八幡達は魔法協会防衛に成功し深雪は襲撃を仕掛けてきた特殊作戦群隊長である陳を拘束し八幡は呂剛虎を撃破した。
魔法協会関東支部の面々は十文字指揮下におり真由美達からその場を引き継ぎ魔法師達は協会へと戻っていく。
それを確認した後、全員を乗せたヘリが動き出す。
横浜から脱出を図る時にヘリの丸窓から横浜ベイヒルズタワーの頂上にフルフェイス姿の人影と軍服を着用している者達が屋上に入れ違いで到着したのが見えた。
真っ黒いスーツに身に纏うのは達也だろうな、と思い後の面倒なことは軍に任せようとちゃんと座り直そうと思ったが身体に力が入らない。
「あれ…。」
次第に隣に座っている深雪の膝の上に頭が吸い寄せられた。
ぽふっ、と頭が着地してしまう。
当然突如として自分の膝に頭を乗せたのはビックリはしたが慌てて払い落とすことはなかった。
深雪を除く彼に好意を寄せる女性陣の視線が突き刺さる。
全てを察した深雪は八幡の頭を撫でるように手を添え動かす。その優しい手付きに八幡の目蓋は限界を迎えようとしていた。
「…八幡さんわたしの膝をお使いください。」
「わりぃ…深雪、すぐ、退くから…」
「大丈夫ですよ?今日の事件からずっと戦い詰めでしたから。」
「もう一生分働いた気がする…賃金はでないクソみたいなアルバイト…だったな…。」
いつも通りの軽口に同年代の友人達が笑みを浮かべていた。
「いつも通りの八幡が戻ってきた」と。
しかしその前後、深雪の台詞に全員が納得していた。
横浜国際場の会場から侵略軍との戦いで先頭に立ち続け様々な魔法で敵を屠ってきたのだ。
それに対人近接戦闘における世界で十指に入るとされる呂剛虎を打ち倒してしまったのだ無理もないと評されるのも当然だろうと思った。
”唯の一人を除いて”ということになるが。
「……。」
この中では深雪だけが八幡の『
達也と同じく影響を受けないようにしたにしたのは彼の気まぐれかそれとも本能だったのかは分からなかったがその瞬間に深雪は八幡が行った出来事を覚えていようとそう思った。
次第に深雪の膝に重さが掛かっているのが分かった。
人間は起きているときよりも睡眠を取ったり気絶したりする方が力が入らないものだ。
悪態を開く口は閉じて寝息を立てる音が聞こえる。
ヘリの中では一番の功労者を労うように静かになり戦いに参戦したもの達も緊張の糸が解れ寝に入ったり肩を寄せ合ったりしている光景が広がり警戒の意味も込めてヘリのローター音だけが響いていた。
◆ ◆ ◆
「お兄ちゃん!」「おにぃ!」「お兄様!」
「三人同時に喋んないでくんない?特に小町と泉美は声が似てるからな。てか何で抱きついてんの?」
俺はヘリに乗った後の記憶がなかった。
…覚えているのはというと姉さん達の視線が俺と深雪に突き刺さっておりその膝の上で俺が所謂”膝枕”されていた、ということだった。
俺は内心「深雪の柔らかい膝の感触もっと楽しんでおけばよかった」とキモい感想を心のなかで思っていたのだがふと深雪と視線が合うとにっこりと微笑まれなんともいたたまれない気分になってしまっていたのだ。
深雪達を送り届けた後にヘリは七草の敷地内に到着し俺と姉さんは無事に七草本邸に帰ってきたわけだがそうなるとかわいい妹達はそれはそれは心配していたようで俺と姉さんが玄関を開けると飛び出すように現れ俺と姉さんに抱き着いてきたのだ。
「お兄ちゃん…。」
「小町ちゃん。」
「心配しすぎだってば二人とも。お姉ちゃんと兄ちゃんが雑魚にやられるわけないでしょ?」
「香澄ちゃん…。」
「だってわたしたちのお兄ちゃんとお姉ちゃんだよ?信じないでどうするのさ。」
ふふん、と得意気に明るく笑う香澄に泉美と小町も釣られて笑いその様子に俺と姉さんは肩をすくめて笑うしかなかったが小町に至っては少し半泣き状態だったので抱き着く妹達の頭を撫でるしか出来なかった。
それをみていた泉美と香澄も俺に引っ付いてくる。
あの煤と埃まみれなんでお風呂にいきたいんですけどね?
「なら一緒にお風呂に入る?」
やめてくれ…マジで社会的に死んじゃうから…!!
わー、わー言い合う兄妹達を優しく見守る視線があることを俺は気がついていた。
後ろから父さんが現れたが「お帰り」とだけ言って後ろの部屋へ引っ込んでいった。
今はその義父の心遣いが有り難かった。
妹達と姉につれられリビングへ向かう俺は只々薄い笑みを浮かべて引っ張られるしかなかった。
その後。
小町達と姉さんから解放された後俺は父に呼ばれ事の顛末を伝えた。
今回の事件で市民誘導と避難を主導したのは七草であったため市民からの魔法師への感謝の言葉が協会に多く届いたらしく十師族七草家の長である父さんは大分満足げであった。
「まさか思いもよらないところでいい結果を産み出すとはね。”棚からぼたもち”とはまさにこの事か。…まぁ犠牲者が出なかった、というわけではないが事実として大多数の市民の救助と侵略者の阻止…そしてお前はあの『人喰い虎』を撃破した。十分すぎる結果だ。お前は七草の人間…いや魔法師としての本懐を遂げたよ。…さぁ今日は真由美と共に疲れただろう?もう今日はゆっくり休みなさい。」
結果としていい方向に転んだだけで決して犠牲者が出たわけではない。
”事実として目の前で俺を慕っているであろう少女の命が奪われそれを俺は阻止できなかった”という事実はこの世界に残っている。
その事実が俺の心のなかに未だに燻る炎のように。
父さんは俺がほのかに使った魔法の存在を知らない。
だが全てを知っているような感覚を覚え何故か心が幾分か軽くなった気がした。
…プラシーボ効果かも知れない。表面上は。
「…そうするよ。もう一生分働いた気がするし。」
強がりの悪態を付くと父さんは笑って見せた。
「はははっ。まだまだ働いてもらう必要があるぞ?私は八幡に期待しているからね。」
「期待されても困るんだけどなぁ…。」
そんなことを思いつつ俺は父さんのいる執務室から出て自室へと戻る。
…自室に押し掛けた妹達が俺のベットに潜り込んでいるのを見つけてしまい俺は追い出すのに少々手間取ってしまった。
心配してくれるのはありがたかったが寝る前にやることがあったので妹達を追い出した。
「やっといなくなったか…心配してくれるのはいいんだけどよ。来年高校生よあの子達…心配だわ。」
小町ちゃんはともかくとして血の繋がっていない泉美と香澄は本当に不味い気がする。
いや俺にそういう気があるとかないとか以前の問題だろうこれは。
「ふぅ……いくか。」
ほっと一息付いて俺は『
「これは完全なる俺の私怨…だが、俺は俺の大事なもの手を出した代償…払ってもらうぞこれは…俺の精神衛生上を保つ上で大事な事なんでな。」
心の内に燻る炎がぱちりと爆ぜた。
衣服を身に纏う。
ただのプラ繊維の衣服ではなく俺が敵にケジメを付けてもらうときに着用するものだ。
人によってはそれは神父服に見えるかもしれないし闇を纏う復讐者のボロ布にも見えるかもしれない。
魔法を発動し俺を”認識できるものはこの世にはいなくなった”
ストレージから『
そこで俺は長方形の手首に付けたブレスレッドに音声コマンドを入力した。
「『タイプエンド・グレイプニル』」
次の瞬間。
『
変形すると全身を覆う所謂パワードスーツのような様に相様変わりした。
身に纏う装甲の色も白一色ではなく全て吸収してしまいそうな黒やその機体の装甲線は蛍光色が光る。
頭部のグレイプニルに似通ったデザインはゴーグルタイプのヘッドではなく人の顔のようなツインアイへ偽造する。
黒いローブのようなものを身に纏った。
これで例え姿を看破されたとしても七草八幡だとは分からない。
『……。』
『
装着すると自動的に重力制御の魔法が発動し飛行魔法よりも自由な飛行を可能として大気圏内を自由自在に動き回る。
成層圏を監視する衛星すら欺瞞し自身が訪れたことがある場所、と言う風にはなってしまうが刹那の時間でその場所まで到達できるようになるその魔法は殺傷力はないものの戦略級にも匹敵する可能性があった。
背面のブースターが点火し音速で数秒をたたずして成層圏へと到達した。
魔法障壁が展開され続けているので有害な宇宙線は全て無効になり受けても害はない。
軍の監視衛星をグレイプニルを使ってハッキングして頭部に搭載された高感度センサーとマイクロスパコン、そして俺の《瞳》の力が発動し俺は少し移動した後に視線を動かし撃つべき敵を写し出す。
そこには軍艦がひしめき合い多くの人々が動いておりそれらを指示を出す司令塔の光景が鮮明に見て取れた。
全員が重装備並びに軍服を身に纏い大亜連合の証を付けている。
それを見た俺はパワードスーツのレッグホルスターがカシャリ、と音をたてて
連動するようにパワードスーツ背面の大型レール砲がせりだし肩に懸架されるように起動した。
背面に接続されている大型のレール砲の下部とペイルライダー・カスタム『フェンリル』とドッキングしセンサー各種との接続された。
起動式を選択しドッキングしたレール砲が唸りを上げる。
『仮想バレル展開…チェンバー内部重粒子圧縮充填開始…起動式異常無し…充填完了まであと九…十。充填完了。発射領域に対抗魔法フィールド展開。』
レール砲前方に加重魔法で組み上げた仮想ロングバレルが生成され発射される魔法のコントロールを高める。
実際に弾丸が発射されるわけではないが使用する魔法の特性上必須だった。
術式を組み上げバックファイヤの影響を受けないように俺の周囲に広域対抗魔法を同時展開する。
これはグレイプニルがなければ使用できない。これがなければ自分も巻き込まれてしまうからだ。
準備と俺の心の昂りが収まったその時。俺は引き金を引いた。
『軽々しく俺の知り合いに手を出したんだ…払ってもらう…二度と手を出したくないって思いたくなるぐらいにな。『
この引き金は俺の精神安静を保つものだ。
《フェンリル》の引き金を引いて『
司令塔の直上、引き金を引かれ充填された重粒子が仮想バレルを通り座標を指定した魔法式が司令部上空中心として放たれる。
次の瞬間に軍港基地周辺は『無』へと飲み込まれた。
『
八幡が『重粒子』を応用しその起動式と加重魔法の複合魔法の一つ。
『重粒子』はその性質上、質量が大きすぎるためにその姿を三次元世界で形にすると圧壊してしまうという特徴がありそれを八幡は加重魔法によって制御し質量を熱量に転換させて膨大なエネルギーにして使用した箇所をまるではじめからなにもなかったかのような『虚無』へと変えてしまう所謂マイクロブラックホールを生成し近くのものを全て飲み込んでいく。
基地司令部に兵器保管庫、そして戦闘員を乗せた艦艇を飲み込んで戦闘に必要な部署が次々と巻き込まれ消されていく。
軍港奥に鎮座した旗艦を飲み込もうか、としたその矢先にそれと同時に旗艦の上空に小型の太陽が発生し船体の金属を蒸発させて重金属の蒸気をばら撒きながら人も物も全てを飲み込んでいく。
しかしその効果範囲は軍港のみにとどまらず軍事施設全てを飲み込んだ。
市民が近くにいないのは知っていたので存分に破壊を繰り返す。
小型の太陽が膨張を広げているのを見た俺は魔法式を途中停止させ対抗魔法で防御した。
俺の魔法は無事にキャンセルさたが小型の太陽はどんどんその大きさを増していく。
その莫大な熱量は海面を蒸発させ辺り一帯に水蒸気爆発の煙と音を巻き散らした。
衝撃波は敵軍の軍事施設を根刮ぎ破壊したのだった。
暴風が俺へ一気に襲いかかりローブを靡かせる。
煙が晴れる頃にはそこには生命の痕跡は残っておらず半島はまるで虫に喰われたかのように抉られていた。
その威力は明らかに…。
『日本側が戦略級魔法師を投入でもしたのか?あり得んだろこの威力…出来れば向けられたくないな。』
俺は恐らく対馬要塞からの起動式展開なのだろうと予測し今この地点で俺の姿を見られているだろうなと思ったが問題はない。
見られていたとしても”こいつ”の詳細を明かすことは絶対に出来ないからだ。
俺は監視衛星を通じ対馬要塞の方を向いて俺を見ているであろう兵士に軽く手をふりポータルを潜り抜けてその場を後にした。
俺の中にあった小さな燻りはもう消えていたのだった。
◆ ◆ ◆
八幡が大亜連合の軍港に戦略級魔法を発生させているとき、達也達がいる対馬要塞第一観測室は呆然と驚きの声が上がっていた。
準備を終えて攻撃を開始しようとしたその時だった。
異変に気がついた風間がオペレートしていた藤林に状況報告を命じた。
「藤林少尉!何が起こっている!」
「詳細不明…ですがこれは…加重系統…いや複合魔法の『ブラックホール』!?」
鎮海軍港の司令部に突如としたブラックホールが生成された。
こちらの攻撃ではない。向こうからの攻撃でもない。第三者からの攻撃だった。
その攻撃は全てを塗りつぶす『黒』となって埋め尽くす。
観測室にいた真田も柳もその表情を驚きから隠せなかった。
それは既に発動している達也の《マテリアル・バースト》に干渉し押さえ込むほどに強力な魔法だった。
達也は情報強化を施そうとしたが無の固まりは一瞬にしてその場から消え去り達也の魔法が行使される。
全てを飲み込んだ閃光が望遠カメラの安全機能が発動し真っ暗になる。
全てが終わったときにカメラの映像が復活するとそこには達也の”マテリアルバースト”で焼き払った半島の先端が抉られ無の塊が抉り取ったお陰で大亜連合の保有する軍事施設は全て消えさり土地の一部がまるでアイスを掬ったかのように綺麗な形で抉り取られていた。
突如として発生した【ブラックホール】に対して警戒を続けるが反応も魔法の関知も見られず不気味な静寂が基地司令部に広がる。
暫くして警戒を第二戦備に移行し警戒を続けるがモニターにも観測機器にもついぞ現れることはなかった。
これで終わりかと作戦終了の指示を出そうと風間は思いその場にいる誰もがそれを受領しようとした。
しかし煙が晴れると最大望遠で敵拠点を覗くカメラに二つの光…双望が魔法的に遠く離れた対馬要塞にいる兵士達と目があった。
達也が《マテリアルバースト》を打ち込みその余波で誰もが生きれない高温の嵐のなかで一人、いや一機と言った方が正しいかもしれない。
夜を纏うような漆黒の機械外装に背面には歩兵が持つには大きすぎるレールガン。そしてその頭部は人ではなくアニメに出てくる人型二足歩行のロボットのような形をした頭部を模したロボットが佇んでいた。
しかし近代的な見た目とは裏腹にその身に纏うマントはコートのようだった。
その姿を見た藤林は九校戦時に現れた謎の執行者と姿が重なり思わず声に出す。
彼が先程達也の魔法と相克を起こしたであろう魔法を使ったのだろうと思い調べると一致してしまった。
「まさか…
その藤林の呟きを受けて風間は素早く指示を出そうとするが謎の存在がカメラに向かって手を振っていた。
まるで嘲笑うように。
次の瞬間にはカメラから、監視網からその存在は消えてしまっていた。
藤林が追跡と追撃を風間に問いかけるが軽く首を横に振って命令し柳が帰投命令を全員に出す。
達也は《サードアイ》を地面に下ろし先程モニターを見つめる。
謎の戦略級魔法を使用した人物に対し達也は分からない。
しかし無性に仮面の裏に隠れる表情と心情の動揺を隠すのに丁度よかった。
『灼熱と漆黒のハロウィン』
某半島を消し飛ばした魔法は二つの戦略級魔法が使われた、と後世の歴史に語り継がれるその事件は軍事史の転換点であり歴史の転換点であるとも言われている。
魔法の優位性を決定づけて魔法こそが戦争の勝敗を決める力であると明らかにした事件。
同時に存在するかも怪しいその存在は危険視され日本ならず世界が警戒する国家非公認戦略級魔法師『
それらに接触を開始しようと各組織が秘密裏に動き出すのだった。
これにて『横浜騒乱編』終了です…!
途中更新が滞りましたが無事に投稿できました。
読者様達のお陰です。
次回は『来訪者編』が始まります。
お楽しみに。
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それでは。