俺が七草の養子なのは間違っている   作:萩月輝夜

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招かれざる異邦人

寝静まる深夜。

丑三つ時も近い時刻となったタイミングでリーナの寝室のドアが乱暴に開け放たれると同時に大きな声がリーナの鼓膜を叩いた。

 

「リーナ起きてください!」

 

その日の、いや次の日の真夜中リーナはスヤスヤと寝息を立てていたが同居人のシルヴィアによってたたき起こされた。

 

「シルヴィ何事ですか。」

 

リーナも叩き起こされることは慣れていた。

素早く意識を覚醒させて平常時の声で起こしてくれたシルヴィアに状況説明を頼んだ。

 

「カノープス少佐から緊急の連絡です。」

 

その回答を受けてリーナはリビングに設置している秘匿回線が備え付けられた通信機の前に立ち音声のみでの通信を行った。

リーナの今の格好は下着をしただけ着けてオーバーサイズのパジャマを上着だけ羽織っている状態なので流石に寝起きでもそれは配慮した。

 

「ベンお待たせしました。音声のみで失礼します。」

 

『此方こそお休みのところ申し訳ございません。』

 

そう言って画面に映る男性はベンジャミン・カノープス少佐。

USNA軍魔法師部隊『スターズ』副隊長その人だった。

スターズ内でもっとも常識のある年上の男性であるとリーナは思っており時差があるこんな時間に緊急の連絡があるのは何かあるのだとそう思った。

 

「構いません。一体何があったのですか。」

 

『先月脱走した者達が分かりました。』

 

「何ですって!?」

 

軍からリーナは『未確認の戦略級魔法使用者』の捜索を命じられ日本に向かい前にその前に命令されていた『脱走者の追跡・処分』だった。

その行方が分かったというものだ。

 

『日本です。横浜から入国し現在は東京に潜伏しているものだと考えられます。』

 

「なぜ日本に…しかもこの東京にですか!?」

 

リーナは問い掛けるが画面越しのカノープスもその問いに答えられる回答を持ってはいなかった。

 

『…統合参謀本部は追跡者チームを派遣することを決定したようです。』

 

「日本政府はその事を知っているのですか?」

 

『機密作戦事項となり日本政府は知りません。』

 

その返答にリーナの心持ちはずっしりと重くなった。

まさかの『不戦規定(ブラックオプス)』の発生だとは思わなかった。

脱走者の件を日本政府へ公表しないのは日本との外交に問題が発生すると国防総省(ペンタゴン)が判断したのだとリーナは改めて思い知らされた。

 

『総隊長、参謀本部からの指令をお伝え致します。アンジー・シリウス少佐に与えられた任務は優先度を第二位として脱走者の追跡を最優先せよ、とのことです。』

 

リーナは大きく息を吸って気持ちを整え復唱した。

 

「了解。アンジー・シリウス少佐は現在進行の任務を第二位として脱走者追跡の任を第一として行動します。カノープス少佐。本部へ了解した、と伝えてください。」

 

『復唱確認。了解致しました隊長。お気をつけて。』

 

彼女を気遣う言葉と共に通信は途切れた。

リーナはもう一度寝に戻ろうと考えたが「今夜はもう眠れそうにないわ…」と呟きソファーへ腰を掛ける前に台所にある箱から黄色と黒のパッケージの飲料缶を持ちソファーへ腰を掛けてプルタップを開ける。

一口煽った。

 

「ふぅ…甘さが身に染みるわ。シルヴィ今日はUSNA大使館でミーティングを行います。」

 

「了解しましたリーナ。」

 

シルヴィの返答を聞いて今日は学校を休まなければならないな、と少し学校へ行けないことに残念に思っていた。

 

◆ 

 

「ん…?なんか騒がし…いねぇな。ほのか。リーナは今日休みか?」

 

俺が登校したとき教室は何時もに増して騒がしかった。

そして俺の後ろの席に今日は噂の留学生がいないことに気がついてほのかに声を掛けた。

 

「あ、はい。今日はリーナ欠席みたいです。八幡さん。なんでもお家の関係で急用が出来たらしくて…。」

 

「ほーん…。」

 

「それと昨日のニュースが原因みたいですよ。」

 

「『吸血鬼事件』か…。」

 

『吸血鬼事件』とやらは一旦頭の片隅に…脳裏に一瞬だが別世界(学戦都市)の姉妹の特殊能力と武装を思い出し「なっつ…」となったが追いやる。

ほのかから前者の報告を聞いて俺はそれとなく「急用ねぇ…」とだけ呟いて思考を巡らせる。

昨日リーナに腕試しをされて軍関係者しか知らない情報を知っていたということは恐らく”後回しに出来ない事情”が発生したんだろう。

その事を突っ込むのは野暮だと思った。

それにリーナも深雪やほのかに”本来の姿”を伝えているわけもなく今ほのかに聞いても望む答えは帰ってこないだろうと思考の海から顔をあげた。

すると目の前には面白くなさそうな表情を浮かべているほのかといつの間にか俺のとなりに来ていた深雪の姿がそこにあった。

 

「八幡さんはそんなにリーナのことが気になるんですか…?」

 

「はぁ…やはり雫の言う通りになってしまったわ…。」

 

何を勘違いしているんだろうかこの二人は…俺とリーナはマッ缶仲間で互いに疑っている状態だぞ?

お前達が想像しているような甘い関係では断じて無いですが…。

 

「なんか勘違いしてない?」

 

俺がそう言っても二人は何時ものようにほのかはしょんぼりとして深雪は何時もながらの微笑を浮かべ机とかが少し凍りついていた。

目の前の二人にどういったら納得してくれるのか今度はそっちに意識を割くことにしたのだった。

 

 

案の定と言うか食堂…ではなくカフェテリアでエリカがうきうきしながら『吸血鬼事件』についての考察を立てていた。

単独犯ではなくプロの犯罪組織じゃないか、とか臓器売買ならぬ血液売買組織の犯行じゃないかという推測を立てていたがそれに達也がエリカの言葉を一つづつ分析し否定していた。

「血を一割しか抜かった理由が分からない」と「死体を街中に放置したり血を抜いた後が見当たらない」と言われエリカも確かに、と納得していた。

確かに血を抜いたのならば傷跡が残るしその傷は治癒魔法を掛け続けない限り残る筈だ。

俺の『物質構成(マテリアライザー)』のよう超刻魔法が無ければ絶対に無理だと言える。

そこでの問答が終わり今度はエリカが俺の机の前に浅く腰掛け体を捻って顔を近づける。

ほんとに顔が良いよなエリカは…猫みたいに身体が柔らかいな。

猫耳を付けたエリカを想像してちょっと萌えたのは俺の妄想だけにしておこう。

少し思案顔をして先程までの会話の流れを汲み取り答えを出す。

 

「達也の言う通り一割しか血液が抜かれないのは不可解だし死体を街中に放置しているのも猟奇殺人にしても中途半端な行動だな。…俺はもしかしたら”怪異”や”物の怪”…所謂”人ならざる者”の仕業じゃないかと思ってる。強いて言うならオカルト…を利用した魔法師の仕業…だと俺は思う。」

 

そう言うと全員が「なるほど…!」という表情を浮かべていた。

エリカが俺にずいっと顔を近づけてくる。いや近ぇって。

 

「八幡は今回の『吸血鬼事件』が魔法師の仕業だと思ってるの?」

 

「あくまで机上の空論でしかないしな。…幹比古が居る前でこんなことを言いたかないが現代魔法に通じてる古式魔法師もいる。その人物が両方の魔法を使いこなし現代魔法を凌駕する隠蔽能力を持つ魔法を持っていたら?式神や降霊術を用いて犯行に及ぶことも出来るだろう。ただし”そのレベルの古式魔法師がいれば”って枕詞が付くがな。それに禁止されている現代魔法…精神干渉魔法の使い手なら公衆の面前で殺人を実行しても気付かれずに人を殺す事だって出来るだろう。まぁ今のは極端なパターンだけどな。」

 

俺や妹の小町レベルの精神干渉系魔法の使い手じゃなきゃ他人を欺く魔法を掛けることすら怪しいだろう。

”記憶を弄る”という意味ではだが。

 

「なんだか嫌ですね…人間主義、みたいな風潮が広がらないと良いんですが。」

 

人間主義…端的に言うとスペースノイドとアースノイド…じゃなかった魔法師排斥運動の一部だ。

美月は懸念していたが今のところはそのような動きがないのは俺が父さんから聞いていたがこのまま猟奇殺人が起こるようなことがあれば非魔法師達は不安がり行動を起こす可能性があるかもしれないが今回の『吸血鬼事件』はどちらかと言えばオカルト面を強調した一つのゴシップネタ…ネットで流行るバズりネタになっているだろう。

 

「八幡は実家から何か聞いてないか?今回の事件を。」

 

達也が俺に質問してきたと同時に全員が俺の方を向いた。

…いや、そんな期待された目でみられても今日学校に来たタイミングで『吸血鬼事件』のことをしたから教えるもなにも今初めて聞いたんですけどね?

期待されても困るんですが。

 

「悪いけどその事件のこと今日初めて聞いたから教えられることはないぞ?それだったらお前の方がお母さんから聞いてんじゃねーの?」

 

「…いや。聞いてないな。」

 

一瞬だけ達也の反応が戸惑ったようなものに見えたのは気のせいじゃないだろう。

俺じゃなきゃ見逃してたね。

と、言ってもここで追求しても意味は無いので話を続けようとしたがエリカが『吸血鬼事件』の話題が飽きたのか別の話へシフトした。

 

「そう言えばさ。雫元気でやってるかな。」

 

エリカの首を少し回しほのかへ向けられた。

 

「ええ、元気でやっているみたい。授業もそんなに難しくないって言ってたわ。」

 

現代のインフラ技術によって簡単に海を隔てた向こうの大陸に連絡を取ることはそんなに難しくない。

何故だか俺からも雫へ連絡をした方がいいのかと考えたが一先ず置いておくとしてほのかが喋った会話には留学生という概念は存在していたが身近にある実体験ではないので雫からの報告?は興味を引く内容ばかりだ。

そしてほのかが告げた次の内容に俺は思わず確証…というか証拠を提供してくれたことにほのかと雫に感謝せざる得なかった。

 

「昨日も電話で少し話したんだけど『吸血鬼事件』に雫もビックリしていたみたいで向こうのアメリカでも似たような事件が起こっているみたいなんです。」

 

「日本だけじゃなくアメリカでもか?」

 

「…初耳だな。」

 

「雫も言ってたんですが情報統制が結構あるみたいです。雫はニュースじゃなくて留学先の情報通の学友に聞いたそうなんですよ。」

 

達也は意外そうに、克つ感心したような口調で呟いた。

俺の関心を引いたからかほのかが少し嬉しそうにほのかがはにかんだ説明をしてくれた。

 

(その話。雫から聞いておいた方がいいか…明日にでも連絡を取ろう。)

 

そう思いながら昼休みは過ぎていった。

 

◆ 

 

「今回の事件…お父さんから聞いていると思うけど七草の協力関係にあった魔法師が襲われて重体よ。」

 

「遂にうちの関係者にまで被害が出たか…。」

 

まだ午後の授業が行われている筈だったが使われていない空き教室を俺と姉さんが占拠し”密会”をしていた。

”密会”と言っても”逢引”や”逢瀬”ではなく血生臭い事実を報告している。

何故こんなところで説明をしたり受けたりしているのかと言うと姉さんに父さんが日中に報告をしてきたからだそうで少しあきれていた。

他の生徒や十文字先輩に聞かれるわけにはいかなかったのだろう。

今は空き教室の一角を借りて遮音魔法を施している、と言った具合だ。

 

「なにもこんな日中に教えてくれなくても良いのにねお父さんも。」

 

「まぁ、一大事。だと思ったんだろうが…しかしうちの関係者が…敵は魔法師を狙っている?」

 

「ええ。被害にあっているのは全員”魔法師”よ。」

 

「被害者が出てるのが東京近郊なんだっけ?」

 

「ええ、そうよ。裏路地や公園…どちらにしても血を抜かれてる。まるで”吸血鬼”ね」

 

俺は少し思案して姉さんに提案した。

 

「それじゃ今夜から俺が行って見回るよ。」

 

俺は無意識だったのだろう。

姉さんに対して「危ないから後方で俺の援護をしていてほしい」と言う意味合いの視線を投げていたことに気が付かなかったがそれに気が付いた姉さんは苦笑いを浮かべていた。

 

「もう…心配性なんだからうちの弟くんは。」

 

「心配するのは普通の事なのでは?」

 

俺がそう告げると姉さんは視線を天井に向けたあとにこっちに視線を戻す。

その顔色は赤みを帯びていたが少し呆れた表情を浮かべている。

 

「そんなこと言って…他の女の子にも言ってるんでしょう?」

 

「姉さん以外に言ったことないっての…」

 

他の知り合いに対してはそのニュアンスは若干違う。

物理的に危なっかしい意味合いで言っているのと姉さんや家族には心からの心配をしているのだ。

特段変なことを言ったわけでないのだが一瞬会話の流れが止まった。

 

「へ?」

 

「え?」

 

「…そ、そうなんだ。でも私も七草の魔法師よ?遅れは取らないわ。……でもありがとう八くん。」

 

端正な顔が羞恥に染まっているのを見てやっぱり姉さんは可愛い、そんな感想しか出てこなかった。

その反応を見て俺は「そういや俺って姉さんから告白されてたんだよな…」と我に返って何とも言えない雰囲気になり視線が交わり合った瞬間に互いに視線を外していた。

 

「えーあぁ…うん。そうしてくれると助かる?」

 

「…あ、そうだわ。お父さんから言われてたんだった。八くんに伝えてくれって。」

 

その言葉を言われた瞬間に俺の脳内に父さんのあの不適な笑みが脳裏に過る。

何かを思い付き企んでいる顔をだ。

 

「ん?なんか嫌な予感が…?」

 

姉さんのその言葉に俺は思わず唖然とした。

 

「今回の魔法師襲撃事件は『解決までのプロセスは全部八幡に任せる。真由美はサポートとして補助に付かせる』って。」

 

「うっそだろ父さん…」

 

頬を赤く染めてた姉さん、そして父さんから告げられたまさかの仕事に俺は何とも言えない感情のまま今日から『吸血鬼事件』の捜査を行うことになった。

 

◆ ◆ ◆

 

 

授業が終わり俺は家に帰り装備を整え冬の夜風に当たりながら《グレイプニル》に跨がって首都高をぶらぶらとバイクを走らせていた。

不審者と間違われそうな程真っ黒な俺の服は冬用のインナーとカーゴパンツを着用し上着はジャケットを羽織っており端からみればマグポーチを付けている軍用のベストにも見えなくないが入っているのはCADが数種だけだ。

 

「魔法を使ってるけど無かったらめちゃくちゃさみぃよな…うん。そろそろ降りて調査するか。」

 

捜査までまだ時間があった。

静岡のSAまでバイクを飛ばし高速を流したあとに一般道に降りて都心近くまで向かう。

時刻は高校生が出歩いて良い時間帯ではないだろう。

 

「姉さん聞こえる?」

 

東京都心の繁華街近くに到着し通信デバイスに通信をいれる。

するとすぐさま応答した。

 

『聞こえているわ八くん。ツーリングは終わった?』

 

「ああ。真冬にツーリングするのはやめた方がいい…ってただ走らせに向かってた訳じゃない。」

 

『というと?』

 

「静岡のマッ缶味のうなぎパイが…」

 

『やっぱり遊びに行ってるんじゃないの…。』

 

通信機越しにあきれた表情を浮かべているのが感じ取れた。

む、失礼な。うなぎパイのマッ缶味だぞ?レアなんだが…喜んでくれるのはリーナだけというのは悲しくなってくる…布教を進めなければならない。

…っと話が逸れてしまったが早速行動に移らなければ。

 

「話が逸れちまったな…すまん姉さん監視カメラの映像に変化は?」

 

今姉さんが乗っている機材が搭載されている白いハイエース…ではなくテレビ局の中継車は父さんが軍から借りてきた車両を中継基地として使用している。

今回の姉さんのバックアップとして『ナハト』の実働部隊と七草の捜索チームが対応している。

 

『特段可笑しい様子は見られないわ。普段の街中って感じね。想子レーダーにも反応がないわ。』

 

「やっぱり脚を使って情報収集するしかない、か…これから近くの公園から当たってみる。ちょうど繁華街の外れに位置してるしな。」

 

『分かったわ。カメラでモニターしているから何か分かったことがあったら通信してちょうだい。佐織ちゃん達にもすぐ行動できるように指示を出すわ。』

 

「通信アウト。…さて。」

 

人気の無い都心の外れを《瞳》の力を発動し捜索を開始する。

最新の機器よりもこちらの方が鼻が効く。目だけど。

華々しい輝きが支配する世界から暗黒の世界へ俺は足を踏み入れた。

 

◆ 

 

通信が途切れたあとに真由美は八幡の位置情報が記された地図が映る液晶画面を現在位置を確認しながら呟いた。

 

「それにしても今回の事件で七草の関係者…それも魔法師を狙ったこの事件をお父さんは何時もの事ながら「何かある」って言って私たちを捜索に駆り出したけど指揮は八くんに任せる…か。」

 

「それも当主の考え…ですか?」

 

真由美の呟きに佐織は丁寧な言葉で聞き返す。

 

「ええ。去年の横浜侵攻事件で八くんが矢面にたって事件解決に非魔法師の救出、あの件でずいぶんと魔法師へのイメージアップに繋がったらしいわ。嬉しい誤算だって。」

 

「当主は本格的に八幡を次期当主に指名されるつもりなんでしょうね。」

 

「ええ。いずれは『ナハト』での実績も公表するつもりなんでしょう。八くんが就いてくれたらひと安心かも知れないわ。」

 

10月末に発生した横浜侵攻事件。

先の事件で多くの市民が逃げ遅れたが八幡を始めとする魔法師達の活躍によって被害はほぼゼロ、と言って良い程の結果を挙げておりその際に救助された非魔法師の市民が魔法協会を通じて魔法師に対するイメージが伝播し向上しているということだ。

どこの誰かが流失させたその事件での八幡の勇姿をネットに流出させていた者がいたらしくそれを見た市民は八割が「横浜争乱の英雄」と言うものがいたりしてファンは大多数…というよりも九校戦も多かったが更に増えたと言えるだろう。

それでも残りの二割は魔法師という人種に恐怖を覚える者がいるということだがその声はどちらかと言えば反魔法師の意識を持つ者だけなので小さい。

この事に関しても弘一はニヤリ、としていたのは想像に固くない。

 

「ええ。それは嬉しいことなのだけど…向こうの大陸が消し飛んだあの魔法…そのお陰で八くんが『例の戦略級魔法師』じゃないかって各所で疑われてるみたいなのよね…特にあの”四葉”や国防軍の各所から疑われてるみたいなの。…佐織ちゃんは八くんから何か聞いてる?」

 

佐織は真由美に問いかけられたが首を横に振った。

 

「…確かに八幡は加重魔法を使わせたら右に出るものはいないでしょう。それだけで観測されたという”ブラックホール”を再現する魔法までは無理じゃないでしょうか。」

 

「…そうよね。例え八くんが優れた魔法師であったとしても戦略級魔法を作成することは無理よね。『所持してるよ?』っていって七草の次期当主に就いてくれて方が私的には助かるかなぁ…(そうすれわたしと八くんが結ばれて…って何をかんがえているのかしらわたし…///)」

 

七草の当主として就くことになれば隣にいるのは自分が良い、と妄想していると隣にいる佐織から生暖かい目で見られていることに気が付き大きめの咳払いをした。

 

実際に魔法師として優れているがために八幡がその件の魔法師ではないか?と現在国内、十師族に疑われいるのを父親に聞かされ頭を抱えざる得なかった。

実際に八幡は戦略級に匹敵する魔法を既に三つほど所持してはいるが…それを知らないこの二人は只々このような噂話?をするしかなかった。

その事に真由美は苦笑いを浮かべ画面で八幡を示す緑色の光点を見つめながら不憫な事に巻き込まれている弟に内心で「頑張って…!」と応援せざる得なかった。

 

 

八幡が捜索し真由美達がその八幡が置かれている状況に心配している一方で

リーナ、もといアンジー・シリウス率いる脱走兵追跡チームは目標を発見し本部から増員された二人のハンターは東京の街並みに紛れるために現地コーディネートをして夜の街を疾走し遂に脱走兵を徒歩距離内まで追い詰め都心外れの街頭の少ない公園で対峙した。

 

「脱走兵デーモス・セカンド。両手を挙げて指を開きなさい。」

 

目深に被った帽子とマフラーに隠れて更に蝙蝠のような灰色の目出し帽、黒のロングコートを…という明らかな不審者であり表情は見えないが追手のハンターにサプレッサー銃を突きつけられていた。

その口元は微かな嘲笑が浮かんでいたが暗がりでそれは見えない。

突きつけられた銃口に反応したのは慢心か。それとも恐怖か。

その直後にガラスを引っ掻いたようなノイズが流れていた。

キャスト・ジャマーとよばれたCADを機能不全させるUSNAの秘密兵器だった。

 

突きつけられた銃口に素直に両手を挙げて指を開いた。

指を開かせるのはCADの操作を封じさせるためだ。

拳銃を突きつけたハンターがデーモスへ投降指示(お馴染みの言葉)を出す。

その言葉を聞いてデーモス…サリバンは手を広げながら肩を竦めた。

 

「いや、必要ない…君たちでは私を倒せない。ハンターQにハンターRだったか?」

 

名前を言い当てられたハンターQは引き金に力が入り言葉を言い終えると共に引き金を引いてその命を散らされたはず…だった。

 

「うぐっ…!!」

 

だがその弾丸はサリバンを貫かずキャスト・ジャマーを構えていたハンターRの腕を抉っていた。

 

「起動屈折術式だと!?」

 

「キャストジャマーが効いてないのか?」

 

「いいや?キャストジャマーが効いていないわけではない。」

 

蝙蝠が書かれた覆面の下でニヤリと笑みを浮かべたのをQとRは察知した。

 

「もはや私はCADを必要としない。」

 

その言葉と同時にハンター達が服の下に隠していたナイフを構え強化された身体で避けきれぬ刺突を行う。

その強化された攻撃をサリバンは難なく避けてナイフの軌道を逸らしていく。

刺突から斬撃に切り替えるがその攻撃もサリバンに届かずあしらわれ逆にピンチに陥っていた。

サリバンの手にはいつの間にかナイフが握られており攻撃を崩されそのままRの背中に同じ大きさのナイフがつきたてられーー

 

「ベクトル反転術式!?この強度は!」

 

「総隊長!」

 

そんなことはなく阻止された。

サリバンの台詞にハンターQが被るように叫ぶ。

自在に動くナイフの打ち合いに負けたサリバンは不利と見たかその異常なまでの身体を使い壁を蹴り上げ路地を構成するビル屋上へ到達し逃走を始めた。

同じくその通路を追跡のために赤熱・金瞳の魔法師。

一見すれば鬼のような見た目であるが美しささえ感じさせた。

だが今いる路地の向こうに新たなる活性化した想子波動に”彼女”は追跡を断念した。

それは新たなる犠牲者の発生を防ぐべく路地の奥へと走り出した。

 

◆ ◆ ◆

 

「……レオ!」

 

繁華街から外れ市街地に近い公園付近を捜索していた俺の《瞳》に膨れ上がった殺気と想子波動を関知された現場へ自己加速術式を使い走り抜ける。

直後に到着した公園のベンチに倒れている人影が二人…一人は女子大生だろうか?そしてもう一人はレオだった。

駆け寄ると同時に通信ユニットを耳に掛ける。

二名の状態を脈拍を確認しながら告げた。

 

「姉さん被害者を確認した。二名。一人は女子大生で脈拍は弱いが生きてる…それにもう一人は西城…レオが巻き込まれた。」

 

『そんな!西城くんが?』

 

「ああ。レオを脈拍は弱いが生きている。救急車の手配と佐織達を寄越して…!」

 

言葉を言いきる前に本能的に敵が接近していることに気がついた俺は硬化魔法をジャケットに施し通信ユニットを持っていない手を楯として構えると衝撃は直ぐにやってきた。

 

「ちぃっ!」

 

シングルアクションので発生させた『重力弾(グラビティ・バレット)』をばらまくが倒すには至らず後退させるだけだった。

その瞬間に伸縮警棒で攻撃されたのだと俺は気がついた。

羽虫…鈴虫のようなノイズが発生している事に気がつきこの目の前の人間が仲間に「撤退しろ」と指示を出しているのではないかと。

俺はこの瞬間でこの事件、複数犯による犯行だと理解した。

 

「逃がすわけには行かんが…素直に捕まってくれる…わきゃないよな?」

 

襲撃を仕掛けてきた相手の人相は”黒ずくめ”、この一言に尽きる。

黒の鍔付きのハットを目深に被りその表情も覆面を目だけ切り抜かれた白一色。体に身に纏うコートも肌を一切見せていないので女か男かも分からない。

どっかの犬○家のスケキヨかよ…とツッコミたくなったが自重した。

襲撃者は獲物を捨てて徒手空拳…中国拳法の構えを見せこちらに襲いかかる気満々だと。

正体不明の相手…普通の人間には目の前の襲撃者がどっちの性別か分からないが俺には関係がない。

メガネ越しに瞳を金色に輝かせて『賢者の瞳(ワイズマン・サイト)』を発動させた。

 

(体格から想像していたが女か…本名ミカエラ・ホンゴウ…状態異常が出てるな…これは『精神憑依?』)

 

賢者の瞳(ワイズマン・サイト)』によって映し出された情報には真名と状態が詳細情報(ゲームパラメーター)のようなステータスが表示される。

他人には見えずに俺だけの視界に現れる。

このミカエラ・ホンゴウという女性に”誰かもう一人入り込んでいる”ように思えた。

ただし分かっている情報は”女である””名前がミカエラ・ホンゴウ””精神異常が出ている”これだけだった。

 

その情報に気を取られていると覆面の女は魔法の発動の兆候を見せずに自己加速術式を掛けて俺へ攻撃を仕掛けてきた。

見事なもんだ、と逆に感心してしまったが俺の脳内で”こいつと拳を交えるな”と警鐘を鳴らす。

それならばと、俺は拳を受ける前に体に瞬時にサイオンと星辰力を流し込み相手の拳が触れる瞬間に大きく吹き飛ばした。

 

『!?』

 

大きく吹き飛ばされた襲撃者の女は覆面に表情が隠されていてその素顔は分からなかったが動揺が漏れ出ている。

《玄武乃型》を流用した防御術式で解体反応装甲(グラムリアクションアーマー)とは違い相手をただただ吹き飛ばすこの型はダメージは現れないが相手の体勢を崩すには十分な隙を生み出してくれる。

懐から『特化型CAD(ガルム)』を引き抜き素早く『結合崩壊(ネクサス・コラプス)』のビームで肩、太股を撃ち抜いて地面に転がせた。

 

『……!?』

 

地面に転がる襲撃者を捕らえようとした俺の近くで接近する者の存在を関知しそちらへ視線を向けると「鬼」がたっていた。

燃える炎のような髪色に今の俺のような金色の瞳、その体躯から女性だと判別できるが”認識”がぶれていた。

存在はしているが関知できない真夏の陽炎のような存在が目の前にたっていた。

 

(俺の《瞳》で解析できない…だと?一体…?)

 

向こうも俺を見て動揺しているのかその歩の歩みを止めてこちらを見ていたが直ぐ様動き始めた。

俺もその「鬼」へ意識を割いたのが不味かった。

 

「………!」

背後から物音がした。

なんと先ほど地面に転がせていた襲撃者が驚異的な回復速度で傷口を修復させて立ち上がり暗闇を疾走していたのだ。

 

「…ちょっ、マジかよ!」

 

急いで追いかけようとした俺だったが先に逃走に気がついていた赤髪の女に先を越されていた。

だが俺も只では逃がさない。

持っていた相手のサイオンで稼働し続ける小型の追跡装置を単一魔法で射出してコートに取り付ける。

無事に取り付けるとそのまま白覆面は赤い女と追いかけっけこが始まった。

 

「ちっ…今はレオ達を救護する方が先か…。」

 

ビーコンは動いていた。

追跡を実行しようとしたが公園で倒れている女子大生とレオの救出を優先すべく俺は二人の逃げた方向へ視線を向けて拳を握りしめるとギリギリ…と肉と骨が軋む音が響いた。

 

◆ ◆ ◆

 

(どうして八幡がここに…!?)

 

USNA最強の魔法師となったリーナ、もといアンジー・シリウスは追いかけた先で八幡に遭遇するとは思わずその足を思わず止めてしまっていたことに後悔していた。

その一瞬で先ほど八幡が無力化していたであろう白覆面の怪人を無理矢理にでも回収するべきだったと。

起き上がり逃げ出した白覆面を追いかけるリーナだったがそれは叶わなかった。

 

「シルヴィ。想子パターンは特定できましたか?」

 

中継車に乗っているシルヴィアに問いかけるがその返答は芳しくなかった。

 

『申し訳御座いません。ノイズが多く特定には至っていません。』

 

「カメラはどうです。」

 

『現在追跡をできていますが…障害物が多くいつ見失うか』

 

「追跡を続けます。」

 

このままでは押し問答だと思ったリーナは通信を切って逃げる白覆面の怪人を捕らえるために自己加速術式のギアを上げた。

深夜の繁華街には若者が数多くおりその気配に紛れるように関知される想子が薄まっていく。

これでは不味いと更にギアを上げると白覆面の怪人は急遽進路を変えると住宅地へと向かった。

もうすぐ捕まえられる…!これはチャンスと思ったリーナだったが想子のノイズに突如包まれた。

 

(キャスト・ジャミング!?)

 

自らに掛けた自己加速術式が阻害され速度が遅くなる。

次の瞬間には追っていたはずの想子パターンは見失う…というよりも紛れ込まれてしまって分からなくなってしまったと言った方が正確だった。

 

そして白覆面の怪人が自らを誘い出すために住宅地へとむかったのだ、と理解してしまった。

突如として動きが止まったリーナを心配するシルヴィアからの連絡へ言い淀むことなく恥じることなく状況を説明し移動基地へと帰投した。

 

このときにリーナは気がついていなかった。

自分が追っていた白覆面の怪人が自らの仲間である”ミカエラ・ホンゴウ”であることを。

それを知ることになるのは先だった。




十文字家との共闘はなくなってます。
《吸血鬼事件》は七草…と言うよりも八幡が主導で動いてます。
本編では達也達がエリカ達と協力して捜査をしてましたがこの二次創作では…?と言った感じになりますのでご期待ください。

割りとリーナが八幡に対して好感度は最初から高いです。
やっぱりマッ缶は潤滑油…!

次のお話でお会いしましょう。
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