【完結】俺は綴命の錬金術師   作:発火雨

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※注意
今回『鋼の錬金術師 mobile 白銀の号哭』のネタバレが有りますので未視聴の方はご注意ください


合成獣研究所

 俺の名前はショウ・タッカー、しがない錬金術師である。

 

 元第五研究所と呼ばれた施設が俺の今の職場である。

 本来は囚人を使った違法な賢者の石を作り出す、国が主導する非合法施設だった。

 もちろん俺はそんなこと一切してないよ、ここで研究してるのは合成獣。

 俺が元々研究してた合成獣もそうだし、軍が作り出した人間と動物の合成獣たちの研究もやってる。

 

 今日も合成獣の途中経過を書き込んだ資料を読みながら一人お茶を飲んでいると、研究室のドアをノックする音が聞こえる。

 どうぞと声を掛けると、オレンジ色のコートを着たほんの少し目つきが鋭い女の子が室内に入ってくる。

 彼女の名前はフランカ・グランディ、合成獣研究所に出向中の軍人で今は俺の同僚だ。

 

「タッカー所長、各地から受け入れた動物たちの記録は完了しました。」

「ありがとうねフランカ少尉。各地で起こったテロの影響で逃げ出した動物もたくさんいるし、どうしても動物を飼う余裕がないお家も多いからね」

 

 クーデターから半年ほど経つ。

 人々の生活は錬金術というある種のチート技があるおかげで建物なんかはすぐに復旧出来たけど、そこに住む人々はそうはいかない。

 敵味方合わせて死者や負傷者もかなりの数が出たし、こんなことが有ってから中央から他所へ引っ越す人たちも大勢いる。

 

 しかも表向きはクーデターの首謀者にされた軍上層部が軒並みいなくなったおかげで、軍の上の方がスカスカ。

 今回の活躍でマスタング派と呼ばれた功労者たちは国の復旧にいそしむことになる。

 

 早いとこ逃げようとしたんだけど、がっつり俺も捕まっちゃってね。

 国家錬金術師制度も見直しが入るだろうし、それならフリーの錬金術師として細々と食べてこうかと思ったんだけど、施設だけは立派な第五研究所を遊ばせておくわけにもいかないという理由で、ここの所長なんてものをする羽目になってしまった。

 

「その、タッカー所長……弟はご迷惑かけておりませんか?」

「最初こそ困ったけど、今じゃ合成獣部隊のみんなに可愛がられてるよ」

 

 そんなわけで俺にも部下が何人か着くわけだが、目の前のフランカ少尉もその一人。

 この半年の間でボロボロになった軍部を狙ったテロリストや国外の圧力が増え、その対応に戦える人たちは追われてたんだけど、その相手にウィータの守護って連中がいた。

 

 簡単に言えば行き過ぎた動物愛護から、動物を開放せよと武装してペットを盗んだりしてた過激派なんだけど、実態は軍が違法でしていた動物と人間を掛け合わせた実験体たちが脱獄した先で組織した集団だったようだ。

 そんな組織が恨みを持つ軍の弱体化を見逃すわけがない、武装決起仕掛けたところをエド君たちが乗り込んでボコボコにして、首謀者及び幹部を捕まえ今はうちで元の人間に戻せないか治療している。

 

 フランカ少尉は元々動物が好きで、それらに対して知識もあったから合成用の動物たちの世話を担当させられていた。

 軍の暗部の被害者でもあり加害者にも取られてしまう立場、そして動物の知識やその博愛精神は本物、本人も自分の罪を償うために出来ることをしたいとエド君に話したんだって。

 そんでもってあれよあれよという間に、新設した合成獣研究所所長の俺の下へ来たというわけだ。

 

「どうもウィータの守護にいた人たちは中央とは別のアプローチで合成されたみたいでね、具体的に言うと合成した後の動物の割合が多めなんだ。その分潜在能力は高いけど理性を失いやすい欠点があるみたいで、出来たら戦いなんてせずに治療を受けてもらいたいんだけど……」

「弟がわがまま言って申し訳ありません。ですがどうしても合成獣として軍の役に立ちたいと言って聞かなくて」

 

 弟さんのユーイン君は合成獣にされた実験体の一人だ。

 正確にはフランカ少尉の弟ではないんだけど、そのあたりは割愛。

 エド君と共闘したり、時に殴り合ったりして今では自分の境遇に納得してる。

 

 そんな彼は軍部に新たに設立された合成獣特殊部隊に所属、といっても訓練ばかりの日々だけどね。

 

 あのクーデターで軍の違法な研究が市民の目に届いたわけだが、命がけで彼らを守った合成獣たちを市民は受け入れ、文字通り人間と変わらない扱いをした。

 これ以上合成獣人間を増やすことはしないが、意図せずあのような体になってしまった彼らを市民と軍人たちが受け入れた結果、独立部隊として運用されることが決まったのだ。

 一部ではヒーロー的な扱いもされてるってさ、ちなみにキンブリーが名目上隊長してるし、補佐でヨキさんが引っ付いてるよ。

 

「はぁ、本当はこんな地位なんて身の丈に合わないし、家族と一緒に穏やかに過ごしたいんだけどね」

 

 実は研究所所長って結構偉い。

 国家錬金術師の時点でそれなりの軍における地位もあるんだけど、どう考えても軍の研究所所長ってありすぎるよね。

 

 嫌ですって言おうとしたんだけど、合成獣化したみんなを治療するのに設備もお金もかかるし、俺の研究も全然捗ってなかったから誰かのサポートを受けないと全然仕事にならないんだよね。

 もうね、俺一人で研究なんて出来ないのよ、動物たちの管理の手間もあるし、普通の無機物を相手にする錬金術師と比べてコストが掛かりすぎる。

 イーストシティの頃から色んな人に協力してもらってたけど、もう自分一人の手で収まらないほどに合成獣研究って大きくなっちゃった。

 

「そんなことありません、違法な研究を続けていた腐敗した軍関係者がいなくなった今、きちんと動物たちを合成獣に出来るのは権威であるタッカー所長を除いてこの国にいません。それに研究者でありながらクーデターでは前線でみんなのバックアップを続けたそうじゃないですか、それだけの活躍と人望があればこそですよ」

 

 あぁ、すごくこっちを見る目がキラキラしてる。

 元々してきた研究スタンスとかで、俺のことは知ってたらしいが、なんかエド君が色々話したせいでフィルターかかってるんだよな。

 それに俺の合成獣に対する扱いや、弟さんに接する感じを見てパーフェクトコミュニケーションしてしまったようだ。

 

 もういっぱいいっぱいになっちゃうから辞めて欲しいんだけど、なんか合成獣のことは全部俺に回せばいいと思ってないかな?

 エド君がフランカ君を連れてきた時も、この人なら間違いないからと変に太鼓判を押してたし。

 

「なんだかエライ所にまで来ちゃったな……」

「ご家族はまだこちらにお呼びしないのですか? たしか今はシン国に避難されてるのですよね」

「まだこの国はゴタゴタが続いてるからね、それにこんな立場を引き受けてしまったし、もう少し国内が落ち着くまで再会はお預けかな」

 

 本当はニーナや妻に会いに行こうとしたら、すぐに止められたんだよね。

 腐敗した上層部は一掃されたとはいえ、大総統は健在だし、プライドも正体を隠したまま夫人の子供として生活してる。

 

「まだまだこの国も安全とは言えないし、それなら私がシン国に行きたいんだけど、安全上の問題でいっつも却下されるんだ」

「信頼できる錬金術師、その中でも合成獣を扱う錬金術師は稀少ですからね。軍で秘密裏に研究されていた合成獣に関わったほとんどは非人道的な行いをしていた者ばかり、この国で合成獣に関われるきちんとした研究者はタッカー所長以外におりませんから」

 

 大体軍関係で合成獣を研究していた奴らはバリバリ違法なことをしてた奴らだ。

 そいつら全員お父様に賢者の石にされたり、大総統に粛清され済で、今この国に残ってる合成獣学を専門にしてるのって俺くらいしかいないんだよね国家錬金術師として。

 上が軒並みいなくなったせいで繰り上がって国一番の権威なんてとんでもない立ち位置になってしまった。

 

「慕ってくれるのはうれしいけど、世間で言われてる合成獣の権威って肩書ほど研究は上手く行ってないからね」

 

 元に戻す技術に関してはさっぱり進展がない。

 一応あれこれ考えているが、俺の頭では混ざり合った一つを二つにきちんと分ける方法にたどり着けない。

 

「何を言ってるんですか? 目の見えない人用の盲導合成獣に、パトロールや連絡用の合成獣も少しずつ形になってきてるじゃないですか。それに合成獣に改造された人たちを元に戻すことこそ出来てないですが、彼らの体調管理や健康状態の維持、人として生活できる基盤の構築はタッカー所長が今まで行ってきた研究の成果です」

 

 まぁ前者に関しては元々やろうとしてアイデアや下地はあったし、この立場になって使える予算や人員も増えたから形にはなってきたかな。

 後者は同じ生態系錬金術師のマルコーさんが手伝ってくれたのも大きいし。

 

 マルコーさんもお医者さんをしながらうちの研究所に出入りしてくれてる。

 所長も錬金術師の格としてマルコーさんの方が相応しいんだけど、本人があまりこの場所や国お抱えの科学者という立場に良い思い出がないみたいだし、あくまで民間の協力者という立場で接してもらってる。

 

「困ったな、何を言っても褒められそうだ」

「他の国家錬金術師さんたちからも所長の良い評判しか聞きませんよ。あっ、そう言えば今日病院の前でエドワード君を見かけましたよ」

「アル君のお見舞いかな。まだ面識はないんだっけ?」

「はい、資格こそ持っていませんが腕は国家錬金術師クラス、そして先のクーデターの立役者と伺っております」

「元々筆記試験は合格してたみたいだからね、今は健康上の理由で資格はもらえないけど、本人さえその気ならすぐにでも資格は取れるだろうね」

 

 本当に困るよ、俺だって筆記試験のために猛勉強して合格ラインギリギリ届いたって言うのに。エド君と一緒に勉強してたせいか、受けるだけ受けた筆記試験は突破してたんだから。

 

「たしかクーデターの時に重症を負って、ずっと入院してたんでしたっけ?」

 

 事情を知らない人向けにそう言うストーリーになってるんだよね。

 俺もうっかりボロを出さないように気を付けないと。

 

「そうそう、でもそのうち会えると思うよ、だいぶ良くなってるみたいだからね」

 

 戦いの中心にいた人ほど抱え込む秘密が多すぎるよな。

 アル君もだいぶ元気になった、また会いにでも行こうかな。

 バリーのメンテナンス絡みの打ち合わせもしたいし。




『鋼の錬金術師 mobile 白銀の号哭』
スマホアプリがサ終してしまったが、ゲームオリジナルストーリーになるはずだったシナリオ。
原作者荒川先生がデザインしたキャラが登場する期待作だったが、その後ゲーム自体が終了しボイスドラマとして公開された。

視聴できる期間が決まってるので、是非ファンには見て欲しい作品。
もちろん声優陣はアニメ(FULLMETAL ALCHEMIST版)の豪華メンバー。

『フランカ・グランディ』
『ユーイン・グランディ』
姉がフランカ、弟がユーイン、デザインは荒川先生。

姉は元々軍属で、弟もそれに倣い軍にいるが、弟の正体は合成獣。
詳しくは是非ボイスドラマを視聴して欲しいのでここでの解説は最低限に。

『ウィータの守護』
上記のシナリオに登場するテロ組織。
動物愛護の理念を掲げ、動物解放のため泥棒からテロ活動までする過激派愛護団体。

実は上層部は軍の実験体となった合成獣人間たち。
まさかの合成獣が出てくるシナリオだったため、急遽本編に登場させた。

『次回投下予定』
一週間後、10/2水曜日19時更新予定。
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