俺が七草の養子なのは間違っている   作:萩月輝夜

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八幡と小町の出生判明回。
割りと「いや、そうはならんやろ」という突っ込みが来そうですが…


真実は時に残酷に

年の瀬も近い12月29日。

俺たち兄弟は七草家から婆ちゃんから来るように指定された目的地へ向かうために荷物をパッキングしガレージにある【自動変形装着可変CAD(グレイプニル)】の三号機であるタンデム前提タイプの【ダインスレイブ】に荷物を積み込んでいた。

 

「はい。お兄ちゃん。これ」

 

「サンキュー…ってこれいるのか?」

 

「いるよー身だしなみは大切でしょ?」

 

「…これ明らかに身だしなみ以外の物も入ってやがるぞこれ」

 

「バレたか」

 

てへッとする小町。

その頭にげんこつを一発軽く与えると「うわーんいたーい!」と泣き真似をし始めたが無視することにするとつまらなくなったのかすぐ辞めて準備に取りかかった。

 

「そう言えばだけど良くお義父さんが許してくれたね。何か言われなかった?」

 

「それなんだが…」

 

◆ ◆ ◆

 

「義父さんちょっと相談が…………ん?」

 

遡ること3日前の25日。婆ちゃんからの手紙を受けとり許可を取るために義父さんの執務室を訪れると何やら疲れた表情を浮かべていたのをみて仕事のやりすぎではないか?と思っていると執務室の内部に懐かしい気配を感じ取った。

 

「ッああ…八幡か。どうしたんだい?」

 

妙によそよそしいのは何故なのだろうか。気になって質問をしてみる。

 

「…さっきまで誰か来てたか?」

 

「…いや、誰も来ていないさ。」

 

そう問いかけると1拍置いて答えてくれたが明らかに誰かが来ていたのは分かる。何か誤魔化しているようだが追求してもしらばっくれるだろう…なので追求することにはしない。だが、この部屋に残った想子の残滓は何処かで感じたような…まぁ今は良いか。俺は大晦日まで婆ちゃんのところへ向かうのを伝えるとすんなりと許しが出た。

 

「構わないよ。行ってきなさい。ただ…」

 

そこで言葉が切れて続く言葉に俺も思わず耳を疑ってしまう。

 

「七草の本家会議で重要な話し合いがある。お前にはそれに参加して貰うから必ず元旦にまで必ず帰ってくるように。」

 

「重要な話し合い?一体それは…」

 

「それは…今は言えない。その日が来たときに伝えるよ。」

 

「えぇ…?絶対厄介事じゃん…」

 

と反応をして見せると微妙な…苦笑なのか泣きそうなっているのか分からない、なんとも言えない表情をしていた。

 

長野から東京まで帰ってくるの辛れぇ…でもまぁ我が儘言って許しを得ているのだから仕方がないだろうと理解し俺は頷いて部屋を出た。そうと決まれば二十九日にでも出よう。3日もあれば自分と小町のを見ながら課題を片付けることは出来る。

 

◆ ◆ ◆

 

と、まぁ課題を全て終わらせ(まぁ小町は泣きながらやっていた(嘘))日付は戻る。

事情を説明する。

 

「…とまぁ急いで此方に帰ってこないと行けないからな今日の昼前に発つぞ?」

 

「うん。お姉ちゃん達にお土産も買ってこないと。」

 

「…道の駅で良いか。」

 

「これだからごみぃちゃんはさぁ…」

 

準備が整いバイクにはパニアケースがミサイルポッドのように装備されて非常に物々しい。

このバイクが荷物を多く積み込むための物なので仕方がないが後部のタンデムシートに小町が乗り込み俺が運転席へ股がると複座のコックピットみたいになるのは面白い。

七草家の家は東京の都心にある。勘違いしていたんだが婆ちゃんの家は長野の山奥…ではなくたしか地図だと旧長野と旧山梨の県境の山の中にある…と書いてある。

俺はバイクのナビに目的地を設定した…このルートを使えば…まぁ早々時間は掛からないだろう。夜には到着するだろうが…町あんのか?

 

「さて…行くぞ」

 

「うん。」

 

ガレージのシャッターを解放しソコから出庫して細道を通り大通りに出ると人が多いのは仕事納めの一般人が多いからだろうと俺は小町を後ろに乗せてバイクを走らせていること暫くして街並みが変わっていく。

ソコには昔のように日中から飲んでくだを巻いて都条例に抵触してるような者もいなかった。

 

バイクで走行していると寒さはやはりというか魔法で防いでいるが全部が全部を防ぐことは出来ないので風は身骨に染みる。

 

「お兄ちゃんが壁になってくれるから小町は快適ですなぁ…でも寒いよねこれ!?」

 

「バッカお前…バイク乗りは寒さに我慢して風を感じるものなんだよ。だから我慢しろ。ちなみにつらい」

 

「お兄ちゃんばかなの?本当にバカなの!?小町ちゃん寒風晒しみたいに、染み豆腐みたくカチカチになっちゃう!」

 

「うるせぇ…保温魔法と対冷魔法掛けてるから大丈夫だっつーの!」

 

ぎゃいぎゃいわーわーと騒いでいると小町が何かに気がついたようだ。

 

「…ん?あれって達也さん達?」

 

「は?…あ、本当だ。深雪と桜井…深夜さんと桜井さんもいるな」

 

「さっきのお姉さんみたいのは?」

 

どうやら達也の母親を”姉”と勘違いしたらしい。

俺も最初は間違ったがまぁ見ればそう思うよな?多分深夜さんが聞いたら小町を抱き締めて「いい子ね~」と喜ぶだろう。

 

「あれは母親の深夜さん。」

 

「ほえ~お婆ちゃんみたいに若いね…てか深夜さんってお婆ちゃんに似てない?もしかしてお婆ちゃんと達也さんのお母さんって姉妹だったのかな?」

 

「…んな訳あるか。」

 

いくらうちの婆ちゃんが若いと言ってもあの深夜さんと比べるのは失礼だろう…言葉遣いに老人じみたのが混ざるのはさすがに見た目は若くとも精神年齢が相応なのだろう。

通りすぎてしまったが達也と桜井さんの手にはボストンバックとアタッシェケースを持っているので何処かへ泊まりアリのお出掛けなのだろう。初詣に行けない、という理由が分かった気がした。

ここで戻ってわざわざ達也達に挨拶をする必要もない。

 

…小町のその言葉を想像しなかったわけではないのだが。

話題を変えるために話しかける。

 

「もう少ししたら道の駅で一旦休憩しよう。」

 

「賛成ー」

 

一時間程度しか運転していないが休憩を挟むのにはちょうど良いだろうと言う判断である。小町がお尻が痛い、と言う前の対策である。

法定速度を守りながらアクセルを吹かすと風切り音が駆け抜ける。魔法を掛けているので殆ど雑音になっていないが感じることは出来る。

走行中に黒塗りの高級車に抜かれたがあれが達也達が乗っているのだろう。

その後ろを走っていると今度は白塗りの大型車両が二台が割り込み挟み込むような体制になっていることに気がつくのが早かったのは小町だった。

 

「お兄ちゃん、何か変だよあの車」

 

遠くに離れた白のバンは黒塗りの高級車に対してアクションを仕掛けるのを俺は察知した。

 

「…少し飛ばすぞ。捕まってろよ。あとCAD構えておけ?」

 

「オッケー!」

 

小町の返答を聞く前にアクセルを回して追い越し車線へ車体を滑り込ませ吹っ飛ばした。

新年も近いというのにまたしても問題に巻き込まれるのか、と。

 

◆ ◆ ◆

 

「お兄様今八幡さんと小町ちゃんが通りすぎたような…」

 

八幡達が通りすぎたその直前。

とある場所へ向かうために東京の住居から公共交通機関を使い小淵沢駅へ移動した司波家一行は待ち合わせの車を待っていた。

 

「八幡と小町さんが?気のせいじゃないのかい?」

 

「深雪、いくら八幡さんに会えないからと言って妄想するのは良くないわよ?」

 

深雪の言葉に達也は「気のせいじゃないか?」と深夜からは「それほどまでに八幡さんが好きなのねー」という微笑ましい視線が来て恥ずかしくなった深雪は迎えに来た車にいち早く乗り込み慌てて水波が追いかける。荷物をつける達也と穂波に関しては運転手の対応は塩対応…ではなく敬意を込めての対応だったのをみて深雪は落ち着いており深夜は珍しい、といった表情を浮かべていた。達也が本家では扱いが悪いからである。それは深夜が居てもだ。

ほどなくして司波家一同は迎えの車に乗り込み目的地へ向けて走り出したのだが…。

 

「お兄様どう、」

 

「襲撃だ!」

 

達也が警告を発すると車両に向けて攻撃を仕掛けてきた。

 

「グレネード弾が前方から二、後方三」

 

穂波からの報告に水波が反応しそれぞれが前方・後方に耐熱・対衝撃障壁を展開しようとするが車体に無秩序で中途半端な魔法式が放たれた。

車両に発生した無秩序な魔法式が相克状態を引き起こし阻害する。「キャストジャミング」に似た状態になり二人の発動させる魔法を無意味なものへ変えてしまっていた。

達也は襲撃されたのは偶然ではないと結論付けたのは無秩序な十一の魔法が同じ出力で発生していることを見抜き高度に訓練されている兵士、もしくは構成員でありただのチンピラではない、魔法を使わせないためのテクニック。自身の魔法技能が低い強化実験体の戦闘方法だと。

 

「水波、穂波さん。魔法を解除してください。」

 

「はっ、はいっ」

 

達也が告げる前に穂波は既に解除してその後遅れて水波が障壁を解除する言葉より先に達也が動き出し思考操作した【シルバーホーン】から発せられた【分解】を発動し飛翔するグレネードを分解し地面へ落とす。

落下し部品とかしたグレネードは爆発しなかった。

発動している相克状態の十一の魔法式を虫を払うように腕を振るうと車を覆っていた魔法式が吹き飛ぶ。

達也が【術式解散】を発動したからだ。

 

「街へ引き返すんだ!」

 

達也が運転手へ指示を出したがミラーへ一瞥くれてやっただけでその指示には従えませんと言わんばかりにアクセルを踏んで今の囲まれている状態を突破しようとしていた。

 

「車を町へ戻しなさい。」

 

「かしこまりました。」

 

深夜からの一言に運転手は即したがってハンドルを切ろうとする。

が、その瞬間に目の前に大型の自動二輪が割って入り車は動きを止める。

恐らく二人乗りだったのだろう後ろのフルフェイスを被った小柄な…少女が振り返り手を突きだしCADを操作し背後から迫っているバンのタイヤ全てに魔法を発動させたのだ。次の瞬間に電撃が発生し車の動作を停止させて中に入っていた襲撃要員もろとも感電させて無力化させた。対電防御が施されたバンを無力化したのは高い威力とピンポイントで機械と人に対して連続発動しているのを”視た”達也は感嘆していた。

 

(凄まじい発動速度だ…ピンポイントで狙い撃ちをしている…がこれは八幡の【雷電波動】…その縮小版のようだが?)

 

後方のバンが沈黙したのを確認した達也は前方へ【瞳】の意識を向けると此方でも塞いでいた車両を無力化している。

 

「………。」

 

後方の車両は無力化されるとは思っていなかったのか収容されたままで前方はその光景を見て素早く対応したのか乗っていた人員、手にはナイフとアサルトライフルを装備した作業服と帽子を目深に被った戦闘員が飛び出してきたが目の前に割って入ったフルフェイスの男にナイフを突き出す。

致死性の電撃が纏われているそれは届かず男は”なにもない”筈の空間からの砲撃と言って差し支えない衝撃を相手に浴びせ意識を奪いそれを機転として吹っ飛んだ襲撃者を足場にして飛翔、飛翔、飛翔の連続で足に纏わりつく破戒の一撃を浴びせ無力化していく。そして後方に居た少女も参戦しその次々と倒れていく様は一種の蹂躙、爽快感すら覚えていたしその技を使う人物と襲撃犯達に見当がついていた。

 

(その技のキレ…まさか…そして薬物強化された人造サイキック達がいとも容易く…まぁあの二人ならば朝飯前か)

 

襲撃犯は二十九名居たが一方は小町によって無力化され残った大半は八幡によって無力化され地面へ転がっている。

襲撃者を軒並み退け無力化した黒づくめの少年と小柄な少女が自分達が搭乗している乗用車へ近づく。

深雪がそれに気がついて車から出ようとするが深夜が目視で制止した。ウィンドウを開く。

 

近づく二人はバイザーを上げずに話しかけてきた。

 

「よぉ。危ないところだったな」

 

「やはり八幡と…小町さんか。」

 

「あ、おはようございます達也さん!それに皆さんお揃いで何処かに旅行ですか?」

 

「え、ええそんなところよ小町ちゃん」

 

何処か、と問われて素直に答えられないのが心苦しいのか深雪も少し困っているようだ。

 

「…っと雑談はここまでにしてここを離れよう。そろそろ警察が来る。それに街頭カメラに車両とナンバーも控えられてるかもしれないから…何処かへ向かうなら一旦出直せ。」

 

そう八幡が告げる深夜か頷いた。

 

「八幡くんの言う通りね。運転手さん。車を駅に戻してちょうだい。」

 

「かしこまりました。」

 

運転手は頷き指示通りに行動を始めるのを見て八幡達は車から離れ停車していたバイクへ搭乗する。

搭乗し終えた二人は車に向かって手を振ってアクセルを吹かして発進させ気がつくと豆粒程の大きさの距離へ到達していた。

 

八幡に言われた通りその後駅へ引き返すと事故現場へ向かう警察車両で騒がしくなったためその日はおとなしく戻ることになったのだ。

 

◆ ◆ ◆

 

達也達の援護に入り少しの予定に狂いが出たが道の駅に到着するときに警察は来なかったのはとっさに佐織達に頼んで監視カメラの偽装を頼んで正解だったな。道中の道の駅で少し休憩しその足で目的地へ向かう。

山奥に入るので吹き込む寒風が身を裂くほどの冷たさを誇っていたが無視してバイクを飛ばし走行していると流石にこの時期に二輪車で山へ向かうものはいなかった。

 

冬の…それも山奥ということもあり既に周囲は日の光が落ちて暗闇に染まっていた。

地図に記された場所へ俺たちは目的地へ到着し辺りを見渡すと人工の光はなく辺りに広がるのは紅葉が落ち寒々とした木々と静寂に満ちた夜に浮かぶ月明かりと星の光だけが行き先を照らしてくれている。

 

「到着…っ」

 

「やっと着いたね…」

 

流石に迷惑なのでエンジンを切り目的地へ向かう。

手を離して要るが魔法で制御しているので勝手について来るようにしておりまるでペットのようだ。

そして少し歩くと目的地、地図に記された場所には暗闇の中にポツンと佇む明かりのついた一軒家が見えた。

 

「あれがお婆ちゃん家?」

 

「…みたいだな。」

 

山奥にある、と言うことだったが手入れが行き届いた普通の一軒家…煙突がついて煙が出ているので暖炉を使用しているのだろう立派な家だった。

敷地内に足を踏み入れると周囲には結界、恐らくは人避けと精霊魔法を排除するための術式が組み込まれているのか通り抜けた瞬間に独特の感触を味わった。

 

「まるで世捨て人みたいな生活してんだな婆ちゃん」

 

「まぁでもあの見た目だし肉体的には若いから人里遠く離れた場所でも問題ないんでしょ?」

 

そういって玄関のドアへ近づくと扉が開く。まるで「入ってこい」と言わんばかり誘導され俺たちはその一軒家へ足を踏み入れると内装は必要最低限の装飾が施された清掃が行き届いた綺麗な室内だった。

靴を脱いで奥へ歩みを進めリビングの扉を開くとパチリ、と薪が弾ける音が聞こえ古めかしい聞いたことの無い曲が聞こえてきた。レコードとはまた珍しいものを…。

そちらに気を取られていると背を向けていた椅子から女性が立ち上がる。

 

「良く来たね二人とも。」

 

立ち上がる女性…俺たちの祖母。比企谷朔夜がその姿を表すが俺が幼少の頃から見た目が二十代前半で停止してしまっている”魔女”がそこにはいた。

 

「…久しぶり」

 

「お婆ちゃん久しぶりだね~!」

 

「おお小町、久しく見ないうちに美人になって~…全くお前は愛嬌がないね八幡。」

 

「るせぇ。久々に連絡を寄越してきたと思ったらこんな山奥に…疲れたんだよ。」

 

「お婆ちゃんも変わらずに綺麗だよ?…ってかなんで歳取らないの?」

 

「これもそれも鍛練の賜物さ?…さて長旅で疲れただろう。お風呂を沸かしてあるから入りなさい。八幡、お前は私の手伝いをしておくれ?」

 

「バイクでこんな何もない山奥に呼び出しておいて手伝えとか鬼か…」

 

「その程度で根をあげるような柔な鍛え方をお前にしていないからねぇ…ほらさっさと着いといで。小町はお風呂に入ってなさい。」

 

「はーい、あ、お兄ちゃん。」

 

「なんだよ…」

 

「頑張って」

 

俺は小町に着替えの入った荷物を投げつけ先にリビングを出てしまった婆ちゃんの後に着いていく。

連れてこられたのは十二畳ほどの客室のようで足を踏み入れると寒さが身に染みたが流石に空調が働いて魔法を使う必要は無かった。

婆ちゃんはくるり、と振り返った。

 

「………ッ」

 

その瞬間に見慣れた女性の面影が重なる。

あの夏の時の既視感はこれだったのかもしれない、と思ったが流石に頭を横に振って浮かび上がったイメージを吹き飛ばす。馬鹿馬鹿しい。

だが、先ほど小町に言われたことが頭から振り下ろせなかった。

 

そんなことでモヤモヤしている俺を尻目に此方に指示を出す。

 

「さてここがお前達の寝床だ。一応ベッドは用意してあるが布団が未だ敷いてないからね。八幡、そこの押し入れから二人分の布団をだしておくれ。魔法で天日干ししておいたからふかふかさ。」

 

と言われ押し入れから布団を出す。…うん、確かにこれはふかふかだ。これにはアトベさんもにっこりだな。

ベッドメイキングをしていると呼び出した婆ちゃんは消えていたので暖房はそのままにリビングへ戻ると鼻腔をくすぐる芳しい匂いが突く。思わず腹の音色がなってしまい恥ずかしくなったが婆ちゃんは俺の表情を見て少しだけ笑って食事の準備を進めていた。

 

「そろそろ小町ちゃんが上がってくる頃合いだろうさ。お前も入っておいで」

 

「分かった。」

 

そうして俺は小町と入れ替わりで入浴し冷えきった身体の隅々を暖め用意された婆ちゃんお手製の料理に身体の中から暖める。

 

「………」

 

「小町、寝るならベッドで寝ろ。あと歯ぁ磨け」

 

「うん…」

 

食後にお腹いっぱいになり疲れていたのもあったのか小町はうつらうつらとし始めたので歯磨きをさせて二階の客室へ運びベッドに寝かしつけると健やかな寝息を立て始めた。

 

「すぅ…すぅ…」

 

「久しぶりに婆ちゃんとあったから気が抜けたのか……おやすみ。」

 

部屋の明かりを落としリビングへ降りると食器の片付けが終えて先ほどまで座っていた椅子に腰掛け紅茶を嗜む婆ちゃんの姿があった。本当にそういうの似合うな。

 

「そこに座り。」

 

視線で暖炉に程近いソファーへ座るように促され断る理由もないため腰かけると柔らかな感触と空気がスッと抜ける感触が背中に伝わる。

 

「あ。」

 

気がつくとこじんまりした机にはお馴染みの黄色と黒のスチール缶が置かれていた。

どうやら魔法でここまで持ってきたらしい。呆れ顔で此方を見ている。

 

「お前はそれが本当に好きだね…」

 

「ありがと」

 

渡されたスチール缶を持ちプルタップを開けて糖分満載の茶色い液体を流し込むと脳内に栄養素が染み渡っていくのを感じて眠気と疲労が吹き飛んだ。

そんな俺の様子を見てティーカップに口着ける婆ちゃんとの会話は無くただ暖炉の火がパチリ、と爆ぜて先ほどまでかかっていたレコードの音が切れていた。

俺が何かを話そうか、と考えているとおもむろに婆ちゃんが口を開いた。

 

「八幡。」

 

「…ん?」

 

「お前に…伝えておかなければならないことがある。」

 

真面目な表情で俺の目を見て話し始めるそれは『四獣拳』を俺の身体に叩き込んで習得させようとしたあの時に酷似していた。

 

「なんだよ…『四獣拳』の奥義は既に習得して鍛練も続けてるっての…」

 

「ああ。その事かい。大丈夫知っているよ。小町と一緒に鍛練しているのを”視ている”から。」

 

おもむろにメガネを外しその瞳は俺と同じく『黄金色の瞳』であった。

 

「…んじゃなんだよ。伝えておかなければいけないってのは。」

 

そう問いかけると予想だにしない言葉が紡がれた。その常に浮かべている薄い笑みは消え去っている。

 

「お前…いやお前達の出生について、だ」

 

「…ッ!?」

 

俺が驚いているとそれは次々と明かされた。

薪の音が響いている。揺らめく炎の風が俺へ熱風として吹き付けてくる。

俺は鼻で笑った。何を今さら、と。

 

「はん、今さら出生なんて気にならねぇよ…あんなクソ親からヒリ出されたのが今では立派に幸せに暮らしてるさ」

 

「そのクソ親が”本当の親でない”…偽りであったとしてもか?」

 

黄金色に染まる眼で射貫かれる。

言葉を失ってしまう。

 

「……」

 

その言葉に思わず動悸が跳ね上がった。その言葉の続きを聞きたいと願うのは自分のルーツを知りたい知的好奇心かそれとも怖いもの知らずか。それともーー。

 

「そもそもお前の両親はこの世に存在していない。いや、正しくは”お前が親だと思っていたもの”だが。…そうさね…少し、昔話をしてやろう。これはある一人の女の話だ」

 

そういって婆ちゃんは語り始めた。

 

◆ ◆ ◆

 

今から数十年前。一人の女性が一人の大きな権力者の男性と大恋愛の末に結ばれました。

その二人は魔法師であり女は精神干渉系魔法の使い手…世にも珍しい彼女だけの魔法『魔法演算領域転写』という”自分自身の魔法演算領域を有機物であればどんな生き物でもコピー&ペーストし転写が出来る”という能力を持ち一方で男は類い稀なる全系統の魔法の使い手でありそれは一族最高傑作とまで言われるほどでした。

そして二人は互いに互いを愛し合いあった…深いほどに。だがしかし…二人の間には子供が出来なかった。

なんと女には子供が出来にくい身体だったのだ。

 

女は部外者ではあるがその家に属する他の魔法師よりも精神干渉系魔法最高の使い手、男は四種八系統を使いこなす最高傑作。互いに差異はあれども莫大な想子保有量を誇っておったそうな。

しかし、それが受け継がれる子供を”作れない”と言うことに一族は落胆していたがそれは心配無用。その後互い、女の姉と男の弟が結ばれ子供が二人生まれ非常に優れ愛らしい女の子だった。

 

子供は生まれなくとも二人の兄夫婦は自分の子供のように愛しており同じくその姉妹も姉、兄のように慕っていた。

そんなある日。

 

『やったな兄貴!ついに義姉さんと子供が…!』

 

『ああ…ッようやく私たちの子供が…』

 

屋敷に喜びの声が。

そうついに女に治療込みではあるが自然受精による子供が出来たのだ。

 

『男の子か?女の子か?』

 

『男の子だ。でもあの子達には少し年下の男の子が出来るかもしれないが…仲良くしてくれるだろうか?』

 

『ははは…兄貴は変なところで心配性だな…大丈夫だ。あの子達なら自分の弟のように可愛がってくれるさ』

 

その会話にあきれた反応を示す二人。

 

『全く…自分が産むわけでもあるまいし…大丈夫かい?』

 

『あはは…大丈夫だよお姉ちゃん。あたしも子供じゃないんだし…でもまぁ…不安、かも…』

 

『お義兄さんとあんたの子だ…きっと強い子に育つ。大丈夫。育児に関しては先輩だからね。』

 

「えへへ…ありがとうお姉ちゃん」

 

そんな会話を聞いていた姉妹は他愛ない会話を繰り広げる。

とても仲の良い姉妹の会話だ。

 

が、それはとある事件を境に一転した。

 

西暦二0六二年に全国の青少年が集まる「少年少女魔法師交流会(マギクラフト・チルドレン)」にて、崑崙方院に誘拐された。その際に一人の少年が少女を守るために右目を失った。

 

とある一族の一人の男がこう言った。

 

『これは私怨だ。娘を汚された親がその恨みを晴らすための報復だ』と。

 

奥歯を噛み砕く勢いでぎりり、と噛み締めた。

 

『敵は崑崙方院…!四葉の全勢力を持って此を撃滅する…!!』

 

女は義理の弟へ意見したのさ。

 

『私も行きま』

 

『ダメだっ!…あなたのお腹には一族の未来が宿っている…ここでみすみす費やすような真似は出来ない…っ!』

 

遮られ迫力にみじろく者すらいたが女は引かなかった。

 

『あの子は私の子供と同じ…彼女が身を引き裂かれそうな想いをしているのに見過ごすわけには行かないっ』

 

『だが…っ貴女は身重なんですよ!?万が一のことが…兄貴もなにか…』

 

旦那である兄へ引き留めるよう進言したが首を横へ振る。どうやら意思は同じだと男は諦めるしかなかった。

そう女は命を宿しお腹が膨らみ安静にしていなければ行けない時期だった。

 

それを無視し乗り込む一同は混乱の最中、ついに見つけ出す。

しかし、それは最悪の結果で見つかった。

 

『あぁ…ッ!真夜……ッ!どう、して……ッ!!』

 

『…ッ……!何故なんだ…ッ!!』

 

研究施設に連れ拐われた少女は地下牢に監禁されその身をおぞましい実験の数々、女性としての尊厳を凌辱され尽くされその精神を壊されていた。

 

その情報を聞き付け制止を振りきった兄夫婦は単身乗り込み姪の姿を見て涙を流した

 

「…ぁ…あ…っ、お姉……さ、ま…っ、叔、じ…さま…?」

 

少女は嗚咽を漏らし衣服の体を成していないボロ布を纏い、髪はボロボロで目は酷く虚ろ、身体の至るところに血や白く濁った体液が付着して汚れていた。”彼らに身体を玩ばれた後”と言うのは嫌でも理解していた。

何故彼女がこのような目に合わなくてはならないのか。女性は慟哭し抱き上げ怒りをにじませる。

 

どうして…?ドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテドウシテ……?

 

黄金色の眼から全てを燃やし尽くさんとする怒りの業火が逆巻き熱を上げる。

 

『……許さないッッッッッ!!絶対にお前らを…ッ!この地球上から遺伝子の一つも残さず消し去ってやるッ!!』

 

許さない…ユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ…!!

 

少女を抱えたまま女は自分の子供のように愛する少女をこのような目に遭わせた関係者を殺戮の限り人誅していく。

 

少女を抱き抱え脱出の為に精神干渉系魔法を行使し脳内の魔法演算領域が焼ききれていくまで酷使していく。

放たれた魔法を受けた崑崙方院の魔法師や関係者は”自ら自刃、自殺するように”そう行動し、殺し合いをするように通り抜ける研究所では銃弾や魔法が味方が味方を殺し合う地獄絵図と化していた。

 

操り殺し合いをさせる精神干渉系統魔法【人心掌握(メンタルジャック)】という最恐魔法を。

 

一方で男も一切の容赦なく魔法師の頭蓋を撃ち抜いていく。

 

『今日の”俺”は一切の容赦をしない…覚悟しろこの外道ども……っ!!』

 

CADから発動した赤黒い重粒子ビームが熟れたスイカを破裂させるように頭部を吹き飛ばし、崑崙方院の研究施設を塵を残さず勢いで破壊していく。

 

後に、此を知るものはこう口をそろえて答えるだろう。他を寄せ付けない”魔王”と”魔女”がその場にいたと。

 

『はぁ…はぁ………』

 

『…なんと言うことだ…此方に治癒魔法師を用意してある…こっちに…!』

 

次第に悲鳴と喧騒が少なくなる戦場で女に駆け寄る初老の男性が抱えた真夜を受けとるために近づき受け渡すと女は限界に近かった。当然だ。脱出地点まで休み無く限界以上の魔法演算領域を酷使していたのだから。

 

顔色は既に悪く額に汗を流し肩で息をしている。

それが不味かった。

 

『…っ』

 

『ごほ……ッ…この……ッ!!』

 

味方の魔法師が撃ち漏らした魔法師のその凶弾が真夜とその男性を攻撃しようと狙いを定め想子が揺らめいたのを感じ取った女はその前に立ちふさがった。

凶弾を受け崩れ落ちる女は腹部から血を流し攻撃してきた魔法師を射殺さんばかりに睨み付け最後の力を振り絞って魔法を発動し心臓へ命中させ打ち倒す。

 

『…………!…………!!』

 

初老の男性が声を掛けるが聞こえない、もう既に遅く致命的な傷だ。助からないのは身をもって理解していた。

同時に愛する男性も命の灯火が遠くで消え掛けるのが理解できた。

 

(ああ…あなたも他人を庇って死んじゃうなんて…ふふっ似た者夫婦ね…)

 

視線の定まらないまま初老の男性に抱き抱えられた真夜を見ながら謝罪をしていた。

 

(ごめんなさい…真夜ちゃん…貴女を助けてあげることが出来なかった…ふがいの無いお姉ちゃんでごめんね…)

 

一筋の涙が頬を伝い伸ばした手とは反対側の手が下腹部に添えられる。

 

(それと…生まれてくる筈だった未だ見ぬ私たちの”赤ちゃん”達…元気に産んであげられなくて…ご、めん…ね…)

 

女は願った。

 

『今度生まれ変わる私たちの子供が”理不尽を払い除けられる力”を持ち自由に生きれるように』と。

 

伸ばした手は力無く地に着き、涙を流したままの黄金色の瞳は光を失った。

その光の失い開かれた黄金色の瞳の色を少女の脳内に焼き付いた。

 

此が女と男の末路。親族を守り、血の繋がった実弟を庇い死んだ。

少女を救うことは出来たが”心”までは直せなかった。

その一族は娘の復讐に一国を滅ぼし破壊した。そう、末代まで呪い殺すように。

 

◆ ◆ ◆

 

「…此がその女の末路だ。身重だったその身体に宿った子供は死亡した、ということだ。ちなみにその一族は十師族の一家だよ。」

 

嫌に喉が乾く。そして喉仏が食道に張り付いているのと錯覚するほどへばりつき

 

「…なんでそんなことを俺に言うんだ?それに2062年の話、だと…?馬鹿馬鹿しいにも程があるぞ…婆ちゃん。言いたがないが俺の血統と遺伝子構成は八幡家と比企谷の魔法師から産まれた存在だ。小町だって…!」

 

理解していた。

いくら元八幡家の血を引いているとは言え小町と俺の他の魔法に”適正が高すぎる”ことに。

それに【次元解放】、【物質構成】、【賢者の瞳】を最初から使えていたことに疑問を覚えていないわけではなかった。

幼い頃に使える魔法師が血統の中にいないか調べた…だが、”存在しなかった”んだ”魔法すら”も。

 

「じゃあ…あんたは一体誰なんだ…!?俺たちを産んだ親が居ないってなれば…!一体誰が俺たちを育てたんだ!?」

 

さっき婆ちゃんは言っていた。『お前が親だと思っていたのは元から存在しない。』と。

それなら俺は誰から産まれた?

その衝撃的な言葉は本人から告げられた。

 

「”わたし”だよ。八幡。」

 

「は…?」

 

目の前の美女が微笑む。先ほどまでの見た目の年齢不相応な若さではなく、”妙齢の若い女性の表情”へ変化していた。そして口調も。

 

「八幡。お前の父親は”四葉逢魔”、そしてその母親がわたし”四葉朔夜”よ」

 

「………ッ!!」

 

俺の脳という脳に衝撃が走る。まるで巨大なハンマーで殴り付けられたようだ。

ふらつく足元を踏ん張り正面にいる自称母と名乗る女性に視線を向ける。

俺の脳内に達也と深雪の母親の姿が重なった。

 

「…それが本当だとしたら俺の年齢三十四じゃないと可笑しいだろ」

 

「まぁ最後まで話を聞いて八幡」

 

そういって息を深く吸って整えている。

何度かその行為を行い整ったのか説明し始めた。

 

「まず、わたしは崑崙方院の戦いで死んだ。でもね、生き返ったのよ。」

 

「生き返った…?」

 

「そう、”お腹にいた八幡”。貴方の『物質構成』でね」

 

「は…?」

 

その一言に呆然とした。俺が?まだ意識も自分の存在を確率出来ていない”何者でもない”俺が母親を蘇生させたと?そう言いたいのか?

 

「先程説明したとは思うけれど私は精神干渉系統の魔法師。『魔法演算領域転写』という魔法で脳内の記憶領域に私の『物質抗生』を転写した。逢魔さんの魔法も含んでだけど。でも貴方に付与したのは私達のものよりずっと強化された『物質構成』…一度死んでしまった人間を時間関係無しに髪の毛1本でもあれば復活できる最強の魔法へと進化していた。お腹に貴方を宿していた私は復活したわ。火葬された後だったけど生前の姿のまま生き返った。」

 

とんでもない蘇生方法と自分がどうなっていたのかを聞いて正直、気味が悪い。

 

「にこやかに言う話じゃねぇだろ…ホラーだぞ」

 

墓から突然腕が出てくるとか…怖すぎるだろう。

 

「クスッ…そうね。でも…その副作用で貴方達は産まれてこなかった。いや、生まれてくるのが遅かった。私と言う母体の復活のために足りない想子を補うために一度身体を分解し心臓を残して”私の中で生きていた”。そこから”胎児”として成長し…だから貴方が産まれたのは2078年…達也君達より少し早くに産まれたの。」

 

「それだと小町はどうなるんだ…?」

 

そうなると小町は別の男の娘、ということになる。

が、それは違うらしい。

 

「言ったでしょう?”貴方達は産まれてこなかった”と。小町ちゃんも魔法使用の想子の確保のために分解されていたのよ。」

 

「つまり俺と小町は本当は双子、だった…と?」

 

「逆に貴方の方が早かったから違うけどね。……ちなみにさっき言った”親だと思っていたもの”は私だよ。八幡が父親だと思っていたのは精神干渉系統で見せた”幻”。…ごめんなさい。貴方を虐げるのはその能力が危険だったから。心を殺せるようにするためだったの。…ごめんなさい。」

 

「俺が苛めに逢ってたのは…」

 

「それは周りが八幡の能力を妬んだ結果…」

 

俺は思わず天を仰ぐ。

此は確かに『大事な話』というわけだ。此だけの話を聞いたらショックで寝込んでしまいそうだ。

色々言いたいことはあるが……どうでもよくなってきた。

 

…………………………?今脳内でとんでもないことを理解してしまってしまった。

 

「…なぁ婆ち」

 

「お母さん、もしくは母上で」

 

「婆」

 

「お母さん、もしくは母上で」

 

「バ」

 

「お母さん、もしくは母上で」

 

間違いねぇこれ確実に深雪の祖母の妹だわこれ。向こうが提示したのをこっちが呑まないと笑顔で強制してくるのそのまんまだもん。

 

「母さん…」

 

「うん。で、どうしたの八幡?」

 

「俺って立場的にどうなの?母さんの息子、だとすると深雪の母親とは…」

 

「そうね。あんたは深夜ちゃんと真夜ちゃんとは従兄姉同士になるわね」

 

ナンテコッタイ。

 

「……つか俺なんでか四葉の当主に恨まれて何回か殺されそうになってるんだけど…なんか知ってる母さん?」

 

「うーん…わかんないッ☆…ってあいたぁ~!!」

 

キャピッ、とした反応にイラッとして思わず殴り付けると泣いた振りするのは小町だ。

 

「あいたた…うーんでもおおよそ理由は思い付くけどね」

 

「あ?」

 

「多分、私の瞳と八幡の『瞳』の色が似てるから、だと思う。」

 

「瞳?」

 

「うん。私が死んだとき恐らく瞳を見ちゃったんだろうね。その時八幡の目の色が似ていた…とか」

 

「面倒くせぇ…何その理由。俺完全に巻き込まれ事故じゃん…てか見せてねぇ筈だぞ?」

 

「メガネの外れから見えたとかじゃない?」

 

ぼやいていると困ったような表情を浮かべている母親に「まぁ不可抗力だしな…」と納得させた。

つか普通に受け入れている俺が恐ろしい。

 

「つかなんでそんな大事なことをこの年の瀬に伝えたんだよ…」

 

そう問いかけると少しばつの悪い表情を浮かべていた。

 

「あぁ…それなんだけど来年の元旦、四葉の本家…慶春会で次期当主指名の会があるのよ。それで真夜ちゃんが恐らく、というかきっと深夜ちゃんの娘を次期候補に指名する、それを断らない筈よ。」

 

「つまり…四葉現当主が退いたら当代の席は深雪になる、と?」

 

「そうなるわね。そして結婚相手を好きに選べない。だってあの子が好きなのは八幡じゃない。」

 

「な、何を言ってるんですかねこの母にゃは…」

 

困ったような笑みを浮かべる母さん。

 

「まぁ本当は”血が近すぎる”から深雪ちゃんと八幡の結婚を辞めさせたいのだけど…あの子完全調整体だから混ざっても遺伝子不全は起こさない筈だからね…女の子の恋を叔母さんとしては応援したいじゃない?」

 

「それ言ったら俺は姪に手を出す変態叔父になってしまうんですが…?」

 

倫理的に不味い、不味すぎるだろう。関係的に俺は叔父で深雪は姪という立場になる…あ、ヤバイ頭が痛くなってきた…。そんなことを思っていると母親が笑えていないので「ああ、これは建前だな」と理解した。

ん、てか待って今ヤバイ単語が聞こえたような。

 

「…んで?本題は」

 

「…うん。少し嘘ついた。深雪ちゃんに自由な恋愛をして欲しいのは確か。でも私は…”真夜が崑崙方院で負った二つの怪我”を八幡、貴方に癒してあげて欲しいの。」

 

「俺が?」

 

そう言うと頷いた。

 

「貴方がその力を獲るに至ったのは私の…私達夫婦の”希望”の願いだったの。貴方にしっかり向き合ってこなかった母親で…こんなときに母親風吹かせるのは気にくわないと思うけど…お願い八幡。真夜ちゃんを…救ってあげて。」

 

「…わかった。」

 

「いいの?」

 

「従兄妹なんだろ?…助けるよ。これで命を狙われずにすむならそれでいいだろうし」

 

「そっか…ありがとうね八幡」

 

「うぉっ!?急に抱きつくなよ…母さん…」

 

「ごめんごめん…ちょっと息子の成長が頼もしくてね…うん。ごめんね…」

 

抱きつく母親に戸惑うが俺は成すがままにされていた。

 

「そこは”ありがとう”だろ…」

 

そう呟くと母さんは嬉しそうにしている。

とんだ爆弾を投げ入れられたものだと一先ず元旦までに片付けておかなければならない事が出来た、と頭を悩ませるのと…

 

「これ、小町にどう伝えよう…」

 

「大丈夫。お母さんが何とかするから!」

 

妙に自信満々なのが気になるが…まぁ何とかするしかない。と腹に決めた。

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