俺が七草の養子なのは間違っている   作:萩月輝夜

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他の小説書いてたけど…忘れてないよ?
難産だった…奉仕部のメンバーとの会話をどうするのか大変でした。
ある意味で過去に決着をつける話になります。

それではどうぞ!


過去の色は色彩を取り戻す

「よ、よぉ?一年振り…か?」

 

今、一番会いたくなくない二人の少女が目の前にいることに困惑してこの場にそぐわないことを口走ってしまう。

 

「……」「ヒッキー………(グッ!)」

 

そう告げると二人は一度顔を俯かせたと思いきや拳を握り此方へ歩みを進めるその光景はなんとも圧…もとい迫力があった。

だが可笑しい、俺の想像ならここで二人が目の前から突如いなくなった俺が目の前にいるのを理解して立ち止まり涙を流す場面じゃ…と思っていたがそれは衝撃によって吹き飛んだ。

 

由比ヶ浜が利き手をおおきく振りかぶって大振りのフックのようにぶちかます。

 

「ヒッキーの………………ばかーっ!!」

 

「へっ……ぶべっ!?」

 

それを避けきれず俺の視界が横へ逸れる。

 

「痛っ!!指に目がぁぁーーっ!?」

 

目の前にやって来た結衣によってビンタが頬じゃなくて目に当たった。

その激痛でその場で膝を着くと由比ヶ浜から胸ぐらを掴まれて揺さぶられビンタされる。

目が痛いし頬が張られるからヒリヒリする、が女子の力なのでそこまで重症じゃない…にしても頬を叩かれ続けるのは普通に痛い。

がそれに無意識に受けなければならない、とそう思ったのだ。

 

「ヒッキーのバカ!人でなし!変態!八幡!」

 

「ぶべっ…っぅあ…あがっ…頭が…揺れっ!ちょっ!別に…八幡は…悪口じゃ…ねぇだろ…。」

 

俺の名前が不名誉の形容詞と化していることに涙を禁じ得ない。

別に俺の名前は悪口じゃない。

 

「うるさいバカーーっ!本当に…いなくなって………ぐっす…っ…死んじゃったかと思ったんだからぁ……!ぐすっ…ひっぐ……うぇ~~~~ん………!!」

 

ぺちぺちと叩いていた平手から今度はポカポカ、と俺の胸を叩く。

整合性の無い罵声?を浴びせたかと思いきや胸に飛び込み顔を埋め涙を流し俺の服に由比ヶ浜の涙がついた…ってお前俺の服がぐちゃぐちゃになるだろうが…っ離れろ!と言いたかったがまるで身体が鎖で繋がっているようで引き剥がせない。

胸に飛び込み泣いている由比ヶ浜を俺はなすがままに抱き止め引き剥がそうと肩に触れようとする。

 

「相変わらずなのね比企谷くん…その女心の無さは感心するわ」

 

此方へ艶やかな黒髪を揺らし歩みを進めて毒を吐く美少女をみて懐かしさが込み上げるがその言葉に思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 

「雪ノ下……相変わらずの毒舌だな…ばか言え俺だってこの一年で同級生とキョドらない程度にまではなせるようになったつーの…。」

 

「あら?貴方が女性に気を使ったことがあったかしら?そのまま由比ヶ浜さんの肩を掴もうものなら警察につき出さなくていけなくなるわ。それと貴方が女性相手に挙動不審にならないのは解釈違いよ。」

 

「おい待て。お前から見て俺どんな風に見られてるのか詳しく教えろ。てか現在進行形で俺の服が由比ヶ浜の涙と鼻水でグッチャグチャにされてるんですが?クリーニング代請求すんぞおい……ってかお前もこいつを引き剥がすの手伝ってくれません?」

 

由比ヶ浜を挟んで俺たちは言い争い?をしていた。

 

「あらいいじゃない。由比ヶ浜さんの感涙を染み込ませた衣類を着れるなんて光栄でしょ?エロ企谷くん」

 

なんつー不名誉な名字弄り…てかもうその名字じゃないけどな。

 

「良いわけあるか…つか久々にあったのにその反応はねぇだろ。毒舌に磨きがかかってんじゃねーか」

 

そう告げると雪ノ下は得意気にしている。

久々に溜め込んだ毒を吐いたお陰か先ほどの表情より健康的に見えるのは気のせいか。

 

「お陰さまで。私の溜まったフラストレーションを不満を他の人にぶつけるのが出来なくてイライラしていたの。貴方にぶつけたくて仕方なかったわ。」

 

要約すると”俺に会いたかった”と言っているようなもので自覚したのか顔を赤くしてそっぽを向いている。

…というのはあまりにも自意識過剰か…てか恥ずかしいなら言わなきゃ良いだろ」

 

「黙りなさい、少し見ない内に自意識過剰になってしまったようね…比企谷くん?」

 

どうやら俺の心の声が聞こえていたようでキツめにピシャリ、と言い放ってきた。

 

…だがこの言い争い?をしているとあの時のように戻ったような感覚を覚えてしまう。

俺が雪ノ下に反論を告げようとしたときに第三者の声が胸元ですぐ聞こえ割って入った。

 

「わ、わたしを無視して二人で楽しそうに会話しないでよっ!?ヒッキー!ゆきのん!!」

 

俺の胸の中で涙と鼻水を…ってうわお前ベッタリつけてんじゃねーかよ…離した顔はおおよそ年頃の異性に見せられない程ひどい顔になっており目は赤くなり顔がぐっちゃぐちゃだ。

だがな由比ヶ浜、そのコメントは語弊があるから訂正しておく。

 

「…お前は俺と雪ノ下が楽しそうに会話してると思ってるのか…だったら眼科か耳鼻科に行くことを勧めるぞ?」

 

「そうよ由比ヶ浜さん。私が比企谷くんと楽しそうに会話をしているだなんて不愉快だわ。訂正することを要求するわ?」

 

「あれぇ!?わたしここで怒られる場面なの!?しかも二人して同じ意見なんだ…って酷くないっ?!」

 

由比ヶ浜が俺から離れ真ん中に移動し抗議するが俺たち二人の言葉で轟沈しいつものような光景を思い出す。

それは俺でなく由比ヶ浜が笑みを溢す。

 

「ぷっ…あはははっ!」

 

「…ははっ」

 

「…ふふっ」

 

その顔を見合わせて俺と雪ノ下は笑みを浮かべる。その瞬間はあの放課後の時間に戻っていた。

 

◆ ◆ ◆

 

「…そっか。あの日あんなことがあったんだね」

 

「本当に貴方は…そう言うのに首を突っ込むのが好きね」

 

「……向こうから突っ込んできたんだ。俺は悪くねぇ」

 

再開の喜び?を浮かべた後に竹林に置かれたベンチに女子二人を座らせて俺はベンチの直ぐ側でもたれ掛かるように立っている。

雪ノ下からは呆れられた。何でだよ。

 

俺、雪ノ下、由比ヶ浜の手には自販機から購入した暖かい飲み物が手に握られてる。

総武中学から消えてから今日に至るまでの経緯を語れる範囲で話す…と言っても全てを話すのは憚られた為所々で濁して説明をする。

 

「はぁ…本当に比企谷くんは…一度刺されるべきね。」

 

「ヒッキー…サイテー」

 

「なんで急にディスった?」

 

「それに…貴方一色さんの受けたそうね。どうしたの?」

 

唐突に後輩の名前が出て噎せてしまった。あ、折角のマッ缶がもったいねぇ。

 

「んっ!?…げほっげほっ!?な、なんで告白されたことお前ら知ってるんだ…!」

 

「あら?別に言ってないけど?”受けたの?”と聞いただけよ?カマを掛けたら引っ掛かってくれるなんて本当に貴方は…」

 

「ヒッキー…」

 

二人して俺へ抗議の視線を向けてくるが俺は首を横へ振る。

 

「された、って言っても受けてねぇよ…そもそもあいつが俺に恋愛感情があるわけ無いだろ。昔の事で関係のある同じ中学校の先輩と後輩ってだけだ。」

 

「……」「いろはちゃん…」

 

言葉もなくただただ聞いていただけだったのに同級生の話をしたら急に刺してきた。何でだよ。

それに一色に告白され事をカマ掛けられて話してしまい答えたがなんとも言えない感じに…俺が残念な奴にみられてしまった。何でだよ。

 

俺は逆に気になって質問した。

 

「つか…てかなんでお前らが京都(ここ)にいるんだ?」

 

それに由比ヶ浜が答えた。

 

「私たち昨日から修学旅行なんだ奈良、大阪、京都って…それで京都にいるんだよ。まさか…もう一度京都に来ちゃうとは思わなかったけど」

 

そう答えたのは由比ヶ浜、補強するように雪ノ下が答える。

 

「ここに来たのは偶然よ。……いや、足を運んでしまったと言えばいいのかしら。あの場所をもう一度みておこうと思って、もう二度と来ることはないだろうから。」

 

「わたしも、ゆきのんと一緒、かな」

 

「ごめんなさい…らしくもないことを話したわね、それより貴方はどうしてここに?」

 

一瞬だけ寂しそうな表情を浮かべたが気のせいだったと言わんばかりに切り替わり俺へ声を掛けてきた。

 

「学校と家の用事だよ。聞いたことあるだろ?論文コンペ。」

 

そう告げると由比ヶ浜は頭に「???」と浮かべている…ってこいつは”論文コンペ”自体なんなのか分かってないんだろう。

雪ノ下は「なるほど…」と納得してくれたようだ。

 

「でもここで会えたのなら中学みたいにまた連絡とか取り合えるってことじゃんね!」

 

「由比ヶ浜それは…」

 

「…いや、取り合わない方が良いわ」

 

「え、ど、どうして…?ゆきのんだってヒッキーとお話したい、って言ってたじゃん!」

 

明るい声色だったが雪ノ下が否定するとその表情は曇天のようになり苦しそうだったがすぐさま反論する。

 

「…一色さんの言葉を忘れたのかしら?比企谷くんはもう一般人ではないのよ…その地位も存在も非魔法師である私たちとは重圧が違う」

 

「なんで!どうしてそんなこと言うの!?ヒッキーと一緒にいたいって言ってたのは」

 

「私だって………!一緒に昔みたいに…居たいわ。比企谷くんと…でもそれは許されないことなの」

 

遮るように雪ノ下は立ち上がりヒステリックに反応する由比ヶ浜と座ったまま理知的に判断する雪ノ下の言葉を聞いて俺は判断を求められたし当事者である俺がこの件に挟まらないのも可笑しな話だ。

二人の舌論がヒートアップしてきていたのを理解した俺は落ち着かせる。

 

「おい、まず落ち着けよ。勝手に二人で俺の立ち位置を決めるな…」

 

「………ごめん」「すこし、熱くなりすぎたわ…ごめんなさい」

 

その反応を見てあの灰色の青春に色が未だ残っていたことを理解”してしまった”。

ああ、そうか。

 

「…正直、あの中学時代は思い出したくもない記憶が沢山残ってる。正直過去の知り合いとやらを名乗る連中全員と縁を切りたい、とさえ。」

 

「………」「………」

 

俺の中学時代に何があったのかを理解している二人は黙って聞いている。

 

残したい記憶も沢山あったんだ。お前達と一緒に過ごした中学時代を。

 

入学して早々に由比ヶ浜の飼い犬を庇うために足が変な方向に曲がってすこし休んだり変な部活に入れられて変な依頼を解決したり、初めて女子と部員の誕生日プレゼントを買いに行くために買い物に出たり、同級生のバイトを辞めさせ進学できるように助言したり、文化祭の成功のために身を削ったりや後輩の生徒会選挙の手伝いを…なんてラノベの主人公でももうちょっと盛られるような事件の日々は金では買えない大切な経験と思い出だ。出来ることなら金を積んでも経験したくない経験だ。

一部は思い出したくもない記憶が混ざってるがな。

 

まぁその中でも唯一雪ノ下達と出会えたことが偶然であり奇跡だったのだ。

 

その大切な思い出だからこそ、隔離して記憶にしておきたい。だからこそ告げなければならない。

俺はーーーー

 

「だから…雪ノ下の言う通り俺たちはもう会わない方が良い。俺は魔法師でお前らは非魔法師だ。立場も役目も違う。きっと巻き込む。魔法師のそのいざこざに。だからこそあのとき俺はお前達から姿を消したんだ。だからこそはっきり言う………。”俺のことなんか忘れてくれ”って。」

 

突き放す、冷たい言葉を選んだ。

 

「………そう」「ヒッキー……」

 

雪ノ下は呟いて由比ヶ浜は今にも泣きそうな表情にしている。

罪悪感で胸に穴が空きそうだ。”そう思えるほど”に俺は彼女達を信頼していた、と。

 

不意に口が開いた。呆れたように。

 

「そこは本当に変わらないわね貴方は。自分を悪者にしようとするその精神、嫌いだわ。…でも」

 

雪ノ下が此方に問いかける。

 

「貴方は、どうして私たちを突き放したいのに…今にも泣きそうな顔をしているの?」

 

「…え?」

 

そう言われて自分が泣きそうになっているのに気がついた。

溢れそうな”ナニか”が溢れないように上を向く。

 

「………そこは『貴方らしい素晴らしい考えね』って言うところだろうが?」

 

「ぷっ……あはっ、はははっ」

 

再び軽口を叩きその光景をみて由比ヶ浜が吹き出したところで俺と雪ノ下は顔を見合わせてなんとも言えないような雰囲気になったが次の言葉に二の句を告げなくなってしまった。

 

「うん、ヒッキーはやっぱりヒッキーだった。変わってなくて…安心したよ」

 

「……」

 

由比ヶ浜は涙を流して納得させるための言葉を告げる。

 

「確かにわたしたちとヒッキーじゃ立場が違う。でも心の距離は一緒。”大切な人”って言うのは変わらない。」

 

それを受けてなのか雪ノ下も立ち上がって此方に振り向く。

 

「だからこそ私たちは貴方の意思を尊重するわ。」

 

「例え、そばにいれなくても。必ず近くにいるから。」

 

そして声を重ねてあの時、この場で言われた言葉を二度告げられた。

俺は本当の意味をここで理解したのかもしれない。”大切な少女達に言われたあの日の言葉の意味”を

 

「わたしは」「私は」

「そんな比企谷八幡が大好き”だった”よ」「そんな比企谷八幡が大好き”だった”わ」

 

「…ありがとう。」

 

嘘偽りのない俺の鍛えた心理状態を把握する《瞳》ですらそれが”嘘ではない”という結果が。

俺たちは踵を返してその場を後にする。振り返る際に彼女達の目尻に涙が溜まっているような気がした。

その言葉に俺の心の固い部分が一部、ひび割れたような感覚を覚えた…気がした。

 

歩みを始めてから少し立ち止まって振り返り後ろを見るがもう二人の姿は見えなくなっていた。

 

「………さよなら、二人とも。」

 

別れの言葉を告げた、告げられた筈なのだが、妙な爽快感が俺の心に広がっていた。

京都に来たときよりも軽い足取りで嵐山公園から立ち去る。

もう、後ろ髪を引かれる思いはもう無かった。

 

◆ ◆ ◆

 

「お帰り八くん…って妙にスッキリした顔をしてるけどどうしたの?」

 

「…いや、なんでもない。それよりお疲れ。随分と疲れてるみたいだけど…」

 

嵐山公園からホテルへ戻ると既に姉さん達が警察から解放されたようで全員いたがその表情は疲れきっている。

よっぽど担当した刑事が曲者だったんだな、と。

それに近くにいる表情に出にくい筈の達也達も心なしか疲れているように見えた。

誤魔化しながら話をする。

 

「そういや一条は?ホテルに戻ったのか」

 

「一条くんなら金沢に戻ります、って言って駅にそのまま向かって帰ったわ。」

 

「成る程。」

 

「そっちは何か手懸かりが見つかった?」

 

「…いや。特に何も手懸かりは無かった。山登って夜景を見てきただけで終わっちまった。…無駄足だったな」

 

…実際には昔馴染みと話して決着が着いたといえば良いのか分からないけどな。

と素直に説明も出来ないので俺の胸の中に仕舞っておこうと思う。

話していると俺に気がついた深雪が駆け寄ってきたのに気がついて思わず頭を撫でようとしていたのは当人が疲れきっていた表情を浮かべていたのが悪い…悪いのか?

 

「深雪も押し付けるようなことをして悪かったな」

 

「いえ。お気になさらないで下さい八幡さん。あの場で全員が拘束される方が問題だったと思います。それに嵐山がもう目的の場所ではないと言うことが分かったではないですか」

 

「そう言って貰えるのは…まぁ…ありがとう」

 

「「「え?」」」

 

深雪の前向きな発言にすこし救われたような、罪悪感を覚えながら表情には出さずにいたが下手すると気づかれてるかもしれないがここで追求してこないのは…本当に気がついていないのかもしれない。という意味で深雪の言葉に感謝を述べると姉さん、深雪、エリカが声を揃えて俺を見る。それに達也達もだ。

 

「ビックリした…なんだよ急に俺に視線を向けやがって。なんか変なこと言ったか?」

 

「八くんが」

 

「他人に」

 

「感謝の言葉を…」

 

「「「「言った…?」」」」

 

視線が集中し俺は思わず眉をひそめてしまったのは心外な言葉を投げられたからだ。

 

「失礼な奴らだな…俺だって感謝の言葉くらい述べるわい」

 

「いや、だって…」

 

エリカが口をだして

 

「そんなことを言ったら絶対…」

 

「『やることやっただけだ、時間外報酬を貰わないと割に合わない』って言うつもりでしたよね…?」

 

「俺そんな風に見られて…って深雪俺の真似したの…?」

 

深雪が俺の真似をしていた。

俺ってそう言う風にみられていたのか…?まぁでもそう言う風に返していたのかもしれないが…。

 

「って姉さんなにしてんの?近いんだが…?」

 

「熱は…ないわよね?どうしちゃったの一体…?具合悪い?」

 

気がつくと俺は姉さんの手のひらが額に当てられていた。

ヒンヤリとした小さな柔らかい女性の手が当てられて気持ち良さもあり恥ずかしい。

心配そうに見つめている…がそろそろ離れてくれないと

 

「先輩ナニしてるんですかねぇ~?あと八幡はなんで顔を赤くしてるのかなぁ?」

 

「七草先輩?公衆の面前で弟とはいえそのような行動は恥ずかしいものだと思いますので…離れていただけますか?」

 

案の定二人が何故か怒っている。

ああ、俺が公衆の面前で不埒なことをしているからだろう。

 

「深雪。ここはホテルの利用客も使う場所だ。落ち着きなさい。エリカも八幡と痴話喧嘩は程程に。それに七草先輩も…出来れば自重してください。八幡、お前もだぞ?」

 

いや、何でだよ…と思っていると達也の指摘に深雪は反省しエリカは腕を組んでそっぽを向いて姉さんは顔を赤くして恥ずかしそうにしている。

 

そのつぎに三人の視線が俺に向けられると「お前のせいだ」と言わんばかりの抗議の視線が向けられた。

解せぬ。

 

と、まぁロビーでの会話をしていると達也から声が掛かり宿泊の部屋に移動し今日会ったことを報告することなった。

会場周辺の確認を行っていた幹比古からの報告は「問題ない」と言うのが上がっていた。

 

「前日にあれ程の騒ぎがあったんだ。警察が人員を導入して周辺を警備していたし直近で外国人が騒ぎを起こすのは無理だと思う。ましてや去年のような事件は起こらないと思うよ。」

 

「お前達が身体を張ってくれたお陰で、論文コンペの安全性は確保されたわけだ。」

 

「身体を張った…と言われればそうかもしれないけどさ」

 

達也の言葉に幹比古は微妙な顔をしていたが前日あれ程の騒ぎがあったのだから警察も動かざる得ないだろう。

あれだけの騒ぎにお馴染みである”古式魔法師が関わっている”となれば京都の警察達はその顔色を変えなくてはならないのは必然と言えた。…先の横浜事変のような事で京都を焼くようなことがあれば全員の首が飛びかねない。

論文コンペが開催されるまでは警備を増強するだろう。

 

その報告の最中レオとエリカが普段のようにコントをしているのを見ながら今度は俺たちの報告が始まる。

達也が先んじて説明してくれたため俺が説明することは無かった。

達也が先の戦闘で古式魔法師が使っていた炎の剣の正体…後ろで一条の魔法が消されていたのを《瞳》の能力で把握していたので気になっていたのだがやはり幹比古は知っていたようで『倶利伽羅剣』という技でそのモチーフである不動明王の利剣を象った古式術式で”魔”を切り裂く…というのもあって無力化する対抗術式とのことだ。

その発生方法を聞いてまともに使える術式ではないようだ。

 

エリカが興味深そうに呟くのを見ていて幹比古が「どうしてそんなことを?」と聞き返してきたので俺が口を挟む。

 

「使う奴がいてな。それで一条の魔法を無力化してた。かなりの使い手だったが」

 

「そんな使い手が居るなんて…かなりの手練れだったんだね」

 

「まぁあの場に達也と一条と深雪、姉さんもいたからな。対抗は容易?だったのかもしれんな」

 

「そんな相手がいるのならあたしも戦ってみたかったな~」

 

エリカが羨ましそうにしていたがあの場面を見たらぶちギレるだろうな…と思っていると達也と視線が合い頷いてここは黙っておくことにしようと決意した。

 

「そう言えば八幡さんは嵐山公園の奥へ向かわれたのですよね?何か進展はありましたか?」

 

光宣がその質問をしてきたので当然答える。

 

「無駄足だった。痕跡もなければ襲われたこともない。ただただ京都の夜景を見てただけだ。…ただ、嵐山周辺には周公僅はいないだろうな。」

 

「と、言いますと?」

 

「敵意…というか別系統の術式の流れが感じ取れなかったんだ。」

 

「なるほど…」

 

光宣が納得した、と言わんばかりに頷く。

実際に俺はただただ雪ノ下と由比ヶ浜に会って喋っていたわけではなく確りと調査をしていた。

大陸術式の残留…調査の結果それが見られなかった。全く無いわけではなかったのだが”薄過ぎた”んだ。

俺も全ての大陸式の術式を把握しているわけではないが”それとなく”構造は把握できる。

 

その事を告げると一応全員が納得をしてくれたようで何よりだった。

 

「さて、話も纏まったところで今日のこれからについてなんだが…」

 

「えっ?今日はもうチェックアウトして東京に帰るんじゃないの?」

 

達也が口を開きその事にエリカが驚く反応をして見せた。

本来なら夕方にチェックアウトして東京に戻るつもりだったのだがそうも行かない。

 

「皆は予定通りチェックアウトして東京に戻ってくれ。俺はもう一泊していく。明日もう一度警察に引き渡した捕まえた連中の奴らの事を聞いてくるつもりだ。」

 

「お兄様それでしたら…」

 

まぁ当然というか深雪も残ることを言い出したので流石に達也に怒られていた。「生徒会長が学校を休みのは不味い」って言われて従っていた。同時にエリカも残ろうとしていたが釘を刺されて退散した。

 

「…悪いが俺もやることがあるから姉さんと一緒に残る。」

 

俺の言葉でレオと幹比古を牽制すると面白くなさそうな表情をしていた。この戦闘狂いどもめ…。

女子二人は俺へ疑いの視線が俺に刺さる。何でだよ。

当然ながら幹比古は突っ込みをいれる。

 

「八幡だって風紀委員長なのに2日連続で不在なのは良いのかい?」

 

「俺がいなくたって副委員長の雫がいるし幹比古がいるだろ…それに俺は”立場上”調べておかないと行けない仕事があるからな。公休、って訳だ。」

 

ぶっちゃけると家の仕事なので公休扱いである。十師族万歳。

 

「つか、達也は良いのかよ」

 

「ああ。俺も八幡と同じく”立場上”もう少し調べなくてはならないからな。」

 

そう達也が告げるとレオ、幹比古、エリカは達也の本職を知っているのでそう言われてしまえば邪魔することは出来なかったようだ。

 

「それでしたら僕も引き続きお手伝いします。」

 

ただ一人を除いた現地協力者である光宣が引き続きの手伝いを申し上げてきた。

それを聞いていた達也はどうしたものか…と困っているように見えたのは気のせいか。

俺は敢えて光宣に対して断りをいれた。

 

「いや。光宣は明日学校に行ってくれ。これ以上俺たちの仕事に巻き込むは申し訳ないからな」

 

「そんな!僕も十師族の一員です。ですから」

 

「…光宣。お前論文コンペティションのメンバーの一人なんだろ?俺たちとつるんでいてちゃんとしてない論文を発表して笑い者にされても良いのか?」

 

「むぅ…」

 

その事を指摘すると可愛らしく不貞腐れる光宣を見て良くない感情が生まれそうになったがこれ以上巻き込むわけには行かない。

 

「…それに体調が良くなったんだ。素直に学生生活を楽しんでおけよ」

 

説得が通じたのか光宣は頷いた。

 

「…分かりました。ですけど当日はお手伝いさせていただきます。」

 

不承不承、といった感じだったが思うところがあるのか納得してくれた。

…しかしこう九島家の子供を顎でつかっていいのか悩ましいところではあるが…。

一方で深雪が達也に一度は宥められていたが「やはり私も…」と言い始めたので俺が「堪忍して」と告げると悲しそうな表情をして良心が痛むが流石に達也の言うとおり生徒会長が学校を蹴って調査のために京都にいる、というのは外見が宜しくない。

 

一先ず深雪達を駅まで送って光宣は九島からの迎えが来たのでそれに乗って無事帰宅したのでこの場に残った俺と姉さん、達也は一度ホテルへ戻る道すがら達也と並んで会話をしていた。

因みに護衛の佐織は暇を出したので今ごろ京都グルメを楽しんでいる筈だ…それで良いんか?

 

時刻は七時。丁度腹が減っている丁度良いタイミングだった。

 

「…そういや達也夜飯どうするよ。近場で済ませるか?」

 

「そうだな…この辺りにチェーン店があった筈…あれだな」

 

達也が近くを指差すと全国展開しているサイゼイヤの姿が。そういや最近いってなかったからな…

 

「おっ、マジか。じゃあ」

 

「……………。」

 

行くか、と思った矢先に達也が予定を変更した。

 

「…いや。すこし用事があったのを思い出してしまった…八幡は七草先輩と食事を楽しんでくれ。俺の事は気にしなくて良い。すこし早いですが七草先輩。失礼します。」

 

そう言って達也はホテルの方へ足早に戻っていってしまった。

…用事って言うと軍関係の仕事か。やれやれ休みだっていうのに大変だな達也は。

そんなことを思っていると姉さんに腕を絡め取られた。

 

「良い時間帯だしお夕飯食べに行きましょう。折角なら京都の美味しい料理が食べたいわよね」

 

それには同意だった。

 

「うーん…あ、そう言えばここのホテルの案内にレストランがあったわね。そこで頂きましょう?」

 

「予約を取っていないと無理なのでは?」

 

「大丈夫よ。もう既に取ってあるから…そうね八時に行く事にするから着替えていきましょう。」

 

「用意周到すぎるんだが…」

 

何となく達也が”用事がある”という建前でいなくなったり理由が分かった気がしたが姉さんを前にそれをいう勇気は俺にはなかったしすこし楽しそうにしているその姿にその反抗心が消え失せた、といった方がいいかもしれない。

俺は姉さんとともにホテルに戻り着替えてロビー地下にあるレストランへ赴いた。

 

「やっぱり八くんはスーツの方が似合ってるわね。」

 

念のために持ってきていたカジュアルスーツを身に着けレストランへ入っていく。

そんなに格式高い感じではなく普通の良いところのレストラン、という感じだ。

 

「殺し屋見たいってこと?」

 

「もうっ、そんな物騒なのじゃないの!…ただ、本当ににあってるなーって…それよりも」

 

「似合ってるよ姉さん」

 

食い気味に姉さんのドレス姿を誉める。

荷物が多かったのはそれが原因かという理由がそこにあり身に付けているのはそこまでお高いかんじのものではなくカジュアルなAラインの黒のワンピースに同じ色のレースが重なっているワンピースを着用し装飾と靴もそれに合うようなデザインを身に付け普段のウェーブ掛かった長髪は後ろで纏められポニーテールのような状態になっており新鮮だった。

 

「ありがとう…それじゃあ座ろうか」

 

ウエイトレスに案内された席へ向かい姉さんが座る椅子を引いて座るように促し「ありがとう」と言葉を貰って反対側に俺が着席しウエイトレスが持ってきたメニュー表を開いて食事を頼んだ。

冒険して失敗したくないのでメニュー表に写るコース料理を二人選択し来るまでに姉弟らしい会話をしていた。

ここで”魔法師”関連の話題を出すのは憚られたのは今日京都の町を散策して分かったことだが京都人は魔法師という人種が嫌いなようで目線が冷ややかであることを知っていた。

その為遮音フィールドを展開できないので普段通りの会話を意図してしていたということだ。

 

しばらくして料理が運ばれ舌鼓を打ち食後のコーヒーを楽しんでいたのだが…

 

「八くん?バーにいきましょう」

 

「…俺、未成年なんだけど?」

 

「八くんの見た目ならお酒を頼んだって分からないわよ」

 

それってつまり俺は老け面なのか…とちょっとショックを受けた。

姉さんに腕を引っ張られレストランの近くにあるバーへ連れていかれ中に入る前に耳元に囁かれた。くすぐったい。

 

「ここでは…私の事を『真由美』って呼んでね?『姉さん』は禁止だから。」

 

そう言われ腕に密着する姉さん。くっつきすぎだからな?

 

「なして?」

 

そう問いかけると真由美は顔を赤くして素直に答えた。

 

「好きな男の子と……恋人っぽいことをしたいの。今は…姉と弟じゃなくて…大人っぽいことをするの。だから私も八くんの事を『八幡』って呼ぶからね?」

 

「…わかったよ。真由美」

 

その仕草と言葉にドキリ、としてしまった、一体全体どうしたんだろうね俺は…。

小さく洒落た店内はカウンター席が数席ある程度であり奥には俺たちよりすこし年上のカップルが一組いるだけであったがなんともムーディーな雰囲気が漂っている。それにバーカウンターにいる日焼けた引き締まったガタイの良い身体のバーテンがその雰囲気を高めていた。

 

俺は姉さんをカウンターの反対側に座らせて俺はその隣に座った。

 

「マスター、アレキサンダーを一つ。八幡は何にする?」

 

「マックスコーヒーを一つ。」

 

そう言うとバーテンは俺を見て「かしこまりました。」と告げて冷蔵庫を開くとカクテルグラスに注ぎ込む。

てかあったのか…と感心していると姉さんはジト目で俺を見ている。しょうがないだろう…カクテルなんか種類知らないしあと糖分補給したかったから良いじゃん。

 

格好のつかないカクテルグラスを小さく掲げ乾杯し口を付けると甘味が広がっていく。

これだよこれ。

ツマミで出された一口チョコや柿の種を少しづつ食べている。

 

「…ねえ八幡。」

 

「どうした?」

 

柿の種を頬張ってカクテルグラスが空になったのでバーテンが注いでいるのを見ていると質問してきた真由美の方向を見ると聞くか聞かまいかで悩んでいたが決心が付いたらしい

 

「今日私たちと分かれた後…何かあった?」

 

核心を突かれるような言葉に思わずカクテルグラスを倒しそうになるがそこは自前のポーカーフェイスで誤魔化そうとしたが

 

「何かあった…ってさっきも言ったろ?収穫無しでただ夜景見てきただけ」

 

「嘘」

 

姉さんは俺の目を見て「嘘だと」ピシャリと言い放った。

 

「だってそうじゃない。ロビーでの会話で深雪さんの言葉に素直に感謝するなんておかしいもの。普段の八幡ならそんなこと言わない。」

 

真っ直ぐに目を見られていて今日は少し目力が強い気がするのは酒が入っているからなのかも知れないし恐らく今の状態ではぐらかしても納得しないだろうしな…。

 

「分かった。俺の降参だよ…」

 

俺は仕方なく、というよりも白状する形で嵐山公園での出来事を語った。

 

「…と言うわけ」

 

「京都に修学旅行に来ていた二人と会った…すごい偶然ね」

 

「…正直もう会う気も会わないと思ってたからビックリしたのは確かだな。」

 

流石に全ての流れを説明するのは恥ずかしいので少しぼやかした内容だったが姉さんは納得してくれたようでカクテルグラスを少し傾けていたが疑惑の目を向けられた。それも少しトロンとしていた。

 

「でも本当にそれだけ?…特別な、その…二人だったんでしょう?その…告白とか…いやご免なさい、軽々しくきくことじゃなかったわね」

 

聞きづらそうに、だが気になってしょうがないという風に感じられて少し苦笑いをしてしまう。

ここまで踏み込んできているのは酔いが回っているからだろうか…前の俺なら拒否反応を示していたけど今はなにも感じない、どっちかというと苦笑い…気まずい感じなんだが

 

「いいよ別に。」

 

「そっか…」

 

そう言って三杯目のカクテルを飲む干すのだった。

 

◆ ◆ ◆

 

「姉さん飲みすぎだって…だからいっただろう?」

 

「らいひょうぶらもん…お姉ちゃん、おとなだもん…」

 

バーを出た俺たち、というか姉さんの足取りは案の定ヤバイぐらいの千鳥足でありこれがもし大学のコンパならば今ごろお持ち帰りされていても可笑しくない状況だった。つかアルコール度数20越えてるのペース早く飲んでたからなぁ…しかも5杯も。

 

なので俺は今姉さんを背負って宿泊先の部屋へ移動していた。

 

「寝る前に水飲めよ姉さん。明日絶対二日酔いになるからな」

 

「う~ん、わかったー。はちくんだいしゅき~♪」

 

俺の背中に猫のように顔を擦り付けてくるのと同時に柔らかいものを押し潰すように当てているので非常に不味かった。

 

うんダメだなこりゃ。

 

姉さんを背負い無事に部屋へ到着し扉を開けて椅子に座らせた後に部屋の冷蔵庫にあるミネラルウォーターのキャップを捻って外しコップへ注ぎ渡し水を飲ませる。

飲み干しコップをテーブルにおいて姉さんはベッドに倒れ込もうとするが明らかに距離が足りておらずあわや地面へ激突する、ところで受け止めた。

 

「はちくんーだっこー♪」

 

「………はぁ」

 

酔って幼児退行してしまった義姉をお姫様だっこしてベッドに腰かけさせた。

 

「寝るなら服を脱いでくれよ?皺になっちゃうぞ…ってなにを…って俺の目の前で脱ぐんじゃないっ!」

 

今にも寝てしまいそうな姉へ「服を脱ぐように」と催促すると案の定目の前でドレスを脱ぎ始めたので慌てて退避するを選択したが…

 

「ひとりじゃ脱げないから…てつだってよー」

 

…もう絶対に姉さんに酒は飲ませねぇ。と心の中で決意しさっきまでのドキドキを返してくれ、と言わんばかりに無心で姉のドレスのボタンを外す作業が始まった。

 

「あん♪はちくんにさわられたー!」

 

うんしかし、見ながらではないと女性の服のボタンを外すのは難しい。

肩から衣服を脱がすとき鎖骨部分を触ってしまって「きゃー♪」という悲鳴をあげられて俺の精神値がガリガリと削られる音が聞こえた。

 

結局その日は別々のベッドで寝ていたが腹が減って夜中に満たすため背徳の有名チェーン店のラーメンとチャーハンを〆に食べに行き戻って寝床に入ってその日を終えることにした。色々あったからな許してほしい。

 

翌朝……寝ぼけた姉さんが俺のベッドに潜り込み朝下着姿の状態で気まずい状態になったのはまぁ…想像通りだった。

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