アメストリス国立病院。国で一番大きな病院で何かあった時の緊急避難所に指定されている場所には多くの人たちが詰めかけている。
突如として起こったクーデターに連動するかのように郊外から攻めてきた反政権の過激派。逃げ場所を失った市民たちはこの病院に集まっているのだ。入り口にはバリケードが築かれていて、銃を持った兵士たちが懸命に合成獣たちを中に入れないようにしている。だがそれも時間の問題だろう。合成獣たちの勢いは止まることを知らず、このままではあと数分もしないうちに病院の中へとなだれ込んでくるに違いない。
「なんとしてでもここを死守するんだ!絶対に奴らを中に入れるんじゃないぞ!」
軍人の一人が声を上げると他もそれに応えるように雄たけびを上げた。しかし、その瞬間――
「うわあああっ!!」
突然一人の兵士が悲鳴を上げてその場に倒れこんだかと思うと、その場には馬乗りになった合成獣の姿があった。それを見た他の兵士も慌てて応戦する。乾いた音が響き渡り、いくつもの銃弾が合成獣の背中に撃ち込まれるが動きを止めるには至らない。
「俺たちに任せろ!」
ゴリラの合成獣であるダリウス君がその剛腕で合成獣の腕を掴むと思いっきり投げ飛ばした。そしてそのまま地面に叩きつけるとカエルの合成獣のジェルソ君が粘着性の唾液で動きを封じ込める。
「今のうちに負傷した兵を下がらせろ。軽傷ならこの場でマルコー先生に、重症で戦線復帰が怪しい奴はノックス先生がいる病院まで担ぎ込め!」
今私は最前線で医者として働いている。メイちゃんとタッカー君のおかげでシン国の医療に特化した錬成を覚えることが出来たので、今はこうして怪我をした兵の治療に当たっているというわけだ。
さすがに重傷者は無理だが、軽傷ならばすぐに復帰できるくらいにまで回復することが出来る。勿論無理をしてほしくはないのだが、彼らもここが抜けられると後に残るのは戦う力もない民間人だけだということを知っているのだろう。必死になって戦い続けている。
「先生あんまり無理すんなよ、かなり押されて徐々にここまで合成獣たちが入り込んでる。一対一なら俺達でもなんとかなるが数が多すぎる上に、普通の銃弾じゃ牽制にもなりゃしねぇ」
「わかってるよ、しかし今錬金術が使えるのは私しかいないんだ。恐らくエドワード君が言っていた錬金術封じが発動したのだろう。こうなってしまっては戦う力を持ったのは私と君たち合成獣だけなんだ」
さっきまでは軍属や民間の錬金術師たちが、病院の防衛や避難してきた人々の治療に当たっていたのだが、みんなが一斉に錬金術を発動できなくなってしまったのだ。
「君たちがこっちに来てくれて助かったよ」
「本当はエドワードたちと地下に向かってたんだがな。突然エドと親父さんは地下に吸い込まれちまうし、合成獣たちは俺たちに目もくれずに地上を目指してたからな。野生の勘って奴で地上に出て見たら合成獣の化け物が病院目指して突っ走ってるもんで驚いたぜ」
そう言いながらライオンの合成獣、ハインケル君は私の前に立ちふさがり襲い掛かってきた合成獣を殴り飛ばす。
彼らが合流してくれたおかげで何とかここを死守出来ている状態だ。しかし、このままではいずれ押し切られてしまう。そうなればここに居る人々は皆殺しになってしまうことだろう。それだけは何としても避けなければならない。私がそんなことを考えていた時だった――
突然空から降ってきた何かが前線にいた合成獣たちの前に落ちたかと思うとその衝撃で地面が大きく揺れ動いたのだ。何事かと思って見てみるとそこには大きな人影が立っていた。その姿を見て思わず声を上げてしまった。
「アルフォンス君!」
「はぁああああっっ!!!!」
気合と共に繰り出された錬成された鉄拳が合成獣を吹き飛ばしていく。合成獣の逃げ道を塞ぐかのように錬成されるそれはとんでもない速度で錬成されていき、瞬く間に合成獣を押し返してしまう。
合成獣たちが吹き飛ばされた隙間を一台の車が走り抜けて、病院の前で急停車する。突然の出来事にあっけに取られていた軍人たちが、それぞれ武器を車に向ける。
「銃を下ろせ、私たちは味方だ!おぉマルコー先生こいつらに説明してやってくれ」
「ヨキ君!いったいどうしてここまで。みんな彼らは味方だ。今のうちに怪我人を運んでくれ」
私は銃を構えていた軍人たちに説明する。まさかこんなところで会うことになるなんて、それにその服装はいったい……。
「うぉっほん!私は先ほど大総統が演説で話していた直属部隊のヨキ中尉である。この病院に街中の合成獣たちが進撃している。錬金術が使えない現状で奴らに対抗するには、合成獣人間たちと唯一錬金術が使えるこのアルフォンス・エルリックを中心として戦うほかない。このメンバーを中心に他の軍人はサポートに当たれ!」
車から降りててきぱきと指示を出し始めるヨキ君。彼の言う通り今の状況で合成獣に対抗しうる戦力は私たちだけだ。そして、合成獣と戦えるのも錬金術が使える私を除けば彼しか居ないだろう。
「なぁアルフォンス、なんであのおっさん軍服着て軍人の振りなんかしてるんだ。けっこう板についてるし」
「元軍人だったみたい。その時に僕たちと会ってたらしいんだけど全然覚えてないんだ。色々あってここまで一緒に来たんだけど、汚職で首になったから本職の軍人さんの近くにあまりいるわけにもいかなくて、僕たちに着いてきた方がましだったみたいだよ」
ヤマアラシの合成獣のザンパノ君がアルフォンス君に尋ねると、彼は答えてくれた。
理由はどうあれ、ここまで共に戦ってきた彼がこうやって手を貸してくれることは心強い限りだ。
「おいおい、こりゃいったいどうなってるんだ。突然病院が壁で囲まれたと思ったら次は何の騒ぎだ」
安全が確保できたのがわかったのか、病院からノックス先生と数人の医者が負傷した軍人を病院に運ぶために出てきた。
「ノックス先生お久しぶりです。それよりもマルコーさん、これを見てください!」
アルフォンス君が鎧の中から取り出したのはセントラルの地図。そこにはペンで走り書きされた印とそれらを繋ぐ線が。
「この四つの丸はテロリストが合成獣たちに壊滅させられた地点です。そして最後に残ったこの病院を線で結ぶと……」
まさか……これは賢者の石の錬成陣!?
「いやまてよ、以前タッカー君が送ってくれた資料にはクセルクセスの規模では人柱を使わなくても国丸ごと賢者の石に錬成できたと聞く。まさか奴らは国土錬成陣を起動する前にセントラルで賢者の石を作るつもりか!」
「そうです。この病院で多くの死者が出てしまったら、それで錬成陣が完成してしまう。そうしたら地下にいる兄さんたちもきっと無事では済まされない」
そんなことをさせるわけにはいかない。ここが私たちの正念場になるだろう。
『アルフォンス』
父親からシン国式の錬金術を教わったのでお父様の錬金術封じの中でも錬成が出来る。
『マルコー』
今作ではイシュヴァールの民と共に一足先にセントラル入り。数少ない医療錬成が出来る医者として避難所で医者として戦う。なおタッカーの集めた資料とメイの教えでシン国式の錬成が出来るようになっている。
『ノックス』
家族と共に避難所で戦う医者。マスタングからセントラルが戦場になる可能性を聞いていたが自らの過去と家族の思いを背負って避難所にいち早く駆けつける。
内戦の経験もあり医療スタッフや患者を一喝し混乱する病院をいち早く立ち直す。
運ばれてくる患者にはテロに加担した者もいるのだが、そんな彼らと軍人の軋轢も双方を怒鳴りつけ鎮圧するすごい人。曰く医者の前で軍人もテロリストも患者には変わりないらしい。
『合成獣人間たち』
野生の勘で地上に飽和する合成獣たちの動きを察知して地上組に合流。合成獣人形たちと戦える数少ない戦力。合成獣ではあるが完全に味方として見られている。
『ヨキ』
正規の軍人ばかりのラジオ局にいると自分が偽軍人だとばれる可能性がありヒヤヒヤ。一応自分の立場を保証してくれるキンブリーとアルフォンスが避難所に向かってしまうため一緒についてくることに、元軍人で地方とはいえトップをしていた経験があるため偉そうなふりは得意。マルコーや合成獣人間たちとも面識があるため周りは大総統直属の特命を受けた軍人だと誰も疑わない。
『タッカー&キンブリー&バリー』
途中まで一緒にいたが錬金術が封じられてから別行動。
『セントラル錬成陣』
セントラル広範囲に刻まれた賢者の石の錬成陣。規模がクセルクセスよりも小さく人柱なしでも発動可能。血の印もおびき出されたテロリストたちで刻まれており、避難所に指定された病院も印を刻むのに都合がいい場所を指定されている。
錬成陣は地下に張り巡らされたトンネルを使用、トンネルはここ数カ月のうちにお父様とスロウスが作り上げる。
『テロリスト』
反ブラッドレイ政権の過激派たち、武装決起によって国を変えることを望む人々。
しかしセントラル錬成陣のためにブラッドレイにコントロールされているのを気が付かず、血の印を刻む場所に誘導されてしまう。
血の印は合成獣では刻めず、統率された軍人では指定の場所に確実に印を刻めない可能性があったため選ばれた。(実はヒューズはラジオ局襲撃の段階で錬成陣に気付いていたので、彼らがいなければ指示で血の印を刻ませないようにすることも出来た)
彼らへの仕込みはブラッドレイとラストが担当。