俺が七草の養子なのは間違っている   作:萩月輝夜

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隙が多い美少女

八幡とリーナが会談に応じ1日が過ぎた次の日の日曜日。

 

「リーナ!何時まで寝ているんですか!もういい時間ですよ!」

 

「…んふぇ?」

 

同居人であるシルヴィアにどやし叩き起こされた?リーナは寝ぼけ眼を擦りながら寝巻きであるシャツと下着姿でベッドから這い出てダイニングルームのソファーに寝ぼけたまま腰かけていた。

 

「全く…日曜日だからと言って…だらけすぎですよ?」

 

「ん~…。」

 

呆れ顔のシルヴィアはリーナの前に蜂蜜入りのホットミルク…ではなく八幡からの頂き物である黒と黄色のストライプの清涼飲料水…所謂マッ缶を耐熱容器のティーカップに注いで温めたものをおいてそれに口を付けて一口飲み干すとその甘さに脳が覚醒してリーナはほっと一息吐いた。

 

「ふぅ…。御馳走様でした。シルヴィ…本部からは何か言ってきませんでしたか?」

 

口調はしっかりとスターズ総隊長そのものであるが…羽織ったモコモコの上着に寝癖が付いてブラシも当てていない頭では威厳もへったくれもないが…もっともこの状態であったとしてもみっともなく見苦しくもないのはリーナが”絶世の美少女”だからだろう。

その格好を八幡が見たら「美人ってのは得だな」と言いそうなものだが。

同時に思ったことを口に「似合ってるな」と言ってリーナから拳が飛んできそうだったが今ここには八幡はいない。

シルヴィアも苦笑を浮かべただけで八幡と同じことを思い浮かべた。

…シルヴィアと八幡はあったことがないのでその意見が通じているかは分からないが。

 

問い掛けられたシルヴィアは首を横に振った。

 

「いいえ。本部からはまだ何も。…しかし何のお咎めも無し、と言うのは無いでしょうね。」

 

「うぐっ…。」

 

「リーナ…一体何があったんです?バックアップメンバーの衛星級とは言えスターズのコード持ちが四人も一気に負傷…一番酷いのは利き腕を肩ごと切り裂かれ復隊は不可能…残る三名は戦線復帰は可能ですが数ヵ月は病院生活です。」

 

「ううっ…!」

 

「それにリーナまで三時間以上通信途絶にIFFの消失…本当に焦ったんですからね。」

 

「うううっ…!」

 

シルヴィアにはそんなつもりが一切無かったのだろうがその追求がリーナの自尊心を大きく傷つけた。

 

「…もしかして負けちゃったんですか?」

 

まさに”連鶴”と言った具合に必殺の一撃が叩き込まれリーナはついに撃沈した。

両手で頭を抱えて唸っていたリーナだったがシルヴィアの言葉によって遂に崩れ落ちダイニングテーブルの机上に勢い良く頭を打ち付けゴンっ、と音が響きシルヴィアは驚いた。その後に小さく「痛い…」と呟いたのを聞き逃さなかったが。

 

「ワタシはもうダメです…やっていける自信が無くなりました…シリウスの称号を返上します。」

 

「え、あ、ちょっとリーナ?総隊長?」

 

顔を伏せたまま泣き言を垂れ流れ始めたリーナの前にシルヴィアがあたふたし始めた。

これでは行けないと思ったシルヴィアは元気付けるためにあたふたしながら声を掛ける。

 

「だ、大丈夫ですよ。総隊長は立派にシリウスの職務を果たしておりますよ。」

 

「高校生に負ける世界最強の魔法師だなんて…有り得ないじゃないですか…。」

 

完璧にブーたれてしまったリーナにシルヴィアは思わず天を仰いでしまった。

どうも目の前の少女はマイナス思考の泥沼に嵌まり込んでしまったようで…高校生に、と言うよりもリーナは肩書きとして世界最強の魔法師部隊の隊長、と言うのもあるが彼女の年齢を考えれば悩み多きティーンエイジャーなのだと改めて実感したシルヴィアも「自分もこんな風にあったことあったなぁ…」と妙に黄昏そうになったが今はそれよりもフォローを入れなければならないと思考を切り替えた。

 

「きっと相手が悪かったんですよ。きっとそうに違いません。」

 

しかし、何時までも悄気て貰うのも困るのでシルヴィアは上官の機嫌取りをしようと決意した。

 

「総隊長が遅れを取ったのは例のシバ兄妹の片方ですか?それとも七草ハチマンですか?そのどちらかなのでしょう?」

 

「八幡です!…ミ、…白覆面のパラサイトを捕らえようとしたタイミングで突然割って入られて…。」

 

突如言い淀んだリーナにシルヴィアは一瞬頭に?が浮かんだが気にせず会話を続ける。

 

「?ではやはり七草の魔法師は普通の高校生では無かったと言うことでしたね。」

 

「…あんなのが”普通の高校生”ならワタシは”それ以下”と言うことになりそうです。」

 

更なるマイナス思考のループにシルヴィアは「不味い…」と思い言い方を変えた。

 

「そんな普通じゃない魔法師を相手にするのは衛星級では荷が重かったではありませんか。リーナが戦っていなかったら更なる被害が出てましたよ?」

 

言い方を変えてリーナを宥めようとしていた。

 

「普通じゃありませんでした!」

 

その作戦は有効だったらしく沈んでいたリーナの気分を向上させるのに一役買って下を俯いていたリーナの顔を上げさせることに成功した。

 

「八幡は魔法師じゃなくて《(Samurai)》だったんですよ!?」

 

「…《(Samurai)》ですか?」

 

「八幡が剣術使いと言うのは作戦本部からの情報で聞かされていましたが…日本の侍大将である千葉家よりも使い手であるなんて聞いてません!囲まれた状態でダメージを受けずに切り抜けるなんて(Samurai)のソードマスタークラスですよあれは!」

 

「そ、そうですか…。」

 

シルヴィアも日本の剣術家である千葉家のことは聞いており同学年にいる千葉エリカもかなりの使い手であると作戦指示書に記載をされていたことは知っていたがリーナが言うには八幡はそれ以上の使い手だった、と言うことを聞かされ困惑していた。

散々愚痴を吐いたことでリーナは自虐的なマイナスループから抜け出せたようですっかりといつものリーナに戻っていた。

 

「…すみませんでしたシルヴィ。」

 

「良いんですよ。たまには愚痴を吐き出さないとパンクしちゃいますからね。」

 

キッチンへ移動しティーカップに残っていたマッ缶の残りを入れて電子レンジで加熱した後にリーナの前に再び差し出すとリーナはちょっと笑って再びティーカップを受けとりちびちびと口を付ける姿にシルヴィアは笑みを浮かべた。

その姿にリーナはますます小さくなったがシルヴィアに他意はなく上官の愚痴に付き合うのも部下の勤めだと心得ていた。

 

「本部からの指示はございませんがいくつかご承認いただきたい報告がいくつかあります…あ、そのままで大丈夫ですよ。」

 

ティーカップを持っていたリーナは身だしなみを整えなければと思ったがソファーに腰かけていた腰を浮かせたパジャマ姿の上官を手で押し留めた。

 

内容としては「昨日交戦した衛星級の隊員の戦線復帰の目処と離脱」、「カノープス少佐からスターズをこれ以上日本へ派遣することは出来ない」との旨と「参謀本部がスターダストの増援に使うつもりでチェイサーではなくソルジャーの派遣を検討している」との事。

 

追加要員の話を聞いて落胆し溜め息を吐いたリーナ。

衛星級とスターダストの戦闘力を比べると見劣りしてしまうのは仕方がないことであった。

 

「あちらの方の調査ですが、別動隊もまだ特筆すべき成果は上がっていません。」

 

「私たちは脱走者の処理を優先しなくてはならない状況ですから、あちらの方は他チームに頑張って貰わなければならないですが…なかなか深くは食い込めないようですね。」

 

あちらの方、と言うのは『灼熱と漆黒のハロウィン』を引き起こした「大爆発」と「虚空」を引き起こした戦略級魔法、軍事関係者の間では「グレート・ボム」と「ダークマター」の術者を突き止める任務の事でありリーナが日本に派遣された理由もその術者を突き止めることにあった。

別動隊として大学や高校に派遣されたリーナ達よりも一足先に来日しマクシミリアン・デバイスなどの魔法機器企業に潜り込んで情報収集を行っている。

 

「そう言えば最近ミアと顔を会わせる機会もありませんでしたね。潜入先の仕事が忙しいのでしょうか?」

 

「っ…。え、ええ。ここ数日は真夜中過ぎまで走り回っているようです。今日も仕事みたいです。」

 

「ここ数日真夜中過ぎまで振り回されているのは私たちも同じですけど…日曜日だと言うのに走り回っているのは勤勉、としか言いようが無いですね。そう言えば明日の午後に第一高校へCAD機材の搬入に向かうそうです。」

 

「えっ?」

 

シルヴィアから明日のミアの行動予定を聞かされ固まるリーナ。

知り合いの人物が来て制服姿を見られるのは恥ずかしいものがあるとすこし見当違いの感想を抱いていた。

そうシルヴィアに言われてリーナはただただ愛想笑いを浮かべるしかなかった。

 

◆ ◆ ◆

 

俺にとって日曜日は惰眠を貪るというかなり重要な曜日だった筈なのに高校に入学してからはなにかと動くことが多くなった気がする。

今現在俺は妹達が使用する特製のCADの作成と調整、小町が使用する武装一体型のナックルダスターの調整…それに昨日リーナとの会談で分かったことを纏め上げる…という仕事と達也達に教えても良い情報の整理を行っていた。

 

「なんで俺休みの日だってのに仕事してるんだ…くそっ俺が卒業したら不労所得で生活してやる。」

 

そのくらいが言えるくらいには俺は既に貯金もあるし何より《六花》で獲得した使いきれないほどの賞金をこっちの世界で日本円に変換…はかなり難しいので適当なUSNA企業の株や日本企業の株を買ったりしたがそれでも結構余っていた。

投資が成功したので逆に七草の資本が増えるという本末転倒な事をしていた。

それに俺の持ち会社…「ナハト・ロータス」は会社名を変更し「アハト・ロータス・ワークス」に変更すると同時に新規事業…というか一般市民向けに横浜事変で使用した機能縮小した「ナノトランサーシステム」開発・販売をすることにした。

それが大ヒット…それにともない「ナハト」もとい「アハト・ロータス・ワークス」は知る人ぞ知る、といった感じだったのだが今や有名会社へと成長した。

あんまり目立ちたくないんですけどねぇ…?

 

そんなこんなで貴重な日曜日を潰した俺は家族との食事で少しやさぐれた心を落ち着かせ自室に設置されている冷蔵庫から黒と黄色のストライプ缶を取りだし煽る。

強烈な糖分が頭の中を駆け巡りもう少し頑張れそうだと机の端に缶を置いて作業を進めようと思った矢先だった。

 

プルルル。

 

突如電話が鳴り響いた。

 

「誰だ…って雫?」

 

こっちは夕方…というか夜だが掛けてきている雫がいるアメリカ西海岸は真夜中であり丁度日付が変わったタイミングだ。

俺は妙な感じを覚えて拒否する、という選択肢を取らずにすぐさま通話をオンして応答しモニターに掛けてきている人物の姿を映したが…不味かった。

 

「雫か?どうしたんだこんな夜中に…ってお前…ちょっ!?」

 

案の定雫だった。

雫だったのだが液晶に映るその姿は俺を赤面させるには十分すぎるショッキングな映像だった。

雫は寝巻き姿で現れ…これが普通のパジャマ姿なら俺もそれ程オーバーリアクションを取る必要が無かったのだがファッション重視のネグリジェを着用しガウンすら纏っていない状態だったのだ。

高解像度のモニターを置いている自室で応対したのも不味かった。

技術の進歩により高解像度のモニターに映る雫の姿は対面で向かい合っているのと遜色がない解像度だ。

ネグリジェという衣装を着てはいるが薄く光沢のある生地は凹凸が少ない雫ではあるがしっかりと括れがあるのがうっすらとネグリジェ越しに見えて雫の華奢な肢体を隠すには余り役立っておらずより扇情的な印象を肉付けさせた。

いくら夏に雫の水着を見てはいるがその時でさえ雫の表情と雰囲気も相まって「一番エロいな…」と思っていたのに今の雰囲気と室内の明かりに照らされ逆行で透けているほぼ薄布一枚で防御力が皆無なネグリジェを着ている雫は上半身に下着を付けていないようでふんだんに縫い付けられたレースとドレープが肝心な場所を隠してくれてはいるのだが…残念なことにネグリジェの肩紐がずり落ちているのでチラチラと大事な部分…布越しにツンとしたとがった部分や薄い色素の部分が影になって見えそうで見えなかったり…ああもうじれってぇな!俺ちょっと雫のところに行ってきます!

…ではなく年頃の高校生のそんなあられない姿に俺はなんとも言えない感情になり手で顔を押さえ彼女の名誉のために指摘しようかしまいがで迷っていたが俺の反応に気がついた雫が爆弾発言をしやがった。

 

『八幡の……えっち。』

 

頬を赤らめてジト目になり胸部分を腕で隠しながらこちらに抗議する雫。

俺は思わず間の抜けた返答をしてしまった。

 

「…雫さんそれは冤罪では?」

 

それでも俺はやっていない、と心の底から訴えたかった。

あ、でも最後にあれ捕まるんだよなあれ。…俺逃げ場ない?

そんなしょーもないことを思っていたが今この対面している状態では俺の精神衛生上によろしくないので雫にお願いをした。

 

「とりあえず…なんか羽織ってくれない?あと肩ヒモ…かけ直してくれ…目のやり場に困るんだけど?」

 

俺が画面を見ないようにそっぽを向きながらお願いすると不思議そうな顔で聞き入れてくれた。

 

『?まぁいいけど。』

 

俺がそっぽを向いていると画面から衣擦れの音が聞こえる。

恐らく肩ヒモ直してガウンを羽織ってくれているのだろう。

 

『もう大丈夫だよ。…あ。』

 

「どうした?」

 

『夜遅くにごめん。』

 

画面越しに雫が俺にたいしてペコリ、と頭を下げた。

 

「いや、別にこっちまだ日付回ってないから大丈夫だが…そっちはもう日付回ってるだろ。…つかお前顔赤くね?」

 

何故か呂律が微妙に怪しいし顔が赤いまさか…。

 

「お前…酒飲んだのか?」

 

『何を?』

 

「そりゃ…二十歳にならないと飲めない飲み物だよ。」

 

『飲んでない飲んでない…飲んでないよ?』

 

手振りでヒラヒラさせるが表情がぽけーっ、しているので間違いなく”飲んでいやがった”。

俺は少し呆れていた。

 

「…ちゃんと水飲んどけよ?それよりどうしたんだ?酔った勢いで連絡してきた訳じゃないだろ?」

 

『?八幡に連絡したくて連絡しただけだけど?』

 

「冗談はいいから用件を告げて早く寝てくれ…。」

 

『むぅ…冗談じゃないのに…はぁ…』

 

逆にこっちが呆れられてしまったが呆れたいのはこっちなんだがな…。

 

「んで?なんで連絡してきたんだ?」

 

『…ふぅ…出来るだけ早めに伝えた方が良いと思って。』

 

”伝えた方がいい”というのは俺が雫にお願いしていたUSNAで発生している『吸血鬼事件』に関してだろう。

 

「もう分かったのか?流石だな。…無茶してないだろうな?」

 

『してないよ。その事件について教えてくれた男の子がいたから…それよりももっと褒めて?』

 

男の子…という言葉に俺は少しムッとしてしまったが気を取りなす、が雫が酔っているせいで幼児退行を起こしているように見えて脱力してしまったと同時に「雫にお酒は飲ませない方がいいな…」と人知れずに決意した。

 

「ありがとな雫。お前は本当に凄いよ。」

 

『んふふ…もっと褒めて?』

 

”褒めて”との御所望なので素直に褒めて雫を労うことにする。

実際に向こうでは留学で忙しいだろうに調べてくれたりこんな遅い時間に連絡をしてくれたりしたしな。

労ってもバチは当たらないだろう。

 

『…ん。それでね。吸血鬼の発生原因なんだけど。…確か余剰なんとか?の黒い穴の実験のせいみたい。八幡なんだか分かる?』

 

その話を聞いて俺は内心「俺のせいか…?」と思ったが俺が使用する”例の魔法”は発動プロセスが違う為今一般的に広まっている…というかその現象を発生させる実験内容について雫に説明した。

 

「ええとたしか…余剰次元理論に基づくブラックホール生成・消滅…じゃなかったかな。」

 

『そう、それ。』

 

「マジか…あれをやったのか…。」

 

USNAがその実験を行ったことに俺は呆れていたせいか動揺よりも冷静な口調。

 

『それ、なに?』

 

「まぁ平たく言ってしまえば…”小さなブラックホールを作り出しその中からエネルギーを取り出す”っていう実験だよ。生成されたブラックホールが消滅、蒸発する過程で質量が熱エネルギーに変換されることが実しょ、…いや予想されているからな。それを確認したかったんだろう。」

 

『それが余剰次元理論?異次元からエネルギーを取り出すの?』

 

雫にその事を言われて俺はドキッとしたが彼女が俺の魔法を知っているはずがないので言葉から連想した言葉だろうが中々に真をついた言葉だと思ったが…一般的な理論とは異なる。

 

「いや、エネルギーを取り出すプロセスに余剰次元理論は関係ない。」

 

『でもそれでどうして吸血鬼発生につながるんだろう…?』

 

疑問に思っている雫に告げた。

 

「魔法による事象改変にエネルギーは必要ないのは知ってるだろうから割愛するけど…俺たちが加速系統、移動系統の魔法は魔法発動の前後にエネルギーの増量、現象が観測されている。魔法はエネルギー法則の改変に縛られずに魔法はエネルギー保存の法則は否定されているように見える。」

 

『…現代魔法の第一パラドックスってやつだっけ?…”命題自体がふきゃんぜん?というりろん、”だっちゃはず?』

 

呂律が怪しくなってきておりここで俺が”もう寝た方がいいんじゃないか?”といったところで今トロンとした瞳の中が爛々と輝き知識的好奇心が眠りよりも優先しているようなのでそのまま話を続けることにした。

 

『雫が言うようにエネルギー保存の法則が破綻しているように見えるのは見掛けだけの話…魔法もまた物理的な結果をもたらすモノである以上は少なくとも魔法の行使はエネルギー保存の法則…世界の理に則り”変化が訪れる”はずがないんだ。”世界”という閉じた輪の中で変化が観測される、ということになれば計測の誤りか”世界”という輪が閉じておらず”別の世界”に通じてる、ってことになる。』

 

俺の台詞に雫はハッとなったようで呂律の回らない口調で唱えた。

 

『しょうか!魔法にひちゅようなエネにぇるぎーは、異次元、別世界(べつしぇかい)から供給されている?』

 

「ああ。俺もそう考えている。」

 

現に俺は夏休みにここではない世界…《六花(アスタリスク)》に訪れて想子…霊子ではなく《星辰力》に大気中に存在する万応素(マナ)と呼ばれる別次元のエネルギーの存在…そして俺の見つけ出した《重粒子》もこれもまた別次元のエネルギーであることが判明しているのでこれは確実に言える。

 

”別世界、別次元は存在し《エネルギー》を取り出し魔法を使用することは出来る”ということだ。

 

「魔法式は恐らくだが事象改変の結果として足りないエネルギーを逆算して別次元から引っ張ってくるプロセスが”意図せず”に組み込まれているんだ。それがどの起動式の一文なのかは恐らくこの世界の魔法に関連する人間は誰も分かりはしないだろうし…それはかなりの徒労だから俺もやりたくはないけどな。物質的なエネルギーの観測がされていない以上は非物質的なエネルギーが世界の壁をほんの小さな穴をこじ開けて魔法式が不足分のエネルギーを要求して変換をしているとなれば辻褄は合う…はずだからな。それを”別次元からエネルギー”を取り出せる、と解釈した研究者達が余剰次元理論に基づいてマイクロブラックホール生成実験を行った…だが加重系統魔法、例え極小のブラックホール生成でも制御は難しいしかなりのエネルギーを消費させ…次元の壁を支えている筈の重力を制御が甘くなって次元の境界が揺らいで”使用される筈の魔法的なエネルギー”がろ過されずにこちら側に流れ込んできたとしたら?」

 

魔法式(まほうーしき)コントロール(こんちょろーる)されない魔法的なエネルギー…それが吸血鬼の正体?』

 

画面の向こうで雫が肩をブルッと震わせ体を抱いている。

その様子を見た俺は少し驚かせ過ぎたかもな…と反省し言葉を掛けた。

 

「かもしれない、だ。憶測の域をでないから真に受けるなよ?あくまで”推論”だからな?さ、そろそろいい時間だぞ雫。明日はお前も学校だろ?」

 

『そうだね。…うん。そろそろわたしゅも…眠るよ。おやしゅみ、はちまん。』

 

「ああ。おやすみ。ありがとうな。」

 

『うん。あ、しょうだ。』

 

こちらで通話を切ろうとしたのだが何か俺に言いたいことがあるのか留まった雫。

呂律の回っていない口からとんでもない言葉が飛んできた。

 

『…しゅきだよはちゅまん。あーいちゅてる。』

 

「酔ってるなお前…ふぅ……おやすみ。雫。」

 

そういわれ動揺しなかった俺を褒めてほしい、と平坦な声で対応し通話をこちらか切ることにした。

切る直前に俺に微笑みを向けて通話を切ると当然ながら音は聞こえず無音の状態で大きな液晶には難しい顔をしている俺がいた。

今、日本で騒ぎを起こしているパラサイト達。

それはまさに別次元から訪れた”来訪者”と言えるだろう。

そんなことを思いつつ俺は途中になっていたCADと武装一体型のデバイスを調整を行う。

気がついたときには深夜を回りそうになっていた。

…くそっ。今日は早めに寝ようと思ってたのになぁ…。

 

◆ ◆ ◆

 

「うぃーっす…リーナ。」

 

「おはよう八幡。遅かったわね。」

 

「ちょっとCADの調整をな…。」

 

「大丈夫なの?」

 

「ああ。」

 

「はい、眠気覚ましのマッ缶。」

 

「おお。サンキュー。」

 

「……。」

 

遅刻をしたわけではないが俺が教室に入ると殆どの生徒がSHRを受けるべく自分の座席について近くにいるクラスメイトと雑談に興じている。

…まぁそもそも俺の場合友達、と呼べるクラスの連中が深雪にほのか、今は西海岸にいる雫しかいないわけで…その他は達也のEクラスのメンバーしかいない。

そもそも最近は達也達と合っていないのはパラサイト追跡があるからな。

連絡役も姉さんや十文字先輩に任せているから申し訳ないが…。

俺も俺でリーナと密約…というか個人での作戦提携をしているので他師族である十文字に警察に近しい組織である幹比古やエリカにリーナの正体を知られるわけには行かないからある程度距離を取る必要がある。

必然的に俺とリーナの距離が近くなる訳だが…。

 

「………(こっちを見つめて微笑を浮かべながら教室が氷付けになりそうな程の冷気を発生させている深雪とあわわと宥めようとしているほのかの姿)」

 

「え、ちょっと深雪…?寒いんだけど…?」

 

深雪がこっちを見つめておりクラスの全員が思っていることだろう「お前の知り合いだろうが!さっさと何とかしろ!」と視線で告げるが俺が収集をしないと不味そうだ、というのは分かる。

というかまたこのパターン?お兄さんいい加減見飽きた…というかAクラスの名物光景と化している。

隣にリーナも寒さで肩を震わせている。

俺は溜め息…は吐かずに近づいた。

 

「…深雪。」

 

俺は霜が付きそうな程凍えそうな教室を進み深雪の前に立つ。

 

「なんでしょうか八幡さん?」

 

こちらを見る深雪の表情は微笑だが明らかな怒り…というか嫉妬が見て取れた。

別に俺とリーナはそんな関係じゃないんだけどなぁ…とまぁ声を掛けたのだからリーナと俺が一緒にいる理由を説明した。

 

「…俺とリーナが一緒にいるのは会長命令と委員長命令なんだよ。それにリーナ本人のご指名でさ。」

 

もちろんこれは嘘ではない。

姉さんに頼んで千代田先輩や中条先輩に口裏合わせをして貰っている。

 

「だからといって四六時中一緒にいるのは如何なものかと思うのですが?」

 

明らかに棘のある言葉に思わず吹き出しそうになってしまうがそれっぽい事情を説明する。

 

「は、八幡さんっ?」

 

俺は深雪の傍に近づいて耳元で説明した。

その際に何故か顔を赤くしていたのは何故なのか考えもつかなかったが…というか俺に近づかれて嫌な気分になって…でも俺目の前にいる美少女に告白されたんだよな…と頭の中がこんがらがってきたので一旦無視した。

 

「…実のところ俺は実家の命令…”七草家”として交換留学生…件の吸血鬼事件に関わってるかもしれないリーナを監視する、っていう仕事があんだよ。」

 

「…っ!ご、ごめんなさい八幡さん。…そうですよねご実家のお仕事もあるというのに…わたしの考えが浅はかでした。」

 

俺にそう言われてハッとしたのか直ぐ様教室の温度は暖房が効いた暖かい教室に戻って霜はなくなった。

深雪は俺に頭を下げようとしたが寸でのところで俺がやめさせた。

 

「…いいや。俺がちゃんと説明してなかったから深雪が不機嫌になったんだろうし…まぁ俺が悪いってことでここは一つ。…ほのかも除け者にするみたいで悪いな。」

 

「あ、ああ。いえっ気にしないでください八幡さん。」

 

「八幡さん…///」

 

俺に急に話を振られたからか慌てていたが顔を赤くしている。

…何故なんだろうか?さっぱり分からん。

 

「……女誑し。」

 

背後からボソり、とリーナがなにかを呟いた気がして振り向く。

 

「…?なんか言ったかリーナ?」

 

「な・ん・で・も・な・い・わ・よ!」

 

「…なにツンツンしてんだお前。」

 

そんなこんなで目の前にいる美少女二人を宥めたことに成功したと思ったら今度は金髪の留学生が何故か機嫌が悪くなっている理由が俺にはサッパリだった。

この現象に名前をつけてくれるなら俺からノーベル賞をプレゼントしたいレベルだ。

その解決法方も教えてくれるなら尚ベストだ。

 

◆ ◆ ◆

 

場面は変わって昼休み。

こちらでも八幡に対しての愚痴をこぼす少女の姿があった。

 

「ねぇ、エリカちゃん?何で八幡さんと喧嘩しているの?」

 

その瞬間にエリカの肩がびくっ、と震えていた。

答えようとするエリカの声はあからさまに裏返っている。

 

「な、何を言っているのかなぁ美月は。け、喧嘩なんかしてないってしてないったらしてないって。」

 

ブンブンと首を横に振ると春から伸ばしている明るい髪色のポニーテールが馬の尻尾のように揺れていた。

動揺しているのは美月から見ても丸分かりだった。

 

「そ、そんなに慌てなくとも…別にエリカちゃんが八幡さんに何かしただなんて思っていないから。エリカちゃんが何かしたって八幡さんなら呆れた顔を浮かべるけど微笑を浮かべて許してくれるじゃない。だからエリカちゃんが原因なら喧嘩になるはずがないもん。」

 

「そ、それは貶されてるのか褒められてるのか微妙…なんだけど?」

 

「褒めてもないし、貶してもいないよ?…だって単なる事実だもの。」

 

美月は、それをバッサリと切り捨てるとエリカは抗議した。

 

「それを事実と言いきられるのはなんか心外かも!?」

 

「はいはい。エリカちゃんが原因だとは思っていないから。」

 

「美月…強くなったわね。」

 

「言いたくないならこれ以上は訊かないけど?」

 

エリカは芝居じみた台詞を投げるが美月はそれを受け流した。

それを見てエリカは力尽きたように机に突っ伏した。

 

「喧嘩じゃないのよ…あたしが一方的に気まずくなっているだけ…明日…明後日まで引きずる予定はないから、今日のところは見逃してくれない?」

 

首をひねって「ひーん!」と泣き声を上げそうな程エリカは少し参っているようで腕と髪の隙間から気弱な瞳が美月を見つめる。

 

「明日、明後日…に戻るって言いきるのならそれでもいいけど…。」

 

「だよねぇ…あーやだやだ。これじゃ普通の女の子みたいじゃない…あたし、信頼されていないのかなぁ…。」

 

「普通もなにも…エリカちゃんは女の子で八幡さんに恋してるんでしょ?忙しくて相手にして貰えないから拗ねちゃってるのね。」

 

「なあっ!?」

 

その事を美月に言われて伏せていたエリカは顔を赤くして勢いよく顔を上げた。

エリカの目の前にいる美月は今日のエリカにとっては八幡よりも強敵だった。

 

「だってそうじゃない。エリカちゃんが悩んでいる理由が八幡さんのことなんだもの。呆れます。」

 

「ううっ…。」

 

「八幡さんがエリカちゃん達に中々会えないのはご実家のお仕事もあるんだろうし…今追っているパラサイトの件も処理をしきれないからエリカちゃん達に頼んでいるのでしょう?しっかりと信頼されているってことじゃない。」

 

「…美月が苛める。」

 

「虐めてなんていませんよ。心底、って程でもないですけど呆れているだけです。」

 

エリカが指の隙間から鋭い視線を向けるが美月がエリカを見つめる視線は同級生に向けるそれの視線ではなくまるで”恋多き年頃の娘に優しげな表情を向けている母親のような表情”だったからだ。

 

「エリカちゃん?そう言うのはね『一人相撲』って言うんだよ?」

 

「ぐほっ…!?美月の容赦のない一言がわたしの胸を抉るぅ~!」

 

「…真面目な話だよ?」

 

「あ、はい…ごめんなさい」

 

そう告げられエリカの体はほんの少し小さく見えたと言う。

 

その後ガールズ?トークをしている最中に幹比古がやってきてエリカと美月(エリカの分はついでだと思う)の昼食として持ってきたサンドイッチを受け渡し三人で昼食を取ろうとしたそのときだった。

 

「痛っ…!」

 

美月が突然手にしたサンドイッチを教室の地面に転がし両目をきつく閉じた。

唐突な行動に怪訝な目を向けずに幹比古は美月に近づき素早く古式魔法を発動し霊的波動を押さえた。

 

「…なに、これ…こんなオーラ見たことない…。」

 

外に意識を向けることで、幹比古も波動を捉えた。

 

「これは…魔の気配…?!…柴田さん。メガネを掛けて。」

 

メガネを掛けるように幹比古に促されかけ直す。

美月は落ち着きを取り戻したことでエリカと幹比古は青ざめた顔を見合せた。

 

「まさか吸血鬼が学校に…!?こんな昼間から?一体何が目的で?」

 

「ふん、良い度胸じゃない?やってやろうじゃないの。」

 

エリカもやる気が満々だったが幹比古は冷静に判断した。

 

「まずは獲物を取りに行こう。」

 

「わたしも…行きます。」

 

「美月?」

 

「わたしも…行った方が良いと思うから。」

 

口調は柔らかなものであったが瞳は揺るがず、その意思は確固たるものだった。

それを見た幹比古は淀みなく告げた。

 

「…分かった。でも僕から離れないで。」

 

その光景を見たエリカは不敵な笑みを浮かべ美月を任せ先にCADの保管庫へ向かう。

足音が遠くなったところで幹比古と美月は顔を見合せた。

幹比古は「美月がおいていかれないようにするためだ」と自分に言い聞かせその柔らかな手を握って走り出す。

美月も差し出された幹比古の手を躊躇なく握りしめて走り出した。

 

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