【完結】俺は綴命の錬金術師   作:発火雨

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それぞれの歩く道

「へいへい大佐、一体何の用だよ」

「つれないな鋼の。次期大総統候補の呼び出しなんだ、もう少し愛想良くしても罰は当たらないんじゃないか?」

「つってもまだ役職は大佐なんだろ、あれだけ活躍したのに全然出世してないじゃん」

 

 クーデターを起こしたとされる軍上層部は軒並み合成獣兵器の材料にされちまったせいで、軍のお偉いさん方の枠がぽっかり空いちまった。

 さぞ風通しが良くなっただろうと思いきや、大総統の地位を狙うマスタング大佐なんていまだ大佐だし、同じく大総統の椅子に座っても違和感がないアームストロング少佐の恐ろしい姉ちゃんもいまだにブリッグズで少将の地位にいるらしい。

 

「そうだな。本来であれば上のポストが空けば出世レースに後れを取るような私ではないが、如何せん空いた椅子が多すぎる。これが平時であれば各地から優秀な人材を集めてといったことが出来るのかもしれない、だが、時勢がそれを許してはくれないのだよ」

「やっぱり他国との緊張か」

「クーデターは仕組まれた物だったが、事実として軍の上層部が軒並み消え指揮系統が乱れたことは公に知れ渡っている。おかげで今まで小競り合いで済んでいた他国との摩擦が一気に表面化し、地方から優秀な人材を移動することが出来ない状態だ」

「大佐はずっとセントラルにいるじゃん」

「困ったことに中央は中央でテロの心配が絶えんのだ。鋼のが潰したヴィータの守護しかり、東部過激派であった青の団もあの戦いをきっかけに中央に残党が残っている。ブリッグズにとんぼ返りしたアームストロング少将もドラクマ相手に気が抜けない状態らしい」

 

 まったく、無事に国を人間の手に取り戻したと思ったら、戦う相手がホムンクルスから人間にシフトしただけだ。

 人間もホムンクルスも、フラスコの小人さえも知的生命体というのは欲が尽きないらしい。

 

 いや、欲が絶えないからこそ好奇心が発達し、それが真理を求めるのかもしれない。

 

「こうなってしまっては今キング・ブラッドレイ大総統に降りてもらっては困る。私がきちんと動かしやすいように国勢が安定するまではあの椅子を温めてもらうさ」

「……結局大総統がホムンクルスだってのは隠すしかないんだよな」

「そうだ、真実を公開してもこの国は何も得しない。すべてを知る我々からすればブラッドレイ大総統は国を私物化し、人々の命を弄んだ一味ではあるが、国民にとっては今日までアメストリスという国を発展させ、支えてきた人物だ」

 

 残念ながらお父様と腐敗した上層部がいなくなってはい終わりとはいかなかったもんな。

 一応ブラッドレイ大総統もセリムもホムンクルスであることを隠しながら、人間として生活する道を選んだようだし。

 この前だって仕事が立て込んでるってのに公務を抜け出してアルの病室にメロン持って現れたらしい。

 

 なにが「前見舞いに行ったときは弟君にメロンを食べさせれなかったからな」だよ、楽しそうに笑いながら病室に入ってくる大総統を見たってしばらく病院で噂になってたじゃねぇか。

 

「俺も一度様子を見に行ったけどさ、普通の家族だったよ」

 

 一度だけ夫人に誘われて、二度と行くことがないとばかり思っていた大総統の邸宅にお邪魔した。

 そこには何でもない家族が存在するだけだった。

 

 一度夫人とセリムが席を外した時に大総統と二人っきりになり、俺が口を開く前に向こうから話してきた。

 

「あれは私の選んだ女だ。そして彼女は大総統でも、ホムンクルスたるラースと結婚したわけでもない。キング・ブラッドレイという個人を選んだ女なのだ」

 

 賢者の石の製法も、今まで違法にしてきた研究もすべて放棄し、国が安定したら大総統の地位も降りるつもりだとあの強面からゆっくりと言葉を紡がれた。

 

「無論、誰が私の後任になるかは私の一存では決まらないだろうがな。だが私は運の良いことに国を背負いたいという優秀な若人に恵まれてる、そう遠くないうちに隠居して妻と子と家族の時間を過ごすつもりだよ」

 

 一応敵だったわけだし、今まで散々悪事を企ててきたわけだから顔面一発殴ろうとしたが「国家ぐるみの場合犯罪にはならんよ」と笑いながら俺の突き出した右腕を掴んで投げ飛ばしてくる。

 結局俺は大総統を殴ることも出来ず、帰り際に夫人とセリムに土産を持たされ帰ってきたわけだ。

 

「そこは一撃位顔面に食らわせたまえ、拳が生身になったら軽くなったか?」

 

 そう言いながら俺の右手と左足を見つめてくるが、決して不快になるような探る視線ではなく。

 むしろにこやかに、そして暖かい感じがする。

 

「確かにバランスも少し前と違うし、オートメイルを錬成して武器に変えたりは出来なくなったが、その辺は心配ご無用。この前の合成獣たちと殴り合った時にすっかり本調子に戻してやったぜ」

 

 あの日真理の扉を閉じた後、いつの間にか俺の手足とアルの体が元に戻っていた。

 恐らくフラスコの小人が払った通行料ってのが多すぎて俺たちに釣り銭が帰って来たんじゃないかと睨んでる。

 念のため師匠の体もタッカーさんとマルコーさんに調べてもらったが、元から欠けた部分なんてなかったかのように綺麗な体になっていたそうだ。

 

「そうかそうか、絶好調か。それじゃ国家錬金術師としてさっそく仕事を割り振ろうじゃないか」

「おうおう、中央を離れられない可哀想な大佐の代わりに今度はどこに行けってんだ?」

 

 国家錬金術師で俺みたいにあちこち渡り歩いてる奴は少数派だ。

 ってなわけで、地域密着型の奴らは下手に地元を離れられないからフットワークの軽い俺があちこち視察名目で動かされてる。

 まぁ、合成獣のおっさんたちもあちこち出張してるから誰かしら知り合いに現地で会うんだがな。

 

「次に頼みたいのは隣国クレタと隣接してる最西端の町、テーブルシティだ」

 

 大佐は机に広げた地図の中心からだいぶ離れた地点を指さし、その上に新しい地図を広げる。

 小高い丘のようだが、周囲が綺麗な円形に整地されており、よく見ると円の外側がとんでもない深さの谷になっている。

 周囲を明らかに人工的に掘られた谷に囲まれ、一本の線路だけが通ってるなんとも不思議な地形だ。

 

「見るからに人の手で丸く掘られた不自然な円形の谷……また錬成陣絡みか?」

 

 国丸ごとに張り巡らされた国土錬成陣なんてものを知った後には、この地図を見るだけでどうしてもそっち方向に思考が寄ってしまう。

 

「いや、確かに怪しくはあるしそちらの調査も頼みたいのだが、メインは合成獣だ」

「合成獣?」

 

 合成獣絡みだったらタッカーさんに頼めばいいだろと口に出しかけたが、あの人はあくまでも研究がメイン。

 それに合成獣絡みで犯罪を犯す奴は多いし、軍の違法合成獣実験の後始末もまだまだすんでねぇからな。

 錬金術は使えないが、高すぎる身体能力を敵に回すと厄介なのは身に染みてる。

 

「テーブルシティが正体不明の狼人間に襲撃されたらしい。アメストリス側の合成獣かとも思ったが、軍の研究を洗い出しても狼の成功例で該当した存在は発見出来なかった。一応タッカーにも確認したが、可能性としてはクレタで作られた存在である可能性が高いと言っている」

「つまり、そいつらの調査が仕事ってわけね。そりゃ合成獣に敵対してる地方じゃ合成獣部隊は派遣しづらいよな」

「その通り。おまけに現地の司令官の横領も疑われてるから、そっちの調査の目くらましも頼む」

「それって俺が暴れること前提なんじゃないの?」

「今まで旅先でトラブルを引き起こさないことが有ったか?」

 

 涼しい顔で嫌味を言ってくる大佐に言い返そうとしたが、ふといつもこの部屋にいるはずで、こういった資料なんかを用意してくれるホークアイ中尉の姿が見えないことに違和感を覚える。

 

「もしかしてホークアイ中尉がいないことも関係してんのか?」

「あぁ……南のアエルゴでマフィアが絡んだ武器の密輸に手が回らなくてね。おまけにあの国はイシュヴァール人を武装支援し亡命希望の彼らを黙殺した歴史がある。スカーやマルコー医師も向こう側にいるらしいが何かあっては問題だからな、向こう側に信頼できる人員を多く回してるんだ」

 

 スカーとマルコー先生は各地に散らばったイシュヴァール人のため国内を旅している。

 と言っても中央にもちょくちょく顔を出してるし、イシュヴァール人のための法律の制定や医療支援なんかを精力的に行っているらしい。

 

「んじゃ俺一人で乗り込むわけか」

「いや、さすがに合成獣が関わってなおかつクレタが関わってるとしたら一人では厳しいだろう。病院側と本人の許可も取ってあるからアルフォンスとバリーも連れていけ、アルフォンスには国家錬金術師、バリーにはマーゴット名義で軍の身分証を用意してある」

「おっ、ついにアルも退院出来るのか! ってバリーの話をするからホークアイ中尉を移動させたわけじゃないだろうな?」

「本人の前でバリーのことを話すと睨まれるんだ、そもそも鋼のとタッカーの二人が私に責任を押し付けるからだぞ!」

 

 へへっ、俺は何にも悪くないもんね。

 

「それじゃ早いとこそっちの問題も解決して国を安定させなきゃな。おちおち他国に旅も出来ないぜ」

「本当であれば私も君たち二人の旅を応援したいさ。ただ国勢が落ち着かないとこればかりはな、今のうちに旅の助けになりそうなものは用意してるがしばらくは我慢してくれ。病院には話を通してあるから合成獣研究所でタッカーに詳しい狼人間の情報を聞いてから向かってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え~今度はテーブルシティまで行くの?」

「そうだ、久々にアルと遠出することになるな」

「いいなぁ、私も一緒に行きた~い」

「仕事だって言ってんだろ、それもきな臭い国関係の」

 

 エドとアルが体を取り戻してからも私たちの関係は続いてる。

 もうエドはオートメイルじゃないし、メンテナンスの必要もない。

 患者と技師ではなく、ただの幼馴染になった。

 

「そんなに旅に出たいのかよ?」

「そうそう、ラッシュバレーで修行したり、あんたたちに付いてあちこち行くうちに旅も良いもんだなって思えてきたのよ。オートメイルってその土地に根差した独自の進化をしてるパターンが結構あってね、今研究中の神経を繋がないで読み取るタイプのオートメイルのためにも色んなものをこの目で見たいのよ」

 

 タッカーさんから聞いて閃いたアイデア。

 直接神経を繋げないで、オートメイル側に神経の伝達を読み取らせ負担を減らす仕様。

 それにブリッグズで寒冷地仕様にしたオートメイルは軽量化にもこだわったからエドの体に掛ける負担を減らしたみたいだし、これからは患者さんへの負担を極力減らしたオートメイルが主流になっていくはず。

 

「もうちょい旅するのに世の中が落ち着いたらいくらでも連れてってやるよ」

「そんなこと言ったってまたアルと一緒に錬金術を探しに行っちゃうでしょ」

 

 もうエドはオートメイルのメンテナンスを必要としない。

 つまりどこまででも自分の足で歩いていける。

 

「いや……それなんだけどさ、各地の錬金術の勉強がしたいのは変わらないんだけど、アルとは別の道を進もうと思ってさ。二人で別々の旅をした方が効率良いだろ、だからさ……お前さえよければ今度は一緒に……一緒に旅に出ないか?」

 

 いつの間にか少し背の伸びた私の幼馴染は、少し照れながら私に手を差し伸べてくる。

 

「えっ、えっ、なにそれ、もしかして」

「い、いや、俺もさ。色々考えてさ……」

「お、お父さんは! お父さんは探しに行かなくていいの!?」

「良いんだよあんなクソ親父! あいつが行った世界のこともついでに調べるけど、帰って来たかったら自分で帰ってこいってんだ!」

 

 てっきりまたいなくなったお父さんを探すための旅をすると思ってたら、そうじゃないみたい。

 

「そっか……うん! 一緒に旅しよう!」




少しだけ補足解説。
やっぱり解説好きらしい。

『テーブルシティ』
劇場版「嘆きの丘の聖なる星」に登場するアメストリス最西端の町で隣国クレタに接する国境の境目。

実は町全体にとある仕掛けが施されており、アメストリスやクレタではなく、元々宗教国家ミロスがの聖地であった。

『クレタ』
アメストリス西にある隣国。
軍で実用化出来るレベルで狼人間の合成獣を作り出しており、生態錬成のレベルはかなり高そうな国。
原作では名前しか出てこなかったが、劇場版の舞台になる。

『嘆きの丘の聖なる星』
劇場版ハガレン第二弾。
評価を調べると賛否両論出てくるが、それは本編の完成度が高すぎる故(あと前作も賛否両論あったがあれの完成度も高すぎたせい)

FULLMETALALCHEMISTが原作を完璧にこなしたのでイメージがいまいちかもしれないが、アニオリとして見るとそこまで悪くない。
ストーリーにツッコミもあるが、描写は鮮やかで作画もレベル高し。
意外と見てない人も多いらしい。

『アエルゴ』
アメストリス南にある隣国。
イシュヴァールの内乱ではイシュヴァール人に武器を援助していた。
しかし内乱が激化して殲滅戦となると、亡命を希望するイシュヴァール人たちを黙殺した歴史を持つ。

原作では度々国境付近で小競り合いが続いており、ケイン・フュリーが左遷された先でもある。

実はゲーム「暁の王子」ではより深く掘り下げられており、錬金術の研究は進んでいないが、代わりに機械工学が台頭して戦闘用ロボなどが作られている。

『暁の王子』
Wiiで出たゲーム。
ゲームといってもノベルゲームと言った方が正しいかもしれない。
実はノベル版もあるらしいが作者の手元にない。
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