【完結】俺は綴命の錬金術師   作:発火雨

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まずは一言、ただいまです。

三か月の次は半年もスパンが開いてしまい申し訳ない。
その間に、ハガモバもサービス終了が決定してしまうし、時の流れが速いです。
今回も期間が開いたので、文章の書き癖が変わってしまっていますがご了承ください。
期間が空いて、書き癖が変わったこともそうなのですが、あまりにも多くの方が期待してくださってるという事実に、ビビッて中々まとめに入れなかったのです。

言い訳も見苦しいですし、この辺りはさっとスルーしてくださいな。

そしてそんな作品にも関わらず、変わらず感想を頂けることに感謝しかありません。


真理の扉

「反物質?」

「あぁ、ワタシが新たに発見し、名付けた物質だ。原子を加速させることで生み出したそれは、物質と触れ合うと互いに消滅してしまうのだが、その時、強大なエネルギーを生み出す」

 

 両手を広げ腕を動かすと、この部屋一面を錬成反応が覆いつくす。

 

「何をしでかすつもりだ!」

「邪魔しない方がいいぞ、今から行うのはこの部屋の保護だ。お互い五体満足に生きていたいだろう?」

 

 部屋の中心部にフラスコが収まりそうな小さな穴が開くと、その周りを覆いつくすようにガラスが壁のように覆い隠す。

 まるでそれ自体が試験管のようにも見える。

 ガラスには錬成陣が刻まれ、赤く輝く模様は胎動するように点滅を繰り返す。

 

「エド、俺のそばに寄れ! 何かわからんが周囲のトンネル内でとてつもないことが起きてるようだぞ!」

「よし、何があってもお前を盾にしてやるからな、しっかり守れよ」

「いや、守るつもりだけどそう言われたらなんか傷つくな……」

 

 ホーエンハイムがエドを心配するや否や、すぐさま後ろに陣取り、いつでも父親を盾にする準備を終えるエド。

 そんな息子の乱暴な言い草にへこみながらも、周囲への警戒は怠らず、その目はお父様を見据えている。

 

「口は悪いがいい息子だな。お前の背中からいつでも飛び出して、お前を守るつもりだぞ」

「うるせぇ! くそ親父よりも先にお前を殴りたいだけだかんな」

 

 笑いながら不器用な親子関係を見つめるお父様。

 先ほどの交戦とは一転、地に足を付け時折指先を細かく動かし、何かのコントロールを必死にしている。

 よほど集中する作業なのだろう。その額には薄っすらと汗がにじみ、呼吸も次第に荒くなり始める。

 

「なぁ、今何が起こってるんだ?」

「俺の中の賢者の石が、セントラル一帯に大きなエネルギーの動き……。いや、これは巨大な何かのうねりを感じてる」

「やばそうか?」

「今下手に攻撃してコントロールを失えばどうなるかわからん」

 

 数分続いた頃だろうか? おもむろにお父様の手が止まり、大きく深呼吸をしながらゆっくりと目をつぶる。

 そして、作り出されたガラスの円柱に手を触れると、穴の中から黒い物質が反り上がってくる。

 

「邪魔をしないでいたのは正解だ。一度起動した粒子加速器を途中で乱暴に止めればこの国は更地になっていただろう。昔ワタシの実験を途中で止めて手痛い目に合ったのを覚えていたようだな、ホーエンハイム」

「あの頃は若かったからな。もっとも、そのおかげで国土錬成陣を止めることが出来なかったのだから皮肉なものだ」

 

 手に触れたガラスの円柱を指先で円を描くようになぞると、ガラスは形を変え、黒い物質はお父様の手に宿る。

 それを見るホーエンハイムは遥か昔、まだフラスコの小人と友人であった日を思い出す。

 奴隷として錬金術の実験に参加し、フラスコの中に生まれた生命体と出会った日を。

 

「これが反物質だ。物質と触れ合うと二つの存在は消滅をし合い、すさまじいエネルギーを生み出す。このセントラルの地下全体を利用した粒子加速器によって生まれたこれは、扉を開くのに十分な力を秘めている」

「国土錬成陣はフェイクで、そっちが本命か?」

「あぁ、といっても計画を変更したのはここ数年だ。始まりはハスキソンという学者が発見した新種の元素だ」

 

 息子であるキング・ブラッドレイの政権下で行われた国家錬金術師たちの報告する研究成果。

 その予算の多くはホムンクルスたちの活動資金源となり、いわゆる裏金となるのだが、対立するマスタング派閥のせいであまり派手な動きは出来なくなった。

 新たな隠れ蓑として作られた国家錬金術師以外の学者への研究資金の援助、もちろん多くは裏金に繋がるのだが、表向きの実績のために何人か選ばれた学者たちがいる。

 ハスキソンと呼ばれる男はその中の一人で、この男は見事新種の元素を発見し、お父様に新たな知見を授けるに至った。

 

「今ワタシの手の中に納まるこの質量で、この国を更地に変えることが出来る。これがあれば扉の向こう側の世界へと旅立てる」

「扉の向こうに旅立つ?」

 

 エドの言葉にお父様は目を細め、ゆっくりとホーエンハイムよりも皺の刻まれた顔で語りだす。

 

「ワタシは愚かな人間たちを管理し、いずれ神へと至る。しかし、これはあくまで一つの通過点にすぎず、ワタシの目標とする物事の本質ではない」

 

 ホーエンハイムは言葉を静かに聞きながら、その目は鋭くお父様を射抜く。

 

「ワタシは知りたいのだよ、この世のすべてを。自由に、広い世界を何者にも縛られずにな」

「フラスコの中にいた時と同じだな。その願いは叶ったんじゃないのか?」

「違うのだよ、ホーエンハイム。フラスコから出たワタシは、切り離した感情、つまりは子供たちが月日を重ね変化していくの見て悟ったのだ。まだワタシは真の意味でフラスコから出てなどいない、いまだ囚われているのだと」

 

 お父様とは、いや、フラスコの小人とはいったいどこから現れたのか。

 

「ワタシは真理の扉から生まれ落ちた一部なのだ。真理とは全にして一、フラスコを抜け出した先にも真理が付きまとう以上、巨大なフラスコの中で足掻いているにすぎん」

 

 意を決した表情を見せたと同時に、己の胸の中に反物質を勢いよく貫くフラスコの中の小人。

 その瞬間、フラスコの小人を中心に部屋全体に駆け巡る錬成反応、胎動が周囲を支配する。

 フラスコの小人の体が徐々に膨張し大きくなっていく。

 

「真理の力を得ることを一時は考えていたが、ワタシが望むのはその向こう。真理の扉のさらに向こう側なのだ」

 

 今度は体が徐々に小さくなっていく、元の大きさよりも小さく小柄に。

 やがて変化を終えた姿は、若き日のホーエンハイムに、そして今のエドワード・エルリックの面影を宿す。

 

「成功だ。これだけの力があれば扉を開き、向こう側へと旅立てる」

「だぁああ! 何が成功だ、自分の目的くらいさっさと話しやがれ! チビ野郎!」

「お前よくこの状況でキレられるよな、お前とそんなに身長変わらんだろ」

「誰が小人サイズの豆粒じゃコンチクショー!!!」

 

「やれやれ、うちのグリードと似て反抗的だな。それなりの時間をかけて準備したのだ、少しくらい語らせてくれてもいいだろう。だが、これ以上時間をかけすぎてもラースに迷惑をかけてしまう。この国を好きにしていいと約束してしまったからな」

 

 お父様はエドとホーエンハイムを見据えると、再び口を開く。

 

「今日ワタシは世界の真理の扉を開き、その向こう側へ。この世界の真理というフラスコの外へと赴くのだ。そちらの世界で人間たちを管理し、真理を超えた神となる」

 

 手を合わせると、その体を虚空から現れた無数の手が包み込む。

 その正体をエドは知っている。かつて母を求めた、あの日。

 弟の体と自身の一部を失ったあの日、見たものだ。

 

「こいつ、真理の扉を……!」

「今のワタシならセントラルの地下を張り巡らせた陣の中に人柱さえいれば扉を開くことも出来る。すまないがワタシの旅路のために少しばかり力を貸してもらうぞ。それさえ済めば元居た場所に返してやるから、この国の行く末はワタシの子供たちと勝手に決めるがいい」

「まて、今セントラルには真理を見て帰って来た奴は四人しかいないはずだ!?」

 

 エドの疑問はもっともだ。ホムンクルスたちが求めた人柱の人数は五人のはず。

 エドワード、アルフォンス、ホーエンハイム、イズミ。

 仮にセントラルの中に入り込んだだけで発動条件を満たしてしまうとしても、一人足りないはずだ。

 

「人柱の条件もおおよそ察しているのだろう? 錬金術師であること、人体錬成を行い真理を見ていること、そして真理を見た上で無事に生還していることだ。しかし、何事にもそれがすべてではない、揃わなければ別の何かで代用を考えるべきだ。賢者の石が錬金術の代価となったように、賢者の石の代わりに反物質を用意したワタシのように……。ポイントは人柱、ここでいう人とは錬金術を高度に扱える存在を示す」

「そういうことかよ、野郎。何が自分は神じゃねぇだ、自分を人柱の代わりに代用しやがったのか!」

「ふふっ、理解が早いな。私は錬金術を使えるし、真理の扉の一部だったのだ。そして今の姿ならばあらゆることが出来る、人柱一人の代わりなど造作もない」

 

 抵抗するエドやホーエンハイムと違い、すべてを受け入れているフラスコの中の小人の全身を無数の手の影が全身を包み込み、瞳の色だけが赤く輝く。




『鋼の錬金術師 MOBILE』

通称ハガモバ。
2022年8月4日配信開始、2024年3月29日サービス終了予定。
鋼の錬金術師20周年と共に打ち出されたファン待望の新作ゲームであったが、シナリオ最終回を迎えず力尽きた。

実はこの小説を書き始めたのが2023年の元旦なのだが、そのタイミングで作者もプレイを始めた。
正月ランファンには長くお世話になったし、白エド、メイ、フェスアルを絡めた、彼方者勢力のパーティのおかげでほんの少し上位に発火雨の名前を載せることが出来た。

実は感想の中でゲームで私の名前を見かけたとのご報告もあったので、もしかしたらこの小説を読んで頂いている皆様と、どこかで戦ったことがあるやもしれない。

後一月で終わるゲームの話を今更されてもと思うかもしれないが、実は完全新作オリジナルストーリーをフルボイスで収録していたにもかかわらず、ゲーム実装が間に合わなかったせいでボイスドラマとして配信されている。

もちろん声優陣はお馴染みの方々なので、あのキャラボイスで紡ぎだされるお話をまた聞くことが出来る。
オリジナルキャラクターも荒川弘先生デザインで、ある意味貴重な作品。

『反物質』

SF小説などでは時たま出てくる物質。
実際にも研究されているのだが、とりあえずはすごいエネルギーを生み出すものだとフレーバー的に受け止めて頂きたい。
詳しく書きこんでたら作者の脳みそが溶けてしまう。

円状のトンネルや、中心に伸びたいくつもの直線はこれを生み出すための粒子加速器の形状。
わかりやすい例えで言うとエヴァのラミエル相手に使用したポジトロンライフル。
映画、ダ・ヴィンチ・コード天使と悪魔を見て頂けると説明や映像として一番イメージしやすいかもしれない。

『フラスコの中の小人』

真理の扉の一部が意思を持った存在。
そのため真理の扉が持ちえた、その時代の人間には本来持ちえない知識を持ち合わせていた。

真の目的は真理の扉すらも理解できぬその先の知識を得ること。
原作では世界の真理の扉を取り込み神になろうとしたが、今作ではその扉の向こうに渡り、無限の可能性を自らの手で作り出そうとする。

子供たちの影響で成長した上に、人間が見つけた新物質は彼をブレイクスルーのきっかけを与えた。

新たな世界に渡るのだから、こちらの世界は残った子供たちの自由にすればいいとしている。
そのための国の不穏分子の一掃や、残るべき人間たちを選別するための騒動の一面もあった。

神になることは目標の一つだし、向こうの世界で人間を支配し、自らのために管理、利用し続けることに変わりはない。
善意も悪意も持ち合わせているが、その本質はフラスコの外の未知を求める科学者。

『真理の扉』

なにゆえに扉と表現されるのであろうか?
多くの存在には開けたら最後になるし、その向こう側に何があるか誰も知らない。
フラスコの中の小人は、向こう側に別の世界があると仮定している。

その先にあるのは文字通りの自由か、それとも……。
もしも世界があるとしたそれは理想郷になりえるのか?
人はそれをシャングリラと呼ぶかもしれない、ユーロピアと名を付けるかもしれない。
あるいはシャンバラと……。
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