俺が七草の養子なのは間違っている   作:萩月輝夜

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これにて来訪者、一年生編終了になります。



終わりよければ全て良し

「疲れた…。」

 

俺は空を見上げる。

霧散した想子の粒子が宙に舞っているのは想子情報体を操ることが出来るものなら視ることが出来る筈だ。

達也に深雪…そしてリーナも最高、といっても過言ではない魔法師なのでこの光景を共有している事だろう。

 

ドサリ、と何かが地面に着地した音が聞こえた、それはリーナが地面にぺたり、と座り込んだ音だった。

 

「八幡…今の魔法は…それにパラサイトにダメージを与えられる…でも今さっきのは、ううん…絶対に今のは”ルーナマジック”じゃない。一体…今のは何だったの?」

 

先程の魔法を視て困惑しているリーナ、がそれは恐怖ではなく単純な好奇心による問いかけだった。

 

「八幡今の魔法は…複数の魔法…それになんだ今のは。魔法をその場で作成するなんて聞いたことがない。」

 

達也は俺の先程の行動を視て若干攻撃的な口調になっているのは本来ならば有り得ない筈の行動であったからだろう。

 

「お兄様…。」

 

それを嗜めるように兄の肩を優しく掴む深雪。

その深雪も俺の魔法について興味を示していた。

が、しかしそれは明かせない俺の秘密であり知られてしまった場合余計な被害を被らせることになる。

 

「悪いが明かせない。お前も俺に”明かせない秘密”があるだろう?」

 

振り向かずに達也に目掛けその言葉を掛ける。

俺はこの二人の秘密は知らないが何かを”隠している”ということだけは分かるのでカマを掛けたら見事に掛かってくれたようで息をのむ声が聞こえた。

これで不用意に俺の魔法について深読みしてくることはないだろう。

 

俺はすたすた、とリーナに歩みより手を差し伸べた後に振り返り言葉を掛ける。

 

「んじゃまぁ…パラサイトは倒したし帰ろうぜ。」

 

そうして俺はリーナの手を引き上げ立ち上げる。

夜の寒い風が戦闘で火照った体を冷ますには丁度良い夜風が吹いていた。

 

◆ ◆ ◆

 

八幡に手を引かれながら舗装されていない屋外演習場を歩くリーナはその握られた手を離すことが出来ないのとその後ろ姿から自然と目を離せなかった。

今夜の結果として脱走兵の処断は全部目の前の少年が行ってしまった、大きく言うならば今回の脱走事件も全て八幡が解決をしてしまった。

 

本来であれば無闇な殺生を好まない八幡だったが相手が人間…変異した”敵”だったからかはリーナは知る由もないが彼が自分を”気遣ってくれた”のだと曲解して理解した。

 

どうしてワタシを気に掛けてくれるの?

どうしてワタシを心配してくれるの?

どうしてワタシとの約束を守ってくれたの?

 

どうして…ワタシはこの少年の事をこんなにも気にしてしまっているの?

 

疑問は尽きなかったがその言葉を頭の片隅からサルベージして理解しかけた。

 

(そんな…筈…あるわけ…。)

 

彼女はその言葉の本質を八幡が乙女心が分かっていった発言でないことをよくよく理解していなかったが多感なこの時期に掛けられた告白紛いの言葉とその行動に堕ちない少女がいる筈もなく。

あの夜の広場で掛けられた言葉にリーナは首を傾げる。

 

なぜ同胞を処分する自分の姿が痛々しく見えたから同情の言葉を掛けた?

いや、違う。短い期間しか八幡の事を知らないがそんな安い同情で声を掛けるような男ではない、と。

現に彼はパラサイトに侵された脱走兵を自分の代わりに処断してくれた。

そんなことをしたところで自分の得になる筈もないのに。

 

何故、という疑問符が彼女の頭の中を埋め尽くす。

 

(あっ…そっか…ワタシは…。)

 

シリウスとしての誇り。

最強の魔法師としての肩書きを守るための戦い。

妖魔の侵された仲間の名誉を守るためその命を奪う。

 

しかし、それを全て彼が乗り越え壊すわけではなく容認しシリウスとしてではなくその一部として”アンジェリーナ・クドウ・シールズ”本人として自分を視ていることに。

確かに自分をリーナ、として視てくれている人はいる、がそれは自分より年上の人間であり”同年代”は今までいなかった。

 

(ワタシは…アンジー・シリウス以外の生き方をしてもいいんだ…。)

 

同格の実力を持つ魔法師として目の前に現れ脆い心の弱さを持つ自分の存在を容認し多少いい加減なところが心地よい、とリーナは感じその八幡に対しての心の向け方を理解してしまった。

 

(ワタシ…八幡の事…好き…なのかも。)

 

そう自覚してしまったリーナはただただ、八幡の後ろ姿を見つめるしか出来なかった。

 

 

「すまん八幡、持っていかれた。」

 

「はぁ…?ってマジかよ。」

 

俺たちが大蛇…九頭竜を討伐しパラサイトを最初二体封印したところに戻ると確かにその場にいたパラサイト二体は誰かに持ち去られていた。

結果としてその日俺はタダ働きをする羽目になってしまった。

今回パラサイトに使用した術式は俺だけが使える専用の魔法の為”誰にでも対抗できる術式”ではない。

その術式を開発するための”材料”を持ち逃げされてしまったのだから頭の痛い話だった。

 

佐織達も野戦服を着ていた男達に襲撃されその場を離れなくてはならなくなりパラサイトから目を離してしまった、ということらしい。

ほのかや美月、それに幹比古も決して気を抜いていた、と言うわけでは無いということが分かるのでこのモヤモヤした感情をどうしたらいいのか、と考えていたが佐織達はともかくとして通信機越しに気落ちした声と自己嫌悪した声、口惜しさに歯がゆそうにしている声…それぞれほのか、美月、幹比古が反応を見せているのを感じ取った俺は苦笑しながら返答した。

 

「まぁ三人とも気にするな。一先ずパラサイト事件が終幕した、ってことでいいじゃないか。こっちの損耗はゼロ。作戦内容で見たら大成功も良いところだぜ?」

 

そう告げると通信機越しで心なしか感激されているような気もしたが…俺はそのまま誤解されたままにすることにした。

 

「いや、奪われることを想定していなかった俺に落ち度があるからほのか達が気にする必要はねぇよ。まぁ手の内にパラサイトがない訳じゃないしな…」

 

『何か言いましたか八幡さん?』

 

「ああ。いや何でもない。この作戦をどっかから視て掠め取ろうとしてた奴が上手だったってことだ。」

 

俺が今回パラサイトを滅ぼすために動いたのは今後家族に危害が加えられる可能性を考慮しての殲滅、並びに対抗術式の開発為だった。

それを考えると他の者に持ち逃げされるのは後々の障害になる可能性はゼロではないが…。

それは今考えても仕方がないと空を見上げる。

その瞬間に突風が吹き上がり枯れ葉が舞い上がった。

その舞い上がった枯れ葉が落ちるときに目の前に枯れ葉以外のものが落ちてきたのを確認し素早く手に取ると鴉の羽が手に収まれていた。

それを一瞥して直ぐ様握った手を広げると風に乗って飛んでいった。

 

(鴉が横取りでもしていった…なんてな。)

 

横取りした犯人は分からないがそれを悪用しないでくれよ?とただただ願うだけだった。

 

◆ ◆ ◆

 

西暦2096年、3月15日。

国立魔法大学附属第一高校では本日、人の泣き声や悲しみの雰囲気が広がっていた。

それは決して不幸が起こったと言うことではない。

耳をすませば笑い声や嬉しそうな喜色を含んだ喜びの感情も感じとることが出来た。

今日は卒業式、姉さんや渡辺先輩に十文字先輩三年生達が卒業する記念するべき日だった。

 

まぁ俺の場合小学校や中学の卒業式に出たことがないんでなんで泣いてしまうのか良く分からないが。(小学校は婆ちゃんとの修行のため不参加。中学に至っては俺が千葉の総武中からいなくなって七草の家に拾われ東京の中学に入った事はあったが新魔法の開発のため卒業式当日家に籠っていた、というか忘れていた。)その件で姉さんとかに泣かれたけど…まぁこれはどうでも良いとして今日は…記念日だ。

 

俺はカフェテリアの一角で俺が愛飲している黒と黄色のストライプ缶を手に寛いでいた。

式自体はとっくに終了し今は二次会が体育館でパーティが開かれている事だろう。

俺は誘われはしたが断らせてもらった。

直近で忙しいことが多すぎたからな…何故か俺と姉さんが泉美、香澄、小町のいる魔法第一中学校の卒業式に父兄席に座ることになりその際に中学生のキラキラした視線がめちゃくちゃ痛かった…殆どが姉さんを憧れの目で視ていたんだろうが妹達と同年代の中学生女子がやたらと俺に話しかけてくるのは辞めてほしかったわ…泉美と香澄が凄い威圧感を出していて非常に困惑したしな…。

 

それだけじゃなくてバランス大佐との”約束”を取り付けるのが大変だった。

生きたパラサイトを捕獲する、という任務は失敗したので此方に残されたある意味で残された生きたパラサイト…ミアさんを此方に残してもらうやり取りをしていたのだ。

 

交渉の条件として試作品の《霊子弾》の試作データを渡すことでミアさんを《アハト・ロータス・ワークス》への技術出向社員として貸し出してもらうことに成功、当然本人も了承をしてくれているのでこれで対パラサイト用の一般対抗術式の研究がようやく出来るようになった。

数日間それの詰めで忙しかったで姉さん達の卒業をお祝いした後俺はこのカフェテリアの片隅で春の心地よさを味わいながら一息吐いていたのだった。

 

因に姉さんはもちろん魔法大学に無事入学。

俺が《吸血鬼事件》の解決を早めたのは姉さんの受験並びに泉美、香澄、小町の第一高校入学試験の事もあったからであった。

余計なことに気を取られて不合格になった、何て事になったら俺はパラサイトどもを八つ裂きにしていたに違いないが結果としてプラスに働いたのが良かった。

 

ああ、そう言えば結果吸血鬼事件は俺の手柄で解決した、ということになりこの間の七草分家会議では俺をよいしょするような発言を受けて正直…めちゃくちゃいたたまれなかった。

解決をしたのは俺ではなくリーナ含め他方向からの協力があってのものであり決して俺一人の実力ではない。と反論をかましたかったがそれは届かぬ思いだった。

察した姉さんに宥められたのが唯一の救いかもしれないがな…。

 

◆ ◆ ◆

 

「八くん寝てるの?」

 

いつの間にか春の陽気に当てられて寝ていたらしい。

姉さんの声で起こされて突っ伏していた顔を上げると姉さんをはじめとして十文字先輩に渡辺先輩…それに達也と深雪が俺を呆れたように微笑んだ表情で視ていた。

 

「ああ。最近ちょっと”仕事”で寝れてなくてさ…今起きたよ。それにしても十文字先輩も渡辺先輩も揃ってどうされたんすか?先輩達が二次会のお誘いがないのは有り得ない話だとおもうんすけど…。」

 

俺は首を傾げてなんで俺のところに集まっているのかを聞くと十文字先輩が答えてくれた。

 

「いや、お前には世話になったからな、七草に会って挨拶をしておこうと思ってな。」

 

まるで会社の役員が一般社員に退職の際に一言告げに来た時みたいだな、と一瞬思ったが直ぐ様反応した。

 

「いえ。此方こそ。先輩には俺が入学したときから世話になりっぱなしだと思うので…それに俺からご挨拶に伺うつもりでした。」

 

「そうだったのか?パーティの最中こんなところに引っ込んでる八幡くんの事だから私たちの事なんか知らん顔して帰ってしまったかと思ったが…まぁ真由美がいるからそれはないな。」

 

「そりゃそうでしょ。俺が姉さんがいるのに勝手に帰るわけ無いですし…それに卒業生を対象にしたパーティーに俺が参加するわけ無いでしょう?それに未だに差別してるようなパーティーに参加したくないですし?」

 

俺がそう言うと十文字先輩以外が苦笑いを浮かべていた。

姉さんの改革が成功はしたが未だにその確執は残っている。

それは来年度の生徒会、俺たちの仕事だろうな。

 

「何でよ!」

 

と俺が先輩達を会話をしていると聞きなれた声が飛び込み会話を中断させた。

卒業生を掻き分け金色のツインテールを振り乱す美少女がエントリーした。

 

「どうして正規の生徒会役員じゃないワタシがパーティの手伝いをさせられて風紀委員の八幡がそこでサボってるのが許されるのよ!?」

 

俺に食って掛かるのはちゃっかり生徒会役員のお手伝いの頭数に数えられ手伝わされていたリーナだった。

 

「あ?そりゃお前風紀委員は生徒会役員じゃないんだから関係ねぇだろ?それにリーナは臨時とは言え生徒会役員なんだから働くのは当然だろう?」

 

「うぅ…っ!納得できないわ…!」

 

正論をぶつけると後ろに先輩達がいるというのにいつものようにプリプリと怒っていた。

 

「ちょっとリーナ?あなたそうは言うけれどもあんなにノリノリだったじゃない。」

 

「ちょ、ちょっとミユキ!」

 

慌てて深雪の口を塞ごうとしたが達也が阻止し先輩達が羽交い締めしていた。

ここで何があったのかを聞かない、という選択肢は俺のなかになかった、興味が優先された。

 

「深雪、ノリノリってのはなんぞ?」

 

「八幡も聞かないでよ!」

 

「臨時の役員であったリーナにお手伝いをして貰ったのですが…流石に手間の掛かる作業は気の毒だと思ったので当日の余興をやって貰おうと思ったのですが…。」

 

「ミユキ!」

 

余興…前説か何かか?

 

「余興…というのは自分でなにかをするのではなく在校生や卒業生から希望者を募るだけで良かったのですが…。」

 

「ミユキ言っちゃダメ!」

 

「リーナはどうやら勘違いしていたようで。」

 

素晴らしい微笑を浮かべリーナの黒歴史を暴露しようとしていた。

やっぱ深雪Sだよ…もうどこぞの雪乃さんだよそれ…。

 

「ミユキ!本当にダメ!八幡には言っちゃダメ!!」

 

リーナは必死に深雪の言葉を遮ろうとしたが残念!それは回り込まれてしまった、といわんばかりに目の前には達也が立ちふさがり後ろでは姉さん達が羽交い締めをしてリーナは身動きが取れない。

なにこのコンビネーション。

 

「へぇ…それで?なんでこいつはこんなに必死になってとめようとしてんの?」

 

「自分でバンドを率いてステージに上がって歌ったんですよ。衣装も用意してその場で十曲も歌って凄い盛り上がりでしたね。」

 

「うんうん。確かに中々に見事なステージだった。プロ顔負けの歌唱力とパフォーマンスだった。」

 

深雪の説明に渡辺先輩が何度もうんうん、と頷いていた、よっぽど凄かったんだな。

 

「本当、シールズさんって歌が上手いのね。とっても素敵な声だったわ。」

 

姉さんはお世辞ではない本当に褒めている口調でリーナの歌唱を褒めてた、マジでよっぽどだなそれ。聞きに行けば良かったわ。

 

「うっ…ううっ……////」

 

そう褒められて真っ赤な顔で俯くリーナ。

それは怒っているわけではなく褒められて本当に恥ずかしがっている様子だった。

うん、やっぱり美少女が恥ずかしがる絵面は良いな…なんか変態みたいだな俺。

 

つーかそれを言ったら姉さんも渡辺先輩も歌うまそう…というか上手い。

何故かは分からんがエンディングで姉さん達の声に似たキャラクターが主人公の後ろを追従して走りながらエンディングを全員で歌ってソロパートのCDがあるアニメを思い出した。なんか止まらなく身体中にエナジーが溢れてそうだけど…まぁいいや。

 

俺は恥ずかしがるリーナを視て心から嬉しくなった。

 

「リーナが日本で楽しい思い出を作ってくれて良かったよ。」

 

そう気持ち悪くない笑みを向けた筈だったがリーナは俺の顔を見て赤かった顔色が再び真っ赤になりそっぽを向かれた。

む、他人へ浮かべる笑みは難しいな。

 

「っ!?…し、知らないわよっ」

 

プイッとそっぽを向いたリーナの反応に俺とリーナを除く全員から人数分の笑い声が上がった。

十文字先輩も可笑しかったのか笑っていた。

 

そうしてこの日以来リーナは学校に来なくなった。

 

◆ ◆ ◆

 

西暦2096年、3月26日。

俺達は東京湾上国際空港に来ていた、結局リーナとは最後まで会うこと無く新学期を迎えそうになりそうだ。

さてと、今日は交換留学でステイツに向かっていた雫が帰ってくる日だ。

当然俺一人の出迎えではなく俺の左右には深雪とほのか、エリカに美月、達也に幹比古、レオ…まぁいつもの面々が終結し雫の帰りを今か今かと待っていた、正確にはほのかが、だけどな。

 

「雫そろそろ出てくる頃じゃない?」

 

隣にいた深雪がほのかに声を掛ける。

 

「うん、そうかも。」

 

「…あれじゃないか?」

 

その会話に混ざるように俺も入ろうとしたその同タイミングで空港の搭乗口ゲートから見慣れた体躯と顔立ちが目に入り指で指し示すと全員がそちらの方を向いた。

ほのかはいの一番に立ち上がり搭乗口ゲートへと歩き出す。

手押しの荷物カートを押しながらその姿を確認したほのかが嬉しそうな表情を浮かべている。

雫は此方に気がついていないようだったがほのかが抱きついた。

 

「お帰り、雫」

 

感極まって目が潤み思わず雫に抱きつくほのかだったが優しく背中を叩いて宥めていた。

 

「ただいま、ほのか。」

 

その光景を見て俺達は雫の元へと歩みよった。

 

「お帰り雫。無事の帰国何よりだよ。」

 

「うん。」

 

いつもと変わらぬ安心する短い受け答えだったが逆にそれが安心した。

 

「雫、なんだが雰囲気変わったわね。」

 

「そうだね。随分と大人っぽくなった。」

 

深雪とエリカの言う通り雫が纏う雰囲気が変化し大人っぽくなっており、それもその雰囲気に見惚れていたかもしれない大人の色香を漂わせていたに違いない。

 

「向こうでイケナイ体験でもしてきちゃった?」

 

「エリカちゃん!?」

 

ニンマリ、と冗談で言ったエリカの発言に美月は反応しあたふたしていたが当の本人は一瞬考えたあとで小悪魔じみた反応を見せた。

 

「うーん。ナイショ。」

 

「「「「「え?」」」」」

 

余裕たっぷりにそう対応し首を傾げて見せる雫は魅力的だった、と同時に俺の脳内ではあの生け好かない金髪の少年を思い出し少し腹が立った。

何でかは知らないけど。

 

「八幡。」

 

「ん?」

 

ほのかがようやく抱擁を解いて離れると、雫は俺と達也の前に歩みよった。

 

「お話ししたいことがある。レイからもたくさん伝言を預かっている。聞いてくれる?」

 

「ああ。是非聞かせてくれ。」

 

思い出話やレイモンドから聞かされた情報だろう、と理解した。

 

◆ ◆ ◆

 

雫の迎えが空港のロータリーに停車し荷物やお土産をトランクに詰んでいる。

大きさはリムジンなので今ここにいる全員が乗り込めるサイズだ。

雫達は数ヵ月の空白間を埋めるかの如く会話に華を咲かせていた。

 

そんな中だ、空港のロビーへ入っていく見覚えの煌びやかな金髪が目に入った。

八幡は直ぐ様このメンバー達に断りを入れる。

 

「悪い、ちょっとお花詰みに行ってくる。」

 

「あ、ちょっと八幡?」

 

「すぐ戻る。先に帰っててもいいぞ?」

 

リムジンが先に出てしまっても【グレイプニル】があるので問題はない。

断りをいれて金髪の後を追いかけた。

 

空港のロビーは人で溢れ返っており雑踏の中を歩くようだった。

 

「リーナ。」

 

八幡が声を掛けるとその少女は振り返り驚いていた。

まさか声を掛けられるとは思っていなかったようだが彼女は逃げる、といった素振りを見せること無く此方に躊躇いがちに顔を赤くして近づいてきた。

 

「あ、八幡。見送りに来てくれたの?」

 

押しているカートには持ってきた荷物以外にも日本でのお土産が大量に乗っている。

ある意味卒業式以来学校に顔を出さなかったのは日本を楽しんでいたからだろうか?と八幡は思った。

 

「いや、たまたまだ。こっちに交換留学で向こうに行ってた友達が今日帰ってきてな…俺達はその出迎え。リーナと会えたのはタイミングが良かった。」

 

「あら?今日発つ、って言ってなかったかしら?」

 

「言ってないし聞いてない。」

 

リーナの戯れ言を八幡は一刀両断してそのサファイアブルーの瞳を黒目が見つめる。

 

「まぁ冗談はともかくとして色々と世話になったわね。」

 

「お世話した、の間違いだろリーナ。」

 

「め、迷惑を被ったのはこっちの方よ八幡!…全く、最後まで容赦の無い人ね貴方。」

 

「今さら気を使う必要もないだろ。それに、今回が最後じゃない。」

 

八幡の言葉にリーナは方を竦める。

 

「どうかしらね。ワタシがそう簡単に本国を離れられる、とは思えないけど。」

 

「言ったろ。辞めたきゃ俺を頼ってくれ。これでも七草の息子だからな。それなりにコネはある。」

 

「そんなこと、言ってたわね。」

 

その声色には諦念が混じっていたが八幡がそれを書き消す言葉を告げた。

 

「だからこそ、俺はお前に”サヨナラ”は言わない。」

 

「えっ…。ちょ、ちょっと待って八幡。そ、それってこ、告白みたい…。」

 

「お前が本当にやりたいことを見つけてこっちに戻ってくるなら全力でサポートしてやる。」

 

その最後の一言がリーナの八幡に対する想いが確定した。…その言葉の意味をリーナが正しく理解していれば、の話だが。

 

あの夜告げたことを八幡は再びリーナに告げた。

 

「お前は俺にとって掛けがえの無い(唯一無二のマッ缶を愛飲する仲間)存在だからな。」

 

リーナは目を丸くした。

今度はその色白の肌を紅潮させていたがそれは次に彼女の髪色と瞳の色に相応しい金髪美少女の朗らかな笑みが八幡の視界に入る。

 

それは直ぐ様いつものリーナの表情に戻った。

 

「本当に貴方はそう言うことを言って…でもそれって貴方が心から言っていることだから質が悪いわ。」

 

「俺はいつだって本気なんだが?それにほれ、持っていけ。」

 

「わとっと…いつもね。」

 

「ああ。それじゃあなリーナ、元気で。」

 

八幡はリーナにポケットに入れていた何時もの缶を手渡し受けとると嬉しそうにしている。

そう告げて踵を返す八幡にリーナは。

 

(こ、これ言うなら今しかないし…さっき八幡に言ったとおり日本に渡航出来るのはこれが最後かもしれない…やるなら…今しかないっ!)

 

一世一代、乙女の覚悟を決めた。

 

「あ、ちょっと待って八幡。」

 

受けとり押しているカートをその場に放置してリーナは八幡の手を取る。

 

「なんだ?そろそろ行かないと不味いっー、んっ…?」

 

声を掛けられ振り向くと八幡の口先に柔らかい感触が伝わり一瞬脳がフリーズしたが次の言葉で更に追い討ちを掛けられた。

 

「ワタシは八幡の事…好きよっ。返事はまた逢えたときに聞くから…ワタシもサヨナラっては言わない…じゃあねっ!」

 

一瞬だった。

リーナは顔を真っ赤にして置いていたカートを引ったくるようにステイツ行きの搭乗ゲートへ消えていった。

 

「…へ?あ、えっ…?」

 

呆然とする八幡の元へ異様な威圧感が襲いかかる。

ハッとなり振り向くとそこには八幡を慕うラバーズの姿が。

深雪は氷の微笑を浮かべ、エリカは今にも抜刀しそうな勢いで、雫は今にも【レーヴァテイン】をぶっぱなすやいなか、ほのかは今にも泣き出しそうな勢いで。

 

「八幡さん」「八幡っ」「…八幡」「八幡さん…?」

 

「あ、いやこれは…リーナが…っていない…!」

 

弁明しようとしたがその当の本人がいないことに八幡は恨んだ。

 

「八幡さんっ」「八幡っ!」「八幡?」「八幡さん…!?」

 

「は、話を聞いてくれません!ちょっ!?」

 

そうしてその場から脱兎のごとく逃げ出す八幡だったが美少女四人に追いかけられていた。

まるで草食動物が肉食獣に追いかけられる構図でそれを見ていた八幡達の仲間は苦笑したり笑ったりしていた。

 

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