【完結】俺は綴命の錬金術師   作:発火雨

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病院の一室

「調子はどうだいアルフォンス?」

「うん、タッカーさんにもらった合成獣の資料なんかも大体頭に入ったから、僕もバリーの体を調整することは出来そうだね」

 

 いや、俺は体の調子はどうだいって意味で聞いたんだが。

 俺の目の前にいるのはゴツイ鎧姿のいかした大男じゃなくて、エドとどっこいどっこいの背丈の金髪少年。

 なんか良くわからねぇけどよ、あの日真理の扉って奴を閉じた後いつの間にかみんな元居た場所に戻されててよ。

 そしたら、エドの手足は生身になってるし、アルフォンスの体も元に戻ってやがった。

 

 まぁ、鎧はそのまま残って、その中にアルフォンスはいたんだけどな。

 俺様が出してやらなけりゃ、ずっと真っ暗で狭い鎧の中にいたわけで、すごい声を張り上げようとしてたが、体がヒョロヒョロでよ、声を上げることも出来ねぇでやんの。

 タッカー先生に聞いたが真理の扉に肉体だけ取られてて、何も食ってなかったから栄養失調だったんだってよ。

 

 そのリハビリでずっと病院生活、しかもあんまり外に本当のことを触れ回らない方が良いってことで護衛できる奴も限られてきやがった。

 まっ、他の奴らは戦後処理の仕事が盛りだくさんで、エドがずっと面倒見るって言ってたがあいつだってずっとそばに居れるわけじゃないからな。

 

 その点、俺は錬金術なんて使えないから復興作業には大して役立てねぇし、タッカー先生周りは裏を知らねぇ真面目な軍人さんでもガードできるからよ。

 とりあえずこいつ専門のボディーガードを引き受けたってわけよ。

 

「そうじゃなくてよ、おめぇさんの体の調子の方が大事だろうが。食欲もあるみたいだしやっぱりもっと肉の量を増やした方が良いんじゃねぇか?」

「いや、どう考えても最近食べすぎだよ。最初こそごはんを食べられるのが嬉しいし楽しかったけど、こんなすごい量一人じゃ食べきれないよ」

 

 なんかよ、限られた知り合いだけが見舞いに定期的にくるんだけどよ。

 ものすごい量の食い物が集まってくるのよな。

 

「たぶんみんな良かれと思って持ってきてくれるし、全部美味しいんだけどこのままじゃ鎧の時より重くなっちゃいそう」

「かー良いんだよ、ガキは喰いまくって太るくらいがちょうどいいってもんよ。俺なんて肉の解体しながら毎回味見しすぎて、筋肉モリモリの健康優良児として生きてきたもんよ」

 

 客に出すもんよりも旨い部位や新鮮な部位を味わえるのは肉屋の特権だよな。

 おかげで食うもんには困らなかったし、始末した人間の部位もミンチにして客に少しずつ出しときゃ始末も簡単だったな。

 

 昔を思い出してちょいとセンチになってたら俺を見るアルフォンスがほんの少し目を細めやがった。

 この体になってから目が良くなりすぎたな、おまけに元々鎧で表情なんて存在しなかったアルフォンスの顔の動きが手に取るようにわかる。

 

「俺の昔なんて気にすんな、今のこの体の方が何百倍も楽しい人生させてもらってるさ!」

 

 ずいぶんと背の小さくなったせいで頭をグリグリ撫でやすくなったな。

 

「ち、ちょっとわかりやすい子ども扱いしないでよ、兄さんなら噛みついてるよ」

「いいじゃねぇか、身長だってこれからスクスク伸びる可能性あるんだろ。俺様も抜かれねぇように今のうちに少し縮めておかないとな。ついでにエドにもやったがあいつ本気で噛みついて来たぞ。あいつも度胸あるよなホークアイの姉さんそっくりの俺相手に噛みついてくるなんて……」

「うん、たぶん怒りで頭がいっぱいになってたのと、付き合った時間も長いからホークアイ中尉とバリーを完全に分けて考えられてるんだよね」

「おうよ、だから思いっきり女っぽい声色でエド君に襲われるって言いふらしてやった」

 

 本当あいつ揶揄うの面白れぇんだ!

 頭は俺なんかよりずっといいんだが、悪知恵っていうか、ちょいと揶揄う時はまだまだ素直なガキだよ。

 

「それでこの前病院が騒がしかったのか……」

「おうよ、しかも運悪くホークアイの姉さんも見舞いに来てやがってな。お互い命の危険を感じ取ったから二人して窓から飛び降りて逃げた」

 

 まぁ姉さんは俺一人をターゲットにしてたが、逃げるなら錬金術師ってすごく頼りになるのよな。

 小さいエドを抱えこんで思わず一緒に逃げちまった。

 怖いんだよなホークアイの姉さん、銃こそ撃っちゃ来ねぇがすげぇ気迫で怒ってくるあの感じは、俺の中の魂が震えるって言うの?

 まさに生きてる感じを思い出させてくれる。

 

 しかも逃げても町中にいる合成獣たちは姉さんの味方だしな、ただ単に逃げるだけならすぐに居場所がバレちまう。

 

「あの後大変だったんだからね、ホークアイ中尉がまた変な噂が立つって、今度兄さんの方にお灸を据えようかって怒りながら口にしてたよ」

「なんだ、だったら一緒に逃げて正解だったな。むしろ感謝して欲しいくらいだ」

「その逃亡のせいで愛の逃避行説が出てるんだけどね。お願いだから周りに迷惑かけないでよ」

「任せとけって、俺様もなるべくタッカー先生には迷惑かけねぇようにしてるって」

 

 案外あの先生も世渡り上手いんだよ。

 本人は別に出世とか興味ないんだろうが、なんていうんだ、変なリスクを踏まないように自己保身が上手いんだな。

 俺の肉体をホークアイの姉さんそっくりに改造する時も、自分が主体になって責任は全部取るつもりだったろうが、エドにも手伝ってもらったし、許可だってマスタングの旦那から事後報告でもぎ取ったし。

 出来ねぇことはしねぇが出来ることで最善、そんでもって自分一人で出来ねぇことが多いから人に頼る上に功績も渡すもんだから質が悪い。

 利用するって感じじゃなくて、共犯つうか味方に引き込むのがみそだな。

 

「タッカー先生の護衛も今じゃ合成獣の奴らががっつり周りにいるから全然大丈夫! むしろお前の兄さんの方が無茶苦茶してるだろ、テロ組織潰した時に大暴れしたぞ」

「うん、メイ・チャンとはぐれたシャオメイを愛護団体が勝手に連れ去って、それがまさかテロ組織だったなんて」

「エドってなんであんなにトラブルに巻き込まれるんだ? あいつの方が俺よりあちこち迷惑かけてるだろ」

 

 たしかアルフォンスに首ったけ女のペットが変な愛護団体に捕まったのが始まりだよな。

 一応俺もその話聞いて、相棒たる合成獣にすぐ確認とったのよ。

 そしたら、合成獣たちのネットワークみたいなもんで動物が不自然に集められた倉庫を発見したから俺とエドで殴り込んだのよな。

 

 俺様もよ、タッカー先生には世話になりっぱなしだし、合成獣ってのにも色々借りがあるからな。

 不当に捕まる動物たちってのは見逃したら気分がよくねぇ、それに久々に大暴れできそうな感じだったし参加しねぇ手はないだろ。

 

「兄さんも腕と足が元に戻って調子も良いみたい。重心の使い方とか今までのようにオートメイルを武器にした戦いは出来ないから訓練してたのは知ってたけど、まさか訓練がてらテロ組織を潰すなんて……」

 

 顔に手を当てながら考えこむアルフォンス。

 いいじゃねぇか、兄ちゃんも元気いっぱい五体満足なんだからよ。

 

 扉の外にいつ入ってくるかタイミングを伺ってる気配はあるが、この感じだと……。

 

「元気が過ぎるというのも考え物です、私たち合成獣部隊が追ってる案件のはずがいきなり横からしゃしゃり出て誰よりも活躍されたんじゃ部隊の示しがつかなくなるじゃないですか」

「キンブリー!?」

「鎧の時と違い五感が元に戻った影響でしょうかね、前よりも探知スキルが衰えたかもしれません」

 

 胡散臭い笑みを浮かべながら爆発狂の旦那は花束を持って病室に入る。

 俺の目にはバレバレなんだが、花束を花瓶に活けるふりして中の爆弾をアルフォンスの膝に落とす。

 

「もう、なんでいつも爆弾を持ち込んでくるの! ここがどこだかわかってる?」

 

 しかし、それを軽く手で触れるだけでロケット花火に変えちまった。

 俺が窓を開けると、勢いよく空高く飛び上がる。

 

「たーまーやーってな、最近不自然な花火が急に打ちあがるって噂も立ってきたぞ」

「元に戻っても錬金術の腕が錆び着いてないかの確認ですよ、貴方もそのうち旅立つんでしょ? リハビリの一環だと思って笑ってください」

 

 いや、タッカー先生の世渡りが上手いってのも俺の本音だが、キンブリーの旦那はどうかしてるね。

 元々罪人で敵側だったくせに、すっかり国を救った立役者の一人に収まりやがった。

 

「そういう旦那は仕事帰りかい?」

「えぇ、部隊の訓練はメンテナンス込みで合成獣研究所が主体で行ってくれますし、細かい書類や申請書の類も優秀な副官がいますからね」

「あのおっさんもかわいそうにな、どこにもいく当てがないっつうのか、ここしか行く当てがないっつうか」

 

 ヨキってちょび髭のおっさんは今じゃ合成獣部隊って一つの部隊の副官だ。

 聞いた話じゃ元々軍人だったのに落ちぶれて首になったんだとよ、そのくせ軍人の振りしてキンブリーの旦那と戦場ド真ん中にいたのが運の尽き。

 嘘から出た誠で、本当に大総統の密命で身分を偽って任務をこなしてたことになっちまって中央で役職までついちまった。

 

 前に少し話しもしたが、旦那にはビビり散らかしてる癖に他の奴らには偉そうのなんのって。

 でもよ、一見優男でここぞという時だけ怖い旦那と、普段から偉ぶっていろんな奴らのケツを叩くおっさんは意外といいコンビなのかもしれねぇな。

 

「おや、噂といえばエルリック兄弟がマーゴット女史を取り合っているというのが……」

「あぁ、また僕の評判が変なことになっていくぅ~」

 

 ニヤニヤした笑みを浮かべながらおちょくるキンブリーの旦那。

 頭を抱えながら鎧の時は出来なかったであろう、軟体動物みたいに体をうねうねさせて悶えるアルフォンス。

 

「鎧の時より戦闘力は下がりましたが、情緒豊かに感情を表現できるようになってますね」

「あぁ、飲み食いが出来るってのもデカいが、物を触った時の質感や味、匂いなんかも感じられるってのはいいもんだぜ。旦那は鎧になったことがないからわからんかもしれねぇがな」

「おっと、さすが元鎧仲間は視点が違いますね」

「俺は元の体の時よりも得させてもらってるがね、見た目こんな美人なのに力は普通の大男でも敵わねぇ。この目って奴も最高だしな」

 

 元の腐りかけた体と対面した時は戻りたくねぇと思ったが、タッカー先生のおかげでいい感じに改造されてよかったよかった。

 だいぶ活躍も出来ていろんな奴らに恩も売れたしよ、処刑された殺人鬼が今じゃ別人の名前ともっと使い勝手のいい体を得て人生やり直せるなんて俺様は本当に運がいい。

 

 とはいっても俺も色々知りすぎてるし、この体自体もタッカー先生の合成獣学技術の結晶とかで、自由にどこにでも行けるってわけじゃねぇんだけどな。

 

「おい、早いとこ退院許可貰って一緒に旅にでも出ようぜ」

「おやおや、もう新婚旅行のご予定が?」

「違いますよ! 錬金術の見聞を広めるために兄さんと別の方向へ旅に出ようって計画を立ててたんです」

「鎧じゃなくなったから戦闘力として不安が残るだろ、俺様が近くに居れば百人力よ」

「バリーは定期的に体をメンテナンスしなきゃいけないけど、それが出来るのはタッカーさんとマルコーさんを除いたら僕だけだからね。一緒にいると何かと好都合なんですよ」

 

 あの二人のそばだとずっと研究所勤めになっちまうからな、それならこいつに付いてって旅に出たほうがぜってぇ面白いに決まってる。

 

「そうそう、その旅の件で許可が正式におりましたので書類をお持ちしました。ご確認ください」

「あ、ありがとうございます! そっか……ついに許可が」

 

 嬉しそうに受け取った書類に目を通すと突然固まるアルフォンス。

 鎧じゃなくなったってのに、まるでカチカチと音を鳴らしそうな感じだぜ。

 

「なんだ、旅に出るのがそんなにうれしいのか? 俺様も楽しみなんだけどよ」

 

 アルフォンスの手元から書類を抜き取ると、俺も目を通す。

 長ったらしいことは書いてあるがようはOKが出たってことだ。

 しかし、許可証の最後にはこう書いてあった。

 

「国家錬金術師アルフォンス・エルリック、マーゴット・オレンジ・ペコー中尉。身分を偽装するため、二人には夫婦として……」

「軍の任務としてよその国へ国家錬金術師と護衛を送り込むわけですから当然のカバーストーリーです。クーデターの影響で国家間もピリピリしてますからね。そんな中貴重な錬金術師と戦力を送り出すためにはこれくらいしないと危険ですから」

「ぎゃあああ、ただ旅に出るだけなのについにバリーが奥さんに!!!」

「しょうがねぇな……これからもよろしくね、ダーリン♡」

 

 後ろから抱き着いて思いっきり胸を押し付けてやる。

 この体って本当に男を揶揄うのに適してるよな。

 鎧と違って柔らかさや体温なんかも伝わるだろ。

 

「ぼ、僕の平穏が! これから彼女だって作りたかったのに!!!」

「いや、ハニートラップとかも怖いですからね。バリーを連れていくなら当然そう言った形になりますとも……合理的でなおかつ面白そうなので私からご提案しました」

「鬼! 悪魔!」

「一応お兄さんにも許可を頂きましたよ、貴方の身長が伸びそうだと一言加えたらすぐにサインも頂けました」

「豆鬼! チビ悪魔!」

 

 ひゃひゃひゃ、エドの奴も相変わらず身長気にしてやんの。

 何度も見舞いに来るし、会えない時も俺に様子をこまめに聞いてきてるからな。

 本当仲のいい兄弟だことで……。




一日遅れちゃいました、申し訳ない。
予定に変動ある時は活動報告にてお知らせしますので、何かおかしさを感じた時はお手数ですが一度見て頂けると幸いです。

次回更新は来週水曜日10/9の19時を予定しています
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