俺が七草の養子なのは間違っている   作:萩月輝夜

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何も知らない方が幸せと言うけれど

地獄の期末考査…というのは言い過ぎかもしれないが無事に終了しその後九校戦に向けて第一高校全員はそちらの方に全力で取り組んでいた。

今回の九校戦前夜祭は八月三日に行われ開会式が八月五日、そして競技日程を含め八月十五日に閉会式が行われる。

去年より1日伸びているのは”件の競技”が関係しているからだろう。

 

その件で佐織と美咲からの情報を受け取っていた。

今回のパラサイドールの実験には大亜連合…周公瑾と呼ばれる人物が九島真言に亡命の手助けを依頼する、という体で今回の実験を暴走させる算段を付けているという事らしい。

そしてその周公瑾の主というのが俺が壊滅させた”無頭竜”を重宝していたジードヘイグ…顧傑、レイモンドが俺に教えた七賢人の一人という事らしい。

 

またしても悩みの種が増えてしまったが流石の俺も第九研究所を”虚無”に還す程の力業を使う気にはならなかったので一旦は競技中に現れるであろう暴走戦闘兵器を破壊することに人知れず決意した。

 

さて今回俺は直前で七草家関連の会議がなかったのでバスに搭乗して会場へ向かうことになり技術スタッフは機材の乗った運搬用のバスに乗り込もうとしたのだが猛反対されてしまい達也と俺は選手が乗る大型バスへドナドナされた。

その後も大型バス内は三列座席になっており俺は中央に座らされ誰が俺の左右を陣取るのかで揉めて千代田先輩から面白そうなものを見る目で見られたのは解せぬ…。

小町ちゃんは七宝と一緒に座ってるの…?そしてなぜ親密そうに会話してるのは何でかなぁ…?

それと少し恥ずかしがっている七宝を見て俺は兄として問いたださなくてはならなくなりました。

 

「【《●》】-【《●》】七宝…少し、”O H A N A S H I”しようか?」 

「《●》 《●》 小町になに色目使ってんの…?」

「《●》 《●》 小町ちゃんに何故鼻の下を伸ばしているのでしょうか…?」

 

「(さ、寒気が…って七草先輩と七草達…!?な、なんで此方を殺気の籠った視線を…?!)…!?」

 

「…?どうしたの七宝君?」

 

「あ、ああいやなんでもない…ははは…。」

 

「???」

 

俺と香澄、泉美の視線が七宝に突き刺さっていた。

 

◆ ◆ ◆

 

去年の移動宜しく妨害工作で車が反対車線から突っ込んでくることもなく全てが予定通りに進み前夜祭のパーティに参加している。

会場入りすると既に会食が始まっているらしくカチャカチャと食器の動く音と歓談する声がホールに響き渡っているのをBGMにして俺と達也は並んで進む。

 

「………。……。」

 

「……♪」

 

並んで進む俺たちを見て…というか達也を見て微笑んでいるのは去年まで”自分の制服でない”借り物を着用していたが今年度は”肩と胸に歯車と花弁の組み合わせ”が刺繍された自分の上着を着用しているからだろう。

それには俺も同意したと思い深雪へ視線を向けると頷いた。

深雪の表情には笑みが浮かんでいる。

 

「どうしたんだ二人して?」

 

俺と深雪がアイコンタクトをしていると達也が不思議そうな顔を浮かべている。

 

「お兄様の魔工科の制服がよくお似合いで深雪は嬉しくなってしまったのです。」

 

「いやー今さらになって達也がようやく認められたというべきか…って感じでな。」

 

「どうしたんだ改めて二人とも…もう既に四ヶ月はこの制服を着用して居るじゃないか…可笑しな反応だ。」

 

達也は俺たちの反応に少し困惑してる表情を浮かべている。

後ろに居る水波も「なにいってるのこの人たち」といった表情を浮かべているがそれはどちらかと言えばそれは少数派というか孤立していた。

 

「私もそうだと思いますよ達也さん。」

 

「私も。」

 

深雪と俺の台詞に同調するようにほのかと雫が同意する。

因にだが周囲には俺と達也と深雪、そしてほのかに雫、そして明智に里美という二年生の女子主要メンバーが集まっており一年生は水波が深雪の側に控えている。

向こうのテーブルには森崎、十三束、そして今回から選手となった幹比古が部活と風紀委員会の先輩達に捕まり小さくなっている。

ふと視界に入る”知り合い”の姿を確認した。

 

それは達也も同じだったようで俺と視線を一度交差させるとそちらに向き直る。

同じく三校女子生徒をぞろぞろと引き連れて一条将輝が此方に向かってきていた。

 

俺と達也は並んで将輝を出迎える形となり進行方向にいたほのかと雫が道を開けてくれたのを俺が頷くと二人は声を発っさずに頷く。

 

俺と達也、対面にいる将輝は女子を背後に従えるような形で向かい合った。

もっとも向こうも一人でというわけではなく隣には吉祥寺真紅郎の姿があった。

…その背後には一緒について来たであろう愛梨といろはが此方を見ていたが一旦手を軽く挙げて話したそうにしているのを押さえて貰い俺たちに歩み寄ってきた一条達と会話する。

 

「…お久しぶりですね、司波さん。」

 

しかし、発した第一声は深雪に対してのものだった。

えぇ…第一声がそれかよ。

 

「え、ええ。お久しぶりです一条さん。」

 

緊張からか笑みが強張っている将輝と完全な愛想笑いで対応している深雪とのそのやり取りに白けた表情になる一同だったが将輝以外は気がついていない。

その空気を変えるために吉祥寺は咳払いをして俺と達也に挨拶してきた。

 

 

「んんっ!…横浜以来ですねお二人とも。変わらずに元気そうで何よりです。」

 

「そちらも壮健そうで何よりだ吉祥寺。」

 

「そっちも元気そうだな吉祥寺。…隣にいる奴は相変わらずだが…元気そうだな一条。横浜では大活躍だったそうじゃねーか”クリムゾン・プリンス”」

 

それはともかくとして達也と俺は挨拶を交わす。

ぶっきらぼうだが険悪ではない、友好的な態度を示しそのまま隣へ視線を向ける。

俺は普通に褒めたつもりで二つ名を言った筈なのだが肝心の将輝の表情は微妙で若干嫌そうにしている。

 

「…それ、やめて貰えないか。」

 

「あ?嫌なのか。別にからかってる訳じゃないんだが…。」

 

「嫌なんだよ仰々しくて…それを言ったらお前の方が大活躍だったじゃないか横浜事変の英雄、『万能の黒魔法師(エレメンタル・ブラック)』?」

 

俺からの意趣返しなのかその二つ名で呼ばれ俺は肩をわざとすくませて見せるしか対応のしようが無かったが仕方がない。

 

「まぁお互い様か……それより用事があってここに来たんだろ?」

 

前置きは言い、と言わんばかりの口調の強さで一条へ催促すると声のトーンを押さえて会話をする。

 

「今年の九校戦なにか変じゃないか?」

 

唐突な会話の切り出し…というかそれしかないだろうが俺は、というかそれに関しては達也も感づいてるのが雰囲気で分かった。

質問をしてきている一条と吉祥寺は「可笑しくないか?」というただただ具体的なその真意を知らずに俺たちに問いかけてきているのだろうな、と思ったがわざわざ答えを言ってやるほど俺はこいつらと仲良くない。

 

「可笑しいのか?俺は九校戦に興味が無いから良く分からんけど…」

 

敢えてとぼけるような返答をしてみたが俺がこういった答えを出すのは性格だしな…と納得したのか目の前の二人は特段反応すること無く言葉を続ける。

達也は「白々しい」と思っているだろうが。

 

「九校戦の競技種目はまだ納得が出来る。」

 

「九校戦の運営要項も競技種目を変更する前提ですからね。」

 

吉祥寺も会話に参加した。

その言葉に一条は乗っかる形で続ける。

 

「今回の競技が戦闘面において片寄った構成に見えるのは…昨今の時勢を考え見ればむしろ妥当なものだと思う。」

 

「…逆に世論が魔法師に対して恐怖心や悪感情を持っているなら今回の競技種目がエンタメから軍事教練に近しい構成になっているのは逆効果だと思うんだがな。」

 

一条のコメントに俺が感想を述べると話を聞いていた二人(吉祥寺と達也)は「どっちも正しい意見である」と納得しているのを感じ取った。

 

吉祥寺が口を割る。

 

「七草くんの言うように今回の競技は世論を刺激しかねないですね…それに最後の【スティープルチェース】」だけは違う気がします。」

 

一条が引き継ぐように告げる。

 

「ああ。あれだけは行きすぎているような気がして…異質だ。」

 

「元々あれは陸軍の森林戦を訓練として行うことを想定して行うもので競技名が付いているのが不思議なくらいなものですが…公開されている情報が極端に少ない。長さが4キロもある森林を駆ける…現役の軍人でも音を上げるほどの訓練を競技に落とし込んで学生にやらせるのは異常です。しかも競技最終日にやらせるだなんてリスクが高いです。」

 

「ジョージの言うとおり非常に危険だ。それに二年生は基本的に全員参加だ。一時間以内に完走すれば全員がポイント獲得できるとなれば参加しない理由がない…だが強制的では無いとは言え【モノリス・コード】と違って女子生徒も参加させるのはどうかと思う。それにさっきお前が言ったように九校戦は一種のショー…エンタメにしているのに今回の【スティープルチェース】は競技の概要が中継されない…【モノリス・コード】は攻防を見せていたのにそれが一切にない。」

 

「観客やテレビ中継を見せるためではない…別の意図が含まれているような気がしてなら無いんです。」

 

俺は二人の今回の九校戦に対する競技変更の異質さに気付いたことに感心していた。

どうもこの二人の考察力は俺に近しいようで同じ疑問に思っていたらしい。

今回、優秀な部下に任せて突き止めたがこの二人は九校戦の裏で蠢いている悪意を感じ取っていたようだ。

 

「ほーん…なる程な。俺も今回の件についてはお前達と同意見だ。”今回の九校戦はなにかが可笑しい”ってな。それで?一条お前は自分の実家で調べた結果か?」

 

「あ、いやそこまでは…そこまで調べた方が良いか?」

 

「気になるなら調べろよお前…今回の調べる手段があるなら調べた方が良いんじゃないのか?それとも調べる余力がないのなら無理に調べなくとも良いだろうしな。」

 

俺がそう言うと一条はムッとしたようだった。

 

「そんなことはない!常に余力は残してある。俺が言いたいのはそこまでする必要があるのかってことだ。」

 

「さぁな。気になるなら調べろ。偉い人が言ったが”知らない方が幸せなこともある”何て言葉があるが…あれは俺嘘だと思うんだよな。知識はいくらあっても足りないからな…少なくとも俺は事前知識があって困ったことに遭遇したことはないからな。」

 

「そんなことはないが…それを言ったらお前はなにか知っているのか…?」

 

一条の言葉に吉祥寺や達也が興味を示したがここでする話じゃないので適当に誤魔化す。

 

「…俺も調べているが”核心に到達した”訳じゃないからな。それに九校戦最終日まであと12日あるし調べるには時間は十分にあるだろ。尚更お前は十師族の家柄なんだから調べようはあるだろ。」

 

「将輝、七草くんの言うとおりじゃないかな。」

 

俺が一条に指摘する、というかアドバイスすると口をへの時に曲げてふてくされていると吉祥寺が宥めるように声を掛ける。

 

「僕たちの手には余るかもしれないけど剛毅さんならなにか突き止められるかもしれない。」

 

「…分かった。家の者に調べさせよう。」

 

一条は吉祥寺に向けてではなく俺に対してそう宣言した。

 

前夜祭パーティーには似つかわしくない会話は一旦終わりを告げて俺は再び達也と会話をしようとしたが白い制服を来た男女のペアと挨拶をしていたのでタイミングを潰されたので終わってからにしようと思ったが達也と話している双子の姉弟を見て思わず目を疑った。

 

(あれって…俺を襲いに来た双子の姉弟だよな…?)

 

達也と深雪の前にいる姉弟…あれは俺を去年の夏に襲ってきた刺客だった。

俺はこっちに挨拶をしに来たいろはと愛梨達と会話しながらそちらに意識を向けながら《瞳》を向けると間違いなかった。

二人は俺を襲撃したことがバレていない、と思っているんだろうが《瞳》で得た情報は誤魔化すことは出来ない。

二組がお互いに自己紹介をしている。

互いに初対面、四校と一校の生徒なのだから当然なのだが”なにか不自然な感情が滲み出ている”事に気がついた俺は四校の双子姉弟の名前と名字を記憶の片隅に置いておくとして今年度の一年生なのだろう、しかしその実力はあの時に確認しているのでうちの香澄と泉美、小町が苦戦するかもしれないと考えていた。

 

しかし、「黒羽」ね…こりゃ達也と深雪の立場も相当”クロ”と見えたものだが…わざわざここで指摘して周りの環境を壊してやるほど暇人ではないしする必要もないだろうしな。

まぁ後で問いただしてやろう。

当たり前だが前夜祭で三校メンバー…まぁ十七夜と四十九院、三浦、そして一色家の姉妹が絡んできた。

 

「元気そうね七草君。」

 

「今年もやっとるのー七草殿!」

 

「あ、ヒキオ。辛気臭い顔は相変わらずだし。」

 

「八幡さま…お久しぶりです。」

 

「先輩、元気でしたか?」

 

全員が一斉に喋るものだから耳が痛い。

一斉にしゃべるんじゃねーよ。

 

「一斉にしゃべるんじゃねーよ…俺は聖徳太子じゃないんですけど?」

 

そう言うといろはは懐かしいことを思い出したのか。

 

「なに言ってるんですか先輩…わたしがイジメっ子に囲まれ暴言を吐かれた時に一人一人にその子が言った言葉を正確に精神干渉系使って増幅して鸚鵡返ししてたじゃないですか。」

 

「よく覚えてたなそれ。生徒会長に嵌められそうになってた時か。」

 

「懐かしいですねー。というか今思い返すと先輩よりも低い魔法力の子達に『ルナ・ストライク』するなんて大人げないですよね?」

 

「あん時は俺もムカついてた…というかイライラしてたからな。」

 

「でも本当にあのときの先輩は…その、格好よかったですよ?」

 

「…どうしたお前?熱でもあるのか?」

 

顔を赤くして俯き小さな呟きだったがやたらと通って聞こえた気がして思わず聞き返してしまい俺は後輩の額に手のひらを当てて熱がないか確認をしてしまった。

 

「…!!本当にあのときはこの子達どうしてやろうかと思いましたけどセンパイのその行動で溜飲が下がってやっぱりセンパイってイケメンなんだな見直しましたよってそういうところ本当にわかってますか?その事が伝わったのなら何よりですけどなんですか肝心なところで聞こえないのにこういうところは聞こえるのは本当にセンパイですね!しかも私の体調を心配して額に手を伸ばすとか他の男の子だったらビンタしてますけどセンパイなら許します!なんですかその顔のよさは…って元々でしたね!そんなのでわたしが落ちると思ったら大間違いですよセンパイ本当にごめんなさい!あといろはポイントあげますからね!」

 

相変わらずの…いろは構文と名付けよう、とそのいろは構文が炸裂し中学時代を思い出す。

 

「滅茶苦茶じゃねーかよお前…。てかいろはポイントって小町ポイントのパク」

 

「なにか言いましたかセンパイ?」

 

あざとい笑みを向けられてはもうこれ以上なにも言うまい、と思っていたら妙に距離が近いのは何故なのか。

 

「…もう良いや。」

 

「えへへへっ♪せーんぱいっ。」

 

「むぅ…。」

 

「愛梨…顔がむくれてるわよ?」

 

「こんな愛梨の表情をさせられるのは八幡殿ぐらいじゃろうし…うちの学校の男共では無理じゃな?」

 

「本当にヒキオは…この二人泣かせたら許さないし。」

 

「俺が一体何をしたっていうんだ…。」

 

なんか三校男子の視線が俺に家庭科の授業で使うまち針のあのスポンジのごとく突き刺さりマジで針のむしろ状態を体験する羽目になった。

 

そんなこんなで去年と同じく偉い人の挨拶に始まり老師の挨拶で締め括られ…ることはなく老師は姿を現すことはなかった。

会場内に動揺と混乱が広がり付近にいた知り合い達もその動揺を隠せずにいる。

 

…ただその中に黒羽姉弟と司波兄妹は動揺を見せていない。

俺もいろはに話しかけられるがその内容は老師がいない、という内容だったので左から右に受け流し考察する。

 

(何らかの事情があって出られないのか…今回のP兵器運用に際して、か…どっちにしても今回の九校戦で老師の立場が危うくなる可能性がある…はぁ…面倒事が増えていく。”後々”の事を考えると…な。)

 

そうして前夜祭パーティーが終了した。

 

◆ ◆ ◆

 

「さて行くか…。」

 

前夜祭のパーティーが終わり自室に戻り…ではなく実家から持ち込んだ偽装装甲車(見た目はキャンピングカー)に乗り込んでいた。

 

『マスター、ご準備が整いました。』

 

その車内内部にはここまで運転してきたピクシーがおり俺の準備の手伝いをしていた。

 

『しかし、これは学生の出し物なのであろう?主が骨を折る必要があるのか?』

 

同時に人形態(モードチェンジ)になっているグレイプニルが器用に腕を組み俺をみる。

 

「正直国防軍や九島家の謀事なんてどうでも良いんだが…老師には世話になってるし…それにな?」

 

俺は一旦そこで言葉を区切り俺の行動理念を告げる。

 

「来年の九校戦で今年みたいに軍事教練もどきに妹達が巻き込まれて怪我する…なんてことになったら俺が暴れて全てぶち壊す可能性があるからな…それよりだった去年みたいに見世物の方がまともだろうしな。今のうちにその企み事が全て無駄だった、と妹達に危害が加えられる前に思い知らせるだけだ。行くぞ、グレイプニル。」

 

『…心得た。』

 

「『タイプエンド・グレイプニル』」

 

《グレイプニル》の人の形の輪郭が光に変化し次の瞬間には八幡の体に纏わり付いて漆黒の体躯が現れ《黒衣の執行者》としての姿を現す。

 

『マスター、お気を付けて。』

 

『おう、行ってくる。留守を頼むぞ。』

 

ピクシーを頷いたの見て俺は『次元解放(ディメンジョンオーバー)』を使用し跳躍、富士の演習場…【スティープル・チェース・クロスカントリー】はやはり一度【モノリス・コード】で使用した森林地に近い場所だった。

ポータルを潜り、飛び越えると警備が厳重な予定地へ足を踏み入れた。

 

(警備が厳重だな…しかしなんでこれまで警備を厳重に出来るのに去年は『無頭竜』の連中の介入を許したのか分からんな。)

 

それは前年の反省を踏まえたものだろう、と読み取った。

 

踏み入れた途端に敷地内には想子ソナーに赤外線装置が設置されているが外に比べれば精度と範囲は粗雑だ。

逆に外の方が厳重であり歩兵や精度の高い想子センサーと赤外線に監視カメラ…と至れり尽くせりであったが俺の姿と気配は魔法によって関知することはできない”ステルス状態”になっている。

 

『(城攻めは内部から…というのが定石だが…とまぁそれは良いがもちろん【P兵器】はもちろん配備されていないか。)ピクシー。』

 

『はい、マスター。』

 

(P兵器…パラサイト達の反応がみられるか?)

 

『いいえ。そこには同胞の反応はみられません。』

 

『(そうか…ここにいるのは時間の無駄だな。)撤収するか…ピクシー、ご苦労さん。』

 

『はい。ご帰宅お待ちしておりますマスター』

 

『人使い…いや機械使いの荒い主よな…。ん、我の労いは?』

 

『さーて帰るか。』

 

『おい…!』

 

抗議する《グレイプニル》を無視し通信をアウトして俺は会場から離脱する、がその前に気になることが一点。

【スティープル・チェース・クロスカントリー】の開催地の外で歩兵以外の人の気配が四人…そこには達也と甚平姿…で良いのだろうか?坊主頭…これが九重八雲だろうか?と今日の前夜祭パーティで達也達と”初対面を装おっていた”双子の姉弟が会話している。

それだけ確認して俺は偽装拠点へ帰還した。

 

やれやれ…《グレイプニル》を使ったのに骨折り損のくたびれ儲け、か…。

今回の件…達也達に伝えるか。

恐らく達也も四葉経由で知っているだろうがな。

 

◆ ◆ ◆

 

達也達が予定地に侵入を出来ず、逆に八幡は予定地に侵入したが無駄骨を折ったことになるが事態は確実に進展していた。

 

夜遅く国防軍の佐伯少将は自分の司令官室で書類に目を通し九校戦へ派遣する部隊編成を行っていた。

デスクの上に配置している映像通話の着信サインが点っているのを確認し眉をひとめたのはこんな夜遅くにか…?と思ったからだ。

 

それこそ直接電話が来るのは国防省の担当者か総司令部から直属の旅団長直属の回線に奇襲攻撃を受けた、と言った非常事態でない限りは掛かっては来ないはずだ。…とそう訝しみながら通信を繋ぐ。

 

『佐伯閣下、夜分遅くに失礼します。』

 

「四葉の葉山殿…お久しぶりですね。」

 

映像通話に映るは佐伯よりも年上の老年の男性…四葉家の執事、葉山だった。

 

『おお、国防陸軍切っての名将と名高い、佐伯閣下に私め雑輩如きめの名前をご記憶いただいているとは…光栄に存じます。』

 

佐伯は心の中で「何が雑輩なものか…」と呟いた。

画面に映るこの老獪な男性が強者…力的なものではなくその存在と技能であることを佐伯は自分の部隊に司波達也…大黒竜也を引き抜くに当たり知っている。

 

画面に映る葉山がこの時間に連絡をしてきたのは人目を憚る内容であることを確信した佐伯は続きを促した。

 

「…うかがいましょう。」

 

『ありがとうございます。それでは主に代わらさせていただきます。』

 

『お久しぶりですね、佐伯閣下。』

 

その言葉を理解する前に切り替わった人物の姿に佐伯は息を飲んだ。

画面に映るは黒と見紛う深紅のドレスを着こなす妖艶な美女、四葉家の当主四葉真夜が姿を現した。

情報参謀としての佐伯はその”四葉”の家の名前の意味をよく知っていた。

 

「………四葉さん、お久しぶりです。」

 

『閣下もお忙しいと存じますので手短にご用をお話しさせていただきます。』

 

世界最強の魔法師、”極東の魔女”の二つ名を欲しいままにする画面越しの妖艶な美女、言葉遣いこそフレンドリーではあるがその存在は危険そのモノである。

真夜の先代当主である四葉元造はモニター越しで相手を捉えて術中に落とした、と言い伝えられている。

魔法を極めるものは物理的な距離ではなく遠方から情報として、尚且つ”相手を視認する”だけで発動できてしまう。

 

佐伯は自分がまるで猛獣の檻に放り込まれて生殺与奪を握られているのだと、そう自分に言い聞かせて対応は慎重に相手の機嫌を損ねぬように努めた。

 

「……どのようなご用件でしょうか?」

 

『閣下の旅団が陥れられようとしている陰謀について。』

 

真夜の前で表情を崩さなかったのは気をしっかり張っていたからだろうがそうでなければ年齢に反した間の抜けた声が出てただろうが…。

 

『全国魔法科高校親善魔法競技大会にて具体的には【スティープルチェース・クロスカントリー】を舞台として自作自演のテロ行為が計画されています。』

 

「…首謀者はお分かりですか?」

 

『国防陸軍総司令部の酒井大佐を中心とするグループ、所謂対大亜連合強硬派が首謀者、ということになっていますわ。』

 

そう言って真夜はクスり、と笑った。

 

『そして閣下の旅団に割り振られた役目はその実行部隊になります。』

 

「私は道化を演じるつもりはありませんが。」

 

真夜の言い分に佐伯はムッとしなかった、というのは嘘になる。

見え透いた罠であったしそれに部下である風間がその程度の事に引っ掛かることもないと思っているからだ。

 

『私もそう思いますわ。だからこそこうしてお時間を頂戴しているのです。』

 

「では一体何を…。」

 

『彼らは私どもの身内を巻き込もうとしているのです。』

 

「……大黒特尉のことですか?」

 

『御明瞭、恐れ入ります。…まぁあの子の性質を考えれば避けられないことなのですけど。』

 

画面の中で漏れたため息は心から出たものだと佐伯は感じ取った。

そのため息は佐伯も吐きたい程だった。

 

『ただ、割りふられた役割を演じるつもりは…私どもにはありませんの。』

 

「彼を止めればよろしい?」

 

『いいえ。せっかくのお膳立てですし、強硬派の皆様には本当の”黒幕”になっていただこうかと思いますの。』

 

画面の向こうにいる真夜の真意を見抜くことは出来なかった。

しかし、四葉家が何らかの理由で今回の騒動…酒井大佐達のグループを潰したがっているのは理解できた。

彼らを討つことで利を得る…排除したい勢力が四葉家の背後にいる、そう理解できたが口には出さなかった、いや”出せなかった”と言った方が正しいのかもしれないが。

 

そして、それを今真夜に問いかけることも出来なかった。

 

『その事で閣下のご協力を得られれば、と思いまして。』

 

「…兵を出せ、そう仰るのですか?」

 

『いえ、後始末を。私どもが表に出るわけには参りませんので。』

 

厚かましいお願いだ…と佐伯はグッとデスクの下で握った拳に力が篭る。

国防軍の内部を引っ掻き回してその後始末を国防軍少将にやらせようというのだから。

 

「それで私にどんなメリットが?」

 

佐伯は感情的ならずに今回それを実行することのメリットを問う。

 

『国防軍に対する十師族の干渉を弱めることが出来ますよ?』

 

真夜の言う「十師族」が十師族全体ではなく”九島烈”個人を指していることを説明されなくとも理解できた。

 

「それに…今回の兵器試験運用にあの『黒衣の執行者(エクスキューショナー)』も乱入する、と言う情報もありますので。」

 

「なっ…!?」

 

今まで冷静を努めてきた佐伯だったがついにその表情が崩れる。

我に返った佐伯だったが一足遅く真夜が此方を微笑で見ていることに気がついた。

情報が全くは入ってこずに捜索すらままならない未知の戦略級魔法師の情報…国防軍の情報部でないにしてもあの四葉が掴んだ情報と言うことで信じるには値するものだと。

 

佐伯は咳払いをしてから黙考の末に、頷いた。

 

◆ ◆ ◆

 

「よろしかったのですか奥様。」

 

佐伯との交渉を終えた真夜に、葉山が問いかけた。

真夜は葉山が淹れた紅茶に舌鼓を打つ。

 

「何がですか?」

 

真夜の返答は、質問の意図を理解しながらの問い返すものだった。

葉山でなければここで口をつぐんでいただろうがそんな姑息な口封じはこの執事には通用しない。

 

「九島様の関与はまだ憶測の域を出ませんが。」

 

「ですから先生のお名前は出さなかったでしょう?それに、」

 

ティーカップに残った紅茶を飲み干し丁寧にソーサーに置いて白々しく嘯いた後、真夜は悪い笑みを葉山に向け浮かべた。

 

「強硬派のテロが自作自演だって証拠もありません。」

 

「むしろ濡れ衣、ですな。しかしそれこそ栓無いことかと。強固派の粛清はあの方々のオーダーなのですから。」

 

真夜が飲み干したティーカップに葉山は注ぐ。

淹れたての紅茶の湯気が漂い真夜は再びティーカップを上品に持つ。

 

「そうですね。スポンサーのご意見には逆らえませんもの。今回の事がなければ我々も手荒な真似はしなかったでしょう。」

 

「その意味では周公瑾なる人物の暗躍も好都合でしたな。達也殿のフォローを考えれば頭が痛くなりますが。」

 

「去年のような派手な真似は困るわよね…少なくともあと半年、来年のお正月を迎えるまでは大人しくしていて欲しいのだけれど?」

 

「ですな。しかし、先程の佐伯閣下にお伝えした最後の情報…。」

 

「はい?」

 

「『黒衣の執行者《エクスキューショナー》』が現れる、と言うのは本当なのですか?」

 

「…」

 

葉山がそう問いかけると真夜はティーカップをソーサーの上に置く。

その表情は先程より冷たいものだった。

 

「そんな情報はどこにもありません、と言いたいところですが今年の南楯島の件にも『黒衣の執行者《エクスキューショナー》』が関わっています。それに…七草八幡(あの少年)がいるのに現れない筈がないでしょう?…ええ。本当に…彼は…」

 

それは忌々しく愛おしい憎愛の感情を孕ませた、七草の養子へ向けられた最後の呟きが葉山には聞こえた気がしたのだった。

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