めちゃくちゃ嬉しいです!
ありがとう御座います。
「んぐ…んぐ……っ!やだこれスッゴク甘くて美味しい…!!」
黄色と黒の缶を渡したときは怪訝な表情を浮かべていたが一口つけるとあら不思議練乳とミルクの甘味が好みだったのか出会った時より顔の険が取れていた気が…した。
「え…?~~~っ!!」
飲み終わった後に深雪から缶側面に記載されたカロリーを指摘されてリーナが半泣きになっていたのは俺は悪くない。
青少年少女が摂取したところで消費エネルギーの方が多いのだから問題はない。
だがしかし、言わせて欲しい。
魔法師は頭を使う、つまり糖分を体は欲しているのでこの黄色と黒のストライプの缶飲料はクルマで言うところのガソリン。
体を動かすために必要な栄養素なのだ。
…流石の俺も1日1本が限度だけどな。
そのカロリーで半泣きになりそうになっていたが結構気に入ってくれたようで嬉しかった俺はリーナにお近づきの印に一ケースあげることにした。
「1ケースあるからやろうか?」
「え、本当!?」
「…。」「…。」
「はっ…!…んんっ!!い、要らないわよっ!」
喜んだ後に深雪達の視線を感じて咳払いし一喝されたが俺は追い討ちをかける。
「本当に?」
そう聞き返すと少し迷って顔を紅らめながら恥ずかしながら
「く、くれるって言うなら貰ってあげなくはないわ…!」
と綺麗なツンデレを見せてくれた。
俺は感心してしまった。
「この二十世紀も間近に終わろうとしてるこの時代に綺麗なテンプレを拝めるとは…逆に感心したわ。」
「へ???何の話?」
そもそもさっきから口調が崩れすぎている気がするこっちが本心か。
というよりも…。
てかそれがお前の素か…可愛いじゃないか」
「んなっ!?」
「八幡さん?」
「は、八幡さん!」
どうやら俺が思っていたことが口に出ていたようだ。
俺は深雪とほのかににこやかに鋭い視線を向けられ泣きそうになる表情を向けられて「しまった…」となった。
リーナに視線を向けると俯きながら何かを呟いていたようだったが俺には聞こえなかった。
ほんのりと顔が蒸気している気がした。
(……な、なんなの!そんな初対面で”可愛い”って言われるなんて思っても見なかったし…なにか、なぜかハチマンと喋ってると調子が狂うわ…!)
「?悪かったな急にキモいこと言っちまって…お礼に明日マッ缶のケース持ってくるわ。貰ってくれない?てか貰ってください。」
「どれだけその飲料を布教したいのよハチマンは…本当に貰っても良いの…?」
「もちろん。」
「あ、ありがとう…。」
絶滅したんじゃなかったんだなその伝統芸能。
なんとも打てば響くキャラクターをしていて嘗ての
そんなこんなであって既に”知り合い”という括りにリーナは潜り込んでいたのだった。
時間は少し進み昼休み。
そんなこんなで食堂にはいつものメンツ…(特に達也の仲間内である1ーEのメンバー)が終結しリーナが自己紹介を行い席に座ろうとするが配膳台から食事を持ってきていない状態で座るのは二度手間になるので先に料理を持ってきていたほのかを座らせ俺はリーナと深雪を連れて配膳台に向かう。
俺と左右にリーナと深雪と連れだって配膳台へ向かうと妙に視線が多い気がしてならなかった。
その原因は聞かずとも直ぐに分かった。
答えは左右の”美少女”達。
リーナも深雪も互いに匹敵しあう美少女であり食堂内部にいる野郎連中や女子生徒の視線を奪うのも無理はないだろう。
…逆に俺がいることで邪魔になっていないかとさえ思ってしまい危うく認識阻害の魔法を使いそうになったが自重した。(八幡自身そうは思っているが彼自身に視線を向ける女子生徒も実際には数多くいる。認知していないだけである。)
料理をもって達也達の席へ着くと何故か俺の左右に彼女達は陣取って自己紹介並びに食事会を始めることになった。
俺はラーメン、深雪は日替わり定食、…そして何故かリーナはざるそばという日本人過ぎるチョイスだった。
リーナは自己紹介された人間とその名前を一度で覚え相手に好かれる初歩的な行動をしていた。
かの旧暦の偉人も言っていたことだが「名前を覚えられる」というのは相手にしてみれば覚えられている!というのは非常に気持ちの良いことで人心掌握の一歩でもあった。
自己紹介が終わり達也がみんなが聞きたいことを質問していた。
「リーナはもしかして九島閣下の御血縁なのかい?」
「あら、よく知ってるわねタツヤ。随分と昔の話なのに…うーんそうよ。わたしの母方の祖父が九島将軍の弟なの。」
「それじゃそれもあってリーナは日本への海外留学が決まったと。」
「うん。タツヤの言う通りでその縁があってわたしの所に話が来たみたい。でも本当はそれだけじゃないんだけどね?」
「どういうこった?」
俺が割り込むように質問をしてしまったが達也は「問題ない」とアイコンタクトを送られた。
「わたし、日本がと~っても大好きなの!フジサンにアサクサ!侘び・さびがとってもクールでしょ?それに日本は魔法先進国でわたしと同じ年代の子供達がどれ程の技術があるのか見てみたくて子供の頃からの夢だったの!3ヶ月程度しかいられないけどね?」
楽しそうにはしゃいでいるリーナのその姿はとても嘘偽りを言っているようには聞こえず本心そのものだったと俺は《瞳》を使わずともそう思った。
その場にいた全員リーナのその姿を見てこのテーブルを囲む知り合い達は良い奴らで出来る限り思い出を残してやろうとそう決意した。
しかし、その時のリーナの表情の明るさに少し影を感じ取ったのは俺の気のせいでは無かったようだ。
◆ ◆ ◆
リーナあるところに深雪が居て俺ガイル…じゃなかった俺がいるのが昨今の日常と化したこの数日は俺の心労はマックスだった。
基本的に俺の側に深雪がいるのでそうなると必然的にリーナも付いてくると言うハッピーセット!!状態になるわけなのだが本当に勘弁して欲しい。
目立つ、とにかく目立つのだ。
リーナが留学してくる前なら学校一の美少女…といえば”司波深雪”だったが”アンジェリーナ・クドウ・シールズ”が来たことで記憶に新しい生徒会役員選挙で深雪が女王と呼ばれた事件…その”女王”と呼ばれる人物が”双璧”をなしているのだ。
黒と金。
深雪は副生徒会長としてリーナのお世話をすることになるので余計に「深雪に負けず劣らずの美貌の持ち主」という情報を強くその脳内へイメージ付けられるのだ。
正直深雪達を見ている俺がいるのは正直”百合の間に挟まるアレ的な”立場なので消されても仕方がないのだがそう言った反応が無いのは不気味でしょうがない。
…達也が入学したての頃にやっかみで魔法を飛ばされていたときのことを思い出し俺にも魔法が飛んで来るのではと考えた俺は俺を狙った魔法が二人が被害を被らないように《瞳》で警戒していたがそんなことはなかった。
美しさだけでも十分に話題になるのだがその”魔法力も深雪に匹敵するほどの実力を持っていた。
魔法実技の授業が行われる実技棟にはそんな二人の魔法力を見ようと他学年や自由登校になっている三年生までやって来て見学している始末だ。
実技の内容はポールの上におかれた金属球を先に支配するといういたってシンプルなものでゲーム性が高い。
だからこそ対する二人の魔法力の高さが問われる実技だ。
先月から始まったこの授業は一部を除き深雪に全く歯が立たず無双ゲー状態だった。
その話を聞いた新旧生徒会役員達(プラス風紀委員会)の面々は太刀打ち出来ず敗北し誰一人として太刀打ちできずに敗北してしまった…”一人を除いて”だが。
しかし、反対側にいるリーナと拮抗…いやさっきも1本取られてしまうという事態が発生し上級生が総出で挑み負けてしまうという面目が丸潰れになり(深雪はどっちかというと非常に申し訳無さそうにしていた。)姉さん達も見学に来るという事態にまで発展していた。
いや、暇かよ先輩達…。
カウントがリーナが主導で行われゼロになった瞬間に魔法が行使しされ中央ポールに置かれた金属球は一瞬光りリーナの方へ転がった。
「あーっ!また負けたっ!」
「フフッ、これで二つ勝ち越しよリーナ?」
盛大に悔しがるリーナにどこかでホッとしている深雪。
その実力は正に”互角”僅差での勝利だったといえる程リーナの魔法力は単一系統の魔法だけを見ても同格であった。
その授業を深雪の背後で腕組して後方見学していたのだが不意に深雪がパネルから離れ俺のところへ向かってきた。
なして俺のところへ?
「八幡さんもリーナと競うのも良いのではないですか?」
「簡単にいうなよ…深雪と互角の魔法師とやってみろだって?…冗談きついぜ。」
「何を仰るのですか。わたしは未だに八幡さんからこの授業で一勝も奪うことが出来ていないのですけれど?」
そう妙に強い気迫で迫られれば断る、ということは出来なかった。
さっき”一人を除いて”と言ったがそうそれは俺の事だった。
「えっ!?八幡深雪に勝ったの?……八幡わたしと勝負よ!」
その話を聞いていたリーナは少し思案し目を輝かせ俺に勝負を挑んで来た。
お前達ってバトルジャンキーと負けず嫌いな性質なの?
どうやらこの見た目の異なる美少女達は思いの外負けず嫌いらしい。
俺は溜め息をついて深雪が先ほど魔法行使をしていたパネルの前にまで向かい準備する。
「…カウントはリーナからで良いぞ?」
「分かったわ!…それじゃぁ…スリー、ツー、ワン」
リーナの「ワン」の掛け声で二人同時にパネルに手を翳した。
「GO!」
リーナの掛け声をスタートとして魔法を行使した。
俺が静とするならばリーナは動。
体の動きは別々であったが魔法の巧さというのは一緒だったと思う。
眩い想子の光が対象の金属球に干渉して爆ぜることは…無かった。
リーナの方へ金属球は転がっていく。
「は、ちょっ!早すぎるわよ!」
リーナに責められるが
その光景に驚いたリーナに対し俺の後ろに下がっていた深雪が俺に話しかけてきた。
「ふふっ、また少し早くなりましたか?」
「いや今まで通りだと思うけどな?…それに仮にも十師族の人間が負けちゃいかんでしょ。」
「フフッ、それもそうですね…わたしとももう一戦行っていただけますか?」
「やっぱりバトルジャンキーだよお前ら…。」
「くやしーっ!八幡!もう一回よ!」
「…向こうにももう一人いたわ。」
俺は頭を抱えた。
こうして実技時間内で総当たりで俺と深雪、リーナで対戦を行い六回中俺が全勝。深雪とリーナで二勝ずつの勝ち越しはリーナが多く奪う、という事態に陥り上級生達はこの一年生達を驚きで見つめるしかなかった。
久しぶりに俺たちはリーナと共に昼食を取っていた。
人気者のリーナは様々なグループから声を掛けられイヤな顔ひとつも浮かべずに交流を広めるのは留学生として模範的な動きと言えた。
俺なら真似できない。断言できる。
その事を同席しているエリカが指摘するとリーナはあっけらかんと答え民族性の違いはあるだろうが新鮮に映った。
幹比古が深雪とリーナが互角だったというのに驚き称賛するとリーナはオーバーリアクションで表現する。
「これでもワタシ、ステイツのハイスクールレベルじゃ負け知らずだったのにミユキには負け越しちゃうし、ホノカには総合力では勝てるけど精密制御じゃ負けてるし…それに、」
言葉を一旦切って何故か俺の方を悔しそうな表情で見ていた。
はて?
「なに自分は関係ない、って表情をしてるのよ八幡は…初めてだったわ。どれだけやっても勝てないなんて流石はニホンのナンバーズ…これが魔法大国・日本って所なのかしら?」
少し恨み節的なことを言われて俺は困惑したがリーナの言い分も理解できることもあった。
「それって褒めてるのか?」
「褒めてるのよ。ミユキも八幡もワタシが知っている中でとっても優秀な魔法師ね。」
掛け値無しにそう言われて気恥ずかしい気分になった俺は余計なことを口走った。
「まぁ…世辞はありがたく受け取っとくよ。」
「あら、八幡ってば謙虚なのね。日本人はそこが美点だけど謙虚すぎるのは嫌みよ?」
「そうですよ八幡さん。もっとご自身を誇ってください。ですよねお兄様?」
「ああ。八幡は俺が知る魔法師の中ではトップクラスだろう。深雪といい勝負だ。」
話題を振られた達也が頷いてそれに他の皆も頷いていたのを見て俺はくっそ居づらかった。
俺が悶えるのを見ていて不憫だと思ったのか達也が話題を変えるかの如くリーナに「アンジェリーナの愛称は『アンジー』じゃないのか?」と問い掛けていた。
別段動揺する質問ではないはずだと達也と俺を除く全員がそう思ったはずだがリーナの表情に俺や達也のように特殊な力や洞察力を持っている人間には分かってしまう一瞬、ほんの刹那だったが狼狽が浮かんでいた。
「アンジェリーナは確かに”アンジー”と略されるのが普通なんだけど小学生の頃にアンジェラ、っていう子がいてその子の略称が”アンジー”で紛らわしいだろうと思ってワタシは昔から”リーナ”の略称にしたの。リーナ…日本語表記だと”理奈”…ってほら呼び方がニホンっぽくて素敵じゃない?」
その話を聞いて達也と俺以外は「本当に日本が好きなのね」と暖かい笑みを浮かべていた。
対照的になにかを察した達也は表情に出さず納得していた。
俺はただただ「ほーん」と納得してなぜ狼狽を浮かべていたのかは理解できなかったが。
◆ ◆ ◆
翌日。
「おつかれさまーっす…。」
「あ、八幡くんちょうど良いところに」
「はい?」
その日は教室でミユキ達…じゃなかった深雪達(リーナ、ほのか)と分かれ日々のルーチンと化していた風紀委員会本部へ
そこで俺は見慣れた後ろ姿を目撃した。
「あっ、八幡。」
豪華な金髪を見間違えるはずもなくリーナに声を掛けられてしまった。
なんでここにいるんだ?と問いただしたくなったが理由があるからここにいるのであってリーナも俺に問いただされたくないだろうと思いリーナを囲む先輩達の群れを横に抜け千代田先輩の定位置である中央の席へ渡辺先輩から頼まれた書類を置いた。
これで任務達成と…俺は目的を果たし本部から巡回という名の散歩に繰り出そうとした。
「ん、ありがとー…って八幡くんちょうど良いところに来てくれたわ!」
しかし回り込まれてしまった!状態になったが流石に千代田先輩の頼みごとを無視できるほど俺は先輩を嫌いではなかったので立ち止まり振り返る。
「なんすか千代田先輩?これから巡回にいこうとしたんですけど…。」
「あはは…それは悪かったわね。それでね…」
どうやらこの先輩を俺の意見を無視することにしたらしい。ははこやつめ。
じゃなくてこの先輩は俺の反応を無視して話を進めた。ここが千代田先輩の良いところであり悪いところだ。
「シールズさんのことは…って同じクラスだし知ってるわよね。」
さっきまた明日な、って言ったばかりだったんですけどね?
リーナに顔を見合わせると「あはは…」少し気まずかしそうにはにかんで頬を掻いていた。
その様子を見ながら俺は頷いた。
「シールズさんが風紀委員会の活動を見学したいって言われてるの。日本の魔法科高校の生徒自治を見てみたいんですって。それに今日は司波くんが非番だから同学年の風紀委員は八幡くんしかいないし頼まれてくれない?」
「まぁいいっすけど…上級生の先輩達はそれで宜しいんですか?」
リーナを囲んでいる男子生徒の先輩達は苦笑いし動きで「どうぞ」と促してくる。
…恐らくリーナが「結構よ」と態度か言葉で否定を明らかにしたんだろうなということだけは伝わってきた。
日本人と違ってそこら辺の文化の違いもあるだろうしな。
”NO”と言える俺みたいだなと思った。…え?”NO”と言えてないって?深雪や姉さん達に?…ノーコメントで。
しかしリーナのような美少女と一緒に校内を案内するために行動したらどうしてだか深雪達に後で言われそうだったがこれも賃金がでない仕事…ボランティアをさせられていると思ってしょうがないと諦め頷いた。
「了解っす…そのまま直帰しますんで。」
「うん。それで良いわ。それじゃあリーナさんは八幡くんと一緒に校内を見て回って。」
「お気遣いありがとうカノン。」
千代田花音…花音の部分が"
数年前の自分に放課後美少女を案内していると聞かせたら仰天するだろうか?
校内を案内しながら補足をいれて校内を巡回していると隣にいるリーナがやらたと俺の使用する魔法について聞いてきていたのだが捉え方によっては何かを聞き出そうとしているのでは?という疑いの目を向けられてもしょうがない状態だった。
その後も俺の所作を何気無しに見ているのだろうが”どこか監視されている”気分を覚え俺自身ちょっと居づらかった。
少し校内をあらかた見て回り実技棟から二人で教室に戻ろうとしたときに俺は背後にいるリーナが立ち止まったのに気がつき振り向く。
「どうしたリーナ?疲れちまったか?マッ缶飲む?」
「それもいいかもね…じゃなくって八幡。ワタシ貴方に聞きたいことがあるの。」
質問をされた。
「あ?急にどうしたよ」
「八幡、貴方は|黒衣の執行者『エクスキューショナー』ってどんな人だと思う?」
その名前を知っているのは魔法師関係者…それもかなり”軍部”に近い立場の魔法師だけでありそれは自分が”関係者です”と言っているようなものだ。
俺はその事を聞かれ内心で苦笑いした。
”こいつ隠す気あるのか?”と思ったが特段狼狽えずもせずにその質問に答えることにした
世間で公開されている…とうか十師族経由で知らされた情報をリーナに伝えた。
「『灼熱と漆黒のハロウィン』を引き起こした国家非公認の戦略級魔法師の事だっけ?…存在そのものが不明…分かっているのがその際に使用した魔法が非常に高度な加重系統の魔法の使うことだけ…何もかもが霞のような存在…まるでおとぎ話の存在だな。まぁ十師族経由の情報だけど。」
「…随分と詳しいのね。で、実際にいると思う?」
「言ったろ。十師族経由の情報だってよ。魔法だって昔は”あり得ない”で一蹴されていたけど今は”魔法”は現実のものだしな…だけどその事件を引き起こしたのは一人だと思うんだよな俺。」
「と、言うと…?」
「噂だが…大亜連合の軍事基地と艦艇を吹き飛ばしたのは一つの魔法らしい。全てを吹き飛ばすような熱量を発生させる大規模な魔法と被せて使用できるとは思えないんだよな。それこそその消し飛ばした魔法を発動する初期段階…副次作用で生まれたものなんじゃないかと思ってる。膨大な熱量が発生する魔法は世界の研究記録にも記載されていると思うが場合にその場の中心地に重力という歪みが生まれて加重系統の兆候が記録されたんじゃないかと思ってる。」
「流石の考察力…噂以上の加重系統魔法の使い手ね八幡。」
「そいつはどうも…?」
その言葉はリーナが上部の言葉ではなく本心からの言葉だった。
それと同時に目の前のリーナから発せられる雰囲気がガラリ、と変わった。
「洞察力も魔法力も八幡、ワタシは今まであったことがある魔法師の中でも”優秀すぎる魔法師”だと思うわ。是非ともステイツに欲しい人材ね。ワタシも学業じゃなくて実戦でも通じる魔法師になりたいの。」
この瞬間俺は確信した。
リーナは”俺が『灼熱と漆黒のハロウィン』を引き起こした容疑者の一人”として疑われていると。
ステイツ…そんな戦略級魔法師レベルの容疑者と接触するために送り込んできたのは普通の魔法師では返り討ちに会う可能性がある…すなわちそれと渡り合うことが出きる人物、もしかすると今目の前にいるリーナは魔法師部隊…『スターズ』の一員…恒星級と呼ばれる魔法師なのかも知れない、と。
《瞳》の力を使わずともこの後の事は想像できた。
そんな動揺など表に一切出さずに俺はリーナを普段通りに見つめていると次の瞬間にリーナが鮮やかな笑みを浮かべていた。
穏やか…とは程遠く狩りの対象を見つけ捉えたような研ぎ澄まされた獲物を持つ狩人のような笑みを。
リーナの手が跳ね上がる。
俺はその掌底を突き出された手首ごと痣にならないように優しく掴みとり喉を目指した攻撃を阻止する。
しかしリーナは止められた右手の人差し指を使って鉄砲の形を作りサイオンの波動を打ち出す。
が、俺は領域干渉でサイオンの集中をさせないように局所、つまりはリーナの人差し指に微調整で集中させて発動事態を押さえ込み無力化させた。
流石のリーナも発動自体を押さえ込まれるとは思っておらず動揺の顔色を浮かべる。
「あっぶねぇな…リーナの言ったことにそれには俺も同感だ。…てかなんでそんなこと言い出した?俺がその”謎の戦略級魔法師”かもしれない…ってことでお前の上司から調べてこいと言われたのか?」
リーナの右手首を握り近くの壁際に押し込むようにして反撃のためだろうか?動かそうとしていた左手を俺の空いている肘で押さえ込み手刀に振動系統魔法を発動し頸動脈付近へ突きつけ足での反撃を受けないように封じる。
完全に変な動きをすれば”お前を殺す”という明確な意思表示をこの金髪の留学生へと突きつける。
普段通りの口調でどうしてこんなことをしたのか問い掛けた…ったが面倒なのでやめた。
実害が出てるわけじゃないしな。
「…これっきり止めてくれよな。」
俺の反応にリーナは初めて驚愕を浮かべた。
「え…?き、聞かないの?」
「厄ネタっぽいから良いわ。面倒くさいし。俺の実力を見たかったってことで。あ。」
「ど、どうしたの?」
「…悪い。すぐ離れるわ。」
「え、ええ。そうね…。」
現在の状況を端から見れば俺がリーナを壁際に押し込み…いわゆる”壁ドン”している状態でキスをしようと取られかねない状態だった。
何故かリーナが顔を赤くしているのは攻撃が止められて怒って俺が手首を握って攻撃を無力化してしまったからだろうか?
いや、顔に穴は開けられたくないわ。
俺は魔法を解除しリーナの手首を優しく離し壁際から離れると俺から根掘り葉掘りってよぉ…じゃなかった隅々まで聞かれるかと思ったが「面倒くさい」の一言で全部一蹴されてしまい考えていた会話の構築を崩されどうやって切り出そうか考えていたようだが俺は振り向いて歩き出す。
窓から差し込む夕日が俺たちを照らし出す。
俺とリーナ。互いに隠し事しているのが分かるように”陽”と”陰”を描き出す。
動きだし俺の体は影から飛び出した。
「あ、ちょ、ちょっと!」
「さっさと帰るぞ。もう校内は見回っただろうし。そろそろ完全下校の時間だ。」
リーナを置いて教室に戻ろうとすると自分が置いていかれたことに気がついたのか小走りで俺の方へ駆け寄ってきて再度確認をしてきた。
「本当に…訊かないの?」
「あ?何を。」
「何をって…例えばワタシの正体だとか、確かめなくて良いの?」
「…仮に俺がそれを聞いたとしてリーナは俺にどうして欲しいんだ。」
リーナは答えない。いや答えられないのだろう。それを認めてしまえば自分はUSNAの軍人である、と認めることになるからだ。
…まぁ大体の予測はついてるから無意味っちゃ無意味だが。
俺は溜め息をついて言葉を続ける。
「まぁ互いに今日の事は無かったってことでなにも見てないしなにも聞いてません。…人間知られたくないことは山のようにあるからな。つー訳ではい、終わり。」
そう言うとリーナはクスり、と笑って呟いた。
「八幡。貴方って不思議な人…いや変な人。」
「うるせぇよ。」
「あ、待ってよ八幡!」
俺は頭を軽く掻いて歩き出す。その後リーナが慌てて半歩遅れて付いてくるのを確認して教室へ戻った。
◆ ◆ ◆
リーナはUSNA軍魔法師部隊『スターズ』総隊長《アンジー・シリウス》と《国家公認戦略魔法師》という二つの顔を持っていたが日本の学生である達也や深雪…そして八幡の実力に驚かされてばかりだった。
そしてつい先程もターゲットの一人である八幡に腕試しをしようと喉元に手刀を突きつけようとしたがそれを阻止され逆に組伏せられ手刀を突きつけられる、というリーナ自身からしてみれば悔しい結果が残ったのだ。
それに自身の正体を察知されてしまった様子を取られたが”どうでもいい”の一言で一蹴されてしまった。
本来ならば悔しい、と思うところなのだが彼からのその言葉は妙に心にスッポリと入ってきて安堵している自分がいて複雑な気分になった。
(あんなことを言われるなんて思っても見なかったわ…それにさっき壁に押し込まれたときに八幡の顔を見たけど…結構…いやかなり……って私は何を考えているの…!?)
リーナの脳裏には普段は不真面目な言動を取っている八幡だったが先程のやり取りの際に見せた”真面目な表情”が離れなかった。
異性で同年代で自分より”実力が上かもしれない”八幡にリーナは興味を抱かないわけがなかった。
それに教室も同じで深雪がいるところに彼もいる状況はほぼ毎日学校に行くことで発生するシチュエーションだった。
そんなことを思いつつ振り払うように頭を振るとリボンで結んだ二房の金髪が揺れる。
いつのまにか帰路に着いていたことに気がつきマンションのエントランスに近づく。
リーナは都内に少人数のファミリー用の間取りの部屋を借りておりオートロックを解除し部屋への入り口を開くと底には同居人の自分より年上の女性…ではあるが異国の地でサポートをしてくれるシルヴィア准尉が出迎えた。
「お帰りなさいリーナ。」
「シルヴィ、先に帰ってきていたんですね。」
「…随分と疲れているようですがどうかしましたか?」
「あはは…シルヴィは鋭いですね。」
「とりあえず手を洗ってソコに座っていてください。お茶を用意しますからね。」
今朝部屋から出るときよりもリーナの表情が疲れ…気疲れしているような気配を察知しシルヴィアは部屋にある椅子に座らせ数日前に彼女がクラスメイトから貰ったという黄色と黒のパッケージの飲料缶のプルタップを開け耐熱容器にいれて電子レンジで数秒加熱して取り出す。
座らせていたリーナの前のテーブルにソーサーごと丁寧に置いた。
「ありがとう御座います、シルヴィ。」
「それで?どうしたんですか。らしくないですね。」
「…実は今日ターゲットの一人である八幡のことを探ろうと放課後一緒に学校の案内をして貰ってまして。」
「ほうほう…それでターゲットとは親しくなって尻尾を出しましたか?」
シルヴィアはそこの部分だけを聞くと随分とターゲットと接近して任務を達成しようとしていますねと思った。
リーナの告げた言葉はかなりのギリギリのラインを攻めていることを知った。
「…こっちの正体が八幡にバレてしまった…というよりも感づいたかも知れません。」
深刻そうな表情でリーナが言うものだからシルヴィアは思わず間の抜けた声を出してしまった。
「はい?」
事の一連の流れをリーナがシルヴィアに伝える。
「まさかリーナが発動しようとしたサイオンの流れを只の領域干渉で押さえ込んで…さらに反撃できないように組伏せる…やはり『人喰い虎』を倒した彼は只者ではないようですね。」
「ええ。それにワタシの正体がどうでもいい、みたいなことを言われて助かりましたけど…それはそれでちょっとショックでした。」
「そんなことが…。」
その話を聞いたシルヴィアはターゲットの人柄がよく分からなかった。
それは素なのか、情報を引き出す作戦なのかを。
「…ですけど八幡がワタシの正体を知らなくても良いですと言ったのですから利用させて貰います。」
それでも落ち込んでいたリーナが自身に発破をかけようとしていたのでシルヴィアは燃料に火を付けるために言葉を掛ける。
「そうですよリーナ。逆にその状況を利用しましょう。話を聞く限りターゲットは貴女に好印象を持っているようですし。」
「そうですよね……相手は日本の”
落ち込んでいたリーナだったが似合わない悪役言葉を使って立ち直ってくれたのはサポート要因であるシルヴィアは一安心した。
…しかし、リーナが言った”只の高校生”というのは余りにも不適切な言葉ですよ、というのは憚られた。
それで落ち込まれるよりはマシかとシルヴィアは思ってなおさら口には出せなかった。