俺が七草の養子なのは間違っている   作:萩月輝夜

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Final chapter:星を呼ぶ少女

「カツト・ジュウモンジだと!?」

 

十文字先輩が登場したことで戦場のパワーバランスが崩れた、そういっても過言ではなかった。

明らかに敵兵士が動揺しているのが見てとれた。

 

一旦お開きになった場所で十文字先輩が辺りを見渡し問いかける。

 

「西城に千葉。お前達こんなところで何をやっている。それにその格好はなんだ?それにあの少女達を守っている人物は?」

 

「えっ、あっこれはその…!」

 

問い掛けられたせいでエリカは獲物を後ろに隠してしまった。

その隙を兵士が見逃すわけがなく突っ込んできた。

 

「くっ…!?」

 

エリカも咄嗟に武器を構え直すが時既に遅し兵士が武装一体型の刀に『分子ディバイダー』を纏わせていた。

髪紐が刀の切っ先に触れて纏めていた髪はセミロングの長さに広がり明るい色の髪が数本舞い散る。

咄嗟にエリカが《ミズチ丸》で受けようとしたが刀の腹部分で折れてしまった。

 

「くっ!?」

 

体勢を崩され頭を守るように折れた《ミズチ丸》でガードするエリカだったが対峙していた兵士は行き先を変えて十文字先輩へと向かった。

 

「!?」

 

驚いた十文字先輩だったが流石と言うべきが直ぐ様『ファランクス』で迎撃していた。

俺はその隙を突いて準備を進める。

 

(リーナの場所は…)

 

この場で起こっている戦闘を把握しながら《賢者の瞳(ワイズマン・サイト)》を使うのは結構な難易度だがそうもいっていられない、なぜならUSNAがここに来ているということはこの研究施設の”破壊”が目的だろうからだ。

 

(『グレイプニル』USNAのリーナの通信端末、恐らく今十文字先輩と戦っている連中と同じスーツを来ている筈だからソコにアクセスして通信できるようにしろ。)

 

(了解した。しばし待たれよ…確認できたぞ、繋ぐ。)

 

ポータル内部に格納している『グレイプニル』はそのままでも活動できる。

俺はグレイプニルに命じてリーナの居場所と通信を繋げるように命じた。

二秒後、直ぐ様位置データとリーナが着用している同じようなスラストスーツのIDを確認し通信回線に割り込んだ。

回線の使用後が残らぬように『次元解放』経由で通信を開始した。

 

(リーナ。聞こえるか?声に出さずに脳内で思ったことを思ってくれれば会話できる。痕跡を残したくないんでな。)

 

(え、え?は、八幡!?ど、どうして声が聞こえるの?)

 

驚く声が聞こえる、といっても音声を『次元解放』を通じて脳内に直接語り掛けているので実際には声が聞こえていないし

 

(ソコは俺の魔法ってことで…って喋りたいが時間がないから手短に伝える。今すぐに南盾島への攻撃をやめてくれ。未だ島には民間人が残ってる。)

 

(そんな馬鹿な…!?司令部からは夜間は民間人が退去すると…!)

 

(信じられないならお前の装備に今現在のリアルタイムでの島内の監視カメラの映像を送るから見ろ)

 

(……っ!?…司令部はなんてことを…!?)

 

俺が映像を送信すると絶句していた。

恐らくは夜間は退去する、という思い込みでリーナに「人影なし」と報告をしたのだろう。

俺なら速攻でクビにするが今はそれどころではない。

 

(自国の利益が最優先なんだろ?それをリーナに責めるのはお門違いだから俺は何もいわないが…それよりリーナ、お前達の目的は”海軍の魔法研究所で産み出されようとしてた戦略級魔法の研究データ及び機材の破壊”が目的なんだろ?)

 

(…どうしてそれを知ってるの?)

 

(俺もその研究施設の破壊とデータの抹消が目的で来てるんだよ。)

 

(…?どうして日本の魔法研究を貴方が邪魔を?)

 

一応リーナには告げても大丈夫、という謎の自信があった。

 

(魔法師、それも調整体が捨て石のように毎回の実験で廃人になってる。俺は生き残ってる実験体の女の子九名を助け出したい。)

 

(…!?なんてことなの。)

 

リーナを利用するようで心苦しいがもう一押しだった。

 

(ああ。だから今達也が魔法の研究データを全削除して施設を破壊しようとしてる、利害は一致してる筈それに俺とお前は同盟している筈だ。ここは俺の言うことを聞いてくれないか?)

 

(だけれども…っ少し待って通信が入ったから一度切るわよ。)

 

リーナが通信を切った理由が直ぐ様判明した。

十文字先輩と激戦を繰り広げていた兵士の《分子ディバイダー》とランダム生成された正方形のが当面に射出されて凄まじい速度で切り裂いていくのは見事な剣術だと感心してしまった。

が、先ほど十文字先輩の攻撃によって吹き飛ばされカエルのようになっていた兵士が突如として立ち上がり戦闘を見ていたレオに襲いかかるが割って入ったエリカが発動した剣技によって地に伏した。

直ぐ様振動系統魔法を使い地面を巻き上げ目眩ましを始め襲いかかる地面から巻き上げられた路材と砂煙から咄嗟に十文字先輩はエリカ達を【ファランクス】で守りその衝撃から俺は四亜達を《重力防壁》で衝撃から遮った。

直後にリーナからの通信が入る。

 

(…此方の作戦は失敗したわ。セカンドフェーズで施設破壊まで照準までの猶予は5分よ。急いで。)

 

無茶を言うな、と叫びたがったがリーナに言っても仕方がないと切り替える。

どうやら先ほどの兵士達は直接乗り込み【ミーティアライト・フォール】のオペレーター…つまりは四亜達の抹殺を図ろうとしたが俺達の参戦により阻まれた、そんな感じだろう。

 

(了解、って待てリーナ。)

 

(何よ?)

 

(また声が聞けて嬉しいよ。)

 

素直に思ったので伝えると、

 

(…っ!?ば、バカじゃないの?さっさと逃げないとワタシが【ヘヴィ・メタル・バースト】で撃っちゃうんだからね!?)

 

怒ったら戦略級魔法をぶっぱなしてくる幼馴染みとか嫌なんですが?

 

(嫌なツンデレだなおい。)

 

(誰がツンデレよ!…早く目的達成して立ち去りなさいよ?)

 

通信アウトして状況を再度確認する【ヘヴィ・メタル・バースト】が発射されるまで今からカウントが進んでいるとして600カウント程度か。

十文字先輩が此方を警戒して見ているのでバイザーを解除する。

表情には出ていないが雰囲気で驚いているように感じた。

 

「八幡、お前だったのか。」

 

「ええ。顔が割れるわけには行かなかったので…それよりもエリカ達の援護ありがとうございます。それよりも俺達も避難しましょう、先程の兵士と対峙してわかっていると思いますけどUSNAのスターズがこの基地に来ています。」

 

「一体何故だ?」

 

「恐らく海軍で行われていた秘密研究の魔法開発が知られて今回の事件が発生してるんだと思いますが…ファーストフェーズの先ほどの兵士が撤退させられたのでセカンドフェーズで基地ごと消滅させるつもりでしょう。俺達はこの研究所で捕らわれていたこの子達を避難させます。十文字先輩、避難を。」

 

「その方が良さそうだが未だこの基地には多くの兵士が残っているだろうしそちらの脱出の手伝いを行う。」

 

十文字先輩は素直に避難する人ではないと思っていたがこれ以上の問答は不要だと一礼してエリカ達と共に一般港に向けて走り出しながら達也へ連絡を入れると《セブンス・プレイグ》の起動データを入手し研究データの消去も完了し脱出したが警備員、研究員が未だ施設内部にいる、と報告を受けたが俺達は急ぎ埠頭へ向かった。

 

その埠頭に向かう最中に俺は立ち止まる。

研究に関わっていない警備兵や研究員も数多く見殺しにするわけに行かなかった。

あくまでも俺の仕事は”九亜達の救出、データの破壊”であって人殺しではない。

 

「どうしたのよ八幡立ち止まって。USNAの攻撃が来るから早く逃げないと。」

 

「少し野暮用を思い出した。みんなはクルーザーに逃げ込んでくれ。ルートは大丈夫だな?」

 

「お兄さん、私たちを見捨てるつもりなの?」

 

四亜が俺に近づいて上目使いで問いかける。

俺は首を横に振る。

 

「そうじゃない。お前達を安全に逃がすためにやっておくことがあるんだ。わかってくれるよな?それに安全な場所までもう少しだ。」

 

「…わかった。」

 

四亜は納得して俺から離れてくれたのを確認しエリカとレオを見やると頷いた。

俺も頷き逆方向へ走り出す。

 

エリカ達が遠くに見えるまでの距離になった所で《次元解放》を発動させると同時にデバイスに音声入力する。

 

「《タイプエンド・グレイプニル》…!」

 

《次元解放》のゲートを潜ると同時に《グレイプニル》がポータル内部から呼び出され俺の体に装着され純白が漆黒に装甲が染まっていく。

様々な機能を付与した外套《アクティブクローク》が装着され一見はボロ布だが高いステルス性を持つ。

ゲートを潜り抜け重力制御で飛翔し高度まで飛翔し研究所内部を《賢者の瞳》で確認する。

 

(逃げ遅れたのは数十名…此なら扉に設定した《次元解放》で研究所外へ出られるようにすれば…)

 

俺は魔法で意図的に研究所内の壁を埋めたり破壊したりして一方通行にしてゲートへ導く。

十文字先輩は向こうにいるので問題ないだろう。

俺の作戦は成功し研究所内にいる人員はゲートを通って全て基地外へ叩き出す。

が、まだ数名残っている。

 

急げよ…!と思いながら《グレイプニル》のレッグホルスターから《フェンリル改》を取り出そうとした瞬間にHMDの魔法関知センサーに反応があった。

 

【ヘヴィ・メタル・バースト】の発動兆候が見て取れた。

HMDに表示していたカウントは既に”ゼロ”俺がリーナに約束した時間を経過してた。

 

「不味い…!」

 

俺はエリカ達の方向を見るとまだ港に到着していない。

このままではリーナの魔法に巻き込まれてしまうので仕方がなく俺は発動している【ヘヴィ・メタル・バースト】に干渉をさせた。

 

「『次元虚空霧散(ディメンジョン・ボイド・ディスパージョン)』…起動!」

 

《瞳》の力と追加起動式である《次元転移》を使用し《虚空霧散》は物理的に”対象を虚無に返す”魔法式だが付与された事により”魔法式自体を直接消し去る”能力を追加する。

 

魔法を書き起こす起動式を破綻させるのは簡単で起動式の一部を破壊すれば強制破綻する。

発動し掛けていたリーナの魔法は起動式が定義破綻して強制終了して接射地点から煙を吹き出す。

研究所から最後の研究員と警備兵が脱出したことを確認し俺は研究所を《虚空霧散》で消し去り更地にしたことを確認し飛び立った。

飛び立つ前にムーバルスーツを着用し此方を見ている達也を確認したが反応を見せずに無視することにした。

俺の今の姿は国防軍も追っているらしいが…見破ることは出来ないだろう。

 

飛び立ち達也と合流をするために移動した。

残るはセブンス・プレイグだけだが…これまた一筋縄では行かなさそうな予感がした。

 

◆ ◆ ◆

 

八幡からの突如としての通信に驚いたが狼狽えることは少なかったと自分を誉めてやりたいリーナだったが今は作戦遂行を第一とした、が本部より告げられた情報に「怠慢を…」と怒鳴り散らしたかったがグッと押さえた。

 

『申し訳在りません総隊長、失敗いたしました。』

 

「ベン!?まさか貴方が…いえ、了解しました。フェイズ・ツーへ移行します。(まさかベンが失敗するなんて…まさか八幡が…?)」

 

通信、というか直接頭に語り掛けられているように感じたリーナは八幡がこの基地、いや南盾島にいるのではと考えたがその本人から答えが告げられた。

八幡もこの基地の研究データと施設の破壊を目的にこの島に訪れていることがわかり不本意ながらリーナは少し心が踊っていた。

非戦闘員を逃がすために待ってほしい、と告げられ十分間は待つ、と告げると感謝され「また声が聞けて嬉しい」と言われてリーナは照れた。

 

八幡とリーナが協力していることはUSNAでもリーナ本人とバランス大佐しか知らない情報であるために形として任務遂行を演じなくてはならなかった。

八幡から通信?を切って部下へ指示を出す。

 

「ミルファク、衛星照準システムは回復しましたが?」

 

「まだ不十分です。」

 

その回答にシリウスとして眉を潜めたが彼が悪いわけでないと理解をしていたので素早く行動へ移る。

 

「では、空に上がって直接照準します。」

 

シリウスは水陸強襲揚陸挺のハッチを開けて飛翔した。

飛翔し研究所を見下ろせる高さ迄移動したシリウスは研究所付近に在る装甲車両に狙いを定めた。

八幡が指定した時間は通過していた。

 

「テイク・ア・サイト」

 

HMDにターゲットカーソルが装甲車両をロックオンを始める。

 

「起動式展開。」

 

専用CADが唸りを上げて起動式を展開していく。

カーソルが重なって”赤色”からクリアを示す”緑色”へ変化した。

島にいる民間人を巻き込まないように加減を調整し軍事施設のみに絞った威力と拡散範囲を指定する。

 

「【ヘヴィ・メタル・バースト】、発動。」

 

指定した装甲車両を中心としてプラズマが発生し臨界間近、と言うタイミングで暴発したように白い煙が吹き上がってしまった。

 

「えっ?」

 

その光景に思わずシリウスは声を上げてキョトンとして慌てた。

HMDにはエラー音声が鳴り響く。

 

「【ヘヴィ・メタル・バースト】が定義破綻で強制終了?!プラズマが消失…!?ど、どう言うことなの?ターゲットは…ってこれは……!?」

 

ターゲットにしていた研究所へ目を向けると驚きの光景が広がっていた。

研究所が虫食い穴のように食い潰され消えて倒壊、消滅していくのだから。

その光景をリーナは見つめるしかなかった。

 

「こ、これって任務完了でいいのよね…?」

 

研究所が全て倒壊したことを確認し納得が行かないとなりながらリーナは踵を返して揚陸挺へ戻ることにした。

 

 

一方でその光景を南盾島の登頂部で見ていたムーバルスーツを着用し『セブンス・プレイグ』を撃墜しようとした達也の姿があった。

予測落下地点の起動データを入手していたがリーナが先に発動していた魔法によって観測に狂いが出ていたので撃墜が不可能になっていた。

それに達也は知る由もないが。

それに侵入して島を攻撃している人物がまさかのアンジー・シリウスであることに驚きその場にいる八幡達と研究所所員の避難が完了していない事を知っていたので素早くその魔法式を分解使用したが次の光景に驚くしかなかった。

 

「起動式が霧散して強制破綻しただと…っ?!あれは…ブラックホール?!…どうして奴が、『黒衣の執行者(エクスキューショナー)』が何故ここにいる…!?」

 

発動された魔法を確認し達也は《精霊の目》で確認をすると此方よりも更に高高度で魔法を行使している『黒衣の執行者』の姿が。

彼が放った魔法が達也の持つ《術式霧散》のように起動式のピンポイント狙って破壊されていることに驚愕せざるをえなかった。

 

「なんだ…奴の情報体が読めない…情報が次々と書き換えられているのか…」

 

達也はその目で情報を探ろうとしたが逆にランダム、余計な情報が送られてきて脳が悲鳴を上げそうになっていた。

存在そのものが”読み込めない”状態だった。

達也の存在に気がついたのか一瞥したのちに直ぐ様飛び立ってしまった『黒衣の執行者』に達也は思うところがあった。

 

「まさか海軍の秘密研究所で開発されていたことを知って破壊しに来ていたのか…?」

 

研究所跡地になった場所を見てみると確りと非戦闘員が脱出できていたことを確認した達也は内心で。

 

(まるでダークヒーローのようだな)

 

と独白し迫ってくる『セブンス・プレイグ』対応のため八幡に合流することを急いだ。

 

◆ ◆ ◆

 

同時刻南盾島近海USNA原子力潜水艦『ニューメキシコ』発令所。

下士官が現状を報告した。

 

「偵察衛星への通信回復しました。」

 

「状況を報告せよ。映像をモニターに出せ。」

 

下士官各員が機材を操作し発令所前面の大型モニターに南盾島の現状を投影する。

投影した映像には研究所消滅と非戦闘員の姿が写し出される。

作戦は成功した。

 

が、その余韻を破壊するように下士官の悲鳴じみた報告が艦長の耳に入る。

 

「艦長!艦隊司令部より入電。『軍事衛星【セブンス・プレイグ】が落下軌道に入ったことが確認』された…!?」

 

「続きはどうした!?」

 

「は、はい!落下予測地点北緯二十七度プラスマイナス五度東経百四十二度プラスマイナス五度……っ、と当海域ですっ!?」

 

発令所に動揺が走るが艦長が一喝する。

 

「浮き足立つな!それで司令部からの指示は!?」

 

「西太平洋に展開中の部隊は四十八時間以内にハワイ基地へ帰投せよ、とのことです!」

 

「ちっ…無理を言ってくれる…!強襲挺に帰還命令を出せ!収容次第機関最大で当海域を離脱する!」

 

「「「AYE,SIR!!!」」」

 

艦長は素早く指示を出した。

 

「艦長。」

 

「何かね?」

 

先程帰還したばかりのベンジャミン・カノープス少佐が艦長に声を掛ける。

 

「対空攻撃ミサイルの使用許可を願います。」

 

◆ ◆ ◆

 

雫の別荘から飛び立ったティルトローター機は八幡より九亜達を救出した、という報告を受ける前に南盾島が襲撃を受けた、という情報を傍受し向かっていた。

ティルトローターの自家用機の機内から南盾島の惨状を深雪が確認していた。

 

「もっと近づけませんか?」

 

機内から見下ろす南盾島、特に防衛施設があったとされる場所はグツグツと煮えたぎったマグマのように燃え盛り黒煙を炊き上げている。

 

「無茶を言わないでください!まだ燃えているんですよ!?」

 

北山家の操縦士がそういうのは至極当然だった。

今近づけば例え外装強化された機体でも吹き上がる熱で機体がダメージを受ける可能性があった。

深雪はどう島に近づこうかと考えた時に操縦席に在るディスプレイに気になる点を見つけた。

ディスプレイを操作する深雪に気がついた幹比古が声を掛ける。

 

(此は…?)

 

「どうしたの?」

 

操作したディスプレイには潜水艦が投影されている。

深雪が次行う行動の指針が決まった。

 

「ここで止まってください。」

 

「え、あ、ちょっと!?」

 

答えを聞く前に深雪は操縦室を出て外へ向かうタラップの解除パネルを操作する。

瞬間、深雪の柔肌を刺すような熱風と灼熱の熱さが身を焦がす。

背後で操縦士が吹き込む熱風に驚き幹比古も思わず腕で顔を覆ってしまう。

突き刺さる熱風を感じ取った深雪は涼しい顔でCADを操作して外気をシャットアウトするために冷気を纏い続いて燃え滾る灼熱地獄に手を翳す。

 

次の瞬間に燃え滾る灼熱地獄は一瞬に鎮火され広がる溶岩が地面と化した。

 

「では、お先に。」

 

「えっ!?」

 

深雪は後ろにいる幹比古に一言声を掛けてタラップから飛び降りる。

重力に従い地面へ落下する深雪はCADを操作し風に逆らいワンピースは広がらずふわり、と舞い上がるだけであられもない姿を晒すことはなかった。

自由に落下している深雪に見とれていた幹比古は慌てて追いかける。

 

「伊達さん!ハッチを閉めておいてください!」

 

そう告げて幹比古もタラップから飛び降り呪符を取り出し無事落下し着陸した。

 

「?」

 

先に着陸していた海の方…すなわち先程ディスプレイに映っていた潜水艦の方向を見ていた。

 

(お兄様のように上手くは出来ないけれども…。)

 

潜水艦の座標を確認しその箇所に対して魔法を行使した。

 

(動きを封じるのにはこれで十分な筈…。)

 

その空間を凍てつかせるための氷の波動が放たれる。

 

「凍てつきなさい。」

 

深雪が魔法の行使を行った次の瞬間に潜水艦を中心として氷の群青、流氷が取り囲む。

それは辺りを凍らせるだけでなく潜水艦の外装部分を凍りつかせる。

 

同時刻。

深雪が『ニューメキシコ』を凍らせた瞬間、艦内が大きく揺れる。

 

「何事だ。」

 

下士官が報告した。

 

「こ、氷です!本艦は氷山、いえ流氷…氷原に閉じ込められました!」

 

有り得ない事だった。

赤道に近いこの場所で此程までに巨大な流氷群…氷原に閉じ込められるのは”魔法”以外の何者でもない。

その光景は撤収に向かっていた揚陸挺も目撃していた。

 

(この氷…って東岸陣地にいるのはミユキとミキ?!どうしてここにいるの?)

 

「こ、これは…総隊長殿!?」

 

意識を”リーナ”から”シリウス”に切り替える。

 

「ハーディ、私はニューメキシコの救援に向かいます。貴方はこれを引き起こした南盾島東岸の防衛陣地跡地の魔法師を牽制してください。」

 

揚陸挺の上部ハッチを解放し乗り出す。

今から使う魔法を使用するために《仮装行列》を解除する。

 

次の瞬間には”シリウス”から”リーナ”へ姿形が身長も感じ取れる想子が変化する。

ハッチに足を掛けて飛び込むように降りるとスラストスーツに搭載された飛行デバイスが動作し氷原に閉じ込められた潜水艦へ凄まじいスピードで飛翔、いや滑空する。

暫く滑空し潜水艦が見えたことで上昇し浮上している甲板へ着陸を決めた、が。

 

「え…?」

 

甲板に着陸した瞬間に凍らせられた接地面はまるで真冬の路面のようにツルツルでバタバタとあわてふためく。

 

「うわっ!!わわわっ……」

 

パタパタ、バタバタと手や足を振りながら体勢とバランスを見事に取り着地に成功する。

リーナはキョロキョロと辺りを見渡した後恥ずかしそうに咳払いし口調は”シリウス”として【ニューメキシコ】へ連絡する

 

「…コホンっ。ニューメキシコ聞こえますか?此方シリウス少佐。」

 

通信を行うとカノープスが反応した。

 

『総隊長殿。此方カノープス。』

 

「ここから氷を溶かします。動けるようになったらすぐ潜航してください。」

 

リーナは指示を出しスラストスーツに装備されたCADを操作して上を向いた。

氷に閉ざされた鉄の海城を解放する空間を、いや”世界”を沸騰させる魔法力が解放される。

 

「『ムスペルスヘイム』!!」

 

気体分子をプラズマに分解し、更に陽イオンと電子を強制的に分離することで強制的なエネルギーの電磁場を産み出す領域魔法。

魔法式の発動地点を《ニューメキシコ》を起点に氷原に対して稲妻が降り注ぐ。

膨大な熱エネルギーが徐々に閉ざされた氷を溶かしていく。

無事に氷を溶かしきり潜航を開始する《ニューメキシコ》に揚陸挺に乗っていたハーディが到着する。

リーナが揚陸挺の方向へ視線を向けると氷に閉ざされていたのを確認し部下を咎める気は起こらなかった。

甲板へ着地したことを確認し魔法を使って揚陸挺を爆破したのを確認し《ニューメキシコ》は潜航を開始しリーナ達は現海域を離脱を果たしたのだった。

 

◆ ◆ ◆

 

俺は四亜とエリカ達を自家用機に乗せて撤退させた後【偽装アーマー(グレイプニル)】を解除したのちに達也達と合流した所寝耳に水な情報が入った。

 

「落下予測地点に《セブンス・プレイグ》が出てこなかっただと…?」

 

「ああ。東岸の防衛陣地で発動されたプラズマ攻撃のせいで光学観測と予測落下データが一致しなかったんだ。」

 

「(ちっ…リーナめ余計なことをしてくれちゃってまぁ…いいか。)それでどうする?落下までもう時間がないだろ。」

 

俺は内心で悪態をつきながら達也に質問をする。

この作戦前にわざわざ達也が基地にたちよったのも今着ているムーバル・スーツ以外に”策”が在ると思ったからだ。

 

「わざわざ聞く、ってことは俺に策があるって思ってるんだろ?」

 

「当然。で?」

 

改めて聞き直すと達也は答えてくれた。

 

「ああ。俺には『セブンス・プレイグ』を完全に無力化する手段がある。」

 

「流石だな。」

 

「だが八幡。お前の力が必要になる。」

 

「俺の?」

 

そう問い掛け頷く達也。

 

「俺を高度140キロまで運んでくれ。十分以内に。」

 

「140キロ?そこまで行ったらもう成層圏突破してるぞ?浮遊物質の影響を避けるためなら成層圏で十分じゃないのか?」

 

そう告げると達也は肩を竦めた。

 

「今から使おうとした魔法は何度も打てるものじゃない。俺の魔法力だと一発勝負になるからな…確実を期したい。」

 

「なるほどな…だったら任せろ。完成制御の負荷軽減も含めて快適な空の旅をお届けしてやる。勿論帰りのお迎えも用意もな。」

 

「頼むぞ。」

 

「ああ。」

 

クレーターのようになった岩盤に移動し真ん中に達也が立ち俺は襲撃の可能性を告げて警戒するため、と理由をつけて皆から離れて起動式を展開準備を進める。

俺は《超特化型CAD(フェンリル改)》を取り出し魔法式を封入したリボルバーストレージを変更し別の物に換装し装填する。

旧世代のリボルバー式拳銃のように弾装を腕に当てて回転させた。

上空に構え引き金を引いて魔法式を展開する。

達也の上空で起動式の柱が聳え立つ、達也を成層圏の向こう側へと送り出す準備が完了しカウントダウンが始まる。

 

「5」

 

達也を魔法式が包み込み。

 

「4」

 

幹比古が緊張した面持ちで俺と達也を見つめ、

 

「3」

 

深雪は真剣な眼差しで達也を見つめ、

 

「2」

 

達也は成層圏の向こうを見つめるように上を見上げる。

 

「1」

 

俺はCADのトリガーを引き絞る。

 

「発進っ!!」

 

次の瞬間に達也は超電磁砲(レールガン)の如く上空へと射出されていった。

達也を送り出した後に深雪に視線を向ける。

 

その瞬間に《賢者の瞳(ワイズマン・サイト)》を通じて脳内に未来視が叩き込まれた。

達也が『セブンス・プレイグ』を撃墜する前にUSNAの潜水艦から射出された対空ミサイルが飛翔し衛星に着弾、その衝撃で格納されていた半分の数量、対地ミサイルが起動し降り注ぐ光景が。

 

(くそっ…!!USNAめ余計なことを!)

 

同時に水しぶきを上げる音が此方に響く。

そちらの方向へ視線を向けると飛翔体が上へ向かっていくのが見えた。

間違いなくあれが衛星を破壊するために潜水艦より飛翔した対空ミサイルだろう。

 

「…っお兄様!」

 

深雪が悲鳴をあげるのが聞こえた。

俺が取るべき行動はひとつで皆と距離を取ったのは正解だったと素早く《次元解放》のポータルを潜り《グレイプニル》を装着し達也から離れた地点に転移する。

 

広がる光景は軍事衛星へ対空ミサイルがぶつかりその衝撃でそれらに搭載されていた地対ミサイルが達也へ降り注ごうとしていた。

 

HMDにターゲットサイトが現れ達也との距離を確認する。

達也に反重力防壁を展開し俺はミサイル群に対してロックオンを完了し《超特化型》から必殺の魔法が放たれる。

 

「『結合崩壊(ネクサス・コラプス)』発動。」

 

ロックオンされたミサイル群をターゲットサイトに収めて引き金を引く。

重粒子ビームの大きな奔流が飲み込んでいき爆発し空間を螺切るように歪み収束していく。

ミサイルの爆発は消え去り宇宙空間には静寂が広がった。

俺は達也が振り返る前にポータルを潜って地上へと帰還した。

知られる前に戻らないとな。

 

◆ ◆ ◆

 

射出された達也は八幡の仕事振りに感嘆した。

 

「流石は八幡、狙いは正確だ。」

 

手にしたシルバーホーン・トライデンドにβストレージを装填し前方数十キロにまで接近した『セブンス・プレイグ』に狙いを定める。

 

廃棄軍事衛星に積まれた劣化ウラン弾を無力化するためのベータ起動式を展開させる。

それぞれの三つの起動式を次々と掛け合わせていき一つの術式にしていく。

 

「ベータ・トライデント起動。」

 

魔法が発動しベータトライデントを潜り無力化されていく廃棄衛星、しかし。

 

「なんだと…!?」

 

魔法式を潜り抜ける前に落下の衝撃で外れた対地ミサイル「へイル・オブ・ファイア」のミサイルユニットが廃棄衛星本体から外れて起動式を潜らなかった。

タイミング悪くそのミサイルユニットに地球から飛翔したミサイルが激突、その衝撃で本体側についていた半分の弾頭十五発が起動してしまった。

達也は発射されてしまったミサイルを迎撃しようとしたが残想子が無いことを理解した。

 

「くっ…!?」

 

迫るミサイルに万事休す、このままでは世界大戦の口火を切ることなる…と思われたがその想像は”よい意味”で裏切られた。

 

次の瞬間に達也に降り注ごうとしたミサイル群は数キロ先で灼熱の赤黒い高エネルギービームによって全てが薙ぎ払われた。

 

(これは…!?)

 

高エネルギービームに薙ぎ払われたミサイル群の爆発は達也にまで届いていたが自分を覆う防壁が展開されていることに気がついた。

断続する爆発に防壁越しに衝撃が伝わっている。

防壁がなければ達也は《再成》を使用しなければならなかった。

衝撃を耐えきると宙域は静寂に包まれた。

 

(一体…誰が先の魔法を…?)

 

自分を結果として救った魔法を使った人物を考察しながら八幡の魔法で地上へと帰還する。

地表では廃棄人工衛星が魔法式で消滅した結果オーロラが発生し南盾島にいる民間人、潜水艦でその光景を見て驚くリーナ、助け出された四亜とエリカ達が驚いた表情で自家用機の中から見て、そして笑顔で出迎える深雪に強化外骨格のフェイスガードを外し見上げる八幡。

 

こうして九亜達救出作戦と世界大戦勃発の阻止を完了した。

 

◆ ◆ ◆

 

その後の顛末を少しだけ語ろうと思う。

 

南盾島の魔法研究所で行われた未成年の魔法師に対する奴隷的な扱いに対する物的な証拠が十文字先輩が魔法協会を通じて十師族に通達され結果として海軍が開発していた【ミーティアライト・フォール】の実験は事実上の抹消、開発に携わっていた研究者達は閑職等に追いやられて責任者は今回の責任を被り刑務所へ送られた。

もう二度とあのような魔法実験は起こらないだろうな。

 

そしてその魔法実験に大きく関わっていた九亜…『綿詰未』シリーズ達はというと…。

早い話が彼女達は北山家に引き取られた。

全員が全員、普通の女の子らしい年頃の雰囲気と見た目になりその表情は明るいものだった。

九亜はエリカとレオ達に可愛がられ四亜は雫とほのかたちに可愛がられていた。

 

俺はその光景を離れた場所でてぇてぇ…と言った感情で見守っていると四亜が俺に気がついて手を振る。

その四亜の素振りに気がついて俺を見る九亜は俯きながら俺へ近づいてきた。

 

「どうした?」

 

「…その。」

 

「?」

 

何やら言いづらそうでその言葉を催促はしないで俺はただ待っていた。

九亜は言う決心がついたのか顔をあげて俺に伝えたい言葉を教えてくれた。

 

その感謝の言葉だけだったらまだよかった。

最近の子供はおませさんなんだなー、と他人事のような感想を思ったのは言葉を告げた後九亜が取ったリアクションが問題だった。

 

頬に柔らかい感触と鼻腔に衣類の柔軟剤と九亜本人の匂いが届いた。

離れた瞬間に九亜の笑みが俺の目前に広がる。

この可愛らしい笑みが九亜本来の物なのだろう。

 

「約束守ってくれてありがとう、八幡さん。」

 

「えっ?」

 

「八幡さん?」「八幡っ?」「八幡?」「八幡さん!?」

 

「いや、これはあれだよ親愛の情的なあれだって!」

 

「八幡さん!」「八幡っ!」「八幡!」「八幡さんっ!」

 

「最近こんなんばっかじゃねーかよ!?」

 

彼女本来の持つ優しい笑みを浮かべ感謝を述べられたのだが…その後に俺が深雪達にどう追い回されたのか皆さんの想像にお任せしよう。

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