俺が七草の養子なのは間違っている   作:萩月輝夜

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誇りをかけて

香澄と七宝が言い争いをして魔法の不許可使用に発展し当直の風紀委員に本部へと連行された、という話を俺は本日の業務が終了し本部へ帰投した際に告げられ宇宙猫の表情になったが俺は悪くないだろう。

 

新学期早々なにしてんの香澄ちゃん…?

 

俺は風紀委員会本部へ入るとそこに問題を起こした香澄と七宝が立たせられ針の筵状態を味わっている状態だったが一旦無視して俺は千代田先輩に一礼した。

見渡すと部活連の服部先輩に執行部を代表して十三束に生徒会の達也に深雪…そして風紀副委員長として俺…という有る意味でこの学校に置ける要職についている人間がこの場に一堂に会していることになる。

 

「……。」

 

俺が入室してきたことに香澄が気がつきそこ気まずそうな表情を浮かべていた。

声を掛けるべきなんだろうが一応香澄は”容疑者”という立場なのでこの段階では擁護できず克つ七宝もいるので下手に声を掛けられなかった。

心の中で香澄に謝罪しつつ事の発端を着席した隣に座っている雫に問いかける。

 

「一体何があったんだ…?」

 

「それはね八幡…。」

 

雫は非番だったがたまたま通りかかったので止めに入ったらしいが香澄と七宝が魔法の不正利用を仕掛けていた、ということで同時に七宝を取り押さえた森崎と一緒にこの場に連れてきた、というのが今の惨状らしい。

まぁ、雫もそうなった原因は分からないとのことなので本人達からその告げて貰おうと思ったのだが…。

 

「香澄…風紀委員会であるあんたが一体何をしてるのよ…しかも見回り中に…。」

 

千代田先輩が呆れた、というか疲れた表情で香澄に問いかけるとバツの悪そうな表情を浮かべている。

 

「七宝、魔法の不許可使用は重大な校則違反だと知っていただろう?それに止めに入った風紀委員の森崎くんに攻撃を仕掛けるだなんて。」

 

十三束にそう言われた七宝は顔を強張らせながら正面に顔を固定し聞いていた。

 

「それよりも先にこうなった事情を当事者に確認するのが先決だと思うんだが…。」

 

服部先輩の正論に吐き出さないとやっていられない、と言わんばかりの顔を浮かべている千代田先輩が不機嫌な顔で頷いた。

 

「そうね…新入生部活勧誘週間が無事に終わったと思ったら面倒くさいことを…。」

 

行儀よく頭を下に向けて掻いていた千代田先輩は顔を上げて鋭い目付きで香澄と七宝を睨み付ける。

 

「最初に言っておくわ。香澄、あんたも未遂だからね?退学にならないにしても停学の可能性がある。七宝はCAD操作、それに風紀委員への攻撃未遂、最悪退学よ?」

 

千代田先輩の宣言は無慈悲ではあったがそれが妥当な判断であった。

”退学”という二文字は七宝に自分が仕出かした出来事を再認識させるには重すぎる言葉でその場で崩れ落ちなかったのは彼のプライドがそうさせたのかは分からないが力を四肢にいれて踏ん張っていたのが感じ取れた。

 

「それを念頭に嘘偽り無く喋りなさい。一体何が原因でこんなことになったのかを。」

 

「七宝君が私達…七草家を侮辱してきたんです。」

 

「七草から許しがたい侮辱を受けました。」

 

それぞれに千代田先輩が香澄、七宝と視線を動かし説明をするように促したが両者ともに同じ無いようだった。

しかし、香澄は”家族”が侮辱された、ね…。

 

俺がそう思って香澄を見ると俺と目があって香澄は何か言いたそうにしてた。

 

だが、俺はゆっくりと頷いて落ち着かせることを優先する。

この状態で香澄に近寄れば良い影響を与えないと判断したからだ。

俺は香澄を援護しなくてはならないわけだが事の真相を知る前に肩入れするのは俺の家名と肩書きが許してくれない。

 

「はぁ…ねぇ服部?この落としどころどうすれば言いと思う?」

 

「七宝は部活連の身内だ。俺には公正な判断をする自信がない。」

 

「それを言うなら香澄だって風紀委員会の身内よ?」

 

「だったら第三者である生徒会に判断を下して貰う。そのためにここに司波と司波さんを呼んだんだからな。」

 

成る程、だから生徒会役員がこの場にいるのか。

そんなのんきなことを考えていると達也が動き出した。

あからさまに「面倒ごとに巻き込まれたな」と言った表情を浮かべていたので問題を起こした香澄の変わりに頭を下げると深雪が目視で「大丈夫です」と反応を見せてくれた。

 

達也の提示したこの事態を収集する解決案を提示したが脳筋だった。

 

「二人で試合をさせれば良いのではないでしょうか?」

 

服部先輩の眉が動き千代田先輩は驚きの声を上げていた。

 

「えっ?つまりは二人を見逃すということ?」

 

「話し合いで解決できないのであれば実力で決める。前風紀委員長がそれが当校で推奨されているものだとお伺いしましたが?」

 

達也の脳筋発言…「貴様に決闘を申し込む」ってここは決闘者の溜まり場じゃねーんだけど?と俺が思っていると達也がまさか前時代的なことを言うとは思わずと十三束も驚いていた。

まぁ委員長と会頭である両二名の先輩達は「成る程…」と納得していたが…あんた達やっぱり戦闘民族なのでは?

 

「魔法の無断使用は重大な校則違反ですが、未遂の生徒を処分する必要はないでしょう。新入生がそう言ったことを起こすのはよくあることでしょう。」

 

そう達也が告げると森崎がバツの悪そうな表情を浮かべていたのを見逃さなかったが無視することにした。

 

「お互いの”誇り”がかかっているのなら実力で白黒はっきりつけておいた方が後々の遺恨を残さずに済むと思いましたが。」

 

「成る程…あたしは副会長の意見に賛成よ。服部あんたは?」

 

「俺も異存はない。司波、済まないが手続きを頼まれてくれるか?」

 

「了解です。」

 

達也は両トップからの承認を受けて中条先輩に”あれ”の使用許可を取りに生徒会室へ戻ろうと立ち上がったそのときだった。

 

「司波先輩。」

 

「何だ七宝。この判断に不服か?」

 

咎めたのは十三束だった。

 

「いえ!七草との試合をお許しいただけるのならひとつお願いがあります。」

 

「言ってみなさい。」

 

条件を付けられる立場に無いことは琢磨は分かっていたが千代田先輩は何を言い出すのかが気になって促した。

その内容に思わず俺は眉をひそめざるえなかった。

 

「相手は七草香澄だけでなく、七草香澄、七草泉美の二人にしてください。」

 

「七宝、あんた私のことをバカにしてるの?」

 

香澄の言い分ももちろんだった。憤る香澄を目線で制した千代田先輩と達也が七宝に続きを促す。

 

「理由は?」

 

「これは七宝家と七草家の誇りを掛けた戦いです。それに『七草の双子は二人揃ってこそ真価を発揮する』というのはよく知られた話です。」

 

「だからこそその二人を同時に相手にして勝たなければ真の勝利に至らないと?」

 

「その通りです。」

 

そう言った七宝を一瞥した後に達也は香澄に向かい合う。

 

「七宝はああ言っているが七草はそれでも構わないか?」

 

「構いません。その思い上がりに後悔させてやります。」

 

強い口調できっぱりと言いきった香澄に苦笑して達也は頷いた。

 

「では、そのように」

 

「俺も泉美に話を通してくるので一緒についていきます。」

 

そう言って達也と俺は風紀委員会と生徒会が繋がっている階段を上っていった。

 

◆ ◆ ◆

 

「…というわけなので香澄ちゃんと一緒に七宝と試合してくれ泉美。」

 

「成る程…しかしお兄様どうしてそうなったのでしょうか?」

 

一緒に生徒会室に向かい達也が中条先輩から承認印を貰っている最中に俺は仕事をしている泉美と小町に声を掛けたが唐突な”試合”に対して苦笑いを浮かべていた。

 

「詳しい事情を聞いちゃいないけど…『”家族”をバカにされた』としか聞いてないからな。」

 

「そうだったんですね…一体七宝君は何を言ったのでしょうか?」

 

「…っ」

 

一瞬だけ小町の表情が曇ったのが気になったが。

 

「小町?」

 

「…ああうん。何でもないよ?しかし問題を起こしそうだな、って思ったけどまさか本当に起こすとは思わなかったよ。」

 

「というと?」

 

小町の発言に俺と泉美は耳を傾ける。

 

「今日の七宝君大分荒れてたみたいだったんだ…今日、というか昨日の実験でローゼン支社長がお兄ちゃん達の実験を誉めてたりクラスの子達が実験に参加した人達…まぁ私たちやお兄ちゃんを持て囃すような声が気に食わなかったのかもね。」

 

「成る程な。」

 

「そうだったんですか…。」

 

「まぁ七宝君も男の子だし認めて貰いたい年頃なのかもよ?特に七草には同性のお兄ちゃんがいるしね。そこが彼には妬ましい、って思うところなのかも。」

 

ある意味有力な情報だと思った。

七宝琢磨が俺たち(七草家)を敵視している、いやされていると言った方が正しいかもしれない。

実際に俺も顔合わせの際に敵視されたり直近では新入生部活勧誘週間の際に香澄と魔法の不正使用を仕掛けた実績があったのを思い出していた。

 

しかし疑問に思うところもある。

 

「だがそれだけで今回の魔法不正使用まで発展するか?よっぽど互いに触れられたくないところを突かれたか…どっちか分からないがまぁ今回の件で白黒付けて貰うか。巻き込むような形になったが…泉美ごめんな。」

 

頭を撫でながら謝罪すると気持ち良さそうに目を細めながら感嘆を吐いていた

 

「ふぁ…むふ………いいえ。お兄様が謝ることではございません。それに香澄ちゃんが言っていた『家族をバカにされた』というのは私にとっても無視できることでは御座いませんので…それに」

 

と言葉を切ってまるで知り合いの美少女のような素晴らしい笑みで告げた。

 

「お兄様をバカにするような言葉を投げた、となれば私も七宝君という愚か者を分からせねばなりませんので。」

 

「…頼むからやり過ぎるなよ?」

 

「はいもちろんです。お兄様♪」

 

妹達とのやり取りをしていると達也が中条先輩から承認印を貰ってほのかが解錠キーを持ち深雪がついてくる形になった。

 

中条先輩からは。

 

「怪我の無いようにお願いしますね。」

 

釘を刺されたので「大丈夫です」と告げて俺たちは再び風紀委員会室へ向かう。

 

「しかし、大丈夫なのか八幡?」

 

「あ?いきなりどうした?」

 

「お前の妹さん達が完全なとばっちりでこの試合を提案…まぁ俺が全て丸く治めるにはこれが良いと提案した手前言いづらいんだが…。」

 

「大丈夫だ。今回の件で白黒つければこんな時間の無駄な…っとこれは七宝に悪いか。」

 

口をつぐむ俺を見て達也は意外そうに呟いた。

 

「?どうして香澄さん達の肩を持たないんだ?お前からしてみれば七宝はお前の妹を扱き下ろした形になるんだぞ?」

 

「思い込み、ってのは極端に人間の視界を狭める。だからこそ双方が思っていることを吐き出さないと意味がないからな。特に俺は七宝に敵視されてる香澄の兄貴だ。俺が何を言ったところで聞きやしない。なら物理で分かりあいをして貰うだけだ。香澄と泉美には貧乏くじを引いて貰うことになるけどな。」

 

「成る程な。」

 

「まぁそれでも納得いかないってなるんなら…。」

 

「…。」

 

このときの俺は能面のような表情をしていただろう。

七宝の発言した台詞を考えるのならそれは俺にとっても最大級の”侮辱”に他ならない。

が、それを決着つけるのは俺ではなく本当の意味での”七草”である香澄達が決着をつけるべきだと冷静になって風紀委員会室へ続く階段を降りていった。

 

◆ ◆ ◆

 

第二演習場に移動した決闘と言う名の試合の当事者である七宝、それに対峙するように香澄、泉美が立つ。

越してみると○ケモンバトルのフィールドみたいだな…と話は逸れたがこの場には三人以外に審判として生徒会副会長の達也と立会人の深雪と風紀委員会委員長代理として俺、そして部活連からは代理の十三束と風紀委員会からは森崎の変わりに雫、解錠キーの預かり人としてほのか、そしてついてきた小町がこの場八人が集結していた。

 

正直に言ってこの戦いで七草家(七草兄妹)が得られるものはないだろうと、そう八幡は思った。

香澄も泉美、そして八幡と小町は世間的な地位や名誉に対して興味がない、いや言いすぎかもしれないが”関心が薄い”と言った方が正しいかもしれないだろう。

俺に至っては「関わりたくない」と言うのが大きいだろうがそれは置いておこう。

 

香澄と泉美は褒められるのが大好きであり舐められる・侮られると言うのが大嫌いであり元々の性質なので今回の決闘を承諾したのも香澄も泉美も”面倒くさいことからの解放”が一致で優先されていた。

が、それ以上に香澄にとってはあとで聞いた話だが俺が貶された事への怒りが上回っていたからで「二度とそんなことが言えないように叩き潰す」そう決意し琢磨の前に立ちふさがった。

 

 

第二演習場は一年前に達也、八幡がそれぞれに服部、十文字と戦った場所よりも縦に長い。

区画は色分けされていて青のエリアに琢磨、黄色のエリアに香澄と泉美が立つ。

 

両者ともに準備を進め琢磨は制服の状態で分厚いハードカバーの本を抱えていて対する香澄と泉美は動きやすい実習服に着替えており手と顔以外はすっぽりと覆われた長袖長ズボンの一体型のツナギを着用していた。

これは野外実習の際にCADホルダーを兼ねた袖無し上着を本来は羽織るのだが動きやすさを広げるために着用をしていないので元々体にフィットするように作られた女子用の作業着は香澄達のほっそりとした、それでいて出るとこは出てる体のラインがくっきりと浮き出ており目のやり場に困っていたのは十三束だけだった。

 

「この試合、ノータッチルールで行うことにする。」

 

区画分けされた丁度中間位置のラインに審判役の達也が立ち宣言する。

これ以外に一年前に摩利に告げられたことと同じようなルールを説明する。

 

「致死性の攻撃、治癒不能な怪我を負わせるような攻撃は禁止とする。危険だと判断した場合は強制的に試合を中止するつもりだからそのつもりで。」

 

琢磨が一瞬鼻で笑うような素振りを見せたのは「止められるものなら止めてみろ」という侮りの反応だったがそんな幼稚な反応にいちいち苛立ちを見せる上級生はここにはいなかった。

 

本当に”それが出来る人物がそう告げている”のだから。

 

「では、双方構え!」

 

琢磨、香澄、泉美がそれぞれの位置について達也もラインから下がった。

双方が位置についたのを確認すると達也は上から勢いよく腕を振り下ろす。

 

それが合図となって想子の光が煌めいて、魔法が発動した。

 

魔法を打ち合うのは琢磨と香澄であり領域干渉を使用し防御に専念しているのは泉美だった。

防御を任せ攻撃に専念できる香澄の方が有利だった。

 

香澄は移動系魔法を使用し七宝を場外に押し出そうと空気の塊をぶつけたり七宝を本人を対象をして戦って”場外勝ち”を狙っていた。

一方の七宝は香澄、泉美どちらかを戦闘不能し『七草の双子は二人揃ってこそ真価を発揮する』というのが念頭に有るのかどちらかを無力化するために情報強化、物理障壁を展開し防御、隙を見て振動系統をぶつけていた。

しかし攻撃は泉美の領域干渉に阻まれ自覚し空気圧縮弾を作り出し打ち出すがそれも領域干渉に阻まれ中々決定打に至ってはいなかった。

 

「八幡、どう思う?」

 

雫が八幡に問いかけてきた。

 

「どう…って何が?」

 

「試合。」

 

「ああ…そうだな泉美が防御を担当…香澄が攻撃担当のツーマンセル…圧倒的に七宝が不利だが…よくやってるな。互角…って言っても良いかも。」

 

「意外…てっきり『香澄ちゃん達が有利』って言うもんだと…でも八幡だったらこの試合運びどうする?接触禁止ルールでだけど。」

 

「俺だったらどうするか…か。」

 

雫にそう問いかけられ考えた。

八幡の使う魔法はほとんどが相手を”殺傷できる魔法”である…となると必然的に取れる手段は限られる。

 

「俺だったら領域干渉しながら迫ってくる魔法全部無力化して死角からタイミングずらしのエアブリット、ドライ・ブリザード、『グラビティ・バレット』とかだろうな後は低威力の『雷電波動』とかか?」

 

「うん、八幡の場合手数が多いから私でも戦いたくない。それと干渉力高すぎて抜けないと思う。」

 

表情が明らかに嫌そうなものになっている雫を見て苦笑いを浮かべている。

どれもこれも一級品の威力が有るものばかりであり手加減もバッチリな魔法だった。

 

そんな会話をしていると状況が動いた。

 

琢磨の背後から八幡が香澄に教えた『風槌』のアレンジである『風撃鉄槌(ストライク・エア)』が襲いかかる。

 

これは加重魔法による円筒を作り出しそこに空気を貯めて吐き出す部分を蓋をして後ろから重力槌によって”叩き出し”発射するという編猗解放の応用…というより簡単に言ってしまえば”めちゃくちゃ威力のある空気砲”という。

これの利便性は簡単な行程で且つ相手をノックダウン出来るほどの威力がある、ということだ。

 

琢磨は咄嗟に『拡散』を用いて無力化するが発動を無力化したわけではないので圧縮された空気が琢磨の背中を押して体勢を崩ずしかけた形と意識が飛びそうになっていたが食い縛り攻撃のために発動していた『エアブリット』の照準がずれて泉美の前に着弾した。

が、その着弾した空気弾は思わぬ突風を巻き起こし泉美の足元を掬い短い悲鳴を上げて体勢を崩すことに偶然的に成功していた。

その光景に琢磨は自分の誤解に気がついて領域干渉で無力化されていたのは空気の圧縮と継続だけで運動エネルギーは打ち消されていないということに。

その事に気がついた琢磨は有効打を与えられる攻撃方法を編み出す。

 

自信の前に六つの空気塊を編み出してほとんどタイムロス無しで打ち出した。

郡体制御を得意とする七宝家の嫡男として造作もないことだった。

 

連続発射された空気圧の塊が泉美の領域干渉によって魔法によって結束は解かれ霧散する、が次に到達した空気塊は霧散せずに押し込まれたその結果空気弾は密度をまして泉美へ襲いかかる。

 

「きゃっ!」

 

「泉美!」

 

泉美の悲鳴は空気圧の衝撃によるものではなく香澄が自身に掛けた移動系魔法による後押しによるものだった。

加速プロセスを無視した移動魔法は肉体に負荷を掛ける。

倒れ込んだ双子を見た琢磨はチャンスだ、と思い胸の前で手を叩いた。

琢磨はCAD無しでも魔法を扱うことが出来るため手を叩いた音を音響増幅させて今度は香澄に向けて放たれた。

距離はありまだ泉美の干渉領域は生きていて多少の拡散をしてはしまうが至近距離で『閃光手榴弾』と同程度の音響爆発が香澄に襲いかかり意識を刈り取るには十分な威力だった筈だがそれは体勢を建て直す前に発動した真空断層によって阻まれた。

 

真空断層によって阻まれた空気…音響攻撃が無力化されたが突風を巻き起こして香澄と泉美の御髪は凄まじいことになっていたが二人とも首を振って整える。

 

「香澄ちゃん大丈夫ですか?」

 

泉美は香澄に覆い被されながら問いかけると

 

「サンキュ、泉美さっきのは危なかったね。」

 

香澄は立ち上がると同時に手を引いて泉美を立ち上がらせる。

この間にも琢磨の攻撃を受けていたが香澄が物理障壁と泉美の領域干渉で交互に防御していたからだった。

しかし、二人の前に焦りは見られない。

むしろその表情にはやる気が満ち溢れていた。

 

「僕たち七宝を舐めていたみたいだ。」

 

「舐めていた、というのは言いすぎですが…少し過小評価していたみたいですね。」

 

「一緒じゃないか…でもこのままじゃジリ貧だよ。だけどおにぃみたいに上手く行かないや。」

 

「そうですね…お兄様のように上手く行かないものですが…でもこのまま負けるつもりはないのでしょう?」

 

「勿論!泉美、あれやるよ!」

 

「ええ。香澄ちゃんいつものように。」

 

「ボクがブースト」

 

「わたしがシュート。」

 

互いに向き合い頷いてカウントダウンの場面で琢磨を見据える。

 

「スリー」「ツー」「ワン」

 

「「キャスト!!」」

 

七草の双子は掛け声を合わせ発動した魔法は琢磨へ襲いかかり先程の魔法とは比べ物に成らない程の威力となって襲い掛かった。

 

(これは…!?窒素の成分が片寄っている…!)

 

咄嗟に発動したシールドを展開しながら息苦しさを覚えた琢磨は左右上下に激しい風に襲われていた。

琢磨を襲っている風の正体は収束・移動系複合魔法である『窒素乱流(ナイトロゲン・ストーム)』と呼ばれる高度な魔法だった。

これほどの上級魔法を前にして琢磨は自らの”切り札”を切る決意を決した。

 

「香澄と泉美…『窒素乱流(ナイトロゲン・ストーム)』を使ったか…まぁ妥当かな。」

 

「これ程の上級魔法を使いこなせるだなんて流石は八幡さんの妹さん達ですね。」

 

八幡の隣に来ていた深雪が驚いた、と言わんばかりに口元に手を当てていた。

 

「いや、使いこなせてるって訳じゃないよ。本当の威力なら既に七宝は低酸素状態で昏睡してる。」

 

「加減をしている、と言うわけではなくてですか?」

 

「まぁそうとも言えなくもない…か?使い勝手で言うなら姉さんの『ドライ・ミーティア』の方が良いけどあれは二酸化炭素を集めなきゃなんないしそれに引き換え『窒素乱流』はその集めるのと気流操作の二つを行わないと行けないし術の難易度で行ったら後者の方がムズい。だからこそ役割を分担しているから粗が目立つんだよ。」

 

「ですが…このレベルの魔法をお目にかかるのは滅多にないことです。もう少しお褒めに成られてもバチは当たらないと思いますが…。」

 

八幡の評価が思いの外辛口だったのが意外だったのか深雪が香澄達をフォローする台詞を告げたが八幡の目は評価する者の目だった。

それを達也はフォローするつもりで言ったわけではなかった結果としてフォローする形になった。

 

「だがこれが乗積魔法(マルチプリケイティブ・キャスト)か…『七草の双子は二人揃ってこそ真価を発揮する』…と言われることだけはあるな。」

 

「それぞれの魔法精度が姉さんくらい正確になったら俺も正直手を焼くかもな…だが一人で俺を倒せないようじゃ正直まだまだ、だけどな。」

 

「妹さんに随分と辛辣ですね八幡さん♪」

 

「そうか?」

 

試合をみながら辛辣な感想を述べている八幡に司波兄妹は苦笑した。

 

八幡が用いる『二重魔法(デュアル・キャスト)』とはまた違って”重ね掛け”出来ることそして”一人では難しい魔法を二人でならば発動できる”という利点がある。

本来であれば”双子であっても魔法演算領域が一緒である”というのはあり得ないことでこれは七草の双子がもつ特異技能であった。

 

…しかしその技能に近いモノを七草家ではない第八研究所出身である元”八”の人間である八幡が使えていることに疑問をもつ、浮かべるものは誰もいない。

”八幡だから”という理由で納得されていたからだ。

 

それはさておき。

 

一方では窒素の暴風に曝されながらも踏ん張っていた琢磨は片ひざをついて抱えていた一冊のハードカバー構えてバサバサ、と勢いよく開かれはためき再び閉じる。

するとハードカバーのページ全てが飛び散り紙吹雪の如く舞い上がった。

 

百万を越える紙片が逆風に逆らい七草の双子へ襲いかかる。

普通であれば暴風に曝されれば紙のような重量物でないものは吹き飛ばされる筈だがそうではなかった。

琢磨が撒き散らした紙吹雪は只の紙吹雪ではなくガラスのように硬質化している。

この魔法に対峙している香澄と泉美、審判を受け持っている達也、深雪、そして八幡と小町はこの魔法を知っている。

 

「行けっ!『ミリオン・エッジ』!」

 

七宝家の切り札である「ミリオン・エッジ」が切られた。

襲いかかる千の叢雲の刃を迎撃するために双子は『窒素乱流』を操りながら別の魔法を繰り出した。

 

「「『熱乱流(ヒートストーム)』!!」」

 

酸素を含む空気を他方向からぶつけて断熱圧縮により紙片を燃やす熱風を作りだす「熱乱流(ヒートストーム)」を発動した。

 

七草の双子が発動した魔法は琢磨に呼吸を許さず迫り来る紙片を燃やし尽くそうと熱風を浴びせ。

七宝の嫡男が発動した魔法は紙の発火点を越えて燃えながら敵を切り裂く刃と化して襲いかかる。

 

このまま行けば琢磨は低酸素状態に陥り香澄と泉美は燃やし尽くすことが出来ない刃を浴びて無数の切り傷を負う。

後者はそのうら若き乙女の柔肌に消せない傷跡を残すことになる。

その光景を見た関係各位、八幡と小町はただただ冷静に見守っていた。

その拮抗が破られ互いにダメージが行く前に第二演習場に達也の声が木霊した。

 

「そこまでだ!」

 

達也が右手をつきだした手に握られた『シルバーホーン』が絡み合っていた三つの魔法式を《キャスト・ブレイク》し演習場に想子の本流と紙吹雪が舞い散った。

 

「双方この試合、失格とする。」

 

「それはどう言うことですか司波先輩。」

 

自身達の魔法が掻き消されたことでフリーズしていた一年生達だったがようやく「達也によって魔法を中断させられた」という事実に気がついて香澄が問いかけた。

 

「試合前にも言った筈だ。致死性の攻撃に治癒不能な攻撃は禁止、危険だと判断した場合は即刻中断すると。」

 

「ではどのような結果になるのでしょうか?」

 

今度は泉美が達也に問いかける。

 

「双方失格、つまりは両者の負けだ。」

 

引き分けではなく両者痛み分けの負け…というモノだった。

 

「七宝君の『ミリオン・エッジ』はともかく私達の『窒素乱流』は致死性の魔法でも後遺症が残る魔法でもありません。」

 

それに対して泉美が達也に弁明するが端的に言うと「七宝君は危険な魔法を使ったので反則敗けでは?」という内容だったのを聞いた七宝が食って掛かろうとしたがその前に達也に断りを入れて八幡が割って妹達に言い聞かせるように説明した。

その方が納得するだろうと思ってだった。

 

「達也すまんが…確かに『窒素乱流』は相手に後遺症を残さないレベルで発動できる事も出来る。だけどな泉美、香澄?さっきの魔法の撃ち合いで”七宝程の相手にその余裕はなかった”。そうだな?」

 

八幡にそう問いかけられ泉美と香澄は口ごもった。

 

「うぐっ……。」

 

「うっ………。」

 

その反応が何よりの証拠だった。

 

「そんなことはありませんでした!」

 

双子とは逆に今度は琢磨が達也に食って掛かる。

 

「そうなる前に決着はついていました!」

 

ムッとする香澄を八幡は手で制して食って掛かる琢磨とその様子を興味深そうに見ている達也。

その反応に面白そうなものを見る様子で瞳の奥が光った。

 

「自分の勝ち、そう言いたいのだな?」

 

「そうです。七草の『熱乱流』の前では自分の『ミリオン・エッジ』を止めることは出来ませんでした。『窒素乱流』が俺の気密シールドを破る前に俺の攻撃が届いていました!」

 

達也の視線が冷ややかさに加えて皮肉さが混じる。

 

「つまり俺が中断させなければ熱を纏った紙片の刃がうら若き乙女の柔肌を蹂躙した筈だ、とお前はそう主張したいのだな?」

 

達也のずいぶんとポエミーな琢磨の主張に対して失笑と鼻で笑う七草兄妹。

その反応を見た琢磨はみるみると顔が真っ赤に染まっていく。

が、それは自らの魔法の威力が高いことの証明に他ならない。

 

「ならば七宝。お前の反則負けだ。」

 

冷たいまでの言霊が白熱した琢磨に冷や水が如くぶつけられる。

 

「『ミリオン・エッジ』を浴びせればどんな結果になるかを知らないとは言わせない。」

 

その後達也による冷静な第三者視点からの指摘に琢磨もエキサイトしていく。

琢磨は”七草が使った魔法には殺傷力がある魔法はなかった”と吠えるが達也からしてみれば七草姉妹が使用した『窒素乱流』も十分な破壊力をもつ魔法であったが十分にコントロールを出来ていたことはわかっていたのを説明するが納得が出来ていない。

 

まるで水掛け論のようになっていき最終的に琢磨は失言をしてしまう。

 

雑草(ウィード)のあんたに言われたくない!!」

 

室内がシン…と静まりかえっていくのがわかる。

真っ赤だった琢磨の顔色は青ざめていくのは自分が失言をしたと理解したからであり達也の側にいた深雪がブリザードを引き起こしこの部屋が氷漬けになる前に達也が口を開いて回避した。

 

「俺に言われるのは不服か?」

 

そう問われ琢磨は自分の失言を挽回すべく頭をフル回転させたが出てくる言葉は支離滅裂でこの場にいる特に琢磨側の味方である十三束もほとほとに呆れる他なかった。

 

「もう良いよ七宝。」

 

白けた声が琢磨の耳に入る。その声は香澄の口から放たれており本当に「どうでも良い」と言う感情が乗せられている。

 

「そこまで負けたくないんだったらさ…もう七宝の勝ちで良いよ。」

 

「しかしそれは本当に…良いんですか香澄ちゃん?」

 

そう問いかけたのは泉美だった。

 

「うん。さっきのもよくよく考えてみたら試合で『乗積魔法』や『窒素乱流』に『熱乱流』のマルチキャストだなんてどう見てもやり過ぎ…司波先輩やおにぃ…じゃなかった兄さんの言うとおりだよ。”制御できない魔法なんて危険以外の何物でもない”もの。」

 

香澄的には兄と姉妹への暴言を許すことは出来なかったがこれ以上自分達の魔法の未熟さを指摘され兄の顔に泥を塗ることは許されなかった。

 

「香澄ちゃんがそう言うのでしたら従いますよ。」

 

それは泉美も同じだったようでその言い分を受け入れた。

敬愛、そして師である兄の顔へ泥を塗ることは許されなかった。

香澄は泉美を見た後に八幡を一瞥し達也へ向かい合った。

 

「司波先輩、深雪先輩もご迷惑をおかけしました。」

 

香澄が謝罪すると同時に泉美も頭を下げる。

その光景を琢磨は喉まででかかった罵声を食い縛るように全身に力を漲らせた。

謝罪した二人は実習室の壁面…八幡と小町のいる場所へ戻っていく。

 

「ごめんなさい。おにぃ…無様な試合になっちゃった。」

 

「申し訳ございませんお兄様…。」

 

悄気る二人に八幡は頭の上に手を置いて撫で始める。

二人は気持ち良さそうに目を細めていた。

 

「まぁ七宝の『ミリオン・エッジ』に対抗するには二人の力を合わせる必要があったからな…『乗積魔法』の解放を踏み切ったのは英断だったな。だがもう少し魔法の精度を上げれば上級魔法を使わなくても抑えられてたな。」

 

「うん…もっと精進するよ。頑張らなきゃだね泉美」

 

「はい。頑張りましょうね香澄ちゃん。」

 

「二人ともやっぱ流石だねー。小町じゃあんなの真似っこできないよ。ウチって規格外しかいないわけ?」

 

小町がそう言うとジト目になった双子が呆れたように呟いた。

 

「真似っこできない…って小町も規格外じゃない。ボクたちじゃ真似できない技能を持ってるし。」

 

「七草の兄妹に普通な人はいませんよ香澄ちゃん。それを言うならお兄様は超規格外ですよ?」

 

「俺に急に飛び火したんだが…?それよりも香澄?お前はもうちょっと冷静に物事を見ような?」

 

「うぐっ…ごめんなさい…。」

 

唐突に誉められ困惑する八幡を他所に会話する七草姉妹達はそんな兄の様子を見て嬉しそうな表情を浮かべているのは兄を尊敬しているし敬愛しているからだった。

と、唐突に釘を刺された香澄はしょんぼりしたが八幡から頭を撫でられて機嫌がすぐ良くなった。

 

そんな家族間での会話をしていると唐突に打撃音が室内に響く。

何事か、とそう思い振り返る八幡の目の前には達也の前にいた筈の琢磨が倒れていた。

隣には先程までいなかった十三束が立っており拳を振り抜いているのが見えたので彼が殴り飛ばしたのだろうと判断した。

先程までの穏和な表情は何処へやらと言った感じであり女顔の十三束の表情は怒りに満ちていた。

 

「さっきから聞いていれば独り善がりで無礼千万な事ばかり…何様のつもりだお前は!二十八家がそんなに偉いとでも言うつもりか!」

 

「俺は…そんなつもりじゃ…。」

 

殴られ上体を起こしただけの琢磨はまさか自分が十三束に殴られるとは思っていなかったのか放心状態であった。

 

「七宝。お前の実力を証明したいと言うのなら僕が付き合ってやる!それでは僕が相手では不満か?百家・十三束の出来損ない『レンジ・ゼロ』が相手になってやる。」

 

今にも決闘に移行しそうだったが深雪が冷ややかな声で制止した。

結果として琢磨は二日後に十三束と決闘をする、と言う流れになったのだった。

その光景を見て八幡はぼそり、と呟いた。

 

「何か嫌な予感するなぁ…」

 

そう思わずにはいられなかったようだ。




七宝と七草姉妹の戦い…一部オリ魔法出てます。
お兄様への暴言で殴ったのは十三束くんで変わらず。

七宝くんも八幡にたいしては侮っていますが達也ほどではないので失言の矛先は二十八家でない”一般家庭”、だと思っているので…。

構想だと「数字落ちの養子が俺に説教するな!」という言葉を八幡にぶつけてぶちギレた小町の拳が飛んできて戦う相手が琢磨対小町の予定でした。

小町は琢磨の【ミリオン・エッジ】を小町が何時もの優しい感じではなくなり自身に精神干渉系で自身の闘争心を高め瞳が紅蓮に染まって開いた手を握り【四獣拳】を用いて消し飛ばしたあとに接近して至近距離で放出系統で琢磨を分からせる…といった流れ。

ダブルセブン編ってあんまり謀略無い…七草メインで書いてますけど綺麗な七草家なんでどっちかというと悪事を潰す側に回っているので…。
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