予想はしていただろうが下級生がこんなに早くデモ機の処分をしたことに驚き表情を露にした花音は当然というか聞いてきていた。
「…企業秘密で。」
「秘密です。」
「むぅ…可愛げのない後輩たちめ…」
そんな花音の反応に許嫁の五十里が反応しその言葉に不承不承ではあるが大人しく引き下がった。
会議の内容は八幡がVIP控え室で言ったことをほぼ同じで八幡と同級生は口を挟まなかったが追加の情報でやはりあずさ達が敵兵士とバッティングして応戦しているとのことだ。
ただ人数が少ない上で後を追いかけた沢木と服部が援軍に駆けつけ時期に収拾されそうだ、とのことらしい。
沿岸防衛隊が手配した避難船は押し寄せた避難民を収容するので一杯で全員が脱出できないという結論になった。
八幡が手配、というよりも察知して既に準備していたヘリが桜木町駅前に避難民を乗せるために向かっている。
結論として全員の意見は『ヘリコプターでこの
「…わたしも摩利さん達の意見に賛成です。」
花音達も反論はない賛成です、というスタンスを取っていた。
深雪達一年生は八幡と達也に視線が注がれる。
反応を見たい真由美と摩利の視線は二人に向けられたが…その目は互いに別の方向へ向けられていたのだった。
八幡と達也は互いに別々のものを視認し背中合わせで黒色のCADと銀色のCADを引き抜いた。
「八くん!?」「達也くん!?」
驚きを浮かべる真由美と摩利。
時間が無いわけではなかったが対応できるのが”この二名しかいなかった”ということだ。
八幡は《瞳》の未来予知で高度二千フィート上空を飛んでいる”地底貫通弾”を搭載したステルス爆撃機の姿を。
達也は訓練の賜物で気がつき壁の向こうに迫ってきている装甲板に覆われた大型トレーラーが制圧用の人員を引き連れ突撃してきていた。
『ちっ…!!』『……!』
悪態をついて八幡は戦闘機を《瞳》越しに収め加重複合系統魔法『
達也も標準に収めて分解魔法『
この会場が吹き飛ぶ、という最悪の事態は免れた。
「八くん…今の魔法は…何なの?」
しかし知覚系統魔法「マルチスコープ」を使用していた真由美に八幡の魔法を見られてしまった。
「今の加重系統の新魔法だよ。まさか爆撃機が来てたとは思わなかったけど」
「そ、そうなのね…」
あっけらかんに答える八幡に真由美は納得せざる得なかった。
”目の前で爆撃機が『無』に飲み込まれる”という光景に若干の放心状態になっていたのだろうが会場が大きく揺れる。
「っ!?」
視界を維持したままの真由美は青ざめていた。
八幡と達也は素早く外の景色を《瞳》越しで見ると小型のミサイルが飛翔してきていたのだ。
艦砲攻撃と歩兵用のミサイルの群れがこの会場を殲滅させるために向かって来ており八幡と達也は迎撃準備を行うが其は必要なかった。
巨大な障壁が展開され着弾する前に横からの攻撃で全て撃墜されたからだ。
その直後に国防軍少尉藤林響子がまるでタイミングを計ったかのように入室しその姿に真由美は驚いていた。
響子はというと少し申し訳なさそうな表情を八幡へ向けていたが首を横に振ると何時ものような優しい表情になっていたのだった。