第一高校に神田議員が視察に訪れる一日前の四月二十四日の夜。
一方で七宝琢磨は「新秩序」を目指す同盟者である小和村真紀との会談を終えて自宅に戻ってきていた。
「お帰りなさい琢磨さん。先生がお呼びです。」
時刻は深夜といって良いほど遅い時間帯であったが戻ってきたタイミングで家人である青年が”先生”と呼んだのは七宝家当主である七宝拓巳の事でありそのまま風呂に入って寝たかった琢磨だったが父のいうことを無視は出来ずに内心で「面倒だな」と思ったがおくびに出さずに「分かった」とだけ告げて書斎に向かった。
父のいる書斎の扉をノックすると「入りなさい」と声を掛けられ入室するとそこには師補十八家、十師族に匹敵する魔法技能をもつ七宝家当主である七宝拓巳が書斎の椅子に掛けていた。
「掛けなさい。」
父にそう促され書斎に置かれている応接セットのソファーに腰を掛けると対面するように拓巳が腰を下ろした。
「琢磨、学校はどうだ?楽しんでいるか?」
こんな時間に呼びつけておいて世間話か…とあきれる場面であったが琢磨はムッとした感情が上回り語気が強まった。
「親父、何度も言っているが俺にとっては学校は楽しむ場所じゃない。」
琢磨の台詞に拓巳は「やれやれ…」と困ったような表情を浮かべていたが伝わることはなかった。
「強情だなお前は…何をそんなに肩肘を張る必要があるんだ?」
「親父の方こそなんでそんなに楽観的にいられるんだ!次の十師族選定会議まで一年を切っているんだぞ!?それなのにこのままではまたも風見鶏の七草に十師族の地位をかっさらわれて七宝は七草の下風に甘んじなければならなくなるんだぞ!」
父の力の抜けた態度に七宝の若さゆえの怒りが爆発した。
「選定会議は二十八家から十家を選び出すものだ。七草家にばかり固執し続けることばかり意味が無いことは琢磨、お前にも理解しているだろうと思ったんだがな。」
この問答をしたのは今回が初めてではなくこの歳になった琢磨に言い聞かせるように説明するのは顔を会わせない日を除いて必ずやり取りしているお馴染みの恒例行事と化していた。
「意味ならあるさ。」
そして父の言う言葉に頷いた試しは一度もなかった。
「七草家も二十八家の一つでしかない。」
「あいつらは違う。」
「琢磨。」
「同じじゃない。
今日の琢磨の態度は何時もよりも強固だった。
「琢磨…誰がお前にそんな妄執を植え付けたんだ?」
「誰だって良い!三枝が『三』を裏切り『七』の成果を奪い取って十師族の地位を手に入れたのは事実じゃないか!」
「琢磨…『七草』」が『三枝』だったのは十師族の秩序が定められた前の話だ。老師が十師族という体制定められたタイミングでは既に『七草』は『七草』で他の家よりも抜きん出ていた能力を持っていた。」
「その抜きん出ていた能力とやらは『七』や『三』の研究成果をつまみ食いした結果じゃないか。第三研究所の最終実験体であった第三研究所を抜け出し『七宝』が開発当初から関わっていた『郡体制御』を完成直前にしか関わっていないのにそれを我が物顔のように使用してる。『七宝』だけじゃない!三矢や三日月、七夕に七瀬…そして数字落ちした
「琢磨。七草家も元を辿れば私たちと同じ実験体だ。」
父の台詞に激昂していた琢磨は絶句した。
「彼らもまた作られた存在だ。ただ実験体として甘んじていた他の家と違って彼らは自らを選択する道を選んだ…これは責められることではなく称賛されることだ。」
「…親父は裏切り、出し抜こうとすることが称賛すべき行為だとでも言うのか?」
「現にお前は現十師族を出し抜こうとしているではないか。」
「っ…それ…は!」
父に告げた言葉が盛大にブーメランのように心に突き刺さり二の句が告げなくなってしまった琢磨を見て拓巳は苦い顔を浮かべるしかなかった。
「まぁ良い。お前に何を言っても、お前が納得しないのは理解していたからな。それにお前をこんな真夜中に呼び出したのはお前に伝えておくことがあったからだ。」
「…なんだよ。」
「琢磨、明日は学校を休め。」
「親父?いきなり何を言い出すんだ。」
琢磨は怪訝な表情を父に向けるがポーズではなく不審に覚えていたからだ。
「明日野党の神田議員が取り巻きの記者を連れて第一高校に視察に向かわれる。」
「野党の神田って人権主義者で反魔法主義の神田か?」
「ああ。」
「一体なんのために。」
「魔法を強制されている少年少女達の人権保護を訴えるパフォーマンスがしたいのだろう。」
「人権だと!?」
琢磨は「余計なお世話だ!」と分かっていてもそう吐き捨てずには入られないほど怒りの沸点が低かった。
「お前の言いたいことが分かるが相手は国会議員…下手な騒ぎを起こす必要もない。」
そういう父の言葉に琢磨はさらに激し感情のまま吐き出そうとしたが深夜であることを思いだしブスッとした表情で吐き捨てるように呟いた。
「いくら気に食わない相手だからと言って、後先を考えずに喧嘩を売るほど俺もそこまでガキじゃない」
「相手の方から喧嘩を売ってきても、か?」
「当たり前だ!…そう易々と挑発に乗るものか…。」
一瞬だけ立ち上がり握りこぶしを作ったがすぐさま力を抜いて背もたれにもたれ掛かるように呟く姿を見た拓巳は表情で「本当か…?」と問いかけていたが琢磨はそれも無性に苛立ちが募ったが押さえ込む。
「ならば良い。自分で言った言葉だ最後まで責任を持てよ。」
「分かっている!話はそれだけか親父。」
いちいち自分の言葉に苛立ちと反応を見せている琢磨のこの光景に対して拓巳でなくとも「本当に大丈夫か?」と疑いの目を向けるのは無理もない。
「琢磨、この件に関しては七草殿が対処する。余計な手出しは不要だ。」
「七草が!?」
案の定『七草』というものに反応を示している琢磨。
「余計なことはするな。自分の言葉に責任を持てよ。」
『分かっている!』と既に言質を取られてしまっているので二の句が告げずにいた琢磨に追撃を掛ける拓巳。
「七宝家はこの件に関して介入しない。これは決定事項だ。分かったな琢磨。」
「分かったよ!」
琢磨はこれ以外に答えようが無かった。
◆ ◆ ◆
翌日、第一高校の正面ゲートに横付けで黒塗りの高級車が三台程乗り付けゾロゾロとそこから十名ほどの男女が現れる。
佐織の情報通り神田議員とその秘書、そして取り巻きの記者を引き連れて第一高校の敷地内へ我が物顔で入り込みそこで止めるはずの警備員も先頭を歩く男の襟元に議員バッジが付いていれば止めることは出来なかった。
彼らは四時限目の最中にアポイントメントを取らずにやってきて第一高校の教頭である八百坂教頭が苦い顔で向かえていた。
丁度そのタイミングで百山校長は他学校と出張中で会議をおこなっていた。
当然ながら神田はその事を知っていたので神田は「子供の使いのように出直せというのか」と嫌みったらしく告げたが八百坂教頭は校長は立て込んでいるから出直していただきたいと入校を拒否し続けていた。
このまま進めば八百坂教頭の時間切れで勝利…だったが神田はそれを悟り無理矢理にでも校内に押し入ろうと画策したがそれは校長も神田が来訪する、という情報を微かだが仕入れており丁度よいタイミングで出張先より戻ってきた百山校長によって睨みを効かされ神田は居心地を悪そうにしていた。
神田は校内に入ることに成功し来賓室にて当校の校長と対面していた。
睨みを効かされ気圧されていた神田だったが舌は回り『魔法科九校は生徒を軍人に仕立て上げるべく洗脳教育をしている』と。
それを聞いた百山校長は
「馬鹿馬鹿しい話ですな。」
と不快感を露にして吐き捨てた。
その噂程度の根拠を吹き飛ばすために具体的な数値を用いて会話するとしてやったりと神田が反応して弁舌を捲し立てるが動じずそれに頷いた。
『私もそのように思っております。だからこそそのために校内の授業内容を見学させて欲しい』と同意をする振りをして自分の好きなイメージ《反魔法運動》を喧伝したい、というのものだったが教頭も校長もお見通しであった。
「困りますな。魔法の実技授業は実に繊細だ。いきなり押し掛けられては生徒達が動揺します。」
「ご迷惑は掛けません。」
神田もこれが付け入るチャンスだと下手に出たが百山校長にそれは悪手であった。
「…そうですか、そこまで言うのなら見学を許可しましょう」
少し考える素振りを見せたフリをした百山校長を見て神田は「勝った…」と思ったがそれは違った。
自分の首を絞めることになる。
「ただし、見学は五時限目だけとさせていただく。」
「そっ…いえ、それで結構です。」
思いがけない提案に反射的に反論の声を上げそうになったが「迷惑を掛けない」と言ってしまった手前、それを口にすることは許されなかった。
「教頭、そういえば五限目に実習を予定されているクラスはどのクラスとどのクラスだ?」
校長が教頭に問いかける。
が教頭はその問い掛けに自分が校長に対して思っている訝しさが頂点になった。
齢を既に七十を越えてはいるが百山はその日に起こる授業の割り振りを全て記録しているほどには記憶力、脳年齢が若いからだ。
「五限目に実習を予定しているクラスは有りません。」
八百坂は其をおくびにも出さずに百山に答えた。
「ただ正規のカリキュラムに有りませんが魔工科の2-Eの生徒から申請された課外実験が校庭で行われる予定です。」
「ふむ、お聞きの通りだ神田先生。やはり日を改められた方がよろしいのでは?」
「そんな!それではせめて四時限目の途中からでも。」
そう告げられた神田は焦っていた。
今回訪問したのは校長である百山が魔法支部にて会議を行っている、という情報を得て党にも内緒で押し掛けたのにここではぐらかされてしまえば各魔法科高校との擦り合わせでスケジュールを…となってしまう。
百山は神田の所属する民権党のトップとも交流があるので今回押し掛けたのは百山の影響力を恐れての訪問だったが既に会議から戻ってきてしまっていることでご破算になってしまったし既に言質を取られている状態だ。
その後百山から自らが授業に飛び入り観覧したいことの危険性を伝えられそう告げられてしまえば魔法の知識がない神田はその言葉を否定する根拠を持っていないので生徒の為、と名目にしている神田が生徒の未来を台無しにすると言われてしまえば強く出ることは不可能だった。
「…分かりました。それではその課外実験だけでも見学させていただけませんか?」
「そうですか。教頭、スミス先生を呼んで神田先生を案内させなさい。」
◆ ◆ ◆
佐織の言う通り神田議員が記者を引き連れて現れた。
監督責任者として廿楽先生に質問をしていた記者がこの実験…実用的と告げると記者は嫌な笑みを浮かべ
「実用的と仰いますと『灼熱と漆黒のハロウィン』で使用された秘密兵器のような敵艦隊を一網打尽にするような兵器の開発に繋がる、とかでしょうか?」
と訪ねる記者にほとほと呆れたような表情を浮かべ対応する廿楽先生の姿があった。
「加重系魔法の技術系三大難問の一つに挑む実験です。」
まるで「素人は黙っとれ…」と言わんばかりの反応を見せていた。
別の人物が質問をしようとしたが準備が整いマスコミも仕事人としての矜持があるのか素早く校庭に設置された実験装置へと意識が向けれた。
準備が整い拡声器を持った達也とアイコンタクトを交わして実験開始の合図を告げる。
「実験を開始します。」
達也が告げると校庭に集まりお喋りをやめて実験装置を注視した。
「【重力制御】」
俺は実験機材に片手を翳し重力制御魔法を発動する。
球状水槽内部に半分ほど入っていた重水・軽水の混合水が俺が指定した方向に広がっていき球状水槽内部に重力場が広がっていって球面にへばり付いていく。
「【第四態相転移】」
次に香澄と泉美が同時に相転移魔法を発動し液体をプラズマ化させて俺が鏡面に張り付けた水素・軽水を三つのプラズマ、重水素プラズマ、軽水プラズマ、酸素プラズマを発生させる。
「【中性子バリア】、【ガンマ線フィルター】」
それにともない水波が重力制御魔法の範囲と第四態相転移魔法の範囲の間に中性子バリアを挿入する。
更にほのかが中性子バリアと第四態転移力場の間にガンマ線フィルターを挿入。
ガンマ線フィルターはガンマ線を散乱させて熱エネルギーを取りだし可視光線に変換する魔法だ。
「【重力制御】」
準備が整い達也の指示を受けて球形水槽の中心部に高重力領域を出現させ俺は球状水槽内で展開し続ける【重力制御】、【第四態相転移】、【中性子バリア】、【ガンマ線フィルター】の魔法に対して連続干渉を続けつつ高重力を維持ならびに数十センチに有る物質の分布と質量にも目を向けようと思ったが達也の組んだ機材が飛行魔法を利用したデータ統合による照準システムが組み込まれていた。
が俺は其を利用する形で楽をしながら【重力制御】をしていた。
「【クーロン力制御】」
続いて五十里先輩が【クーロン力制御】を行い高重力領域の電磁気的斥力が一万分の一魔で低下し淡い光が溢れた。
見学している生徒達の間に無言のどよめきが駆け抜け球形水槽の中に明るさを増しながら1分、2分と光輝く。
其を同じくして球形水槽に入っている水が激しく沸騰し始め俺が重力制御で耐熱容器を維持しているとは言え容器事態の耐久度数は既に限界に達しようとしていた。
実験開始から既に3分が経過し俺は指示を出している達也に視線を向けるとそろそろ頃合いかと達也が指示を出す。
「実験終了。」
達也が指示を出すと【クーロン力制御】と第二の【重力制御魔法】が停止し実験容器から光が消える。
容器内の核融合炉が停止しているのを確認しほのかの【ガンマ線フィルター】が解除された。
【重力制御】を解除し水波の【中性子バリア】はそのままで容器内をおおっていた水が重力にしたがって落ちていった。
ロボ研の機械アームが容器に接続させて内部の成分を検知するためにバルブを開くと気圧差から分析器へ勢いよく流れ込んだ。
分析器の前に立ったケントが甲高い声で簡易測定を告げる。
成分の混在が見られないことに周りの生徒は興奮を隠せぬざわめきが広がっていた。
達也の指示によって注水が開始され容器内部はかなりの高温のために蒸発する音が響くが球形内部に薄い靄がかかるが直ぐ様元に戻り水槽は透明な水で満たされた。
「【中性子バリア】解除」
外に放射性物質が飛び散らぬように一番気を張っていたであろう水波に労いの視線を向ける達也。
次々とこの実験に参加したほのか、香澄、泉美、五十里先輩に視線を向け最後に俺に視線を合わせる。
俺は其を受け取って頷くと達也は中条先輩にマイクを手渡した。
手渡されたマイクと達也の顔を見て何度も往復して「私じゃ無理です!」と必死の抵抗を見せるが辺りを取り囲む視線は中条先輩に突き刺さった。
泣き出しそうな表情だったが意を決して大きく深呼吸を数度、整ったところで宣言した。
「常駐型重力制御魔法を中核とした継続熱核融合実験は所期の目標を達成しました。『恒星炉』実験は成功です。」
校庭で、校舎で歓声の声が一斉に上がった。
それは暴力的なまでの熱声で「魔法」の可能性と未来を称える雄叫びにすら思えただろう。
「おにぃ!やったよ!」
「お兄様!成功いたしましたわ!」
俺は機材から離れると妹達が俺の両腕に抱きついて満面の笑みを浮かべるのを確認して釣られて笑う。
「ああ。お前達がしっかりと【第四態相転移】を決めてくれたお陰で成功したんだ。流石は七草の双子だな。」
「~~♪」
「うふふっ♪」
流石に距離が近すぎる、と思わなくもないが有る意味で小さくはあるが歴史的な挑戦を成功させたのだからこのくらいは許してやろう、と抱きついてきたことに気にしないでいた。
が…深雪とほのかがすごい顔でこっちを見ていた。
浮かれているのだから少しは許して欲しいもんだが…。
「八幡。」
「達也。」
指示を出していた達也が近づいて腕を上に挙げたのを確認すると香澄が察して離れた香澄の側に移動する。
俺と達也は実験成功を祝ってを拳を突き合わせ青春群像的な1ページを写し出した。
◆ ◆ ◆
結果として俺たちは『魔法の平和的利用』という名目で『恒星炉』実験を成功させたことでアポ無しで訪れた神田議員他の反魔法団体を黙らせることに成功した。
実験終了後、そそくさと退散した神田議員他取り巻きの記者達だったがあまりにも無知なモノで廿楽先生との会話が録音されていたらしく廿楽先生の伝を使い魔法大学経由で控えめに「活動を控えろ」と脅しではないが伝えられそれに校長が民権党の上層部に厳しい抗議をしたことで神田議員だけでない反魔法主義の議員も活動を縮小せざる得なかったと多方面から睨まれていた。
ニュース的には第一高校の生徒が行った実験に対して否定的なものはあるが受け入れる、称賛する、と言ったものがあるのも確かであった。
結果として反魔法勢力のネガキャンは”魔法第一高校の若者達が魔法を社会的平和利用、エネルギー問題を解決するために挑戦した”と好意的に捉えられた。
それは一人が受け取れば連鎖するように肯定的な意見へ変化していく。
それは細胞を取り込むように否定的な意見だった者を取り込み仲間にしていった。
結果として一時的ではあるが社会的に反魔法勢力が囲われ縮小していったと言っても過言じゃないだろう。
翌日の食堂にて久しぶりに全員で食事を取っていると先日の実験に対してドイツのCADメーカーであるローゼンマギクラフトの日本支社長である人物がニュースに出ておりキャスターに対して流暢な日本語で返答していた。
『ー高校生があれほど高度な魔法を操るとは予想外です。日本の技術水準の高さには驚かされました。』
「………。」
わいわいといつもよりも賑やかな食堂に似つかわしくない表情でエリカが食事しているのが目についてしまった。
普段ならばおちゃらかすようなエリカが話にすら乗ってこないで黙々と食事をしているのがやけに気になってしまった俺がいた。
幹比古が席を離れるフリをして隣にいた俺の肩を叩いて一緒に食堂をあとにする。
幸いに食事は互いに済んでいたので二人で食堂近くの観葉植物の影に隠れ遮音フィールドを展開する。
魔法の不正利用のデータは《グレイプニル》に指示を出して削除させた。
これまたなんと無く声を掛けなければならないとそう思い小声で声を掛けた。
「おい、幹比古一体なんだよ。」
「あのさ、八幡…少し気に留めておいて欲しいことがあって…。」
「あん?」
「エリカの事なんだけど…。」
「エリカの事?…そういやエリカの奴…なんかやけに元気が無いな。何か知ってるのか?」
幹比古は一瞬考えた素振りを見せて俺の顔を見て「話してもいいか…」と改めて説明してくれた。
エリカがなぜあのような表情になっているのかを。
「八幡はエルンスト・ローゼンという人物は知っているかい?」
知っているかい?と問われ俺は頷いた。
《マクシミリアン・デバイス》と対をなすCADメーカーにおいては名前を知らぬものなどいないだろうと言うレベルの大企業の社長、今さっきもニュースに出てたからな。
「実は…エリカのお母さんは従弟に当たる人物なんだ。」
俺は遮音フィールドを張っていてよかったと思うくらいに少しデカ目の声が出ていた。
「はぁ?!…っ、マジかよ…エリカのお母さんがローゼンの血縁者だってのか?」
確かにエリカの美貌は外国の血が入っているとは思ったがまさかのローゼン…とんだビックネームと縁者だったとは思わなかった。
しかし疑問に思うところが有るのだが…なぜエリカの気分の落ち込みようとそれが関係有るのだろうか?
疑問に思っているところ幹比古が答えてくれた。
「エリカのお母さんのお父さん…エリカから見ればお祖父さんが日本人女性と駆け落ちしてしまったみたいでねそれは本家の親族の反対を押し切って日本へ逃げてきたからドイツのローゼン家とは断絶…絶縁状態だと…それにエリカは千葉家の当主と愛人関係になって日本に来たそうだからエリカのお母さんのお母さん…つまりはお祖母さんも快く思っていないみたいで相当苦労したみたいだって。そしてその一件があってからローゼンが日本に対して良い印象を持っていないみたいで支社に本家の人間を置くのはなかったんだ。」
『大っ嫌いよ。あんなクソ親父…。』
一緒にキャビネットに乗ったときに家族について話したことがエリカが父親に対してそう酷評したのはそういう経緯がありまさかその事だとは…エリカの母親とローゼン家の事を聞いて俺は絶句したが気を取り直して幹比古から言われたことを整理する。
①エリカの母親がローゼンの日本支社の社長と従弟である。
②駆け落ちしたことを本家はよく思っておらず断絶状態である。
③エリカのお母さんが千葉家当主と恋人関係、所謂エリカは妾の子。
①②③引っ括めてローゼン本家は日本に良いイメージを持っていない、そして本家の人間が支社長に置くことは躊躇われていたがこのタイミングで就任した。
④エリカはローゼンの新支社長と従弟であり母親の子供…つまりは血縁者であり…近寄ろうともしなかった本家の人間が日本にやってきた。
つまりは………様々の要素が仮定の域をでないが俺の脳内で繋がった気がした。
が、この仮定を告げるにはまだ早い気がしたので寸でのところで踏み留まったが幹比古から怪訝な顔を向けられた。
む、いかん考えすぎかもな。
「八幡?」
「ああ。すまん。少し考え事してた。んで?その事を俺に教えてどうしたいんだよ?」
「具体的に何かをして欲しい訳じゃないよ…ただ君がエリカとそう言った仲なら彼女を気にかけておいて欲しいんだ。」
「”そう言った仲”…ってあのな幹比古よ俺はエリカと別に付き合ってるとかそういうんじゃないだが?」
まるで俺とエリカが男女の仲のように言うな。エリカが可愛そうだろう?そう思っていると苦笑されてしまった。
解せぬ。
「まぁエリカは君とそういう関係になりたいみたいだけどね…君はいろんな女の子を惹き付ける性質があるみたい…っと話が逸れてしまったけど僕一人で抱え込むのは少々荷が重すぎるから七草家の長男である君を巻き込んでおきたかった、ってのもあるけどね。」
自嘲気味に、しかし本気のように呟いた。
「ひでぇ他力本願をみたんだが…?」
俺はエリカの保護者じゃない、と声高に宣言したかったが意味は無いだろう。
仮にエリカが窮地に立たされたときには俺は迷うこと無く助けに手を差し伸べるだろうと思ったからだ。
◆ ◆ ◆
恒星炉実験に対しての思いがけない好意的な報道に一校生徒の心を高揚させていた。
が、その場面でも例外というのは存在するものである。
日にちを同じくして学年が変わって1-Aにて。
五時限目が終了し、それぞれが部活動に生徒会活動をする為に準備をしていた琢磨の耳に今日何度目か分からない”不愉快”なお喋りが飛び込んできた。
クラスメイトの女子が話題にしているのはローゼン日本支社長のインタビューとその出来事とその実験に参加していた他クラスの女子生徒を誉めそやす会話に恥ずかしそうにしているが喜色が隠せない表情と声色を浮かべる少女の姿が目の前で広がっていたからだ。
「ローゼンの社長にあそこまで言われるなんて凄かったよね~」
「実験のメインメンバーだった二年の司波先輩が機材を作って魔法使用の割り振りを小町さんのお兄さんが指示したんでしょ?いやー流石七草の長男さんって感じだったね!」
「七草先輩の加重系統魔法の精巧さ…凄かったね!それに実験に参加した香澄さんも泉美さん…あんなの真似できっこ無いよ!」
「七草さんもあんなに難しそうな機材操作してて凄かったよ!」
「あはは…いやー身内がここまで手放しで誉められると…少々…というかかなり恥ずかしいというか…まぁお兄ちゃんが褒められるのは嬉しいというか。」
「あ、小町さんブラコンって奴?良いなー七草先輩かっこいいもん。」
「あ、私もそれ思った!いいなぁ~小町ちゃん先輩がお兄さんで。」
「…っ!?」
「あっ…。」
「ぅ…。」
「あれ?どうしたの…って…ん?(あー…そういえば)」
そのやり取りを聞いて琢磨は憤りを覚えるしかなくいきなり立ち上がったことで今までお喋りしていた女子生徒は口をつぐんで静かになった周りに不思議に思った小町は視線の方向を向いて怪訝な表情を向ける。
実際に琢磨の行動は浮いていた。
『恒星炉』実験に関わったクラスは一年生の一科生生徒でA~Cまでいた。
小町は機材操作、香澄と泉美は魔法操作であの実験に関わっていた。
それに世界的有名企業の幹部から手放しで誉められていることを自分の事のように喜んでいる生徒が大半、というか殆どがそうだった。
だが、琢磨はそうではなかった。
評価を受けているのが先輩達ではなく”七草家”がその評価を受けているように思えて彼はその事に対して称賛することなど心から出来ず耐えがたい屈辱だった。
しまった…と思った琢磨だったが咄嗟の事で感情をコントロール出来ずに結局場の雰囲気をフォロー出来ぬまま琢磨は教室から逃げ出すようにあとにしたが小町が察してフォローしていた。
「まぁまぁ七宝君も男の子だから…実験に参加したのが私たちだけってのが男の子心に悔しい、って思ったんじゃないかなぁ…向上心の塊みたいな魔法師だしね。」
そう小町が評すると冷えついていた教室内が元通りになっていた。
小町によってフォローされているとも知らずに教室から逃げ出すようにクラブ活動に参加した七宝はモヤモヤした気分が晴れていなかった。
集中力が欠けていたせいで術式が雑になり普段は間違えないようなミスをしてしまい余計に彼のイライラを募らせていった。
下校時の時には彼のイライラは最高潮に達していた。
そして今日は琢磨にとって非常にとことん間の悪い1日だったようだ。
クラブ活動を終えて事務室に立ち寄り預けていた自分のCADを取りに戻り今日はもう下校しようと歩を進めると風紀委員の腕章を着けた香澄と遭遇した。
新入生勧誘期間も終了し普通に巡回で回っていただけの香澄は近づいてきている琢磨に気がついたが一瞥しただけでその場から風紀委員会本部へ帰投しようとしていたただそれだけだった。
だからこそ今日の琢磨は状況と合わせて強い被害妄想状態だった。
香澄が自分を一瞥したのは鼻で笑われた、とそう感じたからだ。
「上手くやったもんだ七草。」
「…何の事?」
声を掛けられ香澄が足を止めて訝しげに問い返したのは演技ではなく心から「何の事?」と言った表情だ。
だがそれすらも琢磨の目からは香澄が「とぼけている」と思ってしまう程にフラストレーションが溜まっていた。
誤解のまま琢磨は香澄に苛立ちをぶつけた。
「昨日の公開実験の事さ。ローゼンの支社長にまで注目されるなんて凄いじゃないか。」
「公開実験?七宝…あんたなにか勘違いしてない?」
香澄は決して冷静な女の子ではない。が、それは八幡によって常日頃言われていた。「冷静さを心掛けろ。相手が手を出してくるまでは決して手を出すな。魔法科高校で生活する上で絶対に守れ」と言われていた。
彼女にとって兄の言葉は有る意味で”絶対”であった。
だが彼女は生まれたときから泉美とは違って温厚…の真反対でよく言えば活発的、悪く言えば喧嘩っ早い性格で猫を被ることは出来るが敵意を向けられて大人しくしている程大人ではなかった。
「とぼけるなよ。学校に反魔法勢力の神田議員が来ることを知っていて昨日の事を仕組んだんだろう?司波先輩を利用して上手く名前を売ったもんだな?」
「利用ですって?変な言いがかりをつけないで欲しいんだけど?」
実際にこれは琢磨の言い掛かりに過ぎなかった。
香澄、泉美、小町が神田議員が来校するのを知ったのはその当日であり兄からは「友人の研究実験に付き合ってくれ」という情報を知らされていただけだったので琢磨に対する返答は困惑の声色を乗せるしかなかったがそれが更に琢磨の苛立ちを募らせ”彼女達”にとって禁句を発した。
「迂闊だったよ。司波先輩はこの学校だけじゃなく魔法九校間でちょっとした有名人だったしな。それに七草先輩も七草家時期当主筆頭候補…聞いたぞ?元々”八”の数字落ちの人間が七草家に取り入られただってな?姉に続いて”誑し込んで”捨てられた兄妹”を七草家に取り込んだのか?流石は七草、お前達は見てくれだけ一流だからな。」
「…ふざけるなっ!!」
琢磨がその考え無しに告げた言葉は香澄にとって非常に感情を逆撫で逆鱗に触れていた。
その剣幕に一瞬琢磨が絶句していたが香澄は兄に言われたことと恐らく言うであろう「好きに言わせておけ。」と言う言葉を反復させて冷静さを取り戻し呆れたように琢磨に告げた。
「誑か込むとか…七宝は随分と下品なんだね。色仕掛けなんて私たち七草は考えもつかなかったよ。あんたもそこそこカワイイ顔立ちしてるんだから魔法師やめて『ツバメ』にでもなったら?今さら『ツバメ』何て者を飼ってるのなんて色ボケの女優ぐらいだろうけどね?」
今度は香澄が何気ない一言が琢磨を動揺させ激情させてしまった。
香澄が七宝琢磨と女優の小和村真紀との関係…『同盟者』と言うことを知っているのは八幡だけでそれを意図して告げたものではなくゴシップ記事のベテラン女優が少年を売春していた事件を思い出して告げたものだったが琢磨は自分と関係の有る女優の事を当て擦られたのだ、そう感じ取ったのだった。
「…喧嘩を売っているのか七草。」
「先に喧嘩を売ってきたのは七宝、あんたでしょ?それに言わなかったっけ。二度と喧嘩を売りたい、って思いたくないほどに安く買い叩いてあげるって。」
もう二人は我慢の限界であった。
にらみ合う香澄と琢磨は共に袖口に右手を当ててCADを剥き出していて臨戦態勢であり理性のラインを既に
「そこの二人!何をしている!」
「二人とも!手を下ろしなさい」
だが二人がまさにCADを操作しようとしていたその瞬間に背後から二人の制止する声が轟いた。
香澄の背後では女子生徒、琢磨の背後には男子生徒が。
有る意味でここが分水嶺であった。
琢磨は左袖を捲りながら振り返り。
香澄は左袖を下ろして振り返る。
琢磨の視界の中で、見覚えの有る上級生の先輩が険しい顔を浮かべながら左の懐に右手を差し出している。
ショルダーホルスターに入れたCADを引き抜こうとしていたのを琢磨をそう判断した。
反射的に琢磨は上級生に対して反撃を行おうとした。
既に琢磨はCADの操作に入っており対する上級生はホルスターから拳銃タイプのCADを引き抜く動作中なので「勝った」…と勝ち誇ったその瞬間。
「がぁっ…!?」
体を激しく揺さぶられて脳震盪を起こして眩暈を起こして両膝を地面に着いた。
魔法の発動兆候を感じ取って背後の女子生徒の方に向いていた香澄は振り返る。
例え自分に向けられた戦闘魔法ではないとしても無視することは出来なかった。
七宝と風紀委員会の森崎先輩、と認識すると魔法が発動した。
CADの操作に入っていたのは琢磨の方が魔法の発動は早い筈だったが先んじたのは森崎の魔法だった。
「ドロウレス…。」
”抜かずに、狙いを付ける”という森崎駿が得意とする『クイックドロウ』と呼ばれる技巧でありそれを香澄は目の当たりにするとは思わなかった。
実際に香澄は森崎を過小評価していた。
兄と比べれば想子量は少なく事象干渉と魔法式の展開速度も平凡なものでしかない。
展開スピードは目を見張るものがあったがそれだけだった、が実際にその”技巧”を目の当たりにしたことで認識が変わった。
魔法師は生まれ持った魔法力が変わることがない。
だが、その磨かれた”技巧”をさも当たり前のように使用せしめた森崎、上級生に対して敬意を抱いた。
(やっぱり先輩は凄いな…僕ももっと頑張っておにぃみたいな魔法師にならないと…!)
心の中で拳を握りしめ決意を固めた香澄、「イイハナシダッタナー」とはならなかった。
「香澄」
後ろから抑揚に乏しい声を掛けられてビックリする香澄は後ろをゆっくりと振り返ると同じく兄へ好意を持っている先輩達の中では一番親しみと敬意を持って接している雫が此方を見ていた。
「し、雫さん…。」
決まりの悪そうな表情を浮かべる香澄に雫はムスッとした表情を浮かべていた。
流れ的にはほとんど一緒。
八幡が七草家に関係しているので評価されるのと七宝が敵視を強めるのが高まる。
八幡がエリカの実家の騒動に巻き込まれるの確定…カワイソス。
まぁ八幡がエリカを口説くようなことを言うのがいけないので責任は取るべきですよね(迫真)
そして原作通りの森崎くんは普通にかっこいいですね(ドロウレスシーンをアニメで見て森崎やるやん!となった。)
この作品だと七草姉妹(香澄、泉美、小町)は雫に懐いている。
香澄と泉美は深雪、ほのかを敵視している(一部を見ながら。)エリカとは普通ぐらい。