超昂大戦SS 初詣と戦士の誓い 〜祈りよ届け、亡き想い人へ 作:環 藍河
除夜の鐘がどこかで響く、閂市。
その厳かな音は余韻となり、やがて新年の到来を告げる歓喜に代わる。
ダイビート基地では待機シフトの職員と戦士たちが、敵襲来が無いことに安堵し、つかの間、新年を祝う。
そんな基地の居住棟、ある戦士の部屋の片隅で。
「…? …ありゃっ?
…せや、ワイ、謹慎やー言われて…。
…ほなコレ、もうエエってこと…?!」
とある天使が戦士に託した、難儀な神武が。
「…うわあっ、ウソやん!
もう2年も経ってもうてる!
…うわ〜、リゲル様あ〜、殺生やがなあ〜!!」
この清々しい元旦に、目覚める。
…
……
「だ…ダメっ、ダメダメダメえっ!!」
「いや〜、アカリはん、そこを何とかっ、後生や!」
神武・ディスリンを託された超昂戦士、エスカ・ルビーこと園崎アカリは、この佳き新年の真夜中、招かれざる客の目覚めに正月気分を吹き飛ばされ、その要求をうろたえながら必死に拒む。
「ちょこ〜っと、初詣連れてってもらうだけ。
ワイの矢じりの先っちょだけでも、なっ? なっ!?」
「行って、何をするつもりなのっ!?
ま…まさか、参拝客の恋心、切っちゃうの?!」
【ご存知の方も多いとは承知だが、ここで説明しよう。】
一昨年の秋、トキサダとエスカレイヤーたちに命を救われ、志願してダイビートで戦い始めたアカリは、日を追うごとにトキサダへの特別な思いを募らせ…しかし、エリーの登場に心を揺さぶられていった。
そんな自らの気持ちに整理が付かず、アカリは生まれて初めての感情に戸惑い、泣きそうなまでの胸の痛みを覚える日々。
だが大晦日、アカリは早とちりした天界神騎リゲルに捕まり、縁切りの矢・ディスリンに射抜かれる。
哀れアカリは、この先二度と恋心を知ることなく、生涯を送る…はずだった。
しかし、ディスリンの神力にも通じるD2エナジーを持つアカリ。その感情は単に封じられることなく、抵抗し、身体はそのままながら、心だけが胸の痛みを知る前の自分に…わんぱくな童心に返ってしまう。
『漆黒の女帝・ブラックルビー』を名乗るアカリは、元日のダイビート基地を阿鼻叫喚に落とし、さらに街のあちらこちらで晴れ着姿で大暴れ、嵐を巻き起こした。
…そして、この騒動の始末として、ディスリンはリゲルに自我を封じられ、アカリが預かって管理することとなったのである。
【説明はここまで。】
「ダメだよっ! たとえ、神様に縁切りを願うほど苦しんでいる人がいたって、それが解決とは限らないの! 人の縁を軽々しく切るなんて、絶対にダメーっ!!」
「ちゃ…ちゃうちゃう!
第一、自我が戻ったばっかで、ワイ、神力へろへろやねん! こんなんで縁切りに神力使うたら、気絶してまた2年は寝落ちしてまうさかい、絶対せえへん!」
「えっ…。…じゃあ、何で…?」
ひと呼吸おいて、ディスリンが返す。
「ワイの力の源の一つは、燃え尽きたり、叶わなくなった恋やねん。」
「なっ…ひ、ひどいっ!」
「へっ…? …あっ、ちゃうちゃうっ、人の恋路のしくじりを期待する、ちゅー意味やない!
例えば、長年連れ添って愛を熟成し、そして死別した老夫婦とかな。
離別の悲しみを克服して、未来への一歩を踏み出すために、人間の強さを引き出すんがワイの本分や。
せやから、ホンマはお盆のお墓参りなんかが最高なんやけど、初詣もそれに近い心が回収できるねん。
病みあがりのやさし〜いお粥みたいに、ちょびっとすするだけやから〜!
なっ、アカリはん、ワイを助けると思って!
どうかどうか初詣、連れてって〜!!」
(ほ…ホントかなあ…?)
アカリは渋々、承諾した。
…
……
「おお〜っ、ええで、ええでえっ!
ここの参拝客、願いのクオリティ、高っ!」
(でぃ…ディスリンっ、あんまり大声、出さないのっ!」)
まだ夜も明けきらない、閂市の中心部に構える神社は、敬虔な祈りを捧げようとする市民で賑わう。
「いや〜、人間も捨てたもんやないなあ。
天界おると、『しょーもなっ!』ちゅー願いもぎょうさん届くさかい、リゲル様もしょっちゅう呆れててん。」
「えっ…? 恋愛関係で?」
「せや。大概は痴話喧嘩や骨肉の争いの決着を、神様に祈るパターンやな。
『玉の輿プリーズ』『女に入れ込んで財産溶かしてくたばったジジイ、地獄に堕ちろー』だのは可愛い方。知らんがな。
厄介なんは『私に彼氏が出来ないこんな世界線、滅べっ!』みたいなヤツ。こんなんに限って、こじらせて闇堕ちして暴走しよる。
赤い糸があればラブリンに繋がせるけど…、大概無いんで、その執着をワイが断ち切る。ホンマ、犬も跨いで通る、アホ仕事やでえ。」
「た…たはは…!
…あっ…あれっ?」
《あなた…今年も私と、アイとメイを、どうかお護りくださいね。》
(お祈りが…聞こえてきた…の!?)
テレパシーというものがあるなら、こんな感じなのだろうか。アカリの心に直接響く声は、今は亡き夫へ捧げる、龍造寺ユイの祈り。
「ユイさん…、そっか…!」
ユイは国防陸軍で戦士として最前線に立ち続けた。
しかし、アイとメイを授かるも、夫は若くしてこの世を去ってしまう。
…ユイはそれでも戦い続けた。愛娘たちに寂しい思いをさせることに、呵責の念を抱きながら。
もっとも、母の背中に憧れ、アイとメイもまた、国防陸軍の戦士を志願し、今もその後を追う。
こうして、親子鷹は今日も羽ばたく。
「…アカリはん。あのママさん、ええ神力持ってはるなあ。」
(あっ…、D2エナジー!?)
祈りがADDDに波動を送り、ディスリンによって神力として変換され、神武の主たるアカリに届くらしい。
「いや〜、こういうのがええねん。
ワイ、今めっちゃ、神力もろたわあ〜!」
「うん…、ユイさんは、凄い人。
家族を愛しながら、正義を愛して戦える人。
でも、もう旦那さんを亡くされて久しいはずなのに…、今もちゃんと、お祈りされてるんだ…!」
もし、私が同じ悲劇を迎えたら。
大好きな人と結ばれ、その間に子どもを授かり。
これからみんなで迎えるはずの幸せを、取り戻せなくなったら。
私は…ユイさんと同じように立ち上がれるだろうか。
数十年間、愛し、想い続け。
こんなふうに毎年、その悲しみを押して、祈ることができるだろうか。
「アカリはん、まだまだ来はるでえ。くう~、今夜は入れ食いやあ!」
ディスリンの神力補給のための初詣は、アカリの心にも灯火を付けていく。
改めて、新年あけましておめでとうございます。筆者・環藍河です。
まずは元日早々、ウソをついてしまいましたことをお詫びします。
今朝投稿しました「【調査報告書】天秤を継ぐ魔女たち 〜友情は時を越えて」で『正月休みをいただき、来週からまた新規投稿しますっ』と予告したのに…、舌の根も乾かぬうちに、元日もう1本書き始める暴挙。
逆に言えば、環に衝動的に新作を書かせるほどの、突き動かすアクシデントがあったから、なのですが…詳しくは後編のあとがきで。
実はこの「初詣と戦士の誓い」、環のキリ番・第20作目となります。
でも、ずっと書きたかったテーマに踏み込めるので(前のめりで読者ドン引きにならないよう注意せねば…!)頑張って書きます。
後編は明日の夜にお届け予定。またお立ち寄りいただければ幸いです。