俺の名前はショウ・タッカー。一瞬で体が吹き飛ばされ、なにが起こったかも把握出来てない錬金術師である。
「うぉぉ、急に天地がひっくり返った! なにが起こったんだ!」
「うるせぇ受け止めてやったんだから騒ぐな!」
ヨキさんが鼻水垂らしながら、ザンパノさんにキャッチされてる。
「タッカー先生、ありゃいったい何が起こってんだ!」
「いや、私も突然体が吹き飛んだと思ったら何がなんやら……」
俺の前に出ていたはずのバリーにいつの間にか支えられながら、混乱してる頭を立て直す。
「それじゃ解説。エドみたいな親玉が扉に触れようとしたらいきなり手が吹っ飛びやがって、扉が開きかけたんだよ。そしたら隙間からとんでもねぇ衝撃波が漏れ出してきたのが見えたから、とっさに吹き飛んだタッカー先生を華麗にキャッチ。んで、今は扉が開けっ放しになってるが、衝撃波は襲ってこねぇ。ついでになんか敵の親玉がなんか抑え込んでくれてるみたいだぜ」
解説ありがとう。誰よりも目が良いから移り変わる状況を目で追うことが出来るし、機転も利くからこんな時に頼りになるよね。
見ればお父様の右腕は肘から先が無くなっており、無事な左手を開かれた扉の前で構えている。
それだけでは何が何だかわからないが、扉の向こうから何かが膨れ上がり、こちらになだれ込もうとしている。
「おいこら! 一体何が起こったのか説明しやがれ!!!」
こんな時でもエド君通常運転だな。
「あいつちいせぇ癖にすぐそばにいたから、いの一番に吹き飛ばされてたぞ。その瞬間アルフォンスに片足掴まれたのは良いが、勢い余って地面に叩きつけられてた」
「そこ、誰が一番身長が低い豆粒が地面に叩きつけられたじゃ!!!」
こっちを向いて怒りながらも、開かれた真理の扉に意識を向けてるし、何が起こってるのか必死に解析中なんだろうな。
「つまり、あいつとタッカーさんの仮説が正しければ真理の扉の先には異世界が広がっている。その扉を開けたは良かったが、向こうの世界のエネルギーがこちらの世界に逆流してきてるってところか」
顎に手を当てながらホーエンハイムさんは状況の整理をしてるけど、俺にそんなこと出来る頭脳はない。
『そうだ、どれだけのエネルギーを集めたところで真理の扉を開ける分でしかない。それも今回はこんな開け方をしたのだからな』
「つまり真理の野郎が想定してない扉の開け方ってわけか……っ、そう言うことかよ」
「おい、錬金術師だけでわかってないで説明しろよ! って言っても無駄か、タッカー先生通訳頼む」
まいった、俺に振られても全然わからんよ。
扉、扉……向こうの世界から溢れるエネルギー、想定されてない開き方。
「私は真理の扉が開かれたところを見たことないけど、ひょっとして本来あれは扉の中に何かを取り込もうとするんじゃないかい?」
思えば真理の扉が開かれたところを漫画でいろんな視点から見てきたが、そのどれもが扉から無数の手が伸びて誰かを中に掴み込もうとしていた。
扉から何かが飛び出してきそうな描写はなかったはずだ。これが想定されてない真理の扉の開け方なのかもしれない。
「流石タッカーさん。俺が扉を開いた時は通行料をせしめようと無数の手が俺の手や足を掴んで持っていきやがった」
「僕の時は全身を取り込んで扉の中に引っ張り込んできました」
錬金術師とはいえ、真理の扉を見た者は少なく、だからこそ人柱と言われた人材は数える程度だった。
そしてほぼ同時期にそれを開いたエルリック兄弟の視点は貴重な情報源でもある。
「そう騒ぐな、真理の扉が扉を開く時。それは対価をせしめる時だ。私は十分な通行料を支払い向こうに渡ろうとしたはず、一体この邪魔してくるエネルギーの奔流はどういうことだ?」
お父様も理解が追い付かないのか、片手で溢れ出るエネルギーを押しとどめながら、失った手を錬成しホーエンハイムさんと同じように顎を触りながら考えこむ。
『扉とは外と中を区別するもの、または遮断するための一つの機構だ。本来であれば理の外に繋がる道であるが、お前は真理から零れ落ちた一部でありながらその扉を開けようとした。ゆえに真理の扉が迷っているのだよ。扉の向こうと内側は一体どちらなのかを』
「くだらない。私から扉を開けたのだからこちら側が内側、広がる世界が外側であろう。扉ごときが何を迷うことがある」
『真理とて迷う、あちらとこちらで真理は違うのだ。二つの世界の理が違うのにイレギュラーが扉を開けたせいで向こうの世界が迷っている。この扉の向こうには自分たちの知らぬ未知がある。それを知りたい、真理を見つけたい、お前たちが持つ欲望をあちらの世界も同じように持ち得てるのだ』
えぇっと、つまり。
「扉は本来一方通行でなければならない、でも今は双方ともに通行が可能。そのせいで向こうの世界がこちらの世界になだれ込もうとしているってことかな?」
『うむ、異なる流れを持つ錬金術師よ、おおむね正解だ。言っておくが真理の扉の前にこれほどの数の人間が並ぶこともイレギュラーなのだ。おかげで私も誰の姿を模していい物かわからず、自分を構成するものが不安定だ。本来なら1人1人に向き合う己の真理が相対するはずだが、ここにいるのはこの世界の真理。いわば世界という物の合わせ鏡』
エド君の真理なら彼から奪った腕と足、アル君なら全身の姿をしてるはずが、ただの人型で俺たちの前に出てきた理由はそれか。
「全然意味わかんねぇよ! 結局どうなるってんだよ」
ヨキさんもう感情がわけわかんなくなっちゃって大泣きし始めちゃった。
「恐らく二つの世界がぶつかって壊れるとか、こっちの世界が向こうのエネルギーに塗りつぶされちゃうとか。あんまりいい結果にはなりそうにないかもね」
大体こういうパターンの時ってろくでもないことが待っている。
強大なエネルギーをコントロール出来なくて人類がひどい目に遭うってのは、割とお決まりの結末だよね。
「そうさせないためにもあの扉を閉める必要がある。こうなったら仕方がない。エド、アル、お前たちは開いた扉の側面から思い切り押し付けろ! 俺は正面から漏れ出してくるエネルギーを向こう側に押し返す!」
そう言ってホーエンハイムさんはお父様がエネルギーを押し付ける隣に並び立つと、自分も両手を広げ、抑え込まれた奔流を必死に押しとどめようとする。
「どういうつもりだ?」
「とりあえずこの扉を何とかしなきゃならないんだろ。お前ひとりの力じゃエネルギーは押し返せても扉を閉めることはできない。だったら協力するしかないじゃないか」
「心配いらん、お前たちの力など借りずとも真理の扉の一つくらい」
「お前さっき扉から溢れ出るエネルギーに対してバリア張ってみんなを守ったろ。じゃなきゃ今頃誰一人この場に立ってないはずだ」
「相変わらず変なところで目ざといな」
「それに、簡単じゃないんだろ。右腕吹き飛ばされて元に戻してから一歩も扉の向こうに足が進んでないぞ」
そうか、お父様の狙いが向こうの世界に渡ることなら、さっさと扉を潜ればよかったんだ。
なのに今ここで止まってるのは、この世界を守りながらも、先に歩を進めることも出来ず、早い話が立ち往生してる状態だったんだ。
「よっしゃ! 全員扉の側面でエネルギーの影響が薄い所から扉を押し込めて締めるぞ!」
「了解だよ兄さん。左右同じくらいの力で押さないといけないから、みんな上手い事散らばって!」
エルリック兄弟もホーエンハイムさんの狙いに気が付いたみたい。
というよりもホーエンハイムの意見を尊重してるのかな。
「おい、本当にこんな扉どうにかできるのかよ?」
「まぁ、形式が扉なら閉めることも出来るはずですよね。まさかの力押しになるとは思いませんでしたけど」
ハインケルの疑問になんてことないように答えるキンブリー。
「うぉぉお、吾輩の筋肉が世界を救う時!」
「こんな空間じゃ錬金術も使えない。最後は肉体労働をする羽目になるとは」
「雨が降らなくても無能と言われたくなければ、しっかりと押してくださいね。大佐は我々の中で一番筋力が無いのですから」
泣きながら上半身の筋肉を躍動させるアームストロング少佐、続くマスタング大佐にぴしゃりと釘を刺すホークアイ中尉。
「ちくしょう、もうやけだ。さっさとこんな扉閉じちまって帰りましょう旦那!」
「様々な思いが己れの中にあるが、ひとまずは飲み込もう。すべては我らが同胞たちの住むべき世界を守るため」
ヨキさんとスカーも扉に向かって走り出す。
「先生もボケっとしてないで扉を閉めるの手伝ってくれ」
バリーに声を掛けられて気が付くと、ここに集まってるみんな扉に向かって動き始めてる。
なんていうか、全然訳が分からないけど、とりあえずここまで来たら俺に出来ることなんて限られてるし、だったらちゃんと出来ることだけはしておかないとダメだよね。
「まさか錬金術師として真理の扉を開くよりも先に、閉じることを経験するなんて思いもしなかったよ」
半年ぶりの更新となってしまいました。
その間に連載を二つも開始してしまい、その二つも完結……。
大変長らくお待たせしました、ここからはこの作品にリソースをつぎ込んで完結を目指します!
なお毎回やってました後書きでの解説を少し搾ろうと考えてます
本編と同じ分量書いてましたからね。
復帰しても次の再会が未定だと不安になると思うので次回更新日も告知します。
来週の水曜日9/18日19時更新予定です。