【完結】俺は綴命の錬金術師   作:発火雨

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遅くなって申し訳ない。詳しくは活動報告で。
今お薬飲んで仕事休んでだいぶ回復しました。ご心配おかけしました。
健康第一で少しづつ進めていこうと思います。
感想の返信も再開しますよ。


優秀な科学者とは

「ふむふむ、どうやら合成獣人形たちには荷が重いようだな。まぁ無理もない、所詮出来そこないたちの再利用だからな」

 

 アメストリス国立病院を見渡せる時計台の上から、イヤらしい笑みを浮かべ戦況を見つめる男が一人。白衣を身にまとい、口から金歯をちらつかせながら男は高笑いをする。その男の傍らには、屈強な軍人たちが控える。しかし表情に生気はなく、まるでマネキンのようにただそこに立ち尽くしていた。

 

「予備戦力が必要な頃合いだろう。所詮出来そこないの合成獣に、科学の価値がわからぬ軍人。はじめから期待などしていなかったからな。やはり私が作り出したこいつらがあの方の計画には必要であったな」

 

「こんなところで高みの見物とは、あまりいい趣味とは言えませんねぇ」

 

 屋上のドアからゆっくりと顔出すキンブリーとバリーの二人。

 

「おや、キンブリー君にタッカー氏が創り出した合成獣じゃないか。二人だけでこんなところに何をしに来たのだね?」

 

 金歯の男の前に陣取るキンブリーとバリーを視界に入れているはずなのに、周りの軍人たちは顔色一つ変えず、それどころか武器すらも構えない。まるで二人も脅威と見ていないかのように、いや、二人を認識出来ているかも怪しいほどに不気味に立ち尽くしている。

 街中が戦場と化し、そこかしこで音が鳴り響き悲鳴が上がる中、この場だけが静寂に包まれていた。そんな異様な雰囲気の中、キンブリーはいつも通りひょうひょうとした態度を崩さず、バリーは完全に戦闘モードなのか口調も元のままになっている。

 

「決まってんだろ、高みの見物決め込んでるバカがいるってお空を飛び回ってる相棒が教えてくれたのよ。こんなとこでのんびりしてる奴なんて、この事件の黒幕かそれに近い悪党って相場が決まってんだろ」

 

 バリーが巨大な包丁を金歯の男に向けながら話すも、誰一人動かない。

 

「あぁ、先ほどから上空を飛び回ってる合成獣たちか。あの程度の合成獣たちの運用としてはそれが限界だろう。それに比べて君はそれなりに評価してやってもいい。私が創り出したブラッドレイの劣化品でしかないが、少ない素材で再現したことと、戦闘におけるコンセプトの目の付け所も悪くない」

 

「おや、よろしかったのですか?大総統が創られたホムンクルスだと自供してしまって」

 

「問題ないとも。あれは私の最高傑作だった。しかしただの人形にしては少々自我を持ちすぎてしまってね、ただの盤上のコマに感情など無駄なだけだ。見たまえ、周囲にいるこいつらは元々はブラッドレイの成りそこないでしかなかったが、私が新たに生まれ変わらせた。ホムンクルスでこそないが集団での戦闘能力は間違いなくこの世界最高峰の究極の合成獣たちだ!」

 

 金歯の男が両手を広げると同時に周囲の軍人たちが一斉に異形の姿へと変貌する。その姿形は様々だが共通していることは全員が全員、目が虚ろであることだろうか。そして何より恐ろしいことに、キンブリーとバリーの人間としての本能が告げてくる。今目の前にいる連中は今まで出会ったどの合成獣たちよりも圧倒的な存在感を放っている規格外の存在なのだと。それでもなお二人は一歩たりとも引くことなく対峙し続ける。

 

 そんな二人の覚悟を感じ取ったのか金歯の男は不敵に笑いながら声を掛けてくる。

 

「どうかね、私が創り出した新たなる合成獣たちは。表の世界でお情けで権威などと持ち上げられたタッカー氏が創るものとも違う、軍で違法に研究してきた合成獣部隊とも違う。かつての最強のホムンクルス、ブラッドレイを創り出した私が新たなる合成獣の可能性を発見して生み出したものだ!」

 

 自分の生み出した合成獣たちに絶対の自信があるのだろう。金歯の男の声には歓喜の色さえ感じ取れる。バリーはその言葉を聞きながらも、男の言葉に耳を傾けることなく周囲を見渡す。キンブリーもまた周囲を見渡しながら指先を遊ばせている。

 

「なるほど、大層ご自身の合成獣生成の技量に自信がおありのようだ。これは学術的興味としてお聞きしたいのですが、この合成獣たちは何時ごろから準備し始めたのですか?私が知る軍の合成獣研究や、タッカー氏の研究の段階では恐らく計画してなかったのでしょう?」

 

 金歯の男はにやりと笑いながら、ぱちぱちと拍手を始める。その表情から察せられるのはこの質問を待ち望んでいたということなのであろう。

 

「素晴らしいなキンブリー君。その通り、正直なところ私の研究は一通り完成してしまっていてね。後は約束の日に至るまでの準備を進めるだけだったんだが、表と裏で合成獣が注目を浴び始めたのをきっかけに研究内容を見ていたらインスピレーションが湧いてね。試したら予想以上に上手く進んだよ。使えない研究者や軍人がこの国に多かったおかげで、使いつぶせる材料が大量に手に入ったのもあるがね」

 

 金歯の男の表情からは罪悪感など微塵も感じることはなく、むしろ実験動物を眺めるような目でバリーを見つめている。バリーは男の話を聞いて、怒りに震えていた。

 

「ざっけんな!そりゃ禁忌犯して違法なことに手を染めりゃ、楽で手っ取り早く結果を出せるだろうよ」

 

「やれやれ、何も知らない奴らはこれだから困る。人類の進歩は倫理に囚われては進まないのだよ。人体実験程度で怒るのは科学者以外の人種だけだよ」

 

 呆れたように首を左右に振りながらため息をつく。そんな態度を見てますますバリーの怒りは増していくばかりである。

 

「そりゃ俺様は殺人鬼だし、鎧になるのもこの体になるのも自ら進んで決めたことだ。だがな、テメェみてぇな他人の命を弄んで自分は優秀ですみたいにしてる奴は胸糞わりぃ!」

 

「私の優秀さは結果がすべて証明しているさ。この国でこれ以上の合成獣を創れる錬金術師は私以外にいないだろう。命を弄ぶ?君のその体だって命を弄んで辿り着いた結果なのではないかね?禁忌も犯さず、人体実験すらしない臆病者のタッカー氏が創り出したにしては上出来な結果だろう。仮にも私と同じ科学者の端くれだったというわけだ」

 

「あんたとタッカー先生を一緒にすんじゃねぇぞ」

 

「同じだよ、そこに可能性があったから試さずにいられなかった。それが科学者という者だ」

 

「あんたや軍の研究者たち見ててよぉく分かった。合成獣の権威ってのは間違いなくタッカー先生で決まりだな」

 

 そう言いながらバリーは包丁を構えなおし、臨戦態勢を取る。キンブリーは相変わらず余裕の笑みを浮かべたまま、人差し指を動かしながらバリーに話しかける。

 

「そろそろいいですかバリーさん。別に私たちは合成獣の性能テストに付き合いに来たんではないんですよ。それに、優れているという話ならあなたがタッカーさんの合成獣学の権威たらしめる結果といってもよいのではないですかね?」

 

 その言葉を聞いた金歯の男は、不愉快そうな顔をしながらも、キンブリーに対して返事をする。

 

「それで、どうするのかね。私の創り出した合成獣たちの性能テストにすら君たち二人では役者が足りないと思うがね。錬金術が使えない錬金術師に、私の合成獣の劣化品ではね。まぁ、せっかくここまで来たんだ。せめてもの情けで、君たちが死なない程度に相手をしてあげようじゃないか。私が意義ある存在に生まれ変わらせてあげよう」

 

「そうですね、そろそろ頃合いでしょうし、頼みましたよバリーさん」

 

「おうよ、任せときな!」

 

 金歯の男が指令を出す前に、バリーがキンブリーを抱えて時計台から飛び降りる。予想外の一瞬の出来事に金歯の男の思考が停止すると、次の瞬間時計台の上部が大爆発を起こす。まるで空間ごと抉り取られたかのようだった。

 

 バリーがキンブリーを抱えたまま、地面へと着地すると楽しそうな笑い声が止まらなくなってしまう。

 

「ひゃひゃひゃ、大成功だなキンブリーの旦那。規模とタイミング、それに俺たちの脱出まで完璧な爆発だったぜ!俺が時間稼ぎして、旦那が作った特製爆弾で一網打尽大作戦は見事成功だな!」

 

「えぇ、頭でっかちで戦場を知らない三流錬金術師で助かりましたよ。いくら戦闘力が高くて完璧に指示を遂行できても、自分の判断で主を守ることも出来ないなんてね。あんな合成獣のどこが素晴らしいんでしょうか?私の指示通りに完璧に時計台に爆弾を設置してくれた、タッカーさんの合成獣の方がずっと役に立ちますね」

 

 金歯の男の敗因は、三人を見下していたことだろう。

 状況把握に長け、人間離れした身体能力とそれを使いこなす度胸を持つバリー・ザ・チョッパー。

 爆発物のスペシャリストで、既存の爆発物を組み合わせ、建物のどこをどのタイミングで爆破することで効果的に対象を吹き飛ばせるか熟知してるゾルフ・J・キンブリー。

 大量の爆破物と建物の構造を理解し、指示があった場所に確実に設置し爆破のタイミングまで合わせることが出来る合成獣を用意できるショウ・タッカー。

 

「二人とも無事かい?合成獣たちの脱出の時間まで稼いでくれてすまなかったねキンブリー。おかげでこちら側の被害はゼロだよ」

 

「いえいえ、タッカーさんの読み通りでしたよ。金歯の錬金術師が用意した合成獣たちは思考の柔軟性に問題があるとね。ヒューズ中佐が発見したわずかな情報から欠点を当てるとは、さすがは合成獣学の権威」

 

 もちろんこれは金歯の男が発見され、それに付き従う軍人を見た時から、きっと素材はブラッドレイ候補たちであるとあたりを付けるいわば原作知識有のカンニングなのだが、無論周りはこんなことを理解するはずもない。

 

「おうよ、さすがだぜ先生!さてさて、罠に嵌めたせいで、全然切り刻めてないからな、さっさとアルフォンスの方に行っておかわりしてくるか!」

 

「あの爆発でこっちの仕事が終わったことは向こうも気づいてるでしょうからね。正直私とタッカーさんは戦力になりませんが、アルフォンス君の彼女のマーゴットさんなら一騎当千の活躍が出来るのでは?」

 

「あらら、彼氏君が私が来るのを首を長くして待ってるのね。待たせすぎる女は嫌われちゃうわ」

 

 相性がいいのか、軽口をたたきあう殺人鬼と爆破マニア。その横で乾いた笑い声をあげる中年の錬金術師と付き従う合成獣の群れ。

 彼らの次の目的地へと移動する。なお勘のいいアルフォンス君はバリーとキンブリーが調子に乗って、また自分に多くの誤解が付きまとうことを時計台の爆破を見て感じ取ったという。




『金歯医師』

ブラッドレイを創り出した錬金術師。無論錬金術師としての腕は国内トップクラスで、創り出した合成獣たちもひとたび命令すれば集団で命令を完璧にこなそうとする殺人マシーンとしては驚異的。ただ、指示を出す人間の想像力が欠如しているとどんな道具でも使いこなすことはできない。

『ブラッドレイ候補たちの合成獣』

単純な戦闘力なら一人一人がスカーにやや劣るくらい、しかし恐怖を感じず指示を集団でこなすことが最大の武器。集団戦なら原作の地下組を簡単にねじ伏せるくらいには手強い。しかし完璧な命令を与えられなければ完璧に動くことが出来ないという欠点を持つ。

『バリー』

見た目の美しさ、その奥に隠された戦闘力で騙されてはいけない。それらはあくまでも殺人鬼バリーの真の狡猾さをより際立たせる見せ札なのだ。

『キンブリー』

錬金術が使えなくてもその知識と情熱に一点の曇りなし。わざわざ自分も金歯医師の前に姿を見せたのは正確な位置を把握するため、指先で空飛ぶ合成獣に指示を出し細かい微調整を命令してた。

『タッカーさん』

合成獣たちに指示を出したり、合成獣の指示を受け取ったりと中継に徹する。完全に裏方なのだが、同僚たちが裏方をきちんと評価してくれてるので、爆破魔と殺人鬼の好感度がかなり高くなっている。

『合成獣学の権威』

ご存じタッカーさんのこと、この呼び名がしっくりきてないのは味方では当の本人だけ。奥さん自慢の旦那で、ニーナの大好きなお父さん。アレキサンダーの誇れる飼い主に相応しい称号である。、
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