【完結】俺は綴命の錬金術師   作:発火雨

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今回はエド視点です。


エドから見た綴命の錬金術師

「今回の件でひとつ貸しができたね大佐」

 

「……君に借りをつくるのは気色が悪い。いいだろう何が望みだね」

 

「さすが♪話が早いね。この近辺で生体錬成に詳しい図書館か錬金術師を紹介してくれないかな」

 

「今すぐかい?せっかちだなまったく、少し待ってなさい」

 

 列車でテロを起こしやがった不届き者を成敗すると、どうも本来は大佐がするべき仕事だったみたいで思わぬところから貸しを作ることが出来た。早速使わせてもらおう。

 

「それならちょうどいい、今イーストシティには君たちの条件に当てはまる国家錬金術師が一人だけいる。『綴命の錬金術師』ショウ・タッカーだ」

 

 大佐が棚から取り出した資料には人当たりのよさそうな男の写真と経歴書が載っていた。

 

「彼は合成獣学の権威で、イーストシティにいる国家錬金術師の中で一番生体錬成に詳しいだろう。二年前、人語を理解し話す合成獣で国家錬金術師になった。イーストシティにいるほぼすべての合成獣は彼の研究によってもたらされたといっても過言ではないだろう」

 

「ほぼすべてって、一人の錬金術師の研究でそんなことあるのか?」

 

「ここに来るまでペットを飼ってる人が多いなと思ったけど、もしかしてあれ全部合成獣だったんですか!?」

 

 俺とアルは同時に声を上げた。確かに今まで見た多くの人々は動物を連れていて、犬猫はもちろんトカゲや鳥を肩に止めてる人なんてのもいた。

 

「そうだ、今イーストシティの人々と合成獣の間にはたしかな共存関係が構築されている。捨てられた合成獣たちを人間の言うことを理解し良きパートナーとして生活に溶け込んでいけるようにタッカーさんが尽力したんだ。人間に危害を加えないし、錬金術師でなくてもある程度コントロールが出来る。オマケに……そろそろ来る頃合いだ」

 

 大佐が窓の外に目を向けると、一匹の鷹が部屋に飛び込んできた。その足には小さな筒がくくりつけてある。ホークアイ中尉がそれを外して中に入っていた手紙を取り出してから、窓辺に置いてある箱から鷹の口元に餌を運ぶと、行儀よく鷹は口に頬張った。

 

「ゴチソウサマデシタ!ホンジツモイジョウナシ!」

 

「うわっ!喋ったよ兄さん」

 

 アルが驚いて声を上げるが、さらに驚く光景を見ることになる。

 

「ふむ、ちょうどいい、タッカー氏にアポイントメントを頼むよ。今手紙を書くから少し待っていてくれ」

 

 大佐がそう言って手紙を書き始めると、鷹はそのままじっとその場に留まった。その後手紙を足の筒に入れられると大空に飛び立って行った。

 

「合成獣が人の言葉を理解して話すなんて……すげえ」

 

「そうだろ、今はまだイーストシティの中でしか運用されていないが、軍用合成獣を使った通信網の試験運用がされているんだ。彼らは賢く、正確に手紙を届ける。これなら傍受される心配もないし、一般人の飼う合成獣と違って軍用の合成獣は簡単な受け答えならできるようになっているから、その場で伝言を残すことも出来る。ゆくゆくはセントラルにも導入することを目標にしている」

 

「タッカー氏の研究によりアメストリスの合成獣技術はここ数年で目覚ましい進歩を遂げているの。動物を使った生体錬成の第一人者だから、イーストシティの合成獣を扱う人の中にショウ・タッカーの名前を知らない人はいないわよ」

 

 大佐も中尉もまるで合成獣が日常に溶け込んだことに誇りを持っているように語る。それだけ彼らにとって合成獣との暮らしはとても自然なものなんだろう。

 

「なるほど、そんなにすごい専門家の意見が聞けたら、俺とアルが元の体に戻るヒントが見つかるかもしれないな!」

 

 俺が机に前のめりになりながら興奮気味に話すと、大佐は苦笑いしながら答える。

 

「さて、そううまくいくかはわからんぞ。なにせタッカー氏は一貫して人間を対象にした合成獣錬成に反対の立場を取っている。もちろん国家錬金法の『人を作るべからず』に抵触するからというのもあるだろうが、医療目的とはいえ生体錬成における合成獣の立ち位置を明確にしている数少ない錬金術師の一人だからね。」

 

 大佐の話を聞きながらも俺は期待せずにはいられなかった。生体錬成の専門家を探してはいたが、まさかこんなところで巡り合えるとは思っていなかったからだ。

 

「生体錬成を専門に扱う錬金術師の中には、違法な人体実験を平気で行う人たちもいるの。彼のような考えを持つ錬金術師がいるのは非常に助かるのよ。おかげで合成獣やそれを専門とする錬金術師に対する風当たりも随分和らいだし……それに軍用合成獣といっても命令がなければ人に危害を加えないのはもちろんの事、双方の怪我を最小限に抑えるため、催涙弾の武装しかしてないからね」

 

 中尉もほっとした表情を浮かべていた。たしか中尉は動物が好きだったからな、きっと既存の動物たちの未来を案じていたんだろう。

 

 それからしばらくすると、再び使いの鷹が戻ってきた。手紙を読むと今日は午後から家にいるからいつでも訪ねてもらっていいという事らしい。俺たちはすぐにでもタッカー氏の下を訪ねようと準備を始めたのだが。

 

「イソガナイ!カンゲイジュンビ!アウノタノシミ!ショウ・タッカー!」

 

 鷹は再び口を開くと、そのまま飛び立っていった。

 

「……すごいな、リオールで戦った合成獣とは大違いだ」

 

「あれは戦闘用に作られたものだけど、この合成獣は人のパートナーとして作られてるんだね」

 

 アルの感心もよくわかる。合成獣といえば生物兵器というイメージが強かったが、こうしてみると人と動物の間に確かな絆があるのだと実感できる。

 

「あぁ。軍としては彼に戦闘用合成獣の研究をと望む者もいるが、そういった要望はすべて断っているそうだ」

 

 大佐も中尉も、タッカー氏に対して高い評価を下しているようだ。

 早速大佐の案内でタッカー氏の自宅を訪ねる。すると庭先で小さな女の子と犬が駆け回って遊んでいた。その光景を見ていると、女の子がこちらに気づいたようで手を振ってきた。

 

「やぁ、こんにちは。お父さんはいるかな?」

「おじさん、だーれ?」

 

 大佐がおじさんと言われたことに顔を引きつらせていると、家の中から女性が一人出てきた。もしかしてタッカーさんの奥さんだろうか?

 

「こんにちは、お待ちしてましたわ、ささ、どうぞ中へ。コラ、ニーナだめでしょ。お客様が来るときはアレキサンダーをつないでおかないと」

 

「はーい、ごめんなさい」

 

 奥さんの注意を受け、ニーナと呼ばれた少女は飼い犬と戯れている。もしかしてこの犬も合成獣なのだろうか。

 

「もしかしてあの子と遊んでた犬もタッカーさんが作った合成獣なんですか?」

 

「あぁ、アレキサンダーのことね。いいえ、あの子は普通の犬よ、娘のニーナが生まれた時に飼い始めたの。主人曰く『ニーナには動物の命にありのままに触れることから教えてやりたい』って」

 

 なるほど、生体錬成の権威として命との向き合い方を娘に伝えたいということか。研究成果や話を聞くに相当な人格者なんだろうな、国家錬金術師に今まで何人かあって来たけど、みんな結構癖の強い人たちばかりだったからな。

 

 奥さんに居間に案内されると、短髪で眼鏡をかけた優しそうな風貌の男の人がカップ片手にお茶の準備をしている真っ最中だった。

 

「もうあなたったら、お茶の準備くらい私がしますから、ほら、お客様がいらっしゃいましたよ」

 

 そう言いながら、ティーコゼーをかぶせられたポットを奥さんが持つと、手慣れた様子で紅茶を注ぐ。その様子を見ていたタッカー氏が苦笑いしながら言う。

 

「すまないね、どうも、今日は落ち着かなくってね。手持無沙汰なものだからつい……」

 

 そう言って俺達に席を勧めると、自分も椅子に腰かける。改めてタッカー氏を見ると、とても穏やかな雰囲気の男性だった。

 

「はじめまして、私が『綴命の錬金術師』ショウ・タッカーだ。君の噂は聞いているよ、最年少国家錬金術師として名高いエドワード・エルリック君。それと……えっと、君は?」

 

「はじめまして、俺がエドワード・エルリック。そんでこっちが……」

 

「はじめまして、タッカーさん。僕は弟のアルフォンス・エルリックです。」

 

 俺とアルが挨拶するとタッカーさんはニコニコしながら俺たちに握手を求めてきた。

 

「マスタング大佐から生体錬成に興味があると聞いてるよ。私なんかでよければいくらでも力を貸そう。おっとその前に、ニーナ、お父さんはこの人たちとお仕事の話をするからお母さんと一緒にアレキサンダーのお散歩に行ってきてもらえるかな?」

 

「わかったわ。ニーナ、一緒にお散歩に行きましょう。今日は帰りにお父さんの分もアイスクリームを買っていきましょうね」

 

「アイスクリーム!?わーい、早くいこうお母さん」

 

 タッカー夫人は小さなニーナの手を引いて部屋を出て行った。もしかして、気を利かせて奥さんと子供を外に出してくれたのか?

 

「世間では合成獣の権威なんてもてはやされてるせいか、デリケートな相談を受けることも多くてね。そういう時はいつも妻に頼んで時間を作ってもらってるんだ。仕事柄、子供がいると話しにくい人も多いからね」

 

 そういいながら、タッカーさんは紅茶を一口飲む。

 

「実は手紙でも話した通り、彼らは生体錬成に興味がありましてね。本日はその道の専門家であるタッカー氏のご協力を仰ぎたいと思い、お伺いしました」

 

 今まで黙っていた大佐がタッカーさんに事情を説明する。

 

「なぁ、アル?」

「うん、兄さん、タッカーさんになら僕たちのことを打ち明けてもいいんじゃない?」

 

 俺はオートメイルになった右腕と、アルの空っぽの鎧の中をタッカーさんに見せる。錬金術の基本は等価交換。大佐は驚いていたが自分の研究結果を見せてほしいと頼むんだ。こっちから誠意を見せなくちゃならねぇ。

 

 俺とアルはゆっくりと今までのことを語った。母親が亡くなったこと、人体錬成に手を出したこと、弟のアルが肉体を失ったこと、魂を鎧に錬成するために俺の手を差し出したこと。

 

「そうか、辛い経験をしてきたんだね。私の研究結果が君たちの手助けになれば幸いだ。資料室も好きに使ってくれて構わないよ。後で研究室も案内しよう」

 

 思いのほかあっさりと協力を約束してくれたタッカーさん。自分の研究を俺たちに開示することもそうだが、話に聞いた生体錬成に慎重な意見を持った人だからもっといろいろと突っ込まれた質問をされると思ってたけど……

 

「私としては人体錬成に手を出すことには反対の立場なんだが、禁忌に手を出した代償にあらがう若者を目の前にして何もしないというのは大人げないだろう?」

 

 そういって笑うとタッカーさんは紅茶をまた一口飲んだ。

 

「よかったな、鋼の。夕方には迎えの車を出すからそれまで資料を見せてもらうと良い」

 

「ははっ、よければ今夜はここに泊まると良い。うちの娘のニーナは元気真っ盛りでね、よければ遊び相手になってほしいんだ。実は妻にはもう二人が泊まることを伝えていてね。帰ってきたら二人の分の食事も腕によりをかけて作る予定なのさ」

 

 こうしてタッカーさんの家に泊まることになった俺とアルは、その日は資料室で時間を過ごし、夜は久しぶりに家族団らんの中で食事を楽しんだ。食後の腹ごなしにアルと組み手をしたら、ニーナの『二人はどっちの方が強いの?』発言でヒートアップして本気で動きまくったのはここだけの話。

 

 でもまさか、あんなことに巻き込まれるなんて、このときはまだ思いもしなかった……

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