俺が七草の養子なのは間違っている   作:萩月輝夜

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ブブ漬けでも如何どす、って強者感出る便利な言葉だ。

千葉にある高等学校。

 

数年前、同じ学校名を冠する中学校にて一人の生徒がある意味で失踪したことでその学内で行われていた凄惨な事件が表沙汰になりブランド名は失墜し同じ高校も憂き目に会うかと思いきや教育委員会や教師達の尽力も相まって”普通の進学校”としてその役目を果たしていた…が流石に名前まで同じ、と言うことによるイメージダウンを避けられず改名した、と言う理由があり魔法特進科も無くなり普通の”高等学校”としての姿を見せていた。

 

普通科、国際教養科の二年生生徒達は一大イベントである修学旅行が行われることに心を踊らせていた。

 

一部を除いて、だが。

 

授業が終わっての放課後。運動部や文化部場部活動に勤しんでいるその一角。

部活棟の文化部か使うその一角…『奉仕部』とプレートが掛けられたその教室で椅子に座った黒髪の少女が片手に単行本を持ち窓から吹く風がそよぎカーテンが少しはためいておりその表情は物憂げでありそれも相まって一枚のイラストのように嵌まっていた。

突如その部室の扉が勢い良く開かれた。

 

「やっはろー!」

 

元気なその挨拶?にビックリして単行本を落としそうになるがしっかりと掴みページを閉じる。

 

「由比ヶ浜さん…もう少しゆっくり扉を開けてちょうだい」

 

「あ、ゆきのん!あはは…ごめんね」

 

雪乃は声を掛けられて顔を上げるがそれを見た結衣は「あ…」となった。

 

「…まさか今年もあの場所だとは思わなかったよ。ねぇ…ゆきのん大丈夫?」

 

「大丈夫よ。流石にサボりはしないわ。由比ヶ浜さんは平気?」

 

「…うん。大丈夫だよ。」

 

薄く笑う何時も元気な桃髪色の少女も元気がないのは当然とも言えた。

再び黒髪の少女が薄く笑って”大丈夫”と告げて視線を栞に落とす。

 

その行き先はこの少女達と少年の関係が崩れてしまった因縁深い地である”奈良・大阪・京都”の三地方を巡る旅行先を示していた。

 

◆ ◆ ◆

 

八幡達は京都市北東郊外の名刹三千院で知られる大原に来ていた。

この場所は周公勸が最後に目撃された地域で先ほどまでいた新京都国際会議場から方角が一緒、と言う理由で光宣から案内をして貰った場所であるのだが距離にして少し離れており意外感を感じていた。

なぜなら京都と言う街は碁盤のようにピッチリとしているイメージがあったからだ。

が、それは人間がすむ縮尺に当てはめれば当然距離が変わることを失念していた八幡は少しの恥ずかしさを覚えながら情報を仕入れた佐織の言葉を思い出す。

 

周公勸と黒羽家が小競り合いをしたのはこの近辺らしく陵と大原の間を流れる小川の下流へ消えていったらしいが実際にそれを見てみると虚を付かれた。

逃げていった方向を確認すると民家が立ち並び観光客や地元住民の姿も決して少なくなくなく逃げるのならば自然の多い上流に逃げるのが策ではないのか?と思ったが捜索相手の特技を思い出してその考えを消し去った。

 

方位を狂わせる、『鬼門遁甲』。

術者の方向を誤認させると言う幻術の一種で山の中や森林が生い茂る自然で使うべき術だろうと思っていたがその汎用性を考えると人混みで使うのが一番厄介だろうな、と八幡は推測した。

人混みならば他人に意識を取られる、方位を狂わせられて目を向けること出来きず他に見つけ出す術がないと言うことになる。

 

で、あれば人里から離れた山の中や人が立ち寄らない場所は隠れるには不向きであり人の多い場所、観光地に隠れているのではないかと推測した。

 

そう思案していると光宣が八幡に問いかける。

 

「逃げていった方向で最も近い伝統派の拠点は鞍馬山にありますが…行ってみますか?」

 

川に掛けられた橋の上で問いかけられ他三名も見詰めている中で自分の考えを纏め終わった八幡は首を振った。

 

「いや、市街地に戻った方が良さそうだな…。」

 

「街の中に、ですか。何故です?」

 

光宣が意外そうに問い返す。

 

「八幡さんは周公勸が街の中にいる、そう考えているのですか?」

 

深雪の問いかけに頷いて見せた。

 

「なるほど…木を隠すなら森の中、と言うことか。」

 

達也の相槌は八幡の想像と同じものであった。

 

「なるほど…それではある程度人通りの多い場所で伝統派の拠点となると…智積院、三十三間堂、清水寺の参道、金閣寺の近隣、それから天龍寺の裏手、そして嵐山公園の近くでしょうか?」

 

「(なんでこう…あのときに回った場所なんだか…)そ、そうか…」

 

光宣によって提示された場所は学生達や旅行者が観光に使う場所に被っていた。

思わずその返答に一拍置いてしまった。

 

そこから様々なやり取りを終えて清水を経由し金閣寺、天龍寺の順番で巡ることになった。

 

◆ ◆ ◆

 

八幡達は清水寺の参道へ来ていた。

清水寺を選んだのは「なにかがありそうだ」という八幡の勘が働いただけで深い意味は無かった。

音羽山清水寺の参道は長い上り坂で途中までコミューターで登れるようになっているが八幡達は麓から登ることを選択した。

実は光宣は「伝統派の拠点が近くにある」と言うことを知っていたがそれがどこにあるのか、と言うことを知らなかった為に自分の足でゆっくり登り、周囲に怪しい建物が無いか見ることにしたのだ。

 

参道は多くの観光客…と制服姿の学生が見られ活気づき参拝客でごった返しているのを見て内心でげんなりした。

 

「…人が多いな…って光宣。」

 

「はい八幡さ……ひゃっ!」

 

八幡がその人の多さにくらりとして頭を抱えようとしていると人混みの壁にぶつかった光宣がハスキーな悲鳴?を上げて倒れそうになっていたのを確認し真っ先に”抱き抱えた”。

 

「おっと…人が多いからな…大丈夫か?」

 

八幡と光宣の体格差は一般的な男子と少し大きい女子程であり比較する光宣の体格はほのかと同程度か。

それが今八幡の腕のなかにすっぽりと収まってしまっていた。

 

「あ、ありがとうございます八幡さん…ええと…その///」

 

一瞬ではあるが光宣が同姓であることを忘れて見つめていた。が直ぐ様離れる。

……八幡はノーマルであることを記しておこう念のため。

 

転倒を阻止して抱き抱えられた光宣は少し身動ぎハスキーな声を出し八幡を覗き込んだその仕草をした瞬間に人間による玉突き事故とスリップ横転が発生していた。

その光景をみた「老いも若きも」観光客が事故の発生源であり原因は光宣が発生した仕草が原因だった。

”大半”は、だが。

 

その一部とは言え八幡も含まれていた。

八幡も光宣と比べれば劣るが醜美は後者であり整った顔立ちであることは否定できない…人の好みもあるかもしれないが。それを抱き抱えた八幡の優しげな表情と咄嗟の機転、掛けた言葉は多感な女子高生の心を奪っていた。

それは同行者の嫉妬も集めており隣にいる兄が嗜めて一人の少女は顔を何故か赤くしてその光景をみていた。

抱いたまま純粋な腕力で持ち上げ光宣を立ち上がらせ歩きを再開する。

参拝道を進むと先ほどの人垣が避けてくれるので随分と歩きやすく水波と深雪、光宣が人の波に呑まれる事は無かったのだ突き刺さる視線が鬱陶しいので八幡が威圧感を出すと視線を逸らしていた。

 

「しかし、なんでこんなに人が多いんだ?それも学生が多いような…」

 

その問いかけに光宣が答えた。

 

「今の時期は修学旅行でしょうね。京都と言えば旧暦の時代からの定番ですから…と言ってもここにいるのは非魔法師の方々のようですが。」

 

そう言われ改めて周囲を楽しんでいる若い男女の格好がどこかでみたことのあるデザインの制服を着用した一団を一瞥し一旦その事を頭の片隅に追いやって本命を探す。

 

「成る程な…とりあえず光宣。目的地は清水寺の境内で良いのか?」

 

「ええ。ここまで市街地に近くなると森林の中はむしろ目立ちます。恐らく土産物屋や食堂に偽装しているのではないかと。」

 

「それだと中に入る必要性は薄くなるのね」

 

時間は有限だ。

それに”京都”という地は八幡にとって”あまり良い思い出がない”為長居は無用だった。

一先ずは清水寺を見て回って別の場所へ向かうことにした。

 

◆ ◆ ◆

 

清水寺の本堂前檜舞台から京都市街を一瞥したが特筆して追っている者の居場所を探すことは出来なかった。

結局は”観光”をすることになり水波と深雪は下を見下ろしながら楽しそうにしているのを見ながら達也と八幡は会話しそれを光宣が聞いていた。

 

「何か分かったか?」

 

「いいや。こう鬱陶しい視線が注がれてたらな…お前は何か気が付いたか?」

 

「いや、俺も同感だ。」

 

両者ともに気が付いたのは鬱陶しい視線だけだった。

 

「深雪に向けられる視線を全部チェックしてみたが特に怪しいものはなかった。」

 

「全部…って」

 

「ああ。けしからん視線なら先ほどから山のように注がれているが光宣も同じだろう。今回の仕事のに関係する視線の類いではない。」

 

「まぁ…あの二人の見た目はな…視線を注がれてしかるべき、って感じだしな。一人ならいざ知らず二人が揃うと視線の集中度合いも2倍か」

 

「お二人にお手数をお掛けしてしまうとは…申し訳ございません」

 

「あ、ああそう言うことじゃないんだが…取り敢えず頭を下げるな。俺が悪者になっちまう。それに人に”視線”を向けられるのは慣れているしな。」

 

申し訳なさそうにする光宣に達也は「気にするな」と告げて八幡は慌てて頭を上げさせる。

実際に自分に向けられる敵意や殺気はこれ程多い人間が周りにいたとしても見分けることが出来るが”敵意・殺気”を別の物に変えられて視線を注がれる、または自分以外に向けられてたものを正しく判断するのは難しい。

根本的に他人に対して興味が無い、と言った方が正しいのかもしれないが(一部を除く)…。

今現在で分かっていることは深雪と光宣に煩悩と好意、欲望の視線が向けられていることか。

 

はっきりとしない答え、そして伝統派が目の敵にしているであろう光宣に向けられている視線の種類が分からなくて八幡は困っておりどうやら敵は隠すのが上手いらしい。

 

「はぁ…。」

 

その事に八幡が溜め息を吐く。

びくり、と光宣が身をすくませるような仕草を取ったのは尊敬する八幡が苛立っている、そう思ったからでありその反応が叱られた子犬のような表情に注がれる視線の熱量が増大した。

強い感情が向けられれば自分だけでなく他人であれば気が付きいくら他人の機微に疎い八幡といえどもそれは理解できた。

その光景を達也は呆れたような表情で見ていた。

 

「ああ、いやその責めてる訳じゃないんだわ…そのさっきの溜め息は予想以上に手掛かりが手に入らなくて途方に暮れての溜め息だったんだ。いや本当に。」

 

必死に弁明する八幡のその言葉に笑みを浮かべる光宣の華やいだ笑みを浮かべているみて本来の性別を忘れてしまい錯覚を覚えてしまったがハッとした。

 

彼は男である、ということを。

その表情に当てられて背後でガタガタっ、と物音が聞こえ何が起こっているのかを理解した男二人はあえて背後を振り向くことはしない。

背後の音に気が付いた深雪が振り返りその原因を理解すると意趣返しなのだろう”とっても良い笑顔”を浮かべて光宣の背後に立ちその言葉は火に油を注ぐ…即ち盟主○に核○ータを渡す結果となった。

 

「八幡さん、光宣”さん”をいじめてはいけませんよ?」

 

「いやいや…苛めて…って。え?」

 

深雪の手が光宣の肩に触れた瞬間、時が止まった。

 

絶世の美少女?が絶世の美少女に庇われるという白百合が裸足で逃げ出してしまうほどの幻視する百合の花弁が清水の境内に舞った気がしてそれぞれを見ていた女よりも男の視線が多く突き刺さり男の視る目、言わば深雪と光宣への視線に込められた感情は先程よりもねちっこく”変態的”であった。

 

その向けられた視線のなかに先程まで向けられていなかった”感情”があることに気が付いた八幡はその視線の主へ意識を集中した。

その男は「何を見せられているのだろう」という呆れの感情。

その感情を察知した八幡は目の前にいる二人に声を掛けた。

 

「深雪、少し目立ちすぎだ。…みんなここから移動すんぞ」

 

嗜めとここからの移動を込めた言葉を告げると深雪も少し顔を赤くして頷いて八幡は呆然とする光宣、何がなんだか分からない水波と向けられた視線と八幡の意図を感じ取った達也は答えを出さずに動き出す。

清水寺から移動し光宣が問いかけた。

 

「八幡さん一体…」

 

自分に向けられた視線の意味を理解していなかったようで若干呆れてしまったがそれは問題ではないので一旦頭の片隅に追いやった八幡は端末を取り出す振りをして『次元解放』の応用で光宣と達也の脳内に直接語り掛ける。

 

『声は出すなよ?今俺が作った新魔法で光宣の脳内に直接語り掛けているから。あ、今お前が思ったことも音になって俺だけに聞こえるから心配するな。』

 

『脳内に八幡さんの声が…!?』

 

『八幡これは一体…?音の真空を震わせる術式…?』

 

驚いた表情を浮かべる光宣と達也は素直に驚いていた。

 

『まぁ細かいのは後でな…それよりもともかく、先程俺たちを取り囲んでいた視線、まぁ光宣に向けてだがそのなかに監視、いや尾行している存在を確認してな。それで誘い込むから”気づいていて分からない振り”をしていて欲しいんだ。一先ず達也達と俺で途中で分かれて分散する。それから俺が後ろから近づいて目的を聞き出してくる。』

 

そう告げると光宣は素直にしてくれていたのだが…その光景を達也は頭を抱え魔法以外の訓練を受けた事がないのかどうみても”下手くそ”と評価せざるを得なかった。

その演技をしながら「奥の院」から「音羽の滝」へ降りる坂道の途中の「子安塔」へ続く分岐点で二手に分かれると尾行していた男は怪訝な顔をして”達也達”の方へ追跡を開始したのを「子安の塔」から確認した八幡は『麒麟・無窮乃型』を発動、気配を消して男の背後へ忍び寄り『瞳』で確認しその男に魔法演算領域が無い…非魔法師であることを確認しポータルから取り出して背中へ武骨な物を”突きつけた”

 

「動くな。」

 

「………っ!?」

 

八幡の何気な一言は重く、威圧感があり尾行していた男の行動を阻止するには十分すぎた。

突如として現れたターゲットの1人に背後を取られて驚く男だったが小市民を装うとしたがこの状況に周りの観光客が気が付いていない、そして声をあげようものならば今背後にいる男に容易く命を消されてしまうと判断した男は苦々しい顔を浮かべながら物陰に消えていった。

 

「さて…なんであんたが俺たちを尾行していたのか聞かせて貰おうか?」

 

男が逃げられないように八幡の背後に退路があるように配置し逃げ場を潰した状態で”質問”をすると男は憎々しそうに睨み付けるが八幡はゴミを視るような冷徹な眼差しで視ると男は怯んだ。

 

「俺をどうするつもりだ」

 

「質問をしているのはこっちだ。さっさと答えてくれそれにあんたを概する気はない」

 

八幡の台詞は男の表情を猜疑心に染めた。

 

「…なんの話だ?」

 

惚けようとする男の反応に八幡はある種のプロ意識に感心したが時間を掛けていられない為強行手段に出た。

八幡は口元だけの笑みを浮かべて胸元に手を差し込み銃型CADを取り出し突きつけると男は怯み大声を出した

 

「無断で魔法を使えばお前がお縄になるぞ!?」

 

古風な言い回しに思わず笑ってしまうがその笑みは男の背筋を凍らせるには十分であり尚且つ手にしている脅威、”拳銃”の形をしたCADという目に見えるもので脅しを掛ける事で男の精神を削っていくがそれでも男は口をつぐんでいるのを見て八幡は想子…ではなく星辰力を活性化させていく。

別の力の触媒である星辰力は街中に設置されているセンサーには引っ掛からないそれは魔法師でない者にとっては得たいの知れないプレッシャーは遂に屈服させた。

 

「わ、分かった…分かった!!喋る、話させて貰う!」

 

牙城は崩され遂にその情報を八幡に白状した。

 

「ここは…豆腐屋か?」

 

精神的に打ち崩された男は参道の一角にある豆腐料理店を指し示した。

 

「ああ。嘘じゃない。俺が依頼主から言われたのはさっきの坊っちゃんがこの辺りに近づいてきたら報告しろという依頼を受けただけなんだ。それ以上の事は何も知らない。」

 

「良く雇い主の家を知っていたな。」

 

「今日日、探偵業も楽じゃないんだよ…まぁあんたに尾行がバレたなら料金は発生しないんだがな…」

 

「大変だなおっさん。」

 

「…ははは、一体だれのせいだと…いやなんでもない。」

 

人事のようにしていたがこの男も生活が掛かっているのだろう事を思い出してなんとも言えない気持ちになった八幡は妙に目の前の男を憎めない”愛嬌”があった。

 

「仕事の邪魔して悪かったな。」

 

自分や達也に見つかったのが運の尽き、でハードな仕事に向いていないが情報収集に向いているこの男優秀であった。

八幡は男の目を見て『記憶読込』を発動し先程迄の事実を”改竄”した。情報量代わりにポケットに数十枚の現金を捻り込ませ男を解放しその場を離れさせ路地から出て達也達と合流した。情報量としては十分だろう。

 

「八幡さん大丈夫ですか?」

 

「ああ。先程俺たちを盗み見ていたおっさんから有力な情報を”買っていた”から時間が掛かったが大丈夫。その場所も丁度飲食店だしな…時間も丁度良いだろう。」

 

「まぁ、良いですね!行きましょう」

 

深雪が話しかけ八幡が答え先程男から仕入れた情報を皆に伝えてその豆腐料理店へ向かった。

その道中で深雪は嬉しそうに光宣と水波は不思議そうな表情を浮かべ達也はどう情報を”入手した”のかが気になっているのと呑気に飲み食いしている場合か、とツッコミたくなった。

 

◆ ◆ ◆

 

豆腐店の暖簾を潜ると二、三十代の着物姿が似合う京美人が出迎えた。

 

「五名様ですか?」

 

店先で料理のお品書き一覧を水波と顔を揃えて熱心にみているのを見て微笑を浮かべながらその問いかけに答えると同時に店の奥を見つめると店主らしき人物が店先にいる自分達に”警戒心”を持ってみているのが把握できたが危害を加える気も逃げ出す気もないようだ。何らかの反応を示すのなら取っ捕まえてやろうとしていたのだが。

 

「…はい、そうです。」

 

「ではこちらへどうぞ」

 

店員の案内で八幡と達也が店内に刺客がいないか肉眼で確認し小声で話しかける。

 

「達也。」

 

「ああ。」

 

達也も《精霊の瞳》で店奥を確認しておりそれを把握していた。

お互いに”特殊な眼”を持っていることをある程度の予測をしていたのでその事については深くは追求せずに奥座敷に案内され当然と言わんばかりに八幡の左右に陣取る深雪と光宣。

 

「ではご注文が決まりましたらお呼びください。」

 

「分かりました。」

 

そう言って八幡は頷いて達也も釣られて頷いた。

その光景に深雪が笑みを浮かべていたが光宣はそれどころではないようだ。

 

「あの…大丈夫なんですか?」

 

「大丈夫さ。こんな大勢の前で”毒”を盛ろうだなんて考えないだろう。周りの人間は無関係な一般人だ。それにここで仕留めるにはリスクが高すぎて仕掛けた側が損をするだろうしな。な?達也。」

 

「…そうだな。毒が入っていたとしても俺にはすぐ分かる。それに先程八幡が尋問、いや質問していた男の雇い主のけ気配も捉えている。逃げようとすればすぐ分かる。」

 

突如として話を振られると思ってもみなかったのか1拍置いての反応は深雪を更に笑顔にする。

光宣は感嘆の声を漏らす。この環境に気が付いているということに。

 

「本当に達也さんも八幡さんはなんでもありですね…凄いです!尊敬します!」

 

キラキラとした笑顔を二人に向けられてそれは子犬が遊んで欲しそうに向けている笑みと同類であることに気が付いてばつの悪い返答をする。

 

「いや…魔法しか取り柄の無い男でだからな?俺みたいになっちゃダメだぞ?見習うなら達也にしろ。」

 

「俺も出来ないことばかりだ。この隣にいる男は例外として真に受けてはダメだぞ光宣。というより信じちゃダメだ。」

 

「お前も人の事言えないよなぁ…達也はん?」

 

「こちらの台詞だ。八幡。」

 

「信じられません…」

 

光宣の「信じられない」という言葉に反応し同時に振り向く八幡と達也に慌てて訂正する

達也から信じては行けない、という言葉に先程言葉で返答したと勘違いしていた。

 

「い、いえお二人の事を信じています!」

 

お互いがお互いを何気に貶し尊敬しているその言葉の応酬、そして初々しい光宣の反応に思わず深雪がクスッ、と声を漏らして笑ってしまい水波が思いがけず嗜める。

 

「深雪姉さま…」

 

「ごめんなさいね水波ちゃん。お兄様と八幡さん、光宣くんのやり取りが兄弟みたいに見えてしまって微笑ましいの」

 

そう言われた男三名はばつが悪く頬を掻いたり苦笑いを浮かべたり顔を真っ赤にしてした。

深雪の脳内では八幡が長男、達也が次男、光宣が三男の構成なのだろうが一旦置いておくことにして和やかな雰囲気が流れていたがここは飲食店であるので料理を頼まなければならない。

注文は男陣は湯豆腐のセットと八幡は何故かあった鮎の塩焼き、そして女性陣は湯葉鍋を注文し届いた料理に舌鼓を打っていた。

 

料理を食べ終わり食後のお茶が運ばれるタイミングで八幡が先程受付してくれた女性へ声を掛ける。

 

「すみません。実は生駒の九島さんのご紹介でこちらのお店に来たのですがご店主さんへはお目にかかれませんか?」

 

「生駒の九島様のご紹介ですか?店主の都合を確認いたしますので少々お待ちいただけますか?」

 

その際に八幡は名前を聞かれたので咄嗟に『名護蜂也』と名乗り取り次ぎを依頼し店の奥に消えていった店員を見送ること数分後に店に出てきた店員の案内で店の奥へと到着した。

こちらが無礼を働いていないことに感心したその店の主…は表向きの顔で裏の顔は伝統派の拠点のリーダーの呪い師である男は話をしてくれた。そしてこちらの聞きたいこと答えてくれた。伝統派は一枚岩でないことと周公瑾はまだ宇治から南に出ていないことを知らされた。即ちまだ”京都”に居るということになる。

 

「最後に…鞍馬と嵐山の一党には気を付けなさい。彼らはすっかりと大陸の魔法師に取り込まれてしまっている」

 

忠告に近い言葉を貰い受けそこで会話は終わりを告げたことを理解し八幡と達也、深雪は同タイミングで頭を下げる。

 

「お時間を頂きありがとうございます。豆腐料理旨かったです。」

 

それに反応し遅れて水波と光宣が慌てて立ち上がり頭を下げる。

食事の感想とその光景をみた初老の魔法師は微笑ましげにみていた。

 

◆ ◆ ◆

 

「これからどうする?」

 

店を出ると外の色はもう茜色に染まっていた。

達也に声を掛けられて八幡は返答した。

 

「そうだな…もう日が落ちる。それにここに来たのも無駄足じゃなかったからな今日はもうホテルに……って電話だ。」

 

呪い師の言葉を信じるならばもうこれから訪れる場所にはいないだろうし別の場所に向かうにも時間がない、今日はもうホテルに、と良い掛けたところで着信があり断りを入れて応答するとそれは聞き覚えのある声だった。

 

『八くん今大丈夫?』

 

「姉さんか…どうしたの?」

 

電話の主が真由美だったことにすぐ近くにいた深雪の表情筋がピクリ、と反応した。

そんなことなど知らずに会話を続ける。

 

『大学での都合が終わって今京都に向かっているわ。』

 

「終わったって…別にこっちにわざわざ来なくとも良いんじゃないか?報告書はあとで作成するつもりだし」

 

そこで一旦真由美の言葉が途切れてしまった。

電波の不調かと疑ったがこの発達した近年でそんなことはあり得ない。

真由美の八幡に対する乙女心が炸裂した。

 

『八くんと…その京都でのお出掛けを…したいじゃない。深雪さんが一緒なのに私が行けないのは何かおかしくない?』

 

恐らく個型電車の一階にいるであろう真由美のとなりには護衛の佐織がその発言に溜め息を吐いている。

当然その光景は八幡には分からなかったが「しょうがない」という気持ちになって返答する。

最近距離が近い姉に対してどんな感情を向ければ良いのだろうと一人悶々としている八幡。

 

「…分かった。明日は渦中の人物が犯行を行った場所からスタートするから…旅行とはほど遠いけど良い?」

 

『分かったわ。あともう少しで京都に着くわ。』

 

「迎えに行く、それじゃ。…………悪い姉さんも今回の事前調査に同行したいってことでここに来るらしいから駅へ迎えに行ってくる。」

 

通話を終えて断りを入れ八幡は京都駅へ向かい、達也達は金閣寺へと向かいその場で別れた。

 

◆ ◆ ◆

時間が少し遡る。

清水寺で少年少女の一団が注目を受けているその視線を注いでいる群衆の中に呆然とした視線が二つあったの彼らは気が付かなかった。

 

「比企…谷…くん…?」

 

「え………ヒッ…キー…?」

 

公立高校の制服を着用している雪乃と結衣は言葉を失った。

もう会うこともないだろうと割りきっていた一人ともう一度その声を聞きたいと夢想していた少女はその光景に混乱し抜けた声を出す。

同級生達は八幡の周りに居る整った顔立ちの少年少女に目を奪われていたが二人の感心は一人の少年に注がれていた。我に返った結衣が言葉を失っている雪乃に肩を揺らし声を掛ける。

 

「ゆきのん、ゆきのんっ」

 

「……っ、え、ええごめんなさい由比ヶ浜さん…あまりの事に混乱していたわ…」

 

肩を揺らされて我に返る雪乃の表情に微笑が浮かんでいる。

それは結衣も動揺で彼女の場合はその笑みを隠すことはしていなかったが。

 

「あっ…!ヒッキーが行っちゃう…!ゆきのん行かなきゃ…!」

 

「ちょ、ちょっと待ってちょうだい」

 

雪乃が手を引かれて結衣が動き出すが突如として八幡達が動き出したことで人の波がうねりを上げ進路を塞がれ目の前にいた筈の八幡達が群衆に紛れて消えてしまった事に気が付いて結衣は気を落とす。

 

「あっ…ヒッキー居なくなっちゃった…」

 

目に見えた結衣の落ち込みに雪乃は苦笑いを浮かべていた。

気を落としてしまった友人にどう声を掛けようか、と思っていたが自分も声を掛けられなかったことに落ち込んでいた。

 

「ねねっ、二人ともさっきの人達見た?スッゴい美人とイケメンだったね!後ろにいた人達も二人に比べるとうちの男子と比べ物になら無いくらい男前だったね!」

 

「そ、そうだね…あはは」

 

ミーハー?な意見に思わず愛想笑いを浮かべた結衣。

そして雪乃はその後ろ姿を追いかけることが出来なくて後悔していた。

 

◆ ◆ ◆

 

その一方で何も知らない八幡は…。

 

「…ってことでまぁ対した結果は得られなかったんだが」

 

「そうだったの…それじゃあ今日はもう捜査は終わりね」

 

京都駅に到着した真由美に迎えに行くと丁度そのタイミングで改札から出てきたのを確認し今日のあらましを説明すると頷いた。

近くには護衛で就いていた佐織が控えており周囲を警戒してくれている格好は普段着であり黒のキャップを被ってマウンテンジャケットを羽織って辺りを見渡している。

 

「それじゃもう…今日はホテルに向かおうかしら」

 

「ああ。長旅だっただろうし姉さんも宿泊先のホテルに向かうんだろ?送るよ宿泊先は何処に?」

 

そう問いかけると真由美はイタズラな笑みを浮かべ宿泊先を告げた。

 

「CRホテル。八くんと同じ部屋よ?」

 

「はい?」

 

真由美はいつの間にか宿泊先に連絡しツインの同部屋に変更していたようだ。

その事実に頭を抱えたがなってしまったものは仕方がないと護衛を含めた三名は宿泊しているホテルへチェックインするために停められたコミューターに乗り込み数分ほど揺られると目的のホテルへと到着し荷物を下ろしフロントへ先程預けた荷物を受けとるとエントランスから見知った顔が近づいてきてるのに気が付いた。

別行動を取っていた友人達がいるのはこのホテルに泊まることは別に珍しくはないのだがその中に別学校の知り合いが混じっていたので…”無視”することにした。

 

「んじゃ姉さん此方に…」

 

そのままエレベーターへ向かうとその人物が気が付いたのか結構な勢いで突っ込んできた。

 

「おい七草!無視するなっ」

 

「姉さん呼ばれてるぞ?」

 

「呼ばれているのは八くんじゃないの?私は呼ばれるなら名前か名字にさん付けだと思うし」

 

真由美も真由美でスローライフな雰囲気であったので少年の面倒くさそうに振り返るとその少年はこちらを真っ直ぐに見ていた。

 

「…一条か」

 

「一条か、じゃない七草。なんで無視したんだ…って七草さんもご一緒でしたか。」

 

「久しぶりね一条くん。…久しぶり、と言うわけでもないけどね?…貴方も論文コンペの下見?かしら?」

 

問いただそうとしたが隣に真由美に居たことを気が付いてその問いかけは出来ずに有耶無耶になってしまったが。

 

「はい。来週の論文コンペの為の下見でして…その七草さんはどうして京都へ?」

 

「私も弟の論文コンペ下見のお手伝いですよ。時間が空いたので旅行を兼ねてですが。」

 

それらしいことを真由美は将輝に告げる。

七草と九島が協力して周公瑾を追い詰めていることを知られるのは十師族のルール的に知られるわけには行かなかったのだ。

 

どうしてここに居て幹比古と出会ったのかを話そうとしているがその内容は一目があるエントランスで言うことではないので達也が口を挟んだ。

 

「部屋で詳しい話を聞かせてくれないか?」

 

将輝はハッとして口をつぐんで同じ場にいたエリカ達同様頷いた。

 

「一条さんもこちらのホテルにお泊まりなのですか?」

 

遠回しに将輝の用事を確認する。

 

「いやここの隣にあるKKホテルに宿を借りています。…詳しい事情を自分で聞きたいと思っていましたので。」

 

(どうやら幹比古達の方で何か動きがあって一条が助けに入った…とそんな感じか)

 

八幡の推測通り別行動していた幹比古達は襲撃にあっていた。

それを京都に下調べしに来ていた一条に助けられてここにいるのだろう。そして襲撃のその理由を八幡達に聞きたいために一緒についてきているのだ。

断る理由もないため大部屋…レオ達が宿泊する部屋へ荷物をもって向かうことになった。

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