目標はきちんと完結まで書くことなので一歩一歩進めます。
迫りくる合成獣の大軍と戦っていると、いつの間にか落とし穴に飲み込まれてしまう。
地下へ地下へ、まるで誘われているかのように俺とホーエンハイムはトンネルを滑り続ける。そして見えた光の先には……
「ホーエンハイム!」
「どうやら、あいつが直々に俺たちをご指名みたいだな、このまま俺たちでけりをつけるぞ」
開けた場所に出ると、そこは一度だけ見た玉座の間だった。そしてここ最近嫌でも見慣れてしまった顔。その男は俺たちの顔を見ると、嬉しそうに手を叩きながら笑い出す。
「おぉ、ホーエンハイム久しぶりだな。オマエの息子も一緒とは、すまんな急に呼び出して、まぁ二人ともここでゆっくりしていくがいい、積る話もあるだろう」
ホーエンハイム瓜二つのホムンクルスたちの親玉『お父様』は俺達を見て歓迎しているようだった、いつの間にか手合わせ錬成なしで生み出されるテーブルとイス。立ち上がり棚から缶のようなものを取り出すとテーブルに中身を広げる。
それはセントラル土産として駅なんかでよく売っているクッキー、子供の頃用事でセントラルにロックベル夫妻が行くたびに買ってきてくれた懐かしいお菓子だった。俺は警戒しながらそれを眺めていると、まるで友人を招いたホストのように勝手にお茶の準備を始めてしまう。
「確か好きだったろうクッキー。あの頃フラスコの中にいたワタシは食という楽しみを味わえなかったからな、まさかこうしてオマエと再び会うことになるなんて想像もしなかったよホーエンハイム」
「確かに俺が奴隷だったころはクッキーなんて食べたことがなかったからな、お前のおかげで奴隷から抜け出して初めて食べた嗜好品だ」
ホーエンハイムは懐かしむように語りだす。俺は二人の会話を聞き流しながら周囲を警戒していた。この空間には俺たち三人しかいない。
「って何敵の本拠地でクッキー食ってんだよ、警戒しろ警戒!」
呑気にテーブルに近づき缶の中のクッキーを一つ摘まむと口に放り込むホーエンハイム。「う~ん美味い」じゃねぇんだよ!
「若いころのお前そっくりだな、特に怒りっぽいところが」
「エドワードは俺に似たからな、んで、お前の目的はなんだ」
「そうだな、長い話になるから座るといい、まず初めにワタシの目的は神になることだ。賢者の石を使い真理をねじ伏せ、完璧な存在になるためにここまで来た。そして神になることが目的ということは、現時点でワタシは神ではないということだ」
『お父様』は自分の胸元に手を当てた。そこには以前見た時と同じ赤い石がある。賢者の石……こいつは本当にそれだけのために国を巻き込んで戦争を起こしたのか? そんなことの為に一体どれだけの命が失われたと思っているんだ。
「ワタシは人間を見下している、それは間違いないが人間が生み出した技術や文化には敬意をもっているつもりだ、賢者の石しかり、新たに生み出される錬金術しかり、知識とは誰にも犯されぬ財産であり、それを探求する行為は称賛に値するものだ。だが人間はそれを扱いきることが出来ない。だからワタシが管理せねばならぬと考えた」
「ふざけるな!人間を管理しよう何て何様のつもりだ」
俺の言葉を聞いてもなお余裕のある表情を浮かべている。その態度はまるで俺の怒りなど取るにも足らないと言っているようだ。
無性に腹が立ち目の前にあるクッキーを掴むと思いっきり投げつけた。しかしクッキーはその体に触れる前に粉々になって床に落ちていく。砕けたクッキーの破片を踏みしめながらゆっくりと立ち上がる男。その瞳からは今まで感じたことの無いような威圧感を感じる。
「ワタシは人間の生み出す知識にこそ価値を見出すが、知識に振り回される人間は愚かとしか言いようがないと考えている。ホーエンハイム、オマエならわかるだろう。クセルクセスの国の末路を。確かにワタシが与えた知識で国は滅びた。しかし不老不死を求め各地で血の印を刻み、国民を犠牲にしようとしたのは間違いなく人間の欲望だったではないか」
確かに、ホーエンハイムから聞いたクセルクセスの最後、老いを恐れ抗おうと人の道を外れた王。だけどそれとこれとは別問題だろ。
ホーエンハイムは黙ったまま俯いているだけだ。
「ワタシは違う。今でも人間より遥かに完成されている存在の自負はあるが、神になり未来永劫人間どもを管理する。そうして人類が生み出す叡智を適切に保管し、人類の繁栄に貢献してやるのだ。どうだ素晴らしい考えだと思わないか?」
「それが本音か、人間を見下す癖に人間を模倣してホムンクルスを作り父と呼ばせている。お前本当は人間に憧れてるんじゃないか。かつて理解が出来ないと言った人間のコミュニケーションをなぜ真似る?」
今まで黙っていたホーエンハイムが口を開く。その言葉を聞いた瞬間、奴は笑い出した。腹を抱えて笑う姿は俺たち人間となんら変わりはない。
笑い終えると目じりに浮かべた涙を拭いながら話し始めた。
「すまんすまん、バカにしたわけじゃないんだ。認めよう、確かにあれから時を経てワタシも考えを改めた。オマエが子を持ったように、ワタシも自分の感情を切り離して子供たちを作った。子育てとは面白いものだな。育てるとは言いながらもワタシも子供たちに育てられた。長年の計画を子供たちにダメ出しされてな。それにこれが終われば独り立ちしたいと言う者までいる始末。まったく子育てとは思い通りにいかないな」
先ほどまでは一国の王のように堂々としており威厳すら感じられたが今は違う。まるでホーエンハイムと話してるような、一人の父親としての顔が見える。
「ここにお前たちを呼んだ理由でもあるんだが、国土錬成陣はいったん保留にしてな。代わりの計画を子供たちが主導している。私の役目はお前たちの足止めだ。私を止めるために大多数の戦力を地下に集めたのだろう?今頃地上は合成獣たちで溢れかえってるはずだ」
やばい、少数精鋭で戦力を地下に集めたのが裏目に出た。地上で戦っているタッカーさんたちは大丈夫だろうか、早く戻らなければ。俺が焦って考えていると、一枚の紙を懐から取り出し俺に見せつけて来た。
それは地図だった、セントラルの市街図。そこには赤い点がいくつも記されている。赤い点の場所は……! 俺は急いでその場から駆け出そうとしたが、いつの間にか背後には壁が錬成され出口は完全に封鎖されてしまう。
「錬金術と同じだ。人間を理解し、一度この国を分解する、そして再び再構築する。この国を対価に賢者の石を作るのではなく、他国を侵略し、その国を賢者の石に作り変えることが出来る軍事国家として、アメストリスの歴史は動き始めるのだ。我らホムンクルスが主導者としてこの国のトップに立ってな」
「そんなことが出来ると思ってるのか」
「あぁ、出来るともホーエンハイム。クセルクセスの時のようにフラスコの中に閉じ込められた小人ではない今なら、アメストリスを建国から今日まで運営してきた我々なら、そしてキサマら人間の愚かで賢い部分、同族で争う癖に他種族を認め容認する寛容さがあれば可能だ。まぁもっとも、ワタシはそこまで人間が信用できないのだが、そこは子供たちが上手くやれるというのでね」
立ち上がり両手を広げる。その姿はまるで演説をしているようだった。
「ふざけるな!人間はな、自分たちの利益のために戦争を起こす。確かに醜いし弱い生き物だ。だけどな!それでも自分たちの意思で前に進むんだよ!自分たちの行動に責任を持ってな!」
俺の言葉を聞きながら目を細め、まるで品定めでもするようにこちらを見る。しばらくすると何か納得したかのように頷き、そしてゆっくりと口を開いた。
「若いな、ホーエンハイムの息子よ。ワタシたちは確かにオマエの人生にいくつもの不幸の影をちりばめただろう。しかし思い返してみろ。この国の錬金術、この国に住む人々の人生、それらはワタシが作り出したものだ。その中に偽りない幸福も多数あったはず。それを否定することは誰にもできまい。その中でいくつもの大事なものを自ら手を伸ばし掴んだものだろう。ならばそれを最後まで離さずにいろ、それがどんな結末になろうとも」
そう言うと男は指を鳴らした。次の瞬間、周りを囲む壁が迫りくる。
「ワタシの周りでだけアメストリス式の錬金術を使えなくした。ここからは旧友との語らいの時間にしたいのでな、スマンがそこで大人しくしていてもらおうか」
「そうはいくかよ!」
すぐさま壁に扉を錬成し直し、拘束から抜け出す。あぶねぇ、嫌だったけどホーエンハイムにシン国式の錬金術を教わっといたのが役に立ったぜ!
「これは……。驚いたな、まさかシン国の錬金術を使えるようになってるとは。ワタシも解析を進めていたが未だ全容は把握できてないというのに。オマエの若いころに本当によく似ている」
「そうだろ、俺の自慢の息子だ。本当は俺一人でお前との決着を付けたかった。だがな、俺も息子たちから教わったんだ。だらしない父親を支えてくれるまで成長した心強い息子とならなんだってできるってな」
ホーエンハイムはどこか嬉しそうな顔をして笑った。俺の前に庇うように立つホーエンハイムの尻を蹴り飛ばして、隣に並んで立った。
「やるぞ、くそ親父。地上にいるみんなが心配だ。早いとこ終わらせて母さんの墓の前で土下座させてやる」
「あぁ……そうだな。ってわけでな、スマンが俺にも譲れない道があるんだ。悪いがお前の好きにさせるわけにはいかない」
「かつては『血を分けた家族』であり『師弟』であったが、今は同じ『父親』か、それもまたいいだろう。どれ、オマエたち親子の実力見せてもらおうか」
俺たちは同時に床に手を置き錬成陣を起動させた。
『お父様』
息子たちに当てられて成長したラスボス。主に長男長女と末っ子のせい。
神になるのを諦めているわけではないが、方向性を変更。国を賢者の石の材料にするのではなく、他国を賢者の石にするためにアメストリスを利用しようする。
今まで自分たちがアメストリスを動かしてきた自負もあるが、ここ数年で作り出された命である合成獣と共存し生きていく人間を見てきたので、価値観に変化が起こる。ホムンクルスとしてこの国の支配者に立ち、他国を賢者の石の材料にする算段
神に至る思想は原作と同じだが、その先には世界征服を見据える。これも世界の知識や未知を自らで管理するためなのだが、この国の居心地がよくなってしまった子供たちのためでもある。
今回の戦いで欲に溺れて利用価値が無い軍上層部と現ブラッドレイ政権に不都合な反乱分子を一掃しこの国を導く救世主として君臨する壮大なマッチポンプを計画。
何者にも縛られず、自由に、広い世界を知り尽くしたい。そしてその傍らには本当に欲しかった家族。
神になりたいがゆえに己が神ではないことを自覚できている。フラスコの小人でありながらある意味人間よりもヒトらしくなった。