遡ること一年前。
西暦二〇九五年の八月。
『モノリスコード新人戦優勝は第一高校に決まりましたっ!』
競技終了のブザーが鳴り響く。
夏の甲子園宜しく一種の夏の風物詩と化した全国魔法親善大会の名物競技である『モノリスコード』は全国で放送され魔法師を目指す少年少女、非魔法師の少年少女もその情報というものは嫌がおうにも耳に入ってくる。
魔法師社会を嫌う人物、魔法師が苦手な人物が意図的にその事を入れたくない、ということもあるだろう。
『モノリスコード』で一校が優勝した同時刻、とある一室にて雑談をする二人の少女。
その少女は魔法師ではない一般人ではあるが魔法師にも負けず劣らずの一人は腰まである黒髪ロングの美少女ともう一人は肩までの長さの赤みがかった金髪の美少女だ。
「…少し休憩しましょうか。」
「賛成っ…一緒に勉強すると捗っちゃうね。」
「根を詰めすぎるのもよくないしお茶をいれてくるわ。」
「うんお願い、あ。テレビつけて良い?」
「良いわよ…はいリモコン。」
セミロングの少女にリモコンを渡し立ち上がる黒髪の少女はキッチンへ飲み物を入れるために立ち上がり受け取った赤み掛かった金髪の少女は電源を入れて画面をみた次の瞬間に言葉を失いリモコンをカーペットが敷かれた床に落としてしまうが少女はそれに気に掛ける暇などなかった。
「ありがと~……………………えっ………………………?」
フリーズし時が止まったかのような錯覚を覚えて少女は画面の向こうに映る”少年”のその姿に釘付けになっていた。
その少年の声色が脳内で鮮明に再生された。
「………っ!?!?ゆ、ゆきのんっ!?た、大変、大変だよっ!!」
「そんなに大声を…ちょ、ちょっと危ないわ…いきなりそんなに慌ててどうしたの由比ヶ浜さん」
キッチンから紅茶を入れて茶菓子と共にトレーに乗せて戻ってきた少女に飛び付くように捲し立てる先程までフリーズしていた少女を窘めるが聞く耳を持ってくれないことを理解したのでそれより提案したことを受け入れた方が大人しく引き下がってくれるだろうと数年の付き合いで理解していたが普段の其よりも気迫迫るものだった。
「て、テレビ、見てっ!…早くっ…!」
「わ、わかったわ…一体どうし…………………………っ」
そう促されて画面を見ると同じく言葉を失い固まってしまう。
「比企…谷くん……?」
「これってヒッキー…だよね…ねぇ…間違いなくこれってヒッキーだよね!?」
「っ…ええ。あの素直じゃない態度を取っているのは…間違いなく比企谷くんよ…」
涙を流し抱きつく結衣のお陰で硬直していたことに気がついた雪乃。
「…よかったぁ…あんなことがあった後に小町ちゃんも居なくなっちゃったから…探したけど見つかんなくて……死んじゃったかと思ってたぁ…ぐずっ…よかった…よかったよぅ…!」
「ええ本当に…由比ヶ浜さん…彼が…生きていてくれて…よかったっ…」
結衣の涙に感化されて釣られて目尻に涙を浮かべる雪乃。
二人の視線の先には黒いプロテクターに身を包み同じ学校の生徒同士と肩を組まされ満更でもない表情を浮かべている。
それは数ヵ月前、突然失踪し両親は蒸発、当時魔法特進科を中心とした虐めが発覚しその学校のブランドは地に落ち師補十八家と百家の生徒は後ろ指刺されることになった事件の中心人物である彼女達にとって大切な人物、”比企谷八幡”の姿があった。
◆ ◆ ◆
九校戦の最中、それは起こった。
「いろはちゃん!ヒッキーに会わせてっ」
「一色さん、比企谷くんに会わせて頂戴」
「(先輩と約束したそばからこれかぁ…まぁ試合に出たらこうなるのは分かってましたけど…まさか直ぐに連絡が来るとはおもわないじゃないですかぁ…)ちょっ、先輩達落ち着いてください…!」
突如、いろはの端末が鳴り響きその連絡先の主の名前は【由比ヶ浜結衣】。
着信に出ると捲し立てるように転がり込んできた。
頭を抱えた。
いろはは目の前にいたら肩を掴まれてぐらぐらさせてるんだろなー、と能天気な事を考えてたが今の二人はそれどころではなかった。
しかしその二人を制する必要がいろはにはあった。
「ともかく落ち着いてくださいっ……先輩達。」
後輩の一喝に嬉しさと動揺で高揚していた心が叱りつけられて我に戻った二人。
「っ…ご、ごめん…ヒッキーが生きてたってことに浮かれて…ゴメンねいろはちゃん。」
「…ええ。わたしも少し気が動転してらしくないことをしてしまっていたわ…ごめんなさい一色さん。」
後輩に語気を少し荒げられてハッとなった二人は落ち着きを取り戻し謝罪するのを見たいろはは少し申し訳ない気分になったのはこれから告げないとならない事に良心が痛んだからか。
「一色さん、比企谷くんはどうして”七草”という名字に変わっていたの?」
「そうだよっ…それに中継に一瞬だけど小町ちゃんの姿もあったし…どうなってるの?」
「それは…」
いろはは順を追って説明した。
八幡が何故あの日突如として消えたのか、比企谷から七草の姓に変わっていたのか、どうして連絡がつかなくなっていたのかを。
「と、いうことです……それに…」
いろはの脳裏に世話になった二人の先輩のために八幡と再開の場を設けようと一瞬よぎったが約束が邪魔をしてその提案を出来なかった。
裏切ることになる、と。
「…先輩はお二人に会うつもりはない、そう言っていました。」
「どうして…っ!?私たちが…ヒッキーの虐めを止められなかったから…!?」
今にも泣きそうな結衣に肩を置いて落ち着かせる雪乃だったが彼女もその言葉に動揺している。
「落ち着いて由比ヶ浜さん…比企谷くんはそのことで私たちと会わない、といったわけではない筈よ…なにか別の理由がある、そうよね?」
そう問われて考察力が高すぎる雪乃に内心で苦笑する。
「お二人が非魔法師であることを考慮して自分の立場…先輩は今この国の魔法師の頂点である”十師族”、七草家の家系に連ねています…それは各地で燻り始めている反魔法社会、反魔法主義者に狙われる…お二人が巻き込まれてしまう、ということを危惧してのことです。」
心苦しい、と同時にいろはは優越感を小さいながら覚えていたことに罪悪感を覚えていた。
そう告げると結衣は悲しそうな表情を浮かべ雪乃の表情は様々な複雑なモノを含んでいる。
「そ、そんな…わたしたちヒッキーに会えないの…いろはちゃんは会ってお話出来ているのに!?ずるいよ……!」
いろはへ対し行き場のない憤りをぶつける結衣を宥めるように肩に触れてた。
落ち着く結衣。
「由比ヶ浜さん…そこで一色さんを攻めても仕方がないじゃない。それに比企谷くんならこう言うでしょう?」
三人の脳内には八幡の口癖が再生された。
『…馬鹿言え。こうしたのはお前らの為じゃない…俺の精神衛生上宜しくないだけだっつーの…俺の為だ。』
「彼の想いを無駄にするわけに行かないもの…そう、仕方がないのよ…わたしたちは”魔法師”ではないのだから…」
「ゆきのん…。」
「雪乃先輩、結衣先輩…。」
悲しそうな表情を浮かべる雪乃の顔を見つめる結衣、それを複雑な想いで見つめるいろは。
捻ねくれた考えとその素直な行動を想い出した二人は自分が魔法師でないことを恨めしい、と。
◆ ◆ ◆
時系列は巻き戻る。
西暦二○九六年、十月一日。第一高校新生徒会が発足した。
メンバーは生徒会長・司波深雪、副会長・七草香澄、会計・光井ほのか、書記桜井水波、”書記長”・司波達也…と一人だけ某独裁国家の役職のような人物がその呼び方に指摘するものはいたが(教師から)それを有無をいわせない【スノークイーン深雪】が氷の笑みで納得させた。
ある意味で暴走する深雪を止められるのが達也ともう一人しかいないためこういう役職で据えられることになった。
前述したもう一人”深雪の暴走を止められる人物”はというと…。
新生徒会発足と同時に代替わりした新風紀委員長が丁度挨拶にやって来てた。
「…一年間、ヨロシクオネガイシマス…生徒会長…。」
「こちらこそ宜しくお願いします…ってダメですよ?もっとしっかりしてください”八幡さん”」
「そうですお兄様!そんな自信の無いことでどうするのですか?」
(何故だろう…一年前に深雪に同じことを言われたような気がする。)
詰めより嗜める泉美と昔の事を思い出す達也。
明らかに「どうして俺が選ばれたんだ…」と腑に落ちていない表情を浮かべる八幡が新風紀委員長として選出されたのは当然の結果、と言えるだろう。
新風紀委員会の新委員長の選考には実力者である雫、幹比古がいたが風紀委員九名のうち八幡を除く八票が八幡に投票、そして前委員長である花音が新任に据える気が満々だった。
そんなことをしなくとも風紀委員会の総意でもあったのは知るよしもない。
嫌そうな表情を浮かべた八幡であったが雫と幹比古が「風紀委員長は八幡しか出来ない」と無言の圧を向けていた為受け入れる他なかった。
副委員長として雫が就任することになる。
風の噂で部活連の会頭に八幡を持ち上げる、という噂があったがそれは否定された…とあるが割りと現実味を帯びていたので「あり得るかも…」と知り合い達はおもっていたらしい。
さておき、歴代屈指の才女である深雪、恐らくこの学生に逆らうことが出来る者がいないであろう校内の風紀を取り締まるのが八幡であるため学校運営における文と武を司っており歴代最強だった、と後の時代に語られることになることはまだ知らない。
◆ ◆ ◆
生徒会選挙と新生徒会発足が無事に終わり論文コンペティションの準備が本格化した。
去年のように講堂中庭で大規模な装置を作りわいわいと騒ぐ、といった感じではなく講堂内でひっそりともくもくと複雑な設計図を前に格闘している姿がみられた。
この場には八幡はいないのは花音との委員長引き継ぎがあるからだ。
いつもの面々を加えた達也達は五十里が製作を行う実験装置を見下ろしながら会話をしていた。
「では今年も風紀委員会だけでなく有志を広く集って護衛メンバーを選抜しよう、とそう言うことで良いんだな?」
「そうだね。いくら八幡や北山さんと言った実力者が多いとは言え総勢九名で手が回る筈がない。”去年のようなことがある”とは限らないからね。代表の護衛、現地の防衛人員を募りたいと思っているんだ。」
”去年の事”という幹比古の発言に達也以外苦笑を浮かべるのはその記憶が新しいものだからか。
「今年の警備総責任者は服部先輩だろう?」
「服部先輩は今他校の警備責任者とオンライン会談中だよ。」
達也の質問に八幡によって副委員長に任命された雫が答える。
「それにしても二年続けて一校から総警備責任者を務めるのを他校が快く思っていないんじゃないか?」
「それは大丈夫みたいだよ。モノリス優勝校から出す不文律があるとかなんとか。」
達也の問いかけに雫が答えると再び苦笑いを浮かべる一同。
レオと美月、エリカが疑問を口にだした。
「へぇー…そんなことになっていたのか。」
「いつも十師族の方がやられていると思いましたけど…」
「去年、十文字先輩が総責任者だったのも別に十師族だから、って訳じゃなかったんだね。…それを言ったら総警備責任者が八幡になっちゃうか。」
「八幡の事だから会場に来る一条くんに投げるつもりだろうから…言わないでおくけど。」
「はは…まぁ八幡らしいというか…それより達也は護衛と警備、どっちについてくれる?」
八幡によって雫の補助に就いた幹比古が達也に投げ掛ける。
「俺も参加することは確定か。」
達也のぼやきに雫が頷いた。
「うん。同然、達也さん程の実力者を遊ばせていられるほど余裕がないんだ。会場警備でお願いしたいの。深雪との連携を密にして貰っていた方が有事の際に動かしやすいだろうし。西城くんは護衛…が良いかな。エリカは現地警備でお願い。」
達也自身も”丁度良い”と思っていた。
「俺は護衛か…。」
「確かに肉体が優れてるお前は弾除けにピッタリだからな。」
達也がレオに珍しく毒づくと「うげぇ…」と言った表情を浮かべている。
「ひ、ひでぇ言われようだな…。」
「あ、そうだ八幡が西城くん用の新装備も用意してるから頑張って、だって。」
うげぇ…となったレオだったが八幡が”新しい玩具”を用意するといった途端に嬉しそうな表情を浮かべるレオは分かりやすかった。
「お、まじか…あ、でもよ現地警備ってことは下見が必要だよな。どうするんだ?」
レオの発言に食いついたのがまさかの人物だった。
「あ、それじゃあわたしと八幡で下見に京都に行ってくるわ。」
妙に前向きの食い気味の発言に男性陣と美月は怪訝な表情を浮かべた。
雫はジト目を向けている。
「エリカちゃん…京都に行くってのは泊まりのつもりだよね?」
今の移動技術であれば東京間京都を日帰りで戻ってくることは不可能ではない。
しかし、去年の横浜の国際展示場ではなく会場での新京都国際会議場だけでなくその周辺、碁盤の目のような京都を広くみて回ることになる為に日帰りでは不可能だった。
「?そりゃそうでしょ。」
達也が爆弾を落とす。
「それはつまり…八幡と泊まりがけで旅行に行きたいってことか…?」
「ば、ばかっ////!!!」
達也の婚前旅行の嫌疑を掛けられたエリカの表情はみるみるうちに真っ赤になった。
「た、達也くん一体何を言い出すのよ…そんなこと深雪やほのかに聞かれたらどうするのよっ!?……そ、そりゃあ一緒に泊まりがけの旅行に行きたいとは思うけど…。」
「私はノーカウントなんだエリカ…。」
「「「(駄々漏れなんだが…???)…ああ。」」」「エリカちゃん…」
「な、何よ…そんな生暖かい目で見ないでよぉ……美月までぇ~!」
「卑しい…。」
「い、卑しいって何よっ。雫だって八幡と泊まりにいきたいでしょ?」
「当然。」
友達から生暖かい目で見られるエリカは普段の勝ち気な雰囲気は何処へやら、といった感じであったが二人の惚気を?を聞かされた達也とレオは苦笑いを浮かべるしかなかった。
◆ ◆ ◆
八幡が引き継ぎを終えて合流し達也達と会場警備の話をした後に服部に呼び出された八幡は風紀委員長として現地での経路の確認を兼ねての会議を終える頃には既に空は紺色に染まっていた。
兄妹四人で自宅へ向かうためのコミューターを待ちながら会話をしていた。
「じゃあ今年の会場は京都かぁ…。」
「今年は京都ということでしたね。」
「ああ。」
「おにぃが風紀委員長になったのは妹として鼻が高いよ…当然ボクも会場警備頑張るよ。」
「私もお兄様が風紀委員長になられたのは誇りに思います…!私も微力ながらお手伝いさせていただきますっ」
「ありがとうな…でも二人が参加してくれるのは…嬉しいんだが…その…」
八幡の言いたいことを小町が代弁した。
「お兄ちゃん…「厄介ごとに巻き込まれないか心配してる」っってそれを香澄達に言っても無駄だと思うけど?…ってその中にわたし入ってないような…?」
「小町は心配しなくとも大丈夫だからセーフ。」
「あ、そう言うこと言っちゃうんだ?酷いなぁお兄ちゃんは…小町ちゃんが可愛くないと申すか~?」
シャドーボクシングのように拳を振り抜く小町…可愛いものだが八幡的にはその型が【乱戦乱舞・朱雀】であったのはいただけない。
八幡達が乗るコミューターが近づいてきた。
その車両は人を乗せ直前で男を一人降ろし公道には出ずに乗車場にゆっくりと近づいてきているのを確認したそのとき八幡はその車両からの”敵意”を感じ取った。
「…。」
CADを引き出さずに片手を前方に突き出すのを見た小町はハッとなり直ぐ様身構える。
双子の反応はやはり遅い。
接近したコミューターのドアが開くより先に車内から想子の波動が放たれキャスト・ジャミングのような魔法の発動を阻害するものではなく”煙幕のような”密度の濃い想子の波動であった。
殺傷性の無い魔法的な煙幕だ、と八幡は見抜き魔法による行使を行わない。
「……!」
波動は行使され次の瞬間に駅前の噴水が勢いよく飛沫が上がった、がそれは直ぐ様水しぶきに変わり濃密な霧へと変化し視界は極端に悪化する。
「…なっ!?」
その直後コミューターが出てきた小柄な男と八幡の目が合う。
男の手には消音性と市街地での襲撃効率を考えてか装着型の真っ黒なクロスボウピストルを装備して目は驚愕に見開かれているのは視界が全く無い筈の煙幕のなかで男を”対象が直視しているという”ことに動揺している。
(襲撃するにはお粗末すぎるな…。)
このとき男は八幡を襲撃するつもりはなく妹達を襲撃し人質に取ろうと考えていた。
が、それは八幡の殺意を引き出すには十分すぎた。
一歩踏み込み直ぐ様間合いに入る八幡は右手を何時構えたかも分からない状態で【朱雀乃型】の掌底に変えて武装を叩き落とし入れ換えるように左手掌を胴体へ叩き込むと勢いよく吹き飛び背後のコミューターにドガンッ!と派手な音を立て車体が凹むと同時にぶつかった男が力無く倒れ起き上がる様子がないが命に別状が無いことを《瞳》で確認した。
「……。」
吹き飛ばしたクロスボウの方に左手を翳し握るとその手には既に安全装置が解除されていた矢数本が収まっていた。
地面に落ちたせいで発射されたのだろうがノールックで矢を絡めとる。
「(もう一人いやがる…。)」
矢を握り地面に落とすと同時にこちらに向けて魔法式の展開を知らせる想子揺らぎの兆候を観測した八幡は確認すると先ほどのコミューターを降車した男だった。
懐からCADを引き抜こうとしたが中断する。
中断をしたのは小町が先に動いていたからであり構築を先に終わらせたのは男であったがそれよりも先に迎撃した。
男が魔法を放ち八幡を対象とした魔法は直前で霧散し既にこの場で魔法の観測が街中に設置された想子波センサーには襲撃者の数度の魔法行使が行われている為状況的に八幡達が被害者であり男達が”加害者”である。
その事を確認するために後ろを振り返る小町をみて頷く八幡。
この間に魔法が数度、行使されたがどれも小町の領域干渉によって阻まれ駄目だと悟った男は最後の魔法式構築に取りかかるが当然ながらその程度では小町が取り逃す筈もなく。
「逃がさないよ?」
踵を返した男は小町が手を翳した次の瞬間に男は糸の切れた人形のように歩道に倒れた。
《瞳》で男の状態を確認する八幡。
呻くような声が聞こえているが死んでいるわけでなく意識はあり呼吸は弱々しいがしている事を確認した。
(放っておいても大丈夫だな…一先ずこいつらが何処の所属の連中なのか調べないとな…恐らくは周公瑾と手を組んでいる【伝統派】ってところか。潰しておいた方が良いか………?いかんいかん…考えが物騒になってる。)
小町が男に使った魔法は視界を点滅させて視神経への負荷を掛ける光魔法であり軽い脳震盪を起こすだけで命に別状はないものだ。
やりすぎると《邪眼》のような相手を洗脳する危険な魔法になるが加減が出来ているのでそこは小町の技量によるものだろう。
もっとも、小町が使える魔法でこれより強力なものはあるがこの往来で使うべき魔法ではない。
緊急とは言え落ち着いて相手を殺傷せずに無力化できているのは褒めるべきだよな?と想い「さすが小町」の意味を込めて振り返り小町をみると少し得意気にしていた。
「おにぃ大丈夫?」
「ああ。」
「小町ちゃん大丈夫でしたか?」
「うん大丈夫だよ」
「ボクたちが動けばよかったかなぁ…。」
「あの距離なら俺が動いた方が早いし…それにこの往来で魔法を一斉に使うのは不味いしな。」
カメラを指差すと双子は「なるほどね」と納得していたのは八幡は助かっていた。
「お兄ちゃんこれって…なに?」
そう言って小町が先程の小柄な男が所持していたクロスボウから発射された円筒状のものを素手で触れないように魔法で手の上に浮かせている。
「”破魔矢”だな。(間違いなく【伝統派】が俺たちを標的…にしてる。これだと達也達もあぶ…いやあいつらが四葉の関係者なら俺たちと同じく襲われても返り討ちにしてるだろ。…それよりも姉さんも同じく襲撃されてるか。)」
そんなことを考えていると警察が向かってきているのを確認したので素直に取り調べに応じることにした。
ここで逃げても良いことが無いし拘束されてしまうが仕方がない、と思いつつ転がる加害者を八幡はゴミを見るような眼で見ていた。
◆ ◆ ◆
「やっぱり八くんも襲撃されたのね。」
「襲撃されたのね、って姉さんもかよ…。」
「ええでも大丈夫よ。丁度そのときに摩利と十文字くんもいたし。」
襲撃者に対して八幡は内心で十字を切った。
「…それは相手がかわいそうすぎる。」
警察からの事情聴取は思ったよりも早く終わり八幡と香澄、泉美、小町の四名が自宅へ戻ると先んじて帰宅していた真由美へ話しかけるとその旨を伝えられ八幡は苦笑いを浮かべざる得なかった。
「あの人達は一体なんだったのかしら…八くんがこの間言っていた【伝統派】って人たち?」
「そうだろうね。向こうが俺たち七草…いや俺と姉さんが【伝統派】の標的になってるのは確実だわな。」
「わたしたちは自分の身を守るのは確実だけど…八くんの友達はそうも行かないわね。香澄ちゃんと泉美ちゃんは別の意味で心配だけど。」
不安そうにしている真由美をみて内心で同意していた。
香澄、泉美は実力者だが”実戦経験”が圧倒的に足りておらず一対複数…古式術式に対する知識も浅い。
それに感情が昂ると冷静さを欠くのが香澄であり同時に泉美も経験が足りない。
「そうなったら護衛をつけるか…今フリーなのは
「そうね…って小町ちゃんは?」
一人抜けている末妹を指摘する真由美であったが八幡はあっけらかんに言う。
「小町の場合は逆に護衛がいると足手まといになるし魔法の腕前でいったら俺に近いから大丈夫。」
血の繋がった実の妹への信頼に思わず吹き出しそうになったが現にその実力は”七草”の名に恥じない実力と胆力を持っているため素直に納得が出来ていた。
「恐らく達也達も狙われてるか…いっそ達也達と一緒に周某捕縛に手伝って貰うか?」
「そうね…”自分達が四葉の関係者”とは口が裂けても公表はしないでしょうね…でも拘束するには彼らの力が必要かもしれないわ」
「それとなく協力の打診をしてみるよ。恐らく”いや”とは言わない筈だけどな…。」
本来使う予定だった八幡の保有部隊が護衛に回ってしまうため”人手”が必要だった。
明日は九島家本邸に向かう為に考えを纏めた。
◆ ◆ ◆
翌日、生徒会室に訪れた八幡。
「どうされたのですか八幡さん?」
「ああ、少し確認したいことがあってな…昨日襲われたか?」
「…っ」
「…。」
「唐突だな…それを聞いてきた、ってことは八幡もか?」
深雪とその場にいた水波が息を飲んだが達也に質問を質問で返されたので内心で少しイラついた八幡だったがもう答えが出ているようなものであり早速本題を切り出した。
「【伝統派】に襲撃されてな。それらが匿っている横浜事変の首謀者と思わしき周公瑾の追跡、捕縛が俺たちに与えられた仕事なんだわ。」
「それを俺達に話して大丈夫なのか?」
「ああ。”お前達兄妹に話しても問題無い”ってことだ。その件、”少し手伝ってくれないか”?」
「…っ!?」
「八幡さん…?」
二人が困惑と驚愕を浮かべていた。
八幡が正面切って”手伝ってほしい”と素直に願い出たことにだ。
その表情を浮かべる二人をみて八幡は「あれ?」という感情を出しているのは直ぐ様「わかった」と承諾をして貰えるものだと思っていたからだ。
その事に喜色を浮かべたのは深雪だった。
即座に肯定した妹に頭を抱えていたがその口角が少し、うっすらと上がっていたのは誰一人として気がつく者達也自身を含め居なかった。
「はい!是非ともご協力させてくださいな。」
「深雪…分かったお前に頼られては断るわけには行かない。水波も参加させて良いか?」
「ああ。水波が参加してくれるなら心強い。頼むな。」
「畏まりました七草先輩。」
「お、おう…。」
ペコリ、とお辞儀をする水波に困惑する八幡をみて司波兄妹は笑みを浮かべていた。
ここ暫くボーッとしていた八幡の表情が見慣れたものになっていたからだ。
今回の件である意味で除け者にされているであろう香澄と泉美は最初は反論が沸いていたが八幡が容赦無く「お前達に経験が少ない為連れていけない」と指摘すると不満はあったが納得していたのか落ち着いていたため達也達の会話に割り込んでこなかったのはそのためだ。
達也達の協力を得てその日は生駒・九島家本邸に向かうことになって居ることを告げると翌日二人は奈良へ入ることになった。
その前に八幡はやっておかなければ行けないことがあった。
生徒会室に遊びに来てた雫と所用で遅れてきたほのかを見て用件を告げる。
「雫。」
「どうしたの八幡?」
「ほのかを暫くお前の家に泊めてやってくれない?」
「えぇ!?」
唐突な発言に驚いたのはほのかの方であり雫は軽く眉をひそめるだけである。
「どうして?」
「一人で居るのが危険だからな…実は昨日駅で襲われたんだ。」
「だ、大丈夫だったんですか?!」
「ほのか落ち着いて…八幡がそんじょそこらの魔法師が傷一つ付けられないのは分かっているでしょ?」
「そ、それはそうだけど…。」
八幡は心配をしてくれる二人を見て考えたところで心で沸き上がった感情を無視したところで達也と深雪がフォローに入った。
「実は俺たちも襲撃を受けてな。」
「ええ!?達也さんも深雪と水波ちゃんもですかっ!?」
「それは…予想外。」
驚く二人に説明する。
「でも大丈夫よ。お兄様も私も水波ちゃんもかすり傷一つ負ってないわ。」
「ああ。実害は無かったんだが襲われた理由がよく分かっていない。」
詳細は伏せたままで虚偽と真実を織り混ぜて説明する。
「警察は?」
「未だ何の連絡もないから取り調べではないかしら?」
「じゃぁ相手が誰なのか分からない?」
「古式の魔法師としか分かっていない。」
「それだけ?他に判明していることはないの?」
「二人の言った通りなぜ襲われたのかは分からない…だからこそだ。」
「じゃあもしかして…」
達也、深雪、雫、達也の会話を聞いていたほのかが八幡と達也が望んだ思考の波に飲み込まれた事を理解した。
「八幡さん達個人で狙われた、ってことじゃなくて一校生徒が狙われる可能性があるってことですか…?」
八幡はほのかを怖がらせたいわけではないが無警戒で居るよりも少し身構えていて貰った方が楽、と考えていた。
「分からん。だが一人で居るよりも二人でいた方が安心確実だ…と言うことなんだが頼めるか?七草家からも護衛に付ける。」
「分かった。護衛って佐織達?」
「ああ。同じ女性だからそこら辺は心配ないと思うが…。」
脅すような事を言ってしまったためほのかが震えておりその肩を雫が手を置いた。
そして八幡の妙な気遣いに雫は無意識に微笑んだ。
「ほのか、今日から家においで?」
「うん、ありがとう。用意するから帰りに付き合ってもらって良い?」
「良いよ。」
突如として友達の家に泊まりに行く、というのは気の知れた人物であったとしても遠慮という色が現れていたが八幡の頼みと誤解も手伝ってか素直にその好意に甘えることしたのだった。
その後も達也グループ…というか八幡の知り合いであるエリカと美月の護衛をレオと幹比古に任せ八幡は達也達より先んじて生駒にある九島家へ向かうことになった。