俺は夜の街を全力で走り続けている。デスクワークで鈍ってるとはいえ、全力疾走のせいで息が切れてるわけじゃない。肩を貫かれ血を流したせいだ。傷口を手で押さえてはいるが、痛みと熱さはまだ残っているし、出血した分の血液も補っていないから貧血気味なんだろう。だがそんなことはどうでも良かった。
軍の回線は使えない。近くの公衆電話でロイに回線をつなぐ、時は一刻を争うってのに、なんでこんな時にまで、いちいちコード確認なんてしなくちゃいけねぇんだよ!
「あぁ、もうめんどくせー!『アンクル』『シュガー』『オリバー』『エイト』『ゼロ』『ゼロ』早くロイを出せ!軍がやべえ!」
「受話器を置いていただけますか、ヒューズ中佐」
突然後ろから拳銃を突き付けられる。聞き覚えのある声に、ゆっくりと振り向く。考えたくはなかったが、少佐直属の部下にまで奴らの手が伸びていたのかと頭の中に嫌な考えばかり浮かぶ。そこには予想通りの女が立っていた。黒髪の短髪と、凛々しい目鼻立ち。だが、違う。彼女の特徴的な左目の下にある泣きぼくろがねぇ!
「……ロス少尉……じゃねぇな。誰だあんた、ロス少尉は左目の下に泣きぼくろがあるんだよ!」
俺は軍用コートの中に隠してるナイフを手の中に収め、いつでも投げられるように息を整える。この距離なら外さない自信はある。
俺が偽物に指摘した直後、頬を撫でると、左目の下に泣きぼくろが現れ、完璧なマリア・ロス少尉の姿が現れる。
「おいおい、勘弁してくれ……家で女房と子供が待ってんだ。こんなとこで死ぬわけにいかねーんだよ!!」
俺が振り向いた瞬間、目に映るのは最愛の妻、グレイシアだった。頭では偽物とわかっていても身体が反応してしまう。そしてその一瞬の隙を突かれ、次の瞬間には胸部に強い衝撃を受ける。そのまま、俺の意識は深い闇へと落ちていった……
「つうのが、ことのあらましだ。まさか嫁と娘に会えないまま死んじまうなんて考えたくもない結末だぜ」
俺は自宅に飛び込んできたロイについさっき経験してきた地獄を伝えた。どうやら俺が通話に出なかったことを不審に思い、慌ててイーストシティから車で駆けつけたらしい、本当、親友冥利に尽きるよ。
「それで、胸に銃弾を受けて、どうやって家まで帰って来たんだ」
「そりゃもちろん、家族を思う無償の愛が俺に力を与えてくれてなぁ……まぁ、本当は撃たれた後すぐにタッカーさんの合成獣が俺を発見してくれてな、そのまま憲兵を引き連れて駆けつけてくれたのよ。軍の病院は不味いからな、その場で最後の力を振り絞ってここに運んでくれるように憲兵に頼んで今に至るわけよ」
うちに運んでもらうと、そりゃぁ家族は大パニック、なんたって大好きなパパが突然瀕死の重症で運び込まれるんだもん。普段ならこんなことしないが、安心できる場所はここしかないし、運よくうちには生体錬成のスペシャリストがいる。普段から合成獣相手の治療も事欠かないだろうから、治療用の錬成陣なんかも持ち運んでるし、土壇場での俺の賭けは見事に大成功ってわけだ。
「それでも本当にギリギリでしたよ、運よく銃弾は貫通してたけど出血がひどくてね。出来る限りの現地での治療と、グレイシアさんが同じ血液型だったおかげで、輸血で何とか命を取り留めましたが、しばらくは無茶できませんよ」
「タッカーさん、ご協力感謝します。あなたのおかげで友を一人失わずに済んだ」
「礼なら、こいつとホークアイ中尉に言ってください。どうも、中尉の訓練でパトロールするのが癖になっちゃったみたいで、私が何の指示も出してないのにヒューズさんを発見して、憲兵さんたちまで呼んだんですから」
合成獣の訓練にはホークアイ中尉も深くかかわってたって聞いたけど、これは今度会った時に俺も礼を言わないとな。
「俺の体のことはひとまずいい、それより二人にはこれを見てほしい、錬金術師の視点からどう思う?」
俺はエルリック兄弟が伝えてくれた賢者の石の錬成陣と思わしきものを、この国の地図の上からペンを走らせる。
「おいおい、なんだこの錬成陣は、国一つ丸ごと包み込む、まるで……」
「さしずめ国土錬成陣、こんな巨大なものが起動したら、一体どうなるか想像もつきませんよ」
ロイは驚愕の表情を浮かべ、タッカーさんも顔色が優れない。そりゃそうさ、俺だって気づいた時は驚いたさ。こんな錬成陣のために軍が存在してるなんてな……
「恐らく上層部は真っ黒だ、大総統も敵か味方かわからんが、信用ならんのは確かだ、とりあえず早急に敵の洗い出しだな、俺ももう少し軍の記録を探ってみる」
「いや、お前にはやってほしいことがある、国を離れて、私のサポートをしてくれないか」
一度アメストリスの外に出て、外部からロイに情報を回して欲しいってことらしい。
「連絡も合成獣を使ったものは軍部に目を付けられるだろうから、その裏をかくことが出来る人材はお前しかいない。私のために国を、軍を捨て戦ってくれるか!」
「家族を捨てろって言わねえのが答えなんだろ、わかった、家族守るついでにバックアップは任せろ。すぐに国外逃亡の準備だ」
俺の家族を危険から遠ざけるためってのもあるんだろうが、このまま引いたんじゃ男が廃る。家族の安全を確保したら、必ずここに戻ってきて支えてやるからな、ロイ。
「タッカーさんの嫁さんと娘さんの事も任せてくれ、その代わり、俺の分までロイの事頼んだぞ!」
「あのぉ、私も出来たら国外で後方支援の方が向いてると思うんだけど」
「それは無理だ、上層部に目を付けられたヒューズとあなたが一緒にいるほうが危険だし、ここまで来たら付き合ってもらうぞ。なに、論文にいらないというのに私の名前も書いたくらいだ。私が大総統になった暁にはいらないと言っても重要なポストを回してやるさ」
あぁ、タッカーさん頭抱え込んじまったよ、ロイに気に入られると理想のために苦労させられるからな。さてと、まだ本調子には程遠いが家族のために苦労しますか。
「後方支援や書類仕事なら任せとけ、どんなに遠くに行ったって、いくらでも助けてやるぜ」
『ヒューズ生存』
理由としては、奥さんやニーナをあまり近くに置いておくことが出来ないから、自然に物語中心からフェードアウトしてもらうために動いてもらいます。
これにより原作10巻分ほど真実に早くたどり着いてしまいました。
味方が強くなりすぎてるように感じますが、実は敵も強くなってしまいます。それは後程。