色々試験的に書いてる本作ですが、今回は初の戦闘シーンを書いてみました。
崩れ落ちた鉄の見張り台、その残骸に無数の矛が突き刺さる。女の手から伸びるそれは、まるで手品のように一瞬で鉄の塊を消してしまった。鉄の塊だけをバラバラにして……
「いない!」
頭の中で女の足を切り刻むイメージを持っての一振り、機動力をそいで地に転がそうとした一振り。そして。
「あっらよっと、俺もいろんな部位を切ってきたが、こんなに切りごたえのある爪ってのは初めてだぜ!ラストさんよぉ」
突如鉄の残骸があった場所から飛び出した、伸びきった矛を切断する一振り。予想していた、銃による発砲ではない。巨大な包丁、そう、まるで大男が大型生物を解体するときに使われるような、そんな包丁を自分と同じくらいの細身の女が振りかぶっていたのだ。
女は驚愕した、まさかこのタイミングで、こんな方法で自分の武器を破壊されるとは思わなかったからだ。だがしかし、まだ終わったわけではない。ホムンクルスの再生能力ですぐさま新たな矛を指先から生成して、フェンシングの突きのように繰り出す。その速度は腕を押し出す力と、急速に伸びる爪の伸縮性で、剣術の達人でもなければ捕捉できない。
包丁はまるで重力に支配されていないかのように空中を滑り込む。その軌道はさながら獲物を狙う鷹のごとく、静かに確実に標的の命を奪う必殺の軌道を描いていた。鈍い音が響き渡る前に、矛は大地に落ち、顔が苦痛に染まり上がる。
「ひゃひゃひゃ、もう一本寄越しな!」
「なめるなぁ!」
腕が再生するわずかな時間、残された腕の先に神経を集中させる。その行為を説明するのならばデコピン、人差し指と親指に力を入れ弾くだけの動作。しかし人間を超える様に作られた指先から放たれるそれは、周りの空気を切り裂き、小さな真空刃を巻き起こす。指先がターゲットを示す時ほんの一瞬、最高で十本の指から放たれる矛を、たった一振りに神経を尖らせ放つ必殺の一撃。
それはシン国で刀と呼ばれる剣を使い、達人が放つ居合と呼ばれる技。自分に剣術を教えたホムンクルスをもってしても、自らの眼を解放しなければ見切ることは難しいと言わしめた必殺の一撃。その男をもってしても再現不可能と判断された、最強の矛を背負う女の必殺の一撃。その速度は、切る瞬間も切られたことも認識させない、不可視の一撃。
「うぉりゃぁあああ!!!」
見えた一撃を回避するのは不可能と判断するや否や、襲い掛かる爪の先端に合わせて包丁の最も丈夫な部分で横から殴りつける。当然、その衝撃に耐えられるはずもなく、包丁は砕け散ってしまう。しかしその刹那の時間稼ぎのおかげで、回避行動をとることに成功する。突き出された爪は、頬をかすめ血を吹き出させただけで終わる。そのまま距離を詰めようと走り出す。
人間の腕は二本しかない、しからば一度に振りぬける剣は二つ、ならば指の数はいかほどか、それらすべてから放たれる斬撃の数はいかほどか。
再生した腕と、居合を放った腕、合わせた数は十の一振り。それぞれが軌道とタイミングをずらし、左右からの同時攻撃として繰り出される。その空間に逃げ場など無い、女が知る最強の男とて回避を諦めた代物。
女は逃げなかった、逃げれなかったのではない、逃げなかったのだ。
囲むように放たれた軌道の一番力が入らなかった場所へ飛び込む。そして腰に差した包丁を構えると。―――キィィンッ! 金属同士がぶつかり合う甲高い音とともに、身体を滑り込ませた女との距離が一気に縮まる。
「ナンバー66、生きてたのね」
「おうよ、あんたの体が忘れられなくて、もう一度人生やり直したのよ」
女と女、されどホムンクルスと殺人鬼。
「ずいぶんと変わったじゃない、私たちホムンクルスの劣化版まで作れるなんて、大した男のようね」
「おうよ、おめぇらがくれた鎧よりも高性能のニューボディだ。なんてったってこの国一番の科学者が俺様だけのために作ってくれたんだからな」
構える包丁、構える指先。両者その先端から目を離さない。
「身体能力もそこそこ強化されてるようだけど、どうしたのよ、その眼?」
「最初は先生に、おめぇさんみたいになんでも切れる爪が欲しいって頼んだんだけどな、私の技術じゃホムンクルスの再現は出来ないって断られたのよ。グリードって奴の堅くなる能力や、エンヴィーって奴みたいに変身できる能力も再現不可だってよ。その代わりに単純な身体能力の強化を極限までするってのがコンセプトらしくてな」
女は眼鏡を外し、獰猛な瞳で睨み付ける。
「何でも見逃さねぇ眼を付けてもらったのよ、あんたが狙ってるホークアイの姉さんの異名と同じ『鷹の眼』ってな、洒落が効いてるだろ」
女は頬に手を当てながら、笑った。
「ふふっ、まるで『憤怒』ね、『最強の眼』を知っている私からすれば可愛いもの……あんたも殺人鬼のくせに美人になっちゃったじゃない、先生の趣味かしら?とても似合ってるわよナンバー66」
互いが言葉を交わすが、そこに余裕などない。一秒でも早く相手を殺さなければ、自分が殺される。そんな緊張感の中、二人は会話を続ける。それは、殺し合う前のただの世間話。互いの手の内を探りながら行われる、命を賭けたゲーム。そのゲームの勝敗を決めるのは、運ではない。
「ひゃはっは!マスタングの旦那に殺されかかった間抜けの嫉妬が、誰に向くかと思ってな。恐らくホークアイの姉さんがフリーになれば狙われると思って、おめぇさん切るためだけに先生に頼んだのよ。俺様の勘は昔からここぞという時に当たるのよ。それと俺の名前はナンバー66なんかじゃねぇ」
大きく口を開けながら高笑いする。ひとしきり笑うと、女はその口元に指先を向け、静かに呟いた。
「今の私の名はタッカー先生の頼れる美人秘書、マーゴット・オレンジ・ペコー。しかし、その実態は……」
包丁を構え、その切っ先は殺意が乗せられる。その視線の先にいるのは、ホムンクルスの女。今は目の前の女を楽しげに見つめていた。その表情は冷静沈着な秘書の仮面ではない、口元を歪ませ、獲物を狙う獣の顔。
「てめぇを切り刻むために、鉄の破片から甦った。バリー・ザ・チョッパー様だ!」
『バリー・ザ・チョッパー』
タッカーがエドとアルの協力を得て作り出した合成獣。合成獣人間たちのように人間に動物の要素を足すのでなく、生体錬成の観点からバリーの元の肉体を再錬成した姿。見た目は人間と変わらないが、その本質は生きた人形であり、心臓は動き生体活動もしているが、食べ物は食べれず、タッカーが錬成で合成獣のエネルギーを分け与えて活動している。
人間に戻れたわけではなく、バリーの刻印が入った鉄の破片を体に埋め込み、体内の血液と血の刻印を連鎖反応させることにより動かしている。元の体を改造したので魂の定着率は比較的安定し、人間と同じ、あるいはそれ以上に動くことが出来る。
特別な能力はホムンクルスや合成獣人間のように備わってないが、眼が強化されている(本文バリーが言うように何でも見切れるわけではない、いうなれば劣化版キング・ブラッドレイ)
見た目はバリーの要望でリザ・ホークアイそっくり、本人には完成後に報告。ホークアイの命を守り、敵を欺くためと大佐に許可を取り説得してもらった。
バリーの擬態能力が元々の高いので、普段はタッカーの秘書、マーゴット・オレンジ・ペコーに変装してるリザ・ホークアイの振りをしている(大総統にはばれる、逆にそれ以外なら大体欺ける。マルコーなら少し検査すれば別人だと気づける。ホーエンハイムも少し見ていれば気づく)
実はブリッグズにいる間ホークアイだと思われていて結構ナンパされたりしてる、途中からあしらうのがめんどくさくなり、エドの名前を無許可で出して、実は彼氏だとナンパ避けに使っている。なので原作よりもブリックズの男たちはエドに厳しく、アルにやさしくなっている。