真夜はヒロインじゃないよ?(迫真)
前回までのあらすじ。
新学期二日目に季節外れの転入生がやって来たのだがそれが従姉弟であり名字を偽っていたのだ。
どう言うことなのだよ…?
と現実逃避していると…ところがどっこい現実であり自己紹介が終わった真夜が座るべき場所を教師が指差した。
「それじゃあ狐坂さんは七草の隣が空いているからそこに座って下さい」
「分かりました。」
俺はこっちに来る真夜を目で追っていった。
先生から促された真夜は頷いてその席に移動し椅子を引いて着席すると同時に俺の方を見る。
「…………」
「私の顔に…何か付いているかしら?」
「いや、ナンデモナイデス…」
「そう………くすっ」
着席してから真夜は口元を隠すようにして小さく笑っていたが恐らく聞こえたのは俺だけだろう
「…………」
授業終わってから俺をハイライトオフで見ている深雪はともかく…ってあれ?うちの母さんから聞いてないのか?と思ったが二人以外の連中からは質問責めされそうだな…。
……………………助けてタツえも~ん!!
◆ ◆ ◆
昼時。
俺は昼食を取る前に校内外の調査を生徒会に報告するために風紀委員会本部で資料を纏めていた。ニゲテキタワケジャナイヨ?(震え声)
それよりも……腹が………減った…(○独のグ○メ感)
とアホなセルフパロディは程ほどにさっさと終わらせるために室内にはキーボードを指が走る音が響いている。
「ん…校内では異常無し、か………でも、最近外での被害が多い、と…女子が大半だからこれ婦女暴行でお縄に出来んもんかね?…つか俺真面目に仕事してる…すげー。」
「そうね八幡にしては真面目に働いているけど女の子のエスコートを放り出して仕事に打ち込むようなダメ男は嫌われちゃうわよ?」
独り言を呟くほど疲れているらしい。
つかなんで俺真面目に仕事してるんだろうか?社畜まっしぐらなの?やだ八幡ってば働き者…と思っていると後ろから囁かれた。耳に息が…あ、ヤベ変な声出る。
「はぅあ!?…ってなんで真夜がこの部屋にいんだよ………部外者以外立ち入り禁止だぞ?」
そう言うと真夜は心底心外だ、言わんばかりの表情を浮かべている。
「『立ち入り禁止』とは書いてなかったし扉が開いていたから入ってきただけよ?私は悪くないわ。」
「…このお転婆姫がよ…」
「何か言ったかしら?」
「なにも言ってないし耳元で囁くな。くすぐったいんだよ…!」
「ふふふっ…」
無理矢理に引き剥がすと真夜はクスクス、と大変愉快だと言わんばかりに笑ってる。
…可笑しくね?俺が真夜と会ったのは数日前で悪ければ殺し会いをしていたはずの関係だった筈なのに今こうしてからかわれているのは非常に奇妙だ。
それに見た目が若返ったとは言え妖艶なあの雰囲気は反則だろ…なんかいい匂いするし。
そんな俺の感情など知らん、と言わんばかりに俺のパーソナルスペースに踏み込んでくる従姉弟殿は俺が纏めていた資料を一読するために覗き込む。
その際にはち切れんばかりの柔らかいものが身体のラインが出る一校の制服に輪郭として現れる。
すげぇ…ほのかよりでかいのでは?視覚の暴力だろこれは。
「……これは?」
「達也に報告する校内の風紀調査報告だよ。」
「ふぅん…”校内は異常無し”ね…」
「なんか引っ掛かる、みたいな言い方だけど?」
「あからさまに”問題有り”と言っているようなものじゃない」
「まぁな。…校内だけで校外では問題件数が増加している。その原因はー」
その先を言おうとしたら真夜に台詞を取られてしまった。
「【人間主義者】の団体、ね?」
驚いた、と言うか今現在四葉の当主をやっているのだからそれくらいは知っているのだろう。
俺は開き直って真夜に聞いてみた。
「この【人間主義者】を先導しているのはどこのどいつ…知ってたりする?」
そう問いかけると真夜は肩を竦めた。そして先程より真面目な表情を浮かべる。
「さぁて…未だ分からないわ。USNAか大亜連合が裏で扇動している可能性はあるだろうし。確定的なことは言えないわね」
「なんだそれ…」
呆れた、と言う風に言うとまたしてもクスクスと笑みを浮かべる真夜。
「そんなことを言ってるけど事件解明のために先導切って動くのは貴方よ?どうせ弘一さんやお姉さまから指示されるのだから頑張りなさい」
「働きたくねぇなぁ……と、纏め終わったから達也に報告しに行くか」
俺は真夜と話ながら資料を纏め終わった俺は立ち上がり提出しようとすると生徒会室に繋がっている階段へ向かうと真夜が付いてきた。何故?
「…なんでお前付いてくるの?なに、構ってちゃんか?」
「寝言は寝てから言いなさい。それが判断できないほど脳に栄養が行っていないのかしら八幡」
「一つ言ったら倍で返って来るじゃん…カウンターの達人なの?」
真夜は呆れたように溜め息を吐く。俺呆れられ過ぎじゃない?
「先生からの言伝を忘れた?『お世話して上げなさい』ってほら、昼食の時間無くなっちゃうから早く行きましょう?」
んな事一言も言って無くない?
「あ、おい…!」
俺は真夜に手を引かれて生徒会室に向かう。案内しろって行ってるのにお前が先行してどうするのよ。とそんなことを思っていると真夜から再び耳元で囁かれた。
「あと、男の子の視線って分かりやすいからあまりジロジロ見ない方がいいわよ?貴方の脳内フォルダーの女の子と比較するのは…論外ね」
はい、俺が真夜の胸をチラ見していたのがバレました。なにお前悟られ系なの?
くっ…!従姉弟のを目で追ってしまう俺は眼科に行った方がいいのでは?と本気で思ったがそんなこと言ったら警察か精神病院に運ばれてしまうので止めた。
「まぁ…私だからいいけど」
ぼそっ、と真夜がなにか呟いたのを聞いたがよく風紀委員からの通信、定期巡回報告で聞こえなかった。
「?なんか言ったか?」
「別に。」
「つかお前行くと悪目立ちしない?」
「あ……」
「気がついたか…」
「大丈夫よ。八幡のせいにするから。」
「ひでぇ従姉弟だなぁ…」
…しかし、真夜が正面を向いて歩みを進める際に振り返り様に頬が紅く染まっていたのは風邪でも引いたのかも知れんので病院に行くことをお勧めしたい。
◆ ◆ ◆
「いや、まぁ面識があると言うか俺の従姉弟なんだが…」
生徒会室に向かうと案の定問い詰められたので苦しい言い訳を連ねると詰められた。って文字にするとなんかラップみたい。
俺が悪い訳じゃないんや。
このお嬢さんが俺をからかおうと近づいてくるだけなんです!本当なんです信じてください!
「八幡さん?婚約者と言うものがありながら早速浮気ですか…いくら八幡さんが女誑しと言うのは知っていますが転入生と逢引とは…これはもう私たちで監禁するしか…」
目のハイライトが消えてるのが怖すぎるんだよ!それにたいして真夜は楽しそうにクスクスと笑っている。
今此処で深雪と達也に「此処の目の前にいるドS美少女は従姉弟でお前達の叔母だ!」とゲロってやりたかったがそんなことをしたら【流星群】で撃ち抜かれるので止めた、いや出来なかったんだが…つか達也フォローしてくれよお前分かってその表情を浮かべてるんだろ!?
「…………(何故叔母上が…深雪と同じような年頃で制服を…俺は夢でも見ているのか?)」
「は、八幡さん…私たち以外にも…」
「おにぃは本当に…見境無いんだから…」
「そんなことありませんよ香澄ちゃん。きっとお兄様に一目惚れしてしまっただけですあの上級生の転入生は」
泉美…お前はちゃんと俺の事見てくれているんだな嬉しい…
「それでも早速お手付きになるのはお兄様の悪いところですけどね?」
と思ったらこれだよ!ジーザス!神よ此処に救いは!救いは無いんですか!?
「……八幡、貴方は一週間の謹慎ね。」
雫!?本当なんです信じてください!!
「………(なんで真夜ちゃんが制服着てこの学校にいるの?私夢でも見てる?)」
小町に至ってはウラワフラワーみたいな笑みを浮かべてる。あ、思考放棄したなあれ。
と、まぁ色々あって俺への浮気疑惑は解消されたので急いで昼食をかっこんで終わらせて達也に風紀報告書を提出する。
ペラペラ、と電子ペーパーを捲る音が響いてざっと目を通して生徒会のサインを入れて貰った。
「校外で問題が発生しているのか?」
「ああ。校内は問題なし。だが校外に至っては女子生徒が盗撮紛いの被害を受けてる。」
「ストーカーか?」
「いや。ストーカーよりもっと質が悪い。【人間主義者】の団体のようだ。」
「当校の生徒が反魔法師団体の標的にされていると?」
「未だ暴行や脅迫を受けた生徒は出ていない。だが、一人を集団で囲って暴言を吐かれた、と言う実害が既に出始めている。」
「小町、ちゃん。風紀委員長からのお話であった被害状況を生徒会で把握していますか?」
言い直したのは小町をさん付けしようとしていたからか。
「少々お待ちを…っと出ました件数としては三十八件人数的には二十四名の相談がありましたから何れも警察に届け出を出してますけど…具体的な検挙と言うのは報告として挙がってませんね。」
「ほ、放置なの!?」
ほのかが信じられない、と言った声を上げていた。
「暴言だけじゃ警察は動いてくれない。」
雫が溜め息混じりにそう答えた。
「実際に暴行された現場…痴漢なら一発だが尾行と盗撮じゃな。それに横浜事変のように明確に敵が分かっているのなら叩き潰すだけで済むが善良な市民の中には魔法師に味方する者達もいる…それに紛れ込んでいる反魔法師をだけを炙り出して攻撃は出来ない。逆にこっちが”悪者”になっちまう。無用な手は出さない方がいいだろう」
「そうだな…八幡の言う通りこちらが手を出せば悪者になり魔法師全体のイメージが低下する。生徒会長、全校生徒に直接的な暴行に対する警戒と過剰反応でこちらが悪者に成らぬように、と伝えてくれ。」
「分かりました。早急に。」
俺の意見を汲み取った達也が深雪に指示したのだった。
◆ ◆ ◆
その日の放課後。
部活動と委員会活動が終わって完全下校時間になり俺たちも学校から帰ろうか、となった時にふと思ったことがあった。
そう言えば真夜はどうやって此処まで来たのか。こいつの住む部屋は何処になるのだろうか…と。
前者は母親が俺からコピーした縮小版の【次元解放】を使って此処まで送ったのだろう…が後者は司波家で暮らすのなら深雪達が知っていても可笑しくない筈なのだがそれを先ほどの反応を見ると…と言う感じだ。
既に真夜は帰宅の支度を整えていたので既に此処にはいない。
まぁ俺が気にする必要は無いのだが…。
「たでーま」
「ただいま~」
「ただいま戻りました」
「ただいまー」
「お帰りなさい八幡…と小町ちゃん達」
七草四兄妹が七草家の正面門を潜って玄関を通ると聞きなれた声が聞こえた。
ん?”聞きなれた声”?その声色の主を追って玄関に立っている人物を見ると全員で驚く顔をした。
いや、なんでいるねん。
「…?早くあがりなさい?夕食の準備が済んでいるから手を洗ってね」
何故か七草家に真夜が居た。いや、本当に何でだよ!?
◆ ◆ ◆
夕食の会場で一応納得…してないだろう姉さんと香澄達に母さんと父さんが口裏合わせしてくれたようで真夜…狐坂真夜は俺の”従姉弟”と言うことになっており両親が他界して俺の祖母…うーん紛らわしい。えー比企谷朔夜によって引き取られて名字そのままで一緒に暮らしていたが祖母…ええい面倒くさい!…朔夜が体調を崩したので一年間知り合いである弘一に預けた…で、そのために第一高校に転入し七草家を生活の拠点とする…と言うことだ。
嘘は言っていない…一部は本当だしな。
で、その事に関して姉さん、香澄、泉美は不満げ…ではなく境遇を聞いて「大変だったのね」と涙を流す始末だった。
無論小町はそれを聞いてなんとも言えない表情…と言うか「え、その設定で行くの?」と言う感じだった。
いや、従姉弟って言った俺が悪いんだけど…つかなんでそれ母さん知ってるの?
「私がお姉さまにそう伝えたら『それで行こう』と仰ったからそれに便乗した形だけよ」
「だったら司波家に行けば良かっただろ…達也達には真夜の今の状態を知っているんだろ?」
達也の目はあらゆる欺瞞を見抜く…と言うか物体の構造体を把握する【精霊の目】と言うのがあるのを母親から聞いていたので【仮装行列】も見抜くので母親が幾ら”上手いこと隠した”としても見抜かれる。
見抜かれないとしたら”身体構造体を異次元空間に格納する”しかないだろう。
…今現在俺たちは食事を終えた後に「昔馴染みと話がある」と言うことで自室に呼び会話をしていた。
「バカね。私が司波家にいたら四葉の縁者だと貴方も疑われることになるわよ?もう少し考えてからモノを言いなさないな」
ぐうの音もでない正論で俺は肩を竦めた。
「そうかい…つかお前父さんと確執あったんじゃねーの?」
そう告げると真夜は身体を抱いてそっぽを向いて呟いた。
「…貴方が救ってくれたからもう無いわ。それに弘一さんは目を失っても私を助けてくれようとしていた、と言うのを聞いたらもうそんな風に恨むなんて出来ないわよ」
「?…まぁ仲良くしてくれるなら俺的にはオールオッケーだがな」
最初の言葉が聞こえなかったがどうやら母さんが父さんの行動を説明したようで考えを改めたらしい。
まぁ数十年の差異があったのだからそれを「はい、そうですか」と納得させられるこいつは強いなと思った。
まぁ元婚約者だったって聞くしかって知ったる仲と言う奴か。
「……そろそろ良い時間ね。部屋へ戻るわ」
腰かけていた真夜が立ち上がり扉を開く。
俺は座ったまま退出する後ろ姿を見送って声を掛けた。
「おう。おやすみ………”真夜”」
「…お休みなさい………”八幡”」
真夜が扉を閉めると自室には甘い、優しい残り香が漂っていた。
◆ ◆ ◆
「ふぅ……ッ。漸く、”形になった”と言うべき、か?」
日課である朝の鍛練を修練場にて行い仕上がり具合を確認していた。
拳を握らずに無手の構えである【無窮・麒麟乃型】を構える。
この型の”奥義”だけは相性が悪く先に小町が習得していたのだが…
「俺も習得できたが…やはり小町とは種類が違うモノになっちまったな…これもう【麒麟乃型】じゃないな」
習得した奥義が本来想定しているものとは違うのは小町の本質が違うからでありそうなるのは必然だろう。
言うなれば攻撃型になったので…【閃光・黄龍乃型】と改めるべきだった。
相変わらず厨二臭いネーミングだと苦笑する。
「…まぁこれが何時使えるのかはまぁ…分からんけど手数が増えた方が良いしな」
汗をタオルで拭うが吹き出してくるのと同時に1月の気温で上半身裸、と言うのは中々きつい。
身体の芯から温まりたいが風呂を沸かすのも面倒なので修練場に作った少し広目の浴場に向かう。
「…俺風呂沸かしてたっけ?」
脱衣所に入るとボイラーが動いている音が入った。
修練場に来たときすぐに修練し始めたので浴場に立ち寄っていないし予約起動してた訳でもないのに水が流れお湯が沸いて室内には湯気が漂っている…がその時の俺は汗を流したいと言う生理的な欲求が勝っていたので状況を気にする…いや気にしなかったと言うべきか。
「…………あ?」
「………………」
浴室の扉を開けると”先客”がいた。
お湯の流れる音が響き湯気が漂っているその中にいる人物はこの家の同居人だ。
「……………」
その人物はシャワーヘッドを持ち身体を洗っていたのだろう俺が扉を開いて空気が抜ける音が耳に入ったのだろう
振り向き俺の顔を見て動きを止めていたがその色白の肌はお湯を浴び血色が良くなる赤みではなく羞恥によってその肌は朱色を帯びていった。
「…………」
”少女”は手にしていたシャワーヘッドを定位置に戻しお湯を止めると身体に纏わり付いていた流れ落ちるお湯はその柔らかく瑞々しい肌に吸い込まれずに雫となって身体を伝って浴室の人工樹脂の床に落ちていき室内に音が響き渡った。
浴室の扉を開きその姿を視認したまま動けずにおり目を離すことが出来ずに生まれたままの姿を視認していた…いや目を離すことが出来なかったと言うべきか。
両腕で隠れてしまったが均整の取れた四肢にその”見た目”の年齢には不釣り合いな豊かな双丘、括れた腰にハリのあるお尻…首から腰までのライン、そして濡れた艶やかな黒髪からチラリ見えるうなじが魅惑的であった。
そして隠している腕からピンク色が…………
「!?~~~~~~~~~~ッ!!!!」
と互いに固まっていた二人だったが動き出したのは浴室の先利用者であり顔を真っ赤にして浴室にあったプラスチックの桶を魔法で浮かして投げつける。
ガンッ!!!
勢いよく飛翔したプラスチックの桶は顔面に直撃する。
「ぶべらっ!?…ぐはっ……(これは俺が悪い…のか?!?いや、悪いの俺かぁ……ほんとすまん…)」
「あっ………」
避けられた筈のそれをマトモに食らった侵入者は浴室の入り口に倒れ込んだ。
気を失う間近に生まれたままの姿をまじまじと見てしまった”従姉弟”に謝罪しながら。
◆ ◆ ◆
「……はっ?!…つぅ…!?顔が…痛ぇ………(って…頭の後ろがメチャクチャ柔らかい感触してるのは…何でだ?)」
目を覚ますと見知らぬ天井があった…ってのは嘘で修練場に作った和室の天井が目に入った。
可笑しい…さっきまで俺浴室にいた筈なのになんで和室にいるのか皆目検討がつかないしそれになにか大事なすごく良いものを見た気がしたのだが思い出せないのは記憶喪失になったのか…俺、七草八幡。十七歳!次期七草家当主で実は四葉の血筋なんだ!…うん。慢性的な記憶喪失ではなくて助かった…しかし、なにか大事なことを忘れているような…?
「起きたのならさっさと退いてくれる?いい加減足が痺れそうなのだけれど」
「んぁ?……何やってんだ真夜…え、てかなんで此処にいるんだ…ってあだっ!?」
俺の回答を待つ前に真夜は立ち上がってベッドから降りると頭に衝撃が伝わり頭を擦って起き上がると真夜は既に第一高校の制服に着替えて髪をセットし終えており揺れる髪から柔らかい柑橘系のシャンプーの匂いが鼻腔をつく。
その事で俺は余計なことを言ってしまった。
「やっぱり…さっきまで風呂入っていた?……ってうぉおおおおおおおおおっ!?!?」
「…余計なことを言うと口を縫い合わすわよ?忘れなさい、忘れないなら忘れさせてあげるわ。その頭蓋を撃ち抜くわよ?」
「殺しにかかってるじゃねーか!!」
突如として”夜”が襲撃してきたので【術式解体】で殺到する光を掻き消す。ナニ撃ってきてんだこいつ!?
真夜を見上げると顔を真っ赤にして身体を腕で抱き締めながらこっちを見つめている。あ、やっぱりあれ夢じゃなかった……だ、な…
「…………」
「………////」
その事を再確認して俺たちは黙ってしまう。いや、その…なんかごめん、なさい…。
黙ってしまって室内には空気清浄機とアナログ時計の秒針の音だけが響いているとそれを破る為に俺から話しかけた。
「…つかなんで此処の修練場にいたんだよ。風呂なら本邸の方を使えば良かったのに…」
「弘一さんから割り当てられたのがこの離れだったのよ。此処なら誰も来ないから気が休まるだろう、ってそうしたら…あ、貴方が浴室に…」
「あー…」
そうだ。
俺はこの修練場の浴室をあまり使わないのだが今日たまたまこっちの風呂を利用しよう、と言う発想に至ったためにこのような”事故”は起こってしまったことを自覚して一先ず真夜へ土下座した。
「本当にすまん…」
謝罪すると真夜は呆れたような声を出した。
「はぁ…もう良いわ。別段実害があったわけでもないし…でも女の子の裸を見て『はいそうですか』じゃ釣り合わないわよね?そうね…『なにか一つ言うことを聞いて貰う』と言うのはどう?」
「うぐ…っ…わーったよ…だけど俺が叶えられて公序良俗に沿ったものにしろよ…?」
「あら、私がそんな残虐非道なことをする女に見える?安心なさい。貴方に出来ることしかお願いしないから」
「…了解。それで今回の件を手打ちにしてくれ」
「…ふふっ」
首を縦に降ると真夜は嬉しそうに笑みを浮かべていた。
俺、どんな無茶振りを真夜に振られるんだろうなぁ…ああ、胃が痛くなってきたが…あの姿は俺の脳内メモリに保管しておくことにしよう。決して目の保養と言うわけではなく保身のために、だ。
◆ ◆ ◆
「おはよう八幡…と狐坂さん」
修練所での一件を終えて何事もなかった俺たちは食堂へ向かうと既に姉さん達が集まっておりテーブルの上には朝食が用意されていたが未だ湯気を放っていたので現れたタイミングで食卓に出してくれたらしい。
「おぉ…おはよう、”姉さん”」
「っ……はぁ……」
「?姉さん体調悪いのか」
「なんでもないわ。ほら立っていると邪魔になるから座りなさい?”八幡”」
「お、おう…(なんか姉さん今日は刺々しいな………ん?なんで名前呼び?)」
何故だか凄くトゲがあるのは何故なのか俺には分からなかったがそれを見ていた香澄達も溜め息を吐いておりしまいには後ろにいた真夜にも「呆れた…」の呟きを貰った。その表情やめろお前。
どうやら今日の俺はアウェーの真っ只中にいるらしく上座に座る父親も苦笑いを浮かべている。
…なんでこうなったのか少し考えておくか、と思いながら全員で手を合わせて純和食の朝食に手を付ける。
うん…味噌汁は出汁が効いてて旨い。俺が新鮮な生卵をご飯にぶっかけて卵かけご飯をかきこみながらこの状況を改善できるのかと思案した。