俺が七草の養子なのは間違っている   作:萩月輝夜

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あんまり進まないっすね…。
日常回?です。


九校戦って厄ネタの宝庫なのでは?

俺は九島家本邸に訪れまさかの『物質構成(マテリアライザー)』を使う羽目になってしまったわけだがあの二人ならば大丈夫だろうと言う俺の柄にもなく他人を信じていることが以外だったが…まぁ大丈夫だろうと。

結局その後老師からこんなことを言われた。

 

「その魔法は弘一には言ってあるのかね?」

 

「いや伝えてないです。知られると余計な揉め事に巻き込みそうなので。」

 

「そうか…」

 

そう言って老師はなにか考え事をしていたが悪いことではないんだろうな、と直感がそう言っていた。

 

「私には国防軍の伝もある。困ったことがあったら言いなさい。」

 

「は、はぁ…ありがとうございます?」

 

「うむ。」

 

そして俺は光宣を助けたお陰で思わぬ”老師が俺に借りを作る”というとんでもないことになったが…これ何時使えば良いんだろうか…?

というかそんな権力怖すぎて使えないんだが。

 

一先ずそれは良いとして時節的には梅雨が明けての7月…そろそろ九校戦という面倒くさい学校行事の時期が1ヶ月後に迫っていた。

去年のように成績で選手選出をする運びとなるので俺は敢えて手を抜こうしたのだが……。

 

「《●》《●》おにぃ?」「《●》《●》お兄様?」「《●》《●》お兄ちゃん?」

 

と本来エメラルドのような綺麗な瞳であるのに関わらず漆黒の意思ならぬよりも黒い瞳で俺を見つめ何がなんでも成績優秀を修めないと許しませんからね?と圧を掛けられた。

そして小町からの《瞳》で見つめられお手上げ状態…。

 

お兄ちゃんだから妹のお願いを聞くしかないよね?仕方ないね?

そのため来週に行われる期末考査にたいして手抜き無しで受けなければならず俺の心は重く沈んだ。

そんな期末考査を一週間に控えたそんなある日、まさに”寝耳に水”な情報が入ってきていた。

 

◆ ◆ ◆

 

「九校戦の競技種目が変更になった?」

 

成績に余裕がある俺たちA組と達也達グループは何時ものように行きつけの喫茶店にて駄弁っていた。

ごち○さ民並みに喫茶店を利用しているが…とさておいてそれは達也達生徒会役員にとっても大事だった。

俺たちはその言葉を聞いて驚いた。

 

「ええ。開催要項を通達するのは例年1ヶ月前だったのですが…。」

 

深雪が言い淀んだので同じく生徒会に属する達也が説明した。

 

「ああ。別に今日通達するのは問題じゃない。その内容がな。」

 

「というと?」

 

「競技が変更になったんです…それも三種目。」

 

達也から言葉を引き継ぎ説明するとテーブルを囲む全員が呆気にとられていた。

 

「変更される種目はスピード・シューティング、バトルボード、クラウドボール。新たに入れ換えするのが【ロアー・アンド・ガンナー】、【シールド・ダウン】、そして【スティープル・チェースクロスカントリー】が新たに追加された。」

 

半数が入れ換えだった。

俺はその入れ換え競技の名前を聞いて疑問を浮かべたがその前に別の話題が差し込まれる。

 

「それを聞いた中条先輩はもう机で真っ白な灰になっておりましたね…。」

 

「ああ。先輩の事だ前もって準備していたのに梯子を外されたようなものだからなそのショックは計り知れないだろう。」

 

「ええ。お兄様あれは見ていてその…可愛そうでしたね。」

 

「それに追撃するように今回掛け持ち参加できるのが【スティープル・チェース・クロスカントリー】だけでな。その上【ロアー・アンド・ガンナー】【シールド・ダウン】【アイス・ピラーズ・ブレイク】はソロとペアに分かれているんだ。一番最初に言ったのは二年生以上は全員参加が可能だ。一年生はそれに入らない。」

 

「それはまた…悲惨だな。」

 

中条先輩は事前準備を確りと行って本番に備えるタイプだろうしな。

今回の通達…競技変更はその準備を全て”無”に還ってしまった。

なぜならば追加された競技が今まであった必要な魔法の種類が”全て異なる”と言っても良い。

選手選考も全て考え直さなければならなくなったのは絶望的だ。

 

「あの、お兄様?」

 

と俺の隣に座っている泉美が遠慮がちに問いかけてきた。

今回の俺のとなり争奪戦は泉美と雫が勝ち取ったらしい…なにその早いもの順は…。

 

「【ロアー・アンド・ガンナー】や【シールド・ダウン】、特に【スティープル・チェース・クロスカントリー】というのはどう言った競技なのでしょうか?」

 

ここにいる一年生…香澄、泉美、小町は恐らく九校戦のメンバーに選ばれるだろうし新人戦では香澄と泉美に小町は【ピラーズ・アイス・ブレイク】に参加するだろうし関係の無い競技だが興味本意で聞いてきたのだろう。

 

俺は知識として知っていたので前二つを簡潔に説明し【スティープル・チェース・クロスカントリー】を説明すると泉美以外も驚いていた。

 

「随分ハードな競技ですね…。」

 

泉美が漏らした感想に頷いて俺は眉をひそめた。

どれもかれもが”軍事関連”の競技だからだ。

 

「前二つはまぁ良いとして【スティープル・チェース・クロスカントリー】は高校生にやらせる競技じゃない。あれは山岳訓練とかで国防軍が行うものだからな運営委員会は一体なに考えてるんだ?」

 

そう告げると不安そうな表情を浮かべる比較的に大人しい女子生徒陣。

しかし例外はある。

 

「へぇ…シールド・ダウンなんて楽しそうじゃない。」

 

エリカの声色は心なしか弾んでいたような感じだった。

 

「えっ、そうかな…なんだか怖そう…。」

 

弾む声色で感想を述べるエリカに対して美月が控えめに反論を行う。

 

「うん。去年まではモノリスコードでも選手同士のぶつかり合いは少なかった筈なのに…。」

 

美月の台詞にほのかも同じことを思っていたのか頷いた。

 

「でも本当に危ないのは【スティープル・チェース・クロスカントリー】の方だと思う。」

 

「確かに道の無い森の中じゃただ歩くだけでも危険だぜ。それに銃座に魔法による妨害となりゃ怪我人が出るのは必須だな。」

 

「そうだね。山駆けは経験豊富な先導者が必要だ。不馴れな森の中でスピードをだそうだなんて無謀だよ。」

 

雫の言葉にレオと幹比古が補足するようなコメントを付け加えた。

誰が言ったか忘れたが”軍事色が強い”というのは確かにそうだった。

俺はその意見を聞いて考えを張り巡らす。

 

「お兄様?」

 

と隣にいる泉美がこちらを心配そうに覗き込んできたので頭を撫で返して考え事を中断、というか今ある上で”なぜこのような軍事色が強い競技内容になったのか”という非常に不本意な考えを告げる。

 

「恐らくは横浜事変の影響だろうな。あの一件で国防軍が魔法師の軍事的有用性を再確認したからその方面の教育内容の充実も求めた結果なんだろうが…。」

 

「どこかの誰かさんが大暴れした結果じゃない?」

 

「エリカちゃんっ」

 

「…ごめん。」

 

俺の考えにエリカが茶々を入れて美月が嗜める。

その「誰か」という茶々に香澄と泉美がムッとした表情を浮かべバツの悪そうな表情を浮かべ謝罪するエリカだったが俺は特になにも思わずに言葉を続ける。

 

「まぁエリカも失言が多いのはあれだが…まぁいいやそれにしたってこの世論的には反魔法勢力…国際情勢下でなんでそんな分かりやすい変更を行ったのか気になるな。そんな状況下なら九校戦を普通の娯楽物として扱えば良いのにそんな見世物でわざわざ”魔法師を軍事訓練しています”という方向にシフトした?」

 

俺がそう告げると全員が考え始めた。

 

「ともかく忙しくなりそうなのは既定路線らしいな…。」

 

達也の一言に俺は考えを巡らせ”猟犬”達を動かすことを決意した。

裏でそれぞれの思惑が絡み合っていることは容易に想像が出来た。

それに今回は妹達も本格的に九校戦に参加をすることになる。

去年は九校戦を賭博場に仕立て上げようとした組織のせいで滅茶苦茶にされかけ当の本人達には”代償”を払ってもらった訳だが…もし危害を加える気ならば…と俺はメガネ越しに瞳を黄金色に輝かせた。

 

◆ ◆ ◆

 

魔法科高校が競技変更によって困惑の渦に叩き込まれた翌日。

茨城にある国防陸軍一○一旅団司令官室では旅団長である佐伯広海少将は独立魔装大隊の隊長である風間玄信少佐を呼び出していた。

 

「風間少佐。今年度の九校戦の競技内容の一部が入れ換えられたのは知っていますか?」

 

「そのような動きがあるというのは知っていましたが…正式に変更されたのでありますか?」

 

「風間少佐にしては鈍いですね、昨日魔法科高校宛に運営委員会から要項の通達がありました。」

 

そう言って佐伯は風間の前に紙をクリップ留めした書類を差し出す。

わざわざ紙媒体で差し出しているのはネット経由で漏洩しないようにと佐伯本人のクセのようなものだった。

 

「拝見します。」

 

風間はそれを受けとり結構なスピードで捲り確認する。

指令室には紙を捲るだけの音が聞こえていたが最後のページに到達し顔を上げる風間に佐伯が問いかける。

 

「感想は?」

 

「これは…軍事教練の内容です。」

 

「言い切ってしまうのもどうかと思いますが…概ね私もそう思います。」

 

佐伯は話が長くなると休めをしていた風間の背後に自動展開された折り畳み椅子を設置して座るように指示すると風間は一礼して腰を下ろした。

 

「今回の競技種目の変更は去年の横浜事変に端を発したのが原因です。国防軍が戦力として魔法師の重要性を再認識し、その方向に才能を伸ばすように働きかけた結果です。」

 

「事実として知らなくとも誰かがそのように解釈すると思います。」

 

風間の指摘に佐伯は頷いた。

 

「魔法協会は国防軍のこの要請に形ばかりの抵抗しか見せませんでした。」

 

「”あの方”は反対されなかったのですか?」

 

風間の質問に佐伯は笑みを浮かべる。

 

「九島閣下は反対をされませんでした。」

 

その話題のあと微笑みを消して話題は転換点を迎えた。

 

「さて…我が旅団宛に今回の九校戦に向けて協力するように国防陸軍総司令部から打診がありました。」

 

「”命令”ではなく”打診”でありますか…。」

 

「そうです。この話を真っ先に我が旅団に持ち込んだ、という点を深く考慮しなくてはなりません…魔法協会が国防軍に対して発言力を高めている事が気にくわないようですね。」

 

「ようやくでありますか…。」

 

「私はこの打診を受諾するつもりでありますが…風間少佐、貴官の独立魔装大隊は動かしません。待機を命じます。」

 

風間は質問した。

 

「それは九島閣下が関わりがあることでしょうか?」

 

「ええ。九島閣下は最初は推進していたようですが先日それを取り止めるような動きがありましたが時既に遅し、と言ったところで既に九島本家から続行するように指示があったと。それも続行するように指示を出したのは閣下ではなく”九島家現当主”の九島真言殿のようです。」

 

そう佐伯から告げられ風間は虚を突かれたような表情をしていた。

続けてこう告げた。

 

「それと少佐には非常に言いづらいですが九島家と藤林家が何かを共同で画策しているようです。」

 

「我が隊の待機命令はそれでありますか?」

 

「そうです。言うまでもなく、事態の推移によって貴官への部隊へ出動を命じる事になります。藤林少尉の行動に目を光らせておいてください。」

 

それを包み隠さず佐伯は風間に命じた。

風間はそれを了承し不快な顔を表すことはなかった。

軍人として不測の事態に備えるのは当然と言えるだろう。

 

「ハッ。」

 

佐伯の命令に了解した風間、部屋を退出しようとしたが続けての話が加わった。

 

「今回の件とは別件ですが…現在我が軍で捜索中の非公認戦略魔法師…『黒衣の執行者(エクスキューショナー)』の所在とその人物の捜索…未だに進んでいません。」

 

次に出た話題は《横浜事変》の折りに大亜連合の司令部周辺を”無”に還した謎の戦略魔法を使った人物の話題になった。

 

「我が隊も藤林少尉以下で捜査を進めておりますがこれと言った手がかりを見つけられておりません。」

 

「情報部は容疑者として七草家の七草八幡を有力候補として捜査を進めていますが…こちらも思うような情報が入ってきていませんからね。」

 

「《横浜事変》で観測された魔法は加重系統に複数の系統を組み合わせた複雑なものです。七草八幡君は屈指の混成複数種の魔法を扱うことを《九校戦》並びに《横浜事変》でその効果を発揮してくれています。疑われるのも無理はないでしょう。」

 

「七草家が彼を庇い立てしていると?」

 

佐伯の目が光るが風間は否定した。

 

「四葉と確執のあるあの七草が戦略級に匹敵する能力…戦略級魔法を持つ息子を表に出さない理由がありません。」

 

風間はそう告げたが勘違いしていた。

弘一は八幡や家族を大切にしており大きな責任を負わせたくない、と思っているので八幡を戦略級に仕立て上げることはしない。

それに弘一が八幡の魔法の内容を”全て”知っているわけではないからだ。

 

それを風間は知るはずもないが。

 

「今回の九校戦…色々な思惑が動きそうです。」

 

”銀狐”はその瞳を輝かせ細めた。

 

◆ ◆ ◆

 

九校戦の出場競技の変更は一校並びに魔法科九校に大混乱をもたらした…というのはいうまでもないだろう。

実際に競技出場していたクラブ活動の部長達への説明…一番被害を被ったのは”生徒会”だった。

中条先輩達が選出した選手への配置換えと選出のやり直し…やることが多すぎて先輩は「泣きっ面に蜂」状態であった。

そう言う俺は元々出場【アイス・ピラーズ・ブレイク】と【モノリス・コード】に出場だけだったので変更点はない。ただ一つだけ【スティープル・チェース・クロスカントリー】に追加出場するくらいだろう。

そして俺は今回も技術者兼任の選手として出場する事になった。

そして何故か俺は風紀委員会に所属しているのにも関わらず生徒会の仕事を手伝う羽目になっていた。

 

競技変更にともないそれに必要な機材、道具の発注に納入に検品…それらの各出場選手への調整作業にこの競技には誰が適切で適切じゃないのか…eta…正直それは運営の仕事だろうがぁ!と吠えたくなったが頼られてる&妹達をほっぽって彷徨く程の甲斐性がない訳じゃないので俺と達也の兄チームは調整という名のデスマーチを行進していた。

かといって俺たちだけでは処理できずにエリカやレオにも助力を仰いでいた。

 

そんなデスマーチの中いつ終わるか分からない作業を一旦終えて帰宅する俺だったが食事を取る気力も無くなっていた俺は自室で潰れた蛙のようになっていたが姉さんが俺の姿を見て困惑していた。

 

「……。」

 

「八くん大丈夫?」

 

「大丈ばない…。」

 

九校戦まであと数週間…きつい。

俺は仕事から解放されたが達也達は生徒会なのでやることがあった。

お前はしなくて良いのかって?俺は風紀委員会で巻き込まれた形になるのでお給料が欲しいぐらいなんですが!?

 

…と虚空に愚痴をぶちまけても仕方がないので横向きから声を掛けられた方向に顔を向けると姉さんが心配そうにこちらを見ていたので上体を起こして返事した。

 

「いや、少し参ってただけだから大丈夫だよ…それで?どうしたのさ。」

 

そう問いかけると姉さんはナチュラルに俺のベッドに腰かける。

 

「最近忙しそうだなーって思ってね。八くんに元気付けて貰おうと思って…こっちに来て?」

 

「?何が?」

 

「良いから。お姉ちゃんの近くに、来て?」

 

姉さんはそう告げて俺を隣に誘導した。

ベッドの上をもそり、と移動し姉さんの真隣に移動すると”体勢を崩された”

 

「えいっ。」

 

「うおっ!?」

 

掛け声と共に俺の肩を引っ張り体勢を崩された。

姉さんにも護身術として【麒麟・無窮乃型】を教えていたのだがまさかこんな形で使われるとは思わなかった。

転倒する俺を見下げる形で見つめる姉さんの視線とかち合った。

つまりは俺は姉さんに体勢を崩されて見上げており頭に伝わるのは枕とは違うまた柔らかい感触…俺はチラリと横目で見ると膝丈のワンピースを着用しているのかそれから覗く足が頭に当たっているのは”太もも”…つまり【膝枕】をして貰っていた。

 

「……おおう。」

 

動こうにも倦怠感とその柔らかさに俺は行動力を吸われてしまっていた。

何よりも姉さんの何気ない自然体の表情に見入られていた。

 

「どう…かな?」

 

恐らくは見つめたまま黙ってしまった俺を心配したのだろうかこちらを伺うような質問をしてきた。

どことなくその頬に朱色が入っているのは恐らく恥ずかしいからだろうか?だったらやめたら良いじゃんと言いたいところだったが俺も疲れているのかそれを指摘するのは野暮だと思い率直な感想を述べる。

 

「めっちゃ快眠できそう…というか眠く…なってきた。」

 

「ふふっ、そっか。」

 

感想を述べようにも目蓋が重く閉じられようとして二の句が告げづらい。

この姉さんの太ももは人を安眠に誘う効果があるらしい。

 

俺は重くなった目蓋を閉じようとしたとの時部屋の扉が開いた気がした。

 

「お兄様お加減は…ってお姉様何をしていらっしゃるんですかっ」

 

「おにぃ大丈夫…って何してるのさお姉ちゃん!」

 

部屋内につんざくような姦ましい声が響き渡り重い瞼を上げると泉美と香澄が姉さんとわちゃわちゃしている。

原因はどうやら姉さんが俺に膝枕をしていることが原因らしいがそんな騒動をBGMにして俺は柔らかな太ももを枕にして深く眠りの深度へ落ちていくことにした。

 

…因にだが朝起きると俺のベッドに姉さんと妹達が入り込み一緒に寝ていたことに起こしに来た小町ちゃんにからかわれた。

 

「お兄ちゃん…学生の身分で私叔母さんになりたくないからね?」

 

「アホかっ」

 

◆ ◆ ◆

 

同時刻、日本国内横浜・中華街の地下の一角。

人間の死体…ではなく剥製が鎮座しそれらには様々なケーブルが接続されている。

 

『………っ』

 

その剥製に電気が入ったかのように瞳に火が入る。

 

『公瑾』

 

死霊術…大陸の術式で動かされる剥製は人の名前を呼ぶ。

名前を呼ばれたスリーピースを着けた見目麗しい男性が頭を垂れる。

 

『八月に行われる九校戦とやらで、日本軍が新兵器の秘密実験を行うことが判明した。』

 

剥製の口から太平洋を跨いで会話をしてきているのは周公瑾の主である「七賢人」の一人、ジードヘイグこと大漢軍方術師部隊の生き残りである顧傑だった。

 

「新兵器、でございますか?」

 

恭しく頭を垂れながら問いかける公瑾であったが内心では「またか…」と呟いていた。

なぜそんなことを思うのかというと去年の今ごろ同じく九校戦で痛い目を見ているだろうに…ということが頭を過ったからだ。

ヘイグの貴重な手駒だった無頭竜達は”何者かによって”壊滅に追い込まれており運用する上で使い物にならなくなりその上組織の幹部達は国防軍に捕まってしまっているからだ。

 

それほどに手痛い反撃を受けた学生間の競技になんの意義を見いだす必要があるのかと公瑾は思ったが主である顧傑は違うようだ。

 

『P兵器、そう国防軍のコードネームで呼ばれているそれらは確証を得られているわけではないがパラサイトを自動人形に封じてその力を利用している物に相違無いであろう。』

 

それを聞いた公瑾は日本の技術力に関心していた。

 

『仙人でもあるまいに、そのような代物を制御できると思っているのか。しかも高校生を使って性能テストをしようとしてるとは実に愚かしい。』

 

「そのテストに介入すればよろしいので?」

 

『狂化の術式を用意した。方術の作法に調整しているからお前の手駒に使えるはずだ。』

 

「分かりました。狂化術式を仕込む手配をしておきます。」

 

公瑾は大亜連合の亡命者を使う算段を脳内にて組み立てつつ…とふと気になったことがあり問いかけた。

 

「脅すだけでよろしいのですか?」

 

『無傷で済ませる必要はない殺せ。特に七草八幡はな。それ以外は捨て置け。それに日本軍を弱体させるならば有用な魔法師の卵である高校生の魔法技能を奪え。無能者として生き永らえることが死ぬより辛かろう。』

 

特定の人物に当てられた恨みに公瑾は内心で思ったことがありつつも形だけの恭しさを現し頭を垂れた。

そして公瑾は『P兵器』を開発制御を行っているのが九島家であることを突き止め交渉へ向かうのだった。

 

◆ ◆ ◆

 

「『新兵器』の実験に九校戦を使うだと?」

 

「ああ。陽葵からの確かな情報だ。」

 

「ちっ…だから今年の九校戦の出場種目が軍事寄りに変更されたのか…。」

 

「運営ショック」から解放された第一高校九校戦対応委員会(仮称)はようやく落ち着きを取り戻しつつあり俺は自分の事と担当する選手のCADの調整とそれなりの練習…というか全く必要ないんだがなやらないと色々文句をいわれそうなので形だけだったがその日も自宅に戻りこっちは《グレイプニル》への能力拡張の調整をしているときに来客が現れた。

佐織だった。

 

俺は部屋に備え付けの椅子に座らせお茶を出す。

佐織は喉を潤して調査を依頼していたことを報告して『今年の九校戦はおかしい』と。

それで前述した内容を聞かされた、と言うわけだ。

 

「それに悪い報告がもう一つある。」

 

「どういうことだ?」

 

「今回の九校戦を実験演習場にして評価試験が行われる新兵器…名を『P兵器』という。」

 

「『P兵器』…?まさか…!」

 

「ああ。恐らくは『パラサイト』を利用した軍事兵器だ。しかし一体連中がどうやってそれを手にしたか…だが。」

 

佐織が思案していたが俺には思い当たる節があった。

今年の2月にあったリーナと共に訪れた『来訪者』達…人間に憑依しその体事封じたはずの肉体を何者かに持ち去られたことを。

 

「恐らく2月にあった校舎裏で封じた憑依封印体が利用されたんだろうな…それで?悪い報告ってのはそれじゃないんだろ?」

 

俺がそう呟くと佐織はバツの悪そうな表情を浮かべていたが過ぎたことを追求するほど俺は暇ではないし佐織達の能力を持ってしても出し抜かれるならば仕方がない。

 

「ああ。その『P兵器』…正式名称パラサイドールの調整と管理をしているのが」

 

その佐織の言葉に流石に俺は驚いた。

 

「『九島家』が関わっている。」

 

「…。」

 

「八幡?」

 

「いや、少し驚いただけだ。まさか九島家が関わっているとはな。」

 

俺は老師と光宣の顔を思い出した。

 

「しかし、なぜそんなものを開発しようしたのか…魔法師の代わりに戦わせる魔法兵器の開発か?」

 

そう佐織に言われて俺は考えていたなぜそんなものを九島家で開発しているのか。

 

『君は…魔法師が兵器だと思うかね?』

 

老師に問いかけられた言葉と光宣の体の状態を見ている俺は一つの推測…というか答えに行き着いた。

 

(なるほど…そう言うことか。)

 

そんなことを考えていると佐織が不思議そうに告げる。

 

「しかし妙なんだ。」

 

「なにがだ?」

 

「陽葵が言うには九島烈が国防軍にP兵器の実用試験を無理矢理にねじ込んだ後に人が変わったように【スティープル・チェース・クロスカントリー】の取り止めをしたらしいんだが出来なかったらしい。」

 

「?」

 

俺は疑問に思った。

老師は魔法師の兵器運用について一言、というか反対する人物で尚且つ退役将校とはいえ”九”の人物であれば突っぱねることは出来ない筈だ。

 

「どうも九島家当主が強引に進めたらしい。」

 

俺の予測が当たっていれば老師は現当主へ俺の魔法の件を伝えることが出来ないためだろう。

『不自由だった孫が全快して健常体になった為P兵器のテストが必要なくなった』とは言えないし俺との約束を守ってくれているからこそ俺も強くは言えないが…。

ため息を吐いて佐織に命じた。

 

「俺が苦労すれば良いか…まぁ光宣があの状態だったのを見逃すわけには行かないしな。仕方がない、か。」

 

「?なんの話だ。」

 

首を傾げる佐織に思わず苦笑したが俺の”魔法”を知られるわけには行かないので適当に誤魔化した。

 

「佐織は部隊を率いて奈良の旧第九研究所へ調査へ向かえ。それに合わせて九島家を調べろ。」

 

「了解した。」

 

そう命じると佐織は敬礼し俺の部屋から出ていった。

 

「はぁ…前回と良い今回と…九校戦って厄ネタの宝庫なんじゃねーのか?」

 

俺の呟きに返してくれる奇特な人物はいなかった。

 

◆ ◆ ◆

 

7月7日七草家本邸。

七草家本邸は未だ宵の口であったが静まり返っていた。

長女である真由美は大学の七夕パーティーで帰りが夜中になるし末の娘達香澄、泉美、小町達は早くに入浴を終えて弘一達と食事を済ませ「今日は疲れちゃった」と口々に言っていたので仲良く三姉妹で寝ていることだろう。

そして長男である八幡は食事を終えて自室に籠りって「やることがあるから」と言って早々に自室に戻ったのは趣味である新魔法の開発と文法チェックをしているのだろう、と弘一は判断していたが恐らくはこれから”報告を受ける内容”の事を調べているのかもしれない。

 

弘一も既にかなり働いているので眠りに就きたかったがそうも言っていられない。

 

そう考えていると書斎の扉がノックされた。

 

「入れ。」

 

「失礼します。」

 

入室してきたのは部下である名倉であった。

 

「結果は?」

 

「どうも九島家の当主に大亜連合の亡命者受け入れを希望したようです。」

 

「それで?」

 

「真言殿はそれを受け入れたそうです。」

 

「ふむ…それで周公瑾が真言殿へ大亜連合の亡命者の受け入れを希望した理由は?」

 

「直近で開催される今年度の九校戦…【スティープル・チェース・クロスカントリー】にて評価試験を行うパラサイト憑依戦闘型ガイノイド【パラサイドール】に干渉し暴走させることを目的として参加する魔法師の魔法能力を奪い不能者にすることが目的のようです。」

 

「……。」

 

名倉の調査内容を聞いて不愉快そうに眉をひそめるが直ぐ様普通の表情へ変わり言葉を催促してきた。

 

「それで手段は?」

 

「パラサイト用の狂化術式を使うようです。」

 

「…SBに干渉する系統外魔法か。」

 

弘一は興味深そうに呟き考えてた素振りを見せて数十秒ほど視線を手元に置いた。

その後考えが纏まったのか面を上げる。

 

「うむ…ご苦労だった。」

 

ご苦労様、退出しろと意味を込めた言葉を掛けるが名倉は素直に退出しなかった。

 

「八幡さまにはお伝えしなくてもよろしいので?」

 

「構わない。どうも八幡も今回の九校戦の競技種目変更に疑問をもって自分で調べて今回の件を菜那崎の長女と次女に調べさせていただろうしな。」

 

名倉は今回の件も八幡にやらせるつもりか…と若干当主へ呆れたような表情を浮かべたが弘一は気にしなかった。

 

「それに今回パラサイドールの性能評価試験を【スティープル・チェース・クロスカントリー】の最中に行う。出場選手には八幡も司波達也君もいるだろうしな。たかだか人形程度にうちの息子と深夜さんの息子が遅れをとる筈もないだろう?それに一年生は関係ないしな。」

 

「左様で。」

 

「それに今回の発端は国防軍の反大亜連合の強硬派だ。パラサイドールの評価試験は先生がそれに乗して魔法師を機械に代替えさせるためのきっかけを作るために乗っかったものだ。だが…。」

 

自分の師が魔法師の少年少女を犠牲にして魔法師を代替とする兵器を開発しようとしているのは大分無理をしている、追い詰められているのだろうなと弘一は想像した。

 

「形振り構っていられないとは先生らしくない…まぁ恐らくは真言殿が先生への劣等心を拗らせたか否か…それは分からないが八幡が次期当主へなるための布石へ利用させて貰うとしようか。」

 

◆ ◆ ◆

 

「八くん?デートに行きましょう。」

 

「え?突然なによ。」

 

リビングにて俺と香澄と泉美で日曜朝八時半から始まる某プリティでキュアキュアな変身魔法少女の最新話をリアルタイムで見ていると俺の背後から姉さんから突然そんなことを言われて呆然とした。

あ、今日特殊エンディングだったのに見忘れたわ。

 

そんな姉さんの提案に妹達が食い付いてきた。

 

「あ、お姉ちゃん抜け駆けはズルいよ!僕たちもおにぃとデート行くからね!」

 

「お姉様ズルいです!私達もお兄様とデートしたいです!」

 

「あ、小町も行っちゃおうかな!最近欲しい水着があったんだよね~。」

 

其々が騒ぎ立てると姉さんは呆れた様な表情を浮かべている。

 

「ハイハイ落ち着いてね。なにも私一人だけで八くんとデートに行こうって訳じゃないわ。全員でお出掛けしましょう。」

 

大人な対応?を見せると妹達は其々自室に向かい着替えに向かった。(其々パジャマ姿のまま俺もだが。)

俺も日曜日なのだからだらだらしたかったが姉さんの次のコメントで俺は動かざる得なかった。

姉さんは耳元で囁く。

 

「本当は八くんと二人っきりでデートしたかったけどまた今度ね?今日は…私の水着選んでくれる?」

 

俺は自室へ直行せざるを得なかった。

 

◆ ◆ ◆

 

七草兄姉は都心のファッションビルへ訪れていた。

俺の役目は悪い虫が近寄らない様に眼光を鋭く輝かせるのと姉妹の荷物持ちだ。

人目がないのなら《次元解放》を使えば…と思えば腰に着けたナノトランサー格納システムを使用し姉さんや香澄、泉美、小町達が俺に「お兄ちゃん似合う?」と問いかけ俺の美的センス(それなりに鍛えられた)を駆使し衣服や靴を買い込んでいく。

容量に余裕があったはずの量子格納システムがパンパンになり掛けていた…買いすぎじゃね?とそれと思ったんだが何で女ってこんなに夏物だったり秋物を買い込むんだろうな?半袖とか長袖、羽織るものが組み合わせ出来る数種類あれば良いと思うんだが…ってそんな下手なことを言ったら怒られそうなので辞めとこう。

 

そうして買い物を進める事午前中…昼前になっても姉妹達の姦しいのは良いとしよう。

しかし俺が女性向けのファッションビルに居る、ということを覚えていて欲しいんだが?

このファッションビルは最近出来たものらしくテナント同士の仕切りがないぶち抜きのフロア一体になっておりドレスが展示してある隣に下着売場…流石にそれは男子高校生のSAN値をガリガリと削っているのが自分でも分かるほど同じくフロア内に居る同年代の異性や少し年上の大学生の異性の視線が刺さっている気がしてこの場から逃げ出したがったが姉さんと香澄、泉美、小町が”女性用の水着売場”へ突入していた。

 

「マジかよ…。」

 

今日ばかりは自分の親族が女性であることに神を恨んだ。

流石にこの布地の少ないやましい想いが無いにしてもこの空間に突入する為の勇気は…未だ足りない。

そう思い水着売場の斜めに丁度角度的に視界に入らないように設置されたベンチがあったのでそちらへエスケープ!これが俺の逃走経路よぉ!とそちらへ足を踏み出したが左手を捕まれた。

 

「は?」

 

そちらを確認すると香澄と泉美が俺の手を掴み逃げ出さないようにして、いやされていた。

 

「水着を買うのに男の子の意見が欲しいからこっち来て?」

 

「水着を新調しようと思いますのでお兄様のご意見が欲しいのでこちらへ…。」

 

「お前らはお兄ちゃんを犯罪者にしたいんか?」

 

「「??」」

 

「お前は何を言ってるんだ?」と言わんばかりの表情を浮かべ俺は双子に連行され女性水着売場へ引き戻されてしまった。

 

「お兄ちゃん…ドンマイ。」

 

小町ちゃん…この二人を止めてくれよ…。

俺の抵抗と視線もむなしく女性水着売場に引き戻され姉さんや香澄に泉美、小町は気に入った気になった水着を数点手にとって試着室に入っていく。

このまま試着室の前に仁王立ちしているのは明らかに可笑しいの俺の後ろにある多分カップルとかが試着中に片方が待つためのスツールがあった。

俺はそれへ歩みより腰を下ろして待機するほど数分…姉さんと妹達の試着が順次終わったのか扉が開かれた。

 

「じゃ~ん!お兄ちゃんどう?」

 

扉を最初に開けたのは小町であり着用している水着は去年と違って別のもの…所謂リボンモチーフが施された、女性らしいキュートさが魅力の水着でトップのフロントをリボンで結んだようになったデザインでブラジャー本体がリボンの形になったもの、ボトムにリボンがあしらわれ可愛らしいものだった。

俺の前でくるりと回って見せる小町に素直な感想を述べることにした。

 

「良いんじゃないか?似合ってる。」

 

「えへへっ♪ありがと。」

 

「つまりこれを買って欲しいってことで良いか?」

 

「分かってるね流石お兄ちゃん!」

 

笑みを浮かべ試着室へ戻って行った…今日だけでどんだけ諭吉が飛ぶのか…まぁ勉強頑張ってるみたいだし御褒美として買うのも吝かじゃないか。

 

「おにぃ、どうかな?」

 

「お兄様…どうでしょうか…?」

 

小町と入れ替わるように出てきたのはやはりと言うか同タイミングで双子が登場し其々が着用しているのは色の異なるリボンモチーフがほどこされた、女性らしいキュートさが魅力の水着。トップのフロントをリボンで結んだようになったデザインで香澄はブラジャー本体がリボンの形に泉美はボトムにリボンがあしらわれたデザインになっておりフリルが多用されボリュームが出ていた。

…まぁ一部は悲しいかな少し”足りていない”部分があるがそこはそこで需要があるから大丈夫だ。

 

「おにぃ…今失礼なこと考えなかった?」

 

「お兄様?」

 

と突っ込まれそうだったので素早く水着の意見を述べた。

 

「よく似合ってるぞ。二人らしい可愛らしいデザインだな。」

 

そう評価すると二人とも嬉しそうに笑みを浮かべているのを見てこれもお買い上げだな、と上の空で思っていると双子は試着室に引っ込むタイミングで一番手前の姉さんが入っていたドアが開かれた。

 

「おおう…。」

 

「どうかな八くん、似合ってる?」

 

姉さんが身に付けている布地は少ない。

 

三角ビキニやブラジリアンビキニとはまた違うのだろうが、トップ、ボトムともに面積の小さな布地で作られた白のビキニだ。

姉の同年代に比べると小柄なその体躯に似つかわしい豊満な胸は隠しきれない双丘をくっきりと刻み込み豊かな腰と細いウエストが妖艶な曲線を描き出して俺の視線を引き付け大理石に無防備に反射したシミ一つない柔らかで程好い肉付きをした太ももは思わず手を伸ばしてしまいそうなほど魅力的…って俺は何を実況してるんですかね…?

 

姉が着用しているビキニは肌の露出が多くなるので、とてもセクシー…と同時にフリルが採用されているので可愛らしさも両立してあるデザインだ。

本格的に泳いだりするのにはあまり向いていない、ビーチやプールサイドで水着ファッションを楽しみたい人の水着なんだろうな。

 

「八くん?…ってあ///」

 

「え、あ、いやなに姉さん。」

 

両手で体を隠すようにこちらに上目使いで見つめる姉さんの頬は主に染まっていた。

同時に何かを言いたそうに此方に見つめるが両手で隠したお陰でその豊かな双丘が更に強調されてしまっていた。

試着室から先ほど一歩出ていたがそそくさと後退し扉を少し閉めて此方に向けて告げた一言は破壊力抜群だった。

 

「八くんの…エッチ///」

 

そんな某学園に男装して主人公にバレて惚れちゃったフランスの代表候補生みたいな台詞を告げて試着室の奥に消えていった姉さんを思い出しながらこう思った。

 

”俺の姉がこんなに可愛いわけがない”…………ってそれは別の千葉の兄妹の話だろ?

 

そんなこんなで九校戦と期末試験に向けての日常での一幕だった。

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