俺が七草の養子なのは間違っている   作:萩月輝夜

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冬にやる肝試しも乙だよな

リーナとバランス大佐との交渉を終えて自宅へ戻ると玄関で姉さんがニコニコで待ち構えていた。

そのあまりの迫力に玄関のホールに足を踏み入れた瞬間に後ろに踵が敷居を跨いでいたが俺の腕を絡めとり密着して耳元で囁かれた。

 

「八くん?いったい何処に行っていたのかな?」

 

「いやリーナを自宅に送り返して来ただけなんだが?」

 

そもそも移動指揮車で俺のことモニターしてましたよね、と突っ込みたかったが姉さん的にはそれは問題ではないらしい。

 

「ええ。見てたわよ?マンションから出てきた時にリーナさんに背中から抱きつかれてたわね。」

 

ギクッ。

 

「いやぁ…あれはリーナが感極まって…なんでそうなったんだっけ?」

 

「はぁ…八くんいい加減にしないと刺されるわよ?」

 

いつの間にか俺は姉さんに連れられて自室へと来てきた。

ドアを開けて入室し姉さんと一緒にベッドに腰かけた。

 

「それで…どうなったの?」

 

どうなったの?と言うのはバランス大佐との会談の事だろう。

 

「ああ。上手く行ったよ。バランス大佐と話してリーナを貸し出してもらうことになった。それにバランス大佐本人ともコネが作れた。」

 

「八くんがどんどんとお父さんみたいな謀略キャラになっていく…。」

 

「いやいや父さんみたいにいつどんなタイミングで起爆出来る策の用意は流石の俺でも…父さんレベルまでは無理だって…。」

 

そこまで話し交渉した内容を姉さんに伝えた。

が、姉さんはリーナを貸し出すときのくだりを話すと途端に不機嫌になったのはなんで?

 

「八くん?」

 

「いやいや普通にマッ缶を愛飲する仲間が居なくなるのは寂しい、ってだけだって」

 

「え?」

 

「あ?」

 

一瞬時が止まった気がした。

姉さんがぽそり、と呟く。

 

「…八くん?」

 

「ん?」

 

「シールズさんに刺されてもお姉ちゃんは助けてあげないからね?」

 

唐突な放棄に俺は「なんで…?」となるしかなかった。

 

◆ ◆ ◆

 

そして次の日。

俺は名倉さんに頼んで裏交渉したピクシーを連れ出そうと考えたのだが…。

 

「メイド服姿のまま構内を連れ回すのはなあ…。」

 

遊ぶためではなく《パラサイト》関連のことを訊問するために空き教室を使って行おうと思ったのだがそのままでは俺がお人形あそびをしている変態になってしまうためこのまま連れ出すのは却下だ。

 

「だからってワタシのスペアの制服を使うこと無いじゃない…!」

 

「仕方ねぇだろ。」

 

「最初は『リーナの制服貸してくれ』って聞いたときは思わず憲兵を呼びそうになったわ。」

 

「だから『余ってるスペアの制服貸してくれ』って言っただろうが…。」

 

と言うわけで俺はリーナに未使用の女子制服を借り受け着替えさせた。

俺が改造しているせいか身体の骨格は普通の女子生徒と変わらずリーナの制服を着用させても問題なく着れており一般生徒が通り掛かっても女子高生にしか見えないのは俺が手を加えすぎているせいだろう。

着替えさせるときにリーナにも手伝って貰ったがなんとも言えない顔で俺を見ていた。

余談だが改造しすぎたせいで遠目から見ると”少女の体にしか見えなくなっていた”ピクシーの体を見ながら着替えをさせてもそんな気は1ミリも思わなかった、と言うことをここに記しておこうと思う。

リーナからはすごい目で見られたけどな!

 

そんなこんなでピクシーとリーナを連れて空き教室に入り鍵を閉めて遮音フィールドを形成し訊問を開始した。

どうして人間に取り憑くのか、お前達は何が出来るのか?という確認のためだ。

ピクシーを窓際に立たせて俺とリーナが距離を置いて見つめるように立っている。

 

「それじゃあピクシー質問に答えてくれ。」

 

『畏まりました。』

 

「それじゃあ先ずは…。」

 

ピクシーへ質問をすると答えてくれた。

犠牲者には傷がないのに血が抜かれているその理由を。

ここで説明すると長くなるのでかい摘まんで説明すると《パラサイト》は自身の一部を切り離し人間に植え付けその際に肉体の変容を促すために変換される…これが外傷の無い猟奇事件の原因だった。

 

『肉体の浸透が完了すればその情報体の幽体も把握することが出来ます。』

 

「実体と情報体への相互作用…なるほど魔法と一緒だな。ピクシー続けてくれ。」

 

『はい。幽体は情報体への通路であります。幽体を経て適合する肉体の精神体へアクセスをして一体化出切れば増殖は完了します…がその成功例はありません。』

 

「なんでそう言いきれる?」

 

『不明です。…私もその理由を知りたいのです。何故か光井ほのかの想い(その想い)だけが失われずに、ここに残っている。』

 

そう言ってピクシーは燃料容器…心臓部分を指差す。

 

「そうか…この国にあと何体のパラサイト…同類がいるか分かるか?」

 

『このボディに宿るのも含めて八体のパラサイトが確認できます。』

 

リーナが口を挟む。

 

「その個体との交信は可能なの?」

 

『はい。』

 

「交信が可能な範囲は?」

 

『国境の内側であれば交信可能です。』

 

(いや、広すぎんだろ。)(いや、広すぎでしょ…?)

 

「そ、そう…他のパラサイトの居場所は分かる?」

 

そうリーナが問いかけると滑らかに首を横に振って否定した。

 

『いえ、このボディにはいってからは通信が途絶しています。』

 

今度は俺が質問した。

 

「そう言えばお前達の中に指揮官らしいものはいるのか?」

 

『我々に指揮命令権はありません。』

 

指揮命令権が無い…?つまりは個人で活動しているということだろうか…?

 

「どうやって組織的なものを維持…集団で人間を襲っていたんだ?」

 

『我々は個別の思考能力を持ちながら個人の意識を共有しています。生命体を宿主にしたことでもっとも根元的な欲求…生存と自己複製が共有する意識の中で統合され我々の行動を決定づけていましたそれがマスターには組織的な行動に感じられたのだと思います。』

 

その事を聞いて俺は少し疑問に思った。

仲間が人間に寄生しているのであれば今のピクシーは人間ではなくロボット…それでは”異物”として処理させれてしまうのではないかと。

 

「ピクシー。」

 

『はい。』

 

「それだとお前がロボットに憑依した”異物”だと仲間から排除されるんじゃないか?」

 

そう問いかけると変わらぬ表情で答えてくれた。

 

『我々に”排除”という欲求はありません。ただ…。』

 

「ただ?」

 

『私が彼らの目的を妨げる障害物、と判断された場合優先的に攻撃を仕掛けてくる可能性は大いにあります。』

 

「そうか…さっきはこの入れ物に入ったことで仲間の存在を関知できない、といってたけど完全に関知できないのか?」

 

『相手の活性が高まっている状態ならば恐らく感知可能です。逆に言えば現在の私はある程度まで接近されれば感知される状態に有ります。』

 

「なるほどな…。」「なるほど…。」

 

俺とリーナは二人してピクシーの返答を聞いて頷いた。

 

「よし、ピクシー。ガレージに戻って制服からメイド服に着替えてくれ。また後で指示を出すからスリープ状態で待機していてくれるか?」

 

『畏まりました。ご命令をお待ちしております。』

 

そろそろ昼時間も間近になってきたのでピクシーに指示を出して一人でガレージに戻るように指示を出す。

身体の柔軟さは人間と同じなので一人で着替え出来る筈だし通り掛かった生徒も分からないだろうしな。

 

そうやって指示して空き教室から二人で退出した。

 

「ねぇ八幡?」

 

「ん?」

 

「ピクシーが言うには彼らは生命体として歩調を合わせているのよね?」

 

「ああ。」

 

「それだとピクシーがその欲求から外れてしまった”同族外”になってしまったのよね?」

 

「そうだな…それだと奴らはきっとピクシーの存在を感知して機械、という入れ物に入ってしまった彼女を取り戻しに来るだろうな。」

 

「と、言うと?」

 

「ピクシーには悪いが…連中を生け捕りさせて貰う”撒き餌”になって貰うとしよう。」

 

「…悪い顔してるわよ八幡。」

 

「…企み顔と言ってくれよ。」

 

俺とリーナは連れだって売店へ向かう。このままでは昼食無しで残りの二限を乗り越えなくてはならないからな。

 

◆ ◆ ◆

 

「夜間入校許可証ですか?」

 

「はい。直近で3HPー94(ピクシー)が異常な行動を続けているので監視しようかと思いまして。俺とリーナの分をお願いします。」

 

放課後俺はリーナを生徒会室に送り届けるついでに中条先輩に夜間入校許可証を取りに来ていた。

 

「え、シールズさんもですか?」

 

中条先輩の疑問ももっともだがリーナは上手く誤魔化してくれた。

 

「ええ。ワタシも臨時とはいえ生徒会役員の一人です。取り憑いているのが魔の者ですから八幡一人では危険だと思いますので。」

 

中条先輩は後輩が率先して問題解決に動くという自主性に感動していた。

本当に申し訳ない…。

 

「分かりました!それではー。」

 

とその承認に待ったを掛けた人物がいた。

 

「わたしも同行いたしますのでわたしの分も承認お願い致します。」

 

スッと俺のとなりに深雪さまがエントリー…そして連続のエントリーが発生した。

 

「は、はいっ!私もいきますっ!」

 

「は?あ、いや俺とリーナだけで…。」

 

「パラサイトが宿ったロボットを見張るだなんて危険です!…そ、それに夜中にお、女の子と一緒だなんて…」

 

「いや、それを言ったらほのかも深雪もなんだけど?」

 

「と、ともかくです!それを言ったらリーナもじゃないですかっ(うぅ…あの子(ピクシー)が何を言うか分からないじゃない!…それに夜中にリーナと一緒だなんて…最近妙に仲が良いし…そ、その”間違い”が起こっちゃうかも知れないじゃないっ…!)」

 

なんか顔が赤いんだけど…どうしたんだろうか。

 

「ほのかの言うとおりです。」

 

深雪の目のハイライトが消えた。

 

「八幡さんといえども相手は魔の者」

 

にっこりと笑うがその笑みは全てを凍りつかせる冷徹な微笑。

 

「万が一に備えてリーナだけでは不安ですのでわたしたちもサポート致します。」

 

その微笑を浮かべながら俺へずいっと近づく深雪の微笑は俺の背筋を凍らせるのに十分すぎるほどの威圧感だった。

 

「良いですよね?会長。リ ー ナ に 八 幡 さ ん ?」

 

そう問い詰められてブルブルと震えて縮こまる中条先輩。

 

「ハ、ハイワタシモソレガイイトオモイマス…!」

 

「お、おう…。」

 

「え、ええそうね…。」

 

「お兄様も一緒に参りますので心配はご無用です。」

 

俺とリーナは顔を見合わせて深雪の気迫に気圧されていた。

あんまりリーナの戦闘を見られたくないんだが…下手に断るのは逆に疑われる可能性が合ったのでその要求を受け入れるしかなかった。

 

◆ ◆ ◆

 

午後七時。

校内は夜の帳が落ちており明かりもかなり少なく見るものによっては不気味に思えるだろう。

本来であれば当直の先生だったり学校の警備員、そして学内システムのエンジニアこれに含めて生徒会が認めた生徒だけが立ち入りを許されるのだった。

そもそもにおいてなんでこんな面倒な事を採用した、というと姉さんが発案したことらしい。

これには七草の家の思惑があるようだが正直利用する側はどうでも良いだろうし第一高校が魔法師を育成する教育機関なので過剰なまでの警備は必要だろうというのが一般から見た認識だった。

 

一旦俺は家に戻り夜間徘徊用の上下黒尽くめのライダーススーツにマグポーチにCADを突っ込んで手には荷物を突っ込んだボストンバックを持っている。

隣にはリーナと達也、その後ろに深雪とほのかが立っている。

夜間に活動するので本当なら二人が好ましかったが過ぎたことは仕方ないと通用口の守衛に中条先輩から貰った夜間入校許可証の認証コードを打ち込むと其々のIDカードを受けとる。

四枚目を深雪、五枚目をほのかに渡すと嬉しそうな顔を浮かべていたので言い掛けた言葉が心の中で霧散してしまうほど嬉しそうな笑みだったのだ。

達也に視線を向けると「許してやってくれ」と言わんばかりの回答だったので俺は振り向いて溜め息をついた。

 

一応夜間の学校に来てはいるがルールで”学校に来る場合は休日であっても制服を着用しろ”と定められているが夜間はその限りではない。

高校生で子供であるのだから制服を着て深夜徘徊するな、と暗黙のルールでありそれに則って俺を始めリーナは黒のジャケットにスキニーパンツにブーツ、色素の薄いサングラスにベレー帽を身に付け…とちょっとセクシーでかっこいいの止めろお前。

 

「似合う?」

 

「似合うけど遊びに行く訳じゃないんだが?」

 

達也と深雪も其々黒のブルゾンにカーゴパンツ、ハーフコートにストレッチパンツにブーツ…まるで俺たちは某探偵漫画の犯人役のように怪しかった…が。

 

「ホノカ?貴女お家に帰らなかったの?」

 

リーナがほのかの格好を見て俺が…いや俺たちが思っていることを代弁してくれた。

ほのかの格好は白のトレンチコートにその下は第一高校の指定制服…夕方と同じ格好だった。

 

「えっ?う、うん。一度家に戻ったけど…も、もしかして制服のままじゃ不味かったんですか?」

 

そう言って不安そうに俺を見つめるほのか。

俺は頷いた。

 

「ああ。ちょっとな…これから行うことに少し…いやかなり都合が悪いかも。」

 

「ねぇ八幡。」

 

「あん?」

 

「ホノカのお家…ってここから近いのかしら?ピクシーを拾った後に時間はまだあるし着替えに戻ったら良いんじゃない?」

 

リーナの言うことも確かでまだ時間はあるしここでピクシーを連れていった方がここに再び寄らなくても済む。

駅も近いので一石二鳥かもな。

それに深雪と達也が頷いて賛同した。

 

「まぁ邪魔するには遅い時間だし…ほのかが着替える間俺たちは待っていれば良いか…それでほのかも大丈夫か?」

 

「は、はいっお時間が頂戴できるなら是非上がっていってくださいっ」

 

「え?あ、でもそれだと悪いだろ?」

 

「是非っ!」

 

「お、おう…?」

 

ズイっと顔を近づけて嬉々とした表情で俺を見つめるほのかをジト目で見つめるリーナと深雪の視線が痛かった。

あと達也が呆れた表情をしていたのがちょっとムカついた。

そんなやり取りを終えてピクシーがいるロボ研のガレージに到着して内部でロックを掛けているピクシーに指示を出した。

 

音声…ではあるが無声で《次元解放(ディメンジョンオーバー)》のゲートを通してのある種の知覚されない暗号通信を直接送ってピクシーを呼び出す。

 

(ピクシー。開けてくれ。)

 

(畏まりました。)

 

返事があって直ぐ様セキュリティーにより制御された扉は直ぐ様開かれてピクシーがメイドの挨拶をして出迎えてくれた。

端から見ると俺が改造しすぎたせいで本当に端正な顔立ちの人間にしか見えないな…。

顔をあげると嬉しそうな表情を浮かべているから尚更だった。

 

「ピクシー。これから出掛けるからこれに着替えてくれないか?」

 

俺はボストンバックをピクシーに差し出すと丁寧に両手で受けとり地面にバックを下ろしジッパーを開く。

流石に夜中にメイド服姿で連れ回すのも制服姿で連れ回すのも当然ながらNGなので俺たちが校内に入り込んでいるルールに則って着替えさせることを思い付いた。

俺が女性モノの衣類を用意するのは差程難しくない。

家人にはメイドや妹達もいるので手にすることは簡単だ……それの用途を説明するのは精神がごりごり削られたが。

ボストンバックから取り出したのは緑色のコートにベージュのタートルネック、それにチェック柄のスカートに黒タイツにブーツ…東京の夜の街にいても不思議でないコーディネイトを用意した。

こくり、と頷いてピクシーはバルンスリーブのメイド服のワンピースを脱ぎ始めた。

 

うん、めちゃくちゃ滑らかに動くな…駆動系のモーターの反応速度を変更したお陰だな。

それに腕の可動域も内部骨格を分割方式にして人体に近い形にしてるから腕をあげたときにぎこちなくなってないな。それに下半身も機械部分が露出しないように人工皮膚(スキン)を被せてあるので女体に近い形だ。

まぁ博士に比べたら俺の造形レベルなんて小学生みたいなもんだ。

 

 

と、思っていたら突然俺の視界が真っ黒になった。停電でも起こったのか?と思ったが違ったらしい。

 

 

「は、八幡さんっ!?何を平然と見られているんですっ!?」

 

どうやらいつのまにか背後に回り込んでいた深雪に「だーれだっ?」状態されていたらしい。

 

「…は?平然と…ってピクシーはロボットだろ?」

 

「ロボットでも女の子ですよっ!?」

 

「いやピクシーは普通のロボットだろう…と思ったが確かに市販のピクシーとは…ってかなり手が入ってるな八幡…これは流石の俺も…不安になるぞ?」

 

「お、お兄様もじろじろと見ないでくださいっ」

 

達也の言うようにピクシーはロボットだ。

悪いが俺はお人形で性的な興奮を覚えるほど変態じゃないしピクシーを改造したのだって技術屋的な側面と…あれだプラモデルを作るときにすげーギミックを入れたくなる、そんな感じのあれだ。

俺がもしそう言うのを作るんなら…いや、この話しは止めておこう…あり得ないことだからな。

 

「と、ともかくですっ八幡さんと達也さんは後ろを向いていてくださいっ!」

 

「そうです!リーナもガードしてください。」

 

「はぁ…分かったわ。二人ともスケベね。」

 

「おいふざけんなリーナぁ!」

 

「その言われ無き風評被害、断固辞退させて貰おう。」

 

俺と達也は二人して後ろを振り向かせられて待つこと数分。

 

「はい、もう大丈夫よ二人とも。」

 

リーナの呼び掛けで振り返るとそこには冬のコーデに身を包んだどっからどう見ても人間にしか見えないピクシーの姿が。

しかし、それだけでは偽装は出来ないので俺はボストンバックのそばに近づいて中に入っていた最後の装備品を取り出しピクシーに装着する。

 

「これでよし、と…。良いぞ。」

 

『ありがとうございます。マスター。』

 

耳部分がセンサーになっているので隠す必要があった。

なので白のポンポンがついたイヤーマフを装備させた。

こうすれば完全に職質を受けても問題なさそうだ。

 

「よし。ピクシーついてきてくれ」

 

そうして俺たちはピクシーを連れてほのかのマンションへ向かうことになった。

 

◆ ◆ ◆

 

「そう言えばだけど八幡。これから何処へ向かうの?」

 

ほのかの着替えをするためにマンションに立ち寄ってお茶を頂きそこから出て大型のキャビネットに六人?が乗ったタイミングでリーナから声を掛けられた。

ああ、そう言えば言ってなかったか。

 

「青山だよ青山霊園。」

 

「どうしてそこなんだ?」

 

達也が何故?とその通りのままの意味で問いかけて来ると深雪が感づいたようだ。

 

「季節外れの肝試し…?…なるほど、お化けはそう言うところに出る、と言うことですね?」

 

「お、流石深雪だな。察しが良いな。」

 

深雪の推論を肯定するとその表情は嬉しそうに微笑を浮かべていた。

 

搭乗していたキャビネットが青山の駅に到着し降車して地上に降りるエレベーターに乗り込むとほのかが声を掛けてきた。

 

「あれ?でも八幡さんその時間でしたら閉園してるんじゃ…。」

 

「中には入れない。だが今から起こす行動は流石に日中じゃ俺たちがお縄になる可能性が高いからな。いくら俺が七草の息子だからって往来で魔法を使うのはな…それにもし遭遇した場合は周りに被害が出る場合がある。それにピクシーを連れていくんだから人の目が無い方がいい。」

 

ピクシーに質問した際に自己増殖を失ってしまっている。

これは他のパラサイトからすれば仲間を次々と殺され数が少なくなっているのだから同胞を助け出すためにこのピクシーの体を破壊してその中身を取り返そうと行動するだろう。

なんでそう思うのかは簡単だ。

 

”彼らが人間、という感情で動く生き物に憑依している”為だ。

 

「まぁ仮に誰かに見咎められたとしてもほのかの魔法でなんとかしてくれるだろ?」

 

「任せてくださいっ!(八幡さんのために覚えた魔法を使用することが出来るわっ。)」

 

自信満々にその大きなものを服越しに揺らしながら胸を張るほのか。

まぁ霊園までのルートは防諜第三課の人達が監視してくれているから警官は出てこない筈だ。

それに魔法を使った場合市街の魔法使用ログに残ってしまうため控えてほしいんだけど。

 

エレベーターを降りると青山駅周辺はひっそりと静まり返っていた。

ほのかが一歩踏み出そうとした瞬間に手をつかむ。

 

「は、八幡さんっ?」

 

「待ってくれ。…駅周辺に警官がいる。」

 

「八幡のところの人間じゃないのか?」

 

達也が質問するが俺は首を振る。

 

「いや、この地点に人員を配備しないようお願いしてた筈なんだが…当地巡回の警官か…?」

 

視線を凝らすと制服警官が魔法感知用のセンサーを持っているのが見てとれた。

こっちに近づいてくるのが見えたので俺がやり過ごそうと考えているとやっぱりというか懸念してたことが起こった。

 

「任せてください八幡さん。」

 

「あ、ちょっとほのか?」

 

俺が制止するのも虚しくほのかはブレスレット型CADを起動させて警官達にかざす。

魔法の起動式が展開されアラームが鳴り終わる前に警官達の意識は暗い泥の中へ沈んでいき崩れ落ちた。

それを見て俺は驚いた。

 

(今のは…精神干渉系統の【邪眼(イビルアイ)】…?)

 

それを見て俺は去年の4月に見たブランシュ首領の魔法を思い出した。

 

(発動スピードが比べ物にならない程早いな…流石ほのかは光のエレメンツ…ってそうじゃねぇ!)

 

俺はほのかの肩を抱いて駆け出した。

 

「は、八幡さん?」

 

「流石だって言いたいところだけど市街で魔法を使うのは不味いっ!ここからさっさとトンズラこくぞ!こいつらの仲間が来ないうちに。」

 

「え、ええっ!?な、なんでですかぁ?」

 

俺は内心で舌打ちをしたが善意でやってくれた少女に苦笑いして「ありがとう」という術しか持っていなかった。

 

◆ ◆ ◆

 

「やれやれ…困ったお嬢さんだわ。市街地監視システムのログに残ったら実刑を免れないのに…。」

 

その場面を見ながら一人の女性が溜め息を吐きながらモニターを弄るのは達也の職場の上司に当たる藤林響子だった。

 

「ほっほっほ。見事な腕前じゃないかね。彼女は確か…《光井ほのか》…だったかね?」

 

複数あるモニターの光源だけで室内を照らし光の届かぬ場所から笑い声と純粋に魔法師の実力を評価する声と共に現れたその発言に藤林は溜め息をもう一度吐きそうになった。

 

「そうですわ。お祖父様。彼女は第一高校所属《光井ほのか》さんです。」

 

藤林の答えに、お祖父様…九島烈は「ふむふむ」と頷いていた。

 

「あの系統を得意として『光井』の名字…彼女は光のエレメンツの系統かね?」

 

「さぁ、そこまでは。調べておきましょうか?」

 

「いやそこまではしなくてもいいよ。」

 

孫娘に問われ人のいい笑みを浮かべながら否定した。

 

「ほっほっほ…それにしても彼は人を惹き付ける特異な才能が在るようだ。彼の周りには優秀で面白い人員が数多い…流石は弘一が次期当主に推薦するだけはある。」

 

画面を見つめる烈の視線はまるで自分の孫を見るような優しい表情だった。

 

「それになんの因果か弟の孫まで彼の周りにいるのは不思議なことだ。彼を九島の勢力に加えるためにリーナを帰化でもさせて婚約者として…。」

 

「お祖父様?」

 

「おお。すまんな。八幡くんが遊びに来てくれぬかのう…それに光宣も彼に会いたがっておったし。」

 

「光宣くんは七草くんのファンでしたものね。」

 

響子は自分の親族を思い出して苦笑していた。

それに何故藤林がこのような証拠隠滅に手を貸しているのかと言えば達也から協力要請があったのと、他に任せるには彼女の仕事人としての魂が燃えていた、ということに他ならない。

そもそも東京が七草の管理地であるならば八幡自体が不用意に魔法を使わない筈だからだ。

それも全てご破算になってしまったがこれも若気の至り、ということで。

 

「類が友を呼ぶのか…この時代に弘一の息子と深夜君の息子が揃うとは…彼らは平穏とは程遠い星の元に生まれたのかもしれないな。」

 

「そうかもしれませんわね。」

 

「ふうむ…それに先程の警官この周辺地域を巡回は弘一の指示で配置されておらん筈だったが…成る程四葉の仕業か。」

 

「四葉が…ですか?」

 

響子が烈へ問いかけると頷いた。

 

「やれやれ…真夜の癇癪も困ったものだな。弘一との確執があるとは言えこのような行動を…下手をするとこの後八幡くん達の邪魔をするかもしれんな。響子。手伝ってやってあげなさい。」

 

「それは…よいのですか?」

 

「構わないよ。大方スポンサーからの仕事と弘一の息子である八幡くんの存在が疎ましいと思ってこのようなことを仕掛けてきておるのだろう。」

 

「分かりました。」

 

響子は先程烈が告げた”類が友を呼ぶ”その中に祖父も含まれているのでは?と言いたくなったがそこまで考え無しではないし元々達也をサポートするためだったので仕事に専念することにした。

 

◆ ◆ ◆

 

 

案の定、というか当たり前だが青山霊園の扉は閉まっていた。

俺たちは霊園を囲う高い塀の周りを六名(多すぎる)で散歩と洒落混んでいた。

 

「それにしても意外だった。」

 

背後で達也とリーナ達が会話をしていた。

 

「意外?何がよタツヤ。」

 

「こんな肝試しに参加することにだ。」

 

「ワタシの知り合いが《吸血鬼》に襲われたのよ。八幡に付いていくのは当然の事だと思うけど?」

 

「本当にそれだけか?」

 

鋭い眼差しがリーナを射貫く。後ろにいる深雪は通常の視線をリーナに向けているがそれは少し険しいものだということが分かった。

 

「何が言いたいの?」

 

達也とリーナがにらみ合いをしているタイミングで少し間を空けて援護した。

 

「俺が頼んだんだ。交換留学で日本に来ての思い出作り、って訳だ。リーナは優秀だから遊ばせておく戦力にするのは勿体無いしな。」

 

俺がそう告げると達也も深雪も一応の納得を見せてくれた。ほのかはあわあわしピクシーはそのやり取りを見守っているだけだ。

 

ナイスタイミングで敵襲を告げた。

 

『マスター。「パラサイト」が三体接近中です。』

 

ピクシーのテレパシーによって俺たちは足を止めて言い合いを止めた。

テレパシーを使うように指示を出したのはパラサイトを呼び寄せるためだ。

テレパシーで伝わるのは俺だけではなく達也や深雪達にも伝わり怯えは見えないけれども動揺は見えない。

リーナに至っては俺と同じく臨戦態勢になっている。

 

俺はレッグホルスターから愛機である漆黒色の拳銃超特化型CAD【フェンリル改】を引き抜き暗闇に突き付けリーナも俺が調整し渡した端末型のCADを手に持つ。

 

達也達は背後を守るように同じく銀色の拳銃特化型を自然に構えて深雪とほのかも其々の得意なCADを準備する。

俺は念のためにリーナに対して”保険”を掛けておいた。

 

その準備が終わると街頭の灯りが無いところからぬるり、と三名が現れた。

その三名は国籍も違えば人種も種族も違う者達。

ただ、それらは一般人とは違い異様な雰囲気を漂わせている。

これが”妖気”というものだろうか、と考え深く感じとっていると俺と近づいてくる人物達の距離は10Mも在るかどうかで立ち止まる。

 

「…っ。」

 

俺のとなりにいたリーナがその姿を見て息を飲んだ。

このタイミングで現れる、とは流石の俺も思っていなかったが”保険”を掛けておいて正解だった。

 

妙な緊張感がこの距離の空気を変えてほのかが息を飲むのも聞こえるほどに静寂した冬の夜に響くがその均衡を壊したのは意外な人物だった。

 

「七草八幡。話がしたい。」

 

意外にも口火を切ったのは三名のうち一歩前に出たガタイの良い男だった。

 

「俺はあんたの事を何て呼べば良い?」

 

「マルテ。」

 

「分かったMr.マルテそれで?俺たちのに何のようだ?」

 

「七草八幡。我々はこれ以上君たちに敵対する意図はない。」

 

敵対する意図…ね。相手は憑依された人間でおおよその人格を利用して話しているのだろうが元有った人格は消滅し《パラサイト》はそれをサルベージし再構築、再利用しているだけに過ぎないのかもな。

魑魅魍魎に丁寧な言葉は必要ないだろう。

 

「あ?抽象的すぎて何を言いたいのか分からんのだが?我々、ってのは誰の事で君達とは誰の事?そもそも敵対ってのは何を指してんだ?其処んところ小学生でも分かるように説明してくれるか?Mr.?」

 

マルテ、と名乗った男は苛立ちを見せているがこれで良い。

紳士ぶった仮面を剥ぎ取ってやる必要がある。

 

「我々、デーモンは君達日本の魔法師に今後敵対行動をするつもりはない。」

 

(”日本の魔法師”…ね。じゃあ他以外は狙うってことか…。)

 

「それで?用件、ってのはそれだけじゃないんだろ?」

 

マルテは俺の背後にいるピクシーを指差してこう告げた。

 

「君達に敵対しないことを約束する代わりに、そのロボットを我々に引き渡して貰いたい。」

 

俺がちらり、と振り返りピクシーを見ると不安そうな表情を浮かべ体をピクリ、と震わせていた。ピクシーは体はロボットだが中に入り込んでいるのは精神生命体…体も人間のように機敏に動くように調整しているから生理的嫌悪感が表すことが出来る。

ピクシーはマルテの発言を聞いてそう表現していた。

 

俺は俺でマルテその発言を聞いて失笑した。

 

「おいおい。お前達がこうして欲しい、って提案してるのに俺たちに要求するのか?そもそも何のために引き渡しを要求して何のためにピクシーを手にするのか…それが分からなければ要求に答えようが無い。」

 

「説明など必要ないと思うが?君達がそのロボットを庇い立てする必要な理由もない筈だ。」

 

「理由の有無はピクシーの所有者である俺が決める。てめーが勝手に決めるんじゃねーよ。」

 

俺がそう答えるとマルテは顔をしかめた。

渋々と不快そうに俺へその理由を告げる。

 

「…そのロボットの中に囚われた同胞を解き放つためだ。」

 

その答えを聞いて俺はわざとらしく首を傾げた。

 

「ロボットが宿主じゃいかんのか?」

 

マルテ…おっさんの表情がさらに険しくなっていくそろそろだな。

 

「君達がどう思っているかは知らないが我々は生物だ。そして相互の繋がりは君達よりもずっと強い。生命でありながら生命でない器に囚われている同胞を、我々が取り戻したいと考えるのは君達には理解できないかな?」

 

理解した振りをした。

このおっさんが言っていたことが

 

「いいや?理解はしてるさ。しかしどうやって取り戻すんだ?」

 

「機体を破壊する。現在の宿主を失えば我々は新たなる宿主に乗り移ることが出来る。」

 

「…だ、そうだ。ピクシー。お前は”俺から離れることを”望むか?」

 

『嫌ですマスター!』

 

明確な否定。

それは俺の方針を決める上で大事なことだった。

もしピクシーが連中の元に戻る、ということならばこの仲間諸とも”始末”をするつもりだったが彼女…?に明確な意思があるのならば俺はそれを尊重しよう…俺はこいつのご主人様(マスター)らしいので。

 

『私は私です。私の望みはマスターの物であること…それが私であり…私を成す中核が他より得られたものだとしても…それを失って自分が自分でなくなるのは嫌です!』

 

そう言ってピクシーはほのかを見ながらそう断言した。

それはテレパシーではなくピクシー本体の声帯マイクから発せられた言葉…決意でありその発言は俺以外のリーナや達也深雪、そしてほのかが聞き届けキュっと口を強く結んだ。

 

「この子のご主人様として頑張らないとね八幡?」

 

リーナがフッ、と微笑んで。

 

「大変だな八幡。」

 

達也も微笑んで。

 

「だそうですよ八幡さん?」

 

深雪の唇に笑みが浮かんだ。

 

おっさんを見ると失望した、と怒りが滲んでいるように見えたがそちらだけが質問をするのは不平等だ、とこちらから今度は質問させて貰う。

 

「こっちの答えはもう既に出ていると思うが…一点聞いても良いか?」

 

「七草八幡…思ったよりも愚かな男のようだ…良いだろう訊きたいことを言ってみろ。」

 

化けの皮が剥がれてきたことに失笑しつつ先程このおっさんが言ったことに突っ込んだ。

 

「何故お前はさっき”魔法師に対して敵対行動をとるつもりはない”って言った?どうして”人間に対して”じゃなくて”魔法師に対して”と言った?」

 

「…回らなくても良い猿知恵ばかり動くな小僧。」

 

「悪いが俺は七草の息子なんでね…悪知恵が回るのはお家柄なのよ。」

 

そう言うと達也達から小さな笑い声が漏れ出ておっさんはさらに苛立ちを高めていた。

だが、其処が問題でない。

 

「それによ…お前達が魔法師に手を出さない、って言っててもよぉ…お前達は既に七草の関係者に手を出してるし俺たちの共通の友人を怪我させてんのよ…それにお前達は招かれざる異邦人でその手を出したことに関して詫びの一言もなく俺の庭で好き勝手に動き回っていやがる…正直言ってお前達はそこいらのウジ虫に劣る行為をする連中に『手を出さないから信じて欲しい』だぁ?それに俺の所有物であるピクシーを差し出せ、ってのは厚顔無恥にも程が有るんだよマヌケが。もっと日本語を勉強してから交渉するんだな。」

 

俺の心に微かな怒りの憤怒の炎がパチリ、と跳ねてそう言って俺は漆黒のCADをおっさん達に突き付ける。

 

「貴様…っ!」

 

「ああ。それとさっきの返答を訊きたいんだってな?良いぜ答えてやるよ。」

 

メガネをクイッと片手で持ち直し悪役もとやかくという表情で告げた。

 

「武器を捨てておとなしくしろ。そうすりゃ痛い目を見なくて済むぞ?今なら楽しい研究所での幸せな実験動物として対パラサイト用の術式開発のための栄誉を得ることが出来るぞ?」

 

「この…人間の犬がっ…!」

 

おっさんがこちらに殺意と敵意をむき出しにしたことで後ろにいた《吸血鬼》達も服の袖からナイフを取り出していたが何やらロープが繋がっているギミック付きだ。

 

「悪ぃけど…俺は魔法師なんでね。」

 

おっさんが起動式の兆候もなく想子のざわめき…事象改変による魔法発動が観測された。

だが、俺はそれよりも早く魔法を発動させる”異能”を持っていることはこいつらが知る由もない。

【詠唱破棄】並びに【二重詠唱】は知覚スピードを越えて魔法の速度発動回数を増やし迫り来る魔法を全て打ち落とす。

《フェンリル改》から発射させた赤熱のビームが敵対者の四肢を容赦無く奪い去って羽を奪われた羽虫のように地面にひっくり返る。

動けないおっさんの体内に眠るパラサイトを無力化するために魔法を選択し狙いを定める。

狙うは”心臓”パラサイトが救う悪魔の居住区に狙いを定め起動式を構築する。

 

対パラサイト用対抗術式霊子弾(スピリット・バレット)が心臓に吸い込まれるように青白い光弾が吸い込まれていく。

 

「……っ!?」

 

心臓に直撃しおっさんは白目を向き心臓を強く押さえ込もうとするがその手が既に無く地面をのたうち回っている。

 

「…っ!……っっ!?…。」

 

のたうち回る事数秒後、〆られた魚のように大きく跳ね返り地面に沈んだ。

 

「八幡っ!」

 

リーナの声を聞いて振り向くとナイフを持った男が俺を刺そうと跳躍魔法を使って俺へ飛びかかろうとしていたがリーナが加重系統の魔法を使って吹き飛ばし達也が手に持った銀色の特化型で発生させた魔法で四肢の腱を撃ち抜き身動きをとれなくさせていた。

達也も達也で対パラサイト用の対抗術式を持ってたようで俺が教えた通り心臓部分を狙い遠当てのようなものを当てると男は海老のように大きく跳ね上がり地面に崩れそうになっていたが反抗の意思を見せたため深雪の魔法によって氷付けにさせられていた。

 

もちろん全ての行動を把握しているので今ほのか達がどんな状況に晒されているのかも分かっている。

残る一人の女吸血鬼がナイフを振り回し盾となっているピクシーが攻撃を受けていた。

次の瞬間に俺は思わず目を見開いた。

 

その予兆は俺でも把握できた。

ほのかが目を閉じてギュッと手を握りしめた瞬間に俺がプレゼントした水晶の髪飾り想子波の高まりを感じ取った。

其処を起点としてピクシーに《魔力的な繋がり(パス)》が《瞳》で見てとれた。

その想いが最高潮に達し満ちたときにほのかの前にいたピクシーから強力なサイキックが発生した。

発せられた念動力は迫り来ていた女吸血鬼を吹き飛ばし領域干渉をしていた筈の深雪の干渉力場を揺らがせるほどだった。

それはまさに俺が開発し所持している【自立稼働自動二輪可変CAD(グレイプニル)】と同じく魔法を使って見せたのだ。

 

「マジかよ…ピクシーがサイキックを…?」

 

俺はその光景に驚愕せざる得なかった。

 

◆ ◆ ◆

 

「少々やりすぎたかもしれん…な。」

 

辺りを見渡すと昼間では見られない光景が広がっていた。

路上には成人男性と女性が転がり内一人は四肢をもがれ芋虫のような状態になっている。

 

「本当にやりすぎよ…全く。…八幡ちょっと良い?」

 

スッとリーナが俺が元へ近づいてきた。

 

「しかたねぇだろ?相手がヤル気満々なら心を折ってやる必要があるんだし。…ん?なんだ。」

 

そう言うとリーナは呆れながらも俺に耳元で囁いた。大っぴらに聞かれるの不味いらしい。

 

「あなたと対峙した魔法師…彼はUSNA軍の人間…脱走兵なの。」

 

「だからお前さっき驚いていたのか…。」

 

さっき隣で息を飲んでいたのはそれが理由か。

となればこいつの身柄はUSNA…バランス大佐のところに任せた方が良いか。

 

「分かった。うちの佐織達を使ってそっちに運ぶようにするわ…でも良いのか?」

 

「…仕事、だもの…大丈夫。」

 

大丈夫、とはいっているものの《瞳》で見なくとも分かるくらいに落ち込んでいるのが分かる。

だが彼女も”軍人”で割りきってはいるだろうが…こうやっぱりお前は優しすぎる。

とそんなことを思っていると前方から聞き覚えの有る声と人影三人分が近づいてきているのが分かり視線を向けるとやはりエリカ達が其々獲物をもって現れた。

ここはあたし達に任せて、と言うが流石に人任せにするとは…と思ったが達也から非常に言いづらそうなコメントが飛んできた。

 

「いや、お前は早くほのか達を連れて帰った方がいい。」

 

「あ?何でだよ」

 

「よく見ろ…ではなく察してくれ。」

 

達也が指差した視線の先にはスカートが所々裂けているピクシーとハーフコート及びレギンスが破れ何故か上胸部分が大きくカットされレギンスも破れ霊園の柵にもたれ掛かるように気絶しているほのかとそれを介抱するピクシーの姿があった。

 

「……了解。車呼んで帰宅する。良いよなリーナ。」

 

「その方がいいわよ。あ、任せてこいつらの後処理はわたしたちがやるから。あとな~んかハブられてる気がするし?」

 

チャーミングな笑みを浮かべているが最近構っていないからか不満げなエリカ。

 

「はぶってねぇって…あとでうちの佐織達が来るからあのだるまにした男は七草で回収するから頼む」

 

「分かったわ…にしても容赦ないわね~八幡。」

 

視線の先には達磨にされた男が転がっている。

 

「必要な犠牲だったんだ。許せ。」

 

達也達に視線を合わせると全員頷いたのでこの場を任せ俺とリーナ、ほのかとピクシーは帰宅することにした。

 

◆ ◆ ◆

 

俺は名倉さんに連絡をして帰宅する四名が乗れる乗用車…なんか黒光りするリムジンが迎えに来てそれに乗って帰宅する。

後部座席に向かい合って夜の東京の町を駆けていく。

 

「なんか飲むか?」

 

リムジンに搭載されている小型の冷蔵庫を開くとミネラルウォーターやマッ缶が入っているのは名倉さん流石ですとなった。

 

「ワタシにはマッ缶を頂戴?」

 

「おう。」

 

「わ、わたしは大丈夫です。」

 

ほのかが必要ない、とのことなので冷蔵庫から俺とリーナの分のマッ缶を取り出してプルトップを開けて口をつける。

強烈な甘味が脳に染み渡る。

 

「……あぁ~…」「……んん~…」

 

俺とリーナは同タイミングで歓喜のため息をついた。有る意味一仕事終えたからな。

と、まぁ目的地に着くまでは未だ時間が有るのでほのか達に労いの言葉を掛ける事にした。

 

「ほのかにピクシー。今日はお疲れ様。」

 

ほのかはともかくとしてピクシーも今回頑張っていたからな。

その意味合いを込めての労いの言葉を掛けるとほのかはすごく嬉しそうにピクシーはにっこりと嬉しそうに微笑んでいる。

どうしてピクシーが魔法を使えるようになったのかは不明だが【グレイプニル】と同じく魔法が使えるようになっている、と言うことは非常に”注目をされやすくなる”と言うことだ。

 

このことは一先ず俺たちだけの秘密にしておこうと思ったのとこれだけは一つだけ言える。

 

「ピクシー。さっさと買い取っておいてよかったわ…。」

 

既にピクシーは七草所有のメイドロボになっているので今日から七草本邸に置くことが決まっている。

何やらこのピクシーを買い取ろうとどこかが動いていたらしいが名倉さんが対処してくれたみたいだ。

つまりは先ほどの戦闘を見られていたかもしれない。

そんなことをするのは…と正直どこもその可能性があるので頭が痛くなった。

一先ず対抗術式を完成させるためのサンプルが手に入ったことを喜ぶとしよう。

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