俺が七草の養子なのは間違っている   作:萩月輝夜

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思い出はセピア色だと言ったがあれは嘘だ

レオ達の大部屋についた一行…だったのだがここに本来いない卒業した筈の真由美がいることで「どうして居るの?」の深雪とエリカの視線が八幡に突き刺さるが肩を竦めてその場を乗りきろうとするが

 

(あとで”お話”してくださいね?)

 

(八幡…あとでちょーっと”お話”しようか?)

 

笑みを浮かべたりじっとりとした感情を向けられて八幡は。

 

(あ、これ後でねちねち言われる奴だこれ)

 

と現実逃避した。

 

◆ ◆ ◆

 

「去年の横浜事変で大亜連合侵攻軍の手引きをした者が京都方面に匿われていることが分かった。俺はそいつの捜索任務でここに来ている。」

 

「任務だって!?司波、お前は…!?」

 

百点満点のリアクションに八幡は内心「お前お手本みたいなリアクションするな…」と思ったとか。

 

「俺は国立魔法大学附属第一高校の生徒であると同時に国防軍第一○一旅団独立魔装大隊所属の特務士官だ。」

 

達也があっさりと自分の身分をばらした事にエリカを含む三名は目を白黒させていた。

それは将輝も一条家次期当主ではあるほどの男だったが驚愕は免れない、と同時にそれを嘘と言えなく真実であると認めざるを得なかった。

実際に隣にいる友人である八幡が驚いた様子を見せず隣に控える深雪の神妙な表情にでだ。

 

「無論これは一条、言うまでもないが他言無用に頼む。」

 

一条は「ああ…」とショックを脱しきれない表情で頷いた。

エリカはその様子をみて遠い顔をしていたがそれはさておくとして…。

 

「一条。俺たち七草家もその相手の正体を突き止め現当主である七草弘一による命令で捜索している。達也達と同じ目的だったのはつい数日前に知ってな…ところでどうして一条はここに?」

 

「そうだったのか…さっきも言ったが俺も周辺の調査を兼ねて一人で京都に来ていたんだ。そのタイミングで千葉さん達が襲撃されていて助太刀に入ったんだ。」

 

ここにいる事情を聞いて達也達は納得した。

一条が助太刀に入るほどの強敵がいたことに八幡は眉を潜めたが結果として助かっているので文句を言うのはお門違いであり感謝を述べるのが筋だった。

 

「なるほどな…エリカ達の援護感謝する。…ああ。でなんで俺たちがここに居るのかは今回大人数なのはそれと昨年の事件のようなことも起こらないとも限らない微妙な状態、そして来週行われる論文コンペの会場周辺の威力脅威の査察を兼ねてだ。」

 

嘘は言っていない。

論文コンペの現地の脅威査定は第一高校の風紀委員長としての仕事であったからだ。

九島と七草が共謀しているのを同じ十師族の一員である将輝に知られるわけには行かなかった。

 

「侵攻軍を手引きした下手人の名前は分かっているのか?」

 

将輝は視線を八幡と達也に向けた。

その問いかけにこの室内にいる幹比古も期待する強い眼差しを二人に向ける。この場にいる大半が知らない情報であったからだ。

達也が口を開く。

 

「”周公瑾”とそう名乗っていたそうだ。見た目が非常に整っており外見は二十代前半の男、本当の年齢は不明で髪が長く大陸の技法である鬼門遁甲の術を使うらしい。」

 

「周公瑾だって!?」

 

その名前を聞いた将輝は激情に駆られ大きな声を出して水波の肩がびくり、と震えていた。

反応をみた八幡は将輝を宥めた。

 

「落ち着け一条…その様子だと何処かで会ったのか?」

 

落ち着くように諭された将輝は一端の落ち着きを取り戻したが直ぐ様その整った顔立ちの緑色の瞳に怒りの炎が点り始めた。

 

「…去年の横浜で、侵攻軍の一部が中華街に逃げ込まれた。俺は中華街の住民に引き渡しを迫ったんだ。」

 

「そんなことがあったんだな…」

 

八幡と達也はそれぞれに動いていたため詳しいことを聞いていなかった。

無論横浜事変で発生した情報は無論伝わっていたが将輝のその情報は纏まっていなかったのだろうと判断してこの事に関しては将輝を責めるのはお門違いだ。

 

「予想に反して中華街の門は直ぐ様開いた。侵攻軍の引き渡しの際に先頭に立っていた青年の名前が…」

 

ギリッ、と将輝が奥歯を噛み締める音が聞こえる。

達也が将輝の代わりに名前を告げた。

 

「周公瑾、か。」

 

「そうだ、奴はそう名乗って笑っていた…!」

 

将輝が口を閉ざす。その心情を理解したメンバーで茶化すものは居なかった。

 

「鬼門遁甲ってどんな術なの?」

 

話題を変えたのはエリカだった。自分の好奇心を優先したかに見えたが将輝を思っての話題変更で間違いない。

そこから”九”の魔法師である光宣からの補足が入り鬼門遁甲の性質を解説しどのように対応するのかの話になったが術式を無力化する術を持っている八幡と達也はあまり意味の無い話し合いだな、と思い三国志の孔明が使ったとか使わなかったとかその他の雑学を交えたがその会話を打ちきった。

 

「鬼門遁甲の話は一端置いておくとしよう。今日の話だ。一条に助けて貰った戦闘は周公瑾を匿っている古式魔法師の結社である”伝統派”が幹比古が式神を飛ばしているのを自分達を捜索しているものだと勘違いして排除しに来たんだと思う。」

 

「それだけじゃないよ八幡」

 

八幡が将輝に対して今日助太刀に入った戦闘の目的を説明しているときに幹比古が口を挟んだ。

 

「僕たちを襲ってきたのは”忍術使い”だった。多分鞍馬山の術者か脱走したものだけどその中心となっていたものは大陸の亡命方術師だ。周公瑾は伝統派に匿われているんじゃない。最初はそうだったかもしれないけど今は伝統派を乗っ取ってるんだと思う。」

 

「伝統派が全部乗っ取られてるんじゃなくて一部が、だな」

 

幹比古が八幡に「どう言うこと?」という表情を浮かべ清水に居なかったメンバーは同じ表情を八幡と達也に向けている。

 

「実は此方の方でも進展があってな。その伝統派の潜伏先のリーダー…呪い師の店主から話を聞いて幹比古の考察と同じことを言っていたんだ。古式魔法師である幹比古がそう言うならその情報は正しいのかも知れない。」

 

八幡が今日呪い師の男性に聞いたことを話すと幹比古達が驚きを示す中で聞いた情報を様々に提示する。

 

「そんな結界があっただなんて…」

 

しきりに感心する幹比古と将輝は得た情報で範囲を絞っていた。

 

「京都市街区から南…というと伏見より南、宇治川より北か…それでもしらみ潰しに捜索するには広すぎるな」

 

「そもそもそのおじさんの言葉を信頼できるの?」

 

将輝とエリカがもっともな問題提起をした。

 

「漠然と京都を探すよりよっぽどマシじゃねぇか?範囲が絞られてるのならそこを調べれば裏付けが取れんだろ」

 

レオの前向きな意見に全員が苦笑いを浮かべたがその言葉の通り”実際に調べれば分かること”だと八幡は前向きに告げた。

 

「レオの言う通り”実際に調べれば分かること”だ。事実なら大きな手がかりになるし嘘であるなら今後調べなくとも済むからな。不安はさっさと潰しておいた方が良い。」

 

「では八幡さん、明日は嵐山に全員で向かわれるのですか?」

 

深雪の問いかけに一瞬八幡の返答が間があった。

 

「…全員で行くのは目を引き付けすぎるだろ。それにコンペの安全確保も疎かに出来ないし幹比古とエリカ、レオは今日と同じく会場周辺で不審者が潜んでいないか調べてくれ。光宣も悪いがそちらに合流で」

 

「…ご一緒できないのは残念ですけど八幡さんのお願いなら喜んで!」

 

一緒に行動できないのを残念がる光宣にもし犬の尻尾が付いていたのなら一目で分かるほど落ち込んでいただろうが八幡からのご指名、と言うこともあって持ち直していた。

 

そしてエリカ達が遭遇した敵の術式を確認し途中参加した将輝は深雪の一言で嵐山の捜索に加わることになった。

それはもう大層モチベーションがあがって。

 

「はい、お任せください!」

 

日曜日の向かう場所と行動指針が決まったのだった。

余談だが随員として水波もそちらに合流することになり少し不満げな顔をしていたが光宣が嬉しそうにしていたので頬を赤らめていたのを見て全員から生暖かい視線を注がれていたのはここだけの話だ。

 

◆ ◆ ◆

 

八幡達は幹比古達と分かれ痕跡を探すべく渡月橋を望む桂川の河川に来ていた。

 

「八幡さんどうしてここに?嵐山に行くのでは…」

 

「その前に少し調べておきたいことがあってさ…」

 

深雪に問いかけられて八幡がここに来た理由を答えた。数日前、京都での殺人事件が発生していたことにある。

河川敷で倒れた男性は三十代から四十代の男性ということで死因は腹部を鋭いもの心臓を貫かれて即死だったというものだったが非魔法師であればそれ程話題にならなかったが…その殺害された男性は”魔法師”であり直近で敵対している”古式魔法師”であることを八幡は佐織たちを使って調べた。

それも”鞍馬山”に属する古式魔法師であることを知り先程豆腐屋の店主に聞いた話と符合すると一致しないことになる。

 

『最後に…鞍馬と嵐山の一党には気を付けなさい。彼らはすっかりと大陸の魔法師に取り込まれてしまっている』

 

その言葉の通りならばこの古式魔法師は周公勸に反旗を翻したある意味で愛国心のある人物だったかそれとも自分が倒して今乗っ取られている鞍馬山の棟梁にでもなろうか、と考えていたのではないかと考えていた。

そんなことを考えながら河川敷に到着し殺人が行われたという現場に到着した。

 

「………。(…手がかりを追えるような証拠は無い、か…『物質構成』を使用しても意味なさそうだし『瞳』の力を使ったところで追えないしな…なにか残ってれば、と思ったんが収穫無し、か…)…。」

 

現場を見渡してみたが既に警察が見聞を下後なので当然といえば当然なのだが証拠となるものは残っていない。

仮に残っていたとしても警察に古式魔法師たちからの圧力を掛けられ遺体も残留品も引き上げられている。

 

「…ん?」

 

「無駄足か…」と思っていたときその”人物”は現れた。

茂みの向こうからガサガサ、と音を立てて飛び出してきたのを八幡以外が警戒するがその姿をみたその”人物”を知らない将輝が声を挙げる。

 

「狐…野生のか?」

 

その姿を見て真由美が反応した。

 

「あれ…あの時のキツネさん?」

 

「お前…奈良から出てきたのかワカモ…」

 

トテトテ、と真由美の近くによってお座りをするワカモはまるで「撫でて!」と言わんばかりの表情?を浮かべておりそれを見た真由美はしゃがんでワカモの喉と頭を撫でると気持ち良さそうな鳴き声を挙げ指先を舐めくすぐったそうにしている。

 

「ふふっくすぐったいわよ~…ってあなた奈良のお山にいたんじゃ…あっ」

 

「コニャ」

 

「どうしたんだ?…ってなんだこの……ってこいつは……!」

 

八幡の前にやってきたワカモ、器用に首につけたポーチから前足を使ってジッパー付きの密閉袋を足元に置いた。

なんだ…と思ってしゃがみ手にとって『瞳』を通して見るそれは”重要な証拠”だった。

 

「八くんそれは…布切れ?でもずいぶんと薄汚れてるけど…」

 

「……ああ。もうここでの情報収集は終わった…次の場所に向かおう。…ワカモ、ありがとな。」

 

「コニャン♪」

 

 

 

「一体あの狐に何を…?っておい七草っ!」

 

ワカモを撫でると人間のようにニコニコと笑っているように喜んでおり”どういたしまして”と頷いてその場から立ち去るのを確認し立ち上がり動き出しその光景を怪訝な顔で見ている将輝だったが無視して立ち上がり目的地へと歩みを進める。

渡月橋から上流へと向かい一同は嵐山公園に到着したのだった。

これは豆腐屋の店主から知らされた手がかりを示された地、周公勸が潜伏していたと言われた場所だ。

 

秋も随分と深まっているので全員厚手の格好をしている。

真由美も大学からそのまま来ている為深雪と違いフレアスカートに動きやすいスニーカーを身に付けている…がもとより運動が得意ではない彼女はアップダウンの激しいハイキングコースを歩くのは少々きついのか息を多く吐いている。

必然として八幡たち五名の歩むスピードはゆったりとする。

公園の坂を登りきったところで道が二つ分かれておりその内の一つの立て看板に「竹林の道」という立て看板があったがそれを見た八幡は「こっちに行こう」と無意識のうちに告げてそちらへ進もうとすると真由美が質問した。

 

「ねぇ、八幡くん?」

 

「ん、どうしたの姉さん。…って少しペースを上げすぎたかな」

 

真由美は自分の息が上がっているのに気がついて立ち止まった同行者を見ると誰一人息が上がっていないのを見て少しムッとしたが何事もなかったかのように振る舞う。彼女は意地っ張りだった。

 

「そうじゃなくて…迷い無く『竹林の道』じゃない方を進もうとしてたけど探すのなら進行方向から向かうのがセオリーじゃないの?なんだか避けてる気がして…」

 

「それは…」

 

真由美に指摘を受けて自分が『竹林の道』へ進む方向を無意識に排除していたことを自覚しなんとも言えない表情になっているのに気がついた。

確かに調べるのなら二手に分かれるか戻って捜索するかになるだろう。

しかし、八幡はその理由を明かす気になれなかったのは自分の”過去の出来事”が関係しているのをいくら身内とは言え明かすのは躊躇われるし無関係の将輝もいることなので憚られた。

ここにいろはがいるのならば話は別かもしれないがここで隠し事をすることは得策ではないことを察した八幡はどう説明しようかと少し考えようとしたがそれは直ぐ様打ち消された。

 

殺到する”敵意・悪意”の集団が此方に襲いかかってきたのだ。

 

「…っ!」

 

八幡はそれを検知し直ぐ様に領域干渉で対応する。

飛んできた無数の焔は八幡の対抗魔法によって消滅する。

無力化されたのに気がついた襲撃者は今度は圧縮した空気の刃を連投するが八幡の強力な干渉領域の前に阻まれ霧散する。

 

「一条、達也!」

 

「ああ!」「任せろ!」

 

真由美と深雪を挟み込むように前に八幡、後ろに達也と将輝が陣形を取る。

その直後に左右の竹林から深雪と真由美目掛け五色のヒモが伸びるが察知した達也と八幡はそれぞれに絡み付こうとしたヒモを掴み取るとそれからキャストジャミング似た波動を感じとる。

 

「(成る程な。波動をぶつけるのではなく直接ヒモを通して流し込むタイプか)…っ!!」

 

「「「「「うわぁ!?」」」」

 

掴み取ったヒモ達を八幡は身体に星辰力(プラーナ)を漲らせて通常では有り得ないバカ力で引っ張るとそんな風に対応してくると思っていないのと止められた反動で気を抜いていた襲撃者達は竹林から飛び出すように八幡の前に引っ張り出される。

 

それを切っ掛けに戦端が開かれたのだった。

先程までいた制服を着用した学生の観光客がいなくなっており周りを気にしなくて良いというお膳立てをしてくれた襲撃者たちに感謝しつつ情報を探るため一方的にボコボコにすることにした。

 

…が、将輝が自分にも伸びるヒモを吹き飛ばす為に突風を巻き起こした瞬間に真由美が捲れ上がりそうになり短い悲鳴とスカートを押さえる仕草を横目で見て視界の隅に落ち着いた色合いの布切れを脳裏に焼き付けた八幡はその状態を引き起こした将輝に感謝すると共に後で殴ろうと決意した。

 

◆ ◆ ◆

 

翻るスカートを押さえその原因である一条に恨み言をぶつけたい真由美であったがそんなことを言っていられる状態でもないのと淑女としてはしたないところを見せるわけにはいかなかった為に直ぐ様意識を切り替え八幡が調整したCADを操作し魔法を行使した。

真由美が得意とする『魔弾の射手』の原型である”ドライブリザード”だ。

銃弾より生ぬるい速度のドライアイスの雹が降り注ぐ、その銃座の数は”十”。人間の身体を撃ち抜くのに十分な威力のそれは竹林に隠れていた襲撃者をわたわたと飛び出させる。

しかし全員が全身をドライアイスの銃弾で打ち付け血の滲ませているが貫通しているものがいないのは魔法で防御したからだ。

それを見た真由美は警戒を解くこと無く構え次なる攻撃へと移ろうとしている。

飛び出してきた六名の古式魔法師は印を結ぶのを見て無意識に将輝は”侮った”。

その理由は古式魔法師が現代魔法師の発動スピードに及ぶわけがないと”知っている”からであり後衛には十師族・七草家長女の真由美がいる。先程の群体制御魔法の精密さとその発動スピードは凄まじい。

 

しかし、将輝は真由美に戦わせるつもりはなかった。

先程の『ドライ・ブリザート』も魔法力を込めれば古式魔法師の防御術式を貫通し血の海に沈めることも出来ただろうが明らかに”殺害を躊躇った、手加減していた”と理解できていた。

手加減をした結果無力化には失敗したが慌てており出てきたのは戦い慣れていない為に姿を見せた、もしくは自分達との力量を感じ取れていないかの二択だろう。

 

将輝は無意識のうちに”そう考えていた”

 

「カン!」

 

将輝が愛銃のCADを構えるのと古式魔法師の烈拍した掛け声が響くのと同時であった。

 

「何っ?!」

 

「何なの、これっ!?」

 

将輝たちの視線の先に映るもの、

それは男たち六人の左腕が肘先まで一斉に燃え上がったのだ。

 

周囲にタンパク質の焼ける匂いが将輝と真由美の鼻に突き後者は思わずCADの操作を中断し掛け口を抑えてしまったのはその光景よりも臭いで吐き気を催してしまったからか。

一方で将輝は見たことの無い光景に引き金を引くことを忘れて凝視していた。

燃え続ける左手に剣が生成される。

鋼で出来た剣、実体を持つ刃ではなく古事記に記載される直剣両刃の刃渡り八十センチ程の炎の剣が。

 

男が二人、剣を構え突っ込んでくる。

 

それに直ぐ様将輝は正気に戻り拳銃型CADを宙に投げ手首につけたCADを操作しベクトル反転障壁をその者達の進路上に設置する。

しかし、それは無慈悲に一振の炎の刃によって切り裂かれ定義破綻した魔法は破壊されてしまった。

その光景に思わず将輝は驚く。

 

「バカなっ!?」

 

目の前で剣が振り上げられるが横殴りの突風が吹き荒れ男二人を吹き飛ばす。

 

「一条くん、魔法は斬られるっ!」

 

舌ったらずなその言葉だったが将輝は瞬時に理解した。

今の突風は炎の剣によって破壊されたベクトル反転障壁が定義破綻し事象改編が引き起こされた”自然現象”であること察した将輝は”その結果として発生した現象ならば炎の剣は効果が及ばない”と。

 

後方にいた残り四名が剣を構えて突っ込んで振り下ろす。

 

「俺の”爆裂”はそんなお粗末な魔法じゃあないっ…!」

 

それよりも早く上空に手放したCADが手に収まると素早くセレクターを操作し引き金を引き絞り引き金を”六度”引くと古式魔法師の足が赤い華のように爆ぜた。

 

一人を基点としてドミノ倒しのように二人、三人…四、五、六…と餌食になり地面に倒れていく。

 

「……っ!」

 

その凄惨な光景に真由美はそっと口を抑えるが辛そうに吐き出す素振りを見せないのは彼女の淑女としての見栄かそれとも十師族の一員としてのプライドか。

対する一条将輝は悔いも迷いもない表情だった。

 

一方で達也と深雪も古式魔法師と相対していたが正面の敵を全て受け持っていた八幡。

 

真由美たちと同じように古式魔法師たちは自らの肉体を糧とした炎の剣を呼び出し八幡に襲いかかる。

その総数は”十”。

炎の剣を構え突っ込む古式魔法師に対して八幡はCADを構えもしていない

その光景はいくら八幡が最速で魔法を行使出来るとしても間合いに入られれば不利なのは自明の理。

振り下ろされる炎の刃が八幡に到達する、

かに思われたが襲いかかった最初の一人が横薙ぎに払い飛ばされて気絶したのだった。

その光景に続け、と言わんばかりだった古式魔法師たちが足踏みをしているのが見て取れた。

驚く古式魔法師の背後を睨み付けるように見つめる八幡は彼らが自らの意思で此方に襲いかかってきているのではないと見抜いた。

見てみれば彼らは自らの肉体を糧として炎の剣を出現させたとき苦悶の表情を浮かべている。

 

(操られている…周公瑾の仕業か?)

 

現代魔法師憎しで結束している古式魔法師が仲間を捨て駒にするとは考えられない。奇しくもそれはあの豆腐屋の店主が告げた事の裏付けとなる。

操られ襲ってきた古式魔法師達を殺さないように加減する為に男を払い飛ばしたのは八幡が選択した魔法は放出系統の『雷電波動』。

速度と威力が両立したこの技は調整することである技へと変化する。

 

「「……!?」」

 

「さっさと解放させてやる…こい」

 

その手に握られるのは拵えられた雷の刃。『雷電波動・霊剣』

肉体を糧にする外法ではなく収束系統を応用し雷を刀の形に押し込めた光の剣だった。

無造作に構えると其を見た古式魔法師たちは八幡目掛け剣を構えて突っ込んでくる。

振り下ろされる無数の刃よりも早く八幡は男達の四肢をその雷の刃で切り裂いていく。

 

バチり、と音を立て古式魔法師達は的確に腱を断たれて一人、二人…と次々と倒れていき一斉に攻撃を仕掛けるものの数の差など無意味、といわんばかりに一切の被弾なしに潜り抜け切り裂いていく。

それは必然で男達は剣の型など無いただ闇雲に振るっているだけでそれは”剣術”を習得している八幡からしてみれば棒切れを振るっているだけに過ぎないからだ。

 

「……っ!?……っ」

 

最後の一人は円を描くように四肢の腱を断たれた最後の男は力無く地面へ伏す。

 

「………。こいつが原因か。」

 

不意に八幡が感じ取った霊子が想子を震わせるのを感じ取りその方向へ雷の刃を延長させる。

その刃渡りは数十メートルまで延長し竹林を薙ぎ払う。

延長した、といってもそれは見た目であり実際には繋がっていない。自然界に存在する静電気を精密に操作し動かした…ように見えるが《瞳》で感じ取った霊子を頼りに地点を割り出して『次元解放』を開いてポータルから雷の刃を打ち当てたのだ。

 

知らないものから見れば雷の刃が竹林をすり抜け攻撃したように見える。

 

「~~~~~っ!!」

 

次の瞬間に何かが焦げるような音と悲鳴が木霊する。

八幡は竹林へ歩みを進め茂みの中に消え暫くして六十を越える高齢な法術師を引きずって現れた。

気絶しており普通では目が覚めないだろう。

 

「さて…どうするべきか、と思うがここから撤退した方が良さそうだな。」

 

「というと?」

 

真由美は八幡に質問する。

 

「古式魔法師を倒したことで人避けの結界が解除されつつある。」

 

「人が来る…ってことね。」

 

「正当防衛を説明できるだろうけど警察に連れていかれて無駄な時間を喰いたくない。それにこいつらを尋問したところでろくな情報は得られないだろうな。操られていたみたいだし。」

 

「やはりこの古式魔法師達は操られていたのか?」

 

声を上げたのは将輝だった。

頷く八幡とそれに同意する達也。

 

「八幡の言うとおり蜘蛛の糸のような者が古式魔法師たちの背後から伸びていた。恐らくこの法術師がしこんできたものだろうな。」

 

「そう言うことだ。…どうする達也。ここから退散するか?」

 

「そうも行かないだろう…ここは警察に連絡してこの男たちを引き取ってもらおう。流石に観光地に半損した重傷者を放置するわけに行かないだろう。…残りの捜査は八幡に任せるが良いか?」

 

「良いか…ってここに残る気か?」

 

「連絡して放置は不味いだろう。ここには俺と深雪、一条が受け持つ。」

 

「…って俺もか!?」

 

「十師族がいた方が話はスムーズだからな。深雪、警察へ連絡を頼む。」

 

「畏まりましたお兄様。」

 

「八くんは捜査を続けて。わたしも達也くん達と残って警察の方へ説明をするわ。」

 

「……分かった。」

 

こうして八幡は四人と分かれて嵐山を捜索を始める。

二手に分かれた道の先へ歩みを進め捜査をしたがその先にはめぼしいものは無く来た道を引き返すとそこには既に真由美達の姿はなかった。どうやら警察が来て重傷者と共に下山したらしい。

 

「…あまり気が進まないけど逃げるわけにはいかないよな」

 

来た道を戻り『竹林の道』へ歩みを進める八幡。

その足取りは少し重いものだったが暫くして拓けた場所へ出た。

 

「…………。」

 

拓けた場所は京都の町を一望できるスポットとして恋愛が成就する、というジンクスがある噂がある場所だった。

周囲を探るが可笑しいところはないのを感じ取り少し奥へ進み立ち止まる。

秋の夜の帳が落ち始めようとして周囲は既に薄暗い。

 

『貴方のやり方嫌いだわ…あなた一人で抱え込まないでよ…!貴方が傷つくのはもっと嫌い…!』

 

『もっと…人の気持ちも考えてよ!私、ヒッキーの事…好き、なのに!ヒッキーが傷つく必要ないじゃん!私そんなに頼りないかな…!』

 

俺の大切な二人の少女から言われたことが鮮明に思い出される。

 

「…はっ…女々しすぎんだろ俺も…」

 

奇しくも今いるところははその言葉を言われた場所だった。

自分でも女々しいと思ってしまうその過去の記憶にうんざりするが消し去れない”想い出”でもあるのだ。

 

そう想いに耽っていると背後に近づく人影があるのに気がついた。

もう二度と来ることもないだろうと眼下に広がる景色を記憶に焼き付けておこうと無視をしていたのだがそれは叶わなかった。

二人の少女による声掛けによって。

 

「比企谷くん…」「ヒッ…キー…?」

 

「なんで…お前たちが…?」

 

その懐かしい声に反射的に振り返る八幡の視線の先。

いつのまにかすっかりと暗くなりその輪郭は分かりにくいものだったが”声”で分かる。少女が二人、それぞれに黒の艶やかな腰まである長髪と桃色髪のセミロングが京都の秋風にふわり、と揺れてその姿を映す。

 

八幡の目の前には曾ての奉仕部の仲間であり大切な存在。

 

「雪ノ下……由比ヶ浜………」

 

雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣が驚愕と喜び、怒りを滲ませた表情で八幡を見つめていたのだった。

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