俺が七草の養子なのは間違っている   作:萩月輝夜

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遭遇

レオが『吸血鬼事件』に巻き込まれたと言うことは関係者…達也たちに衝撃を与えたのは想像に固くない。

…うん、意外にも俺が一番驚いてるわ。

知り合いに危害を加えられて”キレている”事に。

 

「…。」

 

ポケットから昨日追跡装置を監視するアプリを起動したがロストしており俺は内心で舌打ちをする。

気が付かれて破壊されたか想子を押さえられたか分からないが動いていなかった。

 

ひとまずの状況を達也たちに伝えて運び込まれた中野の警察病院の場所を伝えて学校を休みレオの病室の前でパソコンを叩きながら一先ずの状況の整理を付けていた。

 

(襲われたのは七草の関係者…それをたまたま通り掛かったレオが発見した。そしてその場にその女性を襲った白覆面の怪人…じゃなくてミカエラ・ホンゴウと言う女性が待ち伏せしていた。別の場所でも同じような想子波動と殺気を感じ取った。あのときの羽虫の羽音のようなノイズ…あれは遠くにいた仲間に指示を出していたのか?”逃げろ”とかだと思うが…それだと相手は複数犯なのか?)

 

それだと近くで想子波動と殺気を感じ取れたことに納得が行く、それにその気配を感じ取った場所で血痕が付いた弾丸が採取されている。

日本人での血液一致は見当たらなかったのでもしかするとUSNAから入国してきていた工作員かもしれないな。

弾丸は日本で一部流通している45口径のACP…明らかに対魔法師用の弾丸…それに《瞳》で確認した白覆面の怪人…ミカエラと言う名前からして日系アメリカ人だろう。

その人物の精神領域に憑依…もとい乗っ取られているかもしれない。

まるで『精神寄生虫(パラサイト)』だなと内心で思った。

…なら”あの魔法”が役に立つかもしれないと向こうの世界で開発していた対霊体用魔法を再構築することにして一旦その事を頭の片隅においておいた。

煮詰まった頭を凝り解すために病院の売店へ向かう。

今は糖分が欲しかった。

 

◆ ◆ ◆

 

そうすると今回日本で起きている『吸血鬼事件』、もとい魔法師襲撃事件はUSNAも関連している?

そんなことを思っていると昨日ほのかが伝えてくれた言葉が脳裏をよぎる。

 

『昨日も電話で少し話したんだけど『吸血鬼事件』に雫もビックリしていたみたいで向こうのアメリカでも似たような事件が起こっているみたいなんです。』

 

それはつまり同じことがUSNAでも起こっている?リーナはその捜索も任務としてこちらに来ている?

話の辻褄が合ったような気がした。

 

(昨日出くわした鬼のような女性…俺の《瞳》でも正体を探ることは出来なかった。まるで陽炎の様で…何かを纏って隠蔽しているような。)

 

そこで俺はハッとした。

 

(アンジェリーナ・”クドウ”・シールズ…?そういえばリーナが言っていたな)

 

リーナと初めて会った時のことを思い出す。

 

(『あら、よく知ってるわねタツヤ。随分と昔の話なのに…うーんそうよ。わたしの母方の祖父が九島将軍の弟なの。』って。)

 

老師との血縁関係…その弟である人物が偽装魔法”仮装行列(パレード)”を使うことが出来るならリーナも使えるはずだ。

魔法師は世代を重ねるごとにその力が強くなる。

俺の推測があっているのならあの赤い髪の鬼女の正体はリーナ、になるのかも知れない。

だがあそこまで見事に『仮装行列(パレード)』を使いこなせるものだろうか…本人に話を聞いてみたいがはぐらかされるか俺が消されるかのどっちかだ。

まぁリーナがそう言うタイプ…ではないと信じたいが。

 

仮装行列(パレード)』の仕組みを知っている人物にそれを聞ければ良いのだが…とそんなことを思っていると脳裏に電流が走る…がおいそれと他家の秘術を聞き出すわけにはいかない…。

まぁ…俺も似たような魔法は使えるが根本的な起動式が違うからな…解析も出来ないから力業で解決するしかないんだよな。

 

「手詰まりか…いや。あの紅い女を味方に出来ればまた話は違ってくるかもな…。」

 

PDで情報を纏めていると向こうから複数人の足音が聞こえてくる。

いつものメンバーが現れレオの病室を探しているのか俺がいることに気がついていないようだったので声を掛ける。

 

「よぉ。」

 

「八幡。まだいたのか?」

 

一通りの情報を達也達に伝えていたのだが其を教えていたのが襲撃のあった次の日…つまり今日の登校日の朝、と言うことになる。

『レオが吸血鬼事件に巻き込まれて警察病院に担ぎ込まれた。場所は○○病院。』と簡潔的な文章を送っていた。

しかし俺は達也の言葉に疑問符を浮かべていた。

そんなにずっといた訳じゃないと思った…筈だったが気がつくと既に外は既に茜色に染まっていたことに気がついた。

 

「…マジか。もうこんな時間?」

 

うーん。どうやら情報を纏めるのと考え事をしていたせいでパートタイムのフレックス並みに時間を消費していたらしい。

その事を達也に確認すると達也だけでなく全員が頷き苦笑してた。

む、いかんな。

このタイミングでエリカの隣にいる美月が問いかける。

 

「八幡さん…レオくんは無事ですか…?」

 

「ああ。大丈夫だ。命に別状はないって教えたろ?ってまぁ俺から聞くよりかは自分の目で見た方が確かだが…この病室だ。」

 

俺からの説明を受けた美月はホッと胸を撫で下ろす。

その様子を女性陣は温かい目で見下ろしていた。

病室の扉をノックすると聞きなれた男の声が聞こえてきた。

 

『おーう空いてるぜ。』

 

病院の個室…その中にレオは患者用の衣服を着用しベットから上半身を起して扉の方向を向いていた。

顔色こそは普通なものの”中身的には疲労困憊”なのだが其を心配させまいとしているレオは強かった。

俺が扉を開けるとエリカからすたすたと病室へ入っていく。

続いて達也達が入り個室は満員となった。

 

ベッドの上で上半身を起こし胡座を掻く姿勢になったレオの回りを取り囲むようにして開口一番達也が声を掛ける。

 

「酷い目に遭ったな。」

 

「みっともないところ見せちまった。」

 

照れ臭そうにレオが笑っているがあのときの状況を俺は知っているので生きているだけ凄い、としか言えないのだが。

 

「見たところ怪我も無いようだが。」

 

「そう簡単にやられてたまるかよ。俺だって無抵抗だった訳じゃないぜ。」

 

「じゃあ何処をやられたんだ?」

 

「それがよく分からねぇんだよなぁ…殴り合ってる最中に急に体の力が抜けちまってさ…最後の根性で一発殴ってきた相手にいれたんだけどよ…そっから力が入らなくなって公園?に倒れてる所を八幡に助けて貰って今に至る…って感じか?」

 

レオは心底不思議そうに自分がやられたときの状況を話している。

 

「毒を食らったって訳じゃないんだよな?」

 

「ああ。身体中の何処を調べても刺し傷噛み傷…銃創もなしで血液検査でも健康そのものだったぜ?」

 

その話に達也が首を傾げていると幹比古が質問する。

 

「相手の姿は見たのかい?」

 

「見たと言えば見たが…目深に被った帽子に真っ白な覆面姿…ロングコートの下にボディーアーマーを着けてて人相も体つきはよく分からなかったが……間違いじゃなきゃ」

 

とレオが俺を見る。

恐らくは自分の中の気を失うまでの記憶と俺が見た情報の照らし合わせをしたいのだろう。

此処で俺も口を開いた。

《瞳》の情報を此処で全部言うのは何故か憚られたので切り出せる情報だけを此処にいる連中に伝える。

 

「…”女性”のはずだ。現に俺も襲撃を受けて対応したからな。」

 

「レオを昏睡させた相手と対等に殴り合ったのかい?…って逆か。」

 

「相手が可愛そうよそれ…ってレオが昏睡させられたのにあんた大丈夫だったの?」

 

幹比古の台詞に乗っかったエリカだったが一応は心配をしてくれているようでなんともむず痒い。

 

「ああ。一応前後のやり取りである程度の防御策は取ってから接敵したからな。加重系統魔法を拳に纏わせて”触れないように”した…けど浅かったのか逃げられたよ」

 

俺が”逃げられた”と告げると達也と深雪が驚いていた。まぁそうなるよなぁ…。

 

「お前の《四獣拳》でも意識を飛ばすことが出来なかったのか?」

 

「ああ。巷で噂になってる”吸血鬼”かもな?本当に。」

 

その事を茶化しながら発言すると幹比古は神妙な顔つきになり達也は考える素振りを見せていた。

まぁそんな反応になるよな。

 

そこから幹比古がレオを襲った正体は「パラサイト」と呼ばれる”超常的な寄生物”ではないかと。

妖魔に悪霊…つまりはこの世にはいない”悪質な幽霊”が関与しているのではないかと。

幹比古は古式魔法の使い手だ。その手のオカルトじみた話ではあったが信憑性はあるため俺も達也も黙って話を聞いていた。

ある程度は予測してたものにぶち当たり少しではあるが解決策の導線になるだろう。

と…俺の隣にいるほのかが怯えたような表情を見せた。

 

「そ、そんな…悪霊とか妖魔が実在するなんて…っ」

 

その様子を見た俺はほのかに向き直り声を掛けた。

 

「魔法だって昔は”存在してなかった”だろ?だけど今は俺達が”空想上の絵空事”を実用化して使ってる。幽霊だって悪い奴らばかりじゃないって…ほら座敷童子とか。」

 

それは違うだろ…とみんなの視線が刺さる。…例えが悪かったかもしれないな?

と思っていると俺の言葉で安心したのかほのかは落ち着きを取り戻していた。

それから幹比古がレオの”幽体”…つまりは生命力の塊の残量を確認させて欲しいと告げると了承し幹比古は足元に置いた鞄から札を取り出し状態を確認すると驚いてた。

俺も《瞳》で状態を確認していたが”生命値が半分以下”になっていたのだからやはり当然と言えば当然だろう。

俺達は面会時間が間近に迫っていたので病室を後にする。

入れ替わりでレオのお姉さんが戻ってきたのでこれ以上の長居は不要だろうと考えレオには自動回復できる術式を掛けておいて後にした。これでいきなりレオのお姉さんの前でぶっ倒れることはないだろう。

 

そのまま”パラサイト捜索”に向かおうとしたが流石に一度家に戻ろうと達也達から離れようとすると声を掛けられた。

 

「八幡。」

 

「ん?」

 

「レオを助けたときお前はそこで何をしていたんだ?」

 

まるで問い詰めるような言い方に俺は苦笑してしまったがそれに深雪が反応する。

 

「お兄様っ。…八幡さん。」

 

深雪が申し訳なさそうな顔をするが気にしなくていいんだが。

 

「何してた…か。まぁ達也達には伝えてもいいか。」

 

俺は手で病院前のベンチに移動しろ、と合図して全員に移動して貰うと遮音フィールドを展開しそこで何をしていたのかを詳細を省いて説明した。

 

「実は襲われたのはレオだけじゃない。」

 

「なに?」

 

「レオが襲われる前…つまり昨日の夜に七草の家人が被害にあったんだよ。」

 

「七草の家人がか?」

 

「それを受けて被害箇所を俺が捜査…見回りをしていたら七草と協力関係のある魔法師もその同じタイミングで襲われたんだ。まぁその被害者を見てレオも巻き込まれちまったんだがな?」

 

「そうだったのですね…。」

 

達也も深雪も驚いてはいたが俺が告げる内容が一致していたようで其れ程までではなかった。

流石に達也達に”協力してくれ”とは気が引けてしまいそれ以上は話すことはなかったが。

俺は皆と分かれた後に端末が震える。

着信は佐織からだった。

 

「仕事が早いな。勤務先…マクシミリアン・デバイスの社員か。」

 

昨日遭遇した”ミカエラ・ホンゴウ”…もとい本郷未亜はどうもUSNAからの出向社員らしい。

佐織から送られた顔写真とPDを見ながら俺は次にどうするべきかを考えながら駐輪場に停車している《グレイプニル》へ向かった。

 

◆ ◆ ◆

 

八幡達がレオを見舞っている最中、リーナはマクシミリアン・デバイス東京支社へと訪れていた。

昨日あった脱走兵デーモスセカンドの件でだ。

学校を休み大使館が用意した紹介状と第一高校の信用で通過したリーナは《仮装行列》を使い会議室の一つに昨日手助けしたスターダストの隊員とビシッとしたタイトスカート姿で対面していた。

脱走兵と対峙したスターダストの隊員から報告を受けとるシリウス。

それは以前のデーモス・セカンドでないことを知った。

対峙した情報とその能力を客観的に知らされたシリウスは決断を下す。

 

「…どうやら過去のデータは当てに出来ないようですね。今後脱走兵を補足した場合は追跡に留め、直接手を出さないように。私が対処します。」

 

立ち上がった二人のスターダストの二人に敬礼し終えよう…としたところにリーナ、もといアンジー・シリウスは追加の連絡を行った。

 

「それと…今回、関係があるが不明瞭ですが日本の十師族…七草家が動いている可能性がある。”エクスキューショーナー”の被疑者である七草八幡が現れる可能性もありうるのでそれに留意し脱走兵捜索に当たれ。」

 

「イエス・マム」

 

スターダストの隊員に敬礼を返し、シリウス…もといリーナはその場を立ち去った。

 

マクシミリアン・デバイスの廊下ではシルヴィアがリーナを待っていた。

 

「総隊長こちらへ。」

 

その言葉に頷いて《仮装行列》で変装したリーナがシルヴィアの跡をついていく。

案内された場所は従業員女性用の更衣室だった。

 

「どうぞ総隊長。中に誰も居ないことを確認済みです。」

 

鍵を開けて中へ誘導するシルヴィアの後に続いて左右の状況を確認し入室して扉に鍵を掛けるとその姿は赤髪と金目は金髪と蒼窮へと変化した。

 

「ふぅ…やはりこの方が楽ですね。『パレード』を維持するよりも魔法を隠す方が大変です。」

 

ごちるリーナにシルヴィアが声を掛ける。

 

「少佐急いでください。従業員が来ないうちに早く。」

 

リーナはシルヴィアからのお小言が飛んできて首をすくめるリーナはドレッサールームに入り会議室に入る前にハンガーに掛けた第一高校の制服へ着替えを始めた。

 

「捜査班も白覆面の想子波を識別出来なかったそうです。」

 

「そうですか…脱走者が獲得した能力は個人によって差が出来るようですね。」

 

リーナが告げたことは予想済みだったのかシルヴィアの声に驚きはない。どちらかと言えば落胆の気配が濃厚だった。

タイトスカートを脱いで下着姿になったリーナはハンガーに手を掛ける。

その最中で何故脱走兵が日本人を襲っているのかの議論が繰り広げられるかそれは互いに憶測の範疇を越えなかった。

 

ストッキングを脱いでレギンスに履き替えワンピースの前を留めたリーナが呟いた。

 

「彼らが獲得した異能…それが関係しているのか知れないですね。それよりもあの白覆面を追跡現場に八幡がいるとは思いませんでした。(…八幡はどんな女の子が好みなのでしょうか……。)」

 

会話の最中に出た八幡の話題。

それはリーナが今一番気にしている少年の名前だった。

他人に対して壁を作るくせに面倒見がいいというなんとも天の邪鬼で捻ねくれた性格。

七草の家系に入ったイレギュラー…其れでありながらその実力は”最強”。

万能の黒魔法師(エレメンタル・ブラック)と呼ばれるほどのリーナを授業とは言え負かす程の実力を持つ。

それに顔立ちも悪くはないし”瞳”が綺麗だと思った。

リーナも高校生で年頃の女の子で同学年で自分と並ぶ魔法師…気にならない筈が無かった。

 

ドレッサールームのなかでワンピースを着用しガウンを羽織る前にポーズを取ってみる。

週刊紙のグラビア女優のようなポーズを取りそれが姿鏡に映りハッとした。

 

(べ、別にわたしが八幡を気にしてるとか…そんなんじゃないですかっ)

 

「そうですね…まさか”エクスキューショナーの第一容疑者である彼があの場にいたのは予想外でしたね…それもあの白覆面…脱走兵と戦闘を行って影響を受けずにいるのは彼の実力でしょうか?…それに”異能…傷を残さず血を奪うという吸血鬼の能力ですか…って何をしてるんですか」

 

時間もないのでシルヴィアがドレッサールームを開くとグラビアアイドルがするようなポーズを取っていた。

 

「えっ…いや、これはっ…」

 

パッと姿勢を正し、赤面して俯く上官の姿にシルヴィアは深々と溜め息を吐いた。

 

◆ ◆ ◆

 

突き出された拳と拳が武道場に響き渡る。

目まぐるしく変わる体に、目まぐるしく変わる攻守。

八幡とその妹小町は久々にということで組手をしていた。

それは単なる拳の応酬ではなく《四獣拳》…一拳振るえば人の命を容易く絶つ拳を合わせていた。

 

八幡は《朱雀》小町も《朱雀》を発動し相手へ一撃をいれるために振るう。

上下左右から拳、手刀に拳打の応酬…それを掴み投げ飛ばすが魔法により座標を固定した空間を壁変わりに足場して跳躍し小町が連脚を浴びせるが八幡は涼しい顔で受け流す。

再び空間を足場代わりにした小町が飛翔し飛び蹴りを浴びせるがカウンター気味に繰り出された回し蹴りがヒット。

空中から叩き落とされる小町は素早く体勢を建て直そうと片手で畳を弾きバク宙の要領で向き直りながら距離を取ろうとするが《四獣拳》の使い方…殺し方に至っては兄である八幡の方が上手だった。

 

体術の巧さは両者互角。

威力に関しては比べるまでもなく八幡の方が上手。

しかし速度で言うならば小町の方が上手だった。筈だった。

 

同じ速度重視の《朱雀》でもそれは如実に現れていた。

武器として表すならば小刀二刀流の小町に対して八幡は大剣の二刀流。

小町は他の型を組み合わせて使用できないのに対して八幡は《朱雀》に威力重視の《白虎》を組み合わせ使用することが出来る技巧を有していた。

《速度》と《威力》。

 

小町は圧倒的に不利だと自覚しこの状況を打開するために兄が発動させている自己加速術式を打ち消すための対抗魔法を発動する。

背後に回り込んだ兄を認識した小町はその場所に向けて《術式解体》を発動し起動式を破壊する。

しかし、それは無意味だった。

後ろにいた筈の兄が目の前に現れていたのだから。

突然の事に驚く小町だったが後ろに意識を集中していたため前方にいる八幡へ対処できない。

《玄武》で対応しようにも小町にはその切り替えが兄ほど素早く出来なかったのだ。

小町が遅いわけではない。

八幡が異常なほどに早すぎるだけである。

小町の脳内で「あ、終わった」と思うと同時に拳底が体へ叩き込まれ武道場の壁に激突した。

 

 

「もー!お兄ちゃん手加減してよっ!こんなに可愛い妹をボコボコにして罪悪感はないのっ?」

 

俺が放った《朱雀》の一撃で武道場の壁まで吹っ飛ばされたがとっさに空間に反重力魔法を仕込んでいたのでぶつかったときの衝撃は…そうだなおっきなマシュマロに包まれたくらいだろうか?

いや、でっかいマシュマロに包まれたことなんて無いんだが…。

 

「いやいや…小町が「久々にお兄ちゃんと組手がしたいー」とか言うからだろうよ…。」

 

「だからってこんな可愛い妹をボコボコにしちゃう?」

 

「試合とは言え手は抜けんだろ…それにお前が第一高校に入学したら体術で小町ちゃんに勝てるの居ないと思うけどなぁ…。」

 

恐らく達也といい勝負かも知れん…かもだが殴り合うのは見たくない。

此処は俺の妹…と自慢げに誇っていいのだろうが複雑だ。

小町も俺と同じくほぼほぼ全ての魔法を満遍なく扱うことが出来る。

それに俺と同じく特殊な《瞳》を持っているが使わせないようにしている。

小町が持つ本来の魔法が凶悪で《瞳》と組み合わせると”反則技”になってしまうからだ。

だからこそ”それ”を使わせずに元よりある体術の才能と魔法技能を伸ばすためにこのような組手を行っているのだ。

 

しかし、目の前の妹は不満げに組手の内容を語っている。

 

「さっきの《術式解体》決まったと思ったんだけどな~いつのまにかあたしの目の前にいるし…お兄ちゃん、《朱雀》の速度上がってない?それに威力も。」

 

「まぁ去年から使う機会が多かったからなぁ…それで鍛え上げられたんだと思うけど…でも実際に小町のあの場での《術式解体》はナイスタイミングだったな。重ね掛けする必要があって焦った。」

 

小町も俺ほど乱射は出来ないが《術式解体》を出来る。…まぁこれだけでも十分強いんだけどな?

それはさておいて厳密には《次元解放》で小町の前に移動した…んだがこればっかりは教えられないからな。

「再度自己加速術式を発動した」という体裁にしておこう。

 

「うーんお兄ちゃんみたいに型を切り替える速度があればなぁ…ってさっき何気に別の型いれて使ってなかった?」

 

「そこまで分かるんなら小町もきっと使えるさ。」

 

久々の組手は俺が勝利し小町は悔しがっていたが時期に俺に並ぶときが来るだろうと少し兄として嬉しく思う反面出来ることならば使わないで欲しいという気持ちがあった。

 

◆ ◆ ◆

 

レオが襲われて二日たったが未だにベットの上だ…というか当たり前なんだけどな?

生命力をガッツリ吸われて幹比古が「君本当に人間?」と思わず口に出てしまったほどに驚いていたのだがよっぽどなのだろう。

レオが未だに病院のベッドと仲良しなのは達也経由で深雪から聞かされていた。

 

「大丈夫でしょうか…。」

 

A組で深雪が心配そうにしているのは達也の友達であるからもあるが本心で心配をしているからだろうな。

 

「大丈夫…だろう。レオも自分で言ってたけど”俺の体は特別製”だってな。内臓が傷ついたり骨が折れたりなんてしてないから平気平気。それともレオが嘘吐いて空元気だったって?」

 

椅子に座りながら手を軽く振るう。

まぁ俺はレオが皆に心配させないように空元気だったと思っているが。

 

「そうではないですが…わたしが心配してるのは八幡さんですよ?」

 

「はい?」

 

話題の矛先が俺に向いたことに間の抜けた声を出してしまった。

深雪は心配そうな表情で俺を見ている。

 

「わたしたちがあの病室に向かう際に西城君の部屋の前で横浜のときのような表情を浮かべていらっしゃったので…。」

 

「……っ。」

 

そう指摘されどきり、とした。

本当によく見ているな、と深雪の洞察力に感心すると共にそれは達也にもバレてるんだろうなと感づいた。

 

「…まぁ、実際に知り合いがやられてムカつかないわけないからな。」

 

そうぼそり、と呟くと深雪が俺の制服の裾を掴みこう言った。

 

「八幡さんはお優しいですから…一人で抱え込まないでくださいね?」

 

「…おう。」

 

情けないことに俺はそうとしか言い返せなかった。

直後にその日の授業が始まった。

 

授業はつつがなく進み昼休み前の休憩時間俺は雫に電話を掛けていた。

教室ではなく廊下に出た俺と深雪とほのかはUSNAでは今ごろ夜…ちょっと遅い時間だったが確認したいことがあった。

 

『八幡。』

 

久々に聞いた雫の声は変わりの無い静かなテンションだったが少し嬉しそうにも聞こえた。

 

「数日ぶりだな雫。こんな夜遅くに連絡して悪かったと思ってるが…少し聞いておきたいことがあってな。」

 

「大丈夫。まだこっちは夜の八時だから。」

 

画面の向こうの少女の顔が未だ1ヶ月も経過していない筈なのだが大人びて見えるのは端末越しなのかは分からないが俺にはそう見えた。

 

『それでどうしたの?』

 

「ほのかに聞いたんだが…そっちでも吸血鬼が暴れてるって。詳しい話を聞きたかったんだ。」

 

『…ああ。その事。本当に日本でも吸血鬼が出たんだ。でもどうしていきなりそんなことを?』

 

そういうと雫が画面の向こうで首をこてん、と傾げていた。

うん可愛い。ではなく疑問に思う雫には悪いと思うが単刀直入に言わせて貰った。

 

「レオがそれらしき者に襲われて被害にあって入院中だ。」

 

そう告げると画面向こうの雫の表情が固くなった。

あ、まずったな。

 

「あ、いや検査入院的なやつだから命に別状はないぞ?」

 

『そんな…。』

 

ショックを受けているようでフォローの言葉を入れるが本題を切り出すにはこれが一番手っ取り早いと思ったんだが逆効果だったかもしれないと思い追記した。

 

「いや、大丈夫だからな?そんな顔をしないでくれよ。レオが襲われる前に俺が駆けつけて撃退したから。ただその際に敵の異能に当てられて今は病院で療養してる。」

 

『八幡がそういうならそうなんだろうけど…。』

 

俺の言ったことを信じてくれたのかそう悲観する質もで無かったようで俺は胸を撫で下ろす。

 

『そっか…だから八幡は吸血鬼の事を知りたいんだね。』

 

その反応に俺は頷いた。

 

「ああ。だがどうしてもって訳じゃない。知っている範囲で教えてくれればそれでいいんだが…。」

 

『うん。分かった。』

 

「言っとくが危険な橋を渡るなよ?ミイラ取りがミイラ…なんて笑えないし雫に危ない目にあって欲しくないからな。」

 

『うん。無理はしないから。期待しないで待っててね。』

 

なんかその言い方には含みがあるように聞こえて心配になった。

 

「期待しないでいいってのは”情報”の事でいいんだよな?”危ないことをしない”の意味じゃないよな?」

 

『もちろん。』

 

そういって微笑む雫は魔性の女の子だとそう思った。

 

◆ ◆ ◆

 

都内で吸血鬼事件に対して俺率いる捜査チームは今日も今日とて都内を捜索していた。

別動で警察が主になった捜索チームもあるだろうがこっちはこっちで独自に動いている。

 

『八くん。そちらの状況は?』

 

「已然こちらに吸血鬼の影無し…ってね。」

 

「こちらも異常は見られず。」

 

深夜の都心は吸血鬼事件の1件もあってか少し都心から離れると人の影を見ることはない。

俺は普段の黒づくめの姿で《グレイプニル》を引っ張っている。

《瞳》の感知能力と内情(内閣情報監理局)のバックアップを受けて部分的には連携しているように見えるが力関係

は文民よりも”民”の方が強いというなんとも言えないのだが。

 

『しかし…監視カメラやサイオンレーダーからも逃げられることが出来るなんて一体敵の正体はなんなのかしらね』

 

通信機越しに姉さんの疑問の声が届くが全くもってその通りだと思う。

 

「それはその当の本人に聞いてみないとな…っ!?」

 

次の瞬間に俺の《瞳》で拡張した情報領域に”吸血鬼”として登録した敵性情報を獲得した。

場所はすぐ近くの公園らしい。

 

同時に中継車から姉さんの通信が入る。

 

『八くん!そこから南東にターゲットを確認したわ。』

 

「了解。直ちに向かう。行くぞ。」

 

『了解したマスター。』

 

「『タイプシフト・グレイプニル』」

 

通信を切って加速術式を発動させ夜の町を疾走する。

音声コマンドを入力し人型に変形したグレイプニルを伴って移動した。

 

 

(一人は追われて…もう一人は追跡…これはこの間の鬼女か!)

 

公園へ疾走すると《瞳》が人影を捉える。

一人は逃亡者でもう一人は先日の赤髪金目の鬼のような女だろう。

俺は即座にその場に向かうために駆け出しジャケットのホルダーから特化型CAD(ガルム)を取り出し利き手に握り込む。

俺は準備を整えてその足音の方向へ向かうとその正体をついに肉眼で捉える。

交差する二つの影。

一つはこの間俺と交戦したコートと覆面で隠した”ミカエラ・ホンゴウ”でありもう一人は目の辺りを仮面で覆った鬼のような女…俺はリーナだと思っている人物が共に素顔を隠して追いかけている。

声を掛けて平和的に…とは行かないので無力化してから話を聞き出すことに決めた。

 

「グレイプニルは覆面を押さえろ。俺はあの赤髪金目のあいつに用がある。」

 

「了解したマスター。」

 

グレイプニルもレッグホルスターから獲物であるコンバットナイフと『サーペンテイン』を取り出し《四獣拳・朱雀乃型》を構えスケキヨ(白覆面に黒コート)へ突撃する。

接触すると生気を奪われるため本来ならば接近戦闘はご法度だが試作品の相手と装着者の生体磁気を利用した特殊なデバイスを持たせているので相手が死なない限りは”はだが触れることは出来ない”ようになっている。

 

「!?」

 

俺が咄嗟に追いかけっこの最中に割って入ったからか覆面女…いや面倒だからリーナにしておこうに驚きの反応と舌打ちをされた。

どうも俺が介入するのが面倒だと思っているようだが…それはこっちの台詞な訳でな?

左手に《フラッシュエッジ》を発動して保持しながら《加速術式》を使わずにあくまでも身体技能でリーナへ飛びかかる。

 

閃光が弾ける。

 

俺の保持した《フラッシュエッジ》は空を切ってその場にいた筈のリーナは3Mほど離れた場所へ跳躍…魔法によるものだと理解していたので驚きはしなかった。

並みの魔法師であれば今の一撃で腕の1本や命を貰っていた筈なのだがそれを回避して見せた魔法のスピードとテクニックに舌を巻いた。

 

(これがリーナの実力だとすると…すごいな。)

 

リーナが移動した先は街灯のすぐ下だった。

その姿は街灯によって照らされ暗がりから光が当たるとその姿が露になる。

賢者の瞳(ワイズマン・サイト)』も見破れぬ幾重にも偽装された情報に女性であるのは確かだがそれを疑ってしまうほどの肉眼で見る禍々しい色彩に鬼のような仮面のしたにある金色の瞳は見るものによっては恐怖すら感じるだろうがその程度の事で俺は揺るがない。

 

「さぁて…その仮面の下に隠した本性をさらけ出して貰う…ぜっ!!」

 

赤髪の女へと飛び込むと同時に魔法を使わずにあくまで身体技能で接近し《フラッシュエッジ》を保持しながら振り下ろすと驚いた表情を浮かべながら魔法の残光が煌めく。

自己加速じゃなくて自己移動の魔法を発動したのが分かり右手に持った特化型CAD(ガルム)から発動した《重力弾》をばら蒔き牽制しながら左手に持った《フラッシュエッジ》で切りかかる。

俺の振り抜いた攻撃を回避するために進行方向を変更するがその予測進路に時限信管で発動するように《重力弾》が炸裂した。

 

「くっ…!?」

 

その瞬間に光輪は赤髪を一房切り裂くだけに留まったが追撃を仕掛けるために多重展開した《フラッシュエッジ》を投擲する。

 

「いけっ!」

 

投擲した魔法は到達する前に魔法によって撃ち落とされてしまったが先制攻撃は成功した。

こちらを見る赤髪の女は乱れ髪…先ほどの攻撃は髪止めのヒモごと断ち切ってしまったらしくその姿はインド神話に出てくるカーリーそっくりであった。

俺に乱入されているからか焦っているのが伝わり視線も俺ではなく《白覆面の女》に注がれてるのが分かった。

 

俺の背後で地面が抉れる音が響くと金目の視線が俺から離れた。

恐らく《グレイプニル》が加重系統魔法を使って覆面女を吹き飛ばしたのかそれを目で追っているようだ。

正体を知るために俺は魔法を発動させ襲撃した。

 

 

(くっ…どうして八幡がまた此処に…ってなによあのロボット!?魔法を使ってる?!?)

 

リーナはデーモス・セカンドが現れた知らせを確認し先ほど後処理をしたあとで同じくデーモスと同じ仲間である白覆面の人物が現れたことでその人物を追跡を行っていた最中に現れた八幡と謎の機体。

彼らは瞬く間に分断しリーナ達を捕縛するために活動を始めた。

 

対峙しているリーナは正直目の前の八幡に気をとられて追跡をしている筈の白覆面を追いかけることが出来ていなかった。

逆を返せば白覆面は今八幡が連れてきた戦闘ロボットによって足止めを喰らい動けずにいるのだ。

この状況を利用しない手はないと思うリーナだったがそう簡単に物事は進まない。

 

(くっ…これが八幡の実力なの?加重魔法をこんな風に使うなんて…っ!)

 

現に機雷のように威力は小さいが足止めできる魔法を使われリーナは立ち往生…そちらの機雷に気をとられると手に持った光鋸がこちらを両断しようとしている。

リーナの持つ発動スピードに追随できる八幡の能力に驚いていた。

 

(普通移動方向とは逆向きにして回避しようとしたのになんで合わせられるのよ!)

 

自己加速ではなく自己移動を選択したのにも関わらず純粋な身体技能で迫る八幡に舌を巻いたがリーナに敗北は許されない。ましては相手は自分が認めた負けたくない男の子で日本の頂点に立つ十師族の家系の魔法師。

USNAのアンジー・シリウスとして一介の学生に遅れをとることは許されない。

 

(しまった…!?)

 

八幡が起爆させた機雷に足を取られてしまうリーナその隙を逃す筈もなく八幡が手に持つ光の鋸が腕へ直撃する。

声には出さずに不覚を悟ったリーナは咄嗟に鉄鋼を仕込んだ籠手で受け止め強化の魔法を発動し切断を免れる。

公園には金属が擦れる音と火花が舞い散る。

リーナは懐にしまっていた拳銃を取り出すと気づかれてしまったのか光鋸の魔法を解除し無手になり拳銃があげられる前に押さえられサプレッサーが付いた拳銃からくぐもった銃声。

すぐさま対応するリーナは拳銃を手放し八幡の顔面に魔法を発動しようとする。

それにようやく驚いた表情を浮かべる八幡に内心笑みが溢れたが重力制御の魔法を使っているのか直ぐ様回避をされてしまい雷球の魔法は明後日の方向へと飛んでいってしまった。

 

(今のを避けるの!?くるっ…!)

 

本来ならば急制動を掛けたお陰で足の骨が折れている筈なのに八幡は涼しい顔で急激な方向転換を行いリーナへ視線を向ける。

それは余裕のあるものの表情だった。

宙に浮いていた八幡は地面に着地し独特な構えを取りながら右手に特化型CADを持ち踏み込もうとしている。

それを迎撃するために拳銃とコンバットナイフを構えるリーナ。

しかしその均衡は八幡が持つ通信機のスピーカーから聞こえた内容によって決壊した。

 

「マスター。ターゲットを捕縛した。今は気絶させている。」

 

「!?」

 

機械的でありながら人間のような音声…まさかあの機械が発しているのかとリーナは疑問に思った。

空いている片手で通信をオンにした八幡。

それはリーナに聞こえるように動揺させるために聞かせているのだろうがその成果は十分すぎるものだった。

 

「了解だ。良い仕事だグレイプニル。」

 

『当然の事をしたまでの事だ。』

 

踵を返してリーナから離れる八幡だったがその隙を見逃さず、というよりもターゲットが向こうのてに渡ってしまうのが非常に不味いと判断したリーナは八幡に向けて魔法発動を行う。

発動した魔法は八幡へ到達するがその攻撃は体へ触れる前に霧散した。

 

「なっ…!?」

 

流石に驚きの声が漏れ出てしまうリーナ。

完全に意識が白覆面の方向に向いていたのに何故防がれたのかが分からなかった。

三度魔法を放つリーナだったがそれは三度八幡に当たる前に霧散する。

歩みを進める八幡へどんな手品か分からないがこのままでは対象が確保されると確信したリーナは魔法を発動した。

 

「あ?一体どこに…」

 

「しまったマスター!やられたっ!…にがすかっ!」

 

四度目の攻撃は八幡ではなく”白覆面”へ対してだった。

魔法が行使され八幡が連れてきていた一機が施した魔法を破壊し拘束を解除したのだ。

 

「おい!?あ、まてっ!」

 

「!?」

 

身が自由になった白覆面の女はその場から立ち去ってしまった。

その事を感じ取ったリーナは内心で悔しがりながら閃光弾を地面に叩きつけ離脱を決意し立ち去った。

咄嗟に手で目を覆う八幡。

その場に残された八幡とグレイプニルは呆然としていた。

 

「くそっ逃げられた!…なんて事をしてくれたんだあいつは…。」

 

頭を抱えて八幡はリーナが離脱した方向を見つめながら「やってくれたなあのやろう…」と恨みげに呟いた。

八幡が得た収穫といえば”邪魔された”ぐらいだろう。

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