学校にて達也達との協力を取り付け【伝統派】の襲撃に備え知り合いに事が終わるまで護衛の件を依頼し終えて自宅に帰宅した八幡。
大学での授業を公休で切り上げた真由美と共に生駒の九島家本邸に向かった。
風切り音と秋口の冷えた風が二人の体を打つ。
「なぁ姉さん…何でバイクで向かうんだ?奈良まで遠いんだから普通にリニアモーターで向かえば…」
七草邸から一般道を通り首都高へ進入しそこからは広がった交通網を疾走する
魔法を使っているので当然寒さは感じないが首都高を走る。
しかし今二人は【伝統派】に狙われているので公共交通機関を使い紛れ込むのがセオリーな筈だ。
しかし、真由美は頑なに「バイクで2人乗りで向かう」と言い「自分達が民間人の中に紛れ込んでも【伝統派】が狙ってくる可能性もあるから紛れても一般の人を巻き込んでしまうから」と言われてしまえば納得するしかなかった。
が、それは建前として真由美の本心は。
「(最近八くんにベタベタなのよね香澄ちゃん達…それに聞いた話だと司波さん達も迫ってるらしいし…距離を詰めるなら…その…もっとくっついて八くんにアピールしないと!)……。」
ぎゅっ、と無言で身体を八幡に押し付ける。
二人の格好が黒のフルフェイスとヘルメット、衣装は黒のライダースジャケットとカーゴパンツ、タイトなジーパンで真由美に至っては身体のラインがよく出ているので柔らかいものが八幡の背中に形を変えて当たっていた。
「(八くんの身体温かい…こんなにくっついてるのに恥ずかしがってくれない…でもチョコあげた時に無茶振りで”キスして”って言ったら頬にしてくれたし…意識、してくれてるのかなぁ…)」
悶々しながら八幡を困らせるために敢えて背中に密着し続けるその一方で八幡は別の事を考えていた。
『貴方のやり方嫌いよ。でもその捻ねくれた考え方は私には思い付かないわ』
『褒めてねーだろそれ…貶してるぞお前…』
『褒めてるのよ。』
フッと微笑む黒髪の美少女。
『私、皆ヒッキーの事誤解してると思うな。こんなに優しくてかっこいいのに…ってヒッキー?』
『真顔でそんなこと言うんじゃねーよ……』
素面で恥ずかしいことを此方の目を真っ直ぐ見ながら言うので思わず視線をそらしてしまう。
そんなことを言ってくる桃髪色の美少女。
『センパイは自分の事下に見積もりすぎです。私とか結衣センパイ、雪乃センパイにこんなに好かれてるのに』
『んなわけあるか。人間ってのは打算あって付き合う生き物だからな。』
甘色のセミロングをもつ生意気な後輩に窘められた。
『比企谷…君は自分を過小評価する癖があるな…それは改善すべき所だぞ?』
『いやいや…これが俺の良いところなんで…てかすぐに改善できるものじゃないでしょう…それを言ったら先生も性格をどうにかしないと嫁の貰い手が…』
『なにか言ったか?』
『アッ…ナンデモナイデス。』
【奉仕部】の顧問を勤めていた普通科の教師。
結婚できないことを弄ると拳が飛んでくるものだったが…結婚出来ているのだろうか?
『八幡は凄いよ!そうやって人を気に掛けるなんて簡単に出来ることじゃない…もう少し自分に自信を持っても良いんじゃないかな?』
『お、おう…。』
最初であったときは美少女、だと思っていたテニス部所属の男子。
随分と親しげにしてくれていたが元気でやっているだろうかと気に掛けたがもう関わりのない人物達だ。
八幡の意識は最近、知り合い達の事で占有されていた。
が、姉に話しかけられ意識の深層から浮かび上がる。
「八くん?」
「あ、ああ…ちょっと考え事。(しかし姉さん俺に矢鱈と構ってくるんだよな…この間のバレンタインの時も…)」
思い出されるバレンタインの時、チョコレートのお返しの前借り?で真由美は八幡にキスの要求とその表情を思い出しそして今背中に柔らかいものが当たっていることに気がついて動転し思わずアクセルを握る手が強くなり吹かしてしまい前輪が少し持ち上がりウィリーになってしまった。
「きゃっ!」
ぎゅっ、と抱きつかれるのが強くなり悲鳴が上がった。
「ね、姉さん?しがみつくのは良いんだけどくっつきすぎでは…?」
更に背中に当たるライダースジャケット越しに柔らかいのが当たり続けているに気づき指摘された事で自分が大体なことをしていることを自覚した。
「ち、違うわよこれは…そう寒いのと八くんの荒い運転で振り落とされない為の行為なのっ」
「いや法定速度で走ってるし…寒さは魔法で凌いでるでしょ?」
「寒さは防いでいるけど今、アクセル吹かしてたじゃない。」
「……」
「(勝ったわ…何に?とはなるけど…!)……。」
「…(なんか負けた気がする)」
アクセルを吹かしたことを指摘され黙ってしまう八幡に真由美はなんとも言えない勝利感を覚えて再び身体を密着させ背中に隠れた真由美の頬は朱に染まっていた。
◆ ◆ ◆
「ここが九島家本邸なのね」
「姉さんは初めてだっけ?」
「九島閣下にはお会いしたことはあるけども…ご邸宅にはお邪魔したことはないもの。」
奈良まで続く高速道路をバイクで疾走すること途中のSAに立ち寄りながら進むこと数時間…予定の時間より少し早いタイミングで奈良へ到着し取っていた宿に立ち寄り先に送っていた荷物に入っていたそれぞれスーツとカジュアルドレスに着替え再びバイクに搭乗し生駒の九島家本邸に到着した。
守衛室にいる専任魔法師へ身分を明かすと顔を覚えていたらしく快く受け入れ案内された。
バイクを停めてメットを脱ぎ身だしなみを整え二人はインターホンを押すと出迎える一人の姿があった。
それはこの間の若いメイドではなく八幡より少し背の小さい”中性的な顔立ちの人物”が現れた。
その美貌に真由美が息を呑み二度目の再会である八幡も思わず二度見してしまった。
「(あれ?そんな女顔だっけ…あと身長ちょっと低くなった…?)…」
「(凄く綺麗…深雪さんみたいな…でも凄く人懐っこそうな子ね。)」
「あ!ようこそいらっしゃいました八幡さんに真由美さん!」
ハスキーな声により女性的な感じを覚える真由美だったが体格的には”少年”のものだった。
「…君が出迎えなのか”光宣”…わざわざ付き合って貰って悪いな。」
「気にしないでくださいお二人に会いたくて僕がお付きのメイドから仕事を奪うような感じになってしまったので…あ、すみません。あ、この先でお祖父様がお待ちですのでどうぞ。」
たはは…と頭を掻く仕草を見せる光宣。
その仕草はその雰囲気に相まって似合っていたが自分が舞い上がって自分の役目を思い出したことに気がついたのか頬を赤らめ反省している。
八幡達は光宣の誘導により烈がいる書斎に到着し光宣がノックをする。
「お祖父様、お二人をご案内いたしました。」
そう告げると扉越しに「入りなさい」と入室を促す烈の声が聞こえ扉を開き入室する三人の前には皮張りの椅子に腰かけるこの部屋の主の姿が見え目の前に立つ八幡と真由美。
「本日はお時間いただきましてありがとうございます。」
真由美が挨拶を告げてお辞儀をするとそれと同時に八幡も頭を下げる。
入室した光宣は八幡達の後ろに下がりドアの付近で待機している。が烈より「下がっていなさい」と指示され光宣は素直に書斎から退出した。
これから話すことがあまり聞かれたくないことだからか烈が光宣が退出したのを確認し真由美に声を掛けた。
「久し振りだね真由美くん…顔を会わせたのは君が中学生の頃だったかな?」
真由美は外行きの笑顔で挨拶した。
「閣下もご健在で何よりです。」
そう言われ苦笑いを浮かべる烈の視線は八幡へ移動し”その場から立ち上がり”頭を下げた。
その行動に思わず真由美が驚いていたが八幡は身じろぎもしなかった。
「まずは謝罪をさせてくれないか?八幡くんには世話になった。私の息子の暴走をよく止めてくれた。本来であれば父である私の役目だったのだが…他家の君に迷惑を掛けたこと…本当に申し訳ない。」
隣に立つ真由美は自身の弟に対しあの世界最巧の魔術師が頭を下げていることに言葉にはしなくとも内心では驚き動揺していた。
八幡は年上の魔法師ヘ普段のような言葉遣いでそれはあたかも”自分には関係の無い事だ”と言わんばかりに。
「…老師、顔をあげてください。謝罪は不要です。私…いや俺は”なにもしていません”から。」
”私は無関係です”ときっぱりと言い切ったことにこの場にいた全員の顔色が変わるが気にしない八幡は烈を視界に納めた後に下がった”扉の向こうに居る聞き耳を立てている光宣”の方を見てから再び老師に視線を向ける。
これからの会話は正直あまり知って欲しくないと八幡は遮音フィールドを展開する。
「まぁ正直に申し上げますと来年の妹達が参加する九校戦の競技が変更されたのは正直言って厄介なことを…という感じですが。」
歯に衣きせぬ物言いに烈が苦笑していた。
八幡の態度と”無関係です”という言葉が偽りであったことに気がついていたがここで追求をしても意味も無し、と理解した。
自分が《黒衣の執行者》ではないか、と烈が感づいているのかもしれないがここで火中の栗を拾いに行くほど馬鹿ではない為これ以上は話さなかった。
「…やはり君は面白い。魔法師としても一人の人間としてもね。…そう言うことならばそう言うことにしておいた方が良さそうだ。」
「…ありがとうございます。」
顔をあげて烈と八幡の視線が合わさり八幡と烈がお互いの瞳を覗き込む。
耐えきれずに視線をそらしたのは烈の方だった。
視線を外し会話を続ける。
「さて、弘一から話の経緯は聞いておる。周公瑾の捕縛をだったね。」
「はい。」
八幡が頷くと烈が改めて説明した。
「十師族は師族会議で決められたルールに縛られている。その一つに非常事態を除き師族会議を通さずに共謀、協調してはならないと。」
「知っております。だからこそ今回の周公瑾の捕縛は”緊急事態”である、とそう認識しております。だからこそ今回の件は父よりの要請をお受けいただいたのでは?」
真由美は元より八幡は十師族のルールを詳しく知らない、いや興味もないというべきか。
「確かに周公瑾がもたらした被害は計り知れないものだ。だからこそ”九島家を巻き込むことは出来ない”。今回の件は九島家ではなく九島烈として七草家の要請、ではなく七草八幡くんの要請を受けようと思う。」
恐らくは九島真言が周公瑾が大陸の術師を招き入れ共謀をしたことを七草以外の十師族に勘ぐられたくない、という思惑があるのだろう。
「ありがとうございます。」「ありがとうございます。」
頭を下げる八幡と真由美。
書斎を立ち去ろうとした二人を烈が引き留めるが八幡だけを残って欲しい、と言われ真由美は八幡の顔を一瞥しただけで素直に退出したのを確認し書斎には烈と八幡だけとなった。
「さて…そう言えば君たちの協力者に司波達也くんと司波深雪くんがおったが…君たちは”彼らの正体”を知っておるのかね?」
烈の試すような射貫く視線が八幡に突き刺さるが動揺もなく淡々と答えた。
「知っています。…父と四葉のご当主とどのような確執があるのかは存じませんがあの二人が四葉、四葉当主の姉の子供だったとしても俺には関係ありません。」
「それは四葉と七草の関係を拗らせないようにするためかな?」
勘ぐられたような発言に八幡は少し苛立ったがその感情を心で圧し殺しながら無表情で告げる。
「それも違います。俺と達也、深雪は…”親友”ですから。」
ここで”親友”と言えるようになったのは八幡の成長か、それとも気まぐれなのかは分からない。
恐らくは前者だろうが。
「ふっ…そうか、失礼なことを言ってしまった。親同士がいがみ合っていても子同士の交友に追求するのは余計なお世話だったな。」
「いえ、お気になさらずに。…それに達也達が自分から”四葉”だといわない限りはこちらから追求する必要もないと思っていますので。」
八幡は暗に”余計なことを言うな”と言っているようなものだったが烈は気に留めていない様子だったので内心ほっとしていた。
その部分では未だ八幡では烈には及ばない部分であった。
◆ ◆ ◆
烈との面会は三十分程度で終わり書斎を出た八幡達はせっかく奈良に来たのだから地元の料理を味わおう、と思っていたが外で待っていた光宣から告げられた。
「八幡さん、真由美さん、是非とも我が家で夕食を取られては行きませんか?」と
断ってもよかったのだが協力を提案している手前と光宣の人懐っこい笑みを見ていればそんな”断る”と言った選択肢は無くなってしまう。
「それじゃあお言葉に甘えてご相伴に預かるとしよう。」
「はいっ!…では此方に!」
意気揚々と先導する光宣を見て苦笑する二人。
八幡は「それじゃあメイドの立つ瀬がないだろ…」と若干思いつつ誘導され食事場所の九島家にある食堂へ案内された。
扉の前に到着し食堂の座席に座り食事が運ばれてくる前に雑談をしていたのだが…。
「光宣”さん”は今年高校生なの?」
真由美は自分達を案内した”少女”が年下であることを感じとり”さん”付けで呼び話の展開に持っていこうとしたのだが…。
「姉さん…光宣くんは”男の子”だぞ?」
「へっ?」
「あはは…よく女の子に間違われるんですが…僕は歴とした男ですよ?」
間の抜けた声を出す真由美は”男の子”と言われた美少女をまじまじとみると肩幅は確かに成長期の少年のそれに比べると狭いが喉仏が浮かび上がっているのを確認し先程まで八幡が光宣に対して”くん”付けしていたことに気がついて驚いた。
「ええぇ!?…でもよく見ると男の子だし…本当に?」
そう問われ頷く光宣。
「深雪さんみたいにこんなに可愛い女の子…じゃなかった可愛い男の子?男の娘がいただなんて…。」とブツブツと考えるように呟く真由美だったがそれを尻目に光宣が八幡に微笑み掛ける。
その見た目はもとより”典型的な美少年”であったが今は”典型的などちらとも取れる、どちらかと言えば女性よりな見た目”になったのは八幡の魔法のせいであった。
【物質構成】で光宣を健常体に戻す際に平行同位体の中に”健康な肉体”を持つ者の見た目が中性的なものに”上書きされてしまった”というべきだろう。
八幡は内心で「申し訳ない…」と思い光宣の目を見ると「気にしないでください」と言ってくれているような気がして少しだけ気分が楽になっていた。
程無くして食事が運ばれ雑談を交えながら光宣が楽しそうに学校での出来事を話してくれておりそれを八幡と真由美、烈が微笑ましく聞いていた。
「最近学校に行くのが楽しくて…あ、友達もたくさん出来てこの間の九交戦もみんなで盛り上がったんですよ!」
時折、「あ、少ししゃべりすぎたかな?」となった光宣が恥ずかしそうに視線を下げるのだがそれが逆に年相応の可愛らしさ引き立て真由美も直ぐ様仲良くなっていた。
「光宣くんは本当に素直ね…うちの弟にも見習わせたいわ。」
「いやいや…俺は素直ですよ姉上?」
「そう言うところよ弟くん?」
軽口を叩き合う二人に光宣の口から乾いた「くっ…」と言う失笑の漏れる声が届いた。
顔を向けると口を押さえており八幡達の視線を受けて恥ずかしそうに顔を赤らめて込み上げた笑いの発作は止まらずにプルプルと震えているのを十秒以上掛けて押さえ込み落ち着きを取り戻す。
「…失礼しました。」
真っ赤になって謝罪をする光宣の様子は明らかに大層可愛らしく、八幡はそれを見て嘗ての”知り合い”を思い出して懐かしんでいた。
「ほら、八くんが悪ふざけするから光宣くんが困っちゃってるじゃない?」
「俺のせいかよ…。」
全ての責任を八幡に押し付ける真由美に苦言を呈する八幡だったがその苦言を無視する。
「いえ…真由美さんと八幡さんはとっても仲がよろしいんですね。」
「確かに八幡くんと真由美くんは仲が良いな。」
その一言にいつの間にかコニャックをグラスに開けている烈が茶々をいれる光宣が寂しそうな笑みを浮かべた。
「少し…羨ましいです。僕は兄さん達と年が離れているものですからあまり話をする機会がなくて…八幡さんや真由美さんみたいなお兄さんやお姉さんが居て欲しかったなぁ…。」
「…家族が居るんだからしっかりと仲良くしておけよ?その時間はたっぷりあるしな。」
「そうですね…わかりました。」
「ふむ…そう言えば八幡くんは婚約者とか居るのかね?」
「っ!?」
「はい?いやそんなのは居ませんが…。」
「そうなのか?弘一から聞いた話だと君を次期七草家当主に推す、と言うことを聞いていたのだが…そうなれば恋人の一人や二人居るのではないのか?」
酒が回って居るのだろう…と目の前に居る老師ではなく親戚のお爺ちゃんと化した烈に少し呆れながら返答した。
「いや、それは父が勝手に言ってるもので…そもそも俺を宛がわれる女の子が可哀想です。…それに…惚れる女の子なんて居ませんよ。」
「そうか…約束している婚約者はいない…ならばうちの孫娘はどうだろうか?」
意図したものではないだろうが烈が爆弾を投下した。
「藤林さんですか…?」
「うむ、少し年の差があるとはいえ響子は器量のいい子だしそれに美人だ。」
「………。」
「(なんか姉さんがめっちゃ睨んでくるんだけど…!?)いやそれは…。」
真由美が八幡を睨み付ける…とは言わずに何か言いたそうに悲しい顔を浮かべている。
「いや、老師それは藤林さんに失礼です。俺みたいなまだガキには勿体無いですよ。」
「ううむそうか…であれば弟の孫娘のリーナはどうだ?」
今年の三月、リーナに別れ際に言われた言葉と行動を思い出していた。
『ワタシは八幡の事…好きよっ。返事はまた逢えたときに聞くから…ワタシもサヨナラっては言わない…じゃあねっ!』
柔らかな感触が頬に触れた時の事を思い出して動揺する八幡を見て烈が「脈ありか?」と勘違いして話を進めてしまおうとしたが光宣がその話題に乗ってしまう。
「それってつまり八幡さんが僕のお兄さんになるってことですか…?嬉しいです!」
嬉しそうな笑みを浮かべる光宣と烈に対して苦言を呈した。
「いや、光宣くんそれは違うと思う…って老師そもそもリーナはUSNAですから九島家本家の人間じゃないでしょう…それにここに居ない人間の話題を出して面白おかしく言うのは失礼ですよ…それにリーナも噂されていい気分はしないでしょうし」
「あっ…ごめんなさい八幡さん。」
「酒が入って年甲斐もなくはしゃいでしまったようだ……すまないな」
「…(ほっ)」
謝罪を受けて八幡は「気にしないでください」と言いながら真由美の方を見るとちょっとだけ安堵したような表情を浮かべていた。
八幡だけが妙にヒヤヒヤした夕食会は終わり烈の指示で土地勘のある光宣が案内をしてくれることになりその日はお開きとなった。
帰り際にタンデム席に座る真由美が八幡の腰にしっかりと腕を回し密着をしていたのは細やかな反撃…「気づきなさい」と言っているような感じがしていたがそれを指摘することもなく取った宿へ戻った。
◆ ◆ ◆
「おはようございます八幡さん…七草先輩。」
「おはようございます七草先輩。お久しぶりです。先輩と八幡はこの宿を利用していたのか。」
「おはようございます深雪さん、達也くん。お久しぶりね。」
「おはようさん二人とも…このホテル結構良いところだからな。」
翌朝、宿泊先の朝食の会場で遭遇した。
どうにも夜遅くに奈良に移動しこの宿泊施設を利用していたことが判明。
荷物をトランサーと《次元解放》のポータルへ放り込み準備を終えて朝食を四人で取りコミューターに乗って昨日訪れた九島本邸へ到着する。
四人の格好は八幡が黒のライダースジャケットにカーゴパンツにブーツ、真由美はブラウンのニットに足のラインが出るスキニーパンツにブーツという歩き回るには快適そうな衣装で達也も深雪も似たようなハイキングがしやすい衣装である。
到着した九島家の玄関には早朝にも関わらずシャキッとした状態の光宣と烈が待っていた。
挨拶と自己紹介を程程に早速現地調査へ向かうため手配した車へ乗り込むがその際に水波が光宣に見とれていたことに二人を除く全員が気がついて温かい視線を向けており二人ははっとなって顔を赤くしていたが。
手配したリムジンの運転手は初老の男性であり名倉に似ていたことを七草の姉弟は思っていた。
八幡から乗り込み真由美、次いで光宣、反対側に達也、深雪、水波の順番で乗り込む際に擦れたのか袖口が捲れて右腕に汎用型のブレスレットCADが見えた。
ふと、達也が質問した。
「光宣は汎用型を着けてるのか。」
そう頷いて今度は左袖を捲ると同じ形のブレスレッド型CADが身に付けられている。
「はい、でも九十九個じゃ足りなくて…類似の起動式を整理するのはどうすれば良いのかな、って思っていたところに八幡さんからの薦めでFLTの思考操作型デバイスを使ってみたら解決しちゃいました。」
「光宣君はFLTの思考操作型CADをお使いになるのですか?」
「はい。」
そう言って首に掛けたチェーンを手繰り上げメダル型CADを見せた。
「この補助デバイスは素晴らしい製品です。これを開発したトーラスシルバーは紛れもない天才だと思います。」
憧れを滲ませた声で光宣が呟く。
その事を聞いた深雪はシルバー=達也、ということを知られないように兄が褒められた喜びを社交性の笑みで圧し殺して「そうですね」と頷いた。
「しかしその汎用型CADをどこかで見た気がするが…どこのメーカーだ?」
「アハト・ロータスの汎用CADですね。威力を出したい時の《オーバーブースト》は非常に役に立ちます。このCADを製作したファントムは尖った物が多いですけど他に類を見ない発想とデザインは…変わり者ですね。」
此方も弟を褒められた?事で年上の余裕で苦々しく?笑みを浮かべ光宣を見ていた。
走行するリムジンのキャビンと運転席は透明なシールドで遮られ通話はマイクを通して行われるのだが今現在マイクの電源が入っておらず運転席には此方の声が聞こえていない筈だがこの車の所有者は九島家の物であり会話を聞かれていない、ということでは無いが気にしても仕方がないと八幡達は会話を続ける。
「皆さんは伝統派に付いてはどの程度ご存じですか?」
そう問われた八幡と真由美は「ある程度は」と答えて深雪と水波は達也からある程度の事を聞かされていた、と答え達也はその内情を皮肉混じりに回答すると光宣が頷く。
「達也さんの言ったことで大体あっています。」
光宣が口を開き伝統派の事を『異端派』、もとい『外法派』と定めて説明し始めたのはその成り立ちが関係しており説明をした。
現代魔法が浸透するまでは古い魔法を伝える人物達は歴史の影に隠れており権力者達がその”奇跡”の力を公にするのを嫌いその力は権力闘争において有効な武器になるからだ、と。
その裏付けとして旧第九研究所に参加した古式魔法師のログが残っていると記録に残っていると説明し幻覚を見せて相手を自殺に追い込む精神干渉系の魔法や物質遠隔操作し刃物を動かし自殺に見せ掛けた実演の記録があった、と説明すると水波が固い声で質問した。
「…殺したのですか?」
彼女は四葉のガーディアンであり訓練過程で相手を殺した経験はあるが無抵抗な相手を殺した経験はない。
深雪も嫌悪感を覚えておりそれは同時に真由美も同じであったが八幡と達也は平然と受け止めていたのは捉え方と考え方が関わるがそれは一先ず。
「記録が虚偽でなければ。」
「水波、光宣くんが命じたわけではない。その程度の事は分かっている筈だ。」
達也は第九研を非難するのではなく水波を嗜めた。
「…申し訳ございません光宣さま。」
「いえ僕も無神経でした。ここで口にするのには必要の無い話でした。」
罪悪感を覚えているであろう光宣だったがすぐさま切り替えて話を戻す…が同じレベルで話せる男子上級生二人に囲まれる光宣は所々話を脱線して「すみません…」と恥ずかしがるが八幡と達也は「大丈夫だ、無駄話ではないしな。」と「気にしないでくれ」と告げると光宣は笑みを浮かべて会話は目的地に付くまでに伝統派がなぜ対立するまでに至ったかの経緯を語ることになった。
「有名な寺社の近くと言うことか」
伝統派の所在は正当派の近く…有名な寺社付近に設けられていることに達也が問いかけると光宣は呆れたような反応を見せた。
「ええ。真面目な宗教家の皆様には迷惑なことに」
「これが風評被害ってことか…」
「全くだな」
その言葉に男子三人は顔を見合わせ薄く笑みを浮かべた。
男臭い笑みの達也とニヒルな笑みの八幡と中性的な柔和な笑みを浮かべる光宣は顔の作りは全く事なり類似点はなかったが身に纏う雰囲気は不思議と醸し出す雰囲気が似ていることに真由美含め三人の女性と少女達は顔を見合せて笑ったのを男子三名は怪訝な表情を浮かべていた。
◆ ◆ ◆
光宣から最初に五人を連れていったのは奈良御所市にある【葛城古道】と言う散策路に来ていた。
来るまでは乗り入れが出来ないので立ち乗り用の電動スクーターに乗ることになったのだがここでまさかの問題?が発生し掛けていた。
ここにいるメンバーは六名、男子三名女子三名。
電動スクーターは原付免許、2人乗りになると小型二輪の免許が必要となるが男子三名は免許を持っているため必然的に男女ペア三組が発生するわけなのだが…水面下で問題?が発生していた。
「……。」
「深雪…あまり表情に出すものじゃないぞ?」
「べ、別に深雪は不機嫌になってなどいません」
達也と深雪で相乗りしその二人の前を立ち乗りした八幡と真由美のペアと光宣と水波のペアが走行している。
深雪の目の前には八幡と真由美が姉弟?にしては密着しすぎておりその光景に深雪は顔をみられていないにしても達也に指摘され反射的に反抗的な答えを出してしまって恥じていた。
「姉さん大丈夫?」
「大丈夫よ。ふぅ…風が心地良いわね~それにしても綺麗なところ…今回の件が無ければ観光を楽しみたいけど」
「なら解決したら旅行にいく?」
「あら、良いわね…二人で旅行にいきましょうか?」
何気ない姉弟の会話をしている二人だったがその光景が可笑しかった。
2人乗りのロボットスクーターは二人が横に並んで立ち一人が運転、もう一人は安全バーを握って走る構造なのだが二人は違い弟の腰に手を回し彼女の方が身長が低いために見上げる形になるのだが時々後ろを見下ろすように振り返る姿はフォーメーション的に先頭を八幡達が走り距離を空けて深雪、光宣が続く形なのだがその光景をみて黒髪の美少女は不満げにして光宣と水波は前者が平気な顔をして後者は顔を真っ赤にしていた。
◆ ◆ ◆
結果で言うならば葛城古道の捜索は空振り。
実際には奈良の神社巡りをすることになりそれぞれのペアは楽しんで散策をすることになったが道中で【ブランシュ事件】での被害者?である司甲が八幡と達也に気がついて話しかけていた。
その姿はかつての魔法によってねじ曲げられた青年は正しい道に戻ろうとしている姿は達也にとっては一種の清涼剤、八幡にとってはどうでも良いことであった。
葛城古道から出て光宣から更なる伝統派の拠点に連れられたのだが此方も空振り。
神社付近の出店でお茶とまんじゅうを味わいながら普通の観光になってしまったのはご愛敬だろう。
時刻は十五時、鹿で有名な奈良公園に到着し煎餅を貪る鹿達と触れ合いながら光宣からの発案で再び移動し御蓋山へ移動した。
「山自体がご神体ね…」
「ええ。人が近づけない神聖な場所であるからこそ伝統派は”自分達が魔法を扱うのを名乗るのがふさわしい”と思っているからこそその神の腕のなかでその恵みを受ける権利がある、と思っているのでしょう。」
「自分達を正当化するには十分なお題目だな。俺は神様なんて信じちゃいないが。」
「八幡さんは無神信者ですか?」
「いいや。自分自身の中にある”神”を信じてるから無神信者でもないけどな」
八幡と光宣との会話で出てきたそのフレーズにメンバーが笑い声をあげたのを八幡は怪訝な表情を浮かべていた。
神様がいるのならどうして自分と妹、蒸発した両親と普通の家族をさせてくれなかったのか?と幼少の頃は思ったものだが既に過ぎたことだと思考から消し去った。
歩道は次第に狭くなり先頭を光宣と水波が歩きその後ろを八幡達が歩いていると真由美の視界にあるものが入る。
「あら?随分と可愛らしい社ね…」
そこには今まで見てきた神社に比べるとこじんまりとした社が立っていた。
「それにしては随分と年季の入った神社だな…なぁ光宣、ここって参拝路から外れているんだが手入れをする人っていないのか?」
「ここは人が通らない場所ですからこうなってしまうのは仕方がないことですが…これは少し酷い荒れようですね。」
神社の惨状に光宣の整った顔が少し寂しそうに見えるのは彼も”神様”という存在を信じているからでそれは深雪と水波、達也も例外ではないようだ。
その表情を見て八幡はすっとんきょうな提案をした。
「…ここであったのも何かの縁だな。少し掃除をしていくか?」
その提案に全員が驚き視線が突き刺さる。
「俺、可笑しなこと言ったか?」
「お前神を信じていないんじゃないのか?」
達也に指摘されたがばつの悪い表情はせずに社の奥を指差した。
「まぁ神は信じてないけど…流石にあれはどうにかしないとな」
「どうにか?…ってあれは狐の御神体と…キツネさんですか?」
深雪が首を傾げると八幡が指差した先には少し立て付けが悪くなってしまった御神体を納める祠の扉が開かれ中に納められている狐の像が薄汚れ斜めになっていた。
そしてその祠の影に隠れた白い尻尾の太いキツネが寂しそうに祠と八幡達を見ていた。
「婆ちゃんに昔から”キツネには優しくしておけ”って口酸っぱく言われてるからなぁ…」
そう言って八幡は近づくとキツネは警戒もせずに近づいてお座りをしてジッと見つめる。
目下にいる野生のキツネの状態を『瞳』で確認すると病原の類いは持っておらず本来ならば野生のキツネはエキノコックスや狂犬病を持っているものなのだが…それが一切無い。
「このキツネ…病気の一切持ってないから大丈夫…って随分人懐っこいな。」
「コニャーン~♪」
なにげに差し出した手に頭を擦り付けるキツネを見てそれを皮切りに全員の警戒が解け近づき人懐っこいキツネを愛でる。
「さて…このキツネの住居の片付けを行うとしますか。」
「ですが…掃除するにしても時間が」
光宣が尤もなことを言う。
明らかに”時間”が足りないし”道具”も存在しない。
が、しかしそれは目の前にいる男が全否定した。
「大丈夫だ。俺たちは魔法師だからな。たまに道徳的なことに魔法を無断使用してもバチは当たらんだろ。それに六人もいるしすぐ終わる。」
達也は「俺たちもやるのか…」といった表情を浮かべていたが深雪が。
「良いではありませんかお兄様…この霊験灼かなこの場所にであったのも何かの縁ですし。ここを綺麗にしてもバチは当たらない…むしろご利益がありそうです。」
そう言う深雪だったが八幡が「やろう」といったのが六割なところがあるだろうが…。
こうして六名は魔法を使い社の汚れと雑草をとり社と祠、そこに納められている御神体は綺麗になった。
「~~~♪」
「ふふっ美味しそうに食べていますね。」ナデナデ
「モフモフです…。」サワサワ
「うちで飼おうかしら…」ナデナデ
「本当ならあげちゃいけないんだが…旨そうに食うなお前」
掃除が終わったのは十五分程度で終了し供え物の御神酒や油揚げをナノトランサーから取り出す…と全員が驚いていた(トランサーの格納部分ではなく何故御神酒や油揚げが出てきたことに)が…。
「八幡さんそろそろ向かわなければ…」
「そうだな…(まぁここの座標は分かったからいつでも来れるしな。)先を急ぐとするか。」
女性陣はキツネの可愛さにメロメロになっている様子ではあったが八幡が立ち上がると察したのか名残惜しそうに見つめていたが来た道に向かう。
もう一度その社とキツネを見届けようと全員が振り返り社とキツネから見送られ目的地へと向かった。
魔法科三期が終わって劇場版【四葉継承編】来ましたね…楽しみです。