超昂大戦SS 初詣と戦士の誓い 〜祈りよ届け、亡き想い人へ   作:環 藍河

1 / 2
※2021年1月開催イベント「ご近所暴帝と恋の破魔矢」に関するネタバレが含まれます。2023年1月現在は常設化されていますので、未読の方はそちらを先に読まれることをお勧めします。


前編 縁切りの破魔矢は非業の愛を静かに見守る

 

除夜の鐘がどこかで響く、閂市。

その厳かな音は余韻となり、やがて新年の到来を告げる歓喜に代わる。

 

ダイビート基地では待機シフトの職員と戦士たちが、敵襲来が無いことに安堵し、つかの間、新年を祝う。

そんな基地の居住棟、ある戦士の部屋の片隅で。

 

「…? …ありゃっ?

…せや、ワイ、謹慎やー言われて…。

…ほなコレ、もうエエってこと…?!」

 

とある天使が戦士に託した、難儀な神武が。

 

「…うわあっ、ウソやん!

もう2年も経ってもうてる!

…うわ〜、リゲル様あ〜、殺生やがなあ〜!!」

 

この清々しい元旦に、目覚める。

 

……

「だ…ダメっ、ダメダメダメえっ!!」

「いや〜、アカリはん、そこを何とかっ、後生や!」

神武・ディスリンを託された超昂戦士、エスカ・ルビーこと園崎アカリは、この佳き新年の真夜中、招かれざる客の目覚めに正月気分を吹き飛ばされ、その要求をうろたえながら必死に拒む。

 

「ちょこ〜っと、初詣連れてってもらうだけ。

ワイの矢じりの先っちょだけでも、なっ? なっ!?」

「行って、何をするつもりなのっ!?

ま…まさか、参拝客の恋心、切っちゃうの?!」

 

 

【ご存知の方も多いとは承知だが、ここで説明しよう。】

一昨年の秋、トキサダとエスカレイヤーたちに命を救われ、志願してダイビートで戦い始めたアカリは、日を追うごとにトキサダへの特別な思いを募らせ…しかし、エリーの登場に心を揺さぶられていった。

そんな自らの気持ちに整理が付かず、アカリは生まれて初めての感情に戸惑い、泣きそうなまでの胸の痛みを覚える日々。

 

だが大晦日、アカリは早とちりした天界神騎リゲルに捕まり、縁切りの矢・ディスリンに射抜かれる。

哀れアカリは、この先二度と恋心を知ることなく、生涯を送る…はずだった。

 

しかし、ディスリンの神力にも通じるD2エナジーを持つアカリ。その感情は単に封じられることなく、抵抗し、身体はそのままながら、心だけが胸の痛みを知る前の自分に…わんぱくな童心に返ってしまう。

『漆黒の女帝・ブラックルビー』を名乗るアカリは、元日のダイビート基地を阿鼻叫喚に落とし、さらに街のあちらこちらで晴れ着姿で大暴れ、嵐を巻き起こした。

 

…そして、この騒動の始末として、ディスリンはリゲルに自我を封じられ、アカリが預かって管理することとなったのである。

【説明はここまで。】

 

「ダメだよっ! たとえ、神様に縁切りを願うほど苦しんでいる人がいたって、それが解決とは限らないの! 人の縁を軽々しく切るなんて、絶対にダメーっ!!」

「ちゃ…ちゃうちゃう! 

第一、自我が戻ったばっかで、ワイ、神力へろへろやねん! こんなんで縁切りに神力使うたら、気絶してまた2年は寝落ちしてまうさかい、絶対せえへん!」

「えっ…。…じゃあ、何で…?」

 

ひと呼吸おいて、ディスリンが返す。

「ワイの力の源の一つは、燃え尽きたり、叶わなくなった恋やねん。」

「なっ…ひ、ひどいっ!」

「へっ…? …あっ、ちゃうちゃうっ、人の恋路のしくじりを期待する、ちゅー意味やない!

例えば、長年連れ添って愛を熟成し、そして死別した老夫婦とかな。

離別の悲しみを克服して、未来への一歩を踏み出すために、人間の強さを引き出すんがワイの本分や。

せやから、ホンマはお盆のお墓参りなんかが最高なんやけど、初詣もそれに近い心が回収できるねん。

病みあがりのやさし〜いお粥みたいに、ちょびっとすするだけやから〜!

なっ、アカリはん、ワイを助けると思って!

どうかどうか初詣、連れてって〜!!」

 

(ほ…ホントかなあ…?)

アカリは渋々、承諾した。

 

……

「おお〜っ、ええで、ええでえっ!

ここの参拝客、願いのクオリティ、高っ!」

(でぃ…ディスリンっ、あんまり大声、出さないのっ!」)

 

まだ夜も明けきらない、閂市の中心部に構える神社は、敬虔な祈りを捧げようとする市民で賑わう。

「いや〜、人間も捨てたもんやないなあ。

天界おると、『しょーもなっ!』ちゅー願いもぎょうさん届くさかい、リゲル様もしょっちゅう呆れててん。」

「えっ…? 恋愛関係で?」

「せや。大概は痴話喧嘩や骨肉の争いの決着を、神様に祈るパターンやな。

『玉の輿プリーズ』『女に入れ込んで財産溶かしてくたばったジジイ、地獄に堕ちろー』だのは可愛い方。知らんがな。

厄介なんは『私に彼氏が出来ないこんな世界線、滅べっ!』みたいなヤツ。こんなんに限って、こじらせて闇堕ちして暴走しよる。

赤い糸があればラブリンに繋がせるけど…、大概無いんで、その執着をワイが断ち切る。ホンマ、犬も跨いで通る、アホ仕事やでえ。」

「た…たはは…!

 …あっ…あれっ?」

 

《あなた…今年も私と、アイとメイを、どうかお護りくださいね。》

 

(お祈りが…聞こえてきた…の!?)

テレパシーというものがあるなら、こんな感じなのだろうか。アカリの心に直接響く声は、今は亡き夫へ捧げる、龍造寺ユイの祈り。

 

「ユイさん…、そっか…!」

 

ユイは国防陸軍で戦士として最前線に立ち続けた。

しかし、アイとメイを授かるも、夫は若くしてこの世を去ってしまう。

…ユイはそれでも戦い続けた。愛娘たちに寂しい思いをさせることに、呵責の念を抱きながら。

もっとも、母の背中に憧れ、アイとメイもまた、国防陸軍の戦士を志願し、今もその後を追う。

こうして、親子鷹は今日も羽ばたく。

 

「…アカリはん。あのママさん、ええ神力持ってはるなあ。」

(あっ…、D2エナジー!?)

祈りがADDDに波動を送り、ディスリンによって神力として変換され、神武の主たるアカリに届くらしい。

 

「いや〜、こういうのがええねん。

ワイ、今めっちゃ、神力もろたわあ〜!」

「うん…、ユイさんは、凄い人。

家族を愛しながら、正義を愛して戦える人。

でも、もう旦那さんを亡くされて久しいはずなのに…、今もちゃんと、お祈りされてるんだ…!」

 

もし、私が同じ悲劇を迎えたら。

大好きな人と結ばれ、その間に子どもを授かり。

これからみんなで迎えるはずの幸せを、取り戻せなくなったら。

私は…ユイさんと同じように立ち上がれるだろうか。

数十年間、愛し、想い続け。

こんなふうに毎年、その悲しみを押して、祈ることができるだろうか。

 

「アカリはん、まだまだ来はるでえ。くう~、今夜は入れ食いやあ!」

 

ディスリンの神力補給のための初詣は、アカリの心にも灯火を付けていく。

 




改めて、新年あけましておめでとうございます。筆者・環藍河です。
まずは元日早々、ウソをついてしまいましたことをお詫びします。
今朝投稿しました「【調査報告書】天秤を継ぐ魔女たち 〜友情は時を越えて」で『正月休みをいただき、来週からまた新規投稿しますっ』と予告したのに…、舌の根も乾かぬうちに、元日もう1本書き始める暴挙。

逆に言えば、環に衝動的に新作を書かせるほどの、突き動かすアクシデントがあったから、なのですが…詳しくは後編のあとがきで。

実はこの「初詣と戦士の誓い」、環のキリ番・第20作目となります。
でも、ずっと書きたかったテーマに踏み込めるので(前のめりで読者ドン引きにならないよう注意せねば…!)頑張って書きます。
後編は明日の夜にお届け予定。またお立ち寄りいただければ幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。