俺がリーナを撃退して回収しに来た部隊員を全て始末した後に使用していた中継車両に寝かせて起きるのを待っていたら端末が震える。
「俺だ。」
「任務は完了した。」
ハスキーな低い声の持ち主で部下の一人である佐織からだった。
「で、結果は?」
「アンジー・シリウスに指示を出していた高級駐在武官であるヴァージニア・バランスを発見。日本の貸ビルにペーパーカンパニーとして間借りしていた一室を極秘作戦指令所にしていたようだったので、そこに私たちで襲撃を仕掛けて部隊員を無力化して、バランス大佐も無力化してお眠りいただいた。其に会わせて
「随分と派手にやったな。」
その内容に苦笑していると。
『ん…お仕事頑張った。』
『お給金弾んで。』
『ふへへ…頑張りましたのでお願いしますね社長。』
「お前らな…ああ。任せろ高級スイーツに賃金を期待していろ。」
『…やった。』『うん』『えへへ…これで限定版の書籍が買えますぅ~。』
それぞれが報酬に喜んでいる。
佐織達は四人の部隊のリーダーとして活動してもらっている。
菜々崎
秤火
菜々崎
永井
ネガティブ?系厚かましい美少女である。
と、まぁ俺が所持する戦力である部隊が仕事をしてくれていた。
ぶっちゃけるとこの四人強すぎる。
「ヴァージニア・バランスには接触するのか?であれば此方からコンタクトを取るようにするが。」
「いや、バランス大佐が住んでいる場所を教えてくれ。こいつを連れて訪問するから。…そうだな今から一、二時間後に手土産持っていくわ。」
こいつ、といって隣を見るとまだその人物が寝息を立てている。
本当にこいつは俺を襲撃した人物なのだろうか?と疑いたくなったが佐織には窺い知れない事だが。
「そうか…護衛として待機している。アポイントメントは取っておく。」
「頼むぞ。」
そういって通信を切ると近くの寝台で寝ていた人物ががばり、と起き上がって暫くして罵倒された。
何でだよ。
◆ ◆ ◆
「悪いがお仲間は此方で拘束して送り返した。誰も殺しちゃいない。」
「……どうして?」
「あ?」
「どうしてあのときワタシを…殺さなかったの?」
率直な疑問を口にするリーナに俺はどう回答しようか迷ったが率直な意見を述べた。
「大事なマッ缶仲間を失うのは人類の損失だしな。」
「なによそれ…ふざけないで。」
「ふざけちゃいない。…多少はお前に対して親しみは持ってるからな…ほれ。」
「わわっ!…危ないわねっ」
怒りを見せていたがその反応に俺は一先ずリーナに放り投げた。
危なげに手に取るリーナだったが落とすことは無く手には黄色と黒のストライプ缶が収まっていた。
「時間ならある。少し話さないか?」
なにか言いたそうだったが無視することにした。
俺はリーナの対面にある座席に座りリーナは寝台に腰掛け手にしたストライプの缶のプルトップを空けて中身の飲料を喉へ押し込む。
甘さが脳内に響き渡っているの感じとりぼんやりしていた意識を覚醒させる。
ちびちび、と口を付けるリーナを見ながら俺から問いかけることにした。
「これで俺が”ダークマター”の術者の疑いは晴れたか?」
「…ノーコメントで。」
顔をプイッと背けたところを見るに俺が”精神干渉系統に高い適正を持つ”
「……////」
「?」
何故かリーナが此方を見るときに顔を赤くしていたのが気になったんだが…恐らくは俺に負けて悔しいからだろうが深く追求すると此方が余計なダメージを負いかねないので触れないことにした。
話題を変えるために俺はリーナに質問をする。聞いてみたかったことだ
「何でリーナは軍になんて入ったんだ?」
「……。」
そう問いかけると黙ってしまった。
うん、この話題はリーナに振るには少し好感度が足りなかったようだ、と別の事を聞こうとしたらポツリ、と雨音のような音量でしとしと、と語りだした
「ワタシ、産みの親と仲が良くなくてね…其を見かねた父親のお母さん……つまりは祖母、クドウの家に引き取られてそこから流れで、って感じかしら。」
「そうだったのか。何処も親と折り合いが悪いのは一緒か。」
ぼそり、と呟くとリーナが食いついてきた。
「そういう貴方はどうして七草家にいるの?軍で調べても貴方の経歴…過去のデータがないもの。」
「気になるのか?」
意地悪に問いかけるとリーナは可愛らしくムスっとしていた。
「余り愉快な話じゃない。」
「…構わないわ。」
そう言われてしまえば断る義理もないし抵抗感もないので素直に告げることにした。
「…俺に妹がいるのは知ってるよな。」
「ええ。」
「俺も妹を守るために生家から逃げ出したんだ。いや、絶縁って言った方がいいか。親は妹に暴力を振るって其を見かねた俺は両親に精神干渉系魔法使って妹に関心を持たせて俺には無関心…所謂ネグレクト状態にしたのさ。」
リーナは絶句していた。
「…どうして。」
「まだ俺の精神干渉系統の魔法が未熟だっただけだ。そこからは妹以外からは無関心で何処からか聞き付けた俺の家が数字落ちした家を聞き付けた師補十八家の坊っちゃんに絡まれて虐めの日々…日本ではいじめは犯罪じゃないから刑罰が下ることとは無いし学校の先公は見ない振りと来たもんだ。…俺は小学校の低学年から中三の終わりまで我慢していたが…自分でももう存外に限界だったらしくてな両親に啖呵を切って家から飛び出してきたわけだ。」
俺の話を聞いてリーナは絶句していた。
「精神干渉系統を排除しても妹への暴力は止まらないのは分かりきっていたからな…逃げる必要があったんだ俺の元の名字の家には。」
「その日から七草の名前に?」
「ああ。たまたまだったけどな。俺は妹を親戚に預けて世捨て人にでもなろうとしたんだが…そうはさせてくれなかったらしい。ちょっとした事件があって七草の双子を助けたら…ってまさに運命の悪戯って訳だ。」
リーナから見れば自虐的な笑みを浮かべていたに違いない。
「まぁ、俺の話はまぁ良いとしてリーナ。」
「…なに?」
ピシャリ、と言いきった。
「お前は軍人、向いてねぇよ。」
「!?ど、どうして…どうしてそんなこと言うのよっ!」
腰掛けていた寝台から立ち上がり手に持った缶から中身が溢れそうになっていたが。
暴れだしそうなリーナに俺は釘を刺した。
「じゃあ聞くぞ?お前は何のために戦ってるんだ?国か?仲間か?信念か?」
「…!?」
俺に問いかけられ言葉に詰まるリーナだったが振り絞って声に出す。
「命令よ。だから仲間を手に掛けて…貴方を”敵”として倒すために…!」
「なら何故俺に銃口を突きつけた時に一発で俺を殺さなかった?お前の魔法力なら殺せただろ。」
「其はっ…!?」
「俺がお前の友人、だったからか?」
「……っ!」
「俺を撃つときに見る視線がフラフラしていて定まらず自信が感じられなく迷っている…そんな感じだったぞ?そもそも”敵意”は感じられたが俺に対して害を与えよう、とは感じ取れなかった。」
「そ、れは…。」
「お前はもう軍を抜けた方がいい。お前は戦っちゃいけないんだ。優しすぎるんだよ。」
諭すように告げると猛反発された。
目蓋に涙を溜めながら。
「どうしてそんなことをいうのっ!?ワタシは…ワタシは…アンジー・シリウスでUSNAの魔法師でいなきゃ行けない…そうと望まれたからっ」
その言葉に思わず俺は苛立ちを覚えた。
冷たく突き放す。
「自分の存在意義を他人に決められるなんて真っ平御免だね俺は。」
「…っ、そ、それ、は…。」
恐らく小町に怒った以来の怒気を発しただろうその迫力と言葉にリーナは心に少なからず思っていたことを指摘されて言い淀んでいるように見えた。
他人に指図され動かされるのは真っ平御免で俺が最も嫌う生き方だ。
リーナは黙り込んでしまい立ち上がった寝台の縁に腰掛けているが力無く座っている状態だ。
「リーナ。」
「……。」
「『俺たち魔法師は戦争や政治闘争の為の道具じゃない。確かに兵器として産み出されてきたが心まで機械になった訳じゃない。信念を持って、自分で考え必死に生きて涙を、血を流して好きな奴を好きになって恋をして老いてしわしわの顔で笑顔で死んでいく人間なんだ』…まぁ他人からの受け売りだけどな。」
「っ!?……なによ…っ…それ。でも…いい言葉…誰の言葉?」
顔を浮かべ辛そうな表情をしているが先程よりましになっているのは俺の気のせいか。
「…俺の婆ちゃん。まだ生きてるけど。」
婆ちゃんの言葉だ。
魔法師は兵器であっても機械であってはならない。血の通った心を持った生きた人間なのだと。
そう教えられて俺は魔法師として生きている。
「すごいお婆様ね…。」
リーナは感心していた。
「其には同感だ。」
俺が婆ちゃんの事を話すと食いついてきた。
どうやらリーナはお婆ちゃんっ子だったらしい。
「ねぇ、そのお婆様の写真は持ってる?見せてくれないかしら。」
先程よりも声色に喜色が浮かんでいるので多少は俺が言ったことが効いたらしい。
「ちょっと待っててくれ…確かここに…あったぞ。」
「ありがとう………えっ?」
一先ず小町以外の肉親といってもいい人物の写真だけは大切に持っていたので胸ポケットから取り出し渡すと驚いていた。
まぁ…そういう反応するよな…?
「えっ…?ええ?…これ本当に八幡のお婆様?お姉さんとかじゃなくて?」
「正真正銘、うちの婆ちゃんだよ。今年で…60越えてたかな。」
手渡した写真には俺と小町小学生の低学年くらいだっただろうかの時に取った写真に写っている婆ちゃんの姿は他人から見れば”若すぎたのだ”
其を見たリーナの手は写真を持って震えている。
「アンチエイジング…ってレベルじゃないわよ…。」
凡そ大体低学年のころだから…8,9年前だから50代の時に撮ったものだが確かに若すぎた。
眠そうな顔の俺と笑っている小町にはにかんだ表情の婆ちゃん(外見年齢二十代前半)の姿が写っていたのだから。
タイムベントでも食らったのかうちの婆ちゃんは。
「このお婆様何者…?UMAかなにかなの?それとも日本風に言うなら妖怪?」
「お前人のばあ様になんてこと…違う。俺の魔法と体術の師匠。」
「なるほど…。」
おい、何でそこで納得しやがった。このお婆ちゃんありにしてこの孫、ってか?やかましいわ。
と思っているとリーナが写真を見て首を傾げた。
「なにか…誰かに似てるのよねうちの学校に…誰かしら?…ああもう!なんかモヤモヤするわっ。」
「誰って…誰だよ?」
何だその小○構文は。
「其が分からないからモヤモヤしてるんじゃない!…八幡は分からない?」
「いや、わかんねーよ…。」
リーナが誰かに似ている、と騒いでいたが俺にはてんでピンと来ていなかった。
ただまぁモフリ、とした豊かなで艶やかな黒髪を動きやすいように後ろで結ってポニーテールにして快活そうな二十代前半にしか見えない美魔女?…の俺の婆ちゃんとしか認識できなかったんだが…似てる奴いたか?
黒髪…黒髪?
そんなこんなで暫く話しているとリーナは真面目な表情を浮かべる。
「ワタシは…軍をまだ辞めることは出来ないし辞める気もないわ。」
リーナは俺へ向き直りきっぱりと言いきった。
その場を乗りきるだけに発した言葉ではなく心から発した言葉だ。
「…そうかい。お前がそう言うんならそうなんだろうが…ただまぁ、リーナ。これだけは言っとく。」
いたって真面目に表情も姿勢を正して告げた。
「なによ?」
「お前がもしも軍を抜けるって言うなら手を貸す。」
俺がそう告げるとリーナはビックリしたような表情を浮かべていた。
「…どうしてそこまでしてくれるの?も、もしかしてワタシのこと…///」
リーナは顔を真っ赤にしてもじもじしているのかは何故なのか分からないが…。
まぁ確かに急に「軍を抜ける手助けをしてやる」というのは突拍子も無い話だしな。
行かん行かん物事は順序を追って話さないと行けないしな。
「どうしてそこまでしてくれる…って、」
俺は素直に告げた。
これは他に替えがなく中々見つけられない理由を。
「リーナ。其はお前が俺の掛け替えの無い存在(マッ缶を愛飲する仲間)だからだ。」
「…?…~~~~~~~っ!!!??……あ、ええ…??ええ?」
そう告げると瞬間湯沸し器のように顔を真っ赤にして狼狽える。
「大丈夫か?」
「は、はひゅっ!?だ、大丈夫よっ!?」
自分の肩を抱いて忙しなく地面見たり俺から顔をそらしている。
何をしてるんだこいつは…?
「い、今のその言葉…ってどういう意味?」
「どういう意味…ってその言葉のままだが?掛け替えの無い存在(マッ缶を愛飲をする珍しい仲間の意味)だよ。リーナは。」
「…/////そ、そこまで言うのなら…考えてあげなくもないわよっ!」
何故に上から目線?…と思ったがなにか勘違いされているような気がしないでもないが訂正しようにももう遅い気がしたが気にしないことにした。
会話を切り上げて今度は俺が真面目な顔をする。
「一応昨日の戦闘で俺がお前を倒しちまって本部も俺の部下が制圧しちまったからな。」
「…本当に貴方は一体何者なのよ。」
「普通の魔法師だが?家は七草だけど。」
「はぁ…もういいわ。其で今ワタシは貴方の囚われてるって訳ね」
「ああ。今お前の身柄は俺が確保させてもらってる。こいつもな。」
そう言って手に持ったモノを見せるとリーナの顔に動揺が走った。
「【ブリオネイク】…!?」
「悪いがこいつは人質…?だ。」
「…何が目的なの?」
「其はバランス大佐と話したときに言うわ。さて…そろそろ行くぞ。」
「行くって…何処に?」
「バランス大佐の元へ。」
「へぇっ!?」
◆ ◆ ◆
バランス大佐はUSNAより貸し出されている長期滞在用の家具付きマンション(所謂ウィークリーマンション)でグッタリしていた。
その理由としては七草八幡とアンジー・シリウスとの戦闘はシリウスの敗北に終わり急ぎ回収を進めようとしていた臨時本部は謎の少女四名に制圧されて拉致、確保に向かっていた部隊員も同じく”偶々”日本海近海を航行していた軍艦へ放り込まれシージャックされてなおかつ動力部を破壊され日本の国防軍に保護される失態を晒しバランス大佐の経歴と矜持に大きなキズを付けた。
が、日本に駐在しているUSNA大使館の官僚からはお咎め無しだった。
今回の醜態を晒したのはバランス大佐だけでなく臨時作戦本部の護衛を務めていた特殊部隊とシージャックされた海軍も多大なダメージを受けていた。
しかし其よりも大きな問題が起こっておりUSNA最強の魔法師であるアンジー・シリウスがターゲットである七草八幡に二度の敗北を晒してしまったことが大きな問題であった。
そしてシリウスは対峙していた七草八幡から拉致されそして最重要機密である【ブリオネイク】を奪取されてしまっていた。
もう長いこと連絡が取れていない。
恐らくは七草家に囚われているのかもしれないがその足取りは追えておらず無理に襲撃を仕掛けるのは国際問題に発展しかねない事態だった。
シリウスが身柄を確保されてしまうなどと失態以外の何者でもなく参謀本部からの叱責以上の事は免れないだろうな、とバランスは疲れきった表情に乾いた笑いを浮かべていた。
其はリーナのお付き人であるシルヴィア准尉も思わず「大丈夫ですか?」と声を掛けて「ああ。」と短く返すしか出来ないほど疲弊していたのは明らかだった。
再びソファーへ沈み込むバランスの体は今の精神状態を表しているようだった。
ふと、マンションのインターホンが鳴っていることに気がついたシルヴィアが対応をしていた。
その彼女が息を飲む音も聞こえていた。
「失礼しますっ。」
「入れ。」
ソファーの上で姿勢を正していつもの威厳ある声色で入室の許可をするバランス。
入室を乞うシルヴィアは居間の扉を丁寧に開け閉め敬礼した。
その声は動揺の色に染まっていた。
「何事だ。」
「アンジー・シリウス少佐が…戻られました。」
「何だと…!?ここに来ているのか?」
「はい。インターホン越しでしたが確かにシリウス少佐のお姿を…。」
戻ったことに対してよく戻ってきた、と思いがあったがすぐさま別の事が脳裏をよぎる。
そもそもにおいて今滞在しているこの場所を秘密にされている。それはシリウス少佐も例外ではない。
つまりは外部の人間がこの場所を探しだして訪問しに来ている、ということを理解した。
「通せ。」
「はっ」
どう説明しようか迷っている下士官を見たバランスは見かねて指示を出し招き入れることしてシルヴィアは居間へ通すように命じると敬礼し付近のドアを開けた。
「入ります。」
そう言って入室してきた人物に視線を向けるとアンジー・シリウス少佐本人であることが分かる。
その服装は作戦当時のままだ。
「少佐…無事で何よりだ。今まで何処に?」
「はっ!恥ずかしながら先日の作戦の際にターゲットに敗北し捕えられておりました。それと…バランス大佐に客人をお連れいたしました。」
そこには柔和な笑みを浮かべる長身で強靭な体躯を備える金髪碧眼の少年が上下黒のジャケットとスラックス姿でバランスを見つめている。その眼は笑っていないように見えてバランスは無気味に思えた。
その少年の背後にいる少女らしき人物は姿は近辺の高校の制服を着用していたが目元から下は全て覆われた特殊な近代的な機械的なマスクを着けている。
その少女は少年の背後に立っているので護衛なのだろう。
一人の人物だけを指して問いただした。
「シリウス少佐…その少年は何者だ?」
リーナと呼ばずに階級と官性名で呼ぶのはもう手遅れだと判断したからだ。
「はっ!彼の名前は…。」
リーナが紹介をしようとしたタイミングでその背後から前で出て自己紹介をするために少年が口を開く。
「ご紹介に賜り光栄の極み…お初にお目にかかりますヴァージニア・バランス大佐。私は…。」
「なっ…!?」
「ええっ!?」
そう言って指を鳴らすと少年の輪郭が歪む。
「私は七草家、七草八幡です。」
歪みが消え去った瞬間に金髪は黒髪に柔和なきごちない笑みではなくよそ行きの顔つきへと変化した。
突如現れた八幡に驚くバランスだったが平常を保ち声を掛ける。
「USNA軍統合参謀本部大佐、ヴァージニア・バランス大佐です。…失礼だが用件を一つ訪ねたいのですが。」
「何でしょうか?」
「君は…本当にあの七草八幡か?」
「ええ。貴女方が昨日私を”ダークマター”と仮呼称しアンジーシリウスをけしかけ拉致または誘拐を企てようとしてたそのターゲットである七草家の《七草八幡》で相違無いです。」
そう問われていた八幡は苦笑しながら肩を竦める。
そのリアクションにシルヴィアは絶句しリーナは頭を押さえバランスはいたって真面目な表情を浮かべる。
秘密裏のセーフハウスにリーナがあまつさえターゲットの人物を連れてきたこと思考することを一瞬放棄しそうになったが直ぐ様驚愕しているシルヴィアに指示を出した。
「准尉。Mr.ハチマンにお茶のご用意を。それに私と少佐の分を。」
「…は、はいっ畏まりましたっ。」
バランスはここは来訪した八幡を客人として迎え入れる事にした。
「あ、つまらないものですが…。」
キッチンへ向かおうとしたタイミングで何処かから取り出した高級そうな包装がされた小さな小箱を手渡されたシルヴィアは。
「あ、はい。ご丁寧にどうもありがとうございます。こちらは?」
「東京名物マッ缶ラングドシャです。」
「い、頂きますね…?(本当にマッ缶が好きなのね彼は…リーナにからは聞いていたけども…。)」
手渡した後にソファーまで戻った八幡にバランスは対面のソファーへ座るように促し八幡は「失礼します」と一言告げて着席し”休め”のポーズをしていたがバランスに促され隣へ着席した。
シルヴィアは八幡に日本茶とバランスとリーナへは紅茶を置いてそのままリーナの背後に立ち八幡の背後には佐織が立ち待機している。
八幡から口を開いた。
「私がここに訪れたのはこちらと少佐をお返しするためです。」
八幡がリーナに視線を向けた後に後ろにいる佐織に合図を出すと頷いて大きなアタッシュケースを手渡した。
「【ブリオネイク】…。」
バランスが呟くとテーブルの上に置かれたアタッシュケースのなかに入っていたのはアンジー・シリウス専用の装備の姿があった。
「ああ。ご安心を。リーナも【ブリオネイク】も手を触れていませんので。」
バランスは双方を確認し頷いた。
「確かに我が軍の兵士であるアンジー・シリウス少佐とこちらの装備はお預かりした。…だがそれだけのためにここにいらっしゃったわけではないですね?」
「ええ。もちろんです。私はバランス大佐にお願いがあってお邪魔させていただいているので。」
互いにシルヴィアが淹れたまだ温かいお茶を一口つけた。
八幡が一息吐いてその内容を説明し始めた。
「今現在この東京にて発生している《吸血鬼事件》に関しての事件解明のためにそちらのアンジェリーナ・クドウ・シールズさんの人員貸し出しを願いたいのです。」
「それは…どう言った意味で?」
「言葉の通りの意味ですよ。彼女は優秀ですから。私の部下にしたいくらいには。」
「…。」
リーナはその言葉に顔を俯かせていた。
そのアクションにバランスは反応し鋭い視線が八幡に届くが何処吹く風で軽く受け流し続く言葉を説明する。
「そちらでは《デーモン》でしたか?まぁこちらでは《パラサイト》と呼称して精神憑依体に乗っ取られた《吸血鬼》が暴れて相当な被害が出ているんですよ。その犠牲者に当家の関係者の魔法師もおりましてね…しかし、その《パラサイト》に対抗するために術式を開発しているのですが…如何せん直ぐに逃げられてしまうのでなかなかサンプルが手に入らないんですよ。…それにそちらも様々な”問題”を抱えているようですし?」
そう告げるとバランスの眉間にシワが寄ったのを八幡は見逃さなかった。
「貴方は本当に高校生なのですか?サエグサ家にいるとは言えその行動力と思考…ニホンの高校生、というのは恐ろしい。そして我が軍のエースであるシリウス少佐が一度貴方に遅れを取り二度目は敗北した…というのも頷ける気がします。それにシリウス少佐も貴方にライバル意識と同時に信頼を得ている様子…正直このままではサエグサ…いや貴方に引き抜かれてしまいそうだと懸念しています。」
「俺は何処にでもいる普通の魔法科高校に通う一般的な男子高校生ですよ。家柄は少し特別ですけどね?リーナとはクラスメイトで気の置けない友人…多少男として彼女に特別な想い(マッ缶仲間の意識)を持っているだけです。そもそもリーナの正体を知ったのは昨日でした。それにリーナは…魅力的ですので。」
八幡は「よくもまぁこんな歯の浮くような台詞がすらすらと出てくるもんだ…」と自分に呆れていたが真面目モードに入っていたので仕方がなかった。
そして言葉足らずの解説にリーナとシルヴィアも含めバランスは思わず戸惑いを見せたが直ぐ様立ち直り確認した。
「そ、そうですか…。では貴方はシリウス少佐を懐柔する意思はなくただただ《吸血鬼事件》解決のための手助けをして欲しい、そう言う認識でいいですね?」
「ええ。関東は七草の管轄…正直にもうしますと余所者に荒らされたくない、と当主が懸念しておりますので息子の私が動いて手を借りる分には問題ありませんので。改めて言いますが私はあくまでもアンジェリーナ・クドウ・シールズさんに協力を求めています。USNAの魔法師”アンジー・シリウス”なる人物は私は存じ上げません。ええ。あくまでも第一高校1-Aの交換留学生のクラスメイトのリーナにお願いをしているだけです。」
「八幡…。」
きっぱりと言いきった八幡にリーナは視線を向ける。
「分かりました…その件については前向きに熟考させていただきたい。しかし、シリウス少佐が…貴方の前で言うことではないが二度の敗退を結果で示し”シリウス”の名に泥を塗った…それに【ブリオネイク】を奪われるという失態。それに関しての厳罰があると思ってください。」
わざわざ目の前でその事を告げたのは”補填”をして欲しいと言うことなのだろうか?と八幡は深読みしてしまった。
「バランス大佐。その事なんですが…。」
「何でしょうか?」
「その処罰少し待ってくださいませんか?」
八幡は考え抜いた上で双方ともに納得できる”解決案”を提示した。
「私と…取引をしませんか?双方が利益を得る取引を。」
そう問いかけるとバランスは再び八幡へ向き直る。
「それはどう言ったことですか?」
「恐らくはこの事件貴国で行った実験で《パラサイト》の呼び水が出来上がってしまった…今後もこの東京のような事件…脱走兵が発生しないとも限りません。そこで私はリーナだけじゃなくてバランス大佐…貴女との関係、協力関係を作っておきたいんですよ。」
一度八幡はバランスを見て反応を確認する。
告げた言葉に思うところがあったのか食いつき催促をしてきた。
「続けてください。それでその内容というのは?」
「ありがとうございます。先ほども申し上げましたが私も対抗術式の開発を行っている、との話をしていたと思いますが如何せんサンプルが手に入らない…そこで協力をすることで何度も《パラサイト》…《吸血鬼》と遭遇する可能性が大きく有ります。そうすれば今は基礎まで完成している対抗術式を完成させることが出来る…それに私とリーナが接触し敗退したのは東京を拠点に活動する”七草家”が知りうる情報を入手するためだった、ということにすれば貴女もリーナも責任も問われることはないと思います。」
「なるほど…。」
「それに個人的に私がバランス大佐とリーナに対してパイプを作っておきたい…バランス大佐も日本に置ける協力者で”七草家”とのパイプが作れる。どうでしょう?」
「八幡それは…!」
立ち上がろうとしていたリーナを視線で黙らせて追撃を仕掛ける。
「何でしたらこの対抗術式のデータをバランス大佐名義でお渡ししても良いです。どうですか?得しかない”取引”だと思いますが?」
バランスは思案する。
現状現場での動きはほぼ封殺されてしまっていると言って良い。
昨日の軍艦占拠に仮指令基地は押さえられ日本政府からUSNAへ圧力が掛かってしまっている状況で第一優先である「灼熱と漆黒のハロウィン」の容疑者を断定できていない状況で尻尾を巻いて逃げることは出来なかった。
それに八幡が言うとおり《パラサイト》の脅威が完全に取り除かれる、と言うのが約束されたわけではないのでその申し出は非常に魅力的…そもそもに置いて《ダークマター》の容疑者である人物がリーナを庇い立てるような言動をしていることに脳がフリーズしそうになるが先の言葉を聞いて容疑者がリーナに特別な好意を抱いているのだと判断しならば利用させてもらおうと佐官としての本能が騒いだ。
…八幡がリーナに特別な好意を抱いている、というのは別ベクトルで間違っているのだが訂正できる者はいない。
そして本国に自分のメンツと首、部下の進退が掛かっていること日本の十師族”七草家”とその”息子”とパイプが個人的に持てる、と思えばこの八幡が提示した取引は甘い蜜のように魅惑的であった。
八幡は妹や姉を守るためや親友を守りたいためにこのような提案を出していた。
リーナとマッ缶仲間を続けたいのも多少は存在する。
そう”自分自身”の為に活動している、と言っても過言ではない。
そう判断したバランスは返答を出した。
「分かりました。その取引を飲ませていただきます。しかし。」
「ああ。リーナの正体ですが?大丈夫です。言いふらしたりも彼女が不利になるようなことはさせません。誓約書でも書きましょうか?」
「あ、いえ大丈夫です。これほどの条件を持ち出す貴方にそれは失礼だ。」
「いえ。こちらこそ学生の身分で差し出がましい交渉をお許しを。」
「有意義な交渉でした。Mr.ハチマン。」
「…こちらこそ。」
「ふふっ…。」
こうしてハチマンはリーナの上司であるバランスに協力を取り付けた。
両者互いにソファーから立ち上がりバランスから握手を差し出す。
一瞬戸惑ってしまった八幡だったが迷うこと無くバランスの手を取って握手に応じた。
言動は大人のようなのに子供らしいその反応にバランスは自然に笑みを溢し「お姉さん」といったような雰囲気を醸し出していた。
「少佐。Mr.ハチマンと護衛の方を玄関までお送りして差し上げなさい。」
「はっ!」
暫くして八幡と護衛の少女とリーナが居間から立ち去った後にバランスは今までに無い疲労を感じソファーに腰を深く沈めた。
「お疲れさまです大佐。」
「ああ。すまないなシルヴィア准尉…君は七草の息子を見てどう思った。」
「とても高校生には思えない手腕でした…流石は謀略に長け”万能”の二つ名を欲しいままにする魔法師の一家の少年…と言ったところでしたが…まさかリーナ…いやシリウス少佐に”特別な感情を抱いている”と小官と大佐の前で言うとは思いませんでした。」
「シリウス少佐で彼を籠絡してUSNA側に取り込むことが出来れば…いや彼女にはまだ早いか…?」
思案し八幡を取り込もうと思ったがリーナにはまだ早いとバランスは親のような気持ちになっていた。
その様子を見てシルヴィアは苦笑していた。
◆ ◆ ◆
「ねぇ八幡?」
「あ?」
俺はバランス大佐のマンションから出て入り口付近でリーナに声を掛けられていた。
ちなみに佐織はさっさと帰ってしまった…ってあいつ俺の護衛の筈だよな?
「どうしてあんなことを…?」
「ああ。あれね…まぁ…”俺の精神衛生上”に必須だったってだけだ。」
「なによそれ。」
呆れたような表情を浮かべていたが少し嬉しそうなのが気になったが掘り返すことはしない。
地雷臭がしたからだ。
「良いんだよ。俺の理念みたいなもんだかから。んじゃそろそろ帰るわ…お前もシャワー浴びたいだろうし。たぶん匂うぞ俺たち?」
「ちょっ!?レディに向かってなんてこと言うのよ!デリカシーがないわね八幡。」
「俺に女心を分かれ、って言うのが難易度EXTREMEだからな?無理だぞ?」
「……。」
俺は踵を返してマンションのエントランスから歩き出すと再び引き留められた。
声ではなく物理で。
「あ、おいあぶねぇな…リーナ?」
「…ありがとう。」
「へっ?」
俺の背中に突撃してきたリーナの顔を見ることは出来ない。
ただ…まぁその声色涙声で妙に嬉しそうな感じだったのは俺の気のせいではないと思いたい。