俺の名前はショウ・タッカー。
合成獣研究所の所長として数か月過ごしてたが、軍の要請でテーブルシティまで出張することになった国家錬金術師だ。
綺麗に円形に掘り進められた谷は一本の線路だけが外部との唯一の経路だ。
その線路の上を、汽車がごとごとと揺れながら進んでいく。
「中央からこんなに離れるなんて久々だよ。国境付近まで来ると景色もまるで違うね」
小高い丘の上を立派なレールだけが走り、まるで空中を飛んでいるようだ、さしずめ銀河鉄道といったところだろう。
もちろん、俺だけが知っている前世の話だから、この心境は誰も理解出来ないだろう。
「そうですね、中央で大規模な爆破を起こすと色々と煩いですし、これほど何もない所なら、少しは楽しいかもしれません」
「い、いや、キンブリー大佐……お願いだから出来るだけ、爆破は控えめにしてもらって……ほ、ほら、出来たら私のいないところで」
「私の部下ならあれくらい慣れてもらわないと困りますよ」
もちろん俺一人のはずがない。
一緒に行動してるのは、同じ国家錬金術師であり、爆弾魔という言葉がこれほど似合う奴はいないと言えるキンブリー大佐。
そして、なし崩しに部下になっちゃったヨキ中尉。
何でこのメンツかというと、クレタ国の合成獣人間について専門家の意見を聞きたいって中央に鋼の錬金術師から連絡が来たから、俺が専門家として向かうことになった。
キンブリーは俺の護衛として、ヨキさんはついでってのが表向きだけど、わざわざこの二人が付いて来たのにも理由がある。
元々テーブルシティを統括するアメストリス軍のお偉いさんがピーター・ソユーズって人らしいんだけど、金に汚くてどうも色々とやらかしてるようなのだ。
上層部がいなくなったからって不正を働く軍人がいなくなったわけじゃない、先行したエド君からの情報でほぼ黒だろうとの報告もあったので、きちんと裏を取るために二人は選ばれたのだ。
元々ヨキさんも賄賂とか汚職とかで出世した小悪党だし、妙に鼻が利くらしい。
「しかし困りましたね、高架線路しか足場がないここでは満足に爆発も起こせません。タッカーさん、お願いしている空中に爆発物を咥えて飛べる飛行合成獣部隊の実践投入にはまだ掛かりそうですか?」
軍属で大佐の肩書がついても、お気に入りの白いスーツは健在のようで、全身清潔感があるというにはあまりにも白一色すぎる。
横にいるヨキさんが普通のアメストリスの軍服を着てなければ軍関係者だとは思われないだろう。
俺もいつもの外出用の服だから、人のことあれこれ言えないけどね。
まぁ、俺たちには国家錬金術師と証明できる銀時計があるから、別に問題ないっちゃない。
「合成獣自体は出来てるけど、彼らに教育するのに時間が掛かるかな。爆弾を適切なタイミングで落としたり、効果的な場所に設置させるのを今覚えさせてる段階でね。その辺は飼育担当のフランカ少尉、彼女の手腕にかかってるかな。丁寧に教え込んでるし、テストも重ねるから実践投入まではまだ掛かるだろうね」
合成獣が一躍注目を集めたのはうれしい限りだけど、国が合成獣を表立って優遇してこなかったこともあり、この分野の錬金術師ってとにかく数が少ない。
居たとしても、結構な確率で倫理的に問題があるというか、ちょっとうちの研究所で働いて貰うには躊躇するような人が多いのは問題だ。
おかげで研究員が不足しっぱなし、早く人員を増やして欲しい所である。
「そうですか、私の爆破が地上だけでなく空中にも縦横無尽に広がる。それはそれは心地よいシンフォニーを奏でることが出来そうで楽しみにしてたのですが」
「実用化の目途は立ってるから、あとは気長に待ってもらうしかないですね」
朗らかに笑ってくれてるが、話してる内容、もしくはキンブリーの頭に広がる風景は、決して穏やかじゃないと思う。
嬉々として語るシンフォニーとはきっとその場にいる人間にとって地獄絵図のような光景のはずだ。
今の所その牙が向くのはテロリストや攻めてくる敵国だから、安心出来ると感じるのは俺も感覚が麻痺してきてるのだろうか。
いや、バリーとキンブリーに挟まれて彼らの美学や楽しみを聞いていると、倫理観という奴がどこかに吹き飛んでしまいそうだ。
あれこれ言う資格もないが、自分だけはせめてきちんと人に恨まれないようにしよう。
ただでさえ、タガが外れやすい職種なんだし。
「でもよ、空を飛べるって無茶苦茶強いよな。実際空中飛び回る敵をどうにかできる奴なんて限られてるだろ」
ヨキさんの意見もごもっとも。
空を飛べるってそれだけでアドバンテージだよね。
「そうですね、こちらの攻撃は届かなくなりますし、上から一方的に物を落とすだけでも脅威です。錬金術師の多くは地上戦や近距離から中距離をメインとした戦闘スタイルですからね。私の錬金術も範囲攻撃には違いありませんが、マスタング大佐のように空中に向かっての使い勝手は良くありませんからね」
足を組みなおし、優雅にお茶を飲むキンブリー。
その横でヨキさんは物珍しそうに窓の外を眺めている。
窓の下に地面がないというのはなんとも不思議な景色だ。
思いのほか空もいつもより広がって見える、そう、空を飛ぶ鳥がまるで……。
「ヨキさん、双眼鏡貸してもらえるかい」
「おう、どうしたんだ慌てて」
ヨキさんから双眼鏡を貰い、空を飛ぶ黒い点を見つめる。
そうだよな、だいぶ原作の記憶も過去のものになって来てるけど、確かハガレンには珍しい空飛ぶ敵だったから覚えてるよ。
俺が声を出すより先にキンブリーも立ち上がり、両手の指を絡ませながら窓の外に視線を向ける。
その目は鋭く、まさに獲物を見つけた猛獣のそれだ。
さっきまで優雅にお茶飲んでた人とは思えないな。
「報告に会った黒コウモリとかいうグライダーを使うレジスタンスですかね、ヨキさんは乗客を後ろの客室に避難させてください。私は先頭でコウモリ退治をしてきます」
「だ、大丈夫なのかよ、だって空の敵に攻撃届かないんだろ」
「使い勝手が良くないだけで創意工夫をすればどうとでもなりますよ。まだ距離があるうちに捕捉出来たので迫撃砲を錬成しながら空中で楽しい花火大会を催しましょう」
にっこりと笑うその姿は、本当にこれから花火大会でもするかのような気軽さだ。
ハガレンファンならこの笑顔に黄色い声援を送るかもしれないが、俺にはその笑顔が悪魔の笑みに見えるよ。
俺はヨキさんに向き直る、お互いに顔を見合わせると苦笑いしか出てこないな。
何も出来そうにないし、俺もヨキさんと一緒に避難誘導でも手伝おうかな。
「あっ、申し訳ないのですがタッカーさんもご一緒願えますか? 護衛対象から目を離すわけにもいきませんし、お手数ですがスポッターを頼みたいのですが」
「ははっ、バリーみたいに上手くは出来ないけど、それでもよければ」
乾いた笑い声しか出ないねこりゃ。
そりゃ、距離や風速の計算程度なら俺でも出来るけどさ。
あぁ、原作終了したはずなのに全然楽が出来ないどころか、また何かに巻き込まれてる気がする。
「本当に人生とは退屈しませんね、この国にいるだけで向こうから楽しみが舞い込んできます」
「私はもっと地味で平穏な変わらない毎日の方が嬉しいかな」
さて、ここで大事なお知らせです。
次回で『俺は綴命の錬金術師』は一区切りとし、結びとさせて頂きます。
長く続いた作品で、途中投稿ペースが極端に落ちたこの作品をここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
おかげさまで何とか物語を終着駅まで届けることが出来ました。
次回の後書きであいさつや私の想いなどはたくさん書かせて頂くとして、とりあえずご報告。