待ってくれていた皆様、ありがとうございます。
俺の名前はショウ・タッカー。もうやることが無い、というか出来ることが無い錬金術師だ。
それもそのはず。バリーの治療も済んだあとは戦力的に出来ることは無いし、合成獣人形たちの進撃も落ち着いてきたから戦闘できない人間はすることないのよね。一応病院にはまだまだ怪我人がいるし、お手伝いしようかなとも思ったんだけど。俺が作った合成獣たちが周囲の警戒や情報を集めてきてくれるから、何かあった時のために待機しておかないといけない。
「よっしゃ!バリー様完全復活、まだまだぶった切り足りねぇぜ。アルフォンス、特大の人切り包丁も頼むぜ」
「はいはい、今すぐ錬金するから」
でもこれからが大変だ。なんたって残す敵の戦力は大総統とラスト、そしてお父様といった最大級の難敵が待ち構える。ラストはシン組が何とかして見せるって言ってくれてたけど、この局面まで来て姿を現さない大総統が不気味過ぎる。
「えっ!?」
「なんだ、どうしたアルフォンス?」
アル君が突如声を上げると、両手を合わせ病院の床から特大の包丁を錬金する。
「タッカーさん、今賢者の石を使わないでもアメストリス式の錬金術が使えた。スカーたちがやったんだ!」
「おぉ、傷のあんちゃんたちもやりやがったな!」
えっ、マジで!?スカーたち逆転の錬成陣の発動に成功したのか。いや、むちゃくちゃいいことだけどなんか上手いこと進み過ぎてない?運がいい時は怖い時って言うけど、あまりにもこちら側に有利な展開過ぎる気がする。勿論そのためにみんなで色々準備してきたわけだけど、あまりに展開がスムーズで早いし、逆に不安になってくる。
「おやおや、どうやら錬金術が使えるようになったみたいですね。これでようやく私も気兼ねなく爆破ができますよ」
いつの間にか部屋の入り口に立っていたキンブリーが、自身の両手を見つめながらうずうずと手を握り締めている。いや、ここで何か爆発物にしないでよね、普通に危ないから。ってかなんで二人とも感覚でわかるんだ。やっぱり一流の錬金術師は感覚でそういう環境の変化にも敏感なのかな。俺全然何にもわからんし、何なら今も実感湧いてないよ。
「しかし、あまりにも敵の行動に一体感がありません。なぜスカーたちの錬成陣を妨害してないのでしょうか?」
「そうなんだ、お父様はホーエンハイムさんが、ラストはシン国の三人が足止めしてるとしても、フリーのはずの大総統がなにもしないでスカーの錬成陣が通るのは都合が良すぎる」
やっぱりなんかおかしい気がする。なんだろう、俺たちは何か見落としてるのかもしれない。俺の頭じゃ全然それが何か思いつかないけど。
「タッカー君にアルフォンス君、すまないが少しいいだろうか?」
「マルコーさん、もしかして錬金術が使える様になったことですか」
「あぁ、さっきまで錬丹術で治療をしてきたのだが、急に張りつめていた空気が緩まったような気がしてね。試しに錬金術を試してみたら今まで以上の出力で発動できるようになっていてね。相談に来たんだ」
あっ、やっぱり一流の人たちは肌で感じてたんだ。俺全然わからんわ。
「たしかに、順調すぎて怪しいですね。ヨキさん、ヒューズ中佐に状況の確認をお願いします」
ヨキさん居たんだ。マルコーさんの後ろに隠れてたから全然気づかなかった。
「そういやよ、あのスロウスって奴を切り刻んだ時によ、セントラルの地図に錬成陣見てぇなのを書き足したメモを一瞬見たんだが、錬金術師ならなんかわかるか?」
近くの地図にペンで線を書き足していくバリー。それはセントラル市街地を丸で囲み、中心部から外側へ四方八方に直線が伸びている図だ。
「すごいやバリー、まさか戦闘中の一瞬でこれを見て覚えたの!?」
「おう、褒めろ惚れろ!俺様の鷹の目と記憶力があればこのくらいちょろいもんよ」
「セントラル版賢者の石の錬成陣に妙な線が足されてるね。いや、錬成陣かどうかも怪しい気がするけど」
「こんなもの錬成陣に大掛かりに書き足したら不安定になって発動しなくなる。この直線は何か違う物を意味してるのではないか?」
「いえ、私が先ほど見てきた限りでは地下のトンネルは円を貫通するようにトンネルが掘ってありましたよ」
錬金術が使えないはずのキンブリーの姿がしばらく見えないと思ったら地下の確認をしてたのか。本人曰く、スロウスが使ったと思われる大きめの穴が地面に空いてたから、爆弾設置に使った合成獣たちを引き連れて様子を見に行ったらしい。
「タッカーさんからお借りしたこの子たちは優秀でしたよ。全部を確認したわけではないですが、恐らくこの図の通りの直線と円が同じ高さで掘られていると思いますよ」
「他に何か変わったことは無かったかね?私はこの中でも賢者の石の錬成陣には詳しい筈だが、これを書き足すメリットが思いつかん。むしろエネルギーが上手く円を循環しなくなるから賢者の石が作れなくなってしまう」
「専門家のドクターマルコーが言うならそうなのでしょう……。そうそう、奇妙な点が一つ。これらのトンネルは地下をくり抜いただけではなく、きちんと鉄で綺麗に舗装されていました。地下水路よりも丁寧に覆われていて通路自体も綺麗な円形に整えられていました。私がブリッグズで見たトンネルとは雲泥の差ですよ」
完璧に作られた地下トンネル。いつから用意したのかわからないけど、急遽作ったって訳じゃなさそうだ。そりゃ正確で丁寧な陣を描けるならそのほうがいいだろうけど、そんなことにわざわざリソースを割くだろうか。そもそもセントラルに賢者の石の錬成陣を刻むこと自体当初の予定ではなかったはずなのに……。
「おぉい、電話回線毎持ってきてやったぞ」
「何が持ってきてやったぞだ、俺たちが全部運んで来たんじゃねぇか!」
ヨキさんと合成獣人間のみんなも集まって来た。慣れた手つきで電話をセットしてヒューズ中佐に繋ぐ。
『みんな聞こえてるか、まず初めの報告だがセリム・ブラッドレイは夫人に付きっ切りで大人しくしてる。大総統本人はテロの鎮圧をし終わった後部隊の編制をし始めて中央にも病院方面にも向かう気配がない』
こちらはスロウスを撃破したことを伝えると、電話の向こうのヒューズさんもこの状況を訝しむ。
『妙だな、これまで相手にするのが面倒くさかった大総統が打つ手にしては温すぎる。それとセントラル司令部に突撃したアームストロング少将が将校の一人が隠してた変な本を発見してな。ハスキソンって奴が書いた怪奇小説なんだが、もしかして偽装した錬金術の研究書なんじゃねぇかって話だ。軍の裏帳簿と一緒に隠してあったらしいから重要なもんだと思うんだが』
ハスキソンって誰だ?全然聞いたことない名前だな……少なくても生態錬成界隈では聞かない錬金術師だ。
「ハスキソン?たしか錬金術師ではなく、専門は物理学者のはずですよ。新型爆弾とそれの要となる新たな元素を発見したとして論文を出してます。かなり高威力な爆破を可能とするようで、いつか私も試してみたいと思ってました」
「そんなすげぇ爆弾があるならキンブリーの旦那はとっくの前に試してるんじゃねぇのか?」
「新たな元素を発見したと言ったでしょ、それを利用した物で私も実物を見てないので錬金術に落とし込めてないのですよ。論文を見たのも出所後で、当の本人は病気で死んでましたし。たしか元素の名は……、そうそうウラニウム」
ウラニウム?ウラニウム、ウラニウム、ウラニウム……、ウラン?そんでもって高威力の爆発……、もしかして。
「それって核分裂で得られるエネルギーを利用した爆弾じゃないですか!?」
「おや、タッカーさんもご存知でしたか。えぇ、ウラニウムと呼ばれる元素が核分裂した時の膨大なエネルギーを利用した爆弾のようですが、まだウラニウムも研究が不十分で、因果関係は不明ですが発掘に関わった作業員もハスキソンさんと同じような病気で大量に亡くなってるはずです」
それって核爆弾だよな……、そういえば確か映画『シャンバラを征く者』の冒頭で核爆弾を作った科学者のせいで現実世界への扉が開いて……。膨大なエネルギー?扉が開く?いやでも、それじゃこの錬成陣に不自然に足された線の説明にならない。
「新しいエネルギーを生み出す……、もしかしてそれって賢者の石の代わりに使えるんじゃ!」
「いえ、膨大と言っても基本は熱エネルギーですので、爆破以外ですと発電機を動かすのに出来そうですが、賢者の石の代わりにはならないかと」
アル君の発言をすぐに否定するキンブリー。そうだよな核爆弾じゃ賢者の石の代わりにはならない。賢者の石の代わり?お父様の目的は真理の扉を開くこと……。つまり賢者の石は過程であり、必ずしも必要ない?
「いや待ってくれ。アルフォンスの考えた賢者の石の代わりって発想から考えたら、この錬成陣もそもそも賢者の石を作るためのもんじゃねぇんじゃねぇか?」
「ばか、今まで何のために病院命がけで守って来たと思ってんだ」
バリーに対してヨキが食い掛かるが。
『おい、ちょっと待て、発想を逆転させると筋が通る。そもそも円を描くようにセントラルにトンネルが掘られてて、賢者の石の錬成陣を作るために必要なポイントで血の印が結ばれてるだけだ。これが賢者の石を作る錬成陣だって確定したわけじゃねぇ』
「ここにいる錬金術師は賢者の石の製法も、国土錬成陣に対しても知り過ぎている。知り過ぎてるがゆえに不自然に人が集められ、合成獣人形たちが血を刻んだことに意味を当てはめた。そしてたまたま残された病院に釘付けにされている」
ヒューズさんが自分で提唱した案を疑い、マルコーさんが歩いてきたレールを分析し始める。
たぶん何か重要なことを見逃してた。セリムが夫人と一緒に居て戦わない意味、大総統がこちらに来ない意味。賢者の石を新たに作らない理由。すでにある分で足りている?扉は別の方法で開く?でも核分裂では足りない、もっと膨大なエネルギーが必要だ。それを可能にするための整えられた円状のトンネルに、直線上で中心部から四方に伸びている直線……。
「あっ!?」
もしかしてもしかすると、これはこの世界の人たちの技術力じゃ気が付けない領域なんじゃないだろうか。もっと先の、それこそ俺が知る現代科学の領域。SF創作なんかで名前は聞いたことあるけど、錬金術と賢者の石の力があれば実現可能なのか!?
「タッカーさん、何かわかったんですか」
「私も専門じゃないから自信はないけどね、この国で原子を加速させる技術ってどの程度あるのかな?」
「先ほど名前が出たハスキソンさんの論文で原子の加速に対しての考察や実験の結果がいくつかまとめられてました」
『確かに軍の研究費のほとんどは錬金術関係が持ってっちまうが、ここ数年加速器って奴の研究のために別計上で予算が下りてたはずだ。ただ結果の報告もなけりゃ開発した実物もないから汚職のためのダミーだと思ってたが、研究自体はされてたってのか!』
たまたま俺に前世の記憶があるから知識があってたどり着いた答え。もしこれを一からお父様がたどり着いたとしたら歴史を変える所じゃない。とんでもないこと敵さんがしてくれちゃってるぞ。
「たぶん、ホムンクルスたちの狙いは……」
三ヵ月更新が止まった理由は
①夏の暑さにやられてた
②合間に始めた新連載の方を進めてた
③当初のプロット破城したので組み直してた
などなどです。
『ハスキソン』
シャンバラを征く者に登場する物理学者。錬金術のせいで国から冷遇されたと思い込んでいるが、錬金術師としてもかなりの心得がある。
この世界では未発見だった新種の元素にウラニウムと名付け、その力を利用した新型爆弾を軍に売り込む。
この新型爆弾が劇場版の始まりになるのだが今作では、ホムンクルスサイドが様々が研究に対して寛容になり、錬金術以外の科学にも興味を持ったため、新発見の元素が目に留まることになる。
しかし度重なる研究ですでに体は放射能に蝕まれており、論文をまとめたのちにウラニウム発掘に携わった人々と同じ運命をたどる。
錬金術以外が生み出すエネルギーという発想はお父様に新たな知恵をもたらした。
『シャンバラを征く者』
記念すべき劇場版鋼の錬金術師第一作目。
03年版のアニメの続編で、その終わり方には賛否両論ある。
決してハッピーエンドでは終わらないが、それがまた旧アニメらしいのかもしれない。
興業的にはアニメ映画としては成功しており、『日本のメディア芸術100選』では2000年代アニメ映画部門で第5位に選ばれた。
後の劇場版第二弾、『嘆きの丘の聖なる星』は興行収入6億5400万にたいし、『シャンバラを征く者』は興行収入13億を記録している。