超昂大戦SS 初詣と戦士の誓い 〜祈りよ届け、亡き想い人へ 作:環 藍河
※原作第1部終章までの内容に準拠します。
また、ビートジェネラル・ミストレーヌについては「超昂天使エスカレイヤー」寄りの設定に準拠しております。
ネタバレ懸念の方はご注意を。
《あなた…見てるかしら?
私、娘たちと世界まで跨いじゃった。
笑うかしら?
…ううん、『お前らしいな』って呆れるんでしょう、ね。》
「あっ…この声…!」
「お〜、団体さんやあ! 捗るう!」
「遼子さん、何をお祈りしたんですか?」
「ふふっ、内緒よ。」
「お姉さま〜、私にも聞いてくださいませ〜!」
「神前でいかがわしい妄言を元旦早々聞かされるだけなので、却下を推奨します。」
ビートジェネラル・ミストレーヌこと、高円寺遼子。エスカレイヤー・高円寺沙由香の義理の母。
かつてエスカレイヤーの世界線で、ダイラストの将軍として地球侵略の先陣を切るも、エスカレイヤーに連敗し、遂に将軍職を解任される。
ミストレーヌは、慕う部下たちを護れない自分の非力に迷い、信念に葛藤し、孤独に苦悩する。
以前ならそんなミストレーヌの背中を押し、心のままに戦って良いのだと励ましてくれた伴侶が居たのだが…今は草葉の陰だった。
だが、ミストレーヌは沙由香と恭平の隣人・霧谷遼子として市民に溶け込むうち、自らの誇りを知らず知らず認めてくれる恭平に励まされ、人の温もりや優しさに触れる。
そして、裏切り者として粛清され獄中に繋がれるミストレーヌを助け、墜ちた誇りを許し、受け入れてくれたのが、高円寺源太郎…沙由香の父であり、今の伴侶であった。
沙由香、マドカ、ななか、恭平。
一人を失い、5人に支えられ、遼子は今日を生きる。
《この世界に、あなたはもういない。
でも、私がこの子たちと生きる今日が、あなたの生きた証になる。
操を立てられなかったことは…ごめんなさいね。でも…私の選んだ、大切な家族なの。
どうか、あなたが認めてくれますように…。》
「…遼子さん…。…えぐっ、ぐすっ…。」
(何やアカリはん…共感力、高すぎやろ…?
ホンマ、自分のことのように受け止めよる。)
一度縁を結んだ大事な人への裏切り。
貞操を護れない自分の弱さ。
…遼子さんは、再婚を選んだとき、一体どれほど迷い、悩み、煩悶してきたのだろう。
逆に、前の旦那さんを想い続けること自体、源太郎さんや沙由香さんたちへの裏切りだと、遼子さんは自責の念に囚われるときもあるかもしれない。
そんな、身を裂かれそうなジレンマ。
たとえ再婚を拒んでいても決して消えない、遼子さんの胸に続く痛み。
だからこそ。
「…強いなあ、遼子さん…!」
アカリはその決断を、今を力強く歩むその勇気を尊敬する。
…
……
《よお…あけおめ。
ちょっとお屠蘇をキメてっけどよ…。
オレ、また1年、何とか生きたぜ。》
「あ…!」
「うわ〜、あの姉ちゃん、お天道さんかーい、っちゅーくらい、顔真っ赤やんけ。けど…?」
《へへっ、こんなだらしねえオレ、お前が見たら、呆れるかな。
それとも…笑ってくれるかな、恭一…!》
「…ユカさん…!!」
エスカレイヤー・リバースこと、十文字ユカ。
沙由香の同位存在ながら、過酷で無慈悲な運命に呑み込まれ、荒む心のままにダイラストを滅ぼし…返す刀で政府側をも壊滅に追い込んだ過去を持つ。
「ワイ…あの姉ちゃん初めて見るけど、あない若いのに、もう彼氏亡くしてん?」
「…うん。」
こことは異なる世界線。
侵略者に追い詰められた人類側は、ユカを徴兵し政府軍の兵器として酷使。戦車に給油するごとくDチャージを繰り返した。
引き剥がされた恋人・恭一は、その後病に倒れるものの、政府は恭一のAIボットを作り、ユカにこの不都合な事実を隠蔽した。
だが、ユカにその事実は脆くも露見。
そのとき恭一は…既に息絶えていた。
望まぬ男に弄ばれ、かけがえない人の苦しみも、最後の言葉も知らず。
人類生存のため? しゃらくさい。
地球の平和? おためごかしはやめろ。
全てがもう、どうでもいい。
そしてエスカレイヤーは修羅の道にその身を投じ、侵略者を…そして政府を屠った。
《…何の因果か、こっちじゃオレ、正義の味方、だってよ…。負け組のオレが、悪墜ちした勝ち組のアイツを止めたりもしたんだからな…分からねえもんだ。
でもよ、おもしれえんだぜ。懐いてくれるガキがいたり、しまいにゃオレまでほだされてさあ…。》
「…そっか、ユカさん、助けたあの子を…!」
かつてリバースがまだアルダークの尖兵…ダイビートの敵であったとき、エスカチームとの交戦さなか、崩れ落ちる建築物から少女を救ったことがある。
そしてダイビート所属後、彼女との心の交流が始まり…ユカの心のささくれをかばう、小さな絆創膏となっている。
《そいつ、平行世界の勝ち組の方に憧れて戦士に志願した、ってのがシャクだけどよ…、》
(…ん?)
《『やったー、ユカさんが仲間だー、わんわんっ!』とか、『1対多の戦い方、教えてくださいっ!』とか、うるせえの何の。》
(あ…あれっ?)
《まあ…オレもオレで、世間の冷てえ声をバカ正直に聞いて凹んでたあいつに、発破かけたぐらいだからな。随分ヤキが回ったもんだ。》
「…ガ…ガキって…もしかして…私ーっ?!」
がああ〜〜ん…。
《…まあ、こんな感じで、ぼちぼちやってる。
いつかオレも、そっち行くからよ。
…あ、お前は天国だろ? オレ絶対に地獄行きだからよ、蜘蛛の糸でもあったら、垂らしてくれよな。
…神様なんているんなら、また恭一に会わせてくれりゃあ、それでいいよ。賽銭は成功報酬な。
…じゃあ、また、な。》
そう言って、合わせた両掌を離したユカは。
少しだけ、アカリが見たことのない、優しい笑顔に見えた。
…
……
帰り道、元日営業の喫茶店。
「いや〜、おおきに、おおきに。
2年ぶりの神力補給、ごちそうさん…?」
満腹感を堪能するディスリンの声が耳に入らないかのように、アカリがぽつりぽつり呟く。
「ユカさんは…大切な人も、募る想いも…。
病魔と味方に、奪われて…。」
「…それでも、強う生きとるなあ。」
「うん…ユカさん、強いね。
私には真似できないなあ…。」
ぐいっ。
「…それ、ちゃうよ?
アカリはんは、ユカはんに劣らず強いで?」
珍しく語気を強め、ディスリンは握られた左手ごとアカリに迫る。
「ちょ…ちょっと? ま、また挿さっちゃうっ! どうしたの?!」
「だってなあ…アカリはん。
あんさんはいつも人のこと思うて、情熱アチアチで戦ってるやん。
ワイの自我は2年吹っ飛んだけど、あんさんの気持ちはずっと伝わってきよったし、覚えとる。」
街を、みんなを護りたい。
仲間を護りたい。
そして、長官を護りたい。
…いつもそう思って拳を握り、強大な敵にも決して怯まなかったエスカ・ルビーの想いの強さを、ディスリンもこの2年間、感じていた。
「あんさんの強さは、人を思って全力を振り絞れることや。それってユカはん、ユイはん、遼子はんと、な〜んも違わへんやん。」
「だ…だって、私のはユカさんたちみたいな、恋とか愛とかじゃないよ? 護らなきゃ、みんなの未来がなくなっちゃうから…!」
「…アカリはんかて、魔王はんへの想いは特別やん…。
『これは恋やない、みんなを護りたい気持ちと同じ』って、むりやり押し込めようとしはるけど、人の想いを大事に思えるあんさんが、自分の想いを押し殺してしまうんは…ワイ、いたたまれないんよ…。」
「っ!! ……〜〜っ…!」
(…やだっ、言わないでよお…。)
「まあ、アカリはんの気持ちがそもそも恋なんか、恋とちゃうんかは、ワイにはわからんし、リゲル様にも、アマツ様かてわからんやろな。」
くるっ。
破魔矢のくせに、目をそらすように向きを変え、ディスリンが続ける。
「でもな…、ワイ、思うんよ。
その想いがどっち転んでも…、恋でも恋でなくても、実っても実らんくても…。
どっち行ったかて、アカリはんには絶対プラス。
ハズレなしの福引やあ。」
「な…何で?」
「だって今日見た3人、みんな辛い恋愛から立ち直って、強く生きとる。3人の中で恋は終わらんと、愛になって続いとるやろ?
極論したら、恋は実るか実らんかが大事なんやない。その恋で、その人がどんだけ熱く生きられるか、どんだけ前向いて進めるかが、いちばん大事なんと違うかな?」
「…うん…。」
「もっと言うたら、恋でも、恋やなくてもええ。
アカリはんが、この人のために動きたいって思ったとき、心の底から力が湧いてくれば、それでええんよ。」
「…そうだね…。」
「…アカリはん、ワイからのお願いや。
魔王はんへの気持ちが恋や愛なのか、それとも尊敬とか憧れとかなのか…それは自分の自由に決めてかまへん。
せやけど…その想い、なかったことには、絶対にせんといて。もう、無理矢理忘れるとか、そんな気持ちを持ったらアカンとか、絶対にナシや。
その人を想って力が湧く、その人のために強くなれる…そんな自分の気持ち、あんじょう大切にしてや? な?」
「ディスリンが…そんなこと言って、いいの?
縁切りの矢なのに…。
いちばん忘れさせる側の神武なのに…?」
「ワイの本分は、人を未来へ強く進ませること。縁切りはその手段であって、目的とちゃうねん。そして…自分を強く熱く燃え上がらせる気持ちが、悪い気持ちのはずがあらへんやん!
アカリはん…、そんな気持ちを持てるあんさん、とても素敵なんやでっ!」
「…うん! ディスリン…ありがとうっ!」
アカリが2年越しで悶え続けた苦悩。
その永く暗いトンネルに、少しだけ光が射した。
「アカリはん、今年もぎょうさん、魔王はんとドキドキしなはれ!
Dチャージもガンガンしなはれ! なっ!?」
ぼとっ。
…
……
「な…何なん、アカリはん…?
さっきから、ず〜っと無言やのん、怖いんですけど…?」
喫茶店の会計を済ませ、アカリはディスリンを握りしめ、ダイビート基地に帰…らず。
神社に戻り、境内の参道横をひたすら目指し…
ぱちっ、ぱちぱちっ。
ごおおおおおおおおおっっ……
「ひっ…、火いいいいーーーっっ!?」
そこでは山積みの古い御札や御守りに絵馬、そしてそれこそ破魔矢が、煌々とお焚き上げされていた。
「こ〜んなデリカシーのない破魔矢は!
ちゃ〜んとお焚き上げの火にくべて、神様に返しちゃいますっ!」
「わっわっわっ、ワイ、神道の破魔矢とちゃうねーんっ!! アカンっ、火炙りの刑はアカンてっ、ホンマ、マジでえっ!!」
「じゃあ、こういうときは、何て言うの?」
「ご…ごごご、ゴメンなさ〜いっ!!!
アカリは〜んっ、カンニンしてえ〜〜っ!!」
「よろしいっ!」
…人が人を想うとき、奇跡的な力が生まれる。
想いを受けた人も、それに応え、力を生む。
その連鎖が生み出す奇跡の物語が、今年もまた次の章の幕を開けようとしていた。
【超昂大戦SS 初詣と戦士の誓い 完】
筆者の環藍河です。12日連続投稿中です。
急ごしらえですが、初詣SS後編、いかがでしたでしょうか?
原作登場の戦士の中で、ちょっと悲愛の過去を持つお三方に登場いただきました。未亡人クラスタ…かと思いきや、ユカさんでフィニッシュ。
※サイカさんも出したかったですが、単発SS「閃忍サイカの新たな願い」を上梓済なので、今回は泣く泣くお休みです。
さて。
ホントは前作(双葉三ツ葉とエリーの天秤ネタ)を元旦投稿して、のんびり原作エンジョイモードに入るつもりでした。
でも…正月イベント「天岩戸のお年玉伝説」…。
あの、僕だけでしょうか?
「ユカさんの扱い…ちと粗くね?」
これ…ちいちゃん予備軍にキャラ変化してる…。
…まあ、その反動で「ユカさんの正月ネタ」を練り始めたら、一気にプロット爆発しまして。
実は環は、原作の「ご近所暴帝と恋の破魔矢」、プラス某キャラストーリーで描かれたアカリの気持ちに、昨春から悶々としていたのです。(原作のシナリオは120点です! でも…ちょっぴりやるせなくて。)
そこへの環なりのアンサーを、後編終盤にブッ込みました。
これで正月の二次創作はやり切りました!
では改めて、またの機会にお会いいたします。