俺が七草の養子なのは間違っている   作:萩月輝夜

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四葉継承編これで終了…!



宴もたけなわとなりまして…と新たな騒乱の始まり

「えっ…………は………えぇ…………え?」

 

「…………………………深夜様、私達は真夜様に呼ばれたんですよね?」

 

「……………………聞き間違いじゃなければね」

 

「……………どう言うことなんでしょうか…?」

 

「私が聞きたいわ…」

 

四葉深夜と桜井穂波は困惑していた。

四葉本邸にて昔住んでいた自室で寛ぎ深雪の恋の成就をさせるために穂波に淹れてもらった紅茶の香りを楽しみながら考え事をしていると真夜のお仕えである葉山が訪れて「深夜様。真夜様がお呼びでございます。おくつろぎのところ申し訳ございませんがご足労お願い出来ませんでしょうか?」

 

と言われて真夜の部屋へ穂波を伴って赴き扉を開けるとそこには数十年前の時の姿の真夜がいたのだ。

それを視界に入れて固まってしまう二人に好好爺の笑みを浮かべる葉山に少し不貞腐れたような表情を浮かべる困惑の原因となっている真夜と…それを見てクスクスと笑いを堪えているメイド服姿の女性がこの場には居た。

 

(あんな使用人家に居たかしら…?)

 

少なくともここに来るときに玄関で出迎えていた使用人達のなかにはいなかったと。昔ここに居たときもこの部屋にいる人物は記憶になく深夜は疑問に思っていた。

 

真夜?と思わしき人物が口を開いた。

 

「……良く来てくれたわ姉さん」

 

「何の冗談…というわけでもないのね真夜。本当に?」

 

真夜は頷いて事の経緯を説明し出す。

その際に姉妹にしか知らない事を知っていたので深夜はギョッとしつつ目の前にいる少女が”妹”であることを確信した。そして今の状態を作り出した人物が八幡であることを知ると目を剥いていた。

 

「……………は?」

 

「信じられないのも無理はないけど…本当よ」

 

そして次なる衝撃な情報を貰い深夜は思わず倒れそうになった。

真夜の”過去”を癒したのが八幡であることを。

 

「は…?え…ええぇ?」

 

ふらつく深夜を受け止める穂波もその事に驚いていたが差があるのは当事者では無いからか。

 

「深夜様気を確かにっ。確かに立ち眩みを引き起こしそうなお話ですけどっ…」

 

「え、ええありがとう…それでその話は本当…なのよね?」

 

受け止められて気を取り直して真夜と向かい合う深夜は問いかけると頷いた。

 

「当然でしょう…伊達や酔狂でこんな馬鹿げた話をする筈がないわ…実際に当の本人である私も困惑しているのだから」

 

「真夜…」

 

「…なに?姉さん…というよりも距離が…顔が近い気がするのだけれど?」

 

言葉を掛けようとする深夜は実査に近づいていておりそれは気のせいではなく至近距離、と言っても差し支えないほどだった。

 

「本当に若いのねぇ…小さいときの真夜ままだわ」

 

「だからそうだと言っているでしょうっ」

 

「…………………………ハッ!?」

 

少し抜けたことを言う姉に対して語気が強くなり溜め息を吐く。

それが起点となったのか気がついた深夜は真夜の肩を掴む。

 

「そもそもどうして八幡くんと小町ちゃんがここにいるのよっ…ここ四葉本家の筈でしょう!?十師族ですらここの場所を知らないのにどうして…」

 

「それは私が教えましょう」

 

問いかける深夜に回答を返したのはこの場に居たメイド服の女性だった。

 

「???…貴女は…」「????」

 

「ふふふ…っ」

 

「はぁ…余り遊ばないでください…”お姉さま”」

 

「お姉さま?真夜貴女一体何を…?……ッ!?」

 

突如として会話に割って入ってきた女性に怪訝な表情を浮かべるが次の瞬間にその表情は驚愕へ進化する。

呆れた表情を浮かべて真夜はそのメイドに指摘すると輪郭が崩れるようにその真の姿を現す。

 

「は…?…え…えっ……………………………う、そ………?」

 

「え…っ?」

 

その姿を見た二人は言葉を失う。

 

「久しぶりね深夜。穂波ちゃんも大きくなったわ」

 

輪郭が淡く消えていきメイド服の女性の姿は昔から着なれたタートルネックの白ニットに黒ストッキングの衣服に変化しその実年齢は既に貫禄を越えているというのにシワ、シミ一つ無い年若い美しい妖艶な女性が腰まで有る夜色の艶やかな長髪を揺らしながらそこにいてフッと優しく微笑むその表情は目の前にいる深夜に良く似ている。

対峙している二人はその人物に見覚えがありすぎた。

 

「朔夜…叔母さま…?」

 

「朔夜様…っ?」

 

「ええ。数十年ぶりね二人とも。」

 

気さくな挨拶をする朔夜はまるで数日間会っていなかったのが久々に再開した…という素振りを見せるがその再開の年月は天と地ほどの差がある。差の差数三十年余り。

 

「…驚いているようだけど更に驚くことになるわよ?」

 

「え?」

 

「…まず説明するわ。どうして私が生きてここにいるのか。そして…どうして八幡がここに居たのかを、ね」

 

朔夜の口から告げられた真実。

数多くの”あり得ない真実”に二人は呆然としているがトドメとなったのが朔夜と八幡が”親子関係”に有ったということ…即ち八幡が四葉本流の血筋であり真夜達とは従姉弟であるということだ。

 

「…………………………。」

 

「おーい、深夜ちゃーん?ありゃ…動かなくなっちゃった…」

 

「…それはそうでしょう。突然八幡が従姉弟と言われたら誰だって…四葉の関係者は驚くと思いますが?」

 

その真実を言い渡された深夜は呆然としてしまった。

先の同じことをされた真夜は八幡と同じような所感を述べる。有る意味、”似た者同士”であった。

そして朔夜もやはり”血は繋がっていた”と言うことを改めて認識した。

 

「え、あ、その…本当に…叔母様は生きていて…八幡くん達が私たちの従姉妹、ですか?」

 

「ええ。」

 

「………………」

 

深夜我に返って情報の整理をしているとと有る事に気がついてしまう。

 

(八幡くんが私の従姉弟と言うのなら…深雪との関係は姪と従叔父の関係…!?そ、そんな…)

 

愛する娘の事を思えばこそ今回の四葉本邸にて真夜へ直談判する筈だったのだがそうも行かなくなってしまった。

 

(どうすれば…本当の事を伝えるわけには…行かない…いくら深雪が完全調整体だとしても…)

 

そう悩んでいると朔夜が口を開く。

 

「大丈夫よ深夜。八幡も魔法の使用で身体構造が書き換えられ過ぎてて近しい遺伝子と交わっても問題がないわ。それに深雪ちゃんの出生を考えても問題ないわ。」

 

「え…?どうして知ってるの?」

 

「ふふん、お姉ちゃんはなんでも知ってるわ。知ってることだけだけど…………さて、その件について真実を告げる段取りを決めましょう」

 

叔母は昔から”いろんな事を知っていた”ということを参照して今目の前にいる女性は自分達の叔母なのだと再認識していた。

こうして深夜達は今後の事を口裏あわせをするために少しの時間再開の感動も合わせての”作戦会議”を行う。

 

◆ ◆ ◆

 

十二月三十一日、四葉本邸食堂。

深夜、達也、深雪の三名は指定された時刻となり食堂へと案内された。

食堂へ向かう少し前。深夜は叔母と一緒に食堂へ向かうので先んじて当主書斎へ向かうのだが…

 

「お母様…大丈夫ですか?」

 

「え、ええ…大丈夫よ。少し話が複雑すぎて…ね」

 

「???」

 

「先に穂波と向かうから貴女達二人は水波ちゃんが来たら食堂へ向かいなさい。」

 

「分かりました。(お母様大分お疲れのようでしたか…何があったのでしょう…?)」

 

食堂へ向かう前に少し疲労した深夜を見た深雪は心配の声を掛けるが薄く笑みを浮かべて「大丈夫」と肯定した。

怪訝に思った深雪だったが今は心の内を当主へ直談判するための緊張で余り気にしていられなかったのもあった。

 

時刻は少し進み案内をしに来たのは水波であり給仕としては司波家の側に控えていている。

深雪と達也、食堂に到着したときに既に文弥、亜夜子、夕歌が既に着席しており入ってきた三名に視線をくれていたが直ぐに視線を其々に置く。

座ることをを進められ深雪は上座から二番目という”あからさま”な場所に苦笑を浮かべたくなったが淑女としてそれはせずに引かれた椅子に腰を下ろした。

七時前になって最後の一人である新発田勝成が現れて下座に座った。

深雪と違って達也というガーディアンを誰一人として引き連れておらずこの場にいる達也は何故自分がここにいるのか理解できていなかった。

 

七時丁度になると食堂の扉が開く。それは四葉当主が使用する専用の扉から出てきたのは”二人”で見慣れた顔だ。

出てきた人物は黒に近い深紅のドレスを身に纏う”四葉真夜”と緑に近い深窓のドレスを身に纏う”四葉深夜”が出てきて二人の椅子を葉山執事と穂波が引く次期当主達と深雪達は急ぎ立ち上がる。

 

「皆さん、急な招待に拘わらずようこそ。どうぞ座ってくださいな?」

 

そう言って真夜は葉山に引かれた椅子に腰かける。同時に深夜も腰かけた。

二人が腰かけるのを確認してからこの場に集った六名は席に着いた。

 

「まずはお食事にしましょう。勝成さん、夕歌さんご希望がありましたらお酒を持ってこさせますけど」

 

そう真夜が告げると夕歌と勝成の視線が交差して口を開いたのは前者だった。

 

「せっかくのお申し出ですが申し訳ございません。私は余り酒類を嗜む方ではないので…」

 

「そう言えば余りお酒が強い方ではなかったわね…いつだったかの会で直ぐに顔を真っ赤にしていたし」

 

「お恥ずかしながら」

 

「勝成さんはいかがかしら?かなりお強い、と聞いていたけれど」

 

今度は真夜が勝成に目配せすると勝成は折り目正しく一礼していた。

 

「はい。私も強い、といいましてもその場かぎりでございまして。二日酔いが酷い体質でして。ですので申し訳ございませんが明日は重要な会を控えておりますし私も遠慮させていただきます。」

 

勝成が固めに一礼すると真夜は笑みを浮かべる。

 

「そこまで固くならなくとも大丈夫よ?無理矢理お酒を進めるほど私も悪い趣味をしていないわ」

 

にこり、と微笑んで軽く手を挙げると葉山が頷いて合図して扉から使用人達が料理の乗った皿を人数分運び目の前に持ってくる。洋風のオードブルなのは明日が和風おせちだからか。

運ばれてきた前菜に手を真夜達が手をつけるとそれを合図に六名が食事を始める。

和やかな雰囲気とぴりついた牽制が次期当主候補達のなかで走るが関係ないと言わんばかりに二人の姉妹は食事を楽しみ時間が過ぎてシャーベットを食べ終えた段階で真夜が居住まいを正した。

 

「さて…そろそろ本題に入らせてもらうけれど…勝成さん、夕歌さん、深雪さん、文弥さん」

 

達也と亜夜子を除く四名の名前を年齢順に呼ぶ。四葉次期当主候補の名前を。

 

「貴女達は最後まで残った四葉次期当主候補。明日の慶春会でその次期当主を指名します。」

 

候補四人だけでなく達也と亜夜子も真夜へ視線が集中していていつのまにか葉山と穂波を除く使用人達は全員退出していた。

 

「いきなり結論付けられても皆様のまでは困惑するでしょうから気持ちの整理もつかないでしょう?だから皆様には予めお伝えしておこうと思ったんですよ。」

 

真夜の言葉に緊張しているのは深雪だけであり他の三名は落ち着いているように見えた。

この場に集う四葉の子達は初めから”深雪が次期当主に据えられることが確定していることを知っている”という風に。

 

真夜からその事を告げられて反応見せた…いや手を打ったというべきか黒羽文弥が挙手し「次期当主の座を返還し司波深雪を当主へ推薦する」と言ったのだ。

現当主が”既に次期当主を決めている”と言っているのに対して「返還し司波深雪を推薦する」というのは反逆、と捉えられても仕方がないのだが真夜は面白そうな笑みを浮かべているだけだった。

それに追従するように津久葉夕歌も「返還し司波深雪を推薦する」と言い出した。

それに対して真夜は笑いながら

 

「貴方達は当主達から『本家の一存で次期当主を決めてはならない』と入れ知恵でもされたのかしら?」

 

其々の分家が深雪達の妨害をしていたのは真夜は知っていたが咎める気はなかった。

その事に関して隣に居る深夜は少し不満げであったが分家の目論見は潰えたので特に反応する気もなかったのでそのままにして居た。

 

話は進み津久葉は戦闘力に劣る…ということで次期当主の座を返上し司波深雪を次期当主へ上げることを指示したということを”実績”で欲しいということを包み隠さずに告げるものだから真夜は苦笑いを浮かべ隣の深夜は白けた表情を浮かべている。

真夜はそれを了承し話は進んで最後の一人である新発田勝成へ問いかけると此方も同じく「次期当主に司波深雪を推薦する」と言い出した。詰まるところ大勢に従うということだ。

 

勝成は真夜へ取引、いや”お願い”を申し出た。

それはガーディアンである堤琴音との婚約に口添えをして欲しいというものであった。

その事を聞いた夕歌は口をつけていたノンアルコールのスパークリングワインを吹き出しそうになり文弥に至っては顔を真っ赤にしてワタワタと慌てふためていている。

 

「そうねぇ…”愛しているもの同士を引き裂く”ような真似をして馬に蹴られて死にたくないし」

 

その言葉を告げながらなぜか深雪を見る真夜。

 

「”調整体”だからというので早死にするわけではないわ。」

 

深雪は真夜がその言葉を告げたことに背筋が凍るような感覚を覚えた。

自分が八幡と結ばれたいと考えていることがバレている…?あぁ、やはり私の言葉では叔母の心を…動かすことは出来ないのか、と暗闇に突き落とされそうになる。だがそのつぎに発した言葉の意図が理解できなかった。

深雪から勝成に視線を向けて言い放つ。

 

「良いでしょう。本家の当主、ともなれば勝手に結婚相手を自分の意思でとはならないけれど」

 

その言葉に深雪がびくり、と肩を震わせる。達也は心配そうに深雪に視線を向けたが深雪は視線を手元に置いたまま微動だにしない。

 

「分家当主ならそこまで深く考える必要はないわね。勝成さんが次期当主の座を降りる、というのであれば私からも理さんに口添えさせてもらうわね。」

 

「ありがとうございます」

 

立ち上がり深々とお辞儀をする勝成。

頭を上げた勝成に真夜は手振りで座るように指示を出すと着席する勝成は少しだけ息を吐いていたのは一心地ついたからか。

 

「何だか、私がいう必要が無くなってしまったようだけれど……」

 

緩んでいた空気が引き締まる。視線は深雪に移動した。

 

「深雪さん。貴女を四葉家次期当主へ指名します。」

 

「…ーーーはい」

 

深雪は固い声で応じて立ち上がる。

 

「幸い、ここに居る皆様から快く支持を受けていますから、それに恥じることの無いように励みなさい。」

 

「はい、叔母様。精進いたします。」

 

立ち上がった深雪は真夜達に向けて、次に勝成達に丁寧に腰を折った。

 

「では、お食事を再開しましょうか?」

 

そう言って再び手を挙げると葉山が手を叩くと扉から使用人達が料理を運んでくる。

メインの肉料理が運ばれてそれ以降は食卓を世間話が賑わした。

 

ただ、食事が終わった後、真夜と深夜は深雪と達也のみこの場に残るように伝えたのだった。

 

◆ ◆ ◆

 

深雪と達也を除く次期当主候補…いや分家当主の娘息子達が全員退出しセッティングがし直された食堂にて対面する真夜と深夜、そして並んで座る深雪と達也の四名の前にはストレートの紅茶と達也の前にはブラックコーヒーと深雪の前にはミルク入りのコーヒーが湯気を立てて置かれている。

それらを置いた葉山と穂波は退出し有る意味での”家族団欒”の光景になったが空気がピりつく。

真夜がカップに口を付けにこやかな声で話しかける。

 

「深雪さんまずはおめでとう。そして達也さんもお疲れさまでしたね。姉さんもお疲れさま」

 

「ええ。」

 

「ありがとうございます、叔母様」

 

「恐縮です。」

 

深夜がラフに返答し深雪と達也が揃って一礼した。

口をつけていたカップをソーサーに置くと真夜が話を切り出した。

 

「さて…お二人に残ってもらったのは大切なお話があるからです。」

 

身を固くした深雪の反応に当然ながら達也は気がついた。

 

「当主となれば、結婚相手も自分の一存というわけには行きませんこれもさっき話したことなのだけれどーーー、」

 

「失礼ながら叔母様、」

 

その言葉を遮るように深雪は口を開いた。

今まで感じたこと無い喉の乾きとのし掛かる恐れが深雪を押し潰そうとするが八幡の告げた言葉がその勇気を奮い立たせる。

 

「私は…既に心に決めている人が居ます」

 

そう深雪が告げると真夜の目が細まり威圧感を醸し出す。

が、真夜は何も告げずにただただ黙って深雪を見つめている、その言葉の先を催促するように。

 

「…三年前。沖縄の出来事で救われてから私は八幡さんの事を異性として意識していました。高校入学で再び再開できたとき其は好意に変わっていました。私は八幡さんが好きです!それ以外の殿方とは一緒になりたく有りません!例え四葉家を勘当されて親族からも蔑まれようとも私は八幡が大好きなんです!!」

 

「…七草の養子と一緒になりたいと?向こうの好意が貴女に向いていないという可能性を考えてはいないの?仮にそうだったとしてあれは七草の家の者…私が”良いわ”と首を縦にふると思っていて?そんなことをすれば貴女は四葉にいられなくなるのよ?」

 

静かなる”怒り”がこの場を支配する。

このまま行けば深雪は真夜の”夜”によってその肉体を撃ち抜かれるだろう。

その恐怖を深雪は克服し真夜に言い放った。

 

「構いません。私は…八幡さんと恋が出来れば死んでも良いです!例え…拒否されても八幡さんを想う心は止められません!!」

 

純粋な心持ちが宿る強い意思を秘めた瞳で真夜を見つめる。

膠着が数十秒…深雪からしてみれば数時間にも思えた其を真夜から崩した。

 

「…はぁ。我が姪ながら本当に強情ね。ねぇ、姉さん?」

 

溜め息、それは呆れ…というより認めざる得ないという心からの声だった。

 

「え…?」

 

「深雪」

 

「は、はい…」

 

母から名前を呼ばれまた別の緊張感が深雪を襲う。

 

「本当に、八幡くんの事が好きなのね?」

 

「はい」

 

嘘偽り無い本心を肯定する。

 

「貴女と八幡くんの関係が近しいもの、といっても?」

 

「それはどういうこと…ですか…?」

 

深雪には母の言った言葉が分からなかった。

なぜそんなことを告げるのか。

まるで自分と八幡が”親族”だと告げるようなーーーー。

 

「深雪、達也。心して聞きなさい。貴方達と八幡くんは姪、甥と叔父の関係性なの」

 

「は………い………?」

 

私の母親は何を言っているのか一瞬視界が真っ白になった。

嘘をいうにはまだ4ヶ月もあるというのに冗談はやめて欲しい、と願ったが目の前の母親は笑いもせずに真面目に此方を見つめて告げる。

その言葉に達也はーーーーあり得ないーーーーーという言葉を告げられずにいた。

 

『八幡さん。八幡さんと司波さんはオーラが似てますね…」

 

メガネを掛けた知り合いの女子生徒が告げた言葉が掘り起こされる。

自分を主体とした思考を取り戻した達也が真っ先に思い出した言葉がこれだった。

 

ー深雪と八幡が姪と叔父の関係?あり得ない。年齢だって一緒だ。八幡は四葉の人間ではなく元八幡家の人間だ。

ー俺と八幡が甥と叔父の関係?あり得ない。年齢だって一緒だ。八幡は四葉の血統に名を連ねていない。

 

分かりきっていることを疑う自分を恥じた達也は混乱する深雪の手をそっと握り落ち着かせた。

 

「叔母上。その話を詳しく聞かせていただけますか。」

 

「良いでしょう。ですけど私から聞かせられるより”関係者”からの口から聞いた方が信頼はあるでしょう。…”お姉さま”。説明を二人にお願いできますか?」

 

正面を向いたまま後ろへと話しかける真夜。

 

『分かった。それじゃあ説明して挙げましょう。可愛い甥と姪のためにねっ』

 

「…ッ」

 

達也は想わず身構えたのは自身の【目】をすり抜けて近くに隠れていたその隠匿に驚いたからでありその身体情報と見た目である。

 

空間が解れるように姿を現したその女性は対面している二人に酷似している。

それは母親から見せられた故人そっくりで写真から出てきたのかと錯覚するほどであった。その姿見は真夜に似ている、いやこの女性に対して”二人がその女性に似ているのだ”と達也と深雪は理解した。

女性はフッと微笑み口を開く。

 

「始めまして二人とも。私は四葉朔夜。深夜と真夜の叔母に当たる存在で…まぁ貴方達からしてみれば大叔母さんってところかしらね?」

 

その言葉遣いは非常に柔らかく日向にいるような暖かさを覚える。が、次に発せられた言葉は二人を動揺させるのに、達也の脳裏に浮かんだ言葉を確信へと変わる言葉だった。

 

「そして…私は七草八幡と七草小町の母親よ。」

 

◆ ◆ ◆

 

「……ということなの。」

 

「………………」

 

「深雪。大丈夫か…?」

 

「…………はっ!?も、申し訳ございませんお兄様…突然のことで気が動転していまい…」

 

「気にするな深雪。俺も…かなり動転している。」

 

兄妹二人は突如現れた朔夜と八幡との関係を知らされて当然の事ながら動揺している。

当然だろう突如として死んだ筈の大叔母が目の前に現れ件の人物がその子供…そして親族なのだと知らされればそうもなってしまう。

それよりも深雪は其を知ってしまい感情の整理が済んでいない。

そんな深雪を見かねてか朔夜は優しく語り掛けた。

 

「深雪ちゃんは本当にうちの息子を愛しているのね?」

 

そう問いかけられて深雪は迷うこと無く頷いた。

 

「はい」

 

「そう…なら良かった」

 

「…?」

 

「真夜ちゃん、深夜ちゃん。…この事を告げても良いわね?」

 

「はい」「構いませんわ。」

 

朔夜は二人の許可を得て説明するその事実に深雪は口を押さえて驚きを示す。

 

「深雪ちゃん。貴方は調整体なのよ」

 

「っ!?」

 

「…ッ」

 

達也もまた同じような反応を見せた。

言葉を継いで深夜が説明する。

深雪はそれに恐れるように口を押さえている。

 

「私が…調整…体…!?」

 

「でも安心なさい。貴女は龍郎さんと姉さんとの生殖細胞から産み出された受精卵をベースに四葉の技術の粋を結集して作られた『完全調整体』。既存の調整体を凌駕し欠点を克服した人間以上の人間として産み出された四葉の最高傑作よ。」

 

「……………」

 

その言葉に深雪はホッとしていたのは彼女も”調整体”の短命さと欠点を知っているからだ。

それが自分にはないということを知れて安堵したからだ。そして言葉は朔夜が受け継ぐ。

 

「それでも深雪ちゃん?貴方と八幡の関係は姪と叔父という関係よ。其を知って尚貴方は息子を好きなの?」

 

その答えは一つしかなった。

 

「はい。私と八幡さんの関係がそのようなものでも…私は八幡さんが好きですっ!!」

 

朔夜にそう告げるとニコリと意地の悪い笑みを見せる。

 

「世間からは白い目で見られても?」

 

「構いません…!」

 

「親族からもそんな目で見られても?」

 

「構いませんっ!」

 

力強くそう言いきる深雪に朔夜は溜め息を吐いた。呆れた…というよりも根負けしたという意味合いで。

 

「そう……そう言うことなら私からは何も言わないわ。全く諦めの悪さは一体誰から受け付いたのか…」

 

「お姉さまですよ…」「叔母様だと思いますが…」

 

「うぐっ…そういう意地悪な所は姉さんに似て~って………まぁ大丈夫よ深雪ちゃん」

 

「はい?」

 

先ほどまでの暗い雰囲気から一転し明るくなった食堂で朔夜は深雪に告げた。

 

「貴方達も知っていると思うけど八幡も【物質構成】…ああ。彼自身の固有魔法で身体遺伝子情報が書き換えられちゃってるからほぼ別の人間といっても過言じゃないから深雪ちゃんが八幡とセックスして生まれた子供に悪い遺伝情報は伝わらないし二人や三人作っても問題ないわ♪それに更に優秀な子供が生まれるわ」

 

「………ッ///////!?!?お、大叔母様ッ!!?」

 

唐突な爆弾発言に空気が一変する。

その瞬間深雪の顔が瞬間湯沸し器のように湯気立ち顔を真っ赤にした。

 

「それに八幡のすごいところはそれだけじゃないの。生まれた子供に才能を百パーで引き継がせる【覚醒因子】って言うのがあるからね…ふふふっ♪早いところ孫の顔が拝みたいわねぇ…でも気を付けなさい深雪ちゃん。」

 

「は、はい…」

 

「八幡を狙う年若いかわいい女の子はたくさんいるからアタックを逃すと一番を持っていかれちゃうわよ?だって…」

 

年齢に見合わぬ大輪のような笑みを咲かせた。

 

「自慢の私の子供達だもの♪あ、なんなら一夫多妻にして子沢山でも良いわねぇ~」

 

「「「「それはどうなん」だろう…」ですか…?」でしょうか…?」だろうか…」

 

その後真夜の状態と今後の事を説明し夜も更けてきたことで解散し寝る支度を整え眠りにつく司波一家、宛がわれた各寝室でしかれた布団に身を投げ出し仰向けになる深雪。

今日の事を思い出していた。

 

(私と八幡さんが姪と叔父…と聞かされたときは正直信じられなかったけど…大叔母様が出てきて全部が納得できたような…それに大叔母様は言っていたわね…)

 

先ほどまで会話していた内容を思い出す。

 

『次期当主になることも悪いことばかりじゃないわ。貴女の立場に箔が付く、ということになるのだから。まぁ仮にも八幡は次期当主だからね』

 

『貴女と八幡は確かに血縁関係が有る…といってもそれは形だけだから殆ど他人のようなものよ。完全調整体と突然変異体、とでも言えば良いのかしらね。次世代の子供には何一つ障害はないの。だから安心なさい。』

 

(八幡さんが私の…………/////)

 

しかれた布団にくるまり悶絶する深雪が何を想像していたのかは容易いだろうがここで説明するには野暮だった。

そこかとない背徳感が支配していたが喜びの方が勝っていた。

 

「…八幡さんは全部知っていてあのようなことを…?だからこの場に八幡さんがいらっしゃった…?」

 

モヤモヤしていた考えがジグソーパズルの最後のピースがはまりこんだような爽快感を覚え深雪は府に落ちた。

起き上がり枕を抱き締めて座る。

 

「で、でも……今度からは八幡さんの立場は一応”従兄妹”ということになるのよね……小町ちゃん…いや”小町さん”になるのかしら…?」

 

ここに小町がいたら「ちゃんで付けでお願いしますよ!深雪さん!」とお願いされそうだと小さく吹き出す。

 

(もう私は八幡さんを諦めなくても良い…叔母様もお母様も…大叔母様も認めてくださった…頑張らなきゃ!)

 

考えに耽っていると時刻は頂点を回りそうになっておりいそいそと布団へ潜り込む深雪。

部屋の電気を消して呟く。

 

「お休みなさい…八幡さん。深雪は…頑張ります」

 

明日は大事な会だ。

寝坊するわけには行かないと意気込むが直ぐに深雪は眠りに落ちた。

 

翌日四葉本家にて慶春会が開かれ朔夜の魔法によって元の姿で現れた真夜からの指名で司波深雪が四葉次期当主として指名されて達也の四葉家での立場は飛躍的に上がりこれは深雪、深夜が心から望んでいたことだった。

 

紆余曲折を得て四葉一族の慶春会はつつがなく終了した。

 

そして翌日西暦二0九七年一月二日。

四葉家から魔法協会を通じて十師族、師補十八家、百家、数字付き等の有力魔法師に通達が行われた。

司波深雪、姓を改め四葉深雪として四葉家次期当主として指名したことを。

 

そして時を同じくして魔法協会から七草家を通じて有力魔法師へ通達が行われた。

旧姓比企谷八幡、改め七草八幡を七草家次期当主として指名した。

 

が、次の事柄は”誰の差し金”なのか…魔法師の次世代へ優秀な能力の継承することが出来る八幡の固有の【覚醒因子】が判明したのは非常に強烈であった。

 

これを受け魔法協会と七草家、そして四葉家は連名し七草八幡に対しての優秀な血統を残すための暫定的な処置として”一夫多妻制度を限定的に認めるよう”申請しそれを受理した魔法協会本部は精査して認められれば特例として重婚を認めるとなった。

 

一先ず、八幡の婚約者として七草家からは長女の真由美。そして四葉家からは深雪が名乗りを上げて当人の実家である七草家は、四葉家はそれを了承した、と。

 

これを受け日本魔法界は波乱の様相を見せ始めるのだった。

 

◆ ◆ ◆

 

その翌日。その公表に反応するものがいた。

一月三日、旧石川県一条家本邸。

 

「ご当主様。四葉家と七草家に祝電をお送りいたしますがいかがいたしましょう?」

 

「…魔法協会本部へ伝えろ。」

 

浅黒く焼けた肌にガタイのよい高い身長の男が低い声を響かせお付きの者に命じた。

 

「十師族・一条家は七草八幡・四葉深雪嬢への婚約に意義を申し立てる、とな。」

 

一条家当主・一条剛毅はそう告げるのだった。




最後の下りはかなり強引かもしれないので賛否有るかも知れません。
考え付くのがこれしかなかった私を許して欲しい…
最後の唐突に出てきたワードは次回で説明予定。

次は『師族会議編』をお楽しみに。
メインを張るのはあの金髪のお嬢様かも…
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