俺が七草の養子なのは間違っている   作:萩月輝夜

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【古都内乱編】これにて終了です。



年貢の納め時だオラァ!!

翌朝、やはりと言うか案の定二日酔いになった姉をホテルにおいて周公僅がいそうな鞍馬山の連中が隠れているという場所を襲撃しその建物にいる古式魔法師にインタビュー(隠語)して聞き出すが目ぼしい情報は引き出せなかった。

古民家に古式魔法師放置してきたがまぁ問題ないだろ。

因みに達也とは別行動でした。

 

そろそろホテルのチェックアウトが近づいてきていたので姉さんと共に東京へ帰るために戻ると恥ずかしそうに目を逸らして頬を赤らめていた。

「ひどい」とか「約束がちがうわよぉ…」何て事を言われたがはてなんの事だか。

 

「あんなに飲むのが悪いんだろう…あと姉さんは酒禁止な」

 

「うぐっ……はい。」

 

昨日の自分の姿を思い出したのか力なく頷くが次に話そうとしたことは言いづらそうにしている。

 

「えと…その…八くん。私はどうして…ガウンの半脱ぎで八くんのベッドで寝ていたのかしら…?」

 

今姉さんの姿は私服に着替えており下着姿ではないが現場保存でもしているのか真由美が寝ていたとされるベッドに脱がされたワンピースが置かれていた。

 

「さぁ?自分で脱いだんじゃないの?ベッドに潜り込んできたのは寝ぼけてたからでしょ。」

 

「ぬがせてー」と言ってきたのは真由美だろ…?と声を大にして言いたかったがこれ以上言うと恐らく顔を真っ赤にして踞るだろうから憚ったが。

 

「本人が覚えてないのなら俺がわかるわけないでしょ?んじゃそろそろ帰ろう。チェックアウトも近いしな」

 

決まった…さて帰ろうと思った矢先に姉さんは再び顔を真っ赤にして唇が俺の耳たぶに触れるぐらいの距離で恥ずかしそうにカミングアウトした。

 

「えと…その…。私お酒があんまり強くないのは…知ってると思うけど…実はその…記憶は確り残るタイプなの…」

 

「は?」

 

この瞬間俺は「あ、終わった」となった。

 

「あ、あんなに乱暴に服を脱がせて…ベッドに押し倒すことはなかったんじゃないかな…///」

 

「………少なくとも俺のベッドに入ってきたのは姉さんの意思だぞ」

 

「………///」

 

そう、真由美に「脱がせろ」と指示を受け恥ずかしくなった俺は少々乱雑にワンピースを脱がせそのときに大人っぽい下着を直視して気恥ずかしくなり部屋に備え付けていたガウンを着せてベッドに叩き込んだ。

その後ベッドに潜り込んできたのは「あなたのせいです」と示すとお互い顔を逸らし赤くして大層気まずい雰囲気のなかで同じ長距離移動列車に乗って東京へ帰宅した。

その間会話が「ああ」とか「うん」とかなくてめっちゃ気まずかったけどな!

 

その事を香澄と泉美から指摘されて結果俺の部屋に突撃されて両サイド占領されて寝ることになった。

 

「すぅ……すぅ……お兄さまぁ…」

 

「むにゃ…おにぃ…えへへ…」

 

一体なんの夢を見ているのか気になったが幸せそうに寝ている妹達を起こす気力も気もないので俺はするり、とベッドから抜け出して台所へ向かう。喉が乾いた。

 

「ん?明かりが…父さんか?」

 

扉を開けるとそこにいたのは想像していた人物ではなかった。

 

「…あれお兄ちゃん?どうしたの?」

 

その場にいたのは小町で冷蔵庫から牛乳を取りだしそのまま飲んでいた。

 

「少し眠れなくてな…てかお前その牛乳コップにいれて飲めよ…」

 

「残り少しだったからコップ使うの勿体無いでしょ。洗うの面倒だし。」

 

合理的なんだが一応お前も七草の令嬢なんだからそこは気を使えよ、と思ったが俺も七草の息子らしいことをしているかといえば微妙なので口には出さなかったが。

 

「飲む?」

 

小町が牛乳を差し出してきたが「いらね」といって首を横に振るとそのまま飲み干しそうな勢いで牛乳パックを傾ける光景を呆れながら冷蔵庫の戸棚から今日京都駅で買ってきたご当地抹茶オレのプルタップを開けて飲む。

 

「うわめっちゃ濃いなこれ…ん、ほら」

 

小町も気になったのか「頂戴」という表情を向けていたので渡すと飲みきった牛乳パックをシンクにおいて水でゆすぎ抹茶オレの缶を渡すとちびちびと飲み始めた。

 

「うわ濃っ」

 

同じような感想を述べるのは兄妹だからだろう。

そしてなにも言わずにリビングに置かれたソファーへ移動し腰を掛け距離的には一人分開けている。

小町に新しい缶ジュースを渡し俺は飲んでいたのを受けとる。

 

「ありがと」

 

「ああ。」

 

「………」

 

「………」

 

お互いに無言、室内には父さんの趣味で置いているアンティークな発条式の時計が置かれており時を刻む音が響き渡っている。

 

「京都に向かう前よりずいぶんと顔色が良くなった気がするけど…何かあったでしょ」

 

何かあった?でなく断言する辺りうちの小町は鋭いな、と他人事のように思ってしまったがなにも反応しないわけには行かない。

 

「…京都で雪ノ下と由比ヶ浜に会った」

 

「そっか…雪乃さんと結衣さん元気だった?」

 

一瞬驚いたのか声が止まったが何事もなかったように会話を続けた。

 

「ああ。出会った瞬間に由比ヶ浜にビンタと拳貰って雪ノ下からは毒舌をプレゼントされたよ」

 

「それはそれは…ご愁傷さまだったねお兄ちゃん」

 

「まぁ…でも俺が自分であいつらを突き放したのが問題だし…殴られてしかるべきだからな。」

 

「痛かった?」

 

「ああ。頬が痛い」

 

「じゃなくて。そっちは心配してないけど…大丈夫だったの?」

 

物理的な痛みではなく心理的な方を心配していたようだ。

 

「……大丈夫。折り合い着けて俺の意思も伝えてきて…まぁ納得はしてなかったんだろうけど…納得してくれたしな」

 

「なにそれ……でもまぁお兄ちゃんだし…ね?」

 

やれやれ、妹は兄に厳しいらしい。

 

「…あの中学時代も悪くなかった、ってそう思えるようになっただけでも十分だろ。まぁクソなのは当たり前なんだがな?……それに最後二人に告白された。」

 

その事で少し驚いているが直ぐ様いつものような表情に戻る。

 

「それで…どうしたの?」

 

「俺が答えを言う前にフラれちまったよ。告白と同時に拒否の返答を用意してるとかあいつら天才だったな。」

 

「そらそうでしょ。お兄ちゃん奉仕部のメンバーをそう言う目でみてなかったから…あーあ。あんな美人な二人と後輩一人を袖にしたんだからこりゃ地獄行きですな~………散々苦しめられたんだから幸せになってねお兄ちゃん。お嫁さんは何人居ても小町は気にしないから」

 

爆弾を投入して来た。ナニを言い始めるんだ小町ちゃんよ…。

 

「世間体を気にしてくれよ…」

 

「何だかんだでお義父さんもなにか考えてるんじゃない?お姉ちゃんとか泉美とか香澄とかいるし一夫多妻でも平気だって。ほら、お兄ちゃんは優秀な魔法師なんだから子孫を残さないと」

 

「なんか生臭い話しになったな…そもそも俺と結婚するようなやつは遺産目当てに決まってる。」

 

「はぁ…やっぱりそこはお兄ちゃんだよね…ガンバレー七草家の姉妹たちー」

 

「感情がないなってるじゃねーか…」

 

◆ ◆ ◆

 

十月二十七日。論文コンペティションの開催を明日に控えた第一高校の面々は前泊することになり金曜日の午後から京都へむかうことになった。

機材を乗せたトラックとメンバーを乗せたバスごと移動できるカートレイン(長距離移動型高速車両)、いわゆる貨物列車に搭乗しカートレイン乗り場がある京都郊外の駅に移動し京都市内の宿泊先のホテルへ移動する。

 

先週泊まったCRホテルに再び宿泊することになったのだが…うん。やっぱりここ高いホテルだよな?

早いうちに贅沢の味を覚えると人間元に戻れなくなるからな。ほどほどが一番だ。

 

ホテルにある会議室を借りて第一高校の風紀委員会の集会をすることになった。まぁ決起集会みたいなものだ

渡辺先輩のような話し方は無理だが。

 

「今年も論文コンペが明日に控える。昨年は大事件になった今年は念には念を入れて、という感じで警備は厳重だ。が、どうしても室内、発表者の警護は俺たちの仕事だ。発生すると俺たちの信頼ががた落ちするので全力を持って警護をするように。まぁここにいる面々は狼藉者を取り逃がすようなことはないだろうがな?」

 

そう言うと風紀委員会の面々は不敵な笑みを浮かべる。うん、士気が高いのは良いことだ。

その後注意事項を説明し解散する面々のなかに居た雫と幹比古を呼び止める。説明をしておかなければならない。

 

「雫。一時的に風紀委員長の権限をお前に委託する。…悪いが家の仕事をこなさなきゃならない。」

 

「うん。任せて。こっちの方は問題ないから」

 

雫は微笑んで頷いた。

 

「悪いな。…それと幹比古、雫と一緒に会場警護を頼む。」

 

「任せて。一緒に行けないのは残念だけど…」

 

「十師族のゴタゴタに巻き込むわけには行かない。それにお前の力を借りるわけには行かないしなそれに…」

 

「それに?」

 

「美月がこっちにいるんだ。守ってやれ」

 

余計な一言だとは思ったがなぜか言っておかなければ、と。

 

「なっ!?」

 

「くすっ…」

 

「北山さんまで…八幡っ」

 

幹比古は顔を赤くして怒っていたが雫の笑みでばつの悪い表情に変わっていた。

緊張しすぎも良くないからな。

 

「…余計なお世話だったかもな。それじゃ頼むぞ。…今夜中に戻ってくる。」

 

「…気を付けてくれ。」

 

「八幡。気を付けてね。」

 

「行ってくる。」

 

そう言って俺は会議室から出てホテルの外へ向かう。

到着したのは駅近くのコインパーキングに止めてあるキャンピングカー…を改造した七草家の実働部隊の移動拠点へ改造された装甲車両だ。

荷台のドアに備え付けられた指紋認証をパスして扉を開くとそこには室内の壁一面を覆い尽くさんばかりのモニターが設置されておりその部屋の中心に”スクアッド”の面々が終結している。

 

「首尾は。」

 

「ターゲットに動きはないようだ。現地点では補足地点より気配は残っている。」

 

「しかし…面倒なところに隠れましたねぇ…”木を隠すなら森のなか”とは言いますが…」

 

「……国の内部に国賊を匿うなんて大分軍内部も腐敗が進んでるみたいね。ほんと最悪。」

 

「仕方ないんじゃない?国防軍も利権の喰い合いで身内同士で潰し合ってるしね。組織って言うのはどこも同じだよ。まぁあっちに比べれば大分マシだって割りきらないと。」

 

「確かに…向こうの”あれ”は最悪だった。先…もとい八幡がいなければ大変だった。」

 

「世知辛いですねぇ…どうして自分の地位を捨てるような真似をして上へ目指そうとするんでしょうか?バレると分かっているのに…大人って言うのは不思議な生き物です」

 

まぁお前らが戦っていた?大人は子供を食い物にする最悪な奴だったが…というかあいつらの陣営キャラ濃くない?家系ラーメンのスープぐらい濃い。

 

と、それはさておき。

 

「さて…お喋りはそこまでにしろ。国防軍が関与していたとしても関係ない。敵であれば潰すだけだ。佐織。図面を出してくれ。どこにいる?」

 

スクアッドの会話をききながら国の一部であろうが国防が関わっていることに呆れた。

利権の食い潰しをするのはいいがその皺寄せが俺たちに来ることは間違いない。

現に”魔法師への悪感情を増大させている”すなわち知り合いが危険な目に遭う可能性が高まる、ということに他ならないため堪忍袋の緒が切れそうだ。

 

佐織が端末を操作して地図データを表示する。

周公僅が潜伏しているとされる地名と建物の名前が出て溜め息しかでない。

 

「裏付けは?」

 

「国防軍の情報部署をハッキングして裏付けは取れている。場所は…国防陸軍宇治第二補給基地。恐らくは基地司令が匿っているのだろう。だがどうする?既にこの場所は国防軍の情報部署に察知されている…それも独立魔装大隊にな。」

 

佐織たちが察知している、すなわち俺たち以外の第三者も知っているとイコールであり鉢合わせする可能性があったが気にしない。”せいぜい利用させて貰うだけだ”と。

 

「作戦を通達する。日没と同時に俺が基地に突入し撹乱し周公僅を炙り出す。お前たちは外へ逃げようとする対象の確保だ。」

 

「「「「了解」」」」

 

「それと…恐らく四葉家の縁者と遭遇するだろうが友好的に接するように。邪魔するなら痛め付けても構わん。」

 

指示を出して俺は外へ出る。

ここに来る途中で既に私服に着替えているので人目の着かない所…地下駐車場へ移動し呼び出す。

 

「『コール・ドラウプニル』」

 

地下駐車場にバイクのエキゾースト音が響き渡る。そこに出現したのは白いバイクではなく青色のバイク。

フルフェイスのバイザーを下ろして鍵を回し股がりアクセルを吹かし目的地へ向かうことにした。その道中で達也からの「お知らせ」があったので急ぎバイクを高速に乗せた。

 

◆ ◆ ◆ 

 

国防軍宇治第二補給基地。

 

「周先生。もうお立ちになられるのですか?」

 

「ええ。どうやらここを嗅ぎ付けられてしまったようです。波多江大尉。名残惜しいですが」

 

本当に名残惜しそうな”演技”を見せる周公僅を匿うのはこの基地の中隊長である波多江という男は近代魔法を「百年足らずの歴史しか持たない成り上がり者」と考え込む人間で自らの正義感を信じ周公僅の言った「自分は横浜事変に関わっていない」という言葉を信じてしまっていた。いや信じ込まされ現代魔法師、即ち十師族の追撃、報復から匿うようにこの宇治基地へ置いていたのだ。

 

「仕方がありません。向こうには九島閣下がおられますからね」

 

明日の早朝、九島家が裏から手を回して軍の監査部署からの基地査察が行われることになっていた。

波多江にはそれを止める権限を持っていない。

 

「もっと仙術についてお教え頂きたかったのですが…」

 

「わたくしめはまだまだ駆け出しの道士に過ぎません。他人へ教えを解くなど恐れ多いのです。」

 

やんわりと拒絶の言葉を波多江へ伝えるが気にした雰囲気などなく心配するようにしていた。

 

「それでいつ頃ご出立に?」

 

「夜の内においとまさせていただこうかと。」

 

そう告げると波多江は私物の車両を用意することを提案した。

私物であれば盗難防止の追跡装置は切ることは出来る。

 

「何から何まで、お心遣い感謝いたします。」

 

周は丁寧に頭を下げて感謝を示した。本心ではそう思っていなくとも。

 

◆ ◆ ◆

 

達也に指定された場所へ到着して雑談に興じていると少し遅れて赤いバイク此方へ向かってくるのを確認しお喋りをやめてそちらへ視線を向ける。

此方へ向かってきたバイクは直前で停止しフルフェイスを外すとムカつくくらいのイケメンである一条が姿を現す。

 

(赤が好きだな本当に…)(赤が好きな奴だな…)「……」「………」

 

赤いバイクに乗ってやって来た一条をみて恐らく同じことを持っていたのだろう達也へ視線を向けると少しそらしたのでやっぱり同じことを考えていた。

 

「待たせたな。」

 

某蛇のようなことを言いやがって…と思ったがお前には貫禄が足りてない。出直せ、と言いたかったがおふざけをしている場合ではないので達也から説明がされた。

周公僅の潜伏先、一条が来る前にすりあわせをしていたらやっぱり知っていたようで驚きはなかったが一条は表情に出るレベルで驚いていたが俺と達也は既に国防軍の戦力と真正面からやりあった経験は既にある。

 

「んじゃまぁ行きますか。日没時刻になったら俺たちはフェンスを突っ込んで基地に潜入する。で。お前はどうする?」

 

「どうする…ってそれは…」

 

「これは明らかな違法行為だし犯罪だ。”今なら知らんふりして関わらない”って選択肢もある。一条。選べ」

 

悩んでいる様だが時間がない。ここで「参加しない」となれば俺的に目撃者がいなくなるので”本来の魔法”を使いやすくなるが戦力は多い方がいい。

向こうは軍の基地部隊。普通に考えれば死にに行くようなものだが…

 

「……俺も行く。俺があの場であの男を取り逃がしたりなんかしていなければ片がついていた話だ。知らん顔は出来ない。」

 

責任感があるいい奴、だと思うが素直すぎるのも考えものではあるが今はいい。

 

「そうかい。んじゃまぁ行きますか…達也」

 

「ああ。…八幡、一条。開始五分前だ。準備しろ。」

 

「あいよ」

 

「分かった。」

 

俺たち三人はヘルメットを被り同時に黒、青、赤のバイクが並走し基地へと向かうのだった。

 

◆ ◆ ◆

 

「光宣様。此方でお待ちになられるのですか?」

 

「そうだよ。」

 

その口調は八幡達、ある意味で目上の人間に使う言葉遣いではなく人を使うことに慣れた人物の話し方だ。

それは真に”尊敬をしている人物”にのみ使われていることを。

 

「周公僅が脱出したらここを使用するはずだ。そのとき僕がここで足止めをしなくちゃならないからね」

 

「しかし、宇治川を渡るにしても大島にも橋はありますが…」

 

躊躇いがちに光宣の言葉に疑問を呈した。

もし周公僅が主が提案したルートから外れ別のルートで移動した場合無駄足になってしまうことを危惧してだ。

しかし。

 

「あちらは高架橋専用道路でしょう?一旦架橋に上がってしまえば逃げ場は限られる。鬼門遁甲を有効に使うには八方向へ移動する自由が必要さ周公僅は高架橋を使わないよ。」

 

「ですが…」

 

「うるさいな」

 

ぴしゃり、と言い放つ。それはただ一言だったが高圧的だった。

 

「僕の推理が間違っているとでも言いたいのか?」

 

ボディーガードは閉ざした口から反論する言葉は出せなかった。

光宣の発する覇気がそれを許さなかったからだ。

 

◆ ◆ ◆

 

基地に侵入した俺たち三人。

当然だが正面ゲートからノックしてもしもーし!状態でお邪魔したため基地の敷地内に警報が鳴り響く。

激走する三台のバイク。各々が手に三丁の特化型を握り魔法を発動する。

達也は敷地内にある監視カメラを片っ端から”分解”していた。

 

「なんだその魔法は!?」

 

「質問をしている場合か」

 

それはそうだが一条の疑問も良く分かる…まぁあれって『霧散霧消』だよなあれ…まぁ咄嗟に名前で呼ばないだけ危機意識はあるらしい。

 

「そうだぞレッド。今はお喋りしている暇は…ないっ」

 

俺は手にした《フェンリル改》を正面に突きつけトリガーを引く。

次の瞬間に武装した兵士達が感電するように地面へ崩れ落ち武装を手放し気絶する。

放出系統魔法を【次元解放】内部のポータルに順次待機させた【ガルム】数十丁を待機させ【フェンリル改】のトリガーを引くことで連動し発動するようにした新たに作った機能《ハイパーデュアルキャスト》を応用し発動する魔法は《スパーク》。まぁ俺版【這い寄る稲妻(スリザリン・サンダーズ)】って言った方が良いか?

その効果は有効だったようで既に出てきている歩兵…中隊規模を無力化している。

 

「…なんだその魔法は」

 

「な、なんだその呼び方はっ!お前のその魔法もなんなんだ!」

 

二人して聞き返すな。耳が痛い。

 

「只の【スパーク】だ。それより目の前に集中しろ!」

 

「確かに。それより燃料の分解が遅れているぞ?」

 

「今やってる!手間が掛かるんだよこれは!」

 

一条が行っているのは達也が分解した車両や戦車の燃料を引火しないように分解し無害な物へつまり気化しているのだが圧倒的にその作業行程は俺たちが発動している【分解】や【次元解放】と同じかそれ以上だろう。

 

「爆発させるだけが芸ではないだろう?」

 

「当たり前だ!」

 

威勢の良い返事を返しながら担当する兵器を無力化していく二人と此方へゴム弾を発射しようとしている兵士達を殺すわけには行かないので無力化していく

 

が、手当たり次第に出てくる兵器、人員を無力化していると銃撃が激しくなる。

ゴム弾では止められない、と判断したか装備が実弾へ変更されハイパワーライフルを持ち出すものまで現れた。

 

「くっ…!」

 

「……っ!」

 

一条と達也は咄嗟に遮蔽物へ待避して防御障壁を張るが俺はそのままバイクに股がったまま突撃する。

 

「おいっ!!撃ってきたぞ!」

 

「ここにいる兵士は嵐山のように操られているようだ…」

 

重力障壁を展開し歩兵を無力化して弾幕の嵐を止ませひと安心…と思いきや建物の影、格納庫から戦車が現れる。それも一機ではなく八機が戦列を組んで現れた!ってドラ○エみたいだなー。

 

「おい戦車まで出てきたぞ!っ…八、……っ!!」

 

次の瞬間、戦車から発射された溜弾と掃射機銃の雨霰が俺目掛け降り注ぐ。と同時にアクセルを踏み込む。

後ろで一条が俺の名前を言い出しそうになったがそれすら消し去る勢いの殺意の波が押し押せる…まぁなんとかなる

遮蔽物に隠れている二人にもその勢いが流れていた、がそれは衝撃だけで銃弾は届いていない。

 

「その姿は…!」

 

「な、なんだそれ…?」

 

後ろから達也達の驚く声が届く。まぁ見せてなかったからな当然か。

 

「『タイプエンド・ドラプニウル』…!」

 

煙が晴れて銃弾の嵐を只一人仁王立ちで佇む俺…もとい【自立稼働装着変形二輪型CAD(ドラウプニル)】2号機を身に纏う俺の姿に驚いているようだ。

 

『退いて貰う』

 

人間の顔のような頭部のツインアイが点灯しレッグホルスターから抜き出した1本の柄を抜いて無造作に横一文字に振るう。

 

次の瞬間には八機いた戦車の攻撃オプションは全て無力化された。機銃、砲身は全て鋭い刃物で切り落とされたように鈍い音を立てて落下する。これも別世界で習得した【剣術】だが…が、そんなことを説明している場合ではなかった。ついでに動けないように【雷電波動】を発動し機械を無効化、中に乗っていた人間も感電して動けないだろうなとなったところで動くものを遠くに見つけた。奴だ。

 

『行くぞ。目標を確認した!』

 

「なに…?…ちっ…!見つけたぞ周公僅っ」

 

「……」

 

俺たちは基地内部の混乱に乗じて脱出を図ろうとする見目秀麗なスリーピースをつけた男がセダンに乗り込み南ゲートから脱出しようとしているのを。

 

『逃がすかよ…まぁ俺に認識された時点で逃げることなんて出来ないんだがな』

 

”周公僅”という男の情報体を認識した。がそれだけでは逃げられる可能性が高い。

 

が、しかし。

 

『コニャン』

 

一週間前宇治川で狐から渡された血で汚れた切れ端に染みた被害者の血液。

それが周公僅の腕部分。その一か所に異物が混入したままであった。

 

俺は装備を解体することなく装着したまま飛行魔法を発動し追いかけた。

決着の時は近い。

 

◆ ◆ ◆

 

八幡の決意とは別に周公僅は追い詰められていた。

”警戒していた魔法師の一人が”突如として自分の前にいるからだ。

 

「九島光宣!何故ここに!?」

 

その姿にらしからぬ動揺を見せていたが周は車の追突防止装置を解除しアクセルをベタ踏みし正面にいる光宣を引き殺そうとするがそれはキャンセルされた。

直前に軽くあげられた光宣の右手がそれを差し伸べると次の瞬間に車のボンネットが爆発を起こしたのだ。

エンジンが爆発を起こす寸前に周は車の外へ飛び出す。

 

周を見る光宣の視線を感じとりその背筋に冷たいものを感じ取った。

この往来で時間帯は歩行者が歩き中には学生や対向車が走っているのにも関わらず躊躇せず周を爆殺しようとしていたのだ。

他人を巻き込むことに抵抗がない、その事に彼の警鐘を鳴らし素早く周は懐から令牌を取り出して化生体ではなく幻獣をけしかける。それが今出来る対応策だと直感で悟っていた。

 

黒い一角獣が令牌から飛び出し凄まじいスピードで光宣を刺し殺さんと突撃する。

それは避けきれぬものであり光宣を刺し貫く…がそれはするり、と通り抜けていった。

その幻影の術を周は知っている。「【仮装行列(パレード)】」だ。

 

その術を知っている周は今の攻防で「破ることは出来ない」と察知し逃走に方針転換をした。

その姿を見て光宣は右手を翳すと雷光が襲いかかり周へあた…る事はなくその付近1メートルに直撃するその光景に首を傾げ微笑むその姿はこの世のものとは思えぬ美貌は天使のようであったが周からしてみれば【メフィストフェレス(悪魔)】そのものだった。

 

雷光がずれたのは周の鬼門遁甲によるものだ。

が、そのズレというのは大きいものはなく現在進行形で雷光がすぐ近くで炸裂している。狙いを大きく外すように仕向けているのにも関わらず。

 

周は懐から令牌から召喚した数多い幻獣をけしかけると同時に黒いハンカチを取り出し目の前に広げる。

影の幻獣達が悉く光宣をすり抜けていくその隙に黒いハンカチが地面へ落ちると先程までいた周が消えていた。

 

「あとはお願いしますね。八幡さん達」

 

光宣は宇治川は下流に目をやって無邪気に微笑んだ。

 

◆ ◆ ◆

 

周公僅は宇治川の下流を陰に隠れながら逃走していた。

水滸伝で有名な「神行法」という道術だ。

 

先程出てきた基地へ逆戻りする形になっているが途中で高架道路の橋へ跳び移り対岸へ逃げる算段を立てていた。

 

が、しかしその途中で少女が上空より現れた。

 

「なっ!?」

 

着地した少女は黒いキャップを被り近未来的なマスクを着用し左手にナイフ、右手にフラッシュライトを装備し明らかに往来で活動する姿ではないことを理解した周。しかしその事に反応するのはコンマで遅かった。

 

フラッシュライトで照らしその体から影が延びたその瞬間。

 

「精神干渉系魔法か…っ!!」

 

地面へ延びた影目掛け投擲され突き立てられたナイフ、その切っ先が周公僅の”足部分”の影へ突き刺さると立っていられないほどの激痛を覚え咄嗟に白いハンカチを広げてその姿を覆い隠し激痛を無力化するツボを押して意識から排除し予備に持っていた最後の令牌を懐から取り出す。

 

白いハンカチが落ちその先に黒キャップの少女の姿は既におらずそこにいたのは赤い拳銃形態のCADを手に携えた凛々しい顔立ちの少年がそこにいた。

 

「一条将輝…!」

 

「久し振りだな周公僅。あの時は随分と虚仮にしてくれた。」

 

周が宇治川に飛び込もうとしたその瞬間に水面が爆発し水飛沫が飛び散る。

 

「一条家の『爆裂』を前にして材料となる水に入るのは入水自殺と同意義だぞ」

 

背後からの声に周公僅が振り向く。

 

「司波達也…っ!」

 

鬼門遁甲を用いてその隣をすり抜けようとしたがその眼前に鋭い手刀が眼前に迫っていた。

その威力を知っている周公僅は感覚のない両足でバックステップをせざる得なかった。

 

周公僅は再び二人の間に挟まれた。がそれでも隙を突いてこの状況から脱出を図ろうとしていたが。

 

が、それはもう既に”詰み”だった。

 

『年貢の納め時だぜ。周公僅。』

 

上空から声が掛けられ気配をそちらに向けると蒼い装甲に身を包み飛行魔法で浮かびフルフェイスを解除しその中にいる特徴的な《瞳》と彼が一番警戒している人物が見下ろしていたことに。

 

「七草八幡………ッ」

 

前後を将輝と達也に挟まれ左右と上下は八幡によって囲まれていた。前門の狼後門の虎左右のチーターである。

端的に言うならば今の状況は絶体絶命でありながら周は笑みを浮かべていた。

それは虚栄心か心からの自信なのか。

 

「お縄に着け周公僅。ここでの生殺与奪は俺たちが握っている。」

 

「ここまで、ですか」

 

周公僅は大きな溜め息を吐いて次の瞬間に将輝へ跳躍を行う。

が、その瞬間に将輝の持つCADが魔法を発動しほとんどのタイムラグなしで【爆裂】が炸裂しふくらはぎという局所的な一部、血液が気化し炸裂し地面へ血液をばら蒔いた。

無様に周公僅は地面へ転がり一条が投降を促す。

 

「確かにここまでのようですね…」

 

膝から下が使えない筈の周公僅は幽鬼のようにゆらり、と立ち上がる。

俺はその光景に危機感と”悪意”を感じて叫ぶ。

 

「ですが、あなた達では私を捉えることは出来ない」

 

「二人とも下がれ!」

 

仮面のような笑みを浮かべる周公僅が次に起こす行動を察知した。

 

八幡が叫ぶと同時に二人は周公僅から離れると同時に身体から血液が吹き出し赤い血が赤い炎に変わる。

 

「私は滅びても、例え死すともその存在はあり続ける!ハハハハハハハハ…ッ!!」

 

不気味なほどの高笑い。

その燃え盛る炎で周公僅の肉体は文字通り”燃え尽きていく”

 

「……ッ!!…逃げようとしても無駄だつったろ…『年貢の納め時』だオラッ!!」

 

肉体が崩壊すると同時にナニかが飛び宇治川の上流に移動するのを確認した八幡は《瞳》で捉え迷うことなく黒いCADを向けてトリガーを引き絞った。

 

『……………!!』

 

次の瞬間に宇治川上流で”ナニか”が弾ける気配が広がった。

燃え尽きる炎が消えた後骨すら残っていない。まさに跡形もなく、だ。

静寂が川辺に広がる。

 

「本当にこれまで…か?」

 

将輝が問いかける。

 

「ああ。終わった。文字通り跡形もなく、な」

 

周公僅が行ったのは自爆。

その際に周公僅から”魂”が抜けるのを感じ取った八幡は素早くCADを向けて【次元虚空霧消】で逃げようとする周公僅の魂を消し去った。

これで完全に”周公僅は肉体的にも精神的にも死亡した”ということになる。

 

が詳しいことを知らないその複雑すぎる魔法を行使する同学年の男に呆れていた。

 

「これで…横浜事変の片はついたのか?」

 

「ああ。間違いなく解決だろ。」

 

「だが、危うかったな。」

 

将輝が問いかけると達也が振り返る。

 

「なにがだ?」

 

「危うく内戦に発展するところだった。国防軍が操られて戦車まで出てきて…被害者がでなかったのが不思議なくらいだ。」

 

「市街地で既にドンパチしたんだ。ある意味で内戦に片足を突っ込んでいるのに変わりないだろ?」

 

「そうだな。」

 

そういうと三人は顔を見合わせて笑みを浮かべた。

 

「ならば、事態の早期収束、拡大前の内乱の鎮圧で『めでたしめでたし』ということか。」

 

「そうとも言えるかも知れんな」

 

「んじゃまぁ帰るか…あ、折角だし飯食いに行こうぜ」

 

「お前この状況で良くそんなことを言えるな…まぁお前らしいと言えばお前らしいのか?…ははっ」

 

一条が笑い釣られるように達也と八幡も笑い声を挙げる。

三人の少年の笑い声は秋夜の風に消えていった。

結局その後後始末を其々の部下に任せ夕飯を取りに行った。サイゼリヤに。

 

◆ ◆ ◆

 

翌日の十月二十八日の日曜日。

論文コンペティションの当日。結局間に合った俺は九校の合同警備隊の現地部隊の指揮官として会場警備に当たっていた。

 

「件の人物。一応七草、一条が解決したことになったらしい。それにあの司波達也も。」

 

「なるほどね…一応これも義父さんの筋書き通りって訳か。」

 

その警備の合間、休憩時間にロビーの一角でコーヒーを一口含みながら会話する。

その場にいるのは俺と黒いキャップを被った一般高校の制服を着用した佐織だ。

 

「まぁ一条が入り込んできたのは予想外だっただろうが当主としては修正範囲内、と行ったところだろう。」

 

「…なーんか義父さんの手のひらで踊らされているような。」

 

「…仕事を終えたのだ。胸を張って良いだろう」

 

窘められたように誉められ微妙な感じがしたが些細なことだろうと残っていたコーヒーを飲み干し立ち上がる。

 

「それじゃご苦労さん。今日は全員で京都観光でもしていてくれ。」

 

手を振りその場からはなれて俺は仕事に戻ることにした。

因みに今年度の論文コンペの優勝は光宣がプレゼンターを勤める第二高校が優勝した。

光宣が登壇したときに会場が良い意味でどよめいていたのは印象深い。

 

こうして横浜争乱から続くある種の因縁が決着した。

今年はもう問題が起こらないことを祈りたいものだがな?

 

◆ ◆ ◆

 

その頃七草本邸でも論文コンペティション以上の真剣な会議が開かれていた。

 

「お聞きしましたとおり当家の養子である七草八幡は無事任務を成し遂げました。先の功績を鑑みるに七草次期当主に相応しい実力、ならびにその人間性に達しております。」

 

名倉が七草分家を集めての分家会議で弘一のとなりに立ち報告する。

その結果を分家の当主達は「うんうん」と満足げに頷いている。

その最中に弘一が口を開いた。

 

「今回の件。息子を試すテストのようなものであったがそれを無事に成し遂げた。結果は最上級。被害は最低に。これ以上ない結果であることは分家の諸君も納得して貰えるだろう。」

 

「確かに。七草の血を引いていない者がここまでの…重ね重ねの結果を産み出している。否定することはありますまい。」

 

分家の家長…その一人が口を開くと他分家の家長も頷く。

ほぼ、決定事項であった。

その進行役、七草家当主である弘一が告げた。

 

「では、七草家次期当主を正式に七草八幡を指名したいと思う。そして彼を”正式な七草家の息子”として認める。異論のある方は?」

 

「異議なし。」

 

「私もです。」

 

「異論はありますまい。」

 

「私もありません。」

 

「異論はありません。」

 

「同じく。」

 

集った七名の分家当主達が口を揃え「異議なし」と告げた。

 

「では。その様に。その件については新年の分家本会議で決定しようと思う。ご苦労様でした皆さん。」

 

それを皮切りに分家が会場から出ていく。

最後に残り退出する際に弘一は口角を少し上げた。

 

◆ ◆ ◆

 

同時刻。

長野県の山奥の県境に程近い人里からそれは少し離れた表札の無いポツリとある質素な平屋の住宅でありテラスに置かれた木製チェアにもたれ掛かりながらゆらりゆらりと揺られて膝に狐を抱えて耳を傾ける黒髪の女性がいる一軒家にて。

 

「ん……あの子は無事に解決したみたいね」

 

そう告げると膝にいる狐が返答するように鳴き声を挙げる

そのお返しに頭を撫でると気持ち良さげにしていた。

 

「…これでほぼ八幡の七草次期当主の座は固いわね。下手に関わるよりそっちで当主になって貰った方がお婆ちゃんは嬉しいかなー…ん~?……ありがと。」

 

肩に止まった赤い鳥は伝え終わりました、と言わんばかりに再び飛び立った。

 

「ふーむ、次の慶春会で次期当主を決めるのか…まぁ深夜の所の深雪ちゃんが固いだろうねぇ…まぁどうでも良いけど仕掛けるなら今かなぁ…」

 

”何処から”か仕入れた四葉の情報を聞いてうんうんと頷く女性は立ち上がる。

その表情は少し寂しそうだ。

 

「…そろそろ”秘密”を教えても良い頃合。長かったなぁ……力を失ってしまった私にはできないことだけど…八幡ならこれで”あの子”を救ってあげられる……力が開花した八幡ならきっとね。…………うん、そうと決まれば八幡達に手紙をだそう♪『久しぶり八幡、小町…今度』…っと」

 

目蓋が薄く開眼する。

そこには八幡と同じような”黄金色”を秘めた瞳が輝きその笑みと雰囲気は”四葉真夜”に良く似ていた。

美女は快晴の秋空を降り注ぐテラスで文をしたため始めた。

 

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