暗闇に包まれる二人、お互いに向き合い膝を交えて話し合う。
「今セントラルには、各地の過激派が集結して軍部を制圧しようと動いています。それにこの日のために新たに作られた合成獣もかなりの数いますので、苦戦は必至かと」
「ねぇ、どうして僕にそんなこと話すの?」
アルフォンスの疑問は当然。最初こそ、お互いなんの会話もしなかったはずが、時間が経つにつれて暇になったのか。プライドの方から会話を投げかけて来た。それも自分の母親のことや、家での過ごし方、飼い始めた合成獣が懐いてくれるのはいいがお父さんがおやつを与えすぎて困っているなど……。
最初は無言を貫いていたアルフォンスだったが、あまりにもしつこく話しかけてくるものだからつい口を開いてしまったのだ。自分の母親のこと、幼少期の家族の思い出、ロックベル家で飼っていたデンにお菓子を兄弟二人とウィンリィであげていたらみるみる太ってしまい、その後のダイエットに付き添う形で三人で毎日走りまわったこと。
お互いの顔も見えない暗闇の中、片方はホムンクルス、片方は魂が定着した鎧。それでも二人が紡ぐ会話はまるで年の近い友達のように弾んでいた。
「そうですね、僕がここにきて君を捕らえるのは『お父様』の計画のためでした。しかし、そんなことしなくても君たちはセントラルに集まるでしょう?だから待ち構えていたほうがいいと言ったのですが受け入れてもらえませんでした。むしろ僕と一緒にずっとここに居るほうが問題ですよね」
「だからって僕はここから離れないよ」
今のアルフォンスの役目は仲間たちに思いを託し、ホムンクルスプライドをここに押し込めること。だがプライドは予想にしなかったことを話し始める。
「あぁ、それならもう心配ないですよ。あなたを捕まえるのに失敗した段階で、後は自由に生きていきなさいと『お父さん』に言われてます。『お父様』の計画に干渉するのは、お父さん、ラスト、スロウスの三人だけでしょうから」
「どうしてか聞いていい?君が僕を操ろうとしたとき、魂に何かが入り込んでくる感覚があった。最初こそ不快な感覚だったけど、その時に見えた大総統と夫人の暖かい思い出は本物だと思ったんだ。あの時見た光景は嘘じゃないと思うんだけど……」
アルフォンスは自分が感じたことをそのまま口にする。するとプライドは少しの間黙り込み、やがてクスリと笑う声が聞こえてきた。それはどこか懐かしむような優しい笑い声で、それがとても心地よく感じるものだった。そしてプライドはゆっくりと語り始める。
「なぜでしょうね、たぶん君と僕は同じだと思うのです。この国が好きで、家族が好きで、お母さんが好きで……。立場も生まれも種族さえ違うけど、この世に生を受けた意味さえも違うけれど、それでも共存して同じ時間を過ごして、幸せになれる」
そこまで言うと、プライドは再び口を閉ざす。それからしばらく沈黙が続き、再び口を開いた時の表情は見えないが、きっと優しい顔をしているのだろう。
「なんででしょうね、上手くまとまりません。優しくて僕に無償の愛を注いでくれるお母さんの影響か、ここ数年変わり始めた末っ子……もといお父さんの影響か、はたまた、作られた命なのに、人間と共存し家族になれた合成獣のおかげなのか……」
「ねぇ、このまま『お父様』の計画を進めてもいいの?セリム・ブラッドレイの大事な人たちもいなくなっちゃうんだよ」
「だとしても、僕を生み出してくれた『お父様』にだって愛情はあります。君たちだって家族の中から一人だけを選ぶことなんて出来ないでしょ、どちらが生き残ることになっても僕はその結果を受け止めます」
すると突然アルフォンスのチョップがセリムに振り下ろされる。いきなりの攻撃に思わず頭を手で押さえると、そこには怒りに満ちた少年の声が届く。
「このバカセリム!どうしてそこで家族と喧嘩することを放棄するの、そんなんじゃ誰も救えないじゃないか!」
怒られるとは思っていなかったのか、プライドはポカンとした顔を浮かべている。
「恩とか産んでくれた感謝とかは僕もわかるよ、でもね、それと喧嘩しないことは別なんだよ。お互いが別の存在だからこそ、ぶつかり合って理解していくしかないんじゃないか。君はそれで本当に幸せなのか?」
アルフォンスが言いたいことはわかった。確かに自分は今まで『お父様』と対立することも、ぶつかることもなく生きて来た。だけど今はこうして現状に悩むなら。自分の意思をぶつけるべきではないか。
「予定変更、僕が君を『お父様』のところに連れていくよ、親子喧嘩の仕方を教えてあげる。父親ってのは息子に殴られるもんなんだから」
そう言ってアルフォンスは立ち上がり、プライドに手を差し伸べる。
「いいんですか、僕が君を上手いこと誑かして人柱を誘導してるだけかもしれませんよ」
「周りの人たちはずっと、僕たち兄弟が元の体を取り戻して幸せになるって信じてくれてるんだ。僕もセリムを信じるし、僕たちが手を取り合える未来があるって信じてみることにする。きっと償わなければいけないこともあって困難な道だろうけど、それでも前に進めばきっと誰かが支えてくれる」
「そうですか……。まぁ、お母さんもきっと今一人で不安でしょうから、そばに居てあげてもいいかもしれませんね。良いでしょう、一緒に行きましょう、セントラルへ」
突如爆発が起きると暗闇に光が差し込む。その光の先にはスーツを着た男が一人佇んていた。
「お話はまとまりましたか?セリム君のお父さんからの命令で、本人にその意思があればセントラルまで送るように頼まれてますよ。それに私も人とホムンクルスの生存競争の行く末を近くで見たいですからね」
厚く覆われた土の壁を一人で爆破した男は、楽しそうに笑みを浮かべながら二人を見つめる。
一台の車が平原を走り抜ける。途中で出会う武装した過激派たちの制止を聞かず、その間をすり抜けていく。セントラルへと続く道をひた走る。車に乗ってからというもの、プライドは一言も話さずただ窓の外を流れる景色を眺めていた。
「うぉぉぉ、なんでこいつら連れてセントラルまで行かにゃならんのだ!敵だろそいつら」
「運転出来てこっちの事情を汲んでくれる人がヨキしかいなかったんだからしょうがないでしょ。ほらしっかり前見て、僕とキンブリーで車は守るから」
「しょうがないですね、降りかかる火の粉は払わなければ。いやいや、運転していただけるのは助かってますよ、私も運転位できますが、こうやって爆破してるほうが性に合ってるもんで」
近づこうとするテロリストたちの車をキンブリーが地面を爆破することでひっくり返し、その隙に走り去るという行動を繰り返す。時にはアルフォンスが飛んでくる銃弾から車を守り、どうしても通れない場所は道を錬成し直して無理やり直進する。ヨキは叫びながらも必死に運転し、やがて前方に過激派が作り出したバリケードが見えてくる。
「うぉっ!完全にセントラルまでの道が封鎖されてんぞ、どうすんだ」
「もちろん直進してください、あんなもの私の障害足りえません」
キンブリーはそういうと、懐から小石を取り出すとそのまま前方に向かって投げつける。爆音と共に爆風が巻き起こり、一瞬にしてバリケードを吹き飛ばす。その後、再び車で駆け出すと、多くの武装集団が待ち構えており、マシンガンの掃射が襲い掛かる。アルフォンスが錬金術で防ぎ、その間に再びヨキの運転で突破を試みる。
そんなことを何度も繰り返しているうちに、ようやくセントラルの外壁が近づいてきた。
「あぁ、ここまで来ておいてなんですが、僕は別に『お父様』に殴りかかったりしませんからね」
「えぇ!だって僕の手を取ったじゃないか」
アルフォンスが驚いている横では、プライドが笑いながら答える。
「君たちは僕のことを理解出来てませんね、『お父さん』が僕に自由にしていいと言ったんです。僕たち親子に言葉なんて不要、それがこの国を背負う大総統の息子たる者の務めなんです。母のそばで父の活躍を見守ることにしますよ」
原作との相違点
ハインケルが負傷してないのでゴリさんたちとセントラル入り、マルコーさんも不在、ヨキ一人留守番してるのを捕まりました。