シンボリルドルフが、炬燵で背中を丸めている。
シンボリルドルフが、生徒会室の真ん中に置かれた炬燵に足を突っ込んで、いつもは鋭く、頼もしい視線をとろんとさせている。
あの、日昃之労を地で行くようなシンボリルドルフが……
「む、エアグルーヴか、おはよう……君も入ったらどうだい」
緑のフレームのメガネの奥の目を細め、ふにゃふにゃとそう言った敬愛すべき生徒会長の提案を、彼女――エアグルーヴが断れるはずもなかった。エアグルーヴは毛布をめくって、暖かな空気に満ちた炬燵の奥へ脚を伸ばした。ルドルフの足とぶつかり、互いに膝が浮いた。
「……これって、以前テイオーが勝手に持ち込んだものですよね?」
「あぁ、生徒会室の隅っこで放置され続けていたのを見つけてね、ほんの出来心で引っ張り出してしまったんだ。そうしたらこの体たらくさ」
どうやって抜け出そう、と口に手をやって笑うルドルフを困惑した面持ちで見つめていたエアグルーヴだが、しかし、実際にとやかく口に出す気はほとんど無かった。これぐらいの茶目っ気が無ければ、ルドルフの仕事の虫っぷりがいよいよ手がつけられないのである。
「なんだ、アンタらが出してたのか」
その時、ガチャリ、と音がしたと思えば、すぐに炬燵の布団がガサガサと揺れた。
そして、机の上に、みずみずしいオレンジ色のみかんが盛られた盆が置かれた。
「ブライアン……?貴様、ここに何しにきた……?」
「……」
まさか会長と口裏を合わせていたわけでもあるまい、と、当たり前のようにあぐらをかいて居座った生徒会副会長――ナリタブライアンの様から目を離し、左隣のルドルフへ目を向けると、実家のおばあちゃんのように腰を丸めた彼女はみかんの皮をぺりぺり剥いていた。あまり綺麗に剥かない人であった。
「オイ……白いヤツがとれてないじゃないか……」
「白い筋と一緒に食べた方が栄養豊富なのだよ?」
「そういうのはいい」
そう言い、ルドルフが剥き終わったみかんから一欠片をとったブライアンは、心底面倒臭そうな表情を浮かべながら白い筋を取り払い、口へ投げ入れた。エアグルーヴは頭を抱えた。ルドルフは白い筋を取らないまま、一欠片みかんを口に運んだ。
何故か、音程のひどい演奏を聞かされているような気分のエアグルーヴは、一先ず自分もみかんの皮を剥くことに決めた。ブライアンがじっと見つめてくるが、普段からサボり続けているような輩に与えるみかんは無い。仕方ないので、ブライアンは二個目に手を伸ばしたルドルフに寄生することにした。
その時、再び来客の音が響いた。
「やっほー、あ、こたつだ〜」
炬燵の残った隅を埋めたのは、人懐っこい笑みを浮かべている少女――ミスターシービー。
急にブライアンが不機嫌そうな表情を浮かべたのは、無遠慮に伸ばされていた彼女の脚に、さらに無遠慮なミスターシービーの脚が折り重なったからにほかならない。
ルドルフは気にせずに、静かにみかんを食べている。
「シービー先輩……」
「ふぁ〜……」
「……先輩?」
エアグルーヴの声掛けも虚しく、シービーが机におでこをつけたと思えば、すぐに小さな寝息が聞こえ始める。ブライアンがガタガタと身体を動かし、必死に足のマウントを取り返そうと暴れても起きる気配のない寝つきの良さである。
ルドルフは三個目のみかんに手を伸ばした。
「そういえば、会長、本日の業務は」
「……あぁ、そうだった、今日は平日だったのか、失念していた」
「……会長?」
エアグルーヴのふとした言葉に、打ちひしがれたような悲しそうな表情を浮かべたルドルフは、ズリズリと炬燵から足を抜こうとする。けしかけた側だが、不思議と、エアグルーヴは罪悪感や、それに準ずる感情を感じなかった。
「……む、あしがぬけない」
「会長!?」
「……おい、誰もみかん剥かないのか」
「すぅ……すぅ……」
両手を床にだらしなくつき、目を伏せて口をふにゃふにゃにしているルドルフの姿に戦慄するエアグルーヴに、両手を握って机の上に乗せて待ち続けるナリタブライアンに、気持ちよさそうに熟睡中のミスターシービーという構図である。
その時、再三扉が軋んだ。
「あー!……なんやかんや言ってこの炬燵が必要なんじゃーん、やっぱりボクの先見性は高いってこと!」
「あぁテイオーか……申し訳ないのだが、私を引っ張り出してくれないか……」
子供っぽさの抜けない表情を自慢げにして、鼻の下を指でさする、ルドルフに似た流星が一房ある少女――トウカイテイオーは、ルドルフの隣に、自身の体をねじ込んだ。ルドルフは地面にへたり込んだ。
「あったかー……」
「あぁあ私は炬燵の住人になる運命を強いられているんだ」
「テイオー!何やってるんだテイオー!」
すると、テイオーは不意に、
「ぁ〜トイレ行って無かった……エアグルーヴ代わりに行ってきてよ」
「はぁ!?」
「私の代わりにも……いっといれ」
「会長!?」
「テイオー……みかんを剥け」
「なんでさ!自分で剥きなよ!」
「私が剥かなきゃいけないのか……?」
「くかー……」