俺が七草の養子なのは間違っている   作:萩月輝夜

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新年明けましておめでとうございます(大遅刻)
魔法科のモチベを上げるために色々漁っていたので遅くなりました。
本当は新年始まる前に投稿したかったのですがなかなか内容が纏まらなかったので試行錯誤していたらこんな時間に…待ってくれていた読者様お待たせしました。

其ではどうぞ。


想いぶつけて先を急ぐ

2096年、12月30日。

夕歌の別荘に転がり込んだ深雪達は達也に施された魔法…誓約についての事柄の説明、なぜ司波家…いや、深雪が本家に辿り着けぬように邪魔をするのかと言う話を聞かされていた。

 

母親である深夜が不快感を隠そうともせずに吐き捨てるようにこう言った。

 

「くだらないわね。そのために深雪たち危険な目に遭わせようと邪魔をするなんて…よっぽど私を怒らせたいのかしら?」

 

溢れ出す想子の奔流が夕歌に浴びせられると強張った表情を浮かべるがそれは直ぐ様霧散した。

そんなことに怒ることすら呆れた…と言わんばかりに深夜が発していた想子を押さえた為だった。

 

「あの子が何を考えているのかは分からないけれど…少なくともただ邪魔されて辿り着けなかった、なんてなったら笑い者ね。」

 

言葉を区切り夕歌に顔を向ける深夜の素晴らしい表情に身を固くするのだった。

 

「それでは…お言葉に甘えて…。今日一日お世話になるわね。夕歌さん?」

 

「は、はい…。(深夜叔母様怖すぎるでしょう…!?)」

 

顔を青くしてティーカップを持つ手が震えていたのだった夕歌であった。

 

◆ ◆ ◆ 

 

「本家へ向かう道中で戦闘は避けられない、か…」

 

早めの夕食を終えた司波家一行は割り当てられた客室に入り明日に向けて準備をしており達也は持ち込んでいた旅行バックから装備である拳銃型「トライデント」と腕輪型の「シルバートーラス」どちらを持ち込むかしばらく悩んだ末に今回は「シルバートーラス」を選択して旅行バックから出さなかったのは夕歌との会話の最中襲撃者が四葉の家の者たちの可能性が高く「トライデント」では"威力が大きすぎる"為であった。

 

(襲撃者、とは言え四葉の人間であることには変わりない…無闇に家の力を割くことは叔母上も母上も望んでいない…)

 

疎まれている、とは言え今の達也に四葉に弓を引きたい、と考えていない。

あくまでも妹の立場を守るために"四葉本家"に年内に到着しなくてはならない、というのが使命であった。

 

「八幡だとするならこの状況をどう解決するのか…らしくもないな」

 

親友とそういっても過言でもない男の名前を呟く達也は自分でも参っているな、と自嘲した。

バッグの蓋を閉めようとするとドアがノックされたので「どなたですか?」と問い返すと「お兄様、深雪です。」と返答が来たので立ち上がりドアを開くとそこには深雪一人でいた。水波は一緒にいない。

 

「その…少しお話をしたいと思いまして…」

 

達也の目には深雪が少し心細そうに見えたのはきっと気のせいではなかった。

 

「分かった。入りなさい。」

 

そう招き入れると深雪は広げていた達也の旅行バックを見るやいなや直ぐ様近づいて乱れた衣服を畳み直す。

こう言ったのを直ぐ様しようと動くのは淑女として躾られた賜物かもしれないが。

達也はその光景を見て止めることはせずに「すまないな」と一言声を掛けると深雪はフッと微笑み「いいえ」とだけ告げて畳み終わった私服をおいて達也をみやる。

 

「そのベッドに腰掛けなさい。」

 

達也はそう指示を出してやると深雪は頷いて浅く腰かけたのを見た達也はデスクの椅子へ座る。

 

「それで…こんな時間帯に一体どうしたんだ?」

 

そう問いかけると深雪はその表情に陰りを一瞬表したが達也が気のせいだと一蹴するほどには一瞬であり直ぐ様普段通りの表情になっている深雪が口を開いた。

 

 

「お兄様は…その…八幡さんのことをどう、思いですか?」

 

「八幡の事か…どうしたんだ突然…いや、そうだな…」

 

唐突な八幡に対する総評を問われて問い返しそうになったら達也だったが深雪の瞳が真摯にその回答を待っていることに勘づいた達也は暫しの考え事に耽ってかから顔を上げて深雪を見る。

 

「確かに八幡の実力派は四葉からみたら潜在的な脅威に映るだろう」

 

「…っ!?」

 

兄からの口から出た想い人の総評が深雪が想像しているものは違いその表情が強張る。

 

「魔法力は深雪と同等で使いこなせる魔法も多岐にわたる…叔母様が危険視するのも頷けるだろうな」

 

「……」

 

顔を項垂れて悲しそうな表情を浮かべる深雪に達也はおもむろに立ち上がって肩に手を置いた。

 

「…だが、其を差し置いても八幡は深雪にお似合いだと俺は思っているよ。」

 

「へっ?」

 

「…アイツは捻くれているが他人を思いやる心持ちがある。一時期は人を信じられないこともあったがアイツは変わろうとしている。良い意味で先入観がない魔法師だからなきっと四葉だろうが七草だろうがアイツには関係がないんだ。人の機微に疎すぎるし異性からの好意を深雪以外からも受けているのは兄としてはとても…とても不本意だがな」

 

不承不承…と言わんばかりの言葉に悲しい表情をしていた深雪が笑みを浮かべる。

其を見た達也はその表情に柔らかいものを浮かべるのを見た深雪は頷く。

 

「ふふふっ…そうですね。八幡さんは………お優しいですから。」

 

「だから深雪、恐れるな。」

 

「……。」

 

達也は幼い子供に言い聞かせるように、自信付けるように優しく告げる。

 

「何があっても俺たち…母様達はお前の味方だ。だからこそ、お前のその心の内を叔母上に伝えるんだ。」

 

「…………っ」

 

『そうだな…きっと深雪が不安に思っている事は直ぐ解決出来ると思う。大丈夫だ。……じゃ、それじゃ』

 

八幡の言葉とその言葉に深雪は背中を押される感覚を覚えて涙する。

 

(明日絶対に本家にたどり着きます…何があっても…!)

 

同時に本家が兄へ行おうとするそれらの行動を絶対させてはならない、自らの望みを真夜に直談判しようと決意を決めたのだった。

 

◆ ◆ ◆

 

四葉家現当主・四葉真夜は深雪たちが二日続けての妨害にあって今は津久葉の別荘に滞在していることを執事の葉山から聞かされると笑みを浮かべて吹き出した。

 

「ウフ、アハハハハッ…はぁ…なんて無駄なことをするのでしょうね」

 

嘲笑ではなく子供のいたずらに困ったような微笑ましい、という意味合いの笑みをうかべる。

 

「分家の皆様は達也殿を過小評価され過ぎているようですな」

 

葉山は真夜に頭を下げながら的確に分家が行っている妨害行為について辛辣な評価を行う。

 

「この村を覆う秘匿結界は達也さんの『分解』を防ぎきれないのだから本当に間に合わないというのなら飛んでくるだろうし。そうなれば一大事よ。『分解』された結界を再構築するまで認識阻害の魔法を使う皆さん不眠不休の重労働だし再構築だってただじゃない。分かっているのかしらね?」

 

真夜は再び溜め息を吐く。その吐いた吐息は艶かしい。

 

「その責任は私の命令を妨げようとしている分家の皆様のもの…分かっているのかしらね?」

 

「其は間違いなく。」

 

真夜が空けたティーカップに葉山が淹れたノンカフェインの紅茶を再び注ぐと湯気が立って香りが書斎に広がった。

 

「しかし、分家の皆様の行動が全て無駄、というわけではございません。花菱の報告によれば対大亜連合強硬派と対大亜連合融和派・反十師族グループの戦力を大きく削り取ることに成功したとのことです。これで四葉に庭先をあのような者達が跋扈することはなくなったでしょう。」

 

「兎に角、これで年末の大掃除は終わりかしら?」

 

真夜の問いに葉山はにこり、と笑みを浮かべて肯定した。

 

「多少段取りは変わりましたが花菱は『却って人数が少なくて済みました』と申しておりましたからな。」

 

「其はそうでしょう。釣り出すのに手間が掛かっているとは言え、荒事の部分は達也さんが実質一人で片付けてくれた様なものですからね?」

 

その襲撃で八幡と小町が撃退に加わっているのだが其まで情報が伝わっていない。

知る由など無いのだが。

 

「まぁ良いわ。其より葉山さん、お正月の準備は整っていて?」

 

「はい。後は深夜様達のお見えになるのを待つばかりでございます。」

 

「ならば心配する必要は無いわね?」

 

「……奥様、新発田様をお止めにならなくても宜しいのですか?」

 

葉山は新発田勝成とそのガーディアンで深雪達を足止めするという新発田当主の計画を知っていた。其は真夜も勿論。

 

「…ふふふっ、幾ら勝成さんでも達也さんを止めることなど出来ませんわ。」

 

真夜の脳内には地面に倒れて突っ伏している勝成と見下ろしている達也を幻視するのだった。

 

◆ ◆ ◆

 

十二月三十一日の早朝。

 

「今日は四葉の本家に行く日か…」

 

日が未だ薄ぼんやりと照りつける早朝に、温もりがこもっているベッドから抜け出して、着替え終わった俺は窓の外を見る。

 

「…俺が実は四葉の嫡子であって虐げられていたのは魔法と俺の才能が原因…とか…俺の今までなんだったんだ、ってなるなぁ…」

 

ベッドに腰かけて昨日祖母…というか本当は俺の産みの親である四葉朔夜からその事を告げられて飲み込んだ、と思ったがその膨大な情報の多さに今頭がやられていた。出発前だというのに。

魔法の才能は両親から受け継がれ想子量は膨大でありそこいらの凡百な魔法師と比べれば雲泥の差というハイブリットでロイヤリティなその出自は笑うしかない。

 

「ははは…」

 

戒められた存在から一転して敬われる存在に…というのは余りにも出来すぎている。

 

「まぁ…これも俺が七草に拾われたという宝くじで一等当てるより遥かな天文学的な確率が発生したことが原因なんだがな…」

 

余りな唐突な事に天を仰ぎたくなる。

 

「そして俺が実子であることから深夜さんと四葉当主とは従姉弟関係…深雪達とは甥と姪…笑えねぇ」

 

好意を向けられていた少女が実は姪であった…なんてのは成人向けの漫画だけにして欲しいものだ。

世間から見てみれば俺は変態扱いされてしまう。

本来で生まれていれば俺の年齢はアラフォー突入間近…歳の差が二回りも違うとなれば手に手錠が掛けられてしまうこと間違いない。

そして今から乗り込む四葉本家には当主の四葉真夜がいて俺を殺そうとしていた。

だが。

 

「…四葉の当主が俺を殺そうしているのは知っているが其を無視しても”助けない”と言う選択肢はない。」

 

『お願い…真夜ちゃんを助けてあげて』

 

母の初めてのお願い。

母から聞かされた、過去のトラウマから俺を殺そうとしていたが其は仕方の無いことだ、と割りきった俺は天を仰いでいた顔を窓に向けた。

 

「…俺の精神衛生上を保つ上で必要経費だからな。其に助ければ俺が命を狙われることはないだろう」

 

あくまでも自分に利のある事だと判断し、悪い意味で今年一番の大問題を解決するべく、俺はベッドから立ち上がり外へ向かうために、自室のドアを開くことにした。

 

◆ ◆ ◆

 

時を同じくして、深雪達も夕歌の別荘を後にして、車に乗り込んで出発した。

運転手の夕歌が眠そうにしているのは朝に弱いからであり、その前日にお昼頃に出発しようと提案をしたのだが、達也が裏を掻いて妨害を受けないようにそう提案したのだった。

何事もなければ二時間、雪でスピードが出せないことを考慮しても、三時間で四葉家へ到着する予定である。実際に、夕歌の運転する手狭なセダンは危なげなく雪の影響を受けつつも、想定内の時間で四葉家へ繋がるトンネル入り口まで目前ときた。

 

トンネル内部は特殊な想子波を照射しなければ入れない仕組みになっており、それを開けるためのゲートは無系統魔法の鍵を使わなくてはならない。

この手間な侵入方法は仕掛けようとする敵対者に相当な覚悟がいるものであり、其を知っている夕歌は『もう妨害は発生しない』と言う意識と達也の『だからこそここで仕掛けてくるだろう』と言う意識の違いがあった。

その二人の意識の違いが対応の差を生じさせた。

トンネルに入ろうとしたその直前に、その斜面から雪崩が襲いかかる。

深雪が咄嗟に雪崩を溶かし、穂波が半球シールドを展開して溶かした雪が水に変化して流れていく。

受け止めると同時に夕歌が急ブレーキを踏んでその場に止まると、濁流が襲いかかるが車を狙ったわけではない。

雪崩は最初から”直撃しないコース”を狙っていたのだ。

濁流が収まると同時に、穂波はシールドの魔法が消滅する前に自らで解除したのを確認した。達也が降り立ち、続いて穂波、水波、深雪、深夜、遅れて夕歌が車の外へ降り立つ。

濁流によって巻き込まれた土木が道を塞ぐように転がっていたのを見ながら、トンネルを塞ぐそれらに警戒しながら近づいていく。

 

「お兄様、これが足止めですか?」

 

「いや、待ち伏せだろう」

 

深雪の想像と達也の推測は異なっていたことを告げると夕歌が怒鳴った。

 

「出てきなさいッ!出てこないのなら容赦はしないわッ!」

 

夕歌が怒鳴ったのは、四葉家のお膝元であるに関わらず自らが運転していた車が襲撃を受けたことで、完全にそのプライドは逆撫でされてしまったからだ。

反応がないことに苛立った夕歌は、袖を少し捲ってブレスレッドタイプのCADを取り出すが、そのタイプは今年になって【アハト・ロータス・ワークス】により発売されたモノだった。

汎用型ではあるが照準補助アンテナが折りたたまれており、起動させると扇状に展開し想子の伝導効率を高める仕組みになって、それらが組合わさった新作である。思考リンクして動かす機能も搭載されている【両方でも使えます】と言うタイプで手が出しづらいと考える魔法師も多かったが、使いこなせれば強力なデバイスになるのであった。

その機能と性能は従来品と比べると非常に高くあり、【オーバーキャスト】の能力を十全に発揮させるには少々凶暴すぎる魔法を其で発動する。

 

恐怖の旋律がこの場に扇状に広がっていく。

精神干渉系魔法【マンドレイク】。

人が持つ本能的な恐怖を増幅させる想子波動を放射し扇動する魔法。

マンドレイクが放つ魔法は”恐怖のイメージ”ではなく”恐怖”そのものであり、受けたものは心理的耐久性を無視して恐怖に囚われ精神が著しく損耗する。

この魔法は恐怖を克服した兵士ならびに戦士の方がダメージが大きく、パニックを引き起こし術を受けた者は虚脱状態に陥って意識を失う、又は心身に重大な後遺症を残すことになる非常に危険な魔法である。

其を難なく扱うことが出来る夕歌の実力は、四葉分家の名に恥じないものだった。

 

放射される”恐怖”に対して別の魔法が正面から放たれる。

 

「これは…」

 

その想子の波動を感じ取った達也が反応した。

音波減衰魔法【サイレントヴェール】が発動し夕歌が発動した【マンドレイク】を中和していく。

次第にその”恐怖”が薄まり中和されていきその効力がなくなっていく。

本来【マンドレイク】に対抗できる手段は限られておりそれに対抗する魔法を扱える人間も限られている。

その事に気がついた夕歌は魔法を中断し叫んだ。

 

「…ッ!この魔法は琴音さんね!正体は既に割れているのよ!隠れていないで出てきなさいッ!!」

 

中断するには夕歌が【マンドレイク】を使用することに気がついていなければこの対策をとることは出来ない其を扱うことが出きる魔法師の検討が夕歌に合った。

そしてこの襲撃を企てた者の名前を。

 

「勝成さんも女の影に隠れていないで出てきたらどう!?」

 

夕歌が挑発すると魔法がその場所の眼前に飛んでくる。

 

「フォノンメーザーね」

 

穂波は深夜の前に立ち警戒している水波を落ち着かせるためにわざわざ魔法名を呟くと声が響く。

 

「私は逃げも隠れもしていない。散らばった障害物を抜けるのに時間が掛かったのだ。」

 

その直後によく通る声が響くと、障害物の向こう側より男と同じ背格好の良く顔の似た姉弟が姿を一緒に現す。

新発田家長男の新発田勝成とその護衛である堤奏太と堤琴音の二名が姿を見せた。

 

「へぇ?其ならどうして直ぐに返答しなかったのかしら?」

 

「普通に話せる距離にまで到達したら言葉をかけようと思っただけだ。答える前に攻撃を仕掛けてきたのは君の方だろう?相変わらず好戦的だな。」

 

困ったものだ、と告げる勝成の反応に夕歌の眉がつり上がりヒクヒク、と痙攣しているのは怒りを押さえ込むためだろう。

 

「…物陰に隠れて雪崩を引き起こす不意打ちを仕掛けてきた勝成さんがそんなことを言うなんてね。」

 

「君たちの乗っている車に直撃しないようにしていた。攻撃の意思は無かったよ。」

 

「そうだぜ!」

 

勝成の隣にいるラフな格好…ミュージシャンじみたその服を纏う少年が勝成と夕歌の間に割って入る。

 

「フォノンメーザーも当てないようにしてやったんだ。いきなりマジで仕掛けてきたあんたとは違う」

 

「はぁ…奏太さん。引っ込んでいてくださる?」

 

「なんだとッ!?」

 

夕歌はわざとらしく告げた。

 

「今私は勝成さんとお話ししているのよ?津久葉の娘が新発田の息子と会話をしている…すなわち分家の同士の跡取りが会話をしているのだから使用人風情が出る幕じゃないわ」

 

「このッ」

 

「やめなさい奏太。」

 

食って掛かろうとする奏太を阻止したのはラフな作業着を着こなす双子の姉である琴音であった。

 

「勝成さんに恥を掻かせないで。夕歌さんが告げたことは歴とした事実。使用人である私たちが口を挟むのは間違っている。そうでしょう?」

 

「………」

 

正論だと理解した奏太は黙って睨み付ける…とまでは行かないがおとなしく後ろへ下がり夕歌達を見つめている。

 

「へぇ…勝成さんは随分部下に慕われているみたいね?」

 

皮肉たっぷりに夕歌は勝成に告げる。

 

「慕われているのは琴音さんだけじゃなかったのね?」

 

「ああ。お陰さまでな」

 

その刺のある言葉に奏太の感情が今一度爆発しそうになったがソコは勝成の発する声で押し止められた。

会話を繰り広げていた勝成と夕歌だったが、司波家の長男であり深夜の実子の達也が口を挟むと、勝成のガーディアンが再び割って入ろうとしたが止められた。

用件を単刀直入に告げる。

 

「ここを通らせろ」と。

 

対する勝成は

 

「来た道を引き返せ」と告げる。そう告げる勝成の双貌に好戦的な光が宿った。

達也はその提案に頷いたが「来た道を戻れ」という意味に従う頷きではなかった。

 

「では、このままではここを通る為に争いが不可避、ということで宜しいですね?」

 

納得を示すジェスチャーを見た勝成は唇を引き締める。同時にガーディアンである二人も緊張の色を浮かべる。

 

「その通りだ。」

 

勝成が事態を決定付ける一言を発した。いや”発してしまった”のだ。

 

「で、あるのなら簡単です。勝負しましょう。」

 

「勝負?」

 

「ええ。」

 

既にこの道を通るためのお膳立ては”向こう”が立ててくれているのだ。

 

「俺を含めた四葉のガーディアンはマスターとミストレスを危険から守るために護衛する存在です。」

 

「そうだな。」

 

「でしたら話は早い。俺は深雪を危険な矢面に立てたくない。其は琴音さん達も同じでしょう?」

 

「勿論です!」

 

琴音が反応を示す。勝成の表情が崩れさるのを見た達也は内心ほくそえんだ。

 

「わたしは勝成さんが内輪で揉めて危険に晒すような真似はしたくありません!」

 

その声に奏太が反応する。

 

「俺も同じだ!」

 

勝成に従う二人のガーディアンが同調し心の内を吐露する。

 

「…おい、まさか」

 

時既に遅い。既に達也の手のひらで踊らされていた勝成は急いで阻止しようとするが無駄だった。

その提案を覆すことは出来ない。

 

「ガーディアン同士、決着をつけましょう。俺は一人、そちらは二人で構いません。」

 

「駄目だッ!」「良いでしょう!!」

 

勝成と琴音が正反対の言葉を発した。

 

「いいではありませんか勝成さん?」

 

「深夜様…」

 

口を出したのは今まで黙って事の経緯を見守っていた達也達の母親の深夜だった。

 

「主人のためにガーディアンが命を張る…素晴らしいことではないですか?其とも勝成さん?貴方は”私の息子である達也”と戦うことになんの抵抗感があるというのですか?貴方から見れば只のガーディアンではないですか?なぜ、琴音さん達との戦闘を拒む必要があるのです?」

 

「くっ…!!」

 

怪しく笑う深夜の策謀に嵌まってしまった勝成。

其は勝成と達也…立場としては時期当主の息子とガーディアンの役目を与えられた本家では”落ちこぼれ”の烙印を押された深夜の実子と戦うことになれば其は司波家当主の息子を認めるということに他ならないからだ。

 

「安心なさい勝成さん。穂波と水波も手出しをさせません。深雪と私の護衛に就かせることを約束させましょう。」

 

暗に”二人同時に掛かってきてもうちの息子はあんたの護衛程度に遅れを取らない”といっているものなのだがそんな言葉の裏を知らない勝成と琴音は言い争っていた。

勝成は知っている”この男が普通の魔法師でないことと琴音達では勝つことすら出来ない怪物であること”を。

不意に勝成が達也の過去を暴露すると深夜が口を開くその言葉には怒気が乗っていた。

 

「勝成さん?余り人様の息子のプライバシーをベラベラと喋らないでいただけますこと?…さて、話はお仕舞い。私たちは四葉当主、四葉真夜に呼ばれて本家へ向かわなければ行けないのよ。貴方達四葉分家が妹に弓を引こうとするのは勝手だけれどその後処理は企てた分家の皆様で片付けてちょうだい。」

 

その言葉に深雪が深夜が見ると微笑み掛けた。

 

「お母様…其は…」

 

「安心しなさい深雪。貴方の想いは絶対に邪魔はさせないわ」

 

「……はいっ」

 

静謐な威圧感が勝成達を襲うと黙るしかなかった。

 

「達也。深雪のために行く手を阻む無礼者達を排除しなさい。そして、”殺さない程度に痛め付けても”構わないわ。」

 

「……畏まりました母様。」

 

衝突は避けきれない、と判断した勝成は自分の目論見が甘いことを罰した。

少しの沈黙の後に二人に告げるのだった。

 

「………分かりました。その勝負お受けいたしましょう…………琴音!奏太!」

 

信頼する二人の護衛を勝成は信じて送り出すことしか出来なかった。

 

◆ ◆ ◆

 

その戦闘…戦闘というのには余りにも一方的な”蹂躙”と形容した方がいいものであった。

 

「……ぐぅ…ぅううっ…」

 

「…っうぅ…」

 

「……………。勝負あり、ですね」

 

立っていたのは達也であり地面に伏している奏太と琴音は四肢には穴が穿たれ出血している。

達也が分解と体術で容赦のない二人のガーディアンを圧倒したのだ。

突っ伏している二人と治療を行っている勝成を通り抜けて深雪達は夕歌の運転する車へ戻る。

その際に深雪の体を日差しが照らし影を伸ばす。

 

『…………』

 

「?」

 

声が聞こえた気がした深雪が後ろを振り向くと達也が声を掛ける。

 

「どうした深雪。勝成さん達が気になるのか?」

 

「あ、いえ……(なんでしょう…八幡さんのお声が)なんでもありません。先を急ぎましょうお兄様」

 

達也ですら気がつかなかった。

”魔法が発生しこの場にいない人間が既に自分達の同行者”としていることを。

 

◆ ◆ ◆

 

深雪達は足止めを喰らって、結局午後三時に四葉本家に到着した。

出迎えた使用人達に夕歌は津久葉の離れに案内されて、深雪達も部屋へ案内されたのだが、その時の扱いがガーディアンではなく深雪の兄という扱いで普段の邪険にされている其ではなかった。

普段着…仕事着に着替えた水波と会話して、後ほど食堂に来るように言い渡され少しの時間自分に与えられた個室のベッドに腰を下ろす。

呼び出された食堂には叔母である真夜が来る。

その際に四葉次期当主としての指名…内示をするつもりであろうその場で自分の意思を告げるつもりだった。

 

「…………(ふるふるッ…!)」

 

が、その事を考えると体だ震えてしまう。

怖い。その事が脳内を支配して増幅させる。

覚悟はしていた筈なのに、土壇場になって其が掘り起こされてしまったのだ。

 

「また弱気になってしまった…八幡さん…ッ私に勇気をください…ッ……」

 

『あいよ』

 

深雪の肩に柔らかい暖かい感触が伝わる。

その温もりが深雪の凍えた身体と心を溶かしていき、まるで日向ぼっこをしているような錯覚を覚える。

 

「大丈夫だ。深雪なら言えるさ」

 

「(ついに幻聴まで聞こえてくるとは…私は相当参っているようですけど…今は其がありがたいです…ありがとうございます八幡)……さん…?」

 

がその幻聴は”直ぐ隣”で立体的に聞こえた其を深雪は後ろを振り返ると”本来いない筈の人間”がこの部屋にいたのだった。

 

「結構広い場所なんだな四葉の本家ってのは……よっ」

 

気軽にいつものような挨拶をする男がいた。

 

「……………………………………………………………………………………………へ?」

 

「どうした深雪?時が止まったように表情筋を強張らせて。おーい?おい?」

 

目の前で男が手を翳すが反応がない。

どうしたものかと思っていると深雪が声を上げる。

 

「八、幡…さん?」

 

「おう。久々だな。深雪」

 

「え、ええっ……………………………………………………ッ!?」

 

「ちょっ!?し~~~~~~~~ッ」

 

「むぐっ…ふ、ふぁい…ッ(え、なんで?どうして目の前に八幡さんがいらっしゃるの……!!?)」

 

目の前には八幡が自分の口を塞いで見ている。

今にも驚きで声を上げたかった自分を自制した事を誉めて貰いたいレベルの出来事が発生していた。




四葉継承編は残り2話ぐらいで纏めたい…。
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