俺が七草の養子なのは間違っている   作:萩月輝夜

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拠点防衛戦

八幡達が集まる会議室に現れた藤林だけではなかったことに真由美を除いて他の人物達は何が何だか、という表情を浮かべていたが一番驚いていたのは他ならぬ八幡であった。

野戦用の戦闘服を着用した藤林の背後から少佐の階級章をつけた壮年の男性が現れ達也を真っ先に視界にいれて手を後ろに組んで藤林の隣に立った。

 

困惑に染まる表情を浮かべている達也に藤林が話しかける。

 

「特尉、情報統制は一時的に解除されています。」

 

その言葉を受けた達也の表情から困惑は消えて目の前の壮年の男性へ敬礼をする。

その姿を深雪と側へ移動して来ていた八幡以外は驚きを隠せずに見つめている。

不安そうにしている深雪の手を八幡が握ってやるとハッとした表情になりすり寄るように八幡の手を握り返した。

壮年の男性が達也の敬礼を目にして視界に八幡を捉えて口を開く。

 

「国防陸軍少佐、風間玄信です。訳あって所属を明かすのはご勘弁願いたい。」

 

(どうして101が…と藤林少尉が所属しているから当然といえば当然、か…。)

 

その自己紹介に含みがあるな、と八幡は思ったが口に出すほど野暮ではなかった。

その台詞は姉である真由美と摩利に向けてナニかに配慮して発言しているのだと感じ取った十文字は公的な肩書きを名乗りあげると風間の視線は八幡へと向かった。

一瞬呆けてしまうが藤林から微笑を浮かべられていたのを察して子供心ながらに「しまった…」と思いつつ佇まいを直して八幡は目上の人間に使う言葉遣いで自己紹介した。

 

「十師族七草家・七草八幡です。」

 

風間に対し一礼をする。

目上の人間である風間が高校生に対して小さく一礼しているのを見て摩利達は驚いていたが口を開かなかったのは無意識に威圧感を八幡が出していたからだろうか。

そんな小さな疑問は霧散し風間から指示された藤林が現在の状況を説明する。

蜂起開始直後に交通機関や主要機関を防衛していた保土ヶ谷駐屯地の部隊、並び警察の魔法部署が対応に当たっていて侵略軍に応戦し今は其ほど被害はおおきくないが予断を許さないため鶴見、藤沢から1個大隊が追加増援を送るとのこと、そして関東魔法支部は義勇軍を結成し防衛戦を行っているらしい。

その説明を終えた藤林を労い達也へ話しかける際に「特尉」の呼称で呼びつける。

 

次に放った言葉に真由美と摩利が口を開きそうになるが風間がその威圧感で黙らせていた。

 

其は達也に”出撃しろ”との命令。

つまり達也は”国防軍の軍人だった”ということに八幡と深雪を除く全員がショックを受けていたようだ。

驚愕に染まっている魔法師達に説明口調で風間は告げた。

 

「国防軍はここにいる皆様に対して特尉の地位に関しての守秘義務を要求する。本件は国家機密保護法に基づく措置であることをご理解されたい。」

 

反論しようとする小娘達に風間の射貫く視線がその反言を黙らせる。

達也はまるで笑みを張り付けたかのような上官に当たる存在に別場所へ誘導されていたがその時八幡と深雪は達也の元へ赴き額にキスをして誓約(オース)を解除する。

溢れる光の奔流に会議室にいる誰もが一歩、二歩と後ずさるが深雪と八幡は別だった。

その行動に面食らった八幡だったがその行動は何かしらの制約を破棄するものだと察して普段通りの表情に戻る。

 

「ご存分に。」

 

八幡はこれから命のやり取りへ向かう親友へいつも通りの態度で声を掛けることにした。

 

「皆無事に家に返すからお前は仕事頑張れよ?色々聞きたいことはあるが無事に帰ってきてからだな。」

 

何時も通りの二人にその変わらない表情に笑みが浮かんだように思えた。

 

「ふっ…ああ。行ってくる。深雪達を頼むぞ。」

 

「任せろ。」

 

おもむろに八幡と達也は手を差し出しハイタッチを決めた。

 

◆ ◆ ◆

 

地下を進む八幡達とは別の避難者、つまりはあずさ達だったが地下通路から会場へ戻り地上を行こうとしたが案の定襲撃にあい戻る方が危険になったため沢木、服部、十三束という屈指の実力者達と共に桜木町のシェルターへ向かうことになった。

その通信を聞いた八幡達は一先ず駅前と歩を進めた。

 

既に制圧したロビーには会場警備をしていたプロの実戦魔法師達は関東魔法支部の防衛戦の戦列へ加わるためにその存在は確認できてなかった。

道中で戦闘員の死体が転がっていたがほのか達の視線に入らないように八幡含む男達がガードしていた。

藤林の隊は自身含め八名と分隊規模にも満たない集団であったが全員がプロであった。

八幡の左右には深雪と真由美、後ろにはほのかと雫がいて左にいる真由美に話しかけられていた。

 

「八くん、いつのまに響子さんと知り合いだったの?」

 

「ん?ああ。佐織繋がりさ。」

 

その会話を聞いていた藤林が振り向き軍務中ではあるがフランクな物言いで参加してきた。

 

「本当に八幡くんの動きがなければここだけの話我が国は後手に回って更なる被害をうけていたかもしれないわ。」

 

「大袈裟っすよ。そもそもその情報は佐織達…部下が頑張ったからで。」

 

「上が指示しなきゃ下は動かないわよ?その点は八幡くんは非常に優秀な上官だと言えるわね。軍に来ない?」

 

突然の勧誘に苦笑いを浮かべる八幡。

 

「実地よりデスクワークの方が得意なんで遠慮しときます…。というよりもそう簡単に十師族の子供を勧誘して良いんですか?」

 

「君のような優秀な人材は喉から手が出るほど欲しいかも。だから気をつけなさいね?」

 

「そうっすね…藤林さんみたいな美人な上官がいるなら考えます。」

 

緊張を解そうとえらく真面目に、いたって真面目に放ったその言葉は一回り年上の藤林を動揺させるには十分だった。

 

「えっ…///」

 

顔を赤くしてしまう藤林に気がついた八幡ラバーズは詰め寄る。

 

「は~ち~くぅ~ん?」

 

「八幡さん?」

 

(しまった…失言だった。)

 

「ふふっ。」

 

手放しで誉めて警告を促す藤林に警戒度を無意識にあげてしまい普段の失言をして好意を抱かれている女子二名の口撃うけている八幡の様子に気がついたのか年上らしい柔らかい笑みを浮かべていた。

その笑みを見て八幡は「まだまだだな」と心の中でそう思った。

 

藤林の隊が乗ってきた車両はここにいる全員が乗れるほど広いものではないといわれ元より徒歩で桜木町の駅前が救助ポイントになっているためそこへ到着し守護すれば良いのだ。

ここで十文字は個別で行動することになる。

十師族の一員として魔法協会防衛への戦列へ加わることにした彼は車両を一台と藤林の部下を引き連れ分かれた。

八幡は十文字に避難者の護衛をする、ということを伝えた。

 

二台あった車両が一台なくなってしまったので前方を守ることが出来なくなってしまい魔法師を配置することになるのだが其に八幡が立候補した。

姉や深雪を矢面に立たせ危険な目に会わせるぐらいなら自分でやろうとそう思った八幡は右腕に装着した長方形の音声入力型のブレスレットに指示を出した。

同時に違う場所『次元解放(ディメンジョンオーバー)』で作り出した保管庫のクラックを作り出しあたかも今呼び出した体を装う。

 

「コール、グレイプニル。」

 

短く告げるとクラックを潜り抜け直ぐ近くの車道に出現し二輪駆動独特のエンジン音が響き渡った。

敵かと思い藤林達は身構えるが八幡が説明した。

 

「いや、俺のCADですよ。」

 

バイクの音とCADという単語が結び付かない藤林は思わず聞き返してしまった。

 

「CAD…?この音がですか?」

 

「まあ、見てもらえば分かりますが…あ、来たな。」

 

八幡の元に搭乗者のいない真っ白な大型自動二輪が到着しスタンドが自動に降りて待機している。

その光景に藤林を初めとする軍属の人間と途中で拾った避難民は驚いていた。

 

「こ、これがCAD?」

 

「はい…まぁ驚くのは早いですが。」

 

そう驚く藤林を尻目に八幡は追加音声をブレスレットに入力した。

 

「『タイプシフト、グレイプニル』」

 

次の瞬間バイクが少し地面から浮いて本来なら”あり得ない”変形を開始した。

車体が分割されまるで某平成四作目の特撮番組(仮面ライダー○○○○)のような人形に変形し頭部の目の部分が車体が純白で洗練されたデザインでクリアのバイザーが緑に輝いて八幡に付き従う。

その姿を見た先ほど迄戦火に巻き込まれ元気のなかった子供達がおおはしゃぎしていたのが印象的だった。

 

「こ、これは…?」

 

「自分が作成した自動二輪変形CAD『グレイプニル』ですよ。万が一のために持ってきてたんですけど。」

 

装着したブレスレットに音声指示を出す。

 

「後方にいる避難民に絶対に手を出させるな。」

 

変形したグレイプニルは声を発さずに頷いて前方の直衛について足部に当たる部分がスライドしナニかが飛び出し握り込む。

 

「あっ、そのCAD…」

 

CADに気がついたのは後ろにいた雫でありその形は見覚えがあった。

グレイプニルのマニュピレーターが《サーペンテイン》を握り込み準備を終えた。

 

「藤林少尉。お待たせしました。前方は俺とこいつが守護するので後方で警戒をお願いします。」

 

「そ、其は良いんだけど…そのCADって…。」

 

「ああ。大丈夫です。こいつには人工知能と俺のサイオンを流し続けると無限に動く自己稼働判断型のCADなので。」

 

藤林は目の前の少年がとてつもない世紀の発明品を持ち出したことに面を食らっていたが直ぐ様我に還り行動を始めた。

 

◆ ◆ ◆

 

第三高校は脱出手段として会場に来るために乗ってきていたバスを守護するために奮闘していた

 

車をバリケードにして将輝、吉祥寺、愛梨達が敵兵士と対峙していた。

 

「会場の横付けした方がよかったかしら?」

 

「しっかしなんでこんな離れたところに…。」

 

「そういう街の作りなんだから仕方ないでしょ…。」

 

ぼやきながらしっかりと敵対者を始末している当たり流石という他無いがトーチカとして使用する特別仕様の大型バスのタイヤが破壊工作されていたようでパンクしてしまっていた。

そこで生徒と先生でバスのタイヤ交換を行っていた。

幸いにしてその場所はバスの発進場になっていたため機材と予備のタイヤが格納されており現在は時間稼ぎのために戦闘を行っていたのだ再び交換中のタイヤとは別のタイヤがロケット弾が不幸中の幸いで後部地面に着弾した。

しかし破片が突き破りパンクしてしまった。また一からの交換のやり直しである。

その報告を聞いた将輝と愛梨は激怒した。

かの邪知暴虐な敵へ必ず一発食らわせねばと決意した。

 

「このヤロウ!」

 

「やりやがりましたわね!」

 

”一”の数字持ちが同タイミングで敵に向かって沸騰した。

その様子に少し呆れながら注意をしようと思った吉祥寺だったがふと考えを変えた。

タイヤ交換を素早く進めるために”この二人に暴れてもらい気を引いてもらえばいいのだ”と。

吉祥寺は怒りを露にする友人達を放っておいて引率教員のところへ向かった。

頼りになるクラスメイトと自らの将に任せて。

 

◆ ◆ ◆

 

一方、八幡達は救助地点(ランディングポイント)である桜田駅前広場へ八幡と『グレイプニル』が前衛(ポイントマン)を務めていた。

道中に接敵すること無く到着したのだが駅前広場付近の地下シェルターがあるはずの地面が大きく陥没していた。

その場の惨状に八幡を除く人物達は言葉を失ってしまった。

その付近にいたのは”足を持った戦車”だった。

 

「直立戦車…一体何処から…?」

 

藤林にとっても予想外の敵だったのか呻くような声が唇から漏れ出す。

舗装され補強された地面がたかだが二機の直立戦車にここまでずたぼろにされるわけがないと何かしらの攻撃を直立戦車から地下シェルターへ向けて放ったに違いなかった。

花音が下手人に向けて攻撃を放とうとして五十里は咄嗟に止めてしまう。

『地雷源』を使うのだろうと心配したのだろうが流石の花音もそこまで短絡的ではないがその動きは大きな隙になりすぎた。

直立戦車が四連装20mmガトリングをこちらに向けようとしているのをみて花音達はCADを操作した。

見据えた相手は既に、

 

ー両断されて爆発していたのだった。ー

 

「へっ!?」

 

花音が爆発を察知するより前に既に刀を装備した八幡とバイクのグリップ部分ごと引き抜くと紅い光刃を出力した剣を持つグレイプニル。

両者は『縮地』と『自己加速術式』を発動して近づき縦一閃をした。

 

ずるり、と直立戦車は真っ二つに斜め切り落とされ中にいた搭乗員すら切断しオイルなのか血なのか分からぬ液体を撒き散らし絶命させ爆発した。

数秒も掛からずに制圧してしまった。

八幡の直立戦車だったものを見る目は普段と違い”ガラクタを見るような目”だったが気がつくものはいない。

其は八幡という自分ですらだった。

 

一方でいつの間にか敵を斬り伏せた八幡と人の形をしたCADの後ろ姿を見つめ…というか苦笑する藤林の近くで呆然とする花音を尻目に真由美に話しかける。

 

「私たちの出る幕がなかったわね…真由美さん…彼一体何者なの?」

 

「八くんは…義弟。いえ、とっても頼りになる私の弟です。」

 

完全な惚気だった。そういうことを聞きたかったわけではなかった、と藤林は思ったが真由美が姉ではなく女の顔になっているのをみて藪蛇しないように、と心に決めていた。

 

そんな会話をしていると八幡と《グレイプニル》が普段の足取り出戻り同じく避難するために隊列を作っていた幹比古に話しかけていた。

 

「幹比古、地下の様子を精霊を使役して覗き見ることは出来ないか?」

 

そう言われて幹比古は精霊魔法を使用し地下の様子を覗き見ていた。

 

「…どうやら地下に向かった人たちは戻ることが出来なくてシェルター前まで向かったみたいで今この下には中条先輩達が避難してるみたいだ。幸いにも全員が無事みたいだよ。誰かが生き埋めになっている、ってこともないみたいだ。」

 

その発言を聞いて八幡は藤林に問いかける。

 

「生き埋めになった人達の救助はいつ頃行われるんですかね?」

 

「分からないわ。戦闘が落ち着かないと臨時のトンネルを掘ることは出来ないし…明日が明後日だと思うわ。」

 

八幡は内心で遅いな、と思いつつ戦闘中だからな…と割りきっていたが同じ学校の其も中条先輩達を瓦礫の下に閉じ込めておくのは忍びない、と思った八幡はおもむろに陥没した駅前広場に手を伸ばす。

 

《瞳》の力を発動させ大体の場所を把握して加重魔法を瓦礫とその周辺の空間に発動させた。

繊細克つ大胆に陥没し舗装され地下内部へ崩れ落ちた鉄筋とコンクリートとアスファルトをまるでクレーンゲームの如く持ち上げる。

その動作は一人では無理でありCADである《グレイプニル》も加わりその重力制御はまさに”神業”だった。

 

「「「「「…はい!?!?!??」」」」」

 

全員が呆然とした。

陥没した部分がまるで切り取られたような光景に重力制御に大きな資材が浮かび上がらせた際に落ちないように『超重力の網(グラビティ・バインド)』を発動と同時に鉄骨にコンクリートに埋まっている鉄骨に対して磁力制御…と数十通りの魔法の行使をしているのだ。

 

それは地下シェルターに生き埋めにされてしまったあずさや避難民も突如として明るくなった天井を見ており愕然としていた。

 

「なに、これ…」

 

「すげぇ…。」

 

「(こんなもんか…)グレイプニル。この路材を処理してくれ。」

 

八幡がグレイプニルに指示を出すと頷き脚部収納からCADをもう一丁取りだし巨大なビルのような質量に狙いを定め引き金を引いた。

次の瞬間に巨大な地面を構成していた地面は圧縮され圧壊していく。

圧縮される行程で莫大な熱量が発生しているはずなのだがその熱量が外へ漏れでないように八幡が特殊なフィールドを形成し保護をしていた。

 

(全部縮小できるがそうすると藤林さんとかに怪しまれるからな…ほどほどにしとくか。)

 

グレイプニルが発動している魔法で空中で圧縮された資材は六畳間ほどのプレハブ小屋の大きさにまで縮小し空いている箇所へ処分された。

 

その光景に開いた口が塞がらなかった。

一人の子供がぼそりと呟きそれは伝播していき人々はここが戦場というのを加味して八幡を称える拍手が控えめに広がりそれを聞いた八幡は頭に疑問符をつけていた。

 

◆ ◆ ◆

 

駅前広場を制圧し生徒達でシェルターに避難していた人達を地上へあげて近隣の建物を拠点とし陣地を作成する作業中違う地点で協力していた佐織達と寿和が八幡達と集合した。

作業に当たっていた八幡に話しかけていた。

グレイプニルは子供達を落ち着かせるために遊び相手になっている。

 

「すまない八幡。合流に手間取った。」

 

「状況は?」

 

「各地で義勇軍と軍隊、警察組織が頑張っているようで抑え込みに成功している。国防軍の独立魔装大隊が戦列加われば鎮圧は時間の問題だろうな。」

 

「そうか…お前達はここに集った避難民の護衛に輸送用のヘリが到着するまでチームで当たり死守してくれ。」

 

「了解。」

 

「千葉警部もご苦労様です。」

 

「いやはや…そちらこそご苦労様、というべきなのかな?」

 

「警部ほどじゃありませんよ。」

 

八幡と佐織が上司と部下のような会話を繰り広げておりと途中で会話に入った寿和と話している光景を見ているエリカはなんだか面白くないものを見るような目で兄と想い人の会話を見てた。

向こうでは真由美達が今後の展開について相談している。

 

藤林は野毛山に展開している陣地に避難することを進めたがこの広場に集まっている避難民の数は数百を越えており現在戦闘中の軍の陣地に全員を避難させる、というのはかなりリスキーであると言えた。

しかし、八幡が予め用意していたヘリも全員を乗せられない。

そこで雫が言葉を発する。

 

「私も八幡と同じように父の会社へ救助のヘリを寄越すように連絡します。そうすればここにいる避難民を脱出させることが出来る。」

 

結果としてここに魔法師が避難民脱出を援護するために残る、ということになった。

なったのだがその人選がいけなかった。

弱い強いではなくその人数だった。

 

「市民が脱出するまで私が死守します。」

 

その真由美の物言いに摩利が食って掛かった。

 

「バカなことを言うな!お前一人でここに残るつもりか!」

 

真由美はフッと笑って確固たる意思を伝えた。

 

「なにも私一人でここに残るわけじゃないわ。ここには八くんもいる。それにね摩利。これは十師族に名を連ねる者としての義務なの。私たちは十師族という特権の名のもとで様々な便宜を享受している。今の日本には貴族階級は存在しないけど私たちは法に束縛されずに自由に振る舞うこともしている。こう言う非日常的な状況だから私は、私たちは自分の力を役に立てなきゃならない。」

 

遠くにいた八幡が傍に立ちそれに気がついた真由美が頷く。

確固たる意思が真由美の言葉に込められて摩利がいい淀むが五十里が、花音、エリカ、深雪、雫、ほのか、幹比古、レオ、美月に紗耶香に桐原がここに残ると告げた。

それを待っていたかのように摩利が鈴音に不敵な笑みを見せた。

 

「市原。下級生がここまでいってこの場に残る、と言っているんだ。上級生たる我々が避難するわけにはいかないよな?」

 

「そうですね…真由美さんだけではありませんが敵の数は多いのです。頭数は多い方がいいでしょうし、真由美さんは意外に抜けているところがありますからね。」

 

その言葉を聞いて本当に呆れている姉さんをみて八幡は内心で「目撃者が少なければ『虚空虚無(ボイド・ディスパージョン)』と『次元解放(ディメンジョンオーバー)』でほのかを襲った同族達を皆殺しにしてやろうと思ったんだが…正直さっさと避難してほしい」と内心で思っていた。

 

その表情を普段通りの面倒くさがりな表情に隠し真由美は呆れをその美貌に染めて藤林に向き直り説明した。

その説明を受けた藤林は部下を護衛につけようとしたが一人の男に阻止された。

 

「いえ、それには及びません。藤林さん、いや藤林少尉。ここは小官がお引き受けいたします。」

 

千葉警部…寿和が藤林に名乗り出たからだ。

続けて言葉を掛ける。

 

「軍の仕事は外敵を排除することであり市民の保護は警察の仕事であります。我々が此方に残りますので藤林少尉は本隊と合流なさってください。」

 

「了解しました。千葉警部。よろしくお願いします。」

 

慣れない口調に少し詰まる部分があった説明に藤林は触れずに綺麗な敬礼をして颯爽と部下と共に去っていった。

藤林が去ったあとに寿和がエリカに容赦ない突っ込みを受けてしょんぼりしていた。

それぞれが武器を受け取ったり準備を進めるなかで八幡はほのか共に鈴音が端末にて呼び出した地図をほのかが光学魔法を用いて衛星写真と重なりあい立体的に映し出す。

 

その画像をみて八幡はほのかを褒めた。

 

「すごいなほのかは…俺でもこれは出来ないわ。流石は光魔法の使い手。」

 

「そ、そんな大したことじゃないですよ八幡さん///」

 

ほのかは顔を紅くして謙遜していたが八幡の褒め言葉を聞いて鈴音達も褒め始める。

思わず顔を紅くしてお礼?を言って丁寧にお辞儀をするほのかに上級生の摩利達は八幡達を始めとする特徴的すぎる下級生がいるなかでこの反応は新鮮で初々しい気分になっていた。

 

八幡はそんな中で端末を起動し何処かへ連絡をした。

 

二つのグループに分かれた数分後に不意に八幡が大通りの方を向いてホルスターから特化型CAD(フェンリル)を引き抜く。

《グレイプニル》も特化型調整したCAD(サーペンテイン)を大通りに方へ構えた。

引く抜くと同時に加重魔法によって制御された重力が直立戦車を押し潰し爆発することなく制圧された。

 

「「「「「!!!?」」」」」 「「「「「!?」」」」」

 

それを引き金にして魔法第一高校の腕利きの生徒が臨戦態勢に入った。

 

「……。」

 

輸送ヘリの発着場所を死守するグループと魔法師が構築した市民が入る簡易シェルターを守る”防衛戦”が開始された。

 

◆ ◆ ◆

 

八幡達が侵略者達と戦闘に入る前。

時は少し遡り横浜国際場に併設されている大型車両の駐車場では三校の脱出用のトーチカである大型タイヤの交換が進められていた。

注意を引くために敵兵士と戦闘を繰り広げる”一”条と”一”色。

過半数の敵が制圧されていた。同時に味方も戦闘不能になっているものが多かった”一条の魔法を見て”だ。

上級生が「加減をしろ!」と怒鳴り声を挙げるが将輝は苛立ちに満ちた声で遮った。

赤みを帯びた拳銃型のCADの敵兵士へ向けてトリガーを引く度に”紅い花”となって散った。

また一人味方側が「うっ…!」と口を抑えて戦闘不能になる。

 

(この程度で戦えなくなる程度なら最初から戦場に立つな…!)

 

苛立つ感情を抑えつつもう一人遮蔽物から武装一体型のCADを振るう頼りなる女傑へ視線を向けると将輝と同じペースで遮蔽物に隠れる敵兵士の頭上に雷を落とし屠っていた。

 

(すごい!…このCAD、優美子に調整してもらったとはいえこんなにも使いやすいなんて…!これを自作出来てしまう八幡さま一体何者なのかしらね。)

 

愛梨は八幡が更に大好きになった。

自分と学友を生かすためにこれ程の魔法を与えてくれた彼に感謝するしかなかった。

 

八幡が開発した愛梨専用の『武装一体型CAD(ライトニング・シオン)』に搭載された放出魔法”稲妻落とし(ブリッツ・フォール)は”愛梨の魔法の性質上”速度”もさることながらその威力は凄まじく攻撃を受けた敵兵士が黒こげになり発火し直ぐ様炭化してしまうほどの威力があった。

発動レンジは”一人”ではあるが愛梨の魔法発動の速度を考えれば十分すぎた。

 

一条家の秘技”爆裂”を使い敵へ真紅の華を咲かせる将輝。

一色家の才女が扱う魔法は”稲妻が如き”速度で敵へ雷を落として屠る愛梨。

一部の生徒と上級生を除く三校生徒は真の意味で”クリムゾン・プリンス”と”エクレール・アイリ”の二つ名の意味を知るのだった。

 

 

最後の一人を同時に魔法を発動した将輝と愛梨は仕留めたことを確認すると将輝がぼそり、と呟いた。

 

「もう終わりか…?」

 

「襲撃を画策したにしては随分とお粗末な陣形でしたわね…狙いは一体…?」

 

駐車場の辺りが静かになったことに気がついた将輝の呟きに愛梨が反応していた。

 

「これで終わりかどうかは分からないよ。今の僕たちはそれを知る術を持たないのだから」

 

将輝と愛梨の反応にタイヤ交換を終えた吉祥寺が答えながら近づいてきた。

彼らのまわりには魔法によって倒された敵兵士の死体だけが転がっている。

 

「脱出するなら今しかない。タイヤ交換は終わっている。」

 

そう催促されて将輝は赤みを帯び光沢を放つCADを懐にしまい愛梨は紫色武装一体型の小剣を腰の鞘へ納める。

柄に触れながら愛梨は想い人に感謝した。

 

そんなことを思っていると端末が不意に震える。

 

「ん…?誰かしら…八幡さまからだわっ」

 

急ぎ端末の着信をオンにして通信を行う。

 

『愛梨、無事か?』

 

「ええ。それは此方の台詞ですわ。八幡さまはご無事で?」

 

『ああ。今駅前の広場で脱出用の輸送ヘリの到着を待ってる。』

 

八幡がやられるとは微塵も思っていなかったがそれでも恋する乙女としては心配だったのである。

 

『そっちはどうなんだ?無事に脱出できそうか?』

 

「ええ。先ほど脱出用のバスの破損したタイヤの交換と脱出路の退路を確保しましたわ。」

 

『なら今のうちに脱出してくれ…今愛梨達が戦ったのは現地工作兵士だ。本隊が展開される恐れ…いや本格的に攻撃が開始される。』

 

愛梨は思わず耳を疑う。

その反応に将輝と吉祥寺が漏れ出た音に食いついていた。

 

「まて!七草。それは本当か?」

 

いきなり会話に割り込んできた将輝に通信機越しに顔をしかめたが仕方がないと割りきって話を続ける。

 

『…一条か。ああ、間違いない。俺たちが散々暴れまわったお陰で奴さんも痺れを切らしたんだろう。「現地兵じゃ対応できない」ってな。』

 

「そうだったのか…。」

 

『通信機越しだとそっちは落ち着いたようだな。そこは敵の偽装揚陸艦が近い埠頭だ。早く脱出してくれ…』

 

次の瞬間遠くの方で爆発音が轟く。それは街中の駅前付近の方向からだ。

将輝達は向こうで戦闘が行われているのだと理解した。

 

『攻撃が始まった…急げよ!』

 

「八幡さま!わたくしも…。」

 

助太刀に参ります、と告げようとしたがそれは止められた。

 

『駄目だ。…愛梨は脱出してくれ。お前ほどの実力者が居てくれれば三校生徒も安心だろうしな。それに俺は”七草”だぜ?さっさと帰ってマッ缶をキめたくてしょうがないんでな。無事に家に着いたら連絡してくれよな。んじゃ。』

 

きっぱりと断られてしまい二の句が告げなかった愛梨は端末を見つめるしかなかった、が直ぐ様気を取り直しバスへと向かう。

そして先程の八幡の言葉を聞いた将輝はバスに乗らずに魔法協会支部へと向かうことになる。

吉祥寺はそれを引き留めるが「一条だから」とその言葉の意味と重さに歩き出す将輝の後ろ姿をただ見送るしか出来なかった。

将輝を見送りながら三校生徒護衛のためにバスに乗り込んだ吉祥寺と愛梨はバスで危険区域を脱出することになった。

 

◆ ◆ ◆

 

防衛戦の口火を察知した八幡は襲い来る”正式型の直立戦車”へ特化型CADを向けて引き金を放って迫り来る三輌へ加重魔法を叩き込む。

次の瞬間にはまるで空き缶を潰すかの如く圧縮され舗装された地面へ紅い水溜まりが出来ていた。

 

「来るぞ。」

 

その言葉と同時に幹比古の精霊魔法が敵襲を関知した。

が、その数に愕然とした。

 

「そんな…いくらなんでも多すぎる!」

 

ビルの隙間から顔を出した直立戦車の数は目に見えている範囲だけで凡そ"13"。八幡が今三輌沈黙させたがその数は市民へ向ける台数ではなかった。

 

直立戦車へ付き従うように装甲車の姿も確認されて歩兵もかなりの数になるだろう。

幹比古からの報告に流石のエリカ達も面を喰らっているようだった。

駅前広場を守護する八幡。

八幡はエリカ、深雪、幹比古、レオ、美月へ指示を出す。

 

「お前らはそっちのデカブツを頼む。俺は歩兵を黙らせる。…いい加減うんざりしてきたところだ。」

 

目の前に現れた直立戦車へ『重力弾(グラビティ・バレット)』を叩き込み沈黙させると同時に敵兵士が発砲しようとしていたライフルと掃射用の機銃へ片手を掲げると加重・慣性制御魔法を発動させて発射される弾丸が銃口内へ戻っていき暴発する。

発射寸前で弾丸が銃口に巻き戻されチャンバー内と給弾装置へ次弾装填された弾丸が暴発しライフルと機銃自体を爆発し破片が飛び散った。

装甲車では制御していた者が金属片の餌食になっていることは想像に固くなく外へ出てきた恐らくは此方が本隊なのだろう、兵士達が苦悶の表情と悲鳴をあげるが八幡にとって”どうでもよかった”。

銃が使えなくなって無防備な隙を一瞬だが八幡に見せたのは大間違いだった。

 

八幡は使い勝手のいい『重粒子』を応用し編み出した振動・放出系統魔法である『結合崩壊《ネクサス・コラプス》』を『特化型CAD(フェンリル)』によって発動した結果既に前方に居た装甲車三台分の無防備な敵兵士はFPSのプロゲーマーの如く的確に的であるその頭蓋を撃ち抜かれ骸と化す。

 

莫大な熱量を変換途中の際の臨界エネルギーを加重魔法によって固定し射出する所謂”ビーム砲”が対人戦闘で使用されているのが驚愕であるのだが今のその魔法を指摘する者も居なければ本人は感情のまま殺戮を実行する。

 

「…(こいつらがほのかを。さっきの奴らと”同族”だからな…殺っておくか。)」

 

”ほのかが一度殺され掛けた”

 

ただこれだけが八幡の理性のリミッターを振り切っている。

敵対する者は躊躇い無く殺害出来る程には冷徹、ではあるが彼自身の性格も相まって後始末のことを考えて其を実行したことはない…。いや、”過去一度”だけで行ったことはあったがそれは”家族”へ危害を加えられた際だった。

血の繋がりもない赤の他人であるほのかが傷つけられた八幡は思いの外”彼女に対して特別な感情を抱いている”ということ他ならなかったが其を指摘できる人間は今は居ない。

 

ほのかを襲ったのは同一人物ではない。しかし八幡にとっては”ほのかを襲った同陣営の兵士”というだけで十分だった。

感情を現して荒立てる、と言うわけではなく冷静に、事務的にただ”自分の大事な者へ危害を加えた”という理由で敵兵士の頭蓋を撃ち抜いていく。

 

まるで縁日の射的を気軽に遊戯するようだった。

次第に敵兵士と装甲車が物言わぬ死体とスクラップへ変化していく。

 

「ひっ…た゛す゛け゛…。」

 

「…」

 

運良く攻撃を逃れた兵士が八幡へ命乞いをする。

しかし、特化型CADが変形し低いエンジン音を鳴らす打刀程の大きさの紅刃を作り出す。

 

「…」

 

「ひ゛っ…」

 

八幡が一歩、二歩と踏み出す度に生き残った兵士が後ずさりをするが意に関せず歩みを進める。

 

「あっ…」

 

逃げ出す兵士は背中に固いものが当たることに気がつき其が自分が乗ってきた車両だということに気がその表情は絶望に染まる。

 

「あ、ああっ…!!」

 

眼前にまで近づいた八幡は最後に生き残った兵士に対し縦一文字にその紅刃を振り下ろし両断し臓物を撒き散らすことなく絶命した。

 

骸と化している敵兵士に向ける八幡の視線は冷たいものだった。

いち早く中隊規模以上の兵士をものの数分も掛からずに全滅させ戦車隊と交戦している深雪達と合流したのだった。

 

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