【完結】俺は綴命の錬金術師   作:発火雨

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タッカーさん頑張る回
激しい戦闘は無理です。

すぐに投稿したい誘惑を振り切り、予約投稿を設定。


あの日の選択は今日まで続いている

「ぎゃあああ!なんで私までこんな奴らの戦いに巻き込まれなきゃならないんだよぉおおお!」

 

「ははっ、ごめんねヨキさん、三人もホムンクルスの相手をするとなると全然人手が足りなくてね。車を運転できるだけでも立派な戦力なんだ」

 

 とりあえずラストの相手はバリーに任せるとして、こっちはグラトニーの相手をしなくちゃならない。当然ラストがいるんだから君も来てるよね。ヨキさんに車を運転してもらって逃げてるけど、何とかこっちにおびき寄せている。背後から口を開けて周りの家を食い散らかしながらこっちに向かってくるグラトニーはまさにパニック映画の怪物だ。

 

「あんたもエルリック兄弟みたいに錬金術師なんだろ、早いとこあいつを倒してくれ!」

 

「残念だけど私の専門は動物や人間相手の生体錬成でね、動きながら何かを正確に錬成するなんて器用なこと出来ないんだよ。だから色々準備してる間、逃げるのを任せたよ」

 

 そうそう、作中だとみんなエルリック兄弟をはじめ、ホーエンハイムも手合わせ錬成で簡単に色々するから忘れちゃうけど、そもそも錬成陣を書かないと錬金術は使えないし、他の国家錬金術師だって事前に用意した錬成陣があるのとは別に、瞬時に目の前の物体を理解、分解、再構築をするだけの技量があるんだよね。結局あんなことが出来るから国家錬金術師と呼ばれ才能を篩にかけられる。一般的な錬金術師はじっくりと錬成陣を用意するし、動きながら発動なんて出来ないから。

 

「そもそも私が運転して逃げるなんて最後の手段だったはずだろ、なんで最初からこんなことになってんだよ」

 

「いやぁ、逃げて時間稼ぐ用の罠をあちこちの家に用意してしばらくはそれで時間を稼ぐはずだったんだけど。全部ばれてたみたいで、だめだったんだよね。直前に待機してもらったヨキさんだけが頼りなんだよ」

 

 まいったね、グラトニーを足止めするためのトラばさみとか、ワイヤーとかを用意してたんだけど、それも全て見破られていたようだ。念のため逃走用の車を用意してたから何とかなってるけど、車に飛び込んだ時のヨキさんの驚きようったらもう。

 

「あんたの護衛の女はどうしてるんだよ、錬金術で強化しててあの合成獣人間たちよりもむちゃくちゃ強いんだろ」

 

「マーゴットもラストの相手で手一杯なんだ。あいつを他のホムンクルスに合流させるわけには行かない」

 

 バリーには俺の学んできた生体錬成に加えて、ヒューズさんから送られてくるシン国の医療に特化した錬丹術の基礎理論。エド君とアル君の魂定着における研究理論や、元の体に戻るために調べてきた様々な錬金術。マルコーさんの生体錬成のレポートと隠されていた試作品の賢者の石。東方司令部ではみんなのおかげで今日にいたるまで合成獣の研究で数をこなさせてくれた。

 

 それでも劣化版ホムンクルスがいいとこで、欠点がありまくり。肉体に埋め込んだバリーの刻印と血液を反応させて動かしてるから、鎧の時のように多少の破損でも動けてた時と違い、出血がひどくなると体が動かなくなる。動きや力は前よりも強くなったし、眼には特に力を入れたから、回避と攻撃に関しては近接戦闘組のなかでトップクラスだけど、その代わり防御能力は人間と変わらないし、遠距離や中距離での戦闘は出来ないから耐久性もないのに近距離戦をせざるを得なくなってしまう。鷹の眼だって長時間本気で使い続けてたら疲労が溜まり、見逃しだって増えてくる。

 

「それにね、彼は元々一度魂を体から抜かれて、一度元の体に普通に戻るチャンスをつかんだんだ。それを彼女と戦うために棒に振ったんだよ、私の腕を信じて。だから彼の戦いの邪魔をさせるわけにはいかないんだ」

 

 元の体が腐り始めていたけど、賢者の石を使えばもしかしたら元の体に戻れる未来があったかもしれない、今の技術では無理だけど、もしかしたら未来には可能性があったかもしれない。それに見た目をホークアイ中尉に似せたり、強化を加えたおかげで、元の体を素材にした違う体になってしまい、アル君と同じ時限爆弾付きの体には変わりはない。真理の扉の向こう側の体を取り戻したら元に戻れるアル君と違い、元の体を俺のエゴで失わさせてしまった。

 

 自分はもう死んだからとか、俺なら信頼できるとか、憧れの人と同じ外見になれたら面白いとか、もう一度好きに肉を切りたいとか。色々理由は話してくれたけど、俺が彼の可能性を一つ奪ったんだ。なら、俺が彼の新しい未来を掴むために命をかける。原作途中退出組の底力を運命に見せつけてやる!

 

「そろそろ、最後の仕掛けがある場所だ、そこまで頼むよヨキさん。あいつの狙いは私だから、後はそのまま逃げていいから」

 

「その前に追いつかれそうだよ、この野郎!」

 

 もう少しで最後の仕掛け、これが効かなかったら正真正銘打つ手なしなんだよね。村のはずれに用意した何もない場所、そこで車から飛び降り、雪のクッションの上に着地すると同時にグラトニーに向かって走り出す。背後からは車のエンジン音が遠ざかっていくのを聞きながら、目の前にいる怪物と対峙する。口元からよだれを垂らし、牙をむき出しにして威嚇してくる。むちゃくちゃ怖いし、生臭い!

 

 マルコー先生が作り上げた賢者の石破壊錬成陣を書いた手袋。あの口で噛み切られる前に賢者の石を壊してやる!

 

「そうそう、食べる前に殴るんだっけ?」

 

 しかしグラトニーは口を開けてかみつく前に、腕を大きく振り回し俺の体を吹き飛ばす。地面に転げながら、何とか起き上がる。今のでたぶん骨が折れた、いくつ折れたかわからんし自分がどうなってるかわからないけど、むちゃくちゃ痛い。

 

「ゆっくり食べてたらひどい目に遭うってラストが言ってたから、動かなくなってから食べるね」

 

 チクショウ、グラトニーまで油断しないのかよ、食欲が思考回路のメインであんまり物を考えてるようには見えないんだけど、ラストの言うことはちゃんと聞くんだよな。不味い、動くのがしんどいし、さっきので腕が上がらない。

 

「まだ、動けそう?そしたらもう一回」

 

 腕を振りかぶりこちらに近づいてくる、これが最後の抵抗だ。ここまで逃げてきたのは理由がある。隠れて見えないだろうけど、雪の中にはあらかじめ隠しておいた鉄の塊と錬成陣。勿論俺が今いる場所よりも少し離れたところにある、昨日急遽思いついただけだし、ぶっつけ本番なんてガラじゃないけど。

 

「メイちゃん直伝、遠距離錬成陣を食らえ!」

 

 もう片方の手袋に書いた錬成陣。それは鉄の塊の錬成陣と連動して遠距離からの錬成を可能にする錬丹術の技。ずっと基礎を習ってたし、メイちゃんに教わって理論だけ理解した。これなら動かないで元々把握していた物体を理解、分解、再構築するだけだからハードルはかなり下がる。でも遠隔錬成なんてしたことなかったし、リバウンドも怖いから、普段なら絶対に土壇場でこんなことしない。

 

 グラトニーの背中に思い切り鉄の拳をぶち当ててやった。勿論こんなもん攻撃としては全然意味もないだろう。空中に投げ出されたくらいで賢者の石は何一つ減ってない。でも空を飛んで俺目がけて降ってくる。

 

 無理やり腕を振り上げ、目の前に落ちたグラトニーの頭を掴む。

 

「うぉぉおおお、喰らいやがれぇええええええ」

 

 全力で握りしめ、そのまま頭をつぶすように力を込める。すさまじい錬成反応に目の前を閃光が走る。

 

「ぐぎゃああああ、やめ、やめてぇ!」

 

 必死に振りまわした腕が俺にぶつかり、地面を転がる。足りなかった。俺の技量ではマルコーさんみたいに一撃で賢者の石を削り切ることが出来なかった。もしくはグラトニーの保有する石が多かったのだろうか。ゆっくりと再生を始めるグラトニー。

 

「あぁ、これが限界か……」

 

 俺の限界はここか、今まで努力してきたつもりだけど、それでも足りなかったかぁ……

 

「うぉぉぉ!傷の旦那、お願いします!」

 

「かなり消耗してるようだな、ホムンクルス!」

 

 突如ヨキさんが運転する車がグラトニーに突っ込むと、飛び出したスカーがグラトニーの頭を掴み人体破壊を食らわせる。俺がやったのとは比べ物にならないくらいに派手に血が飛び散り、グラトニーの頭が吹き飛ぶ。やがて目に見えて再生する速度が遅くなる。腹から大きな口がスカーを飲み込もうとするが、腹の中の赤い塊を掴み再度破壊を試みる。

 

「これで終わりだ!」

 

 賢者の石が砕け散ると、グラトニーの体が徐々に崩れ去っていき灰となって風に飛ばされていった。

 

「無事かね、タッカー君、酷い怪我だ。すぐに治療するから楽にしなさい」

 

 車から降りたマルコーさんが俺の体を診ながら、錬成陣の準備をする。

 

「この俺様に感謝しろよ、車で援軍を拾ってきてやったんだから。他の奴らは護衛の姉ちゃんのとこに行ってるよ」

 

 まじか、ヨキさん大活躍じゃん。これは全部終わったらマスタング大佐に頼んで就職先を用意しないと。しかも俺の命を救ってくれたのがスカーとは……

 

「よく一人でホムンクルス相手に立ちまわったな、タッカー」

 

 あぁなんか知らんけど認めてくれてるんだ、あの日俺を殺しかけたスカーに助けられるとは、崩壊した原作も案外悪くないな。




『グラト二ー』

ラストと共に襲撃、タッカーを狙うもここでリタイア。原作では家族に食われてしまうが、この作品では真っ向勝負の末スカーにとどめを刺される。

『ヨキ』

今回のMVP。戦う力がない見るからに一般人のおじさんが頑張ってるのみて触発される。スカーをタッカーの元まで送り届けるどころか、車での体当たりも原作より早く見せつける。

『マルコー』

治療のためこちらへ、同じ研究者で戦闘向きではないタッカーの身を案じていた。自分が教えた錬成陣も至近距離で使わないといけないので、戦力を自分の周りに固められたことを気にしていた。(もちろんタッカーとバリーが決めたことなのだが、どれでも心配していた)

『スカー』

あの日殺そうとした男を、今度は共に戦う仲間として守ることになる。マルコーと同じく名前で呼ぶのにはどのような心境があるのだろうか。
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