俺は綴命の錬金術師   作:発火雨

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開く扉

 俺の名前はショウ・タッカー。絶対に来ることがないと思っていた真理の扉の前に来てしまった錬金術師である。

 いや、別に自分で人体錬成をしたわけではないんだけどね、その証拠に隣に錬金術なんて使えないはずの合成獣人間のみんなとかビビりまくってるヨキさんとかいるし。

 

「うぉおお、なんだここ!? さっきまで病院の中にいたよな!」

「どこまでも広がる虚構の空間、そして見渡してあるのは巨大な扉のみ。これは噂に聞く真理というものに我々が飲み込まれたのでしょうか?」

「たぶんキンブリーさんの推察通りだろうね、アル君を飲み込んだ無数の手が周りの人たちも掴み始めて、一緒にここに連れてこられたみたい」

 

 病院でみんなが固まってたところ、急にアル君が虚空から現れた無数の黒い手に飲まれて宙に浮き始めた。

 とっさにみんなで浮かび上がるアル君を掴んだのがいけなかったね。

 そのまま真理の扉から出てくるような手に包まれて気づいたらこの空間。

 俺はこんなところに来れるような器じゃないけど、原作知識で知ってるから多分そうなんだろう。

 

「おい、あっちにエドが二人いるぞ。片方は半裸の」

「それだけじゃねぇ、シンの三人組にホムンクルスまで」

 

 ザンパノとジェルソが辺りを警戒しながら、俺たちを守るように前に出た。

 

「おォ、そっち無事だったカ」

「何がどうなっている?」

「あのラストとかいうホムンクルスと戦ってる途中でナ、奴と若が黒い手に突如包まれたのダ。とっさに若の体を掴んだと思ったラ……」

 

 スカーの疑問に答えるのを見るに、ランファンとフーさんも巻き込まれた感じでここに来たみたいだ。

 ってことは人柱とホムンクルスを転移する目的であの手が現れたんだな。

 

「おいおい、敵さんの勢力も勢ぞろいで、こっちのメンツも勢ぞろいだぜ先生」

 

 バリーの言う通り、敵味方総力戦だね。

 こんなことが出来るのはお父様しかいないわけだから、目的はホムンクルスと人柱の呼び出し。

 そしてどういうわけか、転移に引っ付いていけるみたいだから、その場にいた関係者もこの場に紛れ込んでしまったってところだろう。

 

「どうやら我々を一網打尽に処理すると言った雰囲気でもないようですね、おや、マスタング大佐お久しぶりです、あなたはどのホムンクルスと一緒にここに連れてこられたのですか?」

「ヒューズから聞いた時は半信半疑だったが、本当にこちら側にいるようだなキンブリー。私たちはエンヴィーを焼き切り、本体を再度ビンに詰めた。そいつの転移に巻き込まれたんだ」

 

 ふむ、おそらく原作通りメイちゃんビンを持ったまま、ここに来ちゃったんだな。

 それで一度は逃げて合成獣と融合したエンヴィーをマスタング大佐が焼き切ったんだ。

 でも、殺しもしないで瓶詰めにしてるし、エンヴィー自体も自殺してないからところどころ似てるけど、微妙に違う流れみたいだな。

 

「それで、アームストロング少佐はどうやって?」

「吾輩たちはラストと戦っているシン国の面々と合流したのですが、途中ラストとグリードが妙な手に包まれて宙に浮きましてな。姉上はそのままサーベルをラストに突きさし、一緒になって空中に浮かぶので慌てて引き下ろそうと我が筋肉の全身全霊で引っ張り合ったのですが、力及ばずここにたどり着いてしまいました」

 

 我が筋肉が押し負けるとは!!! って悔し涙を流しながらポージング決めてるよ。

 うん、少し落ち着いて来た。

 訳が分からんことになってるけど、周りにみんなが集まってきたおかげだろうか。

 この場だと俺とヨキさんがダントツで弱いどころかお荷物なんだけど、これだけみんなに囲まれたならなんか安心。

 もう俺に出来ることなんて一つもないね、こりゃ。

 

「んで、先生、一体何がどうなってこうなってんだ?」

「これから命がけの戦いが始まるかもしれねぇってのになんでそんなに呑気なんだ?」

「うるせぇ! 俺なんかもうできること何もないだろうが! お前らだって何が起こってるか一ミリも理解できとらんだろ」

「ここまでくると、俺の野生の勘でどうこうって次元じゃなくなってきたわ」

 

 ヨキさんの疑問にダリウスとハインケルの合成獣コンビがツッコミを入れる。

 まぁ、そうだよね。

 なんかよくわからんことになってきてるし、俺に戦闘面で出来ることなど何一つない。

 ここは、この事態の考察とかしながら解説に回ろうか。

 もしかしたら、他の人が何か打開策を思いついたり、何か気づくことがあるかもしれないからね。

 

「これは私の仮説なんだけど、敵の親玉、お父様にとってセントラル版国土錬成陣というのはフェイクで、本当の目的は地下に掘られた円状のトンネルの方だったんだ」

 

 どうしても錬金術を学んでると、円というのを錬成陣を構築する記号だと思い込んでしまう。

 でもそうじゃなくて、この円は粒子加速器という機能を俺たちに悟らせない目的があった。

 賢者の石でトンネル内の磁力をコントロールして、円を回るように粒子が加速し反物質を生み出す。

 そして円の中心に伸びた不自然な直線のトンネルは、作り出した反物質を中心に集めるための物だったんだろう。

 

「その反物質ってのは結局なんなんだ?」

「詳細は省きますが、物質と触れ合うとすべてが消滅するのですよ、その時にとんでもないエネルギーを生み出してね」

 

 ヨキさんの質問にキンブリーが答える。

 どうやらこの空間自体が俺たちによく理解できない物みたいで、お得意の錬金術が使えないために俺たち後方組にしれっと混じってるらしい。

 

「しかし、賢者の石とは別の高エネルギー体というだけで、賢者の石のように錬金術の増幅には使えないのではないですかな?」

 

 アームストロング少佐の言う通り、単純な賢者の石の代替品として生み出されたわけじゃないだろう。

 おそらく、お父様が持っている大量のクセルクセスの賢者の石。

 これで溢れ出るエネルギーを変換してるんだと思う、あの若いエド君そっくりになってるのが多分その証拠かな。

 

「簡単にまとめると、賢者の石と反物質の二つでものすごい力を得たのがあっちのエド君そっくりのお父様ってことさ」

「ホーエンハイムさんの話通りなら、その力でこの世界の真理の門を自分の中に降ろすということでしょうか?」

 

 俺の簡単な説明に、キンブリーが合いの手を入れてくる。

 事前に知らされてた話ならそうだったんだろうけど。

 

「いや、たぶん違うんじゃないかな。呼ばれたのは人柱から察するに日食に合わせて扉を出現させるのは合ってると思うんだ。でもあれだけの力を得てさらに扉を飲み込むってのは少し考えにくいな」

 

 本来だったら世界の真理の扉の力を取り込んで、あの若返った姿になるんだけど、なんかもうその段階は終わってるみたいなんだよね。

 ってことはその力で何をするかなんだけど、扉を取り込む以外の使い道ってもしかしてあれかな。

 

「世界の真理の扉を開こうとしてるんじゃないかな?」

「それなら、その扉を開いたその先に何があるんだよ、アルフォンスみたいに手合わせ錬成ってのが出来るだけじゃすまないんだろ?」

 

 バリーの疑問も当然。

 ここまでして、扉を出現させてその向こうに一体何があるのか。

 

「多分だけど、違う世界が広がってるんじゃないかな? こことは少し何かが違う、いわゆるパラレルワールド的な……」

 

 もし扉の先に何かあるとしたらそれくらいしか浮かばないな。

 旧アニメの劇場版、シャンバラを征く者では向こうにもう一つの現実世界があった。

 無論本当は何があるかなんてわからないけど、原作知識から逆算するとこれくらいしか俺の頭では答えが出てこないな。

 

「素晴らしい! 私と同じ仮説にこんな短時間でたどり着く人間がいるとは」

 

 突如高らかな笑い声が聞こえたかと思うと、俺の答えを歓迎するような拍手が一人分、この何もない空間に響き渡る。

 

「ラース、あの男は国家錬金術師か?」

「『綴命の錬金術師』ショウ・タッカーです。国家錬金術師ですが、人柱になるほどの技量は持ち合わせておりませんでしたので、顔を覚えていないのも無理ないかと」

「ショウ・タッカーか、確かいくつかの論文にその名前を見かけたな。錬金術師には珍しくリソースの管理に対して慎重派だった男だと記憶しているが?」

 

 自分の頭の中の記憶と名前が合致したのだろう、大総統の答えに気分よく相槌を打つ。

 あれ、もしかして名前覚えられてるの?

 そりゃ、論文も提出してるから、この国一番の錬金術師でもあるお父様が目を通してても不思議ではないんだけどさ。

 

「そういえばラストの報告にあった、ラースに似たコンセプトの合成獣を作った男でもあったな。おぉ、お前がその合成獣か。ラース少し試せ」

 

 その瞬間バリーのそばで甲高い音が三度鳴り響く。

 

「あっぶねぇ!? 大総統はネックと肩ロースと内ももが好みなのかよ、解体前の肉にナイフなんて投げんじゃねぇ!」

「話には聞いていたが私以外にここまで目が良い存在というのも新鮮なものだ」

 

 いつの間にか足元にどこから投げ出されたかナイフが三本落ちている。

 こわっ、俺には全然見えなかったぞ。

 

「反応速度も中々悪くない。時間さえあればゆっくりと話して見たかったところだが惜しいな。国家錬金術師の基準も人柱に焦点を当てすぎて、ユニークな発想力を持つ者を見逃していたな」

「お父様、そろそろ皆既日食の時間ですわ」

「うむ、予定外の来客もいる様なので簡単に説明するが、今から人柱と私を起点にこの真理の扉を開き、私はその向こう側の世界に向かう。なに、心配はいらん、向こうに行くのは私一人だ、残ったこの国は子供たちと相談し好きにするといい」

「あら、お父様一人気ままな旅なんてずるいですわ。長女としてお供します」

 

 ラストがお父様のそばに寄りかかり、甘えるように腕を絡ませる。

 はたからみるとエド君そっくりだけど、なんていうか風格というかオーラが違う。

 

「お前はどうする、エンヴィー?」

 

 ビンの蓋を外し、中身を手の平に落とすと、エンヴィーを手の平に閉じ込めた。

 瞬く間にエンヴィーの体は再生し、俺たちがよく知る人間体へと変化する。

 

「こんな奴らと付き合うのもまっぴらだし、お父様に付いていくとするよ。じゃあねおチビさん」

「だれが豆粒ドチビじゃ、本体は俺よりもチビ野郎のくせに!」

 

 扉の前のお父様に寄りそう二人のホムンクルス。

 そして少し離れたところには、もう二組が並び立っている。

 

「私たちは予定通り、ここでお別れとさせていただきますよ」

「この後、彼らとは国家運営のことで話し合わなければいけないのでね。軍やテロリストの膿を出し切ったのだ、この後が忙しくなるぞセリム」

 

 大総統が息子の頭を撫でながらそう告げる。

 

「つまりラストとエンヴィーはお父様に付いていって真理の扉の向こう側の世界へ、大総統とセリムはこの世界に残るってことなのかな」

「そうだ、綴命の錬金術師よ。ワタシはこの世界の向こう側で新たに知恵を蓄え、いずれ真理の奴を超えた存在になる。もうこの世界に用はないのだ、無論キサマたちともう敵対する理由もない」

「ふざけんな! こんだけのことしでかしておいて、自分だけハイおさらばってか!」

 

 殴りかかろうとするエド君の首根っこを、ホーエンハイムさんが掴んで止めている。

 さっきまでバリー相手にナイフを投げ込んだばかりだというのに、不思議と敵意を感じない。

 いや、これは相手にもされてないのか。

 

「そうは言われてもな、ワタシはワタシの目的のために生きているだけだし、今回の犠牲者のほとんどは国に住まう人間共にとっても不要な存在だろう。あれらをついでに一掃しておいたのだ。あとの国家運営はラースと君たちでやればいいだろう。そうさな、今回のクーデターの責任を問えば大総統の立場を真っ向から奪い取れるやもしれぬ、マスタング君なら出来る可能性はあるのではないか?」

「はっはっは、確かにマスタング君なら大総統に手が届くかもしれませんな、もっとも、私はまだまだ現役のつもりですがね、セリムと妻のためにも、よりよい国を作っていかねば」

 

 これってもしかして戦わない感じ?

 いや、あの状態のお父様っておそらく人類最強だろうし、この場にいる全員で戦っても勝てるビジョンが浮かばないから、戦わないなら大歓迎なんだけどさ。

 

「俺には何も聞かないのかよクソ親父!」

 

 飛び出したグリードが思いっきり顔を殴り飛ばす。

 不意打ちだったにも関わらず、お父様はそれを片手で受け止めていた。

 

「そういえばグリードの体を仮の入れ物に入れたままだったな。上手く共存出来ているようだが、いつまでも一緒というわけにはいかぬだろう」

 

 そう言ってグリードの胸の辺りを鷲掴みにすると、背中から何かが生えてくる。

 人型のそれは、グリードの体から這いずりだし地面に落ちる。

 

「な、何をしタ。俺の中のグリードが居なくなってイル」

「この体になれば大抵のことは出来るのでな、オマエの体からグリードの古い体を錬成し直して分離させたのだ。おまけで不老不死とはいかないが、死ぬまで健康でいられるように体を調整しておいたぞ。放浪息子のわがままに付き合わせた礼だ」

「なんだこの懐かしい感じ、もしかしてリンになる前の俺の体なのか、これは!」

 

 もう規格外すぎてどうにもならないような気がする。

 リン君の体からグリードを分離して新しい体を与えちゃったよ。

 等価交換なんて完全に無視したようにしか見えない、これが神に限りなく近づいたお父様の実力なのか。

 

「おいタッカー先生、もう俺何が何だかわからねぇんだが、戦わなくていい雰囲気だよな」

 

 ヨキさんが肘を突きながらこっそり耳元で聞いてくる。

 うんそうだよね、なんかもう戦いとか起こらなそうな感じだよね。

 

「戦わなくてよさそうだし、仮に戦ってもどうしようもないのが肌でわかってるから誰も手出ししないんだよきっと」

 

 そういう意味では自分の身を守ったバリーはともかく、グリードは異端なんだよね。

 いや、むしろあれは戦いというよりも親子喧嘩みたいな感じでとらえられたのかな?

 

「少しばかり距離が近すぎるな、門を開く時に巻き込まれても知らんぞ」

 

 手を巨大な門にかざしたお父様が、俺たちに忠告をしてくる。

 

「さらばだ我が半身ホーエンハイム、そしてその息子たちよ。何心配はいらん。通行料はワタシが肩代わりしてるから、ワタシがいなくなれば皆元の世界に戻れるだろう」

 

 門に赤い錬成反応が駆け巡り、扉が開き始める。

 

『それがお前の出した答えか、思いあがるなよ愚か者』

 

 お父様の体に亀裂が走り、門に触れていた手が吹き飛んだ。




『タッカーさん』

お父様に名前を憶えられてる主人公。
人柱にはなりえないのだが、論文を読むのが趣味のお父様に名前だけは憶えられていた。

ラストからの報告でバリーの存在を聞いた時は、なんとも面白いアプローチをしたものだと感心。
向こうの世界に行った後はホムンクルスではなく使い勝手がいい合成獣を作ってみるのも面白いと考えさせたので、ある意味錬金術師として世界最高峰の腕の持ち主に認められた。

『お父様』

子供たちと接してるうちに自身も成長し、この世界が狭く感じてしまった。
自身が真理の扉の一部であるという自覚はあり、借り物ではない自分のアイデンティティを求めるが、世界のどこを見渡してもそのほとんどは真理のうちに収まるものばかりで、この世界さえもフラスコの中のように感じてしまう。

しかし、自分が知らなかった未知の元素から、高エネルギーの獲得方法を得て、真理の先に別の世界が広がることを可能性に気づいてしまう。

どれだけの力を得て、子供たちと絆を育んでも。
生まれた時のフラスコの中に捕らわれた自分から抜け出せていない。

すべてが思い通りになると思い込む傲慢。
真理を超えようとする強欲。
フラスコの中でしか生きられないことを嘆く嫉妬。
多くを手に入れていながら、まだ満たされぬと感じる暴食。
未知との出会いを求めてやまない色欲。
他者に任せきりな怠惰。
借り物の知識しかないと自分に向ける憤怒。

切り離した感情と向き合う時間は、己の中に新たな感情を生み出した。

『???』

等価交換というこの世の理を守る調停者。
誰の姿を形取ることはなくても、確かに存在する。

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